コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

東京教育大学生リンチ殺人事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
東京教育大学生リンチ殺人事件
地図
青:殺人が行われた法政大学
赤:遺体が遺棄された東京厚生年金病院
場所 日本の旗 日本東京都新宿区津久戸町5-1
(遺体発見場所)
日付 1970年昭和45年)8月3日
12時ごろ
概要 中核派革マル派の内ゲバ
攻撃手段 被害者を拉致しリンチを加えて殺害
死亡者 1
被害者 革マル派活動家の東京教育大学理学部3年生の男性
犯人 中核派活動家
謝罪 なし
賠償 なし
テンプレートを表示

東京教育大学生リンチ殺人事件(とうきょうきょういくだいがくせいリンチさつじんじけん)とは、1970年昭和45年)8月3日東京都で発生した内ゲバ殺人死体遺棄事件。

被害者の名前を取って「海老原事件」とも呼ばれる[1]

事件の経過

[編集]

1970年(昭和45年)8月4日早朝、東京都新宿区東京厚生年金病院(現・東京新宿メディカルセンター)の警備員から「玄関前に死体がある」との通報を受け、駆けつけた警察は、上半身裸の若い男性の遺体が遺棄されているのを発見した[1][2][3][4][5]警視庁の捜査により、被害者は当時東京教育大学理学部化学科3年生で、革マル派活動家のEと判明した[3][4][5]

事件経過は前日の8月3日午後3時頃、池袋駅東口で街宣活動を行っていた中核派活動家が、たまたま通りかかったEを発見し、その場で殴る蹴るの暴行を加えたことに始まる。その後、Eに猿ぐつわ・目隠しをして、デモ行進のような様相で、飯田橋の法政大学に拉致した[1][2][6][7][8][注釈 1]

中核派活動家らはEを法政大学第二校舎(通称・六角校舎)地下室に連行し、椅子に縛り付けると、「反革命は死ね」「ここから生きて帰れると思うな」と罵声を浴びせたり、“自己批判”を要求したりしながら、集団リンチを加えた[1][2][9][10]。リンチは、Eが気絶すると水を掛けるなどして意識を回復させさらに暴力を加える、凄惨なものとなった[11]。最終的に幹部らが「このまま帰すと報復が怖い。とどめをさせ」という命令を下し、Eは殺害された。翌4日、遺体は東京厚生年金病院の車寄せに遺棄された[12]。リンチが行われた地下室は幹部の命令で、無関係の5〜6人の学生により徹底的に掃除が行われたほか、凶器の角材やモップ、Eの教科書などの所持品は大学の焼却炉で焼かれ、証拠隠滅が行われた[13]

革マル派の報復

[編集]

この事件に対し革マル派は「階級的報復」を宣言、1970年(昭和45年)8月14日午前10時ごろ、革マル派学生30人が中核派のヘルメットをかぶって法政大学に侵入、学内に居た中核派の学生10人に報復リンチを加え重軽傷を負わせた[14][15][16]

事件の背景

[編集]

事件の1か月程前から中核派と革マル派の対立はエスカレートしており、7月9日、東京教育大学構内で機関紙『前進』を販売していた中核派活動家が、Eを含む十数人の革マル派活動家に襲われた上、『前進』を奪われる事件があり、Eは中核派からマークされていた。更に、事件2日前の8月2日には新宿の歩行者天国で、事件前日の8月3日には渋谷で両派が乱闘する事件を起こしていた[2][17]

この事件以前の中核派と革マル派の間には多少の摩擦はあったものの、相互の命を奪うような凄惨なものではなかった。しかし事件以降、相互の内ゲバは激しさを加え、長年にわたり両派の多数の人命が奪われるに至った。このことは、学生運動を学生から遠ざけて学生運動後退の原因ともなった。また、両派のメンバー自身が常に自らが危険にさらされることとなり、警戒のために活動や生活にまで不便をもたらすことになった。

東京教育大学の学生・卒業生が内ゲバの被害者となった事件としては、この他に川崎市女子職員内ゲバ殺人事件がある。

捜査・被疑者の逮捕

[編集]

警視庁は特別捜査本部を設置して捜査をした結果、中核派の法政大学生ら23人を逮捕した[1]

中核派全学連委員長ら4人を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)9月25日、中核派全学連委員長金山克己(克巳)(24歳)と同幹部(23歳)、予備校生二人(いずれも19歳)の計4人を逮捕監禁、暴力行為等処罰法違反の容疑で逮捕。残り9人を全国に指名手配[18]

東海大生を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)9月27日午後9時過ぎ、国電新宿駅西口付近で指名手配中の中核派活動家の東海大学生(19歳)を、殺人、暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕[19][20]

女子学生を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)9月30日午後10時過ぎ、東京都新宿区で青山学院大学3年生(21歳)を、暴力行為等処罰法違反、不法監禁容疑で逮捕[21][22]

日大生を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)10月3日、Eの遺体遺棄の自動車の運転を担当した日本大学生(19歳)を死体遺棄容疑で逮捕[23][24]

別の日大生を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)10月4日、横浜市内で日本大学生(21歳)を殺人、逮捕監禁容疑で逮捕[25][26]

