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{{Infobox Constellation
{{Infobox Constellation
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| janame = くじら座
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| genitive = Ceti
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|notes = '''補足:''' †[[ミラ (恒星)|ミラ]] (ο Cet) はもっとも明るい時には2等星の恒星になる。
}}
}}
'''くじら座'''(くじらざ、鯨座、Cetus)は、[[トレミー48星座]]の1つで、全天で4番目に大きな星座。&omicron;星'''[[ミラ (恒)|ミラ]]'''は、明るさが大きく変動する[[変光星]]として特に有名である星座の和名は「[[クジラ]]」だが、モチーフとされたのは神話・伝承上の海の怪物「[[ケートス]]」であり、[[海獣|海棲哺乳類]]のクジラとは全く関係がない{{R|Ridpath}}。
'''くじら座'''(くじらざ、{{Lang-la|Cetus}})は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代88星座]]の1つで、[[トレーの48|プトレマイオスの48]]の1つ{{R|Ridpath}}日本語名は「くじら座」だが、モチーフとされたのは神話・伝承上の海の怪物「[[ケートス]]」であり、[[海獣|海棲哺乳類]]の[[クジラ]]とは全く関係がない{{R|Ridpath}}。[[うみへび座]]・[[おとめ座]]・[[おおぐま座]]に次いで全天で4番目に大きな領域を持つ{{R|NAOJ_constellationsarea}}。&omicron;星'''[[ミラ (恒星)|ミラ]]'''は、明るさが大きく変動する[[変光星]]として特によく知られている{{Sfn|原恵|2007|pp=204-207}}。


== 特徴 ==
この星座は[[黄道]]の近くにあるため、いくつかの[[小惑星]]がこの星座の領域内を通ることがある。4番目に発見された小惑星[[ベスタ (小惑星)|ヴェスタ]](Vesta)は[[1807年]][[3月29日]]に[[ドイツ]]の[[ブレーメン]]で[[ヴィルヘルム・オルバース]]によって この星座の領域で発見された。
[[File:CetusCC.jpg|thumb|center|480px|くじら座の全景。]]
東を[[エリダヌス座]]、北東を[[おうし座]]、北を[[おひつじ座]]、北西を[[うお座]]、西を[[みずがめ座]]、南西を[[ちょうこくしつ座]]、南東を[[ろ座]]に囲まれている{{R|StellaNavigator11}}。20時[[正中]]は12月中旬頃{{R|Yamada2023}}、北半球では秋の星座とされ{{Sfn|原恵|2007|pp=166-167}}、初夏から晩冬にかけて観望することができる{{R|StellaNavigator11}}。面積1231.411[[平方度]]と、うみへび座・おとめ座・おおぐま座に次いで全天で4番目に大きな領域を持つ{{R|NAOJ_constellationsarea}}。

[[天の赤道]]を跨ぐように位置しているため、[[エクメーネ|人類が居住しているほぼ全ての地域]]から星座の全域を観望することができる。[[2002年]]8月から[[2004年]]1月にかけて行われた「すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ」では、北半球と南半球のどちらでも観測が可能なこと、[[天の川銀河]]の銀河面から遠いため[[星間減光]]や galactic cirrus として知られる赤外線を放射する構造が少ないことなどの理由から、くじら座の赤経2{{sup|h}}18{{sup|m}}・赤緯-5&deg;00&prime;を中心とする領域が観測対象領域として選定された{{R|SXDS|Subaru20040601}}。

また、くじら座は[[黄道]]に近い位置にあるため、[[月]]や[[惑星]]、[[小惑星]]などの[[太陽系]]内の天体が領域を通過することがある。小惑星番号3の小惑星[[ジュノー (小惑星)|ジュノー]](Juno)は、[[1804年]][[9月1日]]に[[カール・ハーディング]]が発見した当時くじら座の領域に位置していた{{R|StellaNavigator11|Cunningham2017}}。{{-}}

== 由来と歴史 ==
[[File:Korinthische Bauchamphora.jpg|thumb|360px|[[ベルリン]][[ムゼウムスインゼル|博物館島]][[旧博物館 (ベルリン)|旧博物館]]収蔵の、紀元前575-550年頃の作とされる[[コリント式]][[アンフォラ]]。[[ペルセウス]]による[[アンドロメダー]]の解放を描いた最古の例とされる{{R|Staatlichen_Museen_zu_Berlin}}。後の時代の物語と異なり、ペルセウスは両手に持った石をケートスに投げつける姿で、またアンドロメダーはペルセウスに助力する姿で描かれている{{R|Staatlichen_Museen_zu_Berlin}}。]]
この星座の発祥の地については、ギリシア、[[バビロニア]]、または[[エジプト]]にそのルーツを求める説が出されているが、定かではない{{R|Condos1997}}。このうち、バビロニアに起源を求める説は単なる推測に過ぎないとされている{{R|Condos1997}}。[[19世紀]]末アメリカの博識家[[リチャード・ヒンクリー・アレン]]の『Star Names: Their Lore and Meaning』や日本の天文普及家[[原恵]]の『星座の神話』では、[[メソポタミア神話]]に登場する原初の海の女神[[ティアマト]]に起源を求める説が紹介されているが、いずれも根拠が示されていない{{R|Condos1997}}。ギリシャ発祥説では、[[アンドロメダ座]]・[[カシオペヤ座]]・[[ケフェウス座]]・くじら座の4つの星座は、紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め頃には既にペルセウス座と関連付けて命名されていたと主張している{{R|Condos1997}}。エジプト発祥説では、古代エジプトで黄道星座の1つとされていたワニの星座にくじら座の起源を求めている{{R|Condos1997}}。少なくとも、[[紀元前4世紀]]の古代ギリシアの天文学者[[エウドクソス|クニドスのエウドクソス]]の著書『パイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』に記された星座のリストに[[古代ギリシア語]]で「海の怪物{{R|LSJ_khtos}}」や「巨大な魚{{R|LSJ_khtos}}」という意味の '''κῆτος''' (ketos, [[ケートス]]) という名称で載っていたとされる{{R|LSJ_khtos}}。このエウドクソスの著述を元に詩作されたとされる、[[紀元前3世紀]]前半の[[マケドニア]]の詩人[[アラトス|アラートス]]の詩篇『パイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』でも κῆτος という名称で登場しており、遠くから[[アンドロメダー]]を脅かしているとされた{{R|PDL_Aratus|Ito2007}}。

[[File:Book of the Fixed Stars Auv0323 Cetus.jpg|thumb|360px|[[アブドゥル・ラフマーン・スーフィー|アッ=スーフィー]]の『[[星座の書]]』に描かれたくじら座。半獣半魚の怪物として描かれている。]]
[[紀元前3世紀]]後半の天文学者[[エラトステネス|エラトステネース]]の天文書『[[カタステリスモイ]] ({{Lang-grc-short|Καταστερισμοί}})』や[[1世紀]]初頭の[[古代ローマ]]の著作家[[ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス]]の『天文詩 ({{Lang-la-short|De Astronomica}})』では13個の星が属するとされ、[[帝政ローマ]]期[[2世紀]]頃の[[クラウディオス・プトレマイオス]]の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース ({{Lang-grc-short|ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας}})』、いわゆる『[[アルマゲスト]]』では、22個の星が属するとされた{{R|Condos1997}}。[[10世紀]]の[[ペルシア]]の天文学者[[アブドゥル・ラフマーン・スーフィー|アブドゥッラハマーン・スーフィー]](アッ=スーフィー)が『アルマゲスト』の第7、8巻を元として[[964年]]頃に著した天文書『[[星座の書]]』でも『アルマゲスト』と同じく22個が属するとされた{{R|Hafez2010}}。『星座の書』では、陸上生物のような前脚ととぐろを巻く尾を持つ半獣半魚の怪物の姿が描かれていた{{R|Hafez2010|Kondo2012}}。

