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「外来種」の版間の差分

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'''外来種'''(がいらいしゅ)とは、他地域から人為的に持ち込まれた生物この定義では、栽培植物の部分は外来種となる。[[園芸]]の分野では通常こ意味でこの語を使用する。
'''外来種'''(がいらいしゅ)とは、他地域から人為的に持ち込まれた生物のこと生態系や経済に重大な影響を与えことがあり環境問題ひとつとして扱われる。


類義語に'''移入種'''、'''帰化種'''、'''侵入種'''、'''外来生物'''がある。英語では「alien species」もしくは「invasive species」という。
一方、[[環境]]の分野でこの語を使用するときは、通常、特に野生化して世代交代を繰り返すようになり、[[生態系]]に定着した動植物をいい、1世代で死滅するものなどはこれに含めない。


外来種に対して、従来からその地域で生息・生育するものは'''[[在来種]]'''と呼ばれる。
類義語に'''移入種'''、'''人為移入種'''、'''帰化種'''があり、[[植物]]の場合特に'''[[帰化植物]]'''、動物の場合特に'''帰化動物'''ともいう。


== 概要 ==
通例、「[[種 (分類学)|種]]」より下位の「亜種」または「変種」であっても「外来種」に含められるが、混乱を嫌って「移入[[個体群]]」のような用語を用いる場合もある。
=== 背景 ===
人類は15世紀中期の[[大航海時代]]以降、世界を自由に行き来するようになり、その過程で多種多様な生物を移動させてきた。こうした人間活動によって新たに分布を拡大させた生物に対して、[[イギリス]]の[[生態学]]者[[チャールズ・エルトン]](Charles S. Elton)は1958年に著書『The Ecology of Invasions by Animals and Plants(侵略の生態学)』のなかで学問のテーマとして外来種問題を大きく取り上げた<ref name="Belton">{{cite book | 和書 | author = Charles S. Elton(著者) 川那部浩哉・大沢秀行・安部琢哉(訳者)| title = 侵略の生態学| publisher = [[思索社]] | date = 1971-02-05 }}</ref>。


今や外来種は地球上のありとあらゆる環境に侵入している。[[ハワイ]]では生息している生物のうち外来種が25%を占める<ref name="Bigs">{{cite book | 和書 | author = 川道美枝子・岩槻邦男・堂本暁子| title = 移入・外来・侵入種 生物多様性を脅かすもの| publisher = [[築地書館]] | date = 2002-03-25 | isbn = 4-8067-1234-5 }}</ref>。また、[[モーリシャス島]]では植物について在来種よりも外来種のほうが種類が多く、[[ロドリゲス島]]にいたっては在来種の約2.3倍もの種類の外来種が生息している<ref name="Bigs"/>。[[ニュージーランド]]では在来の陸生哺乳類は2種しかおらず、一方で外来の陸生哺乳類は34種も定着している<ref name="Bigs"/>。
==概要==
外来種に対して、従来からその地域で棲息・生育するものを'''[[在来種]]'''という。したがって、ある地域の在来種が他の地域へ広がった場合は外来種とされる。


日本に定着している外来種は2000種を超えるといわれており、そのうち4分の3は植物が占める<ref name="Rghourya">{{Cite journal|和書|author=尼子直輝 |year=2007| title=外来生物法の概略|journal=雑草研究|volume=52|issue=3|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/weed/52/3/137/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=137-140|accessdate=2011-08-28}}</ref>。17水系19河川で実施された[[植生]]調査では、確認された全植物種数のうちの13.6%にのぼる280種の外来植物の分布が明らかとなった<ref name="Rkanrip">{{Cite journal|和書|author=鷲谷いづみ |year=2000| title=外来植物の管理|journal=保全生態学研究|volume=5|issue=2|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110007643293.pdf?id=ART0009462498&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1314260873&cp=|format=PDF|pages=181-185|accessdate=2011-08-28}}</ref>。
人為的に持ち込まれたものであれば、意図的な[[栽培]]や[[放流]]等によらず、偶然に定着した場合でも、外来種という。実例として、[[ブドウ]]は[[遣唐使]]らによって持ち込まれたものの種子が捨てられて発芽し、そのまま自生化して[[鎌倉時代]]以後に現在の[[山梨県]]の一部地域で栽培作物化されたものであるとされている。[[シロツメクサ]]は、江戸時代に[[オランダ]]から輸入されたガラス器の箱の中に敷き詰めてあったもので、種子が偶発的にこぼれおちて発芽し、日本全域に広まったものと考えられているが、これらも外来種に含まれる。


こうした外来種の拡大が進むにつれ、学術誌に発表された外来種に関する論文は1990年代後半以降に急増するようになった<ref name="Rgyoin">{{Cite journal|和書|author=鷲谷いづみ |year=2007| title=外来種の定着と侵略性の生態学的要因 |journal=日本水産学会誌|volume=73|issue=6|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/1117/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=1117-1120|accessdate=2011-08-30}}</ref>。現在では外来種の問題は環境問題のひとつとして認識されており、さまざまな取り組みや研究が世界中で行われている。
外来種の植物は、特に人為的な理由により環境に変化がおきた場所で多く生育することが多い。ただし環境が復元されると、自然と勢力が減退することも多いので、外来種の生育状況で環境の悪化の指標とすることもある。


=== 定義 ===
外来種か在来種か決めることが難しいものもある。[[ハクビシン]]は、日本以外では[[台湾]]から[[東南アジア]]に分布し、日本のものは外来種であるとする説が根強い。しかし確かな放獣記録があるわけではなく、在来種なのでは、とする見方もある。
外来種という用語の指す内容については、国や研究分野によってその定義が微妙に異なり、世界的に統一した見解はない。日本でも「外来種」のほかに「移入種」「帰化種」といった言葉が混在して使われてきた<ref name="Bkikap">{{cite book | 和書 | author = 大場秀章| title = 日本の帰化植物図譜| publisher = [[アボック社]] | date = 2009-12-25 | isbn = 978-4-900358-65-2}}</ref>。例えば行政においては、[[環境省]]は「移入種」を、[[国土交通省]]は「外来種」を用いてきた経緯があり、いずれも主に国外から移入されたものを対象としていた。また、[[植物学]]者は帰化種(とくに[[帰化植物]])という用語を用いている<ref name="Bkikap"/>。しかし、最近(2000年代から)は多くの分野で「外来種」と呼ぶのが一般的になってきている<ref name="Bigs"/><ref name="Bgss">{{cite book | 和書 | author = [[種生物学会]] | title = 外来生物の生態学 進化する脅威とその対策 | publisher = [[文一総合出版]] | date = 2010-03-31 | isbn = 978-4-8299-1080-1}}</ref>。


[[国際自然保護連合]](IUCN)の定義では、外来種とは「過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、あるいはそれ以下の分類群を指し、生存し繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含むもの」とされる<ref name="Bkng">{{cite book | 和書 | author = 多紀保彦(監修) 財団法人[[自然環境研究センター]](編著) | title = 決定版 日本の外来生物 | publisher = [[平凡社]] | date = 2008-04-21 | isbn = 978-4-582-54241-7 }}</ref>。ここで用いられている'''導入'''(introduction)という言葉は、「意図しているかどうかは関係なく人為によって直接的・間接的に自然分布域外に移動させること」と定義されており、「移入」や「侵入」といった言葉で置き換えられることもある<ref name="Bkng"/>。そして、外来種が新たな分布域で継続的に子孫を残して生き続けることを'''定着'''(establishment)という<ref name="Bghb">{{cite book | 和書 | author = 村上興正・鷲谷いづみ(監修) [[日本生態学会]](編著) | title = 外来種ハンドブック | publisher = [[地人書館]] | date = 2002-09-30 | isbn = 4-8052-0706-X }}</ref>。
== 移入種・外来種・帰化種、侵略的外来種 ==
「移入種」「外来種」「帰化種」という言葉は、従来、混在して使われてきた。たとえば行政においては、環境省は「移入種」を、国土交通省は「外来種」を用いてきた経緯があり、いずれも主に国外から移入されたものを対象としていたが、最近では国内の他地域から人為的に移入されたものも含めて「外来種」と呼ぶのが一般的になってきている。


外来種の中でも、移動先で分布拡大したときに、在来種の絶滅につながるおそれがあるなど、とりわけ生態系や人間の生活に大きな影響を及ぼすようなものを、とくに'''侵略的外来種'''(invasive alien species)といい<ref name="Bghb"/>、これらは'''侵入種'''と呼ばれることもある<ref name="Bsusume">{{cite book | 和書 | author = リチャード B. プリマック・小堀洋美| title = 保全生物学のすすめ 改訂版| publisher = [[文一総合出版]] | date = 2008-11-05| isbn = 978-4-8299-0133-5}}</ref>。
移入元が国外か、同一国内の他地域であるかによって、国外外来種(国外移入種)、国内外来種(国内移入種)と区別する言い方もある。


外来種という言葉はその語感から外国から持ち込まれた生物というイメージをもたれることが多いが、本来は外国に限定して適用される概念ではない<ref name="Bgfish">{{cite book | 和書 | author =松沢陽士・瀬能宏 | title = 日本の外来魚ガイド| publisher = [[文一総合出版]] | date = 2008-08-23| isbn = 978-4-8299-1013-9}}</ref>。移入元が国外か、同一国内の他地域であるかによって、'''国外外来種'''・'''国内外来種'''と区別する<ref name="Bghb"/>。
外来種の中でも、移動先で分布拡大したときに、在来種の絶滅につながるおそれがあるなど、特に生態系への影響が大きい種や、人間の生活に大きな影響を及ぼすような種を、特に'''侵略的外来種'''といい、これらは'''侵入種'''と呼ばれることもある。
外来種のうちの少なからぬものは侵略的外来種に該当するが、移入されて[[害獣]]・[[害虫]]等の駆除に役立っている動物や、美味で知られる'''[[ニジマス]]'''のように、外来種であっても、人間にとってその存在が好都合であるために、駆除の対象から除かれるものもある。


「[[種 (分類学)|種]]」より下位の「[[亜種]]」または「[[変種]]」であっても外来種に含められるが、混乱を避けるため'''外来生物'''のような用語を用いる場合もある<ref name="Bgss"/>。
移入された外来種・外来個体群を駆除するか否かに関しては、生態系へ与える影響と、人間社会にもたらす利益を比較した議論が行われる([[セイヨウオオマルハナバチ]]など)。


具体的にどれくらい過去まで遡って導入された生物を外来種として扱うのかという導入の時代に関する統一的な定義は決まっていない。日本の[[外来生物法]]では、[[明治元年]]以降に日本に導入された生物を外来生物の対象としており、それ以前の時代の生物については確かな記録を確認するのが困難という理由で対象外としている<ref name="Bkng"/>。[[江戸時代]]末期や大航海時代を導入時期の基準とすべきとの意見もある<ref name="Bgss"/>。一方で、人類の移動・定着、あるいは農耕などによる新しい環境の作出によって新しい地域に移入したと推定されるが、[[先史時代]]であるためにその記録のない生物を、'''史前帰化生物'''という。日本の例としては、畑作とともに移入された[[モンシロチョウ]]、[[アカザ]]、[[ナズナ]]、稲作と縁の深い[[スズメ]]、人家にすみかをとることの多い[[アブラコウモリ]]、[[ドブネズミ]]・[[ハツカネズミ]]などの家ネズミ類、[[ジャコウネズミ]]などが挙げられる。これらの生物は、数千年以上の長い年月を経て在来の生態系に組み込まれているとものと見なされ、原則として生態系への影響を理由に駆除を求められることはなく、一般的に外来種と認識されることも少ない。[[ハクビシン]]や[[ニホンヤモリ]]など日本への導入時期さえもよく分かっていない外来種も存在する。
== 外来種のもたらす問題 ==
=== 外来種問題をめぐる動き ===
生態系や[[生物多様性]]の保護が世界的に関心を集め始めた[[1990年代]]から、[[生態系]]・[[生物多様性]]に悪影響を及ぼす存在としての外来種(侵略的外来種)の問題('''外来種問題''')が注目されるようになった。それとともに、日本でも、それまで事実上放置に近い状態にあった外来種問題が、にわかに脚光を浴びるようになり、行政・民間の双方で、さまざまな動きが起こっている。その成果の一つとして、2004年5月27日に可決・成立、6月2日に公布され、2005年6月から施行された[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律|外来生物法]]を挙げることができる。


外来種はあくまで人間活動の影響で導入された生物のことであり、生物自らの能力によって移動してきたものは外来種に含まれない<ref name="Bosou">{{cite book | 和書 | author =池田透 | title = 外来生物が日本を襲う! | publisher = [[青春新書]] | date = 2007-02-15 | isbn = 978-4-413-04166-9}}</ref>。よって、[[渡り鳥]]や[[迷鳥]]、[[回遊]]する水生生物などは問題視されない。
外来種の引き起こす問題として、'''在来種への圧迫'''、'''食物連鎖のバランスなど生態系に与える影響'''、'''遺伝子の撹乱'''、'''第一次産業等への被害'''等が挙げられるが、2つ以上にまたがるものも珍しくない。


=== 特徴 ===
農業に深刻な影響を与える場合、本格的な駆除が行われることがある。例えば南西諸島においては、[[ウリミバエ]]が農作物に大きな被害を与えていたが、放射線を用いた不妊虫放飼法により、根絶に成功している。[[オーストラリア]]では、移入種の[[ウサギ]]を駆除するため、致死性の粘液腫ウィルスの導入が行われたことがあるが、ウサギの耐性獲得とウィルスの弱毒化変異により失敗した。[[ニホンオオカミ]]の絶滅に伴う生態系への悪影響を解決する手段として、近縁のオオカミの導入の是非についての議論がなされている(→[[オオカミの再導入]])。ただし、オオカミ自体が侵略的な外来種になってしまう可能性も指摘されている。
外来種の定義を考慮すると、[[ペット]]や[[家畜]]、[[園芸植物]]などのほとんどの生物は広義の外来種であり、常に多種多様な外来種が世界中に導入されている。しかし、導入される外来種がすべて定着するわけではなく、実際に野外へ定着して分布を拡大させる生物(いわゆる侵略的外来種)の割合は10種に1種ともいわれている<ref name="Bkng"/>。したがって、多くの外来種は導入されても野生化することができず、野生化したとしても数世代の短い期間で消滅してしまう。


一方で、原産地ではあまり問題を起こさずおとなしかった生物が、侵入先で侵略性を発揮する事態も少なくない<ref name="Rkanrip"/>。一部の外来種が定着し、問題を引き起こすほど拡散する原因として、新たな侵入地域にはその外来種の特異的な天敵が存在しないことが考えられている<ref name="Rgyoin"/>。また、外来種の定着が別の外来種の侵入を促進する可能性も指摘されている<ref name="Rgyoin"/>。
意図的に持ち込まれなくても、ある地方にいた在来種が、それまで生息していない地域へ自然に分布を拡大した場合、外来種と同様に見なされることがある。特に従来の環境や産業活動に影響を与えたり、病原体の媒介等に関与するときは、積極的な駆除の対象になり得る。このような生息域の拡大は、例えば地球規模での気候変動や人間活動に伴う環境変化、その他不明の原因によってもたらされる。この場合、新たに侵入してきた種を駆除の対象とすべきか否かについての基準は明確に定められていない。


