椰子の実
「椰子の実」(やしのみ)は、島崎藤村が明治時代に執筆した詩。昭和に入って曲が付けられた。
1900年(明治33年)6月の雑誌『新小説』に「海草」という総題で発表された誌の一遍で[1]、1901年(明治34年)8月に刊行された詩集「落梅集」に収録されている[2][3]。この詩は1898年(明治31年)の夏、1ヶ月半ほど伊良湖岬に滞在した柳田國男が恋路ヶ浜に流れ着いた椰子の実の話を藤村に語り、藤村がその話を元に創作したものである[4][5][6][7]。
- 「椰子の実」
名も知らぬ遠き島より 流れ寄る
椰子 の実 一 つ
故郷 の岸を離れて汝 はそも波に幾月
旧 の樹 は生 いや茂 れる 枝はなお影をやなせる
われもまた渚 を枕 孤身 の浮寝 の旅ぞ
実 をとりて胸にあつれば新 なり流離 の憂
海 の日 の沈むを見れば激 り落 つ異郷 の涙 思いやる
八重 の汐々 いずれの日にか国 に帰らん
歌曲「椰子の実」
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1936年(昭和11年)7月、日本放送協会大阪中央放送局で放送中だった『国民歌謡』の担当者が作曲家の大中寅二を訪問し、この詩に曲を付すよう依頼。7月9日には曲が完成した。
7月13日から東海林太郎の歌唱で1週間放送した。さらに8月3日からは二葉あき子、11月9日からは多田不二子、12月9日からは柴田秀子がそれぞれ放送した。こうした放送が影響し次第に職場や学校で歌われ始め、12月には東海林太郎の歌唱でポリドールレコードから発売された。
大中本人による混声合唱版・女声合唱版(ともにピアノ伴奏)が存在する。他に多くの人によってさまざまな編成に編曲されており、その中には作曲家の息子である大中恩によるものも含まれる。
2007年(平成18年)には文化庁と日本PTA全国協議会により「日本の歌百選」に選定されており[5][8] [9]、現在でも広く愛唱されている叙情歌である。
カバー
[編集]- 岩崎宏美
- 薬師丸ひろ子
- 海上自衛隊東京音楽隊/三宅由佳莉 - アルバム『希望〜Songs for Tomorrow』(2015年)[13]
- 木山裕策 - アルバム『花 麗しき日本の愛唱歌』(2020年)[14]
- 三山ひろし - アルバム『こころの歌〜三山ひろし叙情歌を唄う〜』(2021年)[15]
- テレビ東京系深夜アニメ『かなめも』の登場人物 マリモ姉さん(声:高橋美佳子)によりカバー[要出典]
歌曲「椰子の実」を扱った作品
[編集]- 小説
- 終戦のローレライ:福井晴敏の架空戦記。作品を通して重要な要素を担っている。
- テレビドラマ
- テレビアニメ
- 映画
- 『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-』(2011年2月)のオリジナルサウンドトラックの最後で、椰子の実が使われている。 [18]
「椰子の実」に因む事物
[編集]詩碑・歌碑等
[編集]- 愛知県渥美半島の西端田原市日出町には、詩の記念碑と歌碑がある[5][19]。
- 長野県小諸市の懐古園内にある小諸市立藤村記念館の前庭に、この歌の詩碑がある。
- 愛知県田原市伊良湖町にある道の駅伊良湖クリスタルポルトには、やしの実博物館が設けられている。
やしの実投流
[編集]渥美半島観光ビューローでは、1988年(昭和63年)から毎年、「椰子の実」の再現を目指し、「遠き島」に見立てた石垣島沖で標識を付けたやしの実を投流するイベントを開催している。投流したやしの実が鹿児島県以北で拾われた場合には、発見者と投入者から数組を伊良湖岬へ招いて対面式が行われる。2020年までに、4個のやしの実が愛知県に漂着し、そのうち3個は伊良湖岬がある田原市に漂着しているが、伊良湖岬・恋路ケ浜へはまだ漂着したことがない[20][21]。
脚注
[編集]- ^ 伊藤整 編『現代詩の鑑賞:読解講座. 第1(近代詩 第1(明治))』明治書院、1968年、36頁。NDLJP:1356386/26
- ^ “落梅集”. 近代デジタルライブラリー. 2014年2月17日閲覧。
- ^ “【うたのふるさと】愛知県 椰子の実〜民俗学的ロマンと詩情”. Actiz(アクティズ). 2014年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年2月17日閲覧。
- ^ 和歌森民男 (2018年3月31日). “民俗学における「ふるさと」―椎葉村と遠野郷と柳田国男に触れて―”. 清泉女子大学キリスト教文化研究所年報 (清泉女子大学) 26: pp. 121-164
- ^ a b c “<発掘‼ みか話〜るど> (5)椰子の実(田原市)”. 中日新聞. (2021年5月5日). オリジナルの2021年5月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ “文語詩「椰子の実」”. おはなしのくにクラシック. 日本放送協会. 2021年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “うたの旅人 初回放送:2009年7月17日「椰子の実」”. BS朝日. 2021年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “親子で歌いつごう 日本の歌百選”. 文化庁. 2014年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年2月17日閲覧。
- ^ “日本の歌百選” (PDF). 文化庁. 2024年3月24日閲覧。
- ^ “Discography Album - 企画”. 岩崎宏美オフィシャルサイト. 2021年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “薬師丸ひろ子/ファーストライヴ〜星紀行(東芝EMI):1987”. 国立国会図書館. 2021年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “セレクション・カバーアルバム「時の扉」[CD - 薬師丸ひろ子]”. UNIVERSAL MUSIC JAPAN. 2020年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “希望〜Songs for Tomorrow [SHM-CD[CD][+DVD] - 海上自衛隊東京音楽隊/三宅由佳莉]”. UNIVERSAL MUSIC JAPAN. 2021年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。
- ^ “木山裕策 / 花 麗しき日本の愛唱歌 [CD] [アルバム] - CDJournal.com”. 音楽出版社. 2022年2月9日閲覧。
- ^ “三山ひろし / こころの歌〜三山ひろし叙情歌を唄う〜 [CD] [アルバム] - CDJournal.com”. 音楽出版社. 2022年2月9日閲覧。
- ^ “「ひよっこ」37話、いつのまにか東京の人になる”. エキサイトニュース. (2017年5月16日). オリジナルの2019年5月3日時点におけるアーカイブ。
- ^ “怪物くん 第60話「太平洋上の一匹モンスター」”. はなバルーンblog. 2024年1月28日閲覧。
- ^ “太平洋の奇跡 オリジナル・サウンドトラック”. 加古隆. 2023年6月22日閲覧。
- ^ “椰子の実記念碑・歌碑”. 田原市観光ガイド. 2014年2月17日閲覧。
- ^ “「伊良湖岬に届け」 54個のやしの実投流”. 八重山毎日新聞. (2021年7月16日). オリジナルの2021年7月16日時点におけるアーカイブ。
- ^ “恋路ケ浜へ向け40個 ヤシの実投流 石垣市観交協が代理”. 八重山日報. (2020年7月7日). オリジナルの2021年7月17日時点におけるアーカイブ。