[[ラテン語]]の cetus がクジラを意味するため、英語でも whale と説明されることがあるが、元のギリシア語の名称である κῆτος は大型の水生生物や海の怪物を指す言葉であり、クジラとは異なる{{R|Ridpath}}。実際、ルネサンス期以降の西洋の星図では、ほとんどクジラとは似つかない怪物として描かれていた{{R|Ridpath}}。[[ドイツ]]の[[法律家]][[ヨハン・バイエル]]は、[[1603年]]に刊行した星図『[[ウラノメトリア]]』の中で '''CETVS''' というラテン語の星座名を記すとともに、'''Draco Leo vrſus marinus''' や '''Monſtrum marinum''' などの別称も紹介しており、星図ではその紹介どおり[[ドラゴン]]を思わせる爬虫類のような姿の怪物を描いている{{R|Bayer1603a|Bayer1603b}}。バイエルは『ウラノメトリア』の中でくじら座の星に対して &alpha; から &psi; までの[[ギリシャ文字]]23個を用いて27個の星に符号を付した{{R|Bayer1603a|Bayer1603b|Bayer1603c}}{{Efn2|バイエルは複数の星をまとめて1つの文字で表すことがあったため、星の数は使われた文字の数よりも多い。くじら座の場合は &xi; が2つ、&phi; が4つの星を表すために使われている{{R|Bayer1603a|Bayer1603c}}。}}。バイエル以降の星図製作者たち、[[ヨハネス・ヘヴェリウス]]や[[ジョン・フラムスティード]]、[[ヨハン・ボーデ]]らも、実在のクジラとはかけ離れた姿の Cetus を描いている{{R|Ridpath|Hevelius1690|Flamsteed1729|Bode1801}}。

[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催された[[国際天文学連合]] (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は '''Cetus'''、略称は '''Cet''' と正式に定められた{{R|IAU_list|IAU1922}}。{{-}}
{{Gallery
| title=ルネサンス期以降の西洋の星図に描かれた Cetus(くじら座)の星座絵
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| lines=5
| align=center
| Cetus - Mercator.jpeg|[[ゲラルドゥス・メルカトル]]が[[1551年]]に製作した[[天球儀]]に描かれた Cetus。頭部は獣、体は魚の姿をしている。
| Uranometria — fol. 34 v, Cetus — 1603.jpg|ヨハン・バイエル『[[ウラノメトリア]]』(1603) に描かれた Cetus。[[爬虫類]]のような姿で描かれている。
| Cetus (Uranographia Hevelius).jpg|ヨハネス・ヘヴェリウス『Uranographia』(1690) に描かれた Cetus。前脚ととぐろを巻く尾を持つ半獣半魚の怪物として描かれている。
| Cetus (Atlas coelestis).jpg|イギリスの天文学者ジョン・フラムスティードの『天球図譜 (Atlas Coelestis)』(1729) に描かれた Cetus。前脚ととぐろを巻く尾を持つ半獣半魚の怪物として描かれている。
| Cetus (Uranographia Bode).jpg|ヨハン・ボーデ『ウラノグラフィア』(1801) に描かれた Cetus。前脚ととぐろを巻く尾を持つ半獣半魚の怪物として描かれている。
}}

=== 中国 ===
ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、くじら座の星々は、[[二十八宿]]の北方玄武七宿の第六宿「[[室宿]]」・第七宿「[[壁宿]]」、および西方白虎七宿の第一宿「[[奎宿]]」・第二宿「[[婁宿]]」・第三宿「[[胃宿]]」、第四宿「[[昴宿]]」に配されていた{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。室宿では、6・2・1・3・[[くじら座9番星|9]]・7 の6星が、春の[[己巳]]・[[丁丑]]、夏の[[甲申]]・[[壬辰]]、秋の[[己亥]]・[[丁未]]、冬の[[甲寅]]・[[壬戌]]の総称を表す[[星官]]「八魁」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。壁宿では、48・&upsilon;・56 と不明の2星の5星が、[[腰斬]]刑で使われる刑具を表す星官「鈇鑕」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。奎宿では、21・&phi;{{sup|3}}・18・&phi;{{sup|1}}の4星が、豚小屋を兼ねた便所を表す星官「天溷」に、&beta; が単独で水利土木を司る官職を表す星官「土司空」に、それぞれ配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。婁宿では、[[くじら座イオタ星|&iota;]]・[[くじら座イータ星|&eta;]]・&theta;・&zeta;・tau・57 の6星が、穀倉を表す星官「天倉」に、不明の3星が刈り入れた後の稲束を表す星官「天庾」に、それぞれ配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。胃宿では、&alpha;・97・&lambda;・&mu;・&xi;{{sup|1}}・&xi;{{sup|2}}・&nu;・&gamma;・&delta;・75・70・63・66 の13星が、丸い形の穀倉を表す星官「天囷」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。昴宿では、&rho;・77・67・71・HD 14691・&epsilon; の6星が、飼い葉やまぐさを表す星官「蒭藁」に、&pi; がエリダヌス座の15星とともに天の牧場を表す星官「天苑」に配された{{Sfn|伊世同|1981|pp=142-143}}{{R|Osaki1987_1}}。

== 神話 ==
[[File:Perseo y Andrómeda, por Tiziano.jpg|thumb|360px|[[ロンドン]]の[[ウォレス・コレクション]]所蔵の[[ティツィアーノ・ヴェチェッリオ]]作『[[ペルセウスとアンドロメダ (ティツィアーノ)|ペルセウスとアンドロメダ]] (Perseo e Andromeda)』(1554-1556) 。中央にケートスが描かれている。]]
{{See also|ケートス|アンドロメダ座|カシオペヤ座}}
くじら座のモチーフとされたケートスは、エチオピア王[[ケーペウス]]と王妃[[カッシオペイア]]の娘[[アンドロメダー]]の受難の物語に登場する海の怪物として知られる{{R|Ridpath}}。ただし、星座にまつわる伝承を伝えるエラトステネースの『カタステリスモイ』、ヒュギーヌス『天文詩』のいずれも、くじら座の節では「海の怪物[[ケートス]]は、[[ポセイドーン]]が[[アンドロメダー]]を襲わせるために送り込んだが、[[ペルセウス]]に倒され、その巨大さと英雄の勇気を称えるため星座となった」と伝えるのみである{{R|Condos1997|Hard2015}}。

ペルセウスがケートスを退治した方法について、『カタステリスモイ』や『天文詩』、1-2世紀頃に書かれたとされる[[アポロドーロス|伝アポロドーロス]]の『[[ビブリオテーケー]]』では「ペルセウスによって殺された」と書かれるのみである{{R|Condos1997|Hard2015|PDL_Apollodorus_2_4_3|Takatsu2021}}。帝政ローマ最初期の詩人[[オウィディウス]]の『[[変身物語]]』には、ペルセウスがケートスに近接戦闘を挑んだ姿がつぶさに記されており、最後は[[ハルパー]]でケートスを斬り殺したとされている{{R|Metamorphoses}}。一方、これらの伝承よりもはるかに古い[[紀元前6世紀]]頃の伝承では、ペルセウスはケートスに石を投げつけて倒したとされている{{R|Staatlichen_Museen_zu_Berlin}}。{{-}}

