コンテンツにスキップ

利用者:位相空間を中和/sandbox/3

レヴィ-チヴィタ接続(レヴィ-チヴィタせつぞく、: Levi-Civita connection)とは、リーマン多様体M上に共変微分という概念を定める微分演算子で、Mがユークリッド空間の部分多様体の場合は、における(通常の意味の)微分をMに射影したものが共変微分に一致する。

レヴィ-チヴィタ接続は擬リーマン多様体においても定義でき一般相対性理論に応用を持つ。


レヴィ-チヴィタ「接続」という名称はより一般的なファイバーバンドル接続概念の特殊な場合になっている事により、接続概念から定義される「平行移動」(後述)を用いる事で、M上の相異なる2点を「接続」してこれら2点における接ベクトルを比較可能になる。

レヴィ-チヴィタ接続において定義される概念の多くは一般のファイバーバンドルの接続に対しても定義できる。

レヴィ-チヴィタ接続の名称はイタリア出身の数学者トゥーリオ・レヴィ=チヴィタによる。

モチベーション[編集]

Mの部分多様体とし、M上の曲線とし、さらに上定義されたMのベクトル場とし(すなわち各時刻tに対し、を満たすとし)、

と定義する。ここでPrMの点c(t)における内の接平面(と自然に同一視可能なTc(t)M)への射影である。またXYM上のベクトル場とするとき、

と定義する。ここでは時刻0に点を通るX積分曲線である。実はこれらの量はMの内在的な量である事、すなわちからMに誘導されるリーマン計量(とその偏微分)のみから計算できる事が知られている。具体的には以下の通りである:

定理 ― Mに局所座標を取るとき、以下が成立する(アインシュタインの縮約で表記):

...(1)
   where ...(2)

ここでであり、の逆行列である。すなわちクロネッカーのデルタとするとき、である。


同様にとすると、以下が成立する:

定理 ―  

...(3)

定義と特徴づけ[編集]

前節で述べたようにXYMに内在的な量なので、一般のリーマン多様体に対しても、(1)、(2)、(3)式をもってこれらの量を定義できる:

定義 (レヴィ-チヴィタ接続) ― リーマン多様体とする。Mのベクトル場XYに対し、(2)、(3)式のように定義されたを対応させる演算子レヴィ-チヴィタ接続: Levi-Civita connection)、リーマン接続: Riemannian connection)もしくはリーマン・レヴィ-チヴィタ接続: Riemann Levi-Civita connection)と呼び[1][2][3][注 1]といい、XYYX方向の共変微分: covariant derivative)という。

さらにM上の曲線、をを上定義されたMのベクトル場とするとき、(1)式のように定義されたを曲線に沿ったY共変微分: covariant derivative)という。

レヴィ-チヴィタ接続の定義は(1)、(2)、(3)式に登場する局所座標に依存しているが、局所座標によらずwell-definedである事を証明できる。


レヴィ-チヴィタ接続を局所座標で表したとき、(2)式で定義されるを局所座標に関するクリストッフェル記号という。

リーマン幾何学の基本定理[編集]

レヴィ-チヴィタ接続は以下の性質により特徴づけられる:

定理 (リーマン幾何学の基本定理) ― レヴィ-チヴィタ接続は以下の5つの性質を満たす。またM上のベクトル場の組にM上のベクトル場を対応させる汎関数で以下の5つの性質をすべて満たすものはレヴィ-チヴィタ接続に限られる[4][5]

  1. (関数に関する左線形性)
  2. (実数に関する右線形性) 
  3.  (ライプニッツ則)
  4. (捻れなし)
  5. (計量との両立)

ここでXYZM上の任意の可微分なベクトル場であり、fgM上定義された任意の実数値C級関数であり、abは任意の実数であり、は点においてとなるベクトル場であり、fX方向微分であり、リー括弧英語版である。すなわち、