植物においては、高い[[種子]]生産性、耐陰性、耐寒性、[[アレロパシー]]といった特徴を有する種がとくに侵略的な外来種となりやすいとされている<ref name="Rryoka">{{Cite journal|和書|author=小林達明|year=2004| title=外来種(移入種)問題と緑化|journal=日本緑化工学会誌|volume=30|issue=2|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/30/2/396/_pdf|format=PDF|pages=396-398|accessdate=2011-08-30}}</ref>。
=== 在来種への圧迫 ===
在来種の動植物を捕食したり、食物や繁殖場所など棲息環境を奪うことで競合種などを減少させたりする。いずれの場合も、[[生態系]]のバランスを崩し、二次的にも大きな影響を与える可能性がある。


== 導入事例 ==
*ルアーフィッシングの流行により、[[北米]]原産の肉食魚'''[[ブラックバス]]'''類([[オオクチバス]])が、全国の河川や湖沼で密放流されている<ref>[http://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/bull/bull12/yodo.pdf バス問題の経緯と背景] (独)[[水産総合研究センター]]</ref><ref>http://www.jfa.maff.go.jp/release/15.06.12.3.5.html </ref>。このような所では、バス類が優勢となり、捕食による在来種の激減と、生物多様性の低下をもたらすため、有害外来種の典型例として頻繁に取り上げられる。
一般的に外来種の導入は、人間がなんらかの目的をもって持ち込んだ'''意図的導入'''(intentional introduction)と偶発的に侵入してしまった'''非意図的導入'''(unintentional introduction)の2つに大きく区分される<ref name="Bghb"/>。
*しかし、移殖放流の規制や駆除に向けての動きは、釣魚愛好家や(政治家を後ろ盾とした)公益法人、釣り業界等の反対を受け、難航した。外来生物法の対象選定においても、関連団体等によるさまざまなはたらきかけが報道され、実際、「釣り人の協力を得る必要がある」とする環境省によって、一旦はオオクチバスについては指定を先送りすることが決定された。しかし、環境相の指示によって方針転換した結果、2005年1月31日に決定された第1陣の指定リスト案に記載されることとなった。


=== 意図的導入 ===
*1910年に[[ハブ (動物)|ハブ]]駆除を目的として[[沖縄本島|沖縄島]]に放され、その後[[奄美大島]]にも定着した'''[[ジャワマングース]]'''は、[[ヤンバルクイナ]]や[[アマミノクロウサギ]]など希少な小動物の多い両島の生態系に深刻な被害を与えている。しかも、生活時間帯の重なりの少ないハブの個体数にはほとんど影響を与えていないことが明らかになり、現在、国や自治体の主導する駆除活動が続けられている。
==== ペット・家畜 ====
[[File: Procyon lotor 2.jpg |thumb|right|200px|アライグマ ''Procyon lotor'']]
*'''[[アライグマ]]'''(北アメリカ原産)は日本ではアニメの[[あらいぐまラスカル]]の人気から全国的に飼われるようになったが、成獣の凶暴性などから飼育放棄されたり逃げ出したりして全国に定着した<ref name="Rraccoon">{{Cite journal|和書|author=池田透|year=2006| title=アライグマ対策の課題|journal=哺乳類科学 |volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/95/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=95-97|accessdate=2011-07-03}}</ref>。


*日本では1990年代にアメリカから年間100万匹もの'''[[アカミミガメ]]'''の幼体がミドリガメの名称で輸入された<ref name="Smimi">環境省 第4回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合 資料2-4「[http://www.env.go.jp/nature/intro/4document/sentei/rept_amph04/mat02-4.pdf ミシシッピアカミミガメの輸入・流通、飼育実態及び海外における法規制について]」</ref>。このアカミミガメの流通は、1960 年代頃から始まっており、大手菓子メーカーの景品として人気となったことが理由のひとつと考えられている<ref name="Smimi"/>。
*[[あらいぐまラスカル|アニメーション]]の人気から全国的に飼われるようになり、アニメーションではあまり知ることのできない成獣の凶暴性などから全国的に持て余された'''[[アライグマ]]'''(北アメリカ原産)は、1962年に愛知県で野生化が確認されたのを皮切りに、各地で同時多発的に放獣されたり逃亡したりしたものが定着し、現在までに本州各地と北海道で個体群の存在が確認されている。競合する[[タヌキ]](アライグマより体が小さい)のほか、エサとなる[[カエル]]や[[ヘビ]]などへの影響も出ており、農作物や[[養魚]]・[[養鶏]]業への被害も報告されている。


*野生種よりも繁殖力が旺盛な'''[[ヤギ]]'''、'''[[ウサギ|カイウサギ]]'''、'''[[イエネコ]]'''、'''[[イエイヌ]]'''などの家畜やペットが、世界中の原生的な自然環境に定着して深刻な影響を与えている<ref name="Bghb"/>。
*1930年頃、阪神地方の養殖場から逃亡した個体が元になって西日本で分布を広げた'''[[チョウセンイタチ]]'''は、在来の[[ニホンイタチ]]より食性が広くて人間の生活環境への適応力にも優れ、体も大きい。西日本の平野部からは、ニホンイタチが駆逐されつつある。ニホンイタチについても、ネズミ駆除の目的で移入された三宅島などの離島において[[アカコッコ]]などの固有種に対する被害が生じている。


==== 天敵導入 ====
*[[里山]]に植栽されている'''[[モウソウチク]]'''は中国原産であるが、その[[竹林]]は戦後の里山管理の衰退により、放置されていたり逸出していたりして、生育域は拡大する傾向にある。これは[[天敵]]が存在しない為であり、生態系に影響を与えつつある。この問題は基本的に[[過疎]]の弊害として語られる機会が多いのは身近な[[竹]]が外来種であるという認識が薄いためである([[竹害]]の項も参照)。
[[File: EuglandinaRoseaJul03.jpg|thumb|right|200px|ヤマヒタチオビ<br/> ''Euglandina rosea'']]
*'''[[ジャワマングース]]'''(アラビアから東南アジア原産)は、[[ハワイ]]や[[西インド諸島]]では[[ネズミ]]駆除を目的に、[[沖縄本島]]や[[奄美大島]]では猛毒をもつ[[ハブ (動物)|ハブ]]の駆除を目的として導入されたが、効果を上げるどころか生態系や農業に悪影響を与えてしまい失敗に終わった<ref name="Rmongoose">{{Cite journal|和書|author=山田文雄 |year=2006| title=マングース根絶への課題 |journal=哺乳類科学|volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/99/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=99-102|accessdate=2011-08-29}}</ref>。


*「蚊を絶やす」という和名をもつ'''[[カダヤシ]]'''(アメリカ中南部原産)は[[ボウフラ]]の駆除を狙って日本各地に導入されたが、生息環境が類似する[[メダカ]]を駆逐してしまい「メダカダヤシ」と揶揄されるまでになってしまった<ref name="Rmondai">{{Cite journal|和書|author=今井長兵衛|year=2005| title=日本における外来種問題 |journal=生活衛生|volume=49|issue=4|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei/49/4/199/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=199-214|accessdate=2011-08-28}}</ref>。
*その他、[[ミンク]]、[[アメリカザリガニ]]や[[ウシガエル]]、外来種の[[オナモミ]]類、[[セイヨウタンポポ]]など。


*外来種対策としてその対象外来種の原産地における天敵である別の外来種を導入することがある。最も古い事例では、1868年頃のアメリカで猛威を振るっていたオーストラリアから侵入した'''[[ワタフキカイガラムシ]]'''の天敵である'''[[ベダリアテントウ]]'''を同じくオーストラリアから持ち込んで、被害の低減に成功している<ref name="Belton"/>。一方で、食用目的で持ち込まれたものの[[広東住血線虫症]]などの病気を媒介するため放棄された''' [[アフリカマイマイ]]'''(東アフリカ原産)を駆除する目的で、'''[[ヤマヒタチオビ]]'''(アメリカ原産)という肉食性巻貝が世界の島々に導入されたが、固有の陸生巻貝を捕食してしまい問題となった<ref name="Bkng"/>。さらに、肉食性の'''[[ニューギニアヤリガタリクウズムシ]]'''(ニューギニア原産)も同じ目的で導入され、アフリカマイマイやヤマヒタチオビを襲ったものの、この生物もやはり島の在来巻貝を脅かし、負の連鎖が続いている<ref name="Ryariu">{{Cite journal|和書|author=大林隆司|year=2006| title=ニューギニアヤリガタリクウズムシについて : 小笠原の固有陸産貝類への脅威 |journal=小笠原研究年報|volume=29|url= http://www.repository.lib.tmu.ac.jp/dspace/bitstream/10748/2314/1/20002-29-006.pdf|format=PDF|pages=23-35|accessdate=2011-09-01}}</ref>。
*長野県[[辰野町]][[松尾峡]]の場合、町役場が観光用に移入した他県産[[ゲンジボタル]]の養殖を続けている(2009年現在)。それによって、移入ゲンジボタルが在来ゲンジボタルの個体減少を引き起こしている<ref>井口豊(2006)全国ホタル研究会誌,39: 37-39.</ref><ref name="Hiyori2007">日和佳政・水野剛志・草桶秀夫(2007)全国ホタル研究会誌,40: 25-27.</ref><ref name="Iguchi2009">Iguchi, Y. (2009) Biodiversity and. Conservation, 18: 2119-2126.</ref>。日本有数のゲンジボタル生息地で起きている生態破壊問題であるということ、および、それを引き起こしているのが、本来、[[生物多様性基本法]]を守るべき立場にある地方自治体(辰野町役場)である点で特筆される。


==== 第一次産業(農業・漁業) ====
=== 遺伝子の攪乱 ===
[[File:Bullfrog - natures pics.jpg|thumb|right|200px|ウシガエル<br/> ''Procambarus clarkii'']]
外来種が在来種と交雑することにより、在来種の遺伝子が変容することがある。この現象を[[遺伝子汚染]]、または遺伝子流出という。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでの[[遺伝子プール]](その個体群が共有する一定の変異幅をもつ遺伝子の総体)の状態を回復することは、事実上不可能となる。[[固有種|固有種・固有亜種]]に外来遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種や亜種が消滅することになるため、問題は特に深刻である。
*'''[[ウシガエル]]'''(北アメリカ原産)は食用として日本に導入され、1950-1970年に年間数百トンが生産されたものの、当初の目的とは異なり[[実験動物]]として広く利用された<ref name="Bkng"/>。また、それに関連して'''[[アメリカザリガニ]]'''がウシガエルの餌に用いるために導入された<ref name="Bkng"/>。


*'''[[セイヨウオオマルハナバチ]]'''(ヨーロッパ原産)は日本ではハウス[[トマト]]の受粉媒介昆虫として年間3-4万コロニーが輸入された<ref name="Rmaru">{{Cite journal|和書|author=鷲谷いづみ|year=1998| title=保全生態学からみたセイヨウオオマルハナバチの侵入問題|journal=日本生態学会誌|volume=48|issue=1|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110001880957.pdf?id=ART0002056101&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1313887123&cp=|format=PDF|pages=73-78|accessdate=2011-08-21}}</ref>。
[[農作物]]や[[家畜]]の品種改良の場合、人為的条件での適応、すなわち人間にとって優れた特性の獲得が、交配により達成され、原種と大きく異なった形態の品種が生み出されることが多い。このような例を踏まえて、遺伝子の攪乱は種としては新たな適応の機会であり、悪い事ではないという意見も見受けられる([[池田清彦]]は「[[遺伝的多様性]]が増す」ともコメントしている)。しかし、自然環境下の動植物で遺伝子の攪乱が広がった場合、攪乱前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及ぼしたり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れもある。[[沖縄諸島|沖縄]]で、[[タイワンハブ]]が[[ホンハブ]]と交雑した結果、従来よりも強力な毒性を持つ雑種が誕生している例などもある。


*'''[[ニジマス]]'''、'''[[カワマス]]'''、'''[[シナノユキマス]]'''、'''[[ブラウントラウト]]'''などサケ・マス類は、有用な水産資源として積極的に日本の各地の河川や湖に導入されている。
*1920年ごろから、日本では狩猟愛好家の手による'''[[コウライキジ]]'''(朝鮮原産)の放鳥が開始され、現在でも毎年10万羽以上のコウライキジが全国で放されている。これにより、コウライキジと在来種である[[キジ|ニホンキジ]]の交雑が進み、純粋なニホンキジは(日本の国鳥とされているにもかかわらず)野生状態ではすでに1羽も存在しないと思われる。体が小柄で、胸全体が緑黒色であり、首にコウライキジのような白い輪状の羽毛をもたないことがニホンキジ独自の特徴だが、そのようなかつてのニホンキジの遺伝子を完全に復元する方法は、おそらく存在しない。


==== 緑化・ガーデニング ====
*'''[[タイワンザル]]'''は1940年に[[伊豆大島]]で野生化したが、1955年ごろに[[和歌山県]]で、1975年には[[青森県]]でも、野生化が確認された。タイワンザルは[[ニホンザル]]との交雑が可能であり、実際に、和歌山県でも青森県でも、雑種が生まれている。これが全国に広がれば、純粋なニホンザルは消滅してしまうことも考えられる。
[[File: Lantana camara.jpg|thumb|right|200px|ランタナ ''Lantana camara '']]
*道路法面の緑化や砂防のために'''[[シナダレスズメガヤ]]'''や'''[[オニウシノケグサ]]'''、''' [[ハリエンジュ]]'''などの多くの外来植物が日本各地で広く利用されてきた。


*[[園芸]]植物のほとんどは野外に定着することはまれだが、なかには'''[[ハルジオン]]'''、''' [[オオハンゴンソウ]]'''、'''[[オオキンケイギク]]'''、'''[[ルピナス]]'''、'''[[ランタナ]]'''、'''[[フランスギク]]'''といった適応力の高い植物が、ときには国立公園などの原生的な自然環境にまで広がっている<ref name="Bkng"/>。
*日本全国で、逃亡したり、狩猟目的のために放獣されたりした'''[[イノブタ]]'''([[イノシシ]]と[[ブタ]]の雑種)と在来種のニホンイノシシの交雑が進み、ニホンイノシシの純粋性は失われつつある。


==== 娯楽 ====
*'''[[タイリクバラタナゴ]]'''は1940年代前半に、中国から他の魚([[ハクレン]]・[[ソウギョ]]など)に混じって[[利根川]]水系に導入されたが、1960年代以降、人為的に全国各地に分布を広げた。西日本各地で在来の[[ニッポンバラタナゴ]]と交雑し、雑種個体群として累代を続けた結果、純粋なニッポンバラタナゴの生息地はきわめて局所的に残るのみとなり、ニッポンバラタナゴの絶滅が懸念されている。
[[File: Largemouth.JPG |thumb|right|200px|オオクチバス <br/>''Micropterus salmoides'']]
*ルアーフィッシングの流行により、北アメリカ原産の肉食魚'''[[ブラックバス]]'''([[オオクチバス]]など)が、釣り団体などによって全国の河川や湖沼に大量に放流された<ref>[http://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/bull/bull12/yodo.pdf バス問題の経緯と背景] (独)[[水産総合研究センター]]</ref>。移植放流がほとんどの地域で禁止された現在でも、密放流が繰り返されているといわれる<ref name="Rbasska">{{Cite journal|和書|author=瀬能宏 |year=2006| title=外来生物法はブラックバス問題を解決できるのか? |journal=哺乳類科学|volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/103/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=103-109|accessdate=2011-08-30}}</ref>。