== 呼称と方言 ==
[[ラテン語]]の学名 Cetus に対応する日本語の学術用語としての星座名は「'''くじら'''」と定められている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。現代の中国では'''鲸鱼座'''{{Sfn|伊世同|1981|p=131}}(鯨魚座{{R|Osaki1987_2}})と呼ばれている。

明治初期の[[1874年]](明治7年)に[[文部省]]より出版された[[関藤成緒]]の天文書『星学捷径』では、「'''セチュス'''」という読みと「'''鯨魚'''」という名が紹介された{{R|Sekito1874}}。また、[[1879年]](明治12年)に[[ノーマン・ロッキャー]]の著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』上巻ではラテン語の「'''セチュス'''」と英語の「'''ホウェール'''」が紹介され{{R|Rakushi_1}}、下巻では「'''天鯨宿'''」として解説された{{R|Rakushi_2}}。これらからそれから30年ほど時代を下った明治後期には「'''鯨'''」という呼称が使われていたことが[[日本天文学会]]の会報『天文月報』の第1巻6号掲載の「九月の天」と題した記事中の星図で確認できる{{R|AH190809}}。この「鯨」という訳名は、[[東京天文台]]の編集により[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''鯨(くぢら)'''」として引き継がれた{{R|Rika_1925}}。戦中の[[1944年]](昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「'''鯨(くぢら)'''」が継続して使われることとなり{{R|1944jutsugo}}、戦後の[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|p=316}}とした際に平仮名で「'''くじら'''」と定められた{{R|AH195210}}。以降、この呼称が継続して用いられている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。

=== 方言 ===
日本国内では、くじら座の星の地方名として採集されたものはない{{R|Kitao2018|Nojiri1986|Nojiri2018}}。


== 主な天体 ==
== 主な天体 ==
=== 恒星 ===
=== 恒星 ===
{{See also|くじら座の恒星の一覧}}
{{See also|くじら座の恒星の一覧}}
以下の恒星には、[[国際天文学連合]]によって正式に固有名が定められている。
[[2024年]]9月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}
* [[くじら座アルファ星|&alpha;星]]:[[長周期変光星]]と目される3等星{{R|simbad_alpha}}。「メンカル{{R|Hara}}(Menkar{{R|iaucsn}})という固有名を持つ。
; [[くじら座アルファ星|&alpha;星]]
: [[太陽系]]から約249 [[光年]]の距離にある{{efn2|name="注dist"}}、[[見かけの等級|見かけの明るさ]]2.53 等、[[スペクトル分類|スペクトル型]] M1.5IIIa の[[赤色巨星]]で、3等星{{R|simbad_alpha}}。2.45 等から2.54 等の範囲で変光する LB 型の[[長周期変光星]]の候補天体とされる{{R|GCVS_alpha}}。[[アラビア語]]で「鼻の穴」を意味する言葉に由来する{{R|Kunitzsch2006}}「'''メンカル'''{{R|StellaNavigator11}}(Menkar{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。
* [[くじら座ベータ星|&beta;星]]:くじら座で最も明るい恒星で唯一の2等星{{R|simbad_beta}}{{efn2|ミラを除く。}}。「ディフダ{{R|Hara}}(Diphda{{R|iaucsn}})」という固有名を持つ。「デネブ・カイトス(Deneb Kaitos)」という固有名でも知られていた{{R|Hara}}。
; [[くじら座ベータ星|&beta;星]]
* [[くじら座ガンマ星|&gamma;星]]:3等星で、3つの星からなる[[連星|三重連星]]と考えられている{{R|simbad_gamma}}。A星には「カファルジドマ{{R|Hara}}(Kaffaljidhma{{R|iaucsn}})」という固有名が付けられている。
: 太陽系から約96.3 光年の距離にある{{R|注dist|group="注"}}、見かけの明るさ2.01 等、スペクトル型 G9.5IIICH-1 の黄色巨星で、2等星{{R|simbad_beta}}。くじら座で最も明るい恒星で唯一の2等星{{R|simbad_beta}}{{efn2|name="注1"}}。アラビア語で「2匹目の[[カエル]]{{efn2|1匹目のカエルは、[[みなみのうお座]]の[[フォーマルハウト]]とされる{{R|Kunitzsch2006}}。}}」を意味する言葉に由来する{{R|Kunitzsch2006}}「'''ディフダ'''{{R|StellaNavigator11}}(Diphda{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。くじら座の尾の部分にあることから「デネブ・カイトス (Deneb Kaitos)」という固有名も知られていた{{R|Kunitzsch2006}}{{Sfn|原恵|2007|pp=204-207}}。
* [[くじら座ゼータ星|&zeta;星]]:4等星で[[分光連星]]{{R|simbad_zeta}}。Aa星には「バテン・カイトス{{R|Hara}}(Baten Kaitos{{R|iaucsn}})」という固有名が付けられている。
; [[くじら座ガンマ星|&gamma;星]]
* &omicron;星:Aa星は有名な[[脈動変光星]]で「[[ミラ型変光星]]」のプロトタイプとされる{{R|Durlevich}}。[[ラテン語]]で「不思議なもの」を意味する言葉に由来する「[[ミラ (恒星)|ミラ]]{{R|Hara}}(Mira{{R|iaucsn}})」という固有名で知られる。最も明るいときで2.0等、最も暗いときで10.1等と見かけの明るさが大きく変わるため、明るく見えた星がいつの間にか消えてしまったように見える。
: 太陽系から約74.8 光年の距離にある、[[連星|三重連星系]]{{R|simbad_gamma}}。見かけの明るさ3.54 等でスペクトル型 A2Vn のA星{{R|simbad_gammaA}}と6.12 等で F4V のB星{{R|simbad_gammaB}}のペアの外に、10.16 等で K5V のC星{{R|simbad_gammaC}}があると考えられている{{R|WDS_gamma}}。A星には「'''カファルジドマ'''{{R|StellaNavigator11}}(Kaffaljidhma{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。
* [[HD 224693]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[メキシコ合衆国]]に命名権が与えられ、主星はAxólotl、太陽系外惑星はXólotlと命名された{{R|approved}}。
; [[くじら座ゼータ星|&zeta;星]]
* [[BD-17°63]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[キューバ共和国]]に命名権が与えられ、主星はFelixvarela、太陽系外惑星はFinlayと命名された{{R|approved}}。
: 太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ3.72 等、スペクトル型 K0.5III の橙色巨星で、4等星{{R|simbad_zeta}}。主星のA星から3&prime;ほど離れて見える10.15 等のB星は[[見かけの二重星]]だが、A星自体が[[分光連星]]で、AaとAbの2つの恒星が1652日の周期で互いの共通重心を周回していると考えられている{{R|WDS_zeta}}。Aa星には、アラビア語で「海の怪物の腹」を意味する言葉に由来する{{R|Kunitzsch2006}}「'''バテンカイトス'''{{R|StellaNavigator11}}(Baten Kaitos{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。
* [[WASP-71]]:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」で[[タンザニア連合共和国]]に命名権が与えられ、主星はMpingo、太陽系外惑星はTanzaniteと命名された{{R|approved}}
; [[ミラ (恒星)|&omicron;星]]