条件1のように、任意のC級関数に対して線形性が成り立つことを-線形であるという[6]。一般に-線形な汎関数は、一点の値のみでその値が決まる事が知られている[7]。例えばレヴィ-チヴィタ接続の場合、点におけるの値はXPのみに依存しP以外の点QにおけるXの値XQには依存しない。


なお、5番目の条件は後述するテンソル積の共変微分を用いると、

とも書ける。

Koszulの公式[編集]

上述した特徴づけを使うと、レヴィ-チヴィタ接続の成分によらない具体的な表記を得る事ができる。

定理 (Koszulの公式) ―  XYZをリーマン多様体M上の任意の可微分なベクトル場とするとき、以下が成立する[8]

Koszulの公式: Koszul formula[9]):

略記法[編集]

文章の前後関係から局所座標が分かるときはベクトル場の事を単に

と略記する。さらにの事をと略記し、の事を

等と略記する。なお関数fの偏微分と「,」をつけて略記する。したがって

が成立する。

平行移動[編集]

球面上の平行移動。大円で囲まれた三角形上でベクトルを一周平行移動すると、もとに戻ってきたときに元のベクトルには戻らない。

定義[編集]

リーマン多様体上の曲線上定義されたM上のベクトル場

を恒等的に満たすとき、平行であるという[10]。また、上の接ベクトル上の接ベクトルに対し、を満たす上の平行なベクトル場が存在するとき、に沿って平行移動: parallel transportation along )した接ベクトルであるという[10]

ユークリッド空間の平行移動と異なる点として、どの経路に沿って平行移動したかによって結果が異なる事があげられる。この現象をホロノミー英語版: holonomy)という[11]

右図はホロノミーの具体例であり、接ベクトルを大円で囲まれた三角形に沿って一周したものを図示しているが、一周すると元のベクトルと90度ずれてしまっている事が分かる。

性質[編集]

に沿ってまで平行移動したベクトルをとするとは線形変換であり、しかも計量を保つ。すなわち以下が成立する:

定理 (平行移動は計量を保つ) ― 


実は平行移動の概念によってレヴィ-チヴィタ接続を特徴づける事ができる:

定理 (共変微分の平行移動による特徴づけ) ― 多様体M上の曲線上のベクトル場に対し、に沿った平行移動をとすると、以下が成立する[12]

ホロノミー群[編集]

とくに点からu自身までのM上の閉曲線に沿って一周する場合、接ベクトルを平行移動した元をと書くことにすると、

PからP自身までの区分的になめらかな閉曲線

は(合成関数で積を定義するとき)上の回転群の(とは限らない)部分リー群になる[13]をレヴィ-チヴィタ接続に関するホロノミー群英語版: holonomy groupという。M弧状連結であればは点Pによらず同型である。

接続形式[編集]

を接バンドルの局所的な基底とし、XYM上のベクトル場とし、とすると、レヴィ-チヴィタ接続の定義から

である。この式は、共変微分ライプニッツ則を適用して成分部分の微分と基底部分の微分の和として表現したものと解釈できる。


そこで以下のような定義をする:

定義 (接続形式) ―  Xに行列を対応させる行列値の1-形式

により定義できる。を局所的な基底に関するレヴィ-チヴィタ接続の接続形式: connection form)という。またω接続行列: connection matrix[14]とも呼ぶが、紛れがなければωの事も接続形式と呼ぶ[15]

定義から明らかに

が成立する。さらに以下が成立する:

定理 ― TMの局所的な正規直交基底とすると、に関する接続形式交代行列である。すなわち、

実際、に沿った平行移動をとするとき、平行移動は計量を保つ変換、すなわち、回転変換であったので、基底の微分である接続形式は、共変微分の平行移動による特徴づけより、

となり、回転変換の微分として書ける。よってよって接続形式は回転群リー代数の元、すなわち交代行列である。

測地線[編集]

定義[編集]

