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グラーツ市電

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
グラーツ市電
シンボルマーク
グラーツ市電の超低床電車・200形(2020年撮影)
グラーツ市電の超低床電車200形2020年撮影)
基本情報
オーストリアの旗 オーストリア
シュタイアーマルク州の旗 シュタイアーマルク州
所在地 グラーツ
種類 路面電車
路線網 7系統(2023年現在)[1]
開業 1878年馬車鉄道
1898年路面電車[2]
運営者 グラーツ交通会社ドイツ語版[3]
路線諸元
軌間 1,435 mm[2]
電化区間 全区間
電化方式 直流600 V
架空電車線方式[2]
路線図
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グラーツ市電(グラーツしでん、ドイツ語: Straßenbahn Graz)は、オーストリアの都市・グラーツに存在する路面電車。1870年代後半に開通した馬車鉄道をルーツに持つ歴史の長い路線で、2023年現在はグラーツ市の子会社として各種インフラ事業を行うホールディング・グラーツドイツ語版の交通部門であるグラーツ交通会社ドイツ語版(Graz Linien)によって運営されている[2][3]

歴史

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第一次世界大戦まで

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オーストリア第二の都市として知られるグラーツ市内に軌道交通を敷設する計画は1860年代から提案されるようになり、複数の企業やコンソーシアムが馬車鉄道の申請を実施したが、最終的に承認・建設されたのはグラーツ軌道(Grazer Tramway、GT)が申請した路線であった。1878年から建設が始まり、同年6月28日グラーツ中央駅とヤコミニ広場(Jakominiplatz)を結ぶ全長2.2 km、軌間1,435 mm(標準軌)の最初の路線が開通した[2][4]

それ以降馬車鉄道は延伸を重ね、1880年時点で全長6 kmの路線となり、使用される車両数は29両(1 - 5、10 - 33)を記録した[注釈 1]。その後、1885年に運営者が亡くなった事を機に路線を公営化する計画が持ち上がったがこの時点では実現せず、1887年にドイツの企業による合資会社「グラーツ軌道交通(Grazer Tramway-Gesellschaft、GTG)」に経営権が受け継がれた。その後も同社は馬車鉄道の路線網を拡大し続け、1895年時点の全長は約11 kmとなり、5つの系統が合計49両の車両で運行されるようになっていた[注釈 2][2][4][4]

一方、これとは別に実業家のアンドレア・フランツ(Andrea Franz)は1894年蒸気機関車スチームトラム)を用いた軌間1,000 mm(メーターゲージ)の路線建設の権利を獲得した。その後、動力が電気に変更された上で1897年から建設が始まり、翌1898年にグラーツとマリア・トロスト(Maria Trost)を結ぶ全長5.2 kmの路線(路面電車)が開通した。その後、運営権については同年にウィーンの銀行へ売却され、1900年に運営企業として株式会社の「グラーツ-マリア・トロスト電気軽便鉄道(Elektrische Kleinbahn Graz–Mariatrost)」が設立されている[注釈 3][2][5]

また、同時期にはグラーツ軌道交通も馬車鉄道の電化を進め、1899年6月から7月にかけてジーメンス・ウルト・ハルスケによる工事が行われ、全区間が架空電車線方式直流電化)で電化された。これに伴い、新型電車の導入や馬車鉄道用車両の改造が行われた。それ以降、同社は主に郊外へ向けて路線網を拡張させた他、1905年にはグラーツ-マリア・トロスト電気軽便鉄道を子会社化し、マリア・トロスト方面のメーターゲージの路線の運営権を獲得した。系統の識別をから番号に変更した1911年5月時点で、グラーツには8系統(1 - 8号線)の路面電車路線が存在したが、その後1917年に系統の統合が行われ、1927年に新規系統の番号として復活するまで「8号線」という名称は使用されなかった[2][4]

第一次世界大戦から第二次世界大戦まで

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第一次世界大戦中、グラーツ市内の路面電車は需要が急増し、輸送力増強を目的に新型車両(付随車)の導入が行われた。また、が徴用された事による輸送力不足を補うため、暖房などに用いる石炭の輸送も実施された[2][6][7][8]