: 太陽系から300-420 光年の距離にある連星系{{R|simbad_omicron}}。A星系の近くに見えるB・C・D星はいずれも見かけの二重星だが、A星自体が連星系を成しており{{R|WDS_omicron}}、赤色巨星の主星Aaと[[白色矮星]]の伴星Abが、離心率{{Val|0.80|0.16}}の細長い公転軌道を約500 年の公転周期で公転している{{R|Orbit_omicron}}。Aa星は「'''[[ミラ (恒星)|ミラ]]'''{{R|StellaNavigator11}}(Mira{{R|iaucsn}})」という固有名で知られる[[脈動変光星]]で、「[[ミラ型変光星]]」のプロトタイプとされており{{R|GCVS}}、331.96 日の変光周期で2.0 等から10.1 等の範囲で光度を変化させる{{R|GCVS_omicron}}。この固有名は、[[17世紀]][[ポーランド]]生まれの天文学者[[ヨハネス・ヘヴェリウス]]が、1662年に刊行した論文集『Mercurius in Sole visus Gedani, anno christiano MDCLXI, d. III Maii, St. n.』に掲載したこの星に関する論文のタイトル『Historiola mirae stellae{{R|Hevelius1662}}(驚くべき星の小史){{Efn2|mirae の意味について、日本語文献では古くから「不思議な」と説明されている{{Sfn|原恵|2007|pp=204-207}}{{R|Nojiri1981}}が、本来は wonderful や amazing の意味であり{{R|Ridpath|Kunitzsch2006|Allen2013|Ridpath2017}}「驚くべき{{R|Kondo2012}}」と訳すほうが原義に近い。}}』にちなんでいる{{R|Kunitzsch2006}}。
その他に特徴のある恒星に以下のものがある。
: [[恒星進化論|恒星進化]]の段階では、中小質量星が主系列を離れた後に到達する[[漸近巨星分枝]] (Asymptotic Giant Branch, AGB) の段階にあると考えられている{{R|simbad_omicron}}。[[2006年]]11月から12月にかけての[[アメリカ航空宇宙局]] (NASA) の[[宇宙望遠鏡|紫外線宇宙望遠鏡]][[GALEX]]による観測で、ミラの進行方向の反対側に伸びる尾が発見された{{R|GALEX20070815}}。この13 光年に及ぶ長さを持つ尾は、ミラからの[[恒星風]]と星間ガスの相互作用で生じた[[バウショック]]の先端から剥がれた物質で構成されており、数万年かけて形成されたと考えられている{{R|GALEX20070815}}。
* [[くじら座イータ星|&eta;星]]:デネブ・アルゲヌビ (Deneb Algenubi)
[[File:Mira the star-by Nasa alt crop.jpg|center|thumb|640px|[[NASA]]の紫外線宇宙望遠鏡[[GALEX]]による2006年の観測データから撮像されたミラ(画像右側)。可視光では観測できない長く伸びる尾が確認できる。]]
* [[くじら座イオタ星|&iota;星]]:デネブ・アル・シャマリー (Deneb al Shamaliyy){{R|Hara}}。「デネブ・カイトス」とも呼ばれたが、この名前は&beta;星に使われることが多かったので、2つの星を区別するために&iota;星はデネブ・アル・シャマリーもしくは単にシャマリー(Shamaliyy)と呼ばれた{{R|Hara}}。
; [[HD 224693]]
* [[くじら座タウ星|&tau;星]]:地球から17番目に近い恒星。[[オズマ計画]]に選ばれた。
: 太陽系から約308 光年の距離にある、見かけの明るさ8.22 等、スペクトル型 G2V の[[G型主系列星]]で、8等星{{R|simbad_HD224693}}。IAUの100周年記念行事「[[NameExoWorlds|IAU100 NameExoWorlds]]」で[[メキシコ合衆国]]に命名権が与えられ、主星は '''Axólotl'''、太陽系外惑星はXólotlと命名された{{R|approved2019}}。
* [[くじら座ZZ星|ZZ星]]:[[白色矮星]]。薄い水素の表層が脈動することで変光する「[[脈動白色矮星]]」で、「くじら座ZZ型変光星」のプロトタイプとされる{{R|Durlevich}}。
; [[BD-17°63]]
* [[ルイテン726-8]]:地球から6番目に近い恒星。伴星のくじら座UV星は「[[閃光星]]」や「フレア星」と呼ばれる[[爆発変光星]]の「くじら座UV型変光星」のプロトタイプとされる{{R|Durlevich}}。
: 太陽系から約113 光年の距離にある、見かけの明るさ9.720 等、スペクトル型 K4Vk の[[K型主系列星]]で、10等星{{R|simbad_BD-17_63}}。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」で[[キューバ共和国]]に命名権が与えられ、主星は '''Felixvarela'''、太陽系外惑星はFinlayと命名された{{R|approved2019}}。
; [[WASP-71]]
: 太陽系から約1158 光年の距離にある、見かけの明るさ10.56 等、スペクトル型 G2 のG型星で、11等星{{R|simbad_WASP71}}。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」で[[タンザニア連合共和国]]に命名権が与えられ、主星は '''Mpingo'''、太陽系外惑星はTanzaniteと命名された{{R|approved2019}}。
このほか、以下の天体が知られている。
; [[くじら座タウ星|&tau;星]]
: 太陽系から約11.9 光年の距離にある、見かけの明るさ3.50 等、スペクトル型 G8V のG型主系列星で、4等星{{R|simbad_tau}}。[[エリダヌス座イプシロン星|エリダヌス座&epsilon;星]]とともに、[[1960年]]4月から7月にかけて[[フランク・ドレイク]]らが実施した史上初の[[地球外知的生命体探査]]「[[オズマ計画]]」の対象天体とされた{{R|Shostak2022}}。2012年から2019年にかけて8つの[[太陽系外惑星]]の発見が報告され、そのうち4つは存在が確実視されている{{R|EPE_tau}}。
; [[くじら座ZZ星|ZZ星]]
: 太陽系から約104 光年の距離にある、スペクトル型 DA4.0 の[[白色矮星]]{{R|simbad_ZZ}}。[[1970年]]にBarry M. Lasker と James E. Hesser によって周期的に変光していることが発見された{{R|IAUC2291|Lasker1971}}。変光星としては脈動変光星の一種「くじら座ZZ型変光星」のプロトタイプとされており{{R|GCVS}}、分光スペクトル中に[[水素]]の吸収線だけが見られる ZZA 型に分類されている{{R|GCVS_ZZ|AAVSO_ZZ}}。極大時の光度は14.13 等で、約213.1秒と約274.3秒の2つの周期で0.03 等の振幅で明るさを変化させている{{R|AAVSO_ZZ}}。
; [[ルイテン726-8]]
: 太陽系から約8.72 光年の距離にある連星系{{R|simbad_G272-61}}。スペクトル型 M5.5V のA星と M6V のB星{{R|WDS_G272-61}}が、約26.52 年の公転周期で互いの共通重心を公転している{{R|Orbit_G272-61}}。変光星としては「くじら座UV星 (UV Ceti)」と呼ばれるB星{{R|simbad_UV}}は、「[[閃光星]]」や「フレア星」とも呼ばれる「くじら座UV型変光星」のプロトタイプとされており{{R|GCVS|Ridpath2017|simbad_UV}}、通常は12.95 等だが、大規模な[[太陽フレア|恒星フレア]]が生じると最大6.8 等まで明るくなる{{R|GCVS_UV}}。


