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飛騨牛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
飛騨牛まぶしから転送)
飛騨牛の焼肉盛り合わせ
飛騨牛の握り寿司

飛騨牛(ひだぎゅう、ひだうし)は、岐阜県で肥育される黒毛和牛牛肉である。飛騨牛は食肉になった後は、「ひだぎゅう」と呼び、食肉になる前の牛、牛を産むための母牛(繁殖牛)および父牛(種雄牛)は「ひだうし」と呼ぶ[1]

定義

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以上の全てを満たす牛肉が飛騨牛(ひだぎゅう)と呼ばれる[2]。等級が基準外の物は飛騨和牛(ひだわぎゅう)とされる。

2005年(平成17年)度における飛騨牛の年間出荷数は10,259頭であった。これらを肉質等級でわけると、5等級が3,362頭(年間出荷頭数全体の32.8%)、4等級が4,436頭(同43.2%)、3等級が2,461頭(同24.0%)だった。


歩留等級
A B C



5 ひだぎゅう
飛騨牛
飛騨和牛
4
3
2 飛騨和牛
1

定義から、飛騨地方以外でも岐阜県内産なら飛騨牛の名が与えられるが、生産者の約半数が飛騨地方であるため、飛騨牛の多くは飛騨地方産である。

生産

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飛騨牛の飼育農家は繁殖牛農家と肥育牛農家に分かれ、2000年(平成12年)頃の統計によれば、飛騨地方において繁殖牛が約420戸で約4,000頭(1戸あたり10頭前後が標準)、肥育牛が約120戸で約6,000頭飼育されている[3]。繁殖牛農家は企業的経営のところが多く、野菜生産などと組み合わせながら、5 - 6月から10月にかけて山地の牧場で飼育し、冬季は麓で舎飼いする(「夏山冬里」という)[3]。山地の牧場は2002年(平成14年)時点で27か所あり、岐阜県農畜産公社、地元市町村、農業協同組合、和牛改良組合などが所有し、小規模な牧場は伝統的に利用されてきた入会地を使い、大規模な牧場は冬季にスキー場となるものもある[3]

飛騨地方産の肥育牛は年間6,000 - 6,500頭販売され、うち8割が高山市の食肉市場で枝肉として、2割が高山市の市場で生体のまま取引される[3]。食肉の流通は4分の3が岐阜県内で、残りは関西北陸地方へ出荷される[3]

歴史

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飛騨地方には各農家が2 - 4頭のウシを所有し、5月下旬から10月上旬は共同牧場で、他の時期は各戸で舎飼いする伝統があった[3]。元来は肉牛でなかったが、1960年代以降、肉用としてのウシの飼育が盛んになり、2000年(平成12年)には飛騨地方の農業生産額に占める肉用牛の割合が3割を超える重要な生産品となった[3]

年表

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「安福号」

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飛騨牛がここまでブランド化できたのは、一頭の雄牛「安福号」の功績が大きい。

安福号は1980年(昭和55年)4月1日に兵庫県美方郡村岡町(現香美町)で生まれた但馬牛である。1981年(昭和56年)6月16日に県有種雄牛として岐阜県が購入し、7月21日に、当時の上松陽助岐阜県知事により「安福号」と名付けられた。1993年(平成5年)9月28日に死亡する。

繁殖母牛として使われる雌牛を含めて39,000頭余りの子ができたが、そのうち飛騨牛になったのは2割5分から3割である。子孫のうち「飛騨白清」、「白清85の3」、「広景福」が飛騨牛の種雄牛として知られている。

現在も精子は凍結保存され使用されているが、安福号の遺伝子に頼りすぎたため、遺伝的な問題が発生するおそれがあった。このため遺伝子検査などの結果で判明した問題のある交配は行わないなどの指導により問題は解消されている。

2008年(平成20年)までに岐阜県畜産研究所飛騨牛研究部は、安福号のクローン牛を4頭誕生させた。

偽装事件

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2003年(平成15年)に牛肉トレーサビリティ法施行された。これにより、購入した牛肉の生産者は、岐阜県産牛の生産情報[6]で確認できるようになった。格付けについても、精肉店には証明書が発行され、主に消費者に供給されるパック詰めは、3等級、4等級、5等級のシールによって確認する事が出来るようになった[7]。しかし、個体識別番号による格付けの情報公開については、「個人情報」として業界が消極的だった。すると、この情報非公開に目をつけた業者による等級シールの不正貼り付けなどの偽装事件が起きた。

2008年(平成20年)6月、岐阜県養老町の食肉会社「丸明」が下位等級の飛騨牛を上位等級のシールで偽装したり、基準を満たさない牛肉を飛騨牛であると偽装する事件が発覚し[8]ブランドイメージが低下した[9]。この会社創業者は丸明を一代で年商100億の会社に育て上げ、飛騨牛のブランドを日本全国に知らしめた功労者として食肉業界でよく知られた人物だったが、内部告発によって飛騨牛の等級偽装のほか日付の改竄や杜撰な衛生管理、豚肉産地偽装などが次々と露見し、社長を辞任した。翌2009年(平成21年)3月、岐阜地裁懲役1年6か月、執行猶予4年の有罪判決を受けた[10]。この事件の発覚後、岐阜県では肉質等級を個体識別番号から検索できるウェブサイト[11]が開設された。

2016年(平成28年)2月には岐阜県産ではない牛肉に「飛騨牛」のシールを貼り1.8tの食肉を販売したとして土岐市の精肉店に岐阜県から措置命令、東海農政局からトレーサビリティ法に基づく是正勧告が成された[12]

脚注

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  1. ^ 豆知識(2)飛騨牛(ひだうし)と飛騨牛(ひだぎゅう)(JAひだサイト)
  2. ^ 【ニュース】 飛騨牛(ひだぎゅう)”. 一般社団法人 岐阜県畜産協会. 2024年6月15日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 小林ほか 2007, p. 321.
  4. ^ a b c 飛騨牛銘柄化の経過”. 飛騨牛銘柄推進協議会. 2024年6月15日閲覧。
  5. ^ 岐阜県の飛騨牛が、地理的表示(GI)に登録されました”. 農林水産省 (2023年1月31日). 2024年6月15日閲覧。
  6. ^ 岐阜県産牛の生産情報(2004年9月2日時点のアーカイブ
  7. ^ 東海の銘柄畜産物>飛騨牛 東海農政局
  8. ^ 2008年6月21日、中日新聞
  9. ^ 「飛騨牛店、客足遠のく」2008年6月25日、中日新聞
  10. ^ 「丸明」前社長に有罪判決 飛騨牛偽装、岐阜地裁 47News、共同通信、2009年3月24日付、2015年2月16日確認。
  11. ^ 飛騨牛 肉質等級情報検索
  12. ^ 「飛騨牛」偽装で措置命令 営業禁止処分の精肉店”. 産経新聞社 (2016年2月3日). 2017年3月3日閲覧。

参考文献

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  • 小林浩二、高木俊明、滝村一彦、西村三紀郎 著「飛騨」、藤田佳久田林明 編『中部圏』朝倉書店日本の地誌 7〉、2007年4月25日、316-326頁。ISBN 978-4-254-16767-2 

関連項目

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外部リンク

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