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ゲルマニクスの死

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
『ゲルマニクスの死』
フランス語: La Mort de Germanicus
英語: The Death of Germanicus
作者ニコラ・プッサン
製作年1627年
種類キャンバス、油彩
寸法147.96 cm × 198.12 cm (58.25 in × 78.00 in)
所蔵ミネアポリス美術館、ミネアポリス

『ゲルマニクスの死』（ゲルマニクスのし、仏: La Mort de Germanicus、英: The Death of Germanicus）は、17世紀フランスの巨匠ニコラ・プッサンが1627年にキャンバス上に油彩で制作した歴史画で、描かれているのは古代ローマの将軍ゲルマニクスの死 (紀元後19年10月10日[1]) の場面である。アメリカ合衆国のミネソタ州にあるミネアポリス美術館に所蔵されている[1][2][3]。

来歴

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本作は、ローマの名門貴族バルベリーニ家（英語版）の出身であったローマ教皇ウルバヌス8世の甥フランチェスコ・バリベリーニ枢機卿（英語版）によってプッサンに委嘱された[1][2][3]。芸術の庇護者としてバリベリーニ家は当時の芸術の発展を助けていた。本作は1958年までバルベリーニ家の末裔のもとにあったが、その年にミネアポリス美術館に購入された[2]。

作品

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現存しない『エルサレムの攻略』の第1作 (1625-1626年) を除けば、本作は、バルベリーニ家のような大家からの注文を受けて描かれた最初の傑出した歴史画である[3]。作品の主題であるゲルマニクスの死は、タキトゥスが117年に著した『年代記（英語版）』(第2章71-72) から採られている[1][3]。プッサンはラテン語はできなかったが、イタリア語版を参照したと思われる[1]。本作は、おそらくこの主題を扱った最初の絵画である。

ゲルマニクスの胸像 (10年ごろ)

第4代ローマ皇帝クラウディウスの兄であったゲルマニクスは第2代皇帝ティベリウスに奉仕して、熱烈な祖国愛によりゲルマン人との闘いに従事し、祖国を防衛した。ゲルマニクスの名はそれに由来する。その後、シリアに送られたが、シリア総督ピソと敵対し、アンティオキアで死んだ。ゲルマニクスは、死ぬ前にティべリウス帝の命でピソが自分を毒殺したと糾弾し、妻のアグリッピナと家族に自分のために復讐するよう誓わせた。ローマ人の間で、この悲劇は大変反響を呼んだ[4]。

プッサン『エウダミダスの遺書』(1644-1648年)、コペンハーゲン国立美術館
プッサン『フォキオンの遺灰のある風景』(1648年)、ウォーカー・アート・ギャラリー

この崇高な人物の物語はストア派のイデオロギーにとって大切な主題の1つであり、本作は、後の1640年代にプッサンが制作した『エウダミダスの遺書』 (コペンハーゲン国立美術館) や『フォキオンの葬送』 (カーディフ国立博物館)、『フォキオンの遺灰のある風景』(ウォーカー・アート・ギャラリー) などに見られる倫理的、ストア派的性格の絵画の先駆をなしている[3]。本作の場面の多くを占めているのは、ゲルマニクスに忠誠心を持ち、彼を愛する将校や兵士たちで、彼らは仇を討つことを誓っている。後のフォキオンの絵画と同様に、画家は、死につつある人物の救済とその大きな価値、意味を友人らの忠実さや愛を示すことで記しづけようと望んでいるのである[3]。プッサン初の主要な歴史画である本作には、数多くのテーマ―死、苦痛、不正、悲嘆、忠誠、復讐―が表現されており、以降2世紀の間に制作された無数の「臨終」の絵画の原型となった[2]。

プッサンは歴史の主題だけでなく、人物の形体においてもローマ美術に倣っている。人物たちが前景に集めれている構図は、石棺 (『メレアグロスの石棺』[3]、カピトリーノ美術館、ローマ) のレリーフに基づいている[2]。重々しい襞のある深い青色の垂れ幕は、人物たちを際立たされるためだけでなく、レリーフ的構図を強調する。とはいえ、このレリーフ的構図は、斜めの角度に置かれている寝台や、初期バロック絵画に見られる、光の当たる背景に続くアーチなどによってやわらげられている[3]。

プッサンが古代ギリシアの画家ティマンテスの故事に倣っていることも指摘されている[1]。ティマンテスは『イフィゲニアの犠牲』を描くに際し、何人かの登場人物の悲嘆の表情をだんだん高めていったが、最も悲痛である父アガメムノンの姿にはそのあまりの悲しみの仕草が彼の品位を落とすのを恐れ、衣で首をすっぽり覆って描いたといわれている。プッサンの絵画で、画面右下隅に座り、悲しみにくれているゲルマニクスの妻アグリッピナも、右手で顔を覆っている姿で描かれている[1]。

脚注

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  1. ^ a b c d e f g 辻ほか 1984, p. 82.
  2. ^ a b c d e “The Death of Germanicus, Nicolas Poussin” (英語). Minneapolis Institute of Art. 2022年12月2日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h フリードレンダー 1970, p. 96.
  4. ^ Pierre Rosenberg and Nathalie Butor, La Mort de Germanicus de Poussin du Musée de Minneapolis, Éditions des musées nationaux, coll. « Dossier du département des peintures » (no 7), 1973, 72 p.