=== 星団・星雲・銀河 ===
=== 星団・星雲・銀河 ===
[[18世紀]][[フランス]]の天文学者[[シャルル・メシエ]]が編纂した『[[メシエカタログ]]』に挙げられた天体が1つ位置している{{R|SEDS_Messier}}。また、{{仮リンク|パトリック・ムーア (天文学者)|label=パトリック・ムーア|en|Patrick Moore}}がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「[[カルドウェルカタログ|コールドウェルカタログ]]」に3つの天体が選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。
くじら座は[[銀河座標|銀河南極]]に近く、銀河面から離れている。このため、銀河系外の多くの銀河がよく見える。
; [[M77 (天体)|M77]]
* [[NGC 246]]:[[惑星状星雲]]。
: [[天の川銀河]]から約4800万 光年の距離にある[[渦巻銀河]]{{R|simbad_M77}}。[[1780年]][[10月29日]]に、フランスの天文学者[[ピエール・メシャン]]が発見した{{R|SEDS_M77}}。&delta;星の東南東約0.7&deg;の位置に見える{{R|SEDS_M77}}。2型の[[セイファート銀河]]で、セイファート銀河の中では天の川銀河に最も近く{{R|SEDS_M77}}、また最も明るく見えるものの1つとされ{{R|Ridpath2017|SEDS_M77}}、電波源としても知られる{{R|Ridpath2017}}。中心部には太陽の約1500万倍の質量を持つ[[超大質量ブラックホール]]が存在していると考えられている{{R|ESAHubble20130328}}。
* [[M77 (天体)|M77]]:[[渦巻銀河]]。&delta;星の近くにあり、くじら座で最も明るい渦巻銀河である。
; [[IC 1613]]
* [[オロチ (天体)|オロチ]]:最も明るい[[モンスター銀河]]。ただし[[重力レンズ効果]]による増光の可能性が高い。
: 天の川銀河と同じく[[局所銀河群]]に属する[[不規則銀河]]{{R|simbad_IC1613|NED_IC1613}}。コールドウェルカタログの51番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。[[1906年]]にドイツの天文学者[[マックス・ヴォルフ]]が発見した{{R|SEDS_IC1613}}。早くから局所銀河群の一員と認識されていた銀河の1つ{{R|SEDS_IC1613}}。星団が非常に少なく、また背景にある銀河を見ることができるほど[[星間塵]]が非常に少ない銀河であり、その理由は未だ謎とされている{{R|SEDS_IC1613}}。[[2024年]]の研究では、天の川銀河から約235万 光年の距離にあるとされる{{R|Ren2024}}。
; [[NGC 246]]
: 太陽系から約1800 光年の距離にある[[惑星状星雲]]{{R|simbad_NGC246}}。コールドウェルカタログの56番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。星雲の東側が欠けた三日月状の形に見え、欠けた部分には3つの星がはっきり見えることから、一部の天文家から「'''どくろ星雲'''{{R|Usuda_NGC246}}({{Lang-en-short|Skull Nebula}}{{Sfn|Mobberley|2009|pp=122-123}})」や Pac-Man Nebula{{Sfn|Mobberley|2009|pp=122-123}}{{Efn2|ただし「パックマン星雲」という通称は既に[[カシオペヤ座]]の惑星状星雲[[NGC 281]]として知られている{{Sfn|Mobberley|2009|pp=122-123}}。}}などの通称で呼ばれている。
; [[NGC 247]]
: 天の川銀河から約1070万 光年の距離にある[[低表面輝度銀河]]{{R|simbad_NGC247}}。コールドウェルカタログの62番に選ばれている{{R|SEDS_Caldwell}}。局所銀河群に最も近いグループの1つ「[[ちょうこくしつ座銀河群]] ({{Lang-en-short|Sculptor Group}})」の一員とされる{{R|simbad_NGC247}}。銀河の形態分類では[[中間渦巻銀河]]とされる{{R|simbad_NGC247}}。銀河円盤の北側に見える空洞を針穴に喩えた Needle's Eye galaxy{{R|APOD20240905}}、紡錘形に見える姿を[[トウワタ]]の種子に喩えた Milkweed Seed galaxy{{Sfn|Mobberley|2009|pp=132-133}}などの通称がある。NGC 247の北東に一列に並んで見える5つの銀河は、[[1963年]]にこれらの銀河を発見した{{R|Burbidge1963}}[[マーガレット・バービッジ|マーガレット]]と[[ジェフリー・バービッジ|ジェフリー]]のバービッジ夫妻の名前から Burbidge's Chane と呼ばれる{{R|APOD20240905}}。
; [[NGC 1055]]
: 天の川銀河から6600万 光年の距離にある渦巻銀河{{R|simbad_NGC1055}}。天の川銀河より15%ほど大きな直径を持つ大きな銀河{{R|ESO20170301}}で、中心のバルジと円盤の上下に広がる箱状の[[銀河ハロー|ハロー]]にはかすかながら微細な構造が見られる{{R|APOD20240315}}。
{{Gallery
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| Messier 77 spiral galaxy by HST.jpg|[[ハッブル宇宙望遠鏡]]のアーカイブデータからこれまで公開されたことのない魅力的な画像を発掘するコンテスト「Hubble Hidden Treasures」で第2位を獲得した、[[渦巻銀河]]M77の画像{{R|ESAHubble20130328}}。
| Dwarf galaxy IC 1613.jpg|[[チリ]]のセロ・パラナル山にある[[ヨーロッパ南天天文台]] (ESO) [[パラナル天文台]]の2.6 m口径 VLT Survey Telescope で撮影された矮小不規則銀河[[IC 1613]]。
| Skull Nebula NGC 246 (gemini0603a).jpg|チリのセロパチョン山頂にある[[NSF国立光赤外線天文学研究所|アメリカ国立光学赤外線天文学研究所]]の口径8.1 m [[ジェミニ天文台#ジェミニ南望遠鏡|ジェミニ南望遠鏡]]で撮影された[[惑星状星雲]][[NGC 246]]。その外見から「どくろ星雲 (Skull Nebula)」の通称で知られる。
| Wide Field Imager view of the spiral galaxy NGC 247.jpg|チリのESO[[ラ・シヤ天文台]]に設置されたMPG/ESO2.2メートル望遠鏡の広視野イメージャーで撮像された渦巻銀河[[NGC 247]]。この画像では右が北となっている。
| Burbidge's Chain - Legacy Survey.jpg|チリの[[セロ・トロロ汎米天文台]]に設置されたブランコ4m望遠鏡と[[アメリカ]]の[[キットピーク国立天文台]]にあるメイオール4m望遠鏡を用いた掃天観測 DESI Legacy Imaging Surveys で撮影された Burbidge's Chane。これらの銀河までの距離は約3億光年と見積もられている{{R|APOD20240905}}。
| The edge-on galaxy NGC 1055.jpg|ESOパラナル天文台の[[超大型望遠鏡VLT]]で撮像された渦巻銀河[[NGC 1055]]。
}}
== 流星群 ==
くじら座の名前を冠した[[流星群]]で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) が「確定された流星群 (Established meteor showers)」としているものは、くじら座&omega;北昼間流星群 (Northern Daytime omega Cetids, NOC)、くじら座&omega;南昼間流星群 (Southern Daytime omega Cetids, OCE) の2つである{{R|NAOJ_meteor}}。いずれも5月6日頃の日中に極大を迎える{{R|NAOJ_meteor}}。


== 由来と歴史 ==
[[File:Book of the Fixed Stars Auv0323 Cetus.jpg|thumb|240px|[[アブドゥル・ラフマーン・スーフィー|アッ=スーフィー]]の『[[星座の書]]』に描かれたくじら座。]]
この星座の発祥の地は定かではなく、ギリシャ・メソポタミア・エジプトにそのルーツを求める説が出されている{{R|Condos1997}}。このうち、[[メソポタミア神話]]に登場する原初の海の女神[[ティアマト]]に起源を求める説は、19世紀末の[[リチャード・ヒンクリー・アレン]]の『Star Names: Their Lore and Meaning』や[[原恵]]の『星座の神話』でも言及されているが{{R|Hara|Allen2013}}、根拠がなく憶測に過ぎないとされる{{R|Condos1997}}。ギリシャ発祥説では、[[アンドロメダ座]]、[[カシオペヤ座]]、[[ケフェウス座]]、くじら座の4つの星座は、紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め頃には既にペルセウス座と関連付けて命名されていたと主張される{{R|Condos1997}}。エジプト発祥説では、古代エジプトで黄道星座とされていたワニの星座をくじら座の起源としている{{R|Condos1997}}。

