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利用者:Trca/サンドボックス5

節足動物
様々な節足動物
現生および絶滅した様々な節足動物
地質時代
カンブリア紀 - 現世
分類
: 動物界 Animalia
亜界 : 真正後生動物亜界 Eumetazoa
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
: 節足動物門 Arthropoda
学名
Arthropoda
von Shiebold, 1848
亜門[1][2]

節足動物(せっそくどうぶつ、Arthropoda)は、発達した外骨格関節のある付属肢体節性などの特徴を持つ無脊椎動物分類群。独立のに分類されている。

現生種は鋏角亜門クモサソリなど)、多足亜門ムカデヤスデなど)、甲殻亜門エビカニなど)、六脚亜門(昆虫など)の4群に分類され、合わせて100万以上が記載されているが、これは既知の全生物種の半分以上を占める[3]。人間生活に関係が深く、馴染み深い種も多く含む[3]

学名のArthropodaは、ギリシア語で「節のある」という意味のarthronと、「足」を意味するpodosを併せたもの。和名の節足動物はそれを直訳したものである[4]

体制[編集]

左右相称後生動物。概して小型で体長10センチメートルを超えることは少なく、小さいものでは体長80マイクロメートルのダニなどもいる。一方でかなり大型になる種もあり、最大の種であるタカアシガニは脚を広げると幅3.6メートルに達する[5]

外骨格と脱皮[編集]

脱皮中のナミテントウ

節足動物の、外見上もっとも顕著な特徴はクチクラによる外骨格に覆われていることである[4]。外側に上クチクラ、内側に原クチクラがあり、さらに原クチクラは外クチクラと内クチクラの2層に分かれるので、合計で3層の構造になる。このクチクラは、化学的にはタンパク質キチンが結合してできたものである。甲殻類では原クチクラの層にカルシウムが沈着し、非常に硬くなる。外骨格は背板・側板・腹板の3つの要素から成る硬皮を形成する[4]

硬い外骨格を持つために、節足動物は少しずつ大きくなることができず、成長過程で脱皮を行う[6]。脱皮以外の時期には、体内で器官が発達することはあっても、外形が大きくなることはない。脱皮の際には古いクチクラが裂け、新しく、まだ柔らかい外骨格に包まれた体が出てくる。脱皮直後に、節足動物の体は空気を吸ってふくらみ、十分に大きくなると外骨格が硬くなり始める。このときに吸収された水や空気は、脱皮後に体内の組織が成長し、大きくなった外骨格内の空間を埋めるにつれて排出される[6]。脱皮はエクジソンと呼ばれるホルモンによって調節される[4]。生涯にわたって脱皮を繰り返すものもいるが、昆虫やクモ類などでは性成熟後は脱皮せず、それまでに脱皮する回数は決まっている[7]

体節と付属肢[編集]

ナンキョクオキアミ。頭胸部は複数の体節が合体節化してできている。部位により付属肢の形態が異なる。

体は、体節の繰り返し構造、つまり体節制をとり、原則として各体節に1対の付属肢を持つ。体節と体節の関節部分では外骨格が薄く、柔軟になっており、内側にある筋肉によって動かすことができる。体節と付属肢は同じものの繰り返し(同規的)ではなく、体の部分によって形態的・機能的に異なるものに分化していることが多い(異規的体節構造)[5]。部位ごとに複数の体節がまとまって、機能的に特殊化した領域(合体節)を形成する[4][8][5]。例を挙げれば、現生節足動物の頭部は、体の先端にある口前節(先節とも、これは体節ではない)に続くいくつかの体節が合体節化してできたものである。合体節化のパターンは節足動物のなかでも、分類群によって大きく異なっている。

節足動物の付属肢はさまざまな形態を持つものに分化し、多様な機能を果たす。たとえば、大顎や小顎、歩脚、遊泳脚、交尾器などはいずれも付属肢が変形したものである[5]。付属肢も胴体と同様に外骨格に覆われており、いくつかの節(肢節)に分かれている[9]。基部側にある肢節のグループを原肢、先端側にあるものを端肢と呼ぶ。原肢の各肢節から、内側には内葉、側方には外葉と呼ばれる突起物が生じることがある。外葉は触角など多様な形態をとる。内葉は顎基と呼ばれる咀嚼器官になることが多い[9]