*[[狩猟]]鳥として需要のある'''[[コウライキジ]]'''や'''[[ヤマドリ]]'''、'''[[コリンウズラ]]'''は養殖されて、[[猟友会]]などの狩猟関係者が中心となって日本各地に大量に放鳥されている<ref name="Bkng"/><ref name="Bghb"/>。
*[[京都府]]の[[賀茂川]]において、食用として持ち込まれた'''[[チュウゴクオオサンショウウオ]]'''が野生化し、日本固有種である在来の[[オオサンショウウオ]]との交雑が問題になっている。ただ、チュウゴクオオサンショウウオも、IUCN版[[レッドリスト]](Ver.3.1(2001))において「Critically Endangered(絶滅寸前)」とされている[[絶滅危惧種]]であり、外来種として単純に処理できないことが問題を深めている。


==== 環境保護 ====
*[[ペット]]として輸入されて逃げ出した外国産'''[[クワガタムシ]]'''や'''[[カブトムシ]]'''による在来種の遺伝子攪乱も、よく知られている(ヒラタクワガタと亜種の間柄であるオオヒラタクワガタとの交雑など)。[[スッポン]]は渡来人が食料として持ち込んだ個体が交雑し、既に本来の在来種と異なる状態になっていると思われる。
外来種問題に無理解であるがゆえに、自然を回復させるための自然保護活動や[[ビオトープ]]活動が逆に地域の自然を破壊してしまう場合もみられる。
[[File: Etourneau DSC01833.JPG |thumb|right|200px|ホシムクドリ ''Sturnus vulgaris'']]


*開発によって激減した[[ホタル]]を呼び戻そうという活動が日本各地で行われているが、そのなかで地域のホタルの[[遺伝的多様性]]を考慮していない無差別なホタルの放虫がなされる事態が多発している。[[長野県]][[辰野町]][[松尾峡]]の場合、町役場が観光用に移入した他県産'''[[ゲンジボタル]]'''を養殖し、外来ゲンジボタルが在来ゲンジボタルの個体数減少を引き起こしている<ref>井口豊(2006)全国ホタル研究会誌,39: 37-39.</ref><ref name="Hiyori2007">日和佳政・水野剛志・草桶秀夫(2007)全国ホタル研究会誌,40: 25-27.</ref><ref name="Iguchi2009">Iguchi, Y. (2009) Biodiversity and. Conservation, 18: 2119-2126.</ref>。
=== 第一次産業等への影響 ===
*戦前まで毛皮獣として盛んに飼養された'''[[ヌートリア]]'''は、戦後、需要がなくなるとともに放され、中部地方以西の各地の河川や沼地に定着した。[[イネ]]や[[野菜]]などの農作物に大きな被害を与えていることが報告されている。
*[[第二次世界大戦]]中の日本では、食糧増産のために中国から'''[[四大家魚]]'''(ソウギョ・ハクレン・[[コクレン]]・[[アオウオ]])を利根川水系に導入した。しかし戦後、これら4種は食糧問題の解決には十分資さないまま、ソウギョを水域の除草目的に転用することとなった。ソウギョの過剰な放流で、在来の[[水生植物]][[群落]]をほぼ壊滅的な状態に追い込んだケースも見られた。[[富栄養化]]した水域ではソウギョによる[[水草]]除去が一段落した後、[[植物プランクトン]]が大量発生し、水草が繁茂していたとき以上に環境が悪化して問題となった。
*ブラックバスや[[ブルーギル]]も導入当初は、食用としての利用が本格的に検討されたものの、日の目を見ることはなかった。特にブルーギルについては、養殖試験まで行われたが稚魚期の成長が遅く、養殖には適さないと判断された。その後1970-2000年代に、人為的かつ無秩序な移殖放流がなされた結果、[[内水面漁業]]のみならず日本の生態系に大きな負荷を与え続けている(「在来種への圧迫」の項参照)。2005年、この2種が「外来生物法」によって「特定外来生物」に指定されるに前後して、駆除個体を食用として利用する試みが行われている(キャッチアンドイート)。例えば、[[滋賀県立琵琶湖博物館]]では、館内のレストランでブラックバスを[[天ぷら]]・[[フライ (料理)|フライ]]にして「バス天丼」・「バスバーガー」(バーガーは夏休みのみ限定販売)のメニューを提供している。


*[[二酸化炭素]]を吸収する能力が高く、[[地球温暖化]]防止につながる環境にやさしい植物として、'''[[ケナフ]]'''(アフリカ西部原産)が1990年代に注目を集め、多くの団体が自然植生を刈り取ってまでしてケナフを植栽した<ref name="Bghb"/>。
=== その他 ===
*病原菌や寄生虫の持ち込み
:従来その地域では見られなかった病原菌や[[寄生虫]]が外来種とともに移入された場合、人間や在来種に被害を与える場合がある。1905年ごろの'''[[ニホンオオカミ]]'''の絶滅の原因の1つとして、輸入犬からの伝染病による個体数の減少が指摘されている。([[タヌキ]]や[[キタキツネ]]にも同様の伝染病の被害が出ている)
・淡水魚においては外来菌のエドワジエライクタルリなどが直接的な被害を及ぼし、2007年に多摩川などの3河川で確認され、アユなどの大量死を引き起こしている。


*環境保護とは趣旨が異なるが、アメリカで活動する[[順化協会]]という組織は、自らの思想に基づいた理想の動植物を世界各地に導入しようと活動し、そのひとつとして'''[[ホシムクドリ]]'''を1896年にニューヨークの[[セントラルパーク]]に100羽ほど意図的に放しており、この鳥は80年後には1億2000万羽にまで大増殖している<ref name="Bigs"/>。
*植生の破壊
*生活環境等への被害
:電線の切断、家屋への侵入など。


=== 野生化した家畜 ===
=== 非意図的導入 ===
[[File: Zebra mussel GLERL 3.jpg |thumb|right|200px|カワホトトギスガイ '' Dreissena polymorpha'' に覆われた流速計([[ミシガン湖]])]]
野生種よりも繁殖力が旺盛な'''[[ヤギ]]'''、'''[[ウサギ|カイウサギ]]'''、'''[[イエネコ]]'''、'''[[イエイヌ]]'''などの[[家畜]]種が野生化し、国内外来種となった場合、地域の生態系に深刻な影響を与えることがある。
*'''[[シロツメクサ]]'''(ヨーロッパ原産)は、江戸時代に[[オランダ]]から輸入されたガラス器の箱の中に敷き詰めてあったもので、種子が偶発的にこぼれおちて発芽し、日本全域に広まったものといわれている。


*資材や物資に混入して導入されたものと推測される外来種も多く、日本では'''[[セアカゴケグモ]]'''(オーストラリア原産)や'''[[ハイイロゴケグモ]]'''(オーストラリア、中央・南アメリカ原産)などの事例が挙げられる<ref name="Bkng"/>。1964年に沖縄の[[嘉手納基地]]周辺で確認された'''[[シロアゴガエル]]'''(インドから東南アジア原産)はアメリカ軍の物資に紛れて導入されたと考えられる<ref name="Bkng"/>。
生態系のサイズが小さい[[島嶼]]地域では、ノヤギ(粗食と悪環境に強く、草を根こそぎ引き抜いて食物とする)の放置によって、植生へ壊滅的な打撃を与える場合がある。[[八丈小島]]、[[小笠原諸島]]の[[聟島]]など例があげられる。


*'''[[ムラサキイガイ]]'''、'''[[ミドリイガイ]]'''、'''[[イガイダマシ]]'''、'''[[コウロエンカワヒバリガイ]]'''、'''[[カサネカンザシ]]'''、'''[[タテジマフジツボ]]'''など、世界中の港を行き来する貿易船の船体に付着したり、[[バラスト水]]に混入したりして日本に導入された水生生物は、少なくとも24種にのぼる<ref name="Rkaiyo">{{Cite journal|和書|author=岩崎敬二|year=2007| title=日本に移入された外来海洋生物と在来生態系や産業に対する被害について |journal=日本水産学会誌 |volume=73|issue=6|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/1121/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.1121-1124|accessdate=2011-06-24}}</ref>。アメリカの[[五大湖]]でも、'''[[カワホトトギスガイ]]'''(カスピ海、黒海原産)がバラスト水により侵入し、水中に存在するあらゆるものを覆い尽くすほど爆発的に大発生している<ref name="Bkng"/>。
[[ノネコ]]・ノイヌによる小動物の捕食・競合種への圧迫や、寄生虫などを含めた伝染病の媒介も、島嶼でこそ特に深刻な被害となりやすい。特にノネコなどの場合は、[[野犬]]のように[[狂犬病]]予防法や各都道府県の動物保護関連[[条例]]を適用する根拠がないため駆除捕殺等ができず、活動自体が[[動物愛護団体]]等の反対を受け、物議をかもすことがある。最近では、ノネコが原因と思われる、いわゆる[[ネコエイズ]]が、[[ツシマヤマネコ]]に感染した事例も見つかっている<ref>Nishimura, Y., et al. Interspecies transmission of feline immunodeficiency virus from the domestic cat to the Tsushima cat (Felis bengalensis euptilura) in the wild. J Virol. 1999 Sep;73(9):7916-21.</ref>。


*意図的に導入された生物に付着することで気づかぬうちに導入されている外来種もいる。'''[[サキグロタマツメタ]]'''(東アジア原産)という捕食性巻貝は放流用の[[アサリ]]に混入して拡散し、さらに'''[[カワヒバリガイ]]'''(中国、朝鮮半島原産)は輸入[[シジミ]]に付随して導入されたのではないかと疑われている<ref name="Rrikusui">{{Cite journal|和書|author=中井克樹|year=2009| title=陸水域における外来生物問題の課題|journal=陸水学雑誌 |volume=70|issue=3|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/70/3/277/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=277-280|accessdate=2011-08-29}}</ref>。また、[[アクアリウム]]に用いられる観賞用の[[水草]]に付着している目立たない微小な底生生物の導入も問題となっている<ref name="Rrikusui"/>。
== 史前帰化生物 ==
人類の移動・定着、あるいは農耕などによる新しい環境の作出によって、新しい地域に移入したと推定されるが、先史時代であるためにその記録のない生物を、'''史前帰化生物'''という。


日本の例としては、畑作とともに移入された[[モンシロチョウ]]、[[アカザ]]や[[ナズナ]]、稲作と縁の深い[[スズメ]]、人家にすみかをとることの多い[[アブラコウモリ]]、[[ドブネズミ]]、[[クマネズミ]]、[[ハツカネズミ]]などの家ネズミ類、[[ジャコウネズミ]]などが挙げられる。これらの生物は、数千年以上の長い年月を経て在来の生態系に組み込まれているとものと見なされ、原則として生態系への影響を理由に駆除を求められることはない。一般的には外来種と認識されることも少ない。



==世界の動き==
== 外来種のもたらす問題 ==
侵略性の強い外来種が引き起こす問題として、'''生態系に与える影響'''、'''遺伝子の撹乱'''、'''第一次産業等への被害'''、'''感染症及びヒトの生命への被害'''などが挙げられるが、2つ以上にまたがるものも珍しくない。

=== 生態系への影響 ===
在来種の動植物を捕食したり、食物や繁殖場所など生息環境を奪うことで[[競争 (生物)|競争]]種などを減少させたりする。いずれの場合も、生態系のバランスを崩し、二次的にも大きな影響を与える可能性がある。
[[File: Wild goat.jpg |thumb|right|200px|ノヤギ(小笠原諸島、父島)]]
[[File: Snake browntree.jpg |thumb|right|200px|ミナミオオガシラ<br/> ''Boiga irregularis''(グアム島)]]
[[File:Eichhornia crassipes-water hyacinth.jpg |thumb|right|200px|ホテイアオイ <br/>''Eichhornia crassipes'']]

*生態系のサイズが小さい[[島嶼]]地域では、'''[[ヤギ|ノヤギ]]'''(粗食と悪環境に強く、草を根こそぎ引き抜いて食物とする)の放置によって、植生へ壊滅的な打撃を与える場合がある<ref name="Bkng"/>。[[ハワイ諸島]]、[[ガラパゴス諸島]]、日本([[伊豆諸島]]、[[小笠原諸島]]、[[尖閣諸島]])などの例が挙げられる<ref name="Rketugi">{{Cite journal|和書|author=哺乳類保護管理専門委員会|year=1999| title=移入哺乳類への緊急対策に関する大会決議|journal=哺乳類科学 |volume=39|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/39/1/115/_pdf/-char/ja/ |format=PDF|pages=115-129|accessdate=2011-07-10}}</ref>。

*[[沖縄本島|沖縄島]]や[[奄美大島]]に定着した'''[[ジャワマングース]]'''(南西アジア原産)は、[[ヤンバルクイナ]]や[[アマミノクロウサギ]]など希少な小動物の多い両島の生態系に深刻な被害を与えている<ref name="Rmongoose"/>。

*1930年頃、阪神地方の養殖場から逃亡した個体が元になって西日本で分布を広げた'''[[チョウセンイタチ]]'''は、在来の[[ニホンイタチ]]より体が大きく食性も広いことから人間の生活環境への適応力に優れており、在来のニホンイタチを駆逐していった<ref name="Bghb"/>。ニホンイタチについても、ネズミ駆除の目的で移入された[[三宅島]]などの離島において[[アカコッコ]]などの固有種に対する被害が生じている<ref name="Bghb"/>。

*[[グアム島]]は、貨物に紛れて定着した'''[[ミナミオオガシラ]]'''(オーストラリアなど原産)の捕食により、島固有の森林性鳥類11種のうち8種が絶滅し、島の鳥類相は壊滅的被害を受けた<ref name="Bsusume"/>。

*1960年代に小笠原諸島に導入されて数百万もの個体数まで拡大した'''[[グリーンアノール]]'''(北アメリカ原産)は、[[オガサワラシジミ]]や[[オガサワラゼミ]]などの小笠原固有の昆虫を捕食し、昆虫群集の衰退をもたらしている<ref name="Ranole">{{Cite journal|和書|author=戸田光彦・中川直美・鋤柄直純 |year=2009| title=小笠原諸島におけるグリーンアノールの生態と防除|journal=地球環境 |volume=14|issue=1|url= http://www.airies.or.jp/publication/earth/pdf/14_1-07.pdf|format=PDF|pages=39-46|accessdate=2011-08-30}}</ref>。