少なくとも紀元前3世紀中葉の詩人[[アラトス|アラートス]]の『ファイノメナ』以降、この星座は海の怪物「[[ケートス]] (Cetus)」として語られてきた{{R|Condos1997}}。古代ギリシャ・ローマ時代に考案された星座は、2世紀に[[クラウディオス・プトレマイオス]](トレミー)によってその著書『[[アルマゲスト]]』に48の星座としてまとめられ、くじら座もその1つとされた。この48星座はアラビア世界にも伝えられ、10世紀に『アルマゲスト』の第7、8巻を元として[[アブドゥル・ラフマーン・スーフィー|アッ=スーフィー]]が著した『[[星座の書]]』でも、この星座は半獣半魚の怪物として描かれている{{R|Kondo2012}}。{{-}}
== 神話 ==
{{節スタブ|date=2022年11月}}
[[ファイル:Cetus - Mercator.jpeg|thumb|240px|[[メルカトル天球儀1551]]に描かれたくじら座]]
{{See also|ケートス}}
[[ギリシア神話]]では、生贄の[[アンドロメダー]]姫を食べようとする巨大な海の怪物[[ケートス]]として登場し、[[メドゥーサ]]を倒した後たまたま通りかかった[[ペルセウス]]に斬られて退治された{{R|Ridpath}}。{{-}}
== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}


=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
{{Notelist2|refs=
<ref group="注" name="注1">極大光度時の[[ミラ (恒星)|ミラ]] (&omicron; Cet) を除く。</ref>
<ref group="注" name="注dist">1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算。</ref>
}}


=== 出典 ===
=== 出典 ===
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| title=alp Cet
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| author=山田陽志郎
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| title=Star myths of the Greeks and Romans : a sourcebook containing the Constellations of Pseudo-Eratosthenes and the Poetic astronomy of Hyginus
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130行目: 206行目:
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| title=ギリシア教訓叙事詩集
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| author=近藤二郎 | authorlink=近藤二郎
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| publisher=[[誠文堂新光社]] | date=2012-08-30 | isbn=978-4-416-21283-7 | pages=156-158}}</ref>

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| title=Abd al-Rahman al-Sufi and his book of the fixed stars: a journey of re-discovery
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| title=Ioannis Bayeri Uranometria omnium asterismorum continens schemata, nova methodo delineata aereis laminis expressa
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2024年10月19日 (土) 02:37時点における版

くじら座
Cetus
Cetus
属格 Ceti
略符 Cet
発音 [ˈsiːtəs]、属格:/ˈsiːtaɪ/
象徴 海の怪物[1][2]
概略位置:赤経  23h 56m 24.7917s- 03h 23m 47.1387s[3]
概略位置:赤緯 +10.5143948° - −-24.8729095°[3]
20時正中 12月中旬[4]
広さ 1231.411平方度[5]4位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
88
3.0等より明るい恒星数 2[注 1]
最輝星 β Cet[注 1](2.01
メシエ天体 1[6]
確定流星群 2[7]
隣接する星座 おひつじ座
うお座
みずがめ座
ちょうこくしつ座
ろ座
エリダヌス座
おうし座
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くじら座(くじらざ、ラテン語: Cetus)は、現代の88星座の1つで、プトレマイオスの48星座の1つ[2]。日本語名は「くじら座」だが、モチーフとされたのは神話・伝承上の海の怪物「ケートス」であり、海棲哺乳類クジラとは全く関係がない[2]うみへび座おとめ座おおぐま座に次いで全天で4番目に大きな領域を持つ[5]。ο星ミラは、明るさが大きく変動する変光星として特によく知られている[8]

特徴

くじら座の全景。

東をエリダヌス座、北東をおうし座、北をおひつじ座、北西をうお座、西をみずがめ座、南西をちょうこくしつ座、南東をろ座に囲まれている[9]。20時正中は12月中旬頃[4]、北半球では秋の星座とされ[10]、初夏から晩冬にかけて観望することができる[9]。面積1231.411平方度と、うみへび座・おとめ座・おおぐま座に次いで全天で4番目に大きな領域を持つ[5]

天の赤道を跨ぐように位置しているため、人類が居住しているほぼ全ての地域から星座の全域を観望することができる。2002年8月から2004年1月にかけて行われた「すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ」では、北半球と南半球のどちらでも観測が可能なこと、天の川銀河の銀河面から遠いため星間減光や galactic cirrus として知られる赤外線を放射する構造が少ないことなどの理由から、くじら座の赤経2h18m・赤緯-5°00′を中心とする領域が観測対象領域として選定された[11][12]

また、くじら座は黄道に近い位置にあるため、惑星小惑星などの太陽系内の天体が領域を通過することがある。小惑星番号3の小惑星ジュノー(Juno)は、1804年9月1日カール・ハーディングが発見した当時くじら座の領域に位置していた[9][13]

由来と歴史

ベルリン博物館島旧博物館収蔵の、紀元前575-550年頃の作とされるコリント式アンフォラペルセウスによるアンドロメダーの解放を描いた最古の例とされる[14]。後の時代の物語と異なり、ペルセウスは両手に持った石をケートスに投げつける姿で、またアンドロメダーはペルセウスに助力する姿で描かれている[14]

この星座の発祥の地については、ギリシア、バビロニア、またはエジプトにそのルーツを求める説が出されているが、定かではない[15]。このうち、バビロニアに起源を求める説は単なる推測に過ぎないとされている[15]19世紀末アメリカの博識家リチャード・ヒンクリー・アレンの『Star Names: Their Lore and Meaning』や日本の天文普及家原恵の『星座の神話』では、メソポタミア神話に登場する原初の海の女神ティアマトに起源を求める説が紹介されているが、いずれも根拠が示されていない[15]。ギリシャ発祥説では、アンドロメダ座カシオペヤ座ケフェウス座・くじら座の4つの星座は、紀元前5世紀終わりから紀元前4世紀初め頃には既にペルセウス座と関連付けて命名されていたと主張している[15]。エジプト発祥説では、古代エジプトで黄道星座の1つとされていたワニの星座にくじら座の起源を求めている[15]。少なくとも、紀元前4世紀の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』に記された星座のリストに古代ギリシア語で「海の怪物[16]」や「巨大な魚[16]」という意味の κῆτος (ketos, ケートス) という名称で載っていたとされる[16]。このエウドクソスの著述を元に詩作されたとされる、紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』でも κῆτος という名称で登場しており、遠くからアンドロメダーを脅かしているとされた[17][18]

アッ=スーフィーの『星座の書』に描かれたくじら座。半獣半魚の怪物として描かれている。

紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』や1世紀初頭の古代ローマの著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (: De Astronomica)』では13個の星が属するとされ、帝政ローマ2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』では、22個の星が属するとされた[15]10世紀ペルシアの天文学者アブドゥッラハマーン・スーフィー(アッ=スーフィー)が『アルマゲスト』の第7、8巻を元として964年頃に著した天文書『星座の書』でも『アルマゲスト』と同じく22個が属するとされた[19]。『星座の書』では、陸上生物のような前脚ととぐろを巻く尾を持つ半獣半魚の怪物の姿が描かれていた[19][20]