終戦後は路線の延伸が引き続き行われ、1927年に実施された延伸によりグラーツ市内の路面電車の総延長は42.6 kmを記録した。これは2023年時点までグラーツ市電における最大規模の路線網である。それ以降は路線の複線化や経路変更などの改良工事が主体となった一方、並行して車両の増備も進められたが、製造費用削減のため付随車の運転台付きの電動車への改造も並行して実施された。その後、1938年オーストリアがナチス・ドイツに併合された事に伴い、車両や施設に対して右側通行への対応工事が施された[2][6][9]

一方、1939年にはそれまで子会社として存続していたグラーツ-マリア・トロスト電気軽便鉄道がグラーツ軌道交通に吸収され、翌1940年から1941年にかけてメーターゲージの路線は他の路線と同様の標準軌へと改軌された他、既存の標準軌区間と並行していた部分は廃止された。これに合わせて1号線のマリア・トロスト方面への延伸が行われている[2][6][5][10]

第二次世界大戦中は利用客の急増に対応するため、グラーツ市電ではドイツ各地の路面電車から車両を譲渡する事で輸送力を補った。だが、1943年からドイツが降伏する1945年にかけてグラーツには合計150日分以上にも及ぶ数の空襲警報が発令され、路面電車も幾度となく一時的な運行停止を余儀なくされ、空襲の被害も甚大であった。それでも赤軍の進軍が行われた1945年5月9日まで長期の運休は行われず、市民の足として電車の運行が維持され続けた[2][11]

第二次世界大戦後

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終戦後、グラーツ市内の路面電車網は戦災からの復興が行われ、1946年までに戦前の路線網が回復した。また、同時期には新型電車の導入により老朽化した旧型車両の置き換えが始まった。その一方、1941年にグラーツ軌道交通から社名を変更したグラーツ交通会社(Grazer Verkehrs-Gesellschaft、GVG)が結んでいた契約内容に基づき、1948年をもって路面電車はグラーツ市が運営する公営路線となった[2][12]

1950年代以降のグラーツ市内はモータリーゼーションの進展により道路の整備が進み、発展の妨げになると見做された路面電車は1951年から1971年まで断続的に一部区間の廃止が進められた他、第一次世界大戦中から長らく続いた貨物輸送も1960年に終了した。その一方で、残された路線網については使用車両の近代化が進められ、1963年からは連接車の営業運転も開始された。これに伴い戦前製の車両が置き換えられた他、戦後初期に導入が続いた2軸車についても1970年代後半から廃車が進められ、1993年までに営業運転を終了した[注釈 4]。また、1999年には既存の車両に新造した車体を挿入することでバリアフリーに適した超低床電車(部分超低床電車)の運用が始まり、完全な新造超低床電車についても2001年から順次投入され、それまでの高床式車両の置き換えが進められている[2][13]

これらの車両の更新と並行して、実に64年ぶりとなる新規区間が1990年に開通したのを皮切りに既存の系統の延伸が検討されるようになり、2006年2007年2016年2021年にも更なる新規区間の開通が行われている。特に2021年11月に実施された4号線・6号線の延伸区間は合計3.1 kmで8つの電停を含んでおり、1926年以来最大の路線網の拡大となっている。設備の更新も進んでおり、1995年から1996年にかけてヤコミニ広場(Jakominiplatz)電停を中心とした線路の配線の見直しやリニューアル工事が行われ、同電停は全方面からの電車の到着・出発が可能なターミナルとして整備されている。更に2012年には各鉄道路線と接続するグラーツ中央駅電停のオープントップ構造を用いた地下化が行われている[2][13][14][15]

系統

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2023年現在、グラーツ市電には以下の系統が存在する。前述の通り、最新の延伸は2021年11月に実施されたものである。初電は4時30分に出発し、終電は23時30分に終着駅に到着するが、12月24日は18時までの運行となる。ヤコミニ広場電停を含む市内中心部には運賃を徴収しないフリーゾーンがあり、この区間は無料で電車を利用する事が出来る[14][3][1]

系統番号 起点 終点 備考
1 Eggenberg/UKH Mariatrost
3 Andritz Krenngasse 平日・土曜日は19時30分まで運行
4 Reininghaus Liebenau/Murpark
5 Andritz Puntigam
6 Smart City/Peter-Tunner-Gasse/tim St. Peter
7 Wetzelsdorf LKH Med Uni/Klinikum Nord
23 Krenngasse Jakominiplatz 平日・土曜日は19時30分以降運行

