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ブラキプテリギウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブラキプテリギウス
生息年代: 後期ジュラ紀キンメリッジアン期からチトニアン期
Kimmeridgian–Tithonian
復元図
地質時代
後期ジュラ紀キンメリッジアン - チトニアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : ?広弓亜綱 Euryapsida
?双弓亜綱 Diapsida
: 魚竜目 Ichthyosauria
: オフタルモサウルス科
Ophthalmosauridae
亜科 : プラティプテリギウス亜科
Platypterygiinae
: ブラキプテリギウス
Brachypterygius
  • B. extremus (Boulenger, 1904) von Huene, 1922 (模式種)

ブラキプテリギウス学名:Brachypterygius)は、イングランド後期ジュラ紀の地層から知られる、絶滅したオフタルモサウルス科プラティプテリギウス亜科の魚竜である[1]。模式種のみから成立する属である。

形態

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ブラキプテリギウスは中型から大型の魚竜であり、頭骨の長さは0.5 - 1.2メートルである[2][3]吻部は魚竜の特徴通りに細長く、歯は大きく丈夫であり、目はオフタルモサウルスよりも比較的小さかった[3]。前ビレには5本または6本の指があり、指節骨は最大で8個から16個存在した[4][3]。上腕骨の遠位端に存在する3つの平面が特徴であり、中央の面は最も小さく、手根骨との間に明瞭な関節が存在した。これにより、ジュラ紀後期において最も一般的な魚竜であるオフタルモサウルスとの明確な差別化がなされている[4]

分類

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ブラキプテリギウスの模式標本は右側の前ビレ1つであり、オフタルモサウルスなど他のジュラ紀後期の魚竜とは一線を画している[4]

もともと1904年に Boulenger がイクチオサウルス・エクストレムスとして記載し命名していた[4]が、1922年に Huene が前ビレの広さと短さに注目しブラキプテリギウス属を独立させたため、ブラキプテリギウス・エクストレムスとなった[5]。模式標本はイングランドのバースに位置するリアス層群に由来すると考えられていたが、他の標本によるとジュラ紀後期キンメリッジアン期にあたるイギリスドーセットのキンメリッジ湾に由来している可能性が高い。

イギリスノーフォークストーブリッジのキンメリッジから巨大な頭骨が発され、Macgown によって新属新種のグレンデリウス・モルダックスと命名された[2]。後にキンメリッジ湾から発見されたより完全な化石により、2つの標本は統一され同属であることが判明した[3]2003年に McGowan と藻谷亮介は2つの標本における前ビレの差異に十分な分類学的な価値がないことを考慮し、グレンデリウス・モルダックスはブラキプテリギウス・エクストレムスに統合されることとなった[1]。ただし、Maisch は2010年の論文で B. mordax を、ブラキプテリギウスのシノニムとされていた Otschevia 属(グレンデリウスに再分類された属)とブラキプテリギウス・モルダックスともに有効な分類群として扱っている[6]。また、2015年にはグレンデリウスを有効な属として扱い、ブラキプテリギウスよりもプラティプテリギウスに近縁とする論文を Arkhangelsky と Stenshin が執筆している[7]

ブラキプテリギウスはプラティプテリギウスカイプリサウルスとごく近縁である[8]

下のクラドグラムは Fischer らの2013年の論文に基づく[9]

トゥンノサウルス類 

イクチオサウルス

ステノプテリギウス

チャカイコサウルス

 オフタルモサウルス科 

アースロプテリギウス

*
 オフタルモサウルス亜科 

レニニア

モレサウルス

オフタルモサウルス

バプタノドン ("O." natans)

アカンプトネクテス

 プラティプテリギウス亜科 

ブラキプテリギウス

マイアスポンディルス

アエギロサウルス

スヴェルトネクテス

プラティプテリギウス・ヘルキニクス

カイプリサウルス

アサバスカサウルス

プラティプテリギウス・アウストラリス(=Longirostria[10])

本属へのかつての言及

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リチャード・オーウェン1840年の論文において、キンメリッジから出土した単一の脊椎骨 ANSP 10124 に基づいてイクチオサウルス・トリゴヌスを設置した[11]。模式標本は長期にわたって失われていたと考えられていたが、1988年に再発見された[12]。数多くの標本がイクチオサウルス・トリゴヌスと同定されており、現在におけるオフタルモサウルスやブラキプテリギウスおよびナノプテリギウスは同種のシノニムとするべきであるとバウアーは1898年の論文で提唱している[13]。Huene は1922年の論文においてイクチオサウルス・トリゴヌスをマクロプテリギウス属とし[14]、翌年にはその属の模式種とした[15]。現在ではイクチオサウルス・トリゴヌスは(そしてゆえにマクロプテリギウスも)模式標本がオフタルモサウルスと判別できないため疑問名とされている[16]。なお、イクチサウルス・トリゴヌスは Ophthalmosaurus icenicus とシノニムである可能性があるとして McGowan と Motani は間違った主張をしている[1]