リーマン多様体上の曲線測地線方程式

を恒等的に満たすものを測地線という[16]。2階微分は物理的には加速度であるので、測地線とは加速度が恒等的に0である曲線、すなわちユークリッド空間における直線を一般化した概念であるとみなせる[注 2]

存在性と一意性[編集]

常微分方程式の局所的な解の存在一意性から、点における接ベクトルに対し、あるが存在し、

を満たす測地線上で一意に存在する。この測地線を

と書く。


しかし測地線は任意の長さに延長できるとは限らない。たとえば(に通常のユークリッド空間としての計量を入れた空間)において、測地線までしか延長できない。任意の測地線がいくらでも延長できるとき、リーマン多様体は測地線完備であるという[17]


測地線が全域に拡張できるか否かに関して以下の定理が知られている。

定理 (Hopf-Rinowの定理英語版) ― 連結なリーマン多様体とし、M上のレヴィ-チヴィタ接続とする。このとき、以下の条件は互いに同値である[18][19]

  • gが定める距離に関し、距離空間として完備である。
  • は測地線完備である。
  • 全ての点に対し、TPMの全ての元vに対しを定義できる。
  • ある点に対し、TPMの全ての元vに対しを定義できる。
  • M上の任意の2PQに対し、PQの両方を通る(に関する)測地線が存在する。
  • gが定める距離に関し、Mの有界閉集合はコンパクトである。

特徴づけ[編集]

測地線方程式は曲線uの長さを端点を固定して変分したときのオイラー・ラグランジュ方程式に等しい[20][21][22]。ここでである。すなわち、測地線は長さに関する停留曲線(≒端点を固定した曲線のなす空間において「微分」がゼロのなる曲線)である。


また測地線方程式は曲線uの「エネルギー」を端点を固定して変分したときのオイラー・ラグランジュ方程式にもなっている[23]

リーマン多様体M上の曲線の、弧長パラメータによる「二階微分」の長さ

Mにおける測地線曲率[訳語疑問点]: geodesic curvature[24])、あるいは単に曲率: curvature)という。よって測地線は、曲率が0の曲線と言い換える事ができる。

測地線の局所的存在性から、点における接ベクトル空間TPMの原点の近傍の任意の元に対し、測地線が存在する。必要ならUを小さく取り直す事で写像

が中への同型になるようにする事ができる。ベクトル空間TPMの開集合からMへの中への同型なので、Mの点Pの周りの局所座標と見なす事ができる。この局所座標をMの点uにおける正規座標英語版: normal coordinate)という[25]

曲率[編集]

動機[編集]

レヴィ-チヴィタ接続を成分で書いた

より、であれば、すなわちMが「平たい」空間であれば、クリストッフェル記号は全て0になる。よって

この「平たい」空間とのズレを測るのが曲率である。ただしクリストッフェル記号は局所座標の取り方に依存しているため、クリストッフェル記号自身を用いるのではなく、別の方法で「平たい」空間とのズレを測る。

ズレを測るため、クリストッフェル記号が全て0であれば、

となる事に着目する。この事実から「平たい」空間では、

が常に成立する事を示せる。そこで

と定義すると、Mが「平たい」ときには恒等的にゼロになり、この意味においてMの「曲がり具合」を表している考えられる。

定義と性質[編集]

定義[編集]

M上のベクトル場XYZに対し、

と定義し、Rに関する曲率: curvature)もしくは曲率テンソル: curvature tensor)という[26]。ここでリー括弧英語版である。 RXYZのいずれに関しても-線形である事が知られており、したがって、各に対し、

というテンソルとみなせる。

規約[編集]

一部の文献[27]では符号を反転したを曲率と呼んでいるので注意されたい。

本項の規約では後述する断面曲率の定義において分子をとせねばならずマイナスが出てしまうが、文献[27]の規約であればマイナスが出ない点で有利である。

性質[編集]

次の事実が知られている:

