藤木幸夫
ふじき ゆきお 藤木 幸夫 | |
---|---|
生誕 |
1930年8月18日(94歳) 日本 横浜市西区天神町 |
出身校 | 早稲田大学政治経済学部 |
職業 |
藤木企業代表取締役会長 一般社団法人横浜港振興協会会長 横浜港ハーバーリゾート協会会長 横浜エフエム放送代表取締役会長 |
親 | 藤木幸太郎 |
受賞 |
藍綬褒章 勲三等瑞宝章 |
藤木 幸夫(ふじき ゆきお、1930年〈昭和5年〉8月18日[1] - )は、日本の実業家。藤木企業代表取締役会長、一般社団法人横浜港振興協会会長、横浜港ハーバーリゾート協会会長、横浜エフエム放送代表取締役会長。元横浜港運協会会長、元横浜スタジアム取締役会長[2][3]。父親は藤木企業の創業者の藤木幸太郎[4]。政財界との繋がりが深いことから、しばしば「ハマのドン」と称される[5][6]。
概要
[編集]神奈川県横浜市西区天神町生まれ[4][7]。藤木企業の創業者である藤木幸太郎の長男。神奈川県立工業学校(現・県立神奈川工業高校)を経て[8]、1953年に早稲田大学政治経済学部卒業。
若い頃には共産党員であったが転向し、自由民主党が結成されると党員になった[9]。
1970年5月、藤木企業の代表取締役社長に就任。
2004年3月16日、神奈川新聞に父親の藤木幸太郎の生涯と自身の半生を綴った「わが人生」の連載をスタート[4]。同年8月18日、全131回の連載をまとめた『ミナトのせがれ』を出版[10]。
2016年10月25日、藤木は横浜港運協会会長として記者会見し、横浜市が進める山下埠頭の再開発について言及。コンソーシアム(共同事業体)を設立し、事業の主体を担う意向を表明した。「カジノはグローバルなレクリエーション。景観も生かし、世界中からリゾート客が来るようにする」と述べた[11]。
2017年5月17日、横浜港運協会は拡大理事会を開き、山下埠頭の再開発への見解をまとめた。この会で藤木は、林文子・横浜市長が誘致推進の立場を取る統合型リゾート(IR)計画について、「カジノは必要ない」と述べた[12]。同協会幹部は、藤木が方針を180度転換した理由として、アトランティックシティの例を挙げた。同市は近年カジノ・リゾートの収益が急減しており[13]、「カジノを開くこと自体がギャンブルだ」と考え直したと説明している[14]。ふた月後の7月30日、横浜市長選挙で林は3選を果たした。藤木は林に対して、「こうする、ああすると決めるような資格はない」と述べるほか、IR誘致先の山下埠頭について「横浜の将来をどうするか、日本の将来をどうするか占う場所でもある」と語った[15]。
2018年、ギャンブル依存症の問題を懸念していた元参議院議員の斎藤文夫は藤木に「様々な犯罪研究をしている日本社会病理学会の横山實・前会長の話を聴いてみてはどうか」と話をもちかけた。藤木は横浜港運協会の役員に声をかけ、同年3月14日に同協会が開いた公開勉強会「ギャンブル依存症を考える」[16]には議員とマスコミ関係者を含め約600人が集まった。横山と公益財団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表理事の講演内容に藤木はショックを受け、カジノの弊害を確信したとされる[17]。
2019年5月7日、山下埠頭の再開発に関し、カジノ誘致反対を訴える一般社団法人「横浜港ハーバーリゾート協会」が設立登記され、藤木は会長に就任した[18][19]。
2020年5月13日、米国カジノ大手のラスベガス・サンズは、IRの日本への進出を断念すると発表した[20]。同年6月17日、藤木は横浜港運協会の総会で会長退任を表明し、了承された。新会長には長男の藤木幸太が就任した[21]。
2021年1月29日、米国の統合型リゾート大手のウィン・リゾーツが横浜市のIR公募への参加を見送ることを決めたことを朝日新聞が報じた[22]。
2021年横浜市長選挙との関わり
[編集]2021年7月17日、横浜市長選挙への立候補を表明した元大学教授の山中竹春の支援団体などが集まる合同選対会議の初会合が開かれ、藤木は名誉議長として出席。山中を全面支援する考えを示した[5]。同日、山中の政治団体「横浜をコロナとカジノから守る会」の事務所開きが行われ、藤木は同団体の代表に就任した[5][23]。