リチャード・リデッカーは上腕骨 NHMUK 43989 に基づいてイギリスのケンブリッジ白亜紀前期アルビアン期にあたるケンブリッジ・グリーンサンドから Ophthalmosaurus cantabridgiensis を記載した[17]。 McGowanb と藻谷亮介は2003年の論文においてこれをブラキプテリギウス属の1種として考えていた[1]が、オフタルモサウルス亜科を超えた段階での疑問名として再評価された[18]

出典

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  1. ^ a b c d McGowan, C. & Motani, R. Ichthyopterygia. In Sues, H.-D. (ed.) Handbook of Paleoherpetology, vol. 8. Verlag Dr. Friedrich Pfeil, Munich, 175 pp., 19 pls.
  2. ^ a b McGowan, C. 1976. The description and phenetic relationships of a new ichthyosaur genus from the Upper Jurassic of England. Canadian Journal of Earth Sciences, 13, 668–683. doi:10.1139/e76-070
  3. ^ a b c d McGowan, C. 1997. The taxonomic status of Grendelius mordax: a preliminary report. Journal of Vertebrate Paleontology, 17, 428–430. doi:10.1080/02724634.1997.10010986
  4. ^ a b c d Boulenger, G. A. 1904. Exhibition of, and remarks upon, a paddle of a new species of ichthyosaur. Proceedings of the Zoological Society of London, 1904, 424–426.
  5. ^ Huene, F. F. von 1922. Die Ichthyosaurier des Lias und ihre Zusammenhänge. Verlag von Gebrüder Borntraeger, Berlin, 114 pp., 22 pls.
  6. ^ Michael W. Maisch (2010). “Phylogeny, systematics, and origin of the Ichthyosauria – the state of the art”. Palaeodiversity 3: 151–214. http://www.palaeodiversity.org/pdf/03/Palaeodiversity_Bd3_Maisch.pdf. 
  7. ^ N. G. Zverkov, M. S. Arkhangelsky and I. M. Stenshin (2015) A review of Russian Upper Jurassic ichthyosaurs with an intermedium/humeral contact. Reassessing Grendelius McGowan, 1976. Proceedings of the Zoological Institute 318(4): 558-588
  8. ^ Fernández M. 2007. Redescription and phylogenetic position of Caypullisaurus (Ichthyosauria: Ophthalmosauridae). Journal of Paleontology 81 (2): 368-375.
  9. ^ Fischer, V.; Arkhangelsky, M. S.; Uspensky, G. N.; Stenshin, I. M.; Godefroit, P. (2013). “A new Lower Cretaceous ichthyosaur from Russia reveals skull shape conservatism within Ophthalmosaurinae”. Geological Magazine 151: 1. doi:10.1017/S0016756812000994. 
  10. ^ Arkhangel’sky, M. S., 1998, On the Ichthyosaurian Genus Platypterygius: Palaeontological Journal, v. 32, n. 6, p. 611-615.
  11. ^ Owen, R. 1840. Report on British Fossil Reptiles. Part I. Report of the British Association for the Advancement of Science, 9, 43–126.
  12. ^ Spamer, E.E., Bogan, A.E. & Torrens, H.S. 1989. Recovery of the Etheldred Benett collection offossils mostly from Jurassic-Cretaceous strata of Wiltshire, England, analysis of the taxonomic nomenclature of Benett (1831), and notes and figures of type specimens contained in the collection. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia, 141:115-180.
  13. ^ Bauer, F. 1898. Die Ichthyosaurier des oberen weissen Jura. Palaeontographica, 44, 283–328.
  14. ^ Huene, F. von. 1922. Die Ichthyosaurier des Lias und ihre Zusammenhange. Monographien zur Geologic and Palaeontologie, 1: 1-114.
  15. ^ Huene, F. von. 1923. Lines of phyletic and biological development of the Ichthyopterygia. Bulletin of the Geological Society of America, 34: 463-468.
  16. ^ Bardet N, Fernández M. 2000. A new ichthyosaur from the Upper Jurassic lithographic limestones of Bavaria.Journal of Paleontology 74 (3): 503-511.
  17. ^ Lydekker, R. 1888. Note on the classification of the Ichthyopterygia (with a notice of two new species). Geological Magazine, 5, 309–313. doi:10.1017/S0016756800181968
  18. ^ Fischer, V.; Bardet, N.; Guiomar, M.; Godefroit, P. (2014). "High Diversity in Cretaceous Ichthyosaurs from Europe Prior to Their Extinction". In Farke, Andrew A. PLoS ONE 9: e84709. doi:10.1371/journal.pone.0084709. edit