*アフリカの[[ビクトリア湖]]では、1950年代後半に'''[[ナイルパーチ]]'''(西アフリカからナイル川流域原産)が導入されて、カワスズメ科の小型の魚類200種以上が絶滅した<ref name="Bkng"/>。この一連の出来事は「ビクトリア湖の悲劇」とも呼ばれている。

*'''[[ボタンウキクサ]]'''、'''[[オオカナダモ]]'''、'''[[コカナダモ]]'''、'''[[オオフサモ]]'''、'''[[ナガエツルノゲイトウ]]'''、'''[[ミズヒマワリ]]'''などの水生植物は、大増殖して水面を覆いつくすことで在来植物の生育を妨げ、一斉に枯死した場合は水質を悪化させる<ref name="Rsiteip">{{Cite journal|和書|author=村中孝司・石井潤・宮脇成生・鷲谷いづみ |year=2005| title=特定外来生物に指定すべき外来植物種とその優先度に関する保全生態学的視点からの検討|journal=保全生態学研究|volume=10|issue=1|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110001888700.pdf?id=ART0002065878&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1314260622&cp=|format=PDF|pages=19-33|accessdate=2011-08-28}}</ref>。なかでも'''[[ホテイアオイ]]'''(熱帯アメリカ原産)は一面に咲き誇る光景はとても美しいが、ほかの外来水生植物と同様に世界的な問題となっており、「最悪の水生害草」と呼ばれる<ref name="Rsiteip"/>。

*日本の[[里山]]に植栽されている'''[[モウソウチク]]'''(中国原産)からなる[[竹林]]は戦後の里山管理の衰退により、放置されていたり逸出していたりして、生育域は拡大する傾向にある。これは[[天敵]]が存在しない為であり、生態系に影響を与えつつある。この問題が基本的に[[過疎]]の弊害として語られる機会が多いのは身近な[[竹]]が外来種であるという認識が薄いためといえる([[竹害]]の項も参照)。

=== 遺伝子の攪乱 ===
外来種が在来種と交雑することによって在来種の遺伝子が変容することがある。この現象を[[遺伝子汚染]](遺伝的攪乱)という。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでの[[遺伝子プール]](その個体群が共有する一定の変異幅をもつ遺伝子の総体)の状態を回復することは、事実上不可能となる。[[固有種|固有種・固有亜種]]に外来遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種や亜種が消滅することになるため、問題は特に深刻である。

[[農作物]]や[[家畜]]の品種改良の場合、人為的条件での適応、すなわち人間にとって優れた特性の獲得が、交配により達成され、原種と大きく異なった形態の品種が生み出されることが多い。このような例を踏まえて、遺伝子の攪乱は種としては新たな適応の機会であり、悪い事ではないという意見も見受けられる<ref name="Bziten">{{cite book | 和書 | author =池田清彦(監修) DECO(編)| title = 外来生物辞典| publisher = [[東京書籍]] | date = 2006 | isbn = 4-487-80118-4}}</ref>。しかし、自然環境下の動植物で遺伝子の攪乱が広がった場合、攪乱前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及ぼしたり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れもある。
[[File: Formosan Rock Monkeys.jpg |thumb|right|200px|タイワンザル ''Macaca cyclopis'']]
[[File: Spartina anglica.jpg |thumb|right|200px|スパルティナ・アングリカ '' Spartina anglica'']]

*[[伊豆大島]]・[[和歌山県]]・[[青森県]]で野生化が確認されえいる'''[[タイワンザル]]'''や、[[房総半島]]に定着している'''[[アカゲザル]]'''は、日本固有の[[ニホンザル]]と交雑が可能であり、実際に雑種が生まれている<ref name="Bghb"/>。これが全国に広がれば、純粋なニホンザルは消滅してしまうことも考えられる。

*'''[[タイリクバラタナゴ]]'''(中国、台湾、朝鮮半島原産)は1940年代前半に、中国から他の魚([[ハクレン]]・[[ソウギョ]]など)に混じって[[利根川]]水系に導入されたが、1960年代以降、人為的に全国各地に分布を広げた<ref name="Rtanago">{{Cite journal|和書|author=白井康子・池田滋・伊藤英夫・横井聰 |year=2009| title=希少淡水魚ニッポンバラタナゴ保護の取組み-タイリクバラタナゴ混入個体群の池干しと捕獲による防除の試み- |journal=水環境学会誌|volume=32|issue=12|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/32/12/661/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=661-664|accessdate=2011-09-01}}</ref>。西日本各地で在来の[[ニッポンバラタナゴ]]と交雑し、雑種個体群として累代を続けた結果、純粋なニッポンバラタナゴの生息地はきわめて局所的に残るのみとなり、ニッポンバラタナゴの絶滅が懸念されている<ref name="Rtanago"/>。

*[[京都府]]の[[賀茂川]]において、食用として持ち込まれた'''[[チュウゴクオオサンショウウオ]]'''が野生化し、日本固有種である在来の[[オオサンショウウオ]]との交雑が問題になっている<ref name="Rchinas">{{Cite journal|和書|author=松井正文 |year=2005| title=DNA解析による外来種チュウゴクオオサンショウウオ事業報告書|journal=河川整備基金助成事業 | url=http://www.kasen.or.jp/seibikikin/h18/pdf/rep3-04h.pdf|format=PDF| accessdate=2011-08-29}}</ref>。ただし、チュウゴクオオサンショウウオも、IUCNの[[レッドリスト]](Ver.3.1)において「Critically Endangered(絶滅寸前)」とされており、[[ワシントン条約]]で付属書Ⅰにも掲載されているため、外来種として単純に処理できないことが問題を複雑にしている<ref name="Rchinas"/>。

*[[ペット]]として輸入されて逃げ出した外国産'''[[クワガタムシ]]'''や'''[[カブトムシ]]'''による在来種の遺伝子攪乱も危惧されている([[ヒラタクワガタ]]と亜種の間柄であるオオヒラタクワガタとの交雑など)<ref name="Bgss"/>。

*外来種と在来種が交雑することでより侵略性の強い生物種が生み出されてしまうこともある。その代表例が'''[[スパルティナ・アングリカ]]'''という非常に侵略的な[[イネ科]]の植物で、この生物は19世紀にアメリカからイギリスに持ち込まれた外来種とイギリスにもともと存在していた在来種との1代雑種の染色体数が倍加して起源している<ref name="Bgss"/>。

=== 第一次産業への影響 ===
第一次産業に外来種が大きく貢献することがある一方で、農林業や漁業に膨大な被害を与え、数十億円に達する被害額を生じさせる外来種もいる。
[[File: Nutria (Myocastor coypus).jpg|thumb|right|200px|ヌートリア ''Myocastor coypus'']]
*戦前まで毛皮獣として日本で盛んに飼養された'''[[ヌートリア]]'''(南アメリカ原産)は、戦後、需要がなくなるとともに放され、中部地方以西の各地の河川や沼地に定着した。[[イネ]]や[[ニンジン]]、[[サツマイモ]]などの農作物に大きな被害を与えていることが報告されている<ref name="Bkng"/>。ほかに日本の例では、'''[[アライグマ]]'''や'''[[キョン]]'''、'''[[イノブタ]]'''などの陸生哺乳類が農作物被害を引き起こしている<ref name="Bghb"/>。

*[[第二次世界大戦]]中の日本では、食糧増産のために中国から'''[[四大家魚]]'''('''[[ソウギョ]] '''・'''[[ハクレン]]'''・'''[[コクレン]]'''・'''[[アオウオ]]''')を利根川水系に導入した<ref name="Bgfish"/>。しかし戦後、これら4種は食糧問題の解決には十分資さないまま、ソウギョを水域の除草目的に転用することとなった。ソウギョの過剰な放流で、在来の[[水生植物]][[群落]]をほぼ壊滅的な状態に追い込んだケースも見られた<ref name="Bgfish"/>。[[富栄養化]]した水域ではソウギョによる[[水草]]除去が一段落した後、[[植物プランクトン]]が大量発生し、水草が繁茂していたとき以上に環境が悪化して問題となった。

=== 感染症及びヒトの生命への被害 ===
従来その地域では見られなかった病原菌や[[寄生虫]]が外来種とともに移入された場合、人間や在来種に被害を与える場合がある。
[[File: Fire ants02.jpg|thumb|right|200px|アカヒアリ ''Solenopsis invicta'']]
*1905年ごろの'''[[ニホンオオカミ]]'''の絶滅の原因の1つとして、輸入犬からの伝染病による個体数の減少が指摘されている。([[タヌキ]]や[[キタキツネ]]にも同様の伝染病の被害が出ている)

*[[タンザニア]]の[[セレンゲティ国立公園]]では、公園周辺に暮らす3万頭もの'''[[ノイヌ]]'''が持ち込んだ[[犬ジステンパー]]という病気によって[[ライオン]]の25%が死亡した<ref name="Bsusume"/>。

*'''[[ノネコ]]'''が原因と思われる[[猫後天性免疫不全症候群]](ネコエイズ)が、[[ツシマヤマネコ]]に感染した事例も見つかっており、[[イリオモテヤマネコ]]も脅威にさらされている<ref name="Bosou"/><ref>Nishimura, Y., et al. Interspecies transmission of feline immunodeficiency virus from the domestic cat to the Tsushima cat (Felis bengalensis euptilura) in the wild. J Virol. 1999 Sep;73(9):7916-21.</ref>。

*世界各地に定着している'''[[アルゼンチンアリ]]'''(南アメリカ原産)は、屋内に侵入したり、就寝中の人間を咬むなどして、不快害虫となっている<ref name="Rari">{{Cite journal|和書|author= 環境省 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室|year=2009| title=アルゼンチンアリ防除の手引き |url= http://www.env.go.jp/nature/intro/4control/files/manual_argentine.pdf|format=PDF|accessdate=2011-08-29}}</ref>。さらに、[[アルカロイド]]系の毒をもつ'''[[アカヒアリ]]'''(南アメリカ原産)によって咬まれることで北アメリカでは大勢の人間が死亡する事態になっている<ref name="Bkng"/>。

*'''[[ブタクサ]]'''や'''[[オオブタクサ]]'''などのキク科植物、そして'''[[カモガヤ]]'''や'''[[オオアワガエリ]]'''などのイネ科植物は[[花粉症]]を引き起こし、人間の健康に悪影響を及ぼす<ref name="Bkng"/>。とくにこれらの外来植物は雑草として市街地などの人間に身近な場所に生育している。

== 外来種をめぐる世界の動き ==
自然保護が世界的に関心を集め始めた[[1990年代]]から、[[生態系]]や[[生物多様性]]に悪影響を及ぼす存在としての外来種問題が注目されるようになった。

*[[1980年]]:[[世界自然保護基金]](WWF)・[[国際自然保護連合]](IUCN)・[[国連環境計画]](UNEP)が発表した「世界環境保全戦略」のなかで外来種の侵入について触れる。
*[[1992年]]:[[生物多様性条約]]の第8条にて、外来種の制限、規制の概念が持ち込まれる。
*[[1992年]]:[[生物多様性条約]]の第8条にて、外来種の制限、規制の概念が持ち込まれる。
*[[1999年]]:[[生物の多様性に関する条約]](カルタヘナ議定書)にて、生物多様性の保全を図る中で、[[遺伝子組み換え]]植物の移入規制の検討が盛り込まれる。
*[[1999年]]:[[生物の多様性に関する条約]](カルタヘナ議定書)にて、生物多様性の保全を図る中で、[[遺伝子組み換え]]植物の移入規制の検討が盛り込まれる。
*[[2000年]]:国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会(SSC)が「[[世界の侵略的外来種ワースト100]]」を発表する。
*[[2002年]]:[[ラムサール条約]]締結国会議で、侵入種の脅威に対する決議が行われる。
*[[2002年]]:[[ラムサール条約]]締結国会議で、侵入種の脅威に対する決議が行われる。


=== アメリカ ===
== 日本に生育・生息する主な外来種 ==
連邦法であるレーシー法(Lacey Act)が外来種の流通を規制しているほか、各州の野生動物法でも外来種を規制して対策にあたっている<ref name="Bigs"/>。
=== 動物 ===
==== 脊椎動物 ====
===== 哺乳類 =====
* [[アライグマ]]
* [[キョン]]
* [[タイワンザル]]
* [[タイワンリス]]
* [[シマリス|チョウセンシマリス]]
* [[ヌートリア]]
* [[マスクラット]]
* [[ハクビシン]]
* [[ジャワマングース]]
* [[ミンク]]


===== 鳥類 =====
=== ヨーロッパ ===
各国の国内法によって外来種対策が義務化されているが、域内自由経済圏である[[ユーロ]]の出現にともない外来種の管理が難しくなっているという側面もある<ref name="Bigs"/>。
* [[インドクジャク]]
* [[カワラバト|ドバト]]
* [[カササギ]]
* [[コウライキジ]]
* [[コジュケイ]]
* [[シラコバト]]
* [[ソウシチョウ]]
* [[ベニスズメ]]
* [[ワカケホンセイインコ]]


===== 爬虫類 =====
=== 日本 ===
2000年以前の日本では、外来種問題に対して、以下のような野生動物やペット・家畜などに関係する既存の法律に基づいて、各々の法律の範囲内でばらばらに行動しているに過ぎなかった<ref name="Rhokisei">{{Cite journal|和書|author=村上興正 |year=2000| title=日本における外来種の法的規制|journal=保全生態学研究|volume=5|issue=2|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110007643288.pdf?id=ART0009462493&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1314261038&cp=|format=PDF|pages=119-130|accessdate=2011-08-28}}</ref>。
* [[カミツキガメ]]
*[[鳥獣保護法]]:狩猟鳥獣の狩猟、有害鳥獣の駆除
* [[グリーンイグアナ]]
*[[種の保存法]]:生息地保護区の指定区域内への放逐の規制
* [[アカミミガメ|ミシシッピアカミミガメ]](ミドリガメ)
*[[動物愛護法]]:愛護動物の遺棄の禁止、危険動物の管理義務
* [[ワニガメ]]
*[[植物防疫法]]:農林業に関係する生物の検疫
===== 両生類 =====
*[[家畜伝染病予防法]]:畜産業に関係する疫病の検疫
* [[ウシガエル]](食用ガエル)
*[[狂犬病予防法]]:狂犬病に関係する動物(キツネ、アライグマ、スカンクなど)の検疫
* [[オオヒキガエル]](マリントード)
*[[感染症予防法]]:人に関係する疫病対策(とくにサル類の検疫)
* [[シロアゴガエル]]
*内水面漁業規則:外来水生生物(ブラックバス、ウチダザリガニなど)の移植規制
* [[チュウゴクオオサンショウウオ]]
*[[ワシントン条約]]による検閲:絶滅の恐れのある一部の生物の商業取引の規制