車両

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2023年時点でグラーツ市電に在籍するのは以下の車両である。全車共に右側通行に適した片運転台式の連接車で、500形以外はバリアフリーに適した低床構造を有している。一方、それ以前に営業運転に使用されていた車両の中にはグラーツ路面電車博物館協会ドイツ語版(Tramway Museum Graz、TMG)によって保存されているものが存在し、一部は動態保存運転も行われている[2][13][16][17]

  • 500形(501 - 510) - 長期に渡って使用された2軸車の置き換えを目的として1978年に製造された車両。ドイツの鉄道車両メーカーであったデュワグが開発・展開したマンハイム形をオーストリアの企業がライセンス生産した3車体連接車で、1987年までは車両番号が異なっていた(1 - 9、850→10)。
  • 600形(601 - 612) - デュワグが開発・生産したM形電車を基に、1987年から1988年まで生産された車両。これらの車両の導入によりグラーツ市電の2軸車は営業運転を終了した。製造当初は2車体連接車であったが、1999年に中間へ新造した低床車体を追加する工事を受け、以降は3車体連接車として運用されている[注釈 5]
  • 650形(651 - 668) - 2000年から2001年にかけて導入された5車体連接車。ボンバルディアが生産したグラーツ市電初の100 %超低床電車で、「シティランナー(Cityrunner)」というブランド名を有する。
  • 200形(201 - 245) - 初期の連接車の置き換えを目的に発注が行われた100 %超低床電車。シュタッドラー・レールドイツベルリンパンコウ区)の工場で生産する「バリオバーン(Variobahn)」と呼ばれる5車体連接車で、2009年から2015年にかけて導入され、2010年から営業運転に投入されている[18]

今後の予定

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路線の延伸・複線化

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グラーツ市電では2021年以降も路線網の拡大が検討されている。そのうち2017年にグラーツ市議会によって承認を得たノイトールガッセ地区(Neutorgasse)を経由する区間は、既存の区間の混雑緩和や工事などによる閉鎖時のバイパス路線の確保を目的としており、2025年までに橋梁の強化、歩道の整備といった関連事業を含めた建設工事を完了し、同年11月から新規系統の開設と共に営業運転を開始する予定となっている。また、5号線の一部区間に存在した単線区間を複線化し、緑化軌道やバリアフリーに対応した施設の導入を行う工事が2022年から2024年まで行われている[注釈 6][19][20][21][22]

新型車両の導入

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2021年、グラーツ交通会社は今後の路線延伸による輸送量の増強を目的に新型電車を導入する事を発表し、2023年5月に唯一の入札参加者であったアルストムが展開するフレキシティ・ウィーンを導入することを決定した[注釈 7]2024年に15両が導入される事が計画されている他、40両のオプション分も契約に含まれており、これを用いて200形(バリオバーン)を除いた既存の車両を置き換える旨の検討が進められている[23][24][25]

関連項目

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土佐電気鉄道(現:とさでん交通)に譲渡されたグラーツ市電の200形電車(1999年撮影)

脚注

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注釈

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  1. ^ 馬車鉄道の車両のうち、5両(1 - 5)は夏季に使用される窓がないオープン車両、24両(10 - 33)は窓が存在する車両であった。
  2. ^ グラーツ軌道交通で使用される客車は緑色を基調とした塗装が用いられていた。
  3. ^ グラーツ-マリア・トロスト電気軽便鉄道の電車はグラーツ軌道交通の車両とは異なり赤色で塗られていた。
  4. ^ グラーツ市電はオーストリアの路面電車で2軸車が営業運転に使用される最後の路線であった。
  5. ^ 3車体連接車への改造の際は廃車された旧型電車の台車が流用された。
  6. ^ この複線化工事に関連し、5号線は2023年7月から2024年11月まで一部区間が運休し、代行バスが運行する事になっている。
  7. ^ フレキシティ・ウィーンについては、新型車両導入に向けたデモンストレーションとして2019年ウィーン市電に導入された車両がグラーツ市電を走行した経歴を持つ。