定理 ― リーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続の曲率は以下を満たす[28]

  • ビアンキの第一恒等式

  • ビアンキの第二恒等式[29]

ここでRが3つの接ベクトルXYWを引数にとって1つの接ベクトルを返す事から、Rテンソル積の元とみなしたときの共変微分である。テンソル積に対する共変微分の定義は後述する。

成分表示[編集]

曲率はクリストッフェル記号を用いて以下のように表すことができる:

定理 ― と成分表示すると[注 3]、以下が成立する[30]

以下のようにも成分表示できる:

定理 ―  とすると[注 3]、以下が成立する[31]

ここでは下記のKulkarni–Nomizu積である:

特徴づけ[編集]

を原点とする正規座標を使うと曲率は以下のように特徴づけられる[32]

定理 ― :

ここでである。

また、

を任意のなめらかな関数とし、

とし、に沿った平行移動を

とすると、曲率を以下のように特徴づけられる[33][34]

定理 ―  

この定理はKoszul接続においても成立する[33][34]

断面曲率、リッチ曲率、スカラー曲率[編集]

をリーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続とし、PMの点とし、とし、さらにの基底とする。

定義 ―  

  • を点Pにおけるに関する断面曲率: sectional curvature)という[35]
  • を点Pにおけるに関するリッチ曲率: Ricci curvature)という[36]
  • を点Pにおけるスカラー曲率: scalar curvature)という[36]

なお、書籍によっては本項のリッチ曲率、スカラー曲率をそれぞれ倍、倍したものをリッチ曲率、スカラー曲率と呼んでいるものもある[37]ので注意されたい。 また断面曲率はという記号で表記する文献も多いが、後述するガウス曲率と区別するため、本稿ではという表記を採用した。

定義から明らかなように、以下が成立する:

定理 ―  vwの張る平面がv'w'の張る平面と等しければ、以下が成立する:

さらにm次元リーマン多様体Mが別のリーマン多様体の余次元1の部分リーマン多様体、すなわちの場合は、以下が成立する[38]

定理 ― i≠jを満たす任意のi, j ∈{1,...,m}に対し、

ここでは点における主方向でを対応する主曲率であり、Muにおける断面曲率であり、uにおける断面曲率である。

よって特にMが2次元リーマン多様体での場合はMの断面曲率はガウス曲率κ1κ2に一致する(Theorema Egregium)。

テンソルの共変微分[編集]

本節ではテンソルに対する共変微分を定義する。

1-形式の共変微分[編集]

はリーマン多様体なので、Mの接ベクトル空間と余接ベクトル空間は自然に同一視できる。この同型写像を

と書くことにする(Musical isomorphism)。そしてM上の1-形式αに対し、αの共変微分を

により定義する。ここでXM上のベクトル場である。するとM上のベクトル場Yに対しライプニッツ則

が成り立つ。

(r,s)-テンソル場の共変微分[編集]

定義[編集]

より一般に、TM上の(r,s)-テンソル場の共変微分はライプニッツ則により定義する。任意にM上の1-形式M上のベクトル場を選んで(r,s)-テンソル場Tを写像

とみなして、Tの共変微分をライプニッツ則を満たすよう

と定義する[39]。この定義は, の取り方によらずwell-definedである。


また微分形式に関しては

と見なすことによりテンソル積の共変微分を用いて微分形式の共変微分を定義できる。

具体例[編集]

M上の関数の共変微分は

を満たす。

またαk-形式とし、を満たす曲線とすると、は通常に微分

にほかならない[40]

二階共変微分[編集]

定義[編集]

TM上の(r,s)-テンソル場とし、ベクトル場YT(r,s)-テンソル場としての共変微分YTを対応させる写像を

と書くと、(r,s+1)-テンソル場とみなせる。同様にT'(r,s+1)-テンソル場とし、ベクトル場XT(r,s+2)-テンソル場としての共変微分YT'を対応させる写像をとする。(r,s)-テンソル場全体の集合をと書き、合成