ラテン語の cetus がクジラを意味するため、英語でも whale と説明されることがあるが、元のギリシア語の名称である κῆτος は大型の水生生物や海の怪物を指す言葉であり、クジラとは異なる[2]。実際、ルネサンス期以降の西洋の星図では、ほとんどクジラとは似つかない怪物として描かれていた[2]ドイツ法律家ヨハン・バイエルは、1603年に刊行した星図『ウラノメトリア』の中で CETVS というラテン語の星座名を記すとともに、Draco Leo vrſus marinusMonſtrum marinum などの別称も紹介しており、星図ではその紹介どおりドラゴンを思わせる爬虫類のような姿の怪物を描いている[21][22]。バイエルは『ウラノメトリア』の中でくじら座の星に対して α から ψ までのギリシャ文字23個を用いて27個の星に符号を付した[21][22][23][注 2]。バイエル以降の星図製作者たち、ヨハネス・ヘヴェリウスジョン・フラムスティードヨハン・ボーデらも、実在のクジラとはかけ離れた姿の Cetus を描いている[2][24][25][26]

1922年5月にローマで開催された国際天文学連合 (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Cetus、略称は Cet と正式に定められた[27][28]

中国

ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー英語版(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、くじら座の星々は、二十八宿の北方玄武七宿の第六宿「室宿」・第七宿「壁宿」、および西方白虎七宿の第一宿「奎宿」・第二宿「婁宿」・第三宿「胃宿」、第四宿「昴宿」に配されていた[29][30]。室宿では、6・2・1・3・9・7 の6星が、春の己巳丁丑、夏の甲申壬辰、秋の己亥丁未、冬の甲寅壬戌の総称を表す星官「八魁」に配された[29][30]。壁宿では、48・υ・56 と不明の2星の5星が、腰斬刑で使われる刑具を表す星官「鈇鑕」に配された[29][30]。奎宿では、21・φ3・18・φ1の4星が、豚小屋を兼ねた便所を表す星官「天溷」に、β が単独で水利土木を司る官職を表す星官「土司空」に、それぞれ配された[29][30]。婁宿では、ιη・θ・ζ・tau・57 の6星が、穀倉を表す星官「天倉」に、不明の3星が刈り入れた後の稲束を表す星官「天庾」に、それぞれ配された[29][30]。胃宿では、α・97・λ・μ・ξ1・ξ2・ν・γ・δ・75・70・63・66 の13星が、丸い形の穀倉を表す星官「天囷」に配された[29][30]。昴宿では、ρ・77・67・71・HD 14691・ε の6星が、飼い葉やまぐさを表す星官「蒭藁」に、π がエリダヌス座の15星とともに天の牧場を表す星官「天苑」に配された[29][30]

神話

ロンドンウォレス・コレクション所蔵のティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『ペルセウスとアンドロメダ (Perseo e Andromeda)』(1554-1556) 。中央にケートスが描かれている。

くじら座のモチーフとされたケートスは、エチオピア王ケーペウスと王妃カッシオペイアの娘アンドロメダーの受難の物語に登場する海の怪物として知られる[2]。ただし、星座にまつわる伝承を伝えるエラトステネースの『カタステリスモイ』、ヒュギーヌス『天文詩』のいずれも、くじら座の節では「海の怪物ケートスは、ポセイドーンアンドロメダーを襲わせるために送り込んだが、ペルセウスに倒され、その巨大さと英雄の勇気を称えるため星座となった」と伝えるのみである[15][31]

ペルセウスがケートスを退治した方法について、『カタステリスモイ』や『天文詩』、1-2世紀頃に書かれたとされる伝アポロドーロスの『ビブリオテーケー』では「ペルセウスによって殺された」と書かれるのみである[15][31][32][33]。帝政ローマ最初期の詩人オウィディウスの『変身物語』には、ペルセウスがケートスに近接戦闘を挑んだ姿がつぶさに記されており、最後はハルパーでケートスを斬り殺したとされている[34]。一方、これらの伝承よりもはるかに古い紀元前6世紀頃の伝承では、ペルセウスはケートスに石を投げつけて倒したとされている[14]

呼称と方言

ラテン語の学名 Cetus に対応する日本語の学術用語としての星座名は「くじら」と定められている[35]。現代の中国では鲸鱼座[36](鯨魚座[37])と呼ばれている。

明治初期の1874年(明治7年)に文部省より出版された関藤成緒の天文書『星学捷径』では、「セチュス」という読みと「鯨魚」という名が紹介された[38]。また、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』上巻ではラテン語の「セチュス」と英語の「ホウェール」が紹介され[39]、下巻では「天鯨宿」として解説された[40]。これらからそれから30年ほど時代を下った明治後期には「」という呼称が使われていたことが日本天文学会の会報『天文月報』の第1巻6号掲載の「九月の天」と題した記事中の星図で確認できる[41]。この「鯨」という訳名は、東京天文台の編集により1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「鯨(くぢら)」として引き継がれた[42]。戦中の1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「鯨(くぢら)」が継続して使われることとなり[43]、戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[44]とした際に平仮名で「くじら」と定められた[45]。以降、この呼称が継続して用いられている[35]

方言

日本国内では、くじら座の星の地方名として採集されたものはない[46][47][48]

主な天体

恒星

2024年9月現在、国際天文学連合 (IAU) によって8個の恒星に固有名が認証されている[49]

α星
太陽系から約249 光年の距離にある[注 3]見かけの明るさ2.53 等、スペクトル型 M1.5IIIa の赤色巨星で、3等星[50]。2.45 等から2.54 等の範囲で変光する LB 型の長周期変光星の候補天体とされる[51]アラビア語で「鼻の穴」を意味する言葉に由来する[52]メンカル[9](Menkar[49])」という固有名が認証されている。
β星
太陽系から約96.3 光年の距離にある[注 3]、見かけの明るさ2.01 等、スペクトル型 G9.5IIICH-1 の黄色巨星で、2等星[53]。くじら座で最も明るい恒星で唯一の2等星[53][注 1]。アラビア語で「2匹目のカエル[注 4]」を意味する言葉に由来する[52]ディフダ[9](Diphda[49])」という固有名が認証されている。くじら座の尾の部分にあることから「デネブ・カイトス (Deneb Kaitos)」という固有名も知られていた[52][8]
γ星
太陽系から約74.8 光年の距離にある、三重連星系[54]。見かけの明るさ3.54 等でスペクトル型 A2Vn のA星[55]と6.12 等で F4V のB星[56]のペアの外に、10.16 等で K5V のC星[57]があると考えられている[58]。A星には「カファルジドマ[9](Kaffaljidhma[49])」という固有名が認証されている。
ζ星
太陽系から約253 光年の距離にある、見かけの明るさ3.72 等、スペクトル型 K0.5III の橙色巨星で、4等星[59]。主星のA星から3′ほど離れて見える10.15 等のB星は見かけの二重星だが、A星自体が分光連星で、AaとAbの2つの恒星が1652日の周期で互いの共通重心を周回していると考えられている[60]。Aa星には、アラビア語で「海の怪物の腹」を意味する言葉に由来する[52]バテンカイトス[9](Baten Kaitos[49])」という固有名が認証されている。
ο星
太陽系から300-420 光年の距離にある連星系[61]。A星系の近くに見えるB・C・D星はいずれも見かけの二重星だが、A星自体が連星系を成しており[62]、赤色巨星の主星Aaと白色矮星の伴星Abが、離心率0.80±0.16の細長い公転軌道を約500 年の公転周期で公転している[63]。Aa星は「ミラ[9](Mira[49])」という固有名で知られる脈動変光星で、「ミラ型変光星」のプロトタイプとされており[64]、331.96 日の変光周期で2.0 等から10.1 等の範囲で光度を変化させる[65]。この固有名は、17世紀ポーランド生まれの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスが、1662年に刊行した論文集『Mercurius in Sole visus Gedani, anno christiano MDCLXI, d. III Maii, St. n.』に掲載したこの星に関する論文のタイトル『Historiola mirae stellae[66](驚くべき星の小史)[注 5]』にちなんでいる[52]
恒星進化の段階では、中小質量星が主系列を離れた後に到達する漸近巨星分枝 (Asymptotic Giant Branch, AGB) の段階にあると考えられている[61]2006年11月から12月にかけてのアメリカ航空宇宙局 (NASA) の紫外線宇宙望遠鏡GALEXによる観測で、ミラの進行方向の反対側に伸びる尾が発見された[70]。この13 光年に及ぶ長さを持つ尾は、ミラからの恒星風と星間ガスの相互作用で生じたバウショックの先端から剥がれた物質で構成されており、数万年かけて形成されたと考えられている[70]
NASAの紫外線宇宙望遠鏡GALEXによる2006年の観測データから撮像されたミラ(画像右側)。可視光では観測できない長く伸びる尾が確認できる。
HD 224693
太陽系から約308 光年の距離にある、見かけの明るさ8.22 等、スペクトル型 G2V のG型主系列星で、8等星[71]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でメキシコ合衆国に命名権が与えられ、主星は Axólotl、太陽系外惑星はXólotlと命名された[72]
BD-17°63
太陽系から約113 光年の距離にある、見かけの明るさ9.720 等、スペクトル型 K4Vk のK型主系列星で、10等星[73]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でキューバ共和国に命名権が与えられ、主星は Felixvarela、太陽系外惑星はFinlayと命名された[72]
WASP-71
太陽系から約1158 光年の距離にある、見かけの明るさ10.56 等、スペクトル型 G2 のG型星で、11等星[74]。IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でタンザニア連合共和国に命名権が与えられ、主星は Mpingo、太陽系外惑星はTanzaniteと命名された[72]