これらの法律は生物多様性へのリスクなどを考慮して外来種問題への具体的な対策にあたるには不十分であった。こうした事実上放置に近い状態にあった外来種問題は、2000年代初めににわかに脚光を浴びるようになり、行政・民間の双方で、さまざまな動きが起こり始めた。まず、2000年に環境省の自然環境局に「野生生物保護対策検討会移入種問題分科会」が設置された。1995年に閣議決定した「[[生物多様性国家戦略]]」では簡単な扱いにとどまっていた外来種問題も、2002年の「新・生物多様性国家戦略」では外来種による生態系の攪乱を第3の危機として位置付けられた。2003年12月には「移入種対策に関する措置の在り方について(答申)」が中央環境審議会から提出され、外来種を包括的に扱う法律を作ることが求められた。そして、2004年5月27日に[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]](外来生物法)が可決・成立、6月2日に公布され、2005年6月から施行された。この法律では「特定外来生物等専門家会合」および「特定外来生物等分類群専門家グループ会合」で専門の学識経験者の参加のもと、[[特定外来生物]]と[[要注意外来生物]]を指定し、規制と防除に取り組むことができるようになっている<ref name="Rghourya"/>。
===== 魚類 =====
{{See also|特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律}}
これらの種は'''外来魚'''とよばれることが多い。'''太字'''は[[特定外来生物]]、''斜体''は[[要注意外来生物]]に指定されていることを示す。(2011年8月4日現在)
淡水魚
* ''[[アオウオ]]''
* '''[[アメリカナマズ]]'''('''[[チャネルキャットフィッシュ]]''')
* [[アリゲーターガー]](実際に繁殖は確認されていない。可能性があるというだけである。詳しくは[[ガー目#琵琶湖などにおける繁殖の可能性とその影響について|琵琶湖などにおける繁殖の可能性とその影響について]]を参照してください。)
* ''[[オオタナゴ]]''
* '''[[カダヤシ]]'''
* ''[[カワマス]]''(''[[ブルックトラウト]]'')
* ''[[グッピー]]''
* [[コクレン]](レンギョ)
* ''[[ソウギョ]]''
* [[タイワンキンギョ]]
* ''[[ティラピア]]''(''ナイルティラピア'')
* ''[[ニジマス]]''(''[[レインボートラウト]]'')
* [[ハクレン]](レンギョ)
* ''[[バラタナゴ|タイリクバラタナゴ]]''
* ''[[ブラウントラウト]]''
* '''[[ブラックバス]]'''('''[[オオクチバス]]'''、'''[[コクチバス]]''')
* '''[[ブルーギル]]'''
* '''[[ストライプトバス]]''''''([[ストライプドバス]]''')[[海域]]にも進出する。
* ''[[ペヘレイ]]''
* ''[[ライギョ]]''(''[[カムルチー]]''、''[[タイワンドジョウ]]'')
* [[レイクトラウト]]


地方自治体でも外来種対策に取り組んでいる地域がある。北海道では、絶滅の危機に瀕する生物をリストする「[[レッドリスト]]」にちなんで、外来種をその危険性をもとに区分した「ブルーリスト」を作成している<ref name="Iblue">北海道 [http://bluelist.ies.hro.or.jp/ ブルーリスト]</ref>。滋賀県では、「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」によって「指定外来種」を規定して、飼育の届け出義務や放逐の禁止を課している<ref name="Isiga">滋賀県 [http://www.pref.shiga.jp/d/shizenkankyo/kyoseijourei.html ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例]</ref>。
海水魚
* ''[[タイリクスズキ]]''


また、2008年度に[[文部科学省]]が示した中学校理科の[[学習指導要領]]において、初めて外来種に関する文言が盛り込まれるようになり、外来種問題が学校教育に取り上げられ始めている<ref name="Rkeihatu">{{Cite journal|和書|author=中山聖子|year=2009| title=外来生物問題の普及啓発の重要性と陸水域で望まれる対策について |journal=陸水学雑誌|volume=70|issue=3|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/70/3/281/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=281-283|accessdate=2011-09-01}}</ref>。
==== 無脊椎動物 ====
===== 扁形動物 =====
* [[ニューギニアヤリガタリクウズムシ]]
* [[オオミスジコウガイビル]]


===== 軟体動物 =====
=== ニュージーランド ===
外来種によって深刻な環境破壊が発生しているニュージーランドは、外来種規制が世界でも最も厳しい国として知られる<ref name="Bigs"/>。まず、生物安全保障法(Biosecurity Act)に基づき不要生物(unwanted organism)を指定し、輸入・流通(国内を含む)・放出がすべて禁止される<ref name="Bigs"/>。さらに、危険及び新生物法(Hazardous Substances and New Organism Act)により、専門の委員会によって承認されなければ、外来種は一切の輸入・所持・放出ができない<ref name="Bigs"/>。これは、アメリカのレイシー法や日本の外来生物法のようなブラックリスト方式とは異なり、ホワイトリスト方式という非常に厳しい制限である<ref name="Rngland">{{Cite journal|和書|author=加藤英寿|year=2007| title=ニュージーランドにおける外来種対策について |journal=小笠原研究年報|volume=30|url= http://www.repository.lib.tmu.ac.jp/dspace/bitstream/10748/2329/1/20002-30-003.pdf|format=PDF|pages=1-13|accessdate=2011-08-28}}</ref>。そのため、国内の空港では厳しい検疫を受けることになる<ref name="Rngland"/>。
* [[アフリカマイマイ]]
* [[コウロエンカワヒバリガイ]]
* [[サキグロタマツメタ]]
* [[サカマキガイ]]
* [[スクミリンゴガイ]]
* [[チャコウラナメクジ]]
* [[ムラサキイガイ]]


===== 節足動物 =====
== 対策 ==
生物多様性条約の第8条h項に「各々の締約国は、生態系、生息地、若しくは種を脅かす外来種の導入を阻止し、又はそのような外来種を制御し、若しくは撲滅すること」と明記されていることからもわかるように、生物多様性を脅かす外来種問題の解決は人間の、そして国の責務になっている<ref name="Bghb"/>。
* [[アカボシゴマダラ]]

* [[アメリカシロヒトリ]]
「外来侵入種によってひきおこされる生物多様性減少防止のためのIUCNガイドライン」によれば、外来種の導入の阻止は最も費用対効果の高い対策であり、外来種の導入によるリスクを最大限考慮するべきという予防原則を提示している<ref name="Bghb"/>。したがって、外来種の輸入や利用を規制し、水際で導入を阻止することが何よりも重要視される。環境省は「(外来種を)入れない、捨てない、拡げない」の外来生物被害予防三原則の実践を一般に呼びかけている<ref name="Renvgo">環境省 自然環境局「[http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/basic.html 侵略的な外来生物とは]」</ref>。
* [[アメリカザリガニ]]

* [[アルゼンチンアリ]]
外来種の導入を未然に防ぐことができず、定着してしまった場合は、外来種をその生態系から完全に取り除く'''根絶'''(eradication)と、外来種個体群をその悪影響が問題にならないレベルの密度に抑える'''管理'''(control)の2つの方策が検討される<ref name="Rsinaitoki">{{Cite journal|和書|author=亘悠哉|year=2011| title=外来種を減らせても生態系が回復しないとき:意図せぬ結果に潜むプロセスと対処法を整理する |journal=哺乳類科学|volume=51|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/51/1/27/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=27-38|accessdate=2011-08-30}}</ref>。IUCNガイドラインでは、根絶は最良の管理手段であり、とくに定着初期の段階では効果が高いとしている<ref name="Bghb"/>。
* [[イッカククモガニ]]

* [[ウチダザリガニ]]
根絶や管理のための具体的な手法として、銃やわな、天敵導入、毒物の利用による捕獲・駆除、柵などの移動制限が挙げられる。オーストラリアでは、外来種の'''[[ウサギ]]'''を駆除するため、致死性の粘液腫ウィルスの導入が行われたことがあるが、ウサギの耐性獲得とウィルスの弱毒化変異により失敗した。
* [[カブトムシ]]類([[サイカブト]]など)

* [[クワガタムシ]]類([[オオヒラタクワガタ]]など)
一度定着した侵略的な外来種を根絶することは非常に難しいが、面積の狭い地域では根絶に成功した事例がいくつかある。日本では南西諸島の島々に拡大した'''[[ウリミバエ]]'''に対して20年以上の歳月をかけて[[不妊虫放飼]]法と駆除を併用することで根絶を達成した<ref name="Ruri">{{Cite journal|和書|author=小山重郎|year=1994| title=日本におけるウリミバエの根絶 |journal=日本応用動物昆虫学会誌 |volume=38|issue=4|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110001124396.pdf?id=ART0001292087&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1311640403&cp=|format=PDF|pages= 219-229|accessdate=2011-08-29}}</ref>。また、1999年から開始した小笠原の[[聟島列島]]の[[聟島]]、[[媒島]]、[[嫁島]]に生息するノヤギの排除事業は、柵への追い込みと射殺により2002までに完全な排除に成功し、ほかの近隣の島々でも進められている<ref name="Ryagi">{{Cite journal|和書|author=常田邦彦|year=2006| title=小笠原のノヤギ排除の成功例と今後の課題 |journal=哺乳類科学|volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/93/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=93-94|accessdate=2011-08-30}}</ref>。外来海洋生物の根絶事例は、世界でもオーストラリアの閉鎖的な港(マリーナ)における'''[[イガイダマシ]]'''の駆除の一例のみである<ref name="Rkaiyo"/>。
* [[クロガケジグモ]]

* [[ゴキブリ]]類(クロゴキブリ・チャバネゴキブリ・ワモンゴキブリ)
== 課題 ==
* [[コナジラミ]]類([[オンシツコナジラミ]]など)
外来種問題は必ずしも対策が順調に進んでいるとはいえず、仮に対策が実行できたとしても望んだ効果をあげられているとは限らない。ある1種類の外来種を駆除したことで別の外来種が増加し、かえって在来の生態系に負の影響を与えることもある(オオクチバスの駆除によるアメリカザリガニの増加、ジャワマングースの駆除による'''[[クマネズミ]]'''の増加、ノヤギの駆除による外来植物の増加など)<ref name="Rsinaitoki"/><ref name="Ramami">{{Cite journal|和書|author=石田健・宮下直・山田文雄|year=2003| title=群集動態を考慮した生態系管理の課題と展望: 奄美大島における外来種問題の事例 |journal=保全生態学研究 |volume=8|url= http://forester.uf.a.u-tokyo.ac.jp/~ishiken/Amami/ecosystemmanagement/JCEAmamiEcoMng03.pdf |format=PDF|pages=159-168|accessdate=2011-09-01}}</ref>。
* [[セアカゴケグモ]]

* [[セイヨウオオマルハナバチ]]
また、外来種をめぐるさまざまな利害関係者と合意形成を図るのは極めて困難であり、ときには激しく対立して大きな論争となることもある。その一例として、'''[[オオクチバス]]'''を特定外来生物に指定するための会議では、釣魚愛好家・公益法人・釣り業界等・政治家の反対を受け、議論は大きく難航した<ref name="Rbasska"/>。結局このオオクチバスに関しては「釣り人の協力を得る必要がある」とする環境省によって、一旦は指定を先送りすることが決定されたものの、環境相の指示によって方針転換した結果、2005年1月31日に決定された第1陣の指定リスト案に記載されることとなった<ref name="Rbasska"/>。オオクチバスの場合は駆除対象になったが、侵略的外来種に該当するもののなかでも[[害獣]]・[[害虫]]等の駆除に役立っている動物や、美味で知られる'''[[ニジマス]]'''のように、外来種であっても、人間にとってその存在が好都合であるために、駆除の対象から除かれるものはまだまだ多い。
* [[タンカイザリガニ]]

* [[チチュウカイミドリガニ]]
外来種対策を進めるうえで障害になるものとして、外来種が地域の文化にすっかり浸透してしまっていたり、保護対象になっていたりすることがある。例えば、身近に生き物を増やしたいという善意による魚の放流やホタルの放虫は各地で当たり前のように行われており、[[マスメディア]]もしばしば美談として報道することもあるが、こうした生物の放逐は外来種問題となりうる危険性をはらんでいる<ref name="Rgyosaguru">{{Cite journal|和書|author=中井克樹 |year=2000| title=日本における外来魚問題の背景と現状 : 管理のための方向性をさぐる |journal=保全生態学研究|volume=5|issue=2|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110007643292.pdf?id=ART0009462497&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1314694590&cp=|format=PDF|pages=171-180|accessdate=2011-08-31}}</ref>。そのため、無秩序な放流を防ぐ目的で専門の研究者や学会が中心となってガイドラインが作成されている<ref name="Sregyo">日本魚類学会「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2005.html 生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン]」</ref>。野生化で絶滅した生物について他地域から近縁な個体群を導入して復活させる'''再導入'''(re-introduction)においても、遺伝的多様性や在来の生態系に対しての配慮が求められている([[オオカミの再導入]]や[[トキ]]などを参照)<ref name="Sreintro">IUCN(国際自然保護連合)・SSC(種の保存委員会) 再導入専門家グループ「[http://sites.google.com/site/fwfwatanak/home/conservation/iucnguidelines 再導入のためのIUCN/SSCガイドライン(和訳)]」</ref>。特異な事例として、分類学上の扱いの変化によって希少種が外来種になってしまうことがある。'''[[タンカイザリガニ]]'''は[[滋賀県]]の[[淡海湖]]にのみ生息する希少なザリガニとして地域の人々に保護されてきたが、その後の研究で北アメリカ原産の'''[[ウチダザリガニ]]'''と同じ種(もしくは亜種)であることが判明した<ref name="Rzari">{{Cite journal|和書|author= Usio N・中田和義・川井唯史・北野聡|year=2007| title=特定外来生物シグナルザリガニ(Pacifastacus leniusculus)の分布状況と防除の現状|journal=陸水学雑誌|volume=68|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/68/3/471/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=471-482|accessdate=2011-08-29}}</ref>。北海道の固有のヒキガエルとして考えられていたエゾヒキガエルも本州から持ち込まれた'''[[ニホンヒキガエル]]'''であることがわかっている<ref name="Bghb"/>。これらの外来種が生息する地元では、その生物種が外来種であると明らかになった現在でも保護活動を続けている。こうした矛盾した事例はほかにも存在し、例えば'''[[ケラマジカ]]'''や'''[[カササギ]]'''は[[天然記念物]]に指定されている外来種である。また、自治体の鳥として外来種を指定している地域もある(例:[[サウスダコタ州]]の'''[[コウライキジ]]'''、[[埼玉県]]の'''[[シラコバト]]'''、[[佐賀県]]の'''[[カササギ]]''')。極端な例では、2010年に[[山梨県]][[西湖 (富士五湖)|西湖]]で再発見され大きなニュースとなった'''[[クニマス]]'''は、[[秋田県]]の[[田沢湖]]から持ち込まれた個体群に由来するため、事実上、絶滅種から一転して国内外来種となったことになる。
* [[チリカブリダニ]]