多くの甲殻類では、原肢のうちでもっとも先端側にある肢節(すなわち、端肢の基部になる節)の外葉が発達し、端肢と同程度の大きさにまでなることがある。その場合、付属肢は原肢より先が2つに分かれたような構造を持つことになり、これを二叉型(または二枝型)付属肢と呼ぶ[9]。このとき、発達した外葉は外肢、端肢は内肢と呼ばれる。二叉型付属肢は甲殻類のほかに、三葉虫類にもみられる。それ以外の節足動物では、外葉がそのように発達することはなく、付属肢は単枝型である。

内部形態[編集]

体腔を持つ無脊椎動物では、液体に満たされた体腔が水力学的骨格として体を支持することがある。しかし、節足動物も真体腔動物だが、外骨格を持つので、真体腔はその機能を失い縮小している[8]。そのため、体内の主な腔所は真体腔ではなく、真体腔の一部と胞胚腔が合わさってできた血体腔(合体腔)である[4]。体腔内は体液に満たされ、器官系はそのなかに浸っている。心臓は体腔背側に位置し、隔壁によって他の器官系とは隔てられている(囲心洞)。心臓から送り出された血液は、短い血管を通って隔壁を越え、心臓以外の器官系を含む腹側のスペース(囲臓洞)に流れ込み、体内を循環する[10]

頭部にはがあるが、これは複数の神経節が癒合してできたものである[4]。鋏角類を除く節足動物では、脳は前から順に前大脳、中大脳、後大脳の3つの神経節からなる。一方で鋏角類では、脳を構成する神経節は2つだけである。この2つと、大顎類の3つとの対応関係は明らかではない。節足動物の神経系は他に、囲腸連合と腹側神経索からなり、環形動物に似た構造となっている[4]

消化管は頭部背面の口から肛門までまっすぐに繋がり、通常は前腸、中腸、後腸の3つに分かれ、それぞれ異なる機能を果たす。後腸内の食物は囲食膜英語版に包まれた状態で消化される。糞もこの膜の残骸に包まれたまま排出されることが多い[11]

繁殖[編集]

交尾中のアフリカオオヤスデ
腹部に卵を抱えたヨーロッパミドリガニ英語版の雌。

ほとんどの種は雌雄異体であり、有性生殖によって繁殖するが、一部に例外もある[4]。雌雄同体は甲殻類に比較的よく見られ、顎脚綱軟甲綱に雌雄同体のものがあるほか、カシラエビ綱は全種が雌雄同体である。甲殻類以外に雌雄同体現象はほとんど知られていないが、例外的に昆虫のワタフキカイガラムシほか数種のカイガラムシ類に雌雄同体で、自家受精によって繁殖するものがいる[12]単為生殖を行うものもいる[4]

体外受精をする種もいるが、多くは体内受精である。心黄卵。卵割様式は分類群によって異なり、卵黄の少ないカブトガニ類やフジツボ類などの卵は全割、卵黄の多い昆虫などの卵は部分割によって発生する[13]。多くは卵生だが、昆虫と甲殻類、クモ類の一部に胎生ないし卵胎生のものが知られる。卵生種のなかにも、コオイムシウミグモをはじめとして、産み出された卵を保護するものがいる[14]

生態[編集]

あらゆる動物門のなかでもっとも多様な環境に進出したグループであり、その生活様式もやはり多様である[5]

社会性[編集]

真社会性のニホンミツバチ

節足動物のうち、アリハチシロアリアブラムシなどの昆虫、そして甲殻類のテッポウエビ類で、繁殖個体と非繁殖個体が分業し、共同して繁殖する真社会性が知られている[15]。また親が孵化後の子を保護する亜社会性や、複数のが共同で営巣する側社会性など、さまざまな様式の社会を持つ種を含む[16]

