サルナスの滅亡
『サルナスの滅亡』(サルナスのめつぼう、The Doom that Came to Sarnath)は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説。ラヴクラフト神話、クトゥルフ神話、ドリームランドのシリーズの一編。
概要
[編集]1919年に執筆され、1920年6月の同人誌『ザ・スコット』44号に発表された。後に『マーヴァル・テイルズ・オブ・サイエンス・アンド・ファンタシイ』1935年3・4月号に掲載され、作者没後に『ウィアード・テールズ』1938年6月号に再録された[1]。
作者は、夢に見た情景を小説として執筆したものであると、友人ギャラモ宛の1919年12月11日付書簡にて述べている[2]。同様に執筆された作品は他にも存在する。
翻訳者の大瀧啓裕は、ダンセイニ卿からの影響が大きいことを指摘しつつ、かつ濃厚なホラーである点が際立って異なると解説する[1]。
作品内容
[編集]ムナール地方という、非現実風の土地を舞台としている。後年発表の作品にて、ドリームランドを舞台としているということが判明する。
あらすじ
[編集]ムナールの地では、両生類めいた種族が灰色の石造都市イブを築き、水蜥蜴神ボクラグを崇拝していた。やがて人間たちがムナールに移り住んで幾つかの町を作り、湖畔にはサルナスの都市が建造される。サルナスの民は、イブの種族を忌まわしく思い、軍を出兵させ、彼らを滅ぼす。ボクラグの神像は戦利品に持ち帰られたが、大神官が怪死を遂げ、神像は行方不明となる。
サルナスは大いに栄え、幾多の年月が経過する。サルナスでは毎年イブの滅亡を祝う祭りが開かれた。そして千年目の大祝祭の夜、事が起こる。ボクラグの呪いがサルナスに降りかかり、サルナス5000万の民は全員が奇怪な水蜥蜴のごとき姿に変貌する。祭りに訪れていた都市外の者たちは、おぞましい恐怖を目撃し語り継いだ。完全に廃都と化したサルナスは水没し、跡地には水蜥蜴が這い回るのみとなる。ボクラグの神像が再発見され、怒りを恐れた人々は神像を祀る。
用語
[編集]- ゾ=カラル、タマシュ、ロボン - サルナス三神。名前のみで詳細不明[注 1]。
- イブの生物(スーム=ハー[注 2]) - 緑色の醜悪な両生類種族。体は柔らかく、人間の軍によって容易に駆逐された。
- ボクラグ - イブの生物たちが崇拝していた神。水棲の大蜥蜴の姿をしている。
収録
[編集]関連作品
[編集]- 大いなる帰還 - ブライアン・ラムレイ作品。ムナールが、ドリームランドではなく目覚めの世界の中東地域に存在する。
- Beneath the Moors - 同上。『大いなる帰還』を長編化したもの。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ リン・カーターは『クトゥルー神話の神神』でこの三神を地球本来の神々にカウントした。
- ^ ブライアン・ラムレイが『Beneath the Moors』にて命名した。クトゥルフ神話TRPG資料などには、この固有種名で記載されている。