* [[テントウムシ|ベダリアテントウ]](イセリアカイガラムシの天敵として移入)
こうしたさまざまな社会的な利害関係によって生じる課題があるなかでも解決が難しい問題として、たとえ外来種であろうとも生物を殺すという行為は認められないとする倫理的価値観との対立がある。駆除に関わる反対の主張は、おもに殺し方を問題とする[[動物福祉]]と、殺すこと自体を問題とする[[動物の権利]]の2つに分けられるが、とくに後者の主張者との間では議論が拮抗して解決が全く見えない事態になることもしばしばである<ref name="Rgenkada">{{Cite journal|和書|author=村上興正・石井信夫・池田透・常田邦彦・山田文雄|year=2006| title=日本と諸外国における外来種問題とその対策―現状と課題|journal=哺乳類科学|volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/69/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=69-74|accessdate=2011-08-30}}</ref>。日本でも、アライグマやノネコなどの捕殺駆除を行う活動組織が[[動物愛護団体]]等の反対を受け、物議をかもしている。
* [[ホソオチョウ]]

* [[ルビーロウカイガラムシ]]
外来種問題への根本的な反対意見として、一部の生物を外来種として悪者のように扱うのはおかしいという主張も見受けられる<ref name="Bkikap"/><ref name="Bziten"/>。それに対して、外来種問題はそもそも生物そのものに対する善悪論なのではなく、生物を扱う人間の怠慢と無責任さが論点にあるという指摘もある<ref name="Bgss"/>。
* [[ワタフキカイガラムシ|イセリアカイガラムシ]] または [[ワタフキカイガラムシ]]

* [[ワラジムシ]]
== 日本の主な外来種 ==
以下は、日本国内に実際に導入されて定着している外来種の一部のリストである。
=== 動物 ===
==== 哺乳類 ====
: [[アカゲザル]]、[[アムールハリネズミ]]、[[アライグマ]]、[[キョン]]、[[タイワンザル]]、[[タイワンリス]]、[[シマリス|チョウセンシマリス]]、[[ヌートリア]]、[[マスクラット]]、[[ハクビシン]]、[[ジャワマングース]]、[[ミンク]]
: 国内外来種:[[テン]](北海道、佐渡島)、[[ニホンイタチ]](北海道、三宅島、八丈島)、[[ニホンジカ]](各地の島)

==== 鳥類 ====
: [[インドクジャク]]、[[カササギ]]、[[ガビチョウ]]、[[カワラバト]](ドバト)、[[コウライキジ]]、[[コジュケイ]]、[[コブハクチョウ]]、[[コリンウズラ]]、[[シラコバト]]、[[ソウシチョウ]]、 [[ベニスズメ]]、[[ワカケホンセイインコ]]

==== 爬虫類 ====
: [[カミツキガメ]]、[[グリーンアノール]]、[[タイワンハブ]]、[[タイワンスジオ]]、[[アカミミガメ|ミシシッピアカミミガメ]](ミドリガメ)
: 国内外来種:[[サキシマハブ]](沖縄本島)、[[ヒバカリ]](伊豆諸島)

==== 両生類 ====
: [[アフリカツメガエル]]、[[ウシガエル]]、[[オオヒキガエル]]、[[シロアゴガエル]]、[[チュウゴクオオサンショウウオ]]
: 国内外来種:[[トノサマガエル]](北海道)、[[ニホンヒキガエル]](北海道)、[[アジアヒキガエル|ミヤコヒキガエル]](沖縄本島)、[[モリアオガエル]](伊豆大島)

==== 魚類 ====
: [[アオウオ]]、[[アメリカナマズ]](チャネルキャットフィッシュ)、[[オオタナゴ]]、[[カダヤシ]]、[[カラドジョウ]]、[[カワマス]]、[[グッピー]]、[[コクレン]]、[[ソウギョ]]、[[タイリクスズキ]]、[[タイワンキンギョ]]、[[チョウセンブナ]]、[[ティラピア]](ナイルティラピア)、[[ニジマス]]、[[ハクレン]]、[[バラタナゴ|タイリクバラタナゴ]]、[[ブラウントラウト]]、[[ブラックバス]]([[オオクチバス]]、[[コクチバス]])、[[ブルーギル]]、[[ペヘレイ]]、[[ライギョ]]([[カムルチー]]、[[タイワンドジョウ]])、[[レイクトラウト]]
: 国内外来種:[[アユ]](各地)、[[ゲンゴロウブナ]](各地)、[[サクラマス]](各地)、[[ヒメマス]](各地)、[[メダカ]](各地)、[[モツゴ]](各地)、[[ワカサギ]](各地)

==== 節足動物 ====
: [[アオマツムシ]]、[[アカボシゴマダラ]]、[[アメリカシロヒトリ]]、[[アメリカザリガニ]]、[[アルゼンチンアリ]]、[[イッカククモガニ]]、[[ウチダザリガニ]]([[タンカイザリガニ]])、[[クロガケジグモ]]、[[クワガタムシ]]類([[オオヒラタクワガタ]]など)、 [[ゴキブリ]]類(クロゴキブリ・チャバネゴキブリ・ワモンゴキブリなど)、[[コナジラミ]]類([[オンシツコナジラミ]]など)、[[スクミリンゴガイ]]、[[スジアカクマゼミ]]、[[セアカゴケグモ]]、[[セイヨウオオマルハナバチ]]、[[チチュウカイミドリガニ]]、[[チリカブリダニ]]、[[チャイロネッタイスズバチ]]、[[テントウムシ|ベダリアテントウ]]、[[ホソオチョウ]]、[[ルビーロウカイガラムシ]]、[[ヤンバルトサカヤスデ]]、[[ワタフキカイガラムシ]]、[[ワラジムシ]]
: 国内外来種:[[カブトムシ]](北海道)、[[サツマゴキブリ]](伊豆諸島、小笠原諸島など)、[[アマミサソリモドキ]](八丈島)

==== 節足動物以外の無脊椎動物 ====
: [[アフリカマイマイ]]、[[イガイダマシ]]、[[オオマリコケムシ]]、[[オオミスジコウガイビル]]、[[カサネカンザシ]]、[[コウロエンカワヒバリガイ]]、[[コモチカワツボ]]、[[サキグロタマツメタ]]、[[サカマキガイ]]、[[スクミリンゴガイ]]、[[チャコウラナメクジ]]、[[ニューギニアヤリガタリクウズムシ]]、[[ミドリイガイ]]、[[ムラサキイガイ]]、[[ヤマヒタチオビ]]


=== 植物 ===
=== 植物 ===
[[帰化植物]]も参照
[[帰化植物]]も参照
: [[アメリカオニアザミ]]、[[アレチウリ]]、[[イチビ]]、[[エゾノギシギシ]]、[[オオカワヂシャ]]、[[オオキンケイギク]]、[[オオハンゴンソウ]]、[[オオブタクサ]]、[[オランダガラシ]]、[[カミツレモドキ]]、[[キクイモ]]、[[ギンネム]]、[[ゲンゲ]]、[[シナダレスズメガヤ]]、[[ショクヨウガヤツリ]]、[[シロツメクサ]]、[[セイヨウタンポポ]]、[[セイタカアワダチソウ]]、[[ナガエツルノゲイトウ]]、[[ネバリノギク]]、[[ハリビユ]]、[[ハルジオン]]、[[ヒメムカシヨモギ]]、[[ブタクサ]]、[[ホテイアオイ]]、[[ミズヒマワリ]]、[[ムシトリナデシコ]]、[[モウソウチク]]、[[ランタナ]]、[[ルピナス]]、[[ヨウシュヤマゴボウ]]、[[ワルナスビ]]
* [[アレチウリ]]
: 国内外来種:[[アカギ]](小笠原諸島)、[[ガジュマル]](小笠原諸島)
* [[イチビ]]
* [[オランダガラシ]]
* [[ギンネム]]
* [[ゲンゲ]]
* [[ショクヨウガヤツリ]]
* [[シロツメクサ]]
* [[セイヨウタンポポ]]
* [[セイタカアワダチソウ]]
* [[ハリビユ]]
* [[ブタクサ]]
* [[ブドウ]]
* [[ホテイアオイ]]
* [[モウソウチク]]
* [[ワルナスビ]]


== 日本国外で外来種となる日本産の生物 ==
== 日本国外で外来種となる日本産の生物 ==
外来種と言うと、日本国外から日本に侵入して定着した動植物の事だけを指すように錯覚がちであるが、逆に'''日本から日本国外に侵出し定着した日本産の動植物'''も、外来種に分類される。外来種の問題は単に日本だけの問題ではく、海外での生態系にも大きな影響を及ぼしている事否定できないのである。外来種として日本から海外に侵出して定着した日本産の動植物の、生態系や[[第一次産業]]に大きな影響を及ぼしているを以下に挙げるカッコ内は大きな影響の出ている地域である
日本では日本国外動植物が外来種とて意識されるが、日本国外では逆に日本産の動植物外来種として問題ている事もある。外来種として日本から海外に侵出して定着した日本産の動植物のうち、生態系や第一次産業に大きな影響を及ぼしている生物を以下に挙げるカッコ内は大きな影響の出ている地域
=== 動物 ===
=== 動物 ===
[[File: LakePowellCarp5437.jpg |thumb|right|200px|コイ ''Cyprinus carpio''<br/>(アメリカ、[[ユタ州]]、パウエル湖)]]
==== 脊椎動物 ====
[[File: Japanese Beetles on Pasture Rose, Ottawa.jpg |thumb|right|200px|マメコガネ ''Popillia japonica''<br/>(カナダ、[[オンタリオ州]]、[[オタワ]])]]
* [[タヌキ]](ヨーロッパ)
* [[アカオビシマハゼ]](オーストラリア)
* [[カブトムシ]](東南アジア、特に台湾)
* [[キンギョ]](アメリカ)
* [[クロヨシノボリ]](ペルシャ湾)
* [[コイ|コイ(錦鯉)]](北アメリカ)
* [[コイ|コイ(錦鯉)]](北アメリカ)
* [[キンギョ]](アメリカ)
* [[ゴマダラカミ]](アメリカ)
* [[マハゼ]](オーストラリア)
* [[スズキ (魚)|スズキ]]オーストラリア
* [[タヌキ]](ヨーロッパ)
* [[アカオビシマハゼ]](オーストラリア)
* [[ナミアゲハ]](ポリネシア、ハワイ諸島)
* [[スズキ (魚)|スズキ]](オーストラリア)
* [[ニホンジカ]](アメリカ、ヨーロッパ)
* [[クロヨシノボリ]](ペルシャ湾)
* [[ヒトスジシマカ]](北アメリカ)

* [[ホソウミニナ]](アメリカ)
==== 無脊椎動物 ====
* [[マイマイガ]](北アメリカ)
* [[カブトムシ|カブトムシ(日本固有種)]](東南アジア、特に[[台湾]])
* [[カミキ]] (北メリカ)
* [[マハゼ]](オーストラリア
* [[マヒトデ]](オーストラリア)
* [[ヒトスジシマカ]] (北アメリカ) - [[西ナイル熱]]を媒介。
* [[マヒトデ]]([[オーストラリア]])
* [[マメコガネ]](北アメリカ)
* [[マメコガネ]](北アメリカ)
* [[ナミアゲハ]]([[ポリネシア]]、[[ハワイ諸島]])


=== 植物 ===
=== 植物(藻類を含む) ===
[[File: Kudzu on trees in Atlanta, Georgia.jpg |thumb|right|200px|クズ ''Pueraria lobata '' の大群落(アメリカ、[[ジョージア州]]、[[アトランタ]])]]
* [[アケビ]] (北アメリカ)
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* [[ススキ]](南北アメリカ)
* [[ススキ]](南北アメリカ)
* [[スイカズラ]] (北アメリカ)
* [[スイカズラ]]北アメリカ
* [[ワカメ]] (ヨーロッパ、ニュージーランド、オーストラリア)
* [[ワカメ]]ヨーロッパ、ニュージーランド、オーストラリア


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]](外来生物法)-[[特定外来生物]]・[[要注意外来生物]]
* [[順化協会]]
* [[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]](外来生物法)-[[特定外来種]]・[[要注意外来生物]]
* [[世界の侵略的外来種ワースト100]]
* [[世界の侵略的外来種ワースト100]]
* [[日本の侵略的外来種ワースト100]]
* [[日本の侵略的外来種ワースト100]]
* [[生物多様性]]
* [[生物多様性]]
* [[ペット]] – [[エキゾチックアニマル]]
* [[野良猫]]
* [[ペット]]
* [[順化協会]]

== 脚注 ==
<references />


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<div class="references-small">{{Reflist|2}}</div>
*池田清彦監修 [http://www.deco-net.com DECO]編 『外来生物辞典』 [[東京書籍]]、[[2006年]] ISBN 4-487-80118-4
*池田透監修 『外来生物が日本を襲う!』 [[青春出版社]](青春新書)、[[2007年]] ISBN 4-41304-166-6
*多紀保彦監修 (財)[[自然環境研究センター]]編著 『決定版 日本の外来生物』 [[平凡社]]、[[2008年]] ISBN 4-582-54241-7
*清水矩宏、広田伸七、森田弘彦編著 『日本帰化植物写真図鑑 -Plant invader 600種-』 [[全国農村教育協会]]、[[2001年]] ISBN 4-88137-085-5


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
*[http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html 環境省 / 外来生物法] - 法律解説のほか外来生物に関するさまざまな情報が得られる。
*[http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html 環境省 / 外来生物法] 法律解説のほか外来生物に関するさまざまな情報が得られる。
*[http://www003.upp.so-net.ne.jp/consecol/alien_web/index.html 保全生態学研究会 / 日本の外来種スト]
*[http://www.iucn.jp/species/gairaisyu.html IUCN日本委員会 / 外来種とは] ― 「外来侵入種ワースト100」などの解説。
*[http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/ 独立行政法人国立環境研究所 / 侵入生物データベース]
*[http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/ 独立行政法人国立環境研究所 / 侵入生物データベース] ― 日本の外来種データベース。
*[http://www.nbii.gov/portal/server.pt/community/invasive_species/221 アメリカ生物学情報基盤 外来生物] ― アメリカの外来種データベース。
*[http://www.iucn.jp/protection/species/gairaisyu.html IUCN日本委員会 / 外来種とは] -「外来侵入種ワースト100」など。
*[http://www.hear.org/ Hawaiian Ecosystems at Risk project (HEAR)] ― ハワイの外来種データベース。
*[http://ocw.kyushu-u.ac.jp/0010/0002/lecture/1.pdf 外来種問題] - 九州大学オープンコースウェア
*[http://www.nobanis.org/ European Network on Invasive Alien Species (NOBANIS)] ― 北欧の外来種データベース。
* [[朝日新聞]]地球異変余録 北米・外来種編 [http://doraku.asahi.com/lifestyle/earthphoto/090817.html (1)]、[http://doraku.asahi.com/lifestyle/earthphoto/090831.html (2)]、[http://doraku.asahi.com/lifestyle/earthphoto/090914.html (3)] - 2009年掲載のアメリカでの外来種による被害と対策現状の写真[[ルポルタージュ]]
*[http://i3n.iabin.net/index.html IABIN Invasives Information Network (I3N)] ― 中南米の外来種データベース。
*[http://weeds.cbit.uq.edu.au/ The introduced flora of Australia and its weed status] ― オーストラリアの外来植物データベース。