系統[編集]

現生の節足動物は、鋏角亜門クモサソリなど)、多足亜門ムカデヤスデなど)、甲殻亜門エビカニなど)、六脚亜門(昆虫など)の4群に分類されている[4]。これらの分類群は外骨格などの特徴を共有しており、形態学分子系統学の両面から、節足動物が単系統であることはほとんど疑いなく支持されている[17][18][19][20]。しかしグループ間の異質性もまた高いため、それぞれに異なる起源を持つと考えられたこともある。1970年代には、マントン英語版らの唱えた節足動物多系統説が強い影響力を持った。この説では、節足動物に特有の形質の進化(節足動物化)は、甲殻類・鋏角類・単肢類英語版(六脚類と多足類に、有爪動物と緩歩動物を併せたもの)の3群でそれぞれ別個に起こったと考えた[3]。この説はその後の研究によって否定された。

節足動物の系統的位置[編集]

節足動物と近縁なカギムシ類(有爪動物)。

伝統的に、節足動物は、体節制という顕著な特徴を共有することから、旧口動物のなかで環形動物に近いと考えられてきた。節足動物と環形動物、そして中間的な特徴を持つ側節足動物舌形動物有爪動物緩歩動物)が単系統群になるとされ、体節動物英語版と総称された。しかし分子系統学による推定は、節足動物(と側節足動物)は環形動物よりも、線形動物鰓曳動物など(環神経動物群英語版)に近いことを支持した。この系統群はいずれも脱皮するという特徴を持つことから、脱皮動物と名付けられた[17][20]

脱皮動物のなかでは、有爪動物と緩歩動物が節足動物に近縁であると考えられることが多い。これらをまとめて汎節足動物と呼ぶ。とくに有爪動物が節足動物の姉妹群になることは強く支持されているものの、緩歩動物の位置は不明確であり、このグループは節足動物よりも線形動物などに近いとする研究結果もある[20]。一方で有爪動物と緩歩動物が姉妹群になるという意見もある[18]

なお側節足動物の一員とされていたシタムシ類(舌形動物)は、精子の構造と分子系統学の研究から、節足動物のなかでも甲殻類に含まれ、鰓尾類と近縁な顎脚綱の一員であると考えられるようになっている[4][18]。この見解は一般化しつつあるが、疑う研究者もいる[17]

節足動物内の系統関係[編集]

甲殻類と六脚類が近縁性であることは多くの研究によって認められ、この2群を併せた分類群は汎甲殻類と名付けられた[17]。この説は多くの分子系統学的研究に加えて、のような感覚器系や神経系の構造と発生過程の研究によって支持されている。さらに六脚類は、系統的には甲殻類に含まれることも示唆されている[17]。この考えによれば、昆虫は陸上に進出した甲殻類の1系統であるということになる。甲殻類のなかで六脚類に近縁なのは鰓脚類ムカデエビ類カシラエビ類などであるとされているが、はっきりしていない[18]

汎甲殻類、多足類、鋏角類の系統関係ははっきりしていない[17]。1つの仮説は汎甲殻類と多足類が近縁で、鋏角類がその外側に位置するというものである。一方で、多足類にもっとも近いのは鋏脚類であると考えて、汎甲殻類をその外側に置く仮説もある。前者は主に形態形質、後者は主に分子系統によって支持されている[17]。他に甲殻類と鋏角類が単系統群(裂肢類)になるという仮説もあるが、これはほとんど支持されていない[17]

これらの議論を通じて、1980年代まで常識として受け入れられてきた節足動物の伝統的な分類体系には、大きな疑問が投げかけられることになった[18]。その体系とは、多足類と六脚類がもっとも近縁で、甲殻類がその姉妹群となり、鋏脚類がもっとも外側に位置付けられるというものである。多足類と六脚類を併せた分類群は無角類英語版と呼ばれ、マルピーギ管、気管系などの形態形質を共有することから単系統群とされてきたが、前述のように六脚類に近いのは甲殻類であることがわかり、これらの共有形質は陸上進出に伴う収斂進化によるものとみなされている[18]。多足類、六脚類、甲殻類をまとめた分類群である大顎類も、前述の通り形態形質から支持されているものの、分子系統学ではあまり支持されない[18]