同年8月3日、日本外国特派員協会で記者会見し、市長選と横浜港との関わりについて語った(司会は神保哲生)。市長選については、IR誘致反対を表明した元衆議院議員の小此木八郎が当選するとの見通しを示した。「私は八郎の名付け親ですよ」と強調した後、「いろいろ聞いてみると、いい人だ。山中って人はね。だけど当選するのは八郎でしょ。そりゃ八郎が当選しなきゃしょうがないでしょ。八郎の母親からも毎日のように手紙が来るし」と述べた[24][25]。
支援する山中については、「友達の江田(注・江田憲司)に任したの。林以外なら誰でもいい、林は今ロボットやってんだから。操り人形だから。菅(内閣総理大臣菅義偉)の言うとおりに動いているだけだから。そしたら江田が急に山中さんを連れてきて、こいつどうですかって。私は『あんた、目が鋭すぎるよ』とだけ言いました。ほかは悪いところはないだろうと。江田が責任持って薦めてるんだから。ただ『あんたのその目じゃ当選できないよ、もっと柔らかい目になんなさい』ということだけは言って帰った」と話した[24]。
同年8月8日、市長選挙告示。山中の第一声の演説のあとで、藤木もマイクを持ち、IRの背景には米中の経済戦争がからんでいると明かした。藤木は「トランプの使いが俺のところにきて、ご飯を食べながら話をした。米中戦争をやっているのだよ、山下埠頭で。使いは『アメリカは引っ込むけれども、俺のところは引っ込むけれども、中国には渡さないでくれ』と言った」と語った[26]。
同日、雑誌の取材で「小此木が当選する」と言った発言の真意を尋ねられると「そう言っておかないと仕方がないでしょう」と答えた。取材者が「(小此木陣営を)油断させるつもりなのか」と問い返すと、「そうそう。選挙のたびに相手を褒めるのが俺のやり方だったのよ。それで40年間、やって来た」と答えた[27]。8月17日、藤木が会長を務める横浜港ハーバーリゾート協会主催の山中の総決起集会が開かれた。この日、神奈川県内のコロナウイルス感染者は5日連続で2,000人台を記録するが[28][注釈 1]、藤木は集会後のぶら下がり会見で「コロナの感染爆発は菅首相の責任か」と問われると、「当たり前でしょう。俺に聞かなくても分かる。子供でも分かる。山中が当選して菅は終わり」と答えた[30][31]。投開票日の8月22日、NHKなど複数のメディアが投票締め切りの午後8時と同時に山中の当選確実を報道[32][33]。山中圧勝を受け、藤木は陣営の開票センターで「菅も今日あたりやめるんじゃないの」「(菅から)電話がかかってきたら『首相をやめろ』と言う」と話した[34]。
投開票から2週間が過ぎた2021年9月3日、菅は再選を目指すはずだった自民党総裁選挙への立候補を断念、首相退陣表明に追い込まれた。
テレビ朝日の番組と映画
[編集]2021年11月28日、テレビ朝日の「テレメンタリー」の枠で、カジノ誘致反対の急先鋒に立った藤木を追った『ハマのドン "仁義なき闘い"』が放送。ディレクターは『報道ステーション』でチーフプロデューサーを務めた松原文枝[35][36]。
2022年2月5日、民間放送教育協会が年に一度放送するドキュメンタリー番組「民教協スペシャル」がテレビ朝日で放映。第36回は、同じく松原がディレクターを務めた『ハマのドン "最後の闘い" ―博打は許さない』であった[37][38]。
2023年5月5日、上記の2本の番組の劇場版である『ハマのドン』が全国公開された[38]。松原は映画とするだけでなく、5月17日、集英社から『ハマのドン―横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録』を上梓した[39]。
同年7月5日、横浜市が「山下ふ頭再開発検討委員会」の人選で藤木に委員就任を打診し、内諾を得ていたことが明らかになったと神奈川新聞が報じた。同委員会は学識経験者と地域の関係者ら最大20人で構成され、まちづくりの方向性や導入施設などについて約1年間協議し、取りまとめた意見を市長に答申する予定。藤木は、開発事業への参画に意欲を示す横浜港ハーバーリゾート協会の会長で、「選ばれる側」でもあることから、市の判断に疑念の声が上がっている[40]。
職歴
[編集]- 1970年5月 - 藤木企業株式会社代表取締役社長
- 1981年6月 - ポートサービス株式会社代表取締役会長(現職)
- 1986年4月 - 株式会社横浜スタジアム取締役
- 1986年6月 - 社団法人日本港運協会副会長(現職)
- 1986年7月 - 社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団理事(現職)