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2011年9月6日 (火) 00:31時点における版

外来種(がいらいしゅ)とは、他地域から人為的に持ち込まれた生物のこと。生態系や経済に重大な影響を与えることがあり、環境問題のひとつとして扱われる。

類義語に移入種帰化種侵入種外来生物がある。英語では「alien species」もしくは「invasive species」という。

外来種に対して、従来からその地域で生息・生育するものは在来種と呼ばれる。

概要

背景

人類は15世紀中期の大航海時代以降、世界を自由に行き来するようになり、その過程で多種多様な生物を移動させてきた。こうした人間活動によって新たに分布を拡大させた生物に対して、イギリス生態学チャールズ・エルトン(Charles S. Elton)は1958年に著書『The Ecology of Invasions by Animals and Plants(侵略の生態学)』のなかで学問のテーマとして外来種問題を大きく取り上げた[1]

今や外来種は地球上のありとあらゆる環境に侵入している。ハワイでは生息している生物のうち外来種が25%を占める[2]。また、モーリシャス島では植物について在来種よりも外来種のほうが種類が多く、ロドリゲス島にいたっては在来種の約2.3倍もの種類の外来種が生息している[2]ニュージーランドでは在来の陸生哺乳類は2種しかおらず、一方で外来の陸生哺乳類は34種も定着している[2]

日本に定着している外来種は2000種を超えるといわれており、そのうち4分の3は植物が占める[3]。17水系19河川で実施された植生調査では、確認された全植物種数のうちの13.6%にのぼる280種の外来植物の分布が明らかとなった[4]

こうした外来種の拡大が進むにつれ、学術誌に発表された外来種に関する論文は1990年代後半以降に急増するようになった[5]。現在では外来種の問題は環境問題のひとつとして認識されており、さまざまな取り組みや研究が世界中で行われている。

定義

外来種という用語の指す内容については、国や研究分野によってその定義が微妙に異なり、世界的に統一した見解はない。日本でも「外来種」のほかに「移入種」「帰化種」といった言葉が混在して使われてきた[6]。例えば行政においては、環境省は「移入種」を、国土交通省は「外来種」を用いてきた経緯があり、いずれも主に国外から移入されたものを対象としていた。また、植物学者は帰化種(とくに帰化植物)という用語を用いている[6]。しかし、最近(2000年代から)は多くの分野で「外来種」と呼ぶのが一般的になってきている[2][7]

国際自然保護連合(IUCN)の定義では、外来種とは「過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、あるいはそれ以下の分類群を指し、生存し繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含むもの」とされる[8]。ここで用いられている導入(introduction)という言葉は、「意図しているかどうかは関係なく人為によって直接的・間接的に自然分布域外に移動させること」と定義されており、「移入」や「侵入」といった言葉で置き換えられることもある[8]。そして、外来種が新たな分布域で継続的に子孫を残して生き続けることを定着(establishment)という[9]

外来種の中でも、移動先で分布拡大したときに、在来種の絶滅につながるおそれがあるなど、とりわけ生態系や人間の生活に大きな影響を及ぼすようなものを、とくに侵略的外来種(invasive alien species)といい[9]、これらは侵入種と呼ばれることもある[10]

外来種という言葉はその語感から外国から持ち込まれた生物というイメージをもたれることが多いが、本来は外国に限定して適用される概念ではない[11]。移入元が国外か、同一国内の他地域であるかによって、国外外来種国内外来種と区別する[9]

」より下位の「亜種」または「変種」であっても外来種に含められるが、混乱を避けるため外来生物のような用語を用いる場合もある[7]

具体的にどれくらい過去まで遡って導入された生物を外来種として扱うのかという導入の時代に関する統一的な定義は決まっていない。日本の外来生物法では、明治元年以降に日本に導入された生物を外来生物の対象としており、それ以前の時代の生物については確かな記録を確認するのが困難という理由で対象外としている[8]江戸時代末期や大航海時代を導入時期の基準とすべきとの意見もある[7]。一方で、人類の移動・定着、あるいは農耕などによる新しい環境の作出によって新しい地域に移入したと推定されるが、先史時代であるためにその記録のない生物を、史前帰化生物という。日本の例としては、畑作とともに移入されたモンシロチョウアカザナズナ、稲作と縁の深いスズメ、人家にすみかをとることの多いアブラコウモリドブネズミハツカネズミなどの家ネズミ類、ジャコウネズミなどが挙げられる。これらの生物は、数千年以上の長い年月を経て在来の生態系に組み込まれているとものと見なされ、原則として生態系への影響を理由に駆除を求められることはなく、一般的に外来種と認識されることも少ない。ハクビシンニホンヤモリなど日本への導入時期さえもよく分かっていない外来種も存在する。

外来種はあくまで人間活動の影響で導入された生物のことであり、生物自らの能力によって移動してきたものは外来種に含まれない[12]。よって、渡り鳥迷鳥回遊する水生生物などは問題視されない。

特徴

外来種の定義を考慮すると、ペット家畜園芸植物などのほとんどの生物は広義の外来種であり、常に多種多様な外来種が世界中に導入されている。しかし、導入される外来種がすべて定着するわけではなく、実際に野外へ定着して分布を拡大させる生物(いわゆる侵略的外来種)の割合は10種に1種ともいわれている[8]。したがって、多くの外来種は導入されても野生化することができず、野生化したとしても数世代の短い期間で消滅してしまう。

一方で、原産地ではあまり問題を起こさずおとなしかった生物が、侵入先で侵略性を発揮する事態も少なくない[4]。一部の外来種が定着し、問題を引き起こすほど拡散する原因として、新たな侵入地域にはその外来種の特異的な天敵が存在しないことが考えられている[5]。また、外来種の定着が別の外来種の侵入を促進する可能性も指摘されている[5]

植物においては、高い種子生産性、耐陰性、耐寒性、アレロパシーといった特徴を有する種がとくに侵略的な外来種となりやすいとされている[13]

導入事例

一般的に外来種の導入は、人間がなんらかの目的をもって持ち込んだ意図的導入(intentional introduction)と偶発的に侵入してしまった非意図的導入(unintentional introduction)の2つに大きく区分される[9]

意図的導入

ペット・家畜

アライグマ Procyon lotor
  • アライグマ(北アメリカ原産)は日本ではアニメのあらいぐまラスカルの人気から全国的に飼われるようになったが、成獣の凶暴性などから飼育放棄されたり逃げ出したりして全国に定着した[14]
  • 日本では1990年代にアメリカから年間100万匹ものアカミミガメの幼体がミドリガメの名称で輸入された[15]。このアカミミガメの流通は、1960 年代頃から始まっており、大手菓子メーカーの景品として人気となったことが理由のひとつと考えられている[15]

天敵導入

ヤマヒタチオビ
Euglandina rosea
  • 「蚊を絶やす」という和名をもつカダヤシ(アメリカ中南部原産)はボウフラの駆除を狙って日本各地に導入されたが、生息環境が類似するメダカを駆逐してしまい「メダカダヤシ」と揶揄されるまでになってしまった[17]
  • 外来種対策としてその対象外来種の原産地における天敵である別の外来種を導入することがある。最も古い事例では、1868年頃のアメリカで猛威を振るっていたオーストラリアから侵入したワタフキカイガラムシの天敵であるベダリアテントウを同じくオーストラリアから持ち込んで、被害の低減に成功している[1]。一方で、食用目的で持ち込まれたものの広東住血線虫症などの病気を媒介するため放棄された アフリカマイマイ(東アフリカ原産)を駆除する目的で、ヤマヒタチオビ(アメリカ原産)という肉食性巻貝が世界の島々に導入されたが、固有の陸生巻貝を捕食してしまい問題となった[8]。さらに、肉食性のニューギニアヤリガタリクウズムシ(ニューギニア原産)も同じ目的で導入され、アフリカマイマイやヤマヒタチオビを襲ったものの、この生物もやはり島の在来巻貝を脅かし、負の連鎖が続いている[18]

第一次産業(農業・漁業)

ウシガエル
Procambarus clarkii
  • ウシガエル(北アメリカ原産)は食用として日本に導入され、1950-1970年に年間数百トンが生産されたものの、当初の目的とは異なり実験動物として広く利用された[8]。また、それに関連してアメリカザリガニがウシガエルの餌に用いるために導入された[8]

緑化・ガーデニング

ランタナ Lantana camara

娯楽

オオクチバス
Micropterus salmoides
  • ルアーフィッシングの流行により、北アメリカ原産の肉食魚ブラックバスオオクチバスなど)が、釣り団体などによって全国の河川や湖沼に大量に放流された[20]。移植放流がほとんどの地域で禁止された現在でも、密放流が繰り返されているといわれる[21]

環境保護

外来種問題に無理解であるがゆえに、自然を回復させるための自然保護活動やビオトープ活動が逆に地域の自然を破壊してしまう場合もみられる。

ホシムクドリ Sturnus vulgaris
  • 開発によって激減したホタルを呼び戻そうという活動が日本各地で行われているが、そのなかで地域のホタルの遺伝的多様性を考慮していない無差別なホタルの放虫がなされる事態が多発している。長野県辰野町松尾峡の場合、町役場が観光用に移入した他県産ゲンジボタルを養殖し、外来ゲンジボタルが在来ゲンジボタルの個体数減少を引き起こしている[22][23][24]
  • 二酸化炭素を吸収する能力が高く、地球温暖化防止につながる環境にやさしい植物として、ケナフ(アフリカ西部原産)が1990年代に注目を集め、多くの団体が自然植生を刈り取ってまでしてケナフを植栽した[9]
  • 環境保護とは趣旨が異なるが、アメリカで活動する順化協会という組織は、自らの思想に基づいた理想の動植物を世界各地に導入しようと活動し、そのひとつとしてホシムクドリを1896年にニューヨークのセントラルパークに100羽ほど意図的に放しており、この鳥は80年後には1億2000万羽にまで大増殖している[2]

非意図的導入

カワホトトギスガイ Dreissena polymorpha に覆われた流速計(ミシガン湖
  • シロツメクサ(ヨーロッパ原産)は、江戸時代にオランダから輸入されたガラス器の箱の中に敷き詰めてあったもので、種子が偶発的にこぼれおちて発芽し、日本全域に広まったものといわれている。
  • 資材や物資に混入して導入されたものと推測される外来種も多く、日本ではセアカゴケグモ(オーストラリア原産)やハイイロゴケグモ(オーストラリア、中央・南アメリカ原産)などの事例が挙げられる[8]。1964年に沖縄の嘉手納基地周辺で確認されたシロアゴガエル(インドから東南アジア原産)はアメリカ軍の物資に紛れて導入されたと考えられる[8]
  • 意図的に導入された生物に付着することで気づかぬうちに導入されている外来種もいる。サキグロタマツメタ(東アジア原産)という捕食性巻貝は放流用のアサリに混入して拡散し、さらにカワヒバリガイ(中国、朝鮮半島原産)は輸入シジミに付随して導入されたのではないかと疑われている[26]。また、アクアリウムに用いられる観賞用の水草に付着している目立たない微小な底生生物の導入も問題となっている[26]


外来種のもたらす問題

侵略性の強い外来種が引き起こす問題として、生態系に与える影響遺伝子の撹乱第一次産業等への被害感染症及びヒトの生命への被害などが挙げられるが、2つ以上にまたがるものも珍しくない。

生態系への影響

在来種の動植物を捕食したり、食物や繁殖場所など生息環境を奪うことで競争種などを減少させたりする。いずれの場合も、生態系のバランスを崩し、二次的にも大きな影響を与える可能性がある。

ノヤギ(小笠原諸島、父島)
ミナミオオガシラ
Boiga irregularis(グアム島)
ホテイアオイ
Eichhornia crassipes
  • 1930年頃、阪神地方の養殖場から逃亡した個体が元になって西日本で分布を広げたチョウセンイタチは、在来のニホンイタチより体が大きく食性も広いことから人間の生活環境への適応力に優れており、在来のニホンイタチを駆逐していった[9]。ニホンイタチについても、ネズミ駆除の目的で移入された三宅島などの離島においてアカコッコなどの固有種に対する被害が生じている[9]
  • グアム島は、貨物に紛れて定着したミナミオオガシラ(オーストラリアなど原産)の捕食により、島固有の森林性鳥類11種のうち8種が絶滅し、島の鳥類相は壊滅的被害を受けた[10]
  • アフリカのビクトリア湖では、1950年代後半にナイルパーチ(西アフリカからナイル川流域原産)が導入されて、カワスズメ科の小型の魚類200種以上が絶滅した[8]。この一連の出来事は「ビクトリア湖の悲劇」とも呼ばれている。
  • 日本の里山に植栽されているモウソウチク(中国原産)からなる竹林は戦後の里山管理の衰退により、放置されていたり逸出していたりして、生育域は拡大する傾向にある。これは天敵が存在しない為であり、生態系に影響を与えつつある。この問題が基本的に過疎の弊害として語られる機会が多いのは身近なが外来種であるという認識が薄いためといえる(竹害の項も参照)。

遺伝子の攪乱

外来種が在来種と交雑することによって在来種の遺伝子が変容することがある。この現象を遺伝子汚染(遺伝的攪乱)という。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでの遺伝子プール(その個体群が共有する一定の変異幅をもつ遺伝子の総体)の状態を回復することは、事実上不可能となる。固有種・固有亜種に外来遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種や亜種が消滅することになるため、問題は特に深刻である。

農作物家畜の品種改良の場合、人為的条件での適応、すなわち人間にとって優れた特性の獲得が、交配により達成され、原種と大きく異なった形態の品種が生み出されることが多い。このような例を踏まえて、遺伝子の攪乱は種としては新たな適応の機会であり、悪い事ではないという意見も見受けられる[30]。しかし、自然環境下の動植物で遺伝子の攪乱が広がった場合、攪乱前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及ぼしたり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れもある。

タイワンザル Macaca cyclopis
スパルティナ・アングリカ Spartina anglica
  • タイリクバラタナゴ(中国、台湾、朝鮮半島原産)は1940年代前半に、中国から他の魚(ハクレンソウギョなど)に混じって利根川水系に導入されたが、1960年代以降、人為的に全国各地に分布を広げた[31]。西日本各地で在来のニッポンバラタナゴと交雑し、雑種個体群として累代を続けた結果、純粋なニッポンバラタナゴの生息地はきわめて局所的に残るのみとなり、ニッポンバラタナゴの絶滅が懸念されている[31]
  • 外来種と在来種が交雑することでより侵略性の強い生物種が生み出されてしまうこともある。その代表例がスパルティナ・アングリカという非常に侵略的なイネ科の植物で、この生物は19世紀にアメリカからイギリスに持ち込まれた外来種とイギリスにもともと存在していた在来種との1代雑種の染色体数が倍加して起源している[7]

第一次産業への影響

第一次産業に外来種が大きく貢献することがある一方で、農林業や漁業に膨大な被害を与え、数十億円に達する被害額を生じさせる外来種もいる。

ヌートリア Myocastor coypus
  • 戦前まで毛皮獣として日本で盛んに飼養されたヌートリア(南アメリカ原産)は、戦後、需要がなくなるとともに放され、中部地方以西の各地の河川や沼地に定着した。イネニンジンサツマイモなどの農作物に大きな被害を与えていることが報告されている[8]。ほかに日本の例では、アライグマキョンイノブタなどの陸生哺乳類が農作物被害を引き起こしている[9]