出典

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  1. ^ a b Unsere Linien”. Holding Graz. 2023年2月23日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Wolfgang Kaiser (2016-5-18). Straßenbahn in Österreich: Alle aktuellen und ehemaligen Betriebe Kindle Ausgabe. GeraMond Verlag. ISBN 978-3956130168. https://books.google.co.jp/books?id=iSrEDwAAQBAJ 2023年2月23日閲覧。 
  3. ^ a b c Unternehmen”. Holding Graz. 2023年2月23日閲覧。
  4. ^ a b c d Pferdetramway Die Anfänge der Grazer Straßenbahn”. Tramway Museum Graz. 2023年2月23日閲覧。
  5. ^ a b Die Mariatrosterbahn „Sommerfrische auf Schienen“”. Tramway Museum Graz. 2023年2月23日閲覧。
  6. ^ a b c Die Elektische Von den Anfängen bis nach dem 2. Weltkrieg”. Tramway Museum Graz. 2023年2月23日閲覧。
  7. ^ Hans Sternhart 1979, p. 25-27.
  8. ^ Wolfgang Kaiser 2003, p. 108-110.
  9. ^ Hans Sternhart 1979, p. 28-31.
  10. ^ Peter Wegenstein 1994, p. 6.
  11. ^ Wolfgang Kaiser 2003, p. 111,112.
  12. ^ Wolfgang Kaiser 2003, p. 113,114.
  13. ^ a b c Die Elektrische Ein Rückblick auf die letzten 50 Jahre”. Tramway Museum Graz. 2023年2月23日閲覧。
  14. ^ a b Graz: Two new tram sections inaugurated!”. Urban Transport Magazine (2021年12月3日). 2023年2月23日閲覧。
  15. ^ Umbau Graz Hauptbahnhof: Eröffnung der unterirdischen Straßenbahnhaltestelle”. Steirische Verkehrsverbund GmbH (2012年11月20日). 2012年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月23日閲覧。
  16. ^ Fahrzeuge Die Oldtimerflotte des TMG”. Tramway Museum Graz. 2023年2月23日閲覧。
  17. ^ Holding Graz (2023年1月). BUS UND BIM FÜR ALLE (PDF) (Report). p. 171. 2023年2月23日閲覧
  18. ^ Niederflurstrassenbahn Variobahn Holding Graz Linien, Österreich”. Stadler Rail. 2023年2月23日閲覧。
  19. ^ Straßenbahn - Innenstadtentlastung Neutorgasse”. Graz. 2023年2月23日閲覧。
  20. ^ Eine Wei­chen­stel­lung für un­se­re In­nen­stadt”. Holding Graz. 2023年2月23日閲覧。
  21. ^ Zwei­glei­si­ger Aus­bau der Linie 5”. Holding Graz. 2023年2月23日閲覧。
  22. ^ In Graz werden neue Straßenbahn-Linien gebaut”. Kleine Zeitung (2023年1月23日). 2023年2月23日閲覧。
  23. ^ Neue Straßenbahnen: Bald Ausschreibung”. Holding Graz (2021年1月22日). 2023年2月23日閲覧。
  24. ^ Frederik Buchleitner (2020年8月24日). “Avenio 2501 in Graz: Transport nach Österreich”. Tramreport. 2023年2月23日閲覧。
  25. ^ GRAZ ORDERS ALSTOM TRAMS”. MainSpring (2023年5月22日). 2023年5月23日閲覧。
  26. ^ 外国電車・維新号紹介”. とさでん交通. 2023年2月23日閲覧。
  27. ^ 寺田祐一『ローカル私鉄車輌20年 路面電車・中私鉄編』JTB、2003年4月1日、88頁。ISBN 978-4-86403-196-7 

参考資料

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  • Hans Sternhart (1979). Straßenbahn in Graz. Wien: Verlag Slezak. ISBN 3-900134-54-5 
  • Peter Wegenstein (1994). Die Straßenbahn von Graz. Bahn im Bild 94. Pospischil 
  • Wolfgang Kaiser (2003). Straßenbahnen in Österreich. München: GeraMond-Verlag. ISBN 3-7654-7198-4 

外部リンク

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