分類[編集]

『生物学辞典』[2]に基づき、綱以上の分類群を示す。絶滅した分類群に関しては、網羅的なものではない。

参考文献[編集]

  1. ^ Invertebrates p.476
  2. ^ a b 石川統(編集) 編「後生動物分類表」『生物学辞典』東京化学同人、2010年、p.1416, pp.1420-1423頁。ISBN 9784807907359 
  3. ^ a b c 宮崎勝己「節足動物における分類学の歴史」『節足動物の多様性と系統』、2-10頁。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 宮崎勝己「節足動物門の概説」『節足動物の多様性と系統』、110-113頁。 
  5. ^ a b c d e 西村三郎(編著)『原色検索日本海岸動物図鑑』 II、保育社、1995年、1-2頁。ISBN 458630202X 
  6. ^ a b Invertebrates pp.485-487
  7. ^ Invertebrate Zoology p.524
  8. ^ a b Invertebrates pp.477-478
  9. ^ a b c Invertebrates pp.480-481
  10. ^ Invertebrates pp.489-491
  11. ^ Invertebrates p.489
  12. ^ Ross, Laura; Pen, Ido; Shuker, David M. (2010). “Genomic conflict in scale insects: the causes and consequences of bizarre genetic systems”. Biological Reviews 85 (4): pp.807-828(とくにpp.811-813を参照). doi:10.1111/j.1469-185X.2010.00127.x. ISSN 1469-185X. PMID 20233171. 
  13. ^ Invertebrates p.496
  14. ^ Clutton-Brock, Tim (1991). The Evolution of Parental Care. Monographs in Behavior and Ecology. Princeton University Press. p. 73. ISBN 0691025169 
  15. ^ 松本忠夫、小野正人、辻和希、青木重幸「社会性の進化」『節足動物の多様性と系統』、91-107頁。 
  16. ^ 斉藤裕 著「はじめに-紹介と若干の言葉の定義を含めて-」、斉藤裕(編著) 編『親子関係の進化生態学 節足動物の社会』北海道大学図書刊行会、1996年、pp.iii-viii頁。ISBN 4832996517 この章以外にも本書全体が節足動物の多様な社会性を論じている。
  17. ^ a b c d e f g h 宮崎勝己「節足動物全体の分類体系・系統の現状」『節足動物の多様性と系統』、11-27頁。 
  18. ^ a b c d e f g 上島励「節足動物の分子系統学、最近の展開」『節足動物の多様性と系統』、28-48頁。 
  19. ^ Edgecombe, Gregory D. (2010). “Arthropod phylogeny: An overview from perspectives of morphology, molecular data and the fossil record” (PDF). Arthropod Structure & Development 39 (2-3): 74-87. doi:10.1016/j.asd.2009.10.002. PMID 19854297. http://www.nhm.ac.uk/resources-rx/files/edgecombe-2010-arthropod-phylogeny-asd-94056.pdf. 
  20. ^ a b c Budd, Graham E.; Telford, Maximilian J. (2009). “The origin and evolution of arthropods”. Nature 457: 821-827. doi:10.1038/nature07890. PMID 19212398. 
  • 石川良輔(編集)『節足動物の多様性と系統』岩槻邦男・馬渡峻輔(監修)、裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ6〉、2008年。ISBN 978-4-7853-5829-7 
  • Brusca, Richard C.; Brusca, Gary J. (2003). Invertebrates (2nd ed.). Sinauer Associates. ISBN 9780878930975 
  • Ruppert, Edward E.; Fox, Richard S.; Barnes, Robert D. (2004). Invertebrate Zoology: A Functional Evolutionary Approach (7th ed.). Brooks/Cole. ISBN 0030259827