早大生を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)10月7日、早稲田大学生(22歳)を殺人、逮捕監禁容疑で逮捕[27][28]

実行行為首謀者二人を逮捕

[編集]

1970年(昭和45年)11月13日夕方、中央大学生(22歳)と早稲田大学生(23歳)の二人を逮捕[29]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 法政大学は中核派の拠点校である。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e 警備研究会 2017, p. 160.
  2. ^ a b c d 高木正幸 1988, pp. 130–131.
  3. ^ a b 「内ゲバで殺人か 東京大生の死体 病院前に捨てる」『読売新聞』1970年8月4日、東京夕刊、7面。
  4. ^ a b 「東教大生、殺される 病院前に死体」『朝日新聞』1970年8月4日、東京夕刊、9面。
  5. ^ a b 「学生のリンチ殺人?厚生年金病院前に捨てる」『産経新聞』1970年8月4日、東京夕刊、7面。
  6. ^ 「池袋駅で連れ去る 内ゲバ殺人、十数人の学生」『読売新聞』1970年8月5日、東京夕刊、7面。
  7. ^ 「池袋路上でリンチ 内ゲバ殺人 中核派幹部ら」『読売新聞』1970年8月6日、東京朝刊、15面。
  8. ^ 「池袋路上に血液反応 内ゲバ殺人」『読売新聞』1970年8月6日、東京夕刊、6面。
  9. ^ 「法大(六角校舎)地下室で殺害 内ゲバ事件で断定」『読売新聞』1970年8月13日、東京朝刊、15面。
  10. ^ 「金山が指揮し三時間 予備校生犯行自供 死のリンチの全容わかる」『読売新聞』1970年9月26日、東京朝刊、15面。
  11. ^ 東教大リンチ、予備校生らが自供 気絶させ水をかけ 幹部の指示で四、五時間『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月26日朝刊 12版 22面
  12. ^ 「とどめをさせ」幹部が命令 警視庁、殺意を確認『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月26日夕刊 3版 11面
  13. ^ 大掃除で証拠隠す 逮捕の学生ら自供『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月27日朝刊 12版 22面
  14. ^ 立花隆 1983, pp. 166–168.
  15. ^ 「法大で学生(革マル中核派)乱闘 内ゲバ殺人仕返し、13人重軽傷」『読売新聞』1970年8月14日、東京夕刊、9面。
  16. ^ 「革マル派が報復襲撃 教育大生殺人事件 手足しばってリンチ 中核派に変装し侵入 法大構内」『朝日新聞』1970年8月14日、東京夕刊、9面。
  17. ^ 「渋谷の乱闘に関連か」『産経新聞』1970年8月5日、東京朝刊、15面。
  18. ^ 「リンチ殺人 委員長ら四人逮捕 一斉手入れで九人手配」『読売新聞』1970年9月25日、東京夕刊、11面。
  19. ^ 「リンチ殺人 東海大生も逮捕 女子学生ら六人を手配」『読売新聞』1970年9月28日、東京朝刊、14面。
  20. ^ 「東海大生も逮捕」『産経新聞』1970年9月28日、東京朝刊、10面。
  21. ^ 「中核派の女学生逮捕 東教大生リンチ事件」『朝日新聞』1979年10月1日、東京朝刊、22面。
  22. ^ 「女子学生を逮捕 東教大生殺し」『産経新聞』1970年10月1日、東京朝刊、10面。
  23. ^ 「リンチ殺人また逮捕」『読売新聞』1970年10月4日、東京朝刊、15面。
  24. ^ 「中核派書記長ら4人に逮捕状 東教大生殺し 死体処理を指示 運転手役の日大生逮捕」『産経新聞』1970年10月4日、東京朝刊、11面。
  25. ^ 「さらに日大生逮捕 東教大生リンチ事件」『読売新聞』1970年10月5日、東京朝刊、15面。
  26. ^ 「日大生1人を逮捕 東教大生殺し」『産経新聞』1970年10月5日、東京朝刊、11面。
  27. ^ 「さらに一人逮捕 東教大生リンチ殺人」『読売新聞』1970年10月7日、東京夕刊、11面。
  28. ^ 「手配の早大生逮捕 東教大生殺し」『産経新聞』1970年10月7日、東京朝刊、9面。
  29. ^ 「リンチ殺人 現場指揮者逮捕」『読売新聞』1970年11月14日、東京朝刊、14面。

参考文献

[編集]
  • 立花隆中核VS革マル』 上、講談社〈講談社文庫〉、1983年1月15日。ISBN 9784061341838 
  • 高木正幸『新左翼三十年史』土曜美術社、1988年11月10日。ISBN 9784886251770 
  • 警備研究会『わかりやすい極左・右翼・日本共産党用語集』 五訂、立花書房、2017年2月1日。ISBN 9784803715415 
  • 警備研究会『極左暴力集団・右翼101問(改訂)』立花書房、2000年11月。ISBN 9784803715194 
  • 警察庁『"内ゲバ"の実態 極左暴力集団のセクトの争いとその周辺』警察庁、1972年。全国書誌番号:20851081 

関連項目

[編集]