により定義される写像を

と書き、T二階共変微分: second covariant derivative[41]という。三階以上の共変微分も同様に定義できる。


二階共変微分で増えた2つの引数にベクトル場XYを代入した(r,s)-テンソル場を

と書く。

規約[編集]

の2つの微分で増えた2つの引数のうちどちらにXを入れ、どちらにYを入れるかは文献によって異なる。本項では文献[42][43][44]に従い、先に増えた引数にY、後から増えた引数にXを入れたが、文献[45]では逆に先に増えた引数にXを入れている。


また、我々は文献[44]に従い、「」という記号を使ったが、文献によっては「」の事をと書くものもある[46][47]。この値はTYXを順に作用させたとは異なるので注意されたい。

性質[編集]

という関係を満たす[41]

リッチの公式[編集]

定理 (リッチの公式) ―  XYM上のベクトル場とし、fZαをそれぞれM上の実数値関数、ベクトル場、1-形式とする。このとき以下が成立する[41][48][49][50]

なお、と定義すれば[51]、最後の式は

と書ける。


一般の-テンソルの場合の公式は上記の公式にライプニッツ則を適用する事で得られる。例えば-テンソルに対しては、

であるし[52]-テンソルに対しては、下記のとおりである:

リーマン多様体上のベクトル解析[編集]

本節では勾配発散ラプラシアンという、ユークリッド空間におけるベクトル解析の演算子をリーマン多様体上で定義する。

ホッジ作用素、余微分[編集]

リーマン多様体上のベクトル解析を展開するための準備としてホッジ作用素と余微分を定義する。mMの次元とする。Mが向き付け可能なとき、M上にリーマン計量gから定まる体積形式dVとする。を微分形式とするとき

が任意のに対して成立するようなが存在する。αホッジ双対といい、αを対応させる作用素「」をホッジ作用素という[53]


さらにα余微分

により定義する[54]

勾配[編集]

M上の関数に対し、fの勾配

により定義する。ここでdffの外微分であり、「」は計量gによるT*MTMの同型写像である。

発散[編集]

リーマン多様体M上には2種類のダイバージェンスが定義できる。XM上のベクトル場とするとき、X発散トレースとして定義する[55]。局所座標では以下のように書ける[55]

ここで添字iは上下に登場するのでアインシュタインの縮約により和を取っている。発散のマイナスの符号は規約の問題で、ここに述べたものからマイナスの符号を取ったものを発散と呼ぶこともある[55]

次が成立する[56]

により定義する。ここでδ余微分であり、「」は計量gによるTMT*Mの同型写像である。この事実を使うと、発散は局所座標では以下のようにも書ける[57]

ヘッシアン[編集]

M上の関数に対し、前節のようにを定義すると、である。前節同様2階共変微分

を定義し、fヘッシアン: Hessian)という[58]。具体的には

である。ヘッシアンは

を満たすことを証明できるので[58]、ヘッシアンは対称2次形式である。局所座標で書くと、以下の通りである[59]

ラプラシアン[編集]

M上の関数に対し、

と定義し、Δラプラス・ベルトラミ作用素: Laplace–Beltrami operator)、あるいは単にラプラシアンという[60]


発散の定義でマイナスの符号がつく規約を採用した関係で、通常のラプラシアンとは符号が反対になっている事に注意されたい(この章で後述する他のラプラシアンも同様)。


上述したラプラシアンの定義を微分形式に拡張する事ができるが、拡張方法は(同値ではない)2通りの方法がある。

ホッジ・ラプラシアン[編集]

微分形式αに対し、

と定義し、ΔHホッジ・ラプラシアン: Hodge Laplacian)という[61]。なお、2つ目の等号はを使った。

ボホナー・ラプラシアン[編集]