このほか、以下の天体が知られている。

τ星
太陽系から約11.9 光年の距離にある、見かけの明るさ3.50 等、スペクトル型 G8V のG型主系列星で、4等星[75]エリダヌス座ε星とともに、1960年4月から7月にかけてフランク・ドレイクらが実施した史上初の地球外知的生命体探査オズマ計画」の対象天体とされた[76]。2012年から2019年にかけて8つの太陽系外惑星の発見が報告され、そのうち4つは存在が確実視されている[77]
ZZ星
太陽系から約104 光年の距離にある、スペクトル型 DA4.0 の白色矮星[78]1970年にBarry M. Lasker と James E. Hesser によって周期的に変光していることが発見された[79][80]。変光星としては脈動変光星の一種「くじら座ZZ型変光星」のプロトタイプとされており[64]、分光スペクトル中に水素の吸収線だけが見られる ZZA 型に分類されている[81][82]。極大時の光度は14.13 等で、約213.1秒と約274.3秒の2つの周期で0.03 等の振幅で明るさを変化させている[82]
ルイテン726-8
太陽系から約8.72 光年の距離にある連星系[83]。スペクトル型 M5.5V のA星と M6V のB星[84]が、約26.52 年の公転周期で互いの共通重心を公転している[85]。変光星としては「くじら座UV星 (UV Ceti)」と呼ばれるB星[86]は、「閃光星」や「フレア星」とも呼ばれる「くじら座UV型変光星」のプロトタイプとされており[64][69][86]、通常は12.95 等だが、大規模な恒星フレアが生じると最大6.8 等まで明るくなる[87]

星団・星雲・銀河

18世紀フランスの天文学者シャルル・メシエが編纂した『メシエカタログ』に挙げられた天体が1つ位置している[6]。また、パトリック・ムーア英語版がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ」に3つの天体が選ばれている[88]

M77
天の川銀河から約4800万 光年の距離にある渦巻銀河[89]1780年10月29日に、フランスの天文学者ピエール・メシャンが発見した[90]。δ星の東南東約0.7°の位置に見える[90]。2型のセイファート銀河で、セイファート銀河の中では天の川銀河に最も近く[90]、また最も明るく見えるものの1つとされ[69][90]、電波源としても知られる[69]。中心部には太陽の約1500万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在していると考えられている[91]
IC 1613
天の川銀河と同じく局所銀河群に属する不規則銀河[92][93]。コールドウェルカタログの51番に選ばれている[88]1906年にドイツの天文学者マックス・ヴォルフが発見した[94]。早くから局所銀河群の一員と認識されていた銀河の1つ[94]。星団が非常に少なく、また背景にある銀河を見ることができるほど星間塵が非常に少ない銀河であり、その理由は未だ謎とされている[94]2024年の研究では、天の川銀河から約235万 光年の距離にあるとされる[95]
NGC 246
太陽系から約1800 光年の距離にある惑星状星雲[96]。コールドウェルカタログの56番に選ばれている[88]。星雲の東側が欠けた三日月状の形に見え、欠けた部分には3つの星がはっきり見えることから、一部の天文家から「どくろ星雲[97](: Skull Nebula[98])」や Pac-Man Nebula[98][注 6]などの通称で呼ばれている。
NGC 247
天の川銀河から約1070万 光年の距離にある低表面輝度銀河[99]。コールドウェルカタログの62番に選ばれている[88]。局所銀河群に最も近いグループの1つ「ちょうこくしつ座銀河群 (: Sculptor Group)」の一員とされる[99]。銀河の形態分類では中間渦巻銀河とされる[99]。銀河円盤の北側に見える空洞を針穴に喩えた Needle's Eye galaxy[100]、紡錘形に見える姿をトウワタの種子に喩えた Milkweed Seed galaxy[101]などの通称がある。NGC 247の北東に一列に並んで見える5つの銀河は、1963年にこれらの銀河を発見した[102]マーガレットジェフリーのバービッジ夫妻の名前から Burbidge's Chane と呼ばれる[100]
NGC 1055
天の川銀河から6600万 光年の距離にある渦巻銀河[103]。天の川銀河より15%ほど大きな直径を持つ大きな銀河[104]で、中心のバルジと円盤の上下に広がる箱状のハローにはかすかながら微細な構造が見られる[105]

流星群

くじら座の名前を冠した流星群で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) が「確定された流星群 (Established meteor showers)」としているものは、くじら座ω北昼間流星群 (Northern Daytime omega Cetids, NOC)、くじら座ω南昼間流星群 (Southern Daytime omega Cetids, OCE) の2つである[7]。いずれも5月6日頃の日中に極大を迎える[7]

脚注

注釈

  1. ^ a b c 極大光度時のミラ (ο Cet) を除く。
  2. ^ バイエルは複数の星をまとめて1つの文字で表すことがあったため、星の数は使われた文字の数よりも多い。くじら座の場合は ξ が2つ、φ が4つの星を表すために使われている[21][23]
  3. ^ a b 1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算。
  4. ^ 1匹目のカエルは、みなみのうお座フォーマルハウトとされる[52]
  5. ^ mirae の意味について、日本語文献では古くから「不思議な」と説明されている[8][67]が、本来は wonderful や amazing の意味であり[2][52][68][69]「驚くべき[20]」と訳すほうが原義に近い。
  6. ^ ただし「パックマン星雲」という通称は既にカシオペヤ座の惑星状星雲NGC 281として知られている[98]

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