- 1988年4月 - 神奈川県野球協議会会長(現職)
- 1992年6月 - 横浜エフエム放送株式会社代表取締役社長
- 2000年4月 - 財団法人横浜市体育協会名誉会長(現職)
- 2000年4月 - 株式会社横浜スタジアム取締役会長
- 2003年2月 - 藤木企業株式会社代表取締役会長(現職)
- 2008年3月 - 同社代表取締役会長(現職)[2]
- 2011年5月 - 一般社団法人横浜港振興協会会長(現職)
- 2019年5月 - 横浜港ハーバーリゾート協会会長(現職)
- 2020年6月 - 横浜エフエム放送株式会社代表取締役会長(現職)[41]
著書
[編集]- 藤木幸夫『ミナトのせがれ』神奈川新聞社、2004年8月。ISBN 978-4876453481。
評伝
[編集]- 大下英治『ハマの帝王 横浜をつくった男・藤木幸夫』さくら舎、2023年8月。ISBN 978-4-86581-396-8。
- 石原慎太郎『青年の樹』講談社(電子出版)、2021年12月。青年期の藤木をモデルにした小説(上記の著者紹介にも記載)
出演
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “「ハマのドン」藤木氏、カジノ誘致に徹底抗戦を表明”. 日刊スポーツ (2019年8月23日). 2019年8月24日閲覧。
- ^ a b 株式会社横浜スタジアム第34期有価証券報告書(2011年4月28日提出、EDINETにて2011年12月7日閲覧)
- ^ “横浜スタジアム会長発言が物議 「ベイスターズ出て行け」に「はい喜んで」”. livedoor ニュース. (2011年12月8日) 2019年8月26日閲覧。
- ^ a b c “わが人生・藤木幸夫(1) 幸夫の血でなければ… 母のがん、父の闘い”. 神奈川新聞. (2021年4月1日) 2021年8月4日閲覧。
- ^ a b c 足立優心、武井宏之 (2021年7月17日). “「ハマのドン」、山中竹春氏への支援表明 横浜市長選”. 朝日新聞 2021年7月28日閲覧。
- ^ “【横浜市長選】山中竹春氏が第一声 「ハマのドン」藤木幸夫氏が応援に”. 日刊スポーツ (2021年8月8日). 2021年8月8日閲覧。
- ^ “【IR横浜誘致】反対・横浜港運協会の藤木幸夫会長(87)「カジノは街を壊す」 (2/2)”. 産経ニュース. 産経新聞社 (2018年7月20日). 2019年4月9日閲覧。
- ^ 藤木 幸夫|神奈川工業高校 卒業生
- ^ “菅前首相異例の地元入り 立民〝美魔女〟候補とハマのドンが連合軍結成で焦り”. 東京スポーツ (2021年10月20日). 2021年10月21日閲覧。
- ^ “ミナトのせがれ”. 神奈川新聞社. 2023年5月29日閲覧。
- ^ 東京新聞2016年10月26日、神奈川版、22頁。
- ^ “「カジノ必要ない」 横浜・山下ふ頭再開発で港運協会 公募・入札に反対表明”. 日本経済新聞. (2017年5月18日) 2021年8月8日閲覧。
- ^ “米カジノ・リゾートが財政難、アトランティックシティー”. AFPBB News. (2014年11月2日) 2021年9月11日閲覧。
- ^ 東京新聞2017年7月8日、神奈川版、22頁。
- ^ “横浜IR誘致、改めて反対 ハーバー協会長「最後までどかない」”. 毎日新聞. (2021年5月23日) 2021年5月23日閲覧。
- ^ “平成30年 横浜港運協会 公開勉強会「ギャンブル依存症を考える」に参加”. 横浜市会議員 中島みつのり (2018年3月14日). 2023年5月8日閲覧。
- ^ 森功、藤木幸夫 (2019年11月7日). “菅官房長官、カジノは筋悪だよ”. 文藝春秋. 2023年5月8日閲覧。
- ^ “「カジノ導入に反対」 横浜港運協会が新協会設立へ”. 神奈川新聞 (2019年4月25日). 2019年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月10日閲覧。
- ^ “横浜港ハーバーリゾート協/設立集会を開催。開発プラン具体化へ活動本格化”. 日本海事新聞. (2019年7月2日) 2019年8月23日閲覧。
- ^ “米サンズ日本進出断念 横浜誘致名乗りも「目標達成困難」”. 神奈川新聞. (2020年5月13日) 2021年9月13日閲覧。