微分形式αに対し、αの二階共変微分2αトレースをマイナスした

ボホナー・ラプラシアン(: Bochner Laplacian)[62]、もしくはラフ・ラプラシアン: rough Raplacian)という[63]

。ここでは接ベクトル空間の局所的な正規直交基底である。とするとき、余ベクトル空間の内積が誘導する写像を考え、合成

と書く。ここでEに値を取るテンソル場の集合である。すると

が成立する[64]

Weitzenböck–Bochnerの公式[編集]

αが1-形式の場合は2つのラプラシアンは以下の関係(Weitzenböck–Bochnerの公式)を満たす[65]

ここでリッチ曲率を使って

により定義される1-形式であり、「」は計量gによるT*MTMの同型写像である。

擬リーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続[編集]

最後に一般相対性理論で重要な擬リーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続について述べる。ここで擬リーマン多様体とはリーマン多様体と同様、各点に対してuに関してなめらかで非退化な二次形式を対応させるが、gに正定値性を要求しないものである[66][注 4]。このようなg擬リーマン計量という。

擬リーマン多様体の場合もgが正定値とは限らないだけで、リーマン多様体の場合と同じ式でレヴィ-チヴィタ接続を定義できる[69]。またリーマン多様体の場合と同じ公理によってレヴィ-チヴィタ接続を特徴づける事も可能である[69]

平行移動、共変微分、測地線、正規座標、曲率といった概念も同様に定義でき、平行移動はgを保つ線形写像となる。

一方、リーマン多様体のものとの違いとしては、Hopf-Rinowの定理が成り立たない事が挙げられる。リーマン多様体の場合、MがコンパクトであればMは距離空間として完備なのでHopf-Rinowの定理からMは測地線完備になる。しかしMがコンパクトであっても、M上の擬リーマン計量が定めるレヴィ-チビタ接続は測地線完備になるとは限らず、反例としてクリフトン-ポールトーラス[訳語疑問点]が知られている。

また擬リーマン多様体ではが定義できるとは限らないので、測地線を長さの停留場曲線として特徴づける事はできない。しかしエネルギーは擬リーマン多様体でも定義でき、測地線をエネルギーの停留曲線として特徴づけられる[70]。一般相対性理論においては、これはエネルギーを極小にする曲線が自由落下の軌道である事を意味する[70]

歴史[編集]

レヴィ・チヴィタ接続は、トゥーリオ・レヴィ=チヴィタ(Tullio Levi-Civita)の名前に因んでいるが、エルヴィン・クリストッフェル(Elwin Bruno Christoffel)によりそれ以前に"発見"されていた。レヴィ・チヴィタは、[71] グレゴリオ・リッチ・クルバストロ英語版(Gregorio Ricci-Curbastro)とともに、クリストッフェルの記号[72] を用いて平行移動の概念を定義し、平行移動と曲率との関係を研究した。それによって完整英語版の現代的概念を開発した。[73]

レヴィ・チヴィタによる曲線に沿ったベクトルの平行移動や内在的微分という概念は、元々 という特別な埋め込みに対して考えられた。しかし、実際にはそれらは抽象的なリーマン多様体にたいしても意味をなす概念である。何故ならば、クリストッフェルの記号は任意のリーマン多様体上で意味を持つからである。

1869年、クリストッフェルは、ベクトルの内在的微分の各成分は反変ベクトルと同様な変換にしたがうことを発見した。この発見はテンソル解析の真の始まりである。1917年になって初めて、レヴィ・チヴィタによって、アフィン空間に埋め込まれた曲面の内在的微分が、周囲のアフィン空間での通常の微分の接方向成分として解釈された。

[編集]

出典[編集]