感染症及びヒトの生命への被害

従来その地域では見られなかった病原菌や寄生虫が外来種とともに移入された場合、人間や在来種に被害を与える場合がある。

アカヒアリ Solenopsis invicta
  • 1905年ごろのニホンオオカミの絶滅の原因の1つとして、輸入犬からの伝染病による個体数の減少が指摘されている。(タヌキキタキツネにも同様の伝染病の被害が出ている)
  • 世界各地に定着しているアルゼンチンアリ(南アメリカ原産)は、屋内に侵入したり、就寝中の人間を咬むなどして、不快害虫となっている[34]。さらに、アルカロイド系の毒をもつアカヒアリ(南アメリカ原産)によって咬まれることで北アメリカでは大勢の人間が死亡する事態になっている[8]

外来種をめぐる世界の動き

自然保護が世界的に関心を集め始めた1990年代から、生態系生物多様性に悪影響を及ぼす存在としての外来種問題が注目されるようになった。

アメリカ

連邦法であるレーシー法(Lacey Act)が外来種の流通を規制しているほか、各州の野生動物法でも外来種を規制して対策にあたっている[2]

ヨーロッパ

各国の国内法によって外来種対策が義務化されているが、域内自由経済圏であるユーロの出現にともない外来種の管理が難しくなっているという側面もある[2]

日本

2000年以前の日本では、外来種問題に対して、以下のような野生動物やペット・家畜などに関係する既存の法律に基づいて、各々の法律の範囲内でばらばらに行動しているに過ぎなかった[35]

  • 鳥獣保護法:狩猟鳥獣の狩猟、有害鳥獣の駆除
  • 種の保存法:生息地保護区の指定区域内への放逐の規制
  • 動物愛護法:愛護動物の遺棄の禁止、危険動物の管理義務
  • 植物防疫法:農林業に関係する生物の検疫
  • 家畜伝染病予防法:畜産業に関係する疫病の検疫
  • 狂犬病予防法:狂犬病に関係する動物(キツネ、アライグマ、スカンクなど)の検疫
  • 感染症予防法:人に関係する疫病対策(とくにサル類の検疫)
  • 内水面漁業規則:外来水生生物(ブラックバス、ウチダザリガニなど)の移植規制
  • ワシントン条約による検閲:絶滅の恐れのある一部の生物の商業取引の規制

これらの法律は生物多様性へのリスクなどを考慮して外来種問題への具体的な対策にあたるには不十分であった。こうした事実上放置に近い状態にあった外来種問題は、2000年代初めににわかに脚光を浴びるようになり、行政・民間の双方で、さまざまな動きが起こり始めた。まず、2000年に環境省の自然環境局に「野生生物保護対策検討会移入種問題分科会」が設置された。1995年に閣議決定した「生物多様性国家戦略」では簡単な扱いにとどまっていた外来種問題も、2002年の「新・生物多様性国家戦略」では外来種による生態系の攪乱を第3の危機として位置付けられた。2003年12月には「移入種対策に関する措置の在り方について(答申)」が中央環境審議会から提出され、外来種を包括的に扱う法律を作ることが求められた。そして、2004年5月27日に特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)が可決・成立、6月2日に公布され、2005年6月から施行された。この法律では「特定外来生物等専門家会合」および「特定外来生物等分類群専門家グループ会合」で専門の学識経験者の参加のもと、特定外来生物要注意外来生物を指定し、規制と防除に取り組むことができるようになっている[3]

地方自治体でも外来種対策に取り組んでいる地域がある。北海道では、絶滅の危機に瀕する生物をリストする「レッドリスト」にちなんで、外来種をその危険性をもとに区分した「ブルーリスト」を作成している[36]。滋賀県では、「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」によって「指定外来種」を規定して、飼育の届け出義務や放逐の禁止を課している[37]

また、2008年度に文部科学省が示した中学校理科の学習指導要領において、初めて外来種に関する文言が盛り込まれるようになり、外来種問題が学校教育に取り上げられ始めている[38]

ニュージーランド

外来種によって深刻な環境破壊が発生しているニュージーランドは、外来種規制が世界でも最も厳しい国として知られる[2]。まず、生物安全保障法(Biosecurity Act)に基づき不要生物(unwanted organism)を指定し、輸入・流通(国内を含む)・放出がすべて禁止される[2]。さらに、危険及び新生物法(Hazardous Substances and New Organism Act)により、専門の委員会によって承認されなければ、外来種は一切の輸入・所持・放出ができない[2]。これは、アメリカのレイシー法や日本の外来生物法のようなブラックリスト方式とは異なり、ホワイトリスト方式という非常に厳しい制限である[39]。そのため、国内の空港では厳しい検疫を受けることになる[39]

対策

生物多様性条約の第8条h項に「各々の締約国は、生態系、生息地、若しくは種を脅かす外来種の導入を阻止し、又はそのような外来種を制御し、若しくは撲滅すること」と明記されていることからもわかるように、生物多様性を脅かす外来種問題の解決は人間の、そして国の責務になっている[9]

「外来侵入種によってひきおこされる生物多様性減少防止のためのIUCNガイドライン」によれば、外来種の導入の阻止は最も費用対効果の高い対策であり、外来種の導入によるリスクを最大限考慮するべきという予防原則を提示している[9]。したがって、外来種の輸入や利用を規制し、水際で導入を阻止することが何よりも重要視される。環境省は「(外来種を)入れない、捨てない、拡げない」の外来生物被害予防三原則の実践を一般に呼びかけている[40]

外来種の導入を未然に防ぐことができず、定着してしまった場合は、外来種をその生態系から完全に取り除く根絶(eradication)と、外来種個体群をその悪影響が問題にならないレベルの密度に抑える管理(control)の2つの方策が検討される[41]。IUCNガイドラインでは、根絶は最良の管理手段であり、とくに定着初期の段階では効果が高いとしている[9]

根絶や管理のための具体的な手法として、銃やわな、天敵導入、毒物の利用による捕獲・駆除、柵などの移動制限が挙げられる。オーストラリアでは、外来種のウサギを駆除するため、致死性の粘液腫ウィルスの導入が行われたことがあるが、ウサギの耐性獲得とウィルスの弱毒化変異により失敗した。

一度定着した侵略的な外来種を根絶することは非常に難しいが、面積の狭い地域では根絶に成功した事例がいくつかある。日本では南西諸島の島々に拡大したウリミバエに対して20年以上の歳月をかけて不妊虫放飼法と駆除を併用することで根絶を達成した[42]。また、1999年から開始した小笠原の聟島列島聟島媒島嫁島に生息するノヤギの排除事業は、柵への追い込みと射殺により2002までに完全な排除に成功し、ほかの近隣の島々でも進められている[43]。外来海洋生物の根絶事例は、世界でもオーストラリアの閉鎖的な港(マリーナ)におけるイガイダマシの駆除の一例のみである[25]

課題

外来種問題は必ずしも対策が順調に進んでいるとはいえず、仮に対策が実行できたとしても望んだ効果をあげられているとは限らない。ある1種類の外来種を駆除したことで別の外来種が増加し、かえって在来の生態系に負の影響を与えることもある(オオクチバスの駆除によるアメリカザリガニの増加、ジャワマングースの駆除によるクマネズミの増加、ノヤギの駆除による外来植物の増加など)[41][44]

また、外来種をめぐるさまざまな利害関係者と合意形成を図るのは極めて困難であり、ときには激しく対立して大きな論争となることもある。その一例として、オオクチバスを特定外来生物に指定するための会議では、釣魚愛好家・公益法人・釣り業界等・政治家の反対を受け、議論は大きく難航した[21]。結局このオオクチバスに関しては「釣り人の協力を得る必要がある」とする環境省によって、一旦は指定を先送りすることが決定されたものの、環境相の指示によって方針転換した結果、2005年1月31日に決定された第1陣の指定リスト案に記載されることとなった[21]。オオクチバスの場合は駆除対象になったが、侵略的外来種に該当するもののなかでも害獣害虫等の駆除に役立っている動物や、美味で知られるニジマスのように、外来種であっても、人間にとってその存在が好都合であるために、駆除の対象から除かれるものはまだまだ多い。

外来種対策を進めるうえで障害になるものとして、外来種が地域の文化にすっかり浸透してしまっていたり、保護対象になっていたりすることがある。例えば、身近に生き物を増やしたいという善意による魚の放流やホタルの放虫は各地で当たり前のように行われており、マスメディアもしばしば美談として報道することもあるが、こうした生物の放逐は外来種問題となりうる危険性をはらんでいる[45]。そのため、無秩序な放流を防ぐ目的で専門の研究者や学会が中心となってガイドラインが作成されている[46]。野生化で絶滅した生物について他地域から近縁な個体群を導入して復活させる再導入(re-introduction)においても、遺伝的多様性や在来の生態系に対しての配慮が求められている(オオカミの再導入トキなどを参照)[47]。特異な事例として、分類学上の扱いの変化によって希少種が外来種になってしまうことがある。タンカイザリガニ滋賀県淡海湖にのみ生息する希少なザリガニとして地域の人々に保護されてきたが、その後の研究で北アメリカ原産のウチダザリガニと同じ種(もしくは亜種)であることが判明した[48]。北海道の固有のヒキガエルとして考えられていたエゾヒキガエルも本州から持ち込まれたニホンヒキガエルであることがわかっている[9]。これらの外来種が生息する地元では、その生物種が外来種であると明らかになった現在でも保護活動を続けている。こうした矛盾した事例はほかにも存在し、例えばケラマジカカササギ天然記念物に指定されている外来種である。また、自治体の鳥として外来種を指定している地域もある(例:サウスダコタ州コウライキジ埼玉県シラコバト佐賀県カササギ)。極端な例では、2010年に山梨県西湖で再発見され大きなニュースとなったクニマスは、秋田県田沢湖から持ち込まれた個体群に由来するため、事実上、絶滅種から一転して国内外来種となったことになる。

こうしたさまざまな社会的な利害関係によって生じる課題があるなかでも解決が難しい問題として、たとえ外来種であろうとも生物を殺すという行為は認められないとする倫理的価値観との対立がある。駆除に関わる反対の主張は、おもに殺し方を問題とする動物福祉と、殺すこと自体を問題とする動物の権利の2つに分けられるが、とくに後者の主張者との間では議論が拮抗して解決が全く見えない事態になることもしばしばである[49]。日本でも、アライグマやノネコなどの捕殺駆除を行う活動組織が動物愛護団体等の反対を受け、物議をかもしている。

外来種問題への根本的な反対意見として、一部の生物を外来種として悪者のように扱うのはおかしいという主張も見受けられる[6][30]。それに対して、外来種問題はそもそも生物そのものに対する善悪論なのではなく、生物を扱う人間の怠慢と無責任さが論点にあるという指摘もある[7]

日本の主な外来種

以下は、日本国内に実際に導入されて定着している外来種の一部のリストである。

動物

哺乳類

アカゲザルアムールハリネズミアライグマキョンタイワンザルタイワンリスチョウセンシマリスヌートリアマスクラットハクビシンジャワマングースミンク
国内外来種:テン(北海道、佐渡島)、ニホンイタチ(北海道、三宅島、八丈島)、ニホンジカ(各地の島)

鳥類

インドクジャクカササギガビチョウカワラバト(ドバト)、コウライキジコジュケイコブハクチョウコリンウズラシラコバトソウシチョウベニスズメワカケホンセイインコ

爬虫類

カミツキガメグリーンアノールタイワンハブタイワンスジオミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)
国内外来種:サキシマハブ(沖縄本島)、ヒバカリ(伊豆諸島)

両生類

アフリカツメガエルウシガエルオオヒキガエルシロアゴガエルチュウゴクオオサンショウウオ
国内外来種:トノサマガエル(北海道)、ニホンヒキガエル(北海道)、ミヤコヒキガエル(沖縄本島)、モリアオガエル(伊豆大島)

魚類

アオウオアメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)、オオタナゴカダヤシカラドジョウカワマスグッピーコクレンソウギョタイリクスズキタイワンキンギョチョウセンブナティラピア(ナイルティラピア)、ニジマスハクレンタイリクバラタナゴブラウントラウトブラックバスオオクチバスコクチバス)、ブルーギルペヘレイライギョカムルチータイワンドジョウ)、レイクトラウト
国内外来種:アユ(各地)、ゲンゴロウブナ(各地)、サクラマス(各地)、ヒメマス(各地)、メダカ(各地)、モツゴ(各地)、ワカサギ(各地)

節足動物

アオマツムシアカボシゴマダラアメリカシロヒトリアメリカザリガニアルゼンチンアリイッカククモガニウチダザリガニタンカイザリガニ)、クロガケジグモクワガタムシ類(オオヒラタクワガタなど)、 ゴキブリ類(クロゴキブリ・チャバネゴキブリ・ワモンゴキブリなど)、コナジラミ類(オンシツコナジラミなど)、スクミリンゴガイスジアカクマゼミセアカゴケグモセイヨウオオマルハナバチチチュウカイミドリガニチリカブリダニチャイロネッタイスズバチベダリアテントウホソオチョウルビーロウカイガラムシヤンバルトサカヤスデワタフキカイガラムシワラジムシ
国内外来種:カブトムシ(北海道)、サツマゴキブリ(伊豆諸島、小笠原諸島など)、アマミサソリモドキ(八丈島)

節足動物以外の無脊椎動物

アフリカマイマイイガイダマシオオマリコケムシオオミスジコウガイビルカサネカンザシコウロエンカワヒバリガイコモチカワツボサキグロタマツメタサカマキガイスクミリンゴガイチャコウラナメクジニューギニアヤリガタリクウズムシミドリイガイムラサキイガイヤマヒタチオビ

植物

帰化植物も参照。

アメリカオニアザミアレチウリイチビエゾノギシギシオオカワヂシャオオキンケイギクオオハンゴンソウオオブタクサオランダガラシカミツレモドキキクイモギンネムゲンゲシナダレスズメガヤショクヨウガヤツリシロツメクサセイヨウタンポポセイタカアワダチソウナガエツルノゲイトウネバリノギクハリビユハルジオンヒメムカシヨモギブタクサホテイアオイミズヒマワリムシトリナデシコモウソウチクランタナルピナスヨウシュヤマゴボウワルナスビ
国内外来種:アカギ(小笠原諸島)、ガジュマル(小笠原諸島)

日本国外で外来種となる日本産の生物

日本では日本国外の動植物が外来種として意識されるが、日本国外では逆に日本産の動植物が外来種として問題となっている事例もある。外来種として日本から海外に侵出して定着した日本産の動植物のうち、生態系や第一次産業に大きな影響を及ぼしている生物を以下に挙げる(カッコ内は大きな影響の出ている地域)。

動物

コイ Cyprinus carpio
(アメリカ、ユタ州、パウエル湖)
マメコガネ Popillia japonica
(カナダ、オンタリオ州オタワ

植物(藻類を含む)

クズ Pueraria lobata の大群落(アメリカ、ジョージア州アトランタ

関連項目

参考文献

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外部リンク

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