参考文献

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  • 辻邦生、高階秀爾、木村三郎『プッサン』中央公論社〈カンヴァス世界の大画家 14〉、1984年2月。ISBN 4-12-401904-1。 
  • W.フリードレンダー『プッサン』若桑みどり 訳、美術出版社〈世界の巨匠シリーズ〉、1970年。ISBN 4-568-16023-5。 

外部リンク

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宗教画

『川にすてられるモーセ』(1624年頃)  · 『聖チェチリア』(1625年頃)  · 『キリストの哀悼』(1628年)  · 『聖エラスムスの殉教』(1628-1629年)  · 『聖カタリナの神秘の結婚』(1628-1629年頃)  · 『聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ』(1628-1629年頃)  · 『聖ヤコブによる聖母マリアの幻視』(1629-1630年)  · 『幼児虐殺』(1625-1632年)  · 『アシドドのペスト』(1628-1630年)  · 『聖母被昇天』(1630-1632年頃)  · 『ダヴィデの勝利 』(1630年頃)  · 『紅海の横断』(1633-1634年)  · 『黄金の子牛の礼拝』(1633-1634年)  · 『人々に洗礼を授ける聖ヨハネ』(1635-1637年頃)  · 『マナの収集』(1638-1639年)  · 『日本の鹿児島で娘を蘇らす聖フランシスコ・ザビエル』(1641年)  · 『終油の秘蹟』(1644年)  · 『川から救われるモーセ』(1647年)  · 『聖餐の秘蹟』(1647年)  · 『エリエゼルとリベカ』(1648年)  · 『階段の聖家族』(1648年)  · 『ソロモンの審判』(1649年)  · 『岩を打つモーセ』(1649年)  · 『聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖エリサベト』(1650年)  · 『風景の中の聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖エリサベト』(1650-1651年頃)  · 『聖家族』(1651年頃)  · 『足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ』(1655年)  · 『羊飼いの礼拝』(1650-1657年頃) · 『エジプトの聖家族』(1657年)  · 『受胎告知』(1657年)

神話画・歴史画

『ミダース王とバッカス』(1624年頃)  · 『イスラエル人とアモリ人の戦い』(1625年頃)  · 『バッカスの光景』(1626年頃)  · 『フローラの勝利』(1627年頃)  · 『パクトロス河で身体を洗うミダース王』(1627年頃)  · 『我アルカディアにもあり (チャッツワース)』(1627年)  · 『ゲルマニクスの死』(1627年)  · 『エコーとナルキッソス 』(1629年頃)  · 『リナルドとアルミーダ 』(1628-1630年頃)  · 『詩人の霊感』(1629-1630年頃)  · 『マルスとヴィーナス 』(1630年頃)  · 『セレネとエンデュミオン 』(1630年頃)  · 『フローラの王国』(1631年)  · 『タンクレーディとエルミニア』(1631年)  · 『ケパロスとアウローラ』(1631年頃)  · 『パルナッソス』(1631-1633年)  · 『境界標の前のバッカナーレ』(1632-1633年頃)  · 『サビニの女たちの掠奪』(1633-1634年)  · 『幼いピュロスの救出』(1634年)  · 『ティトゥス帝によるエルサレムの神殿の破壊』(1635年)  · 『人生の踊り』(1634-1636年頃)  · 『ヴィーナスの誕生』(1635-1636年)  · 『パンの勝利』(1636年)  · 『パンとシュリンクス』(1637年)  · 『生徒たちにファレリ人の教師を引き渡すカミルス』(1637年)  · 『我アルカディアにもあり (ルーヴル美術館)』(1637-1638年頃)  · 『嫉妬と不和の攻撃から真理を救う時』(1641年)  · 『エウダミダスの遺書』(1644-1648年)  · 『アキレウスとリュコメデスの娘たち』(1649-1650年)  · 『バッカスの誕生』(1657年)  · 『アポロンとダフネ』(1661-1664年)

風景画

『小川から水をすくう男のいる風景』(1637年頃)  · 『隠者聖パウルスのいる風景』(1637-1638年)  · 『聖マタイと天使のいる風景』(1639-1640年)  · 『パトモス島の聖ヨハネのいる風景』(1640年)  · 『フォキオンの葬送』(1648年)  · 『フォキオンの遺灰のある風景』(1648年)  · 『ヘビに殺された男のいる風景』(1648年頃)  · 『ポリュペーモスのいる風景』(1649年)  · 『オルフェウスとエウリュディケーのいる風景』(1650年頃)  · 『三人の人物のいる風景』(1648-1651年頃)  · 『ディオゲネスのいる風景』(1654-1658年)  · 『日の出を探す盲目のオリオン』(1658年)  · 『夏』(1660-1664年)  · 『冬』(1660-1664年)

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