  1. ^ #Andrews Lecture 8 p.74, Lecture 10 p.98.
  2. ^ #新井 p.304.
  3. ^ #Tu p.45.
  4. ^ #Andrews Lecture 10, p.2.
  5. ^ #Tu p.45.
  6. ^ #Tu p.49.
  7. ^ #Tu pp.56-58.
  8. ^ #Tu p.46.
  9. ^ #Piccione p.167.
  10. ^ a b #Tu p.263.
  11. ^ #Tu p.113.
  12. ^ #Spivak p.251.
  13. ^ #小林 p.72.
  14. ^ #Tu p.80.
  15. ^ #小林 p.38.
  16. ^ #Tu p.103.
  17. ^ #Tu p.130.
  18. ^ #Tu p.131.
  19. ^ #Berger p.227.
  20. ^ #新井 pp.324-326.
  21. ^ #Lee p.101.
  22. ^ #佐々木 pp.89-91.
  23. ^ #新井 pp.329-331.
  24. ^ #Tu p.138.
  25. ^ #Tu p.118.
  26. ^ #小林 p.43
  27. ^ a b #Gallier p.394.
  28. ^ #Tu pp.204-207.
  29. ^ #Kobayashi-Nomizu-1 p.135.
  30. ^ #Kobayashi-Nomizu-1 p.145.
  31. ^ #Viaclovsky p.12.
  32. ^ Jeff A. Viaclovsky. “240AB Differential Geometry”. University of California, Irvine. p. 81. 2023年6月23日閲覧。なお添字の順番が引用元と異なっているが、これはの添字の順番が引用元と異なっているからである。
  33. ^ a b #Prasolov p.203.
  34. ^ a b #Rani p.22.
  35. ^ #Tu p.92.
  36. ^ a b #Tu p.208-209.
  37. ^ #Carmo p.97.
  38. ^ #Carmo p.131.
  39. ^ #Tu p.206.
  40. ^ #Berger p.705.
  41. ^ a b c #Viaclovsky pp.23, 25, 26.
  42. ^ #Viaclovsky p. 23.
  43. ^ #Parker p.7.
  44. ^ a b #Taylor p.92.
  45. ^ #Berger p.705.
  46. ^ #Viaclovsky p. 23.
  47. ^ #Parker p.7.
  48. ^ #Berger p.706.この文献では本項のものと符号が逆だが、これはXYをどちらの引数に入力するかの規約が本項のものと反対なため。
  49. ^ #Viaclovsky pp.18-19, 24-25.
  50. ^ #Gallier p.395.この文献では本項のものと符号が反転しているが、p.394にあるように曲率の符号として通常と反対の規約を採用しているためである。
  51. ^ #Parker p.13.
  52. ^ #Viaclovsky p.15.
  53. ^ #Gallier p.100.
  54. ^ #Gallier p.375.
  55. ^ a b c #Gallier pp.296, 298, 382
  56. ^ #Gallier pp.378, 383.
  57. ^ #Gallier pp.382.
  58. ^ a b #Viaclovsky pp.18-19.
  59. ^ #Gallier p.367.
  60. ^ #Gallier pp.296, 381-382.
  61. ^ #Gallier p.375.
  62. ^ #Gallier pp.392, 394.
  63. ^ #Viaclovsky p.25.
  64. ^ #Parker p.15, #Gallier pp.392.
  65. ^ #Gallier pp.396.
  66. ^ #新井 p.281.
  67. ^ pseudo Riemann manifold, nLab”. 2023年10月25日閲覧。
  68. ^ Pseudo Riemannian manifolds”. 東京工業大学. 2023年10月25日閲覧。
  69. ^ a b #新井 pp.300-302.
  70. ^ a b #新井 pp.329-331.
  71. ^ See Levi-Civita (1917)
  72. ^ See Christoffel (1869)
  73. ^ See Spivak (1999) Volume II, page 238

注釈[編集]