- ^ “横浜港運協会の藤木会長、退任表明 カジノ誘致反対に注力”. 神奈川新聞. (2020年6月17日) 2021年8月8日閲覧。
- ^ 松沢奈々子、武井宏之 (2021年1月29日). “横浜のIR公募、ウィン・リゾーツも見送り コロナ影響”. 朝日新聞 2021年9月13日閲覧。
- ^ “政治資金収支報告書 横浜をコロナとカジノから守る会(令和3年分 定期公表)” (PDF). 神奈川県選挙管理委員会 (2022年11月25日). 2022年11月29日閲覧。
- ^ a b “横浜市カジノ誘致に反対 「ハマのドン」藤木氏が会見(2021年8月3日)”. THE PAGE. (2021年8月3日) 2021年8月4日閲覧。
- ^ “ハマのドン藤木幸夫氏、横浜山下埠頭にカジノ開業なら「切腹して死ぬ」”. スポーツ報知. (2021年8月3日) 2021年8月4日閲覧。
- ^ 横田一 (2021年8月12日). “【横浜市長選】小此木氏を“隠れカジノ推進派”と疑う有権者をめぐる攻防も”. NetIB NEWS 2021年9月13日閲覧。
- ^ 横田一 (2021年8月14日). “横浜市長選の争点はカジノから一転。菅首相の全面支援は吉と出るか凶と出るか”. SPA! 2021年8月15日閲覧。
- ^ “<新型コロナ>神奈川県で新たに2021人感染、20代男性が自宅療養中に死亡”. 東京新聞. (2021年8月18日) 2021年8月19日閲覧。
- ^ “【速報】神奈川県 過去最多2907人感染 8日連続で2000人超え 新型コロナ”. FNNプライムオンライン. (2021年8月20日) 2021年8月20日閲覧。
- ^ ““ハマのドン”藤木幸夫氏が「菅首相はもうすぐ終わり」と最後通牒!コロナ対策失敗も一刀両断”. 日刊ゲンダイ. (2021年8月18日) 2021年8月19日閲覧。
- ^ 田中龍作 (2021年8月17日). “【横浜市長選挙】 ハマのドン「山中が当選して菅は終わり」”. 田中龍作ジャーナル. 2021年8月19日閲覧。
- ^ “横浜市長選 立民推薦の山中竹春氏 当選確実 小此木氏ら及ばず”. NHK. (2021年8月22日) 2021年8月22日閲覧。
- ^ “【詳報】横浜市長選挙 野党支援の山中氏が当選確実 菅政権に打撃「厳しい結果。これが民意」”. 東京新聞. (2021年8月22日) 2021年8月22日閲覧。
- ^ “「菅首相やめるんじゃないの?」 ハマのドンが言い放つ”. 朝日新聞. (2021年8月22日) 2021年8月22日閲覧。
- ^ “過去の放送 「2021年度最優秀作品アンコール ハマのドン”仁義なき闘い”」”. テレビ朝日. 2023年5月8日閲覧。
- ^ “藤木会長出演 テレビ朝日ドキュメンタリー 番組「テレメンタリー」放送”. 藤木企業株式会社. 2023年5月8日閲覧。
- ^ “『ハマのドン』放送人グランプリ2022(第21回)グランプリ優秀賞を受賞!”. 民間放送教育協会. 2023年5月8日閲覧。
- ^ a b c “ハマのドン”. 映画.com. 2023年5月8日閲覧。
- ^ “ハマのドン 横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録”. 集英社. 2023年5月18日閲覧。
- ^ “横浜・山下ふ頭再開発 市の検討委員に事業者側の藤木氏”. 神奈川新聞 (2023年7月5日). 2023年7月5日閲覧。
- ^ “横浜エフエム放送新社長に兒玉副社長 藤木社長は会長に”. カナロコ (2020年6月24日). 2020年9月16日閲覧。
参考文献
[編集]- 藤木幸夫「港に生きる」全12回(※2誌にわたって連載)
- 松原文枝『ハマのドン―横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録』集英社〈集英社新書〉、2023年5月。ISBN 978-4087212655。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 藤木企業株式会社
- 【ハマのドン】藤木会長登場!ぶっちゃけトーク炸裂!?気になる!菅さんとのこと! 高嶋ひでたけの イキナリ!ひでチャンネル
- 特別公開講座・第1回関内学 藤木幸夫 藤木企業取締役会長 関東学院大学