  1. ^ なおこれらの文献では、後述する公理を満たすものをレヴィ-チヴィタ接続と呼び、この公理を満たすものがここに挙げた形で書ける事を「定理」としているが、公理を満たすものは一意なので、ここに挙げたものを定義としてもよい。
  2. ^ なお、一般相対性理論ではここに書いたのとは異なる解釈をする。具体的にはを成分でと表示し、重力が質点にかかる事で加速度が変化すると解釈する。
  3. ^ a b 成分表示の添字の取り方は文献によって異なるので注意されたい。我々は#Kobayashi-Nomizu-1 p.144に従い、
    としたが、#Viaclovsky p.11では
    としている。
  4. ^ なお、#新井 p.281では本項でいう擬リーマン多様体を「一般リーマン多様体」と呼び、「一般リーマン多様体」のうちgが正定値ではないもの(すなわちリーマン多様体ではないもの)を擬リーマン多様体と呼んでいるが、本項では他の文献[67][68]にあわせてgが正定値のものも擬リーマン多様体と呼ぶことにした。

文献[編集]

参考文献[編集]

  • Ben Andrews. “Lectures on Differential Geometry”. Australian National University. 2022年12月28日閲覧。
  • Loring W. Tu (2017/6/15). Differential Geometry: Connections, Curvature, and Characteristic Classes. Graduate Texts in Mathematics. 275. Springer. ISBN 978-3319550824 
  • 新井朝雄『相対性理論の数理』日本評論社、2021年6月22日。ISBN 978-4535789289 
  • 小林昭七『接続の微分幾何とゲージ理論』裳華房、1989年5月15日。ISBN 978-4785310585 
  • Michael Spivak. A Comprehensive Introduction to Differential Geometry. VOLUME TWO (Second Edition ed.). Publish or Perish, Incorporated. ISBN 978-0914098805 
  • Marcel Berger (2003/6/15). A Panoramic View of Riemannian Geometry. Springer. ISBN 978-3540653172 
  • John M. Lee (1997/9/23). Riemannean Manifolds An introduction to curvature.. Graduate Texts in Mathematics. 176. Springer. ISBN 978-0387983226 
  • 佐々木重夫『微分幾何学Ⅰ』 13巻、岩波出版〈岩波講座 基礎数学〉、1977年8月。 
  • Victor V. Prasolov Olga Sipacheva訳 (2022/2/11). Differential Geometry. Moscow Lectures. 8. Springer. ISBN 978-3030922481 
  • Raffaele Rani. “On Parallel Transport and Curvature”. 2023年1月13日閲覧。
  • Manfredo P. do Carmo Francis Flaherty訳 (1994/2/24). Riemannian Geometry. Mathematics: Theory & Applications. Birkhauser Boston. ISBN 978-0817634902 
  • Boothby, William M. (1986). An introduction to differentiable manifolds and Riemannian geometry. Academic Press. ISBN 0-12-116052-1 
  • Shishichi Kobayashi; Katsumi Nomizu (2009). Foundations of Differential Geometry Volume I. Wiley Classics Library. Wiley. ISBN 978-0-471-15733-5. Zbl 0119.37502 
  • Jeff A. Viaclovsky. “Math 865, Topics in Riemannian Geometry”. カリフォルニア大学アーバイン校. 2023年10月31日閲覧。
  • Thomas H Parker. “Geometry Primer”. Michigan State University. 2023年10月31日閲覧。
  • Jean Gallier, Jocelyn Quaintance (2020/8/18). Differential Geometry and Lie Groups A Second Course. Geometry and Computing. 13. Springer. ISBN 978-3-030-46047-1 
  • Michael E. Taylor. “Differential Geometry”. University. of North Carolina. 2023年11月1日閲覧。

歴史的な文献[編集]

  • Christoffel, Elwin Bruno (1869), “Über die Transformation der homogenen Differentialausdrücke zweiten Grades”, J. für die Reine und Angew. Math. 70: 46–70 
  • Levi-Civita, Tullio (1917), “Nozione di parallelismo in una varietà qualunque e consequente specificazione geometrica della curvatura Riemanniana”, Rend. Circ. Mat. Palermo 42: 73–205 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]