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[[1980年代]]後半から[[合計特殊出生率]]や[[経済成長]]率の低下で「社会保障の危機」が言われた。日本の人口の高齢化は世界で最もスピードが速いと言われ、年々増大する高齢者医療や高齢者介護や老齢年金の財源をいかに確保するかが最大の課題と言える。2016年の高齢化率は27.3%<ref>{{Cite web|url= |
[[1980年代]]後半から[[合計特殊出生率]]や[[経済成長]]率の低下で「社会保障の危機」が言われた。日本の人口の高齢化は世界で最もスピードが速いと言われ、年々増大する高齢者医療や高齢者介護や老齢年金の財源をいかに確保するかが最大の課題と言える。2016年の高齢化率は27.3%<ref>{{Cite web|url=https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_1_1.html|title=第1章 高齢化の状況(第1節 1)|accessdate=2018年6月16日|publisher=}}</ref>まで上昇し、高齢社会白書では「我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えている」と述べられている<ref>{{Cite |和書|publisher=内閣府|title=高齢社会白書 平成26年版 |date=2013 |url=https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html |isbn=978-4-905427-81-0 }}</ref>。 |
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2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている{{Sfn|OECD|2009}}。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応するかが鍵であるとOECDは報告している{{Sfn|OECD|2009|p=99}}。 |
2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている{{Sfn|OECD|2009}}。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応するかが鍵であるとOECDは報告している{{Sfn|OECD|2009|p=99}}。 |
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{{See also|日本の高齢化|少子化}} |
{{See also|日本の高齢化|少子化}} |
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日本はOECD諸国の中で最も少子高齢化が進んでおり、高齢者1人を現役世代2.3人で支えている(2015年時点)<ref>{{Cite web|url= |
日本はOECD諸国の中で最も少子高齢化が進んでおり、高齢者1人を現役世代2.3人で支えている(2015年時点)<ref>{{Cite web|url=https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_1_1.html|title=第1章 高齢化の状況(第1節 1)|accessdate=2018年6月16日|publisher=}}</ref>{{Sfn|OECD|2014|loc=Chapt.3.11}}。現在の社会保障給付は7割が[[高齢者]]に充てられており、人口の[[高齢化]]による給付の増加が現役世代の負担を年々増やしているため、給付と負担のバランスの確保や世代間の不公平の是正が求められている。 |
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さらに約50年後の[[2050年]]には、少子高齢化が一層進み、65歳以上の高齢者が人口の約4割を占め、高齢者1人を1.3人で支える超高齢社会となる(OECD諸国にで最低)という厳しい見通しが示されている{{Sfn|OECD|2014|loc=Chapt.3.11}}。特定の世代に過重な負担とならないよう、現役世代はもちろん、高齢世代、企業など、幅広い支え手がバランスよく負担することが必要であるとされる。評論家の[[伊藤剛 (評論家)|伊藤剛]]から6歳の日本人を22歳にする16年間にかける予算より、75歳の日本人を91歳にする16年間にかける予算のほうが大きい社会への懸念が指摘されている<ref>{{Cite news|title=伊藤 剛 on Twitter|url=https://twitter.com/goito/status/1020463026850258944|accessdate=2018-07-27|language=ja|work=Twitter}}</ref>。 |
さらに約50年後の[[2050年]]には、少子高齢化が一層進み、65歳以上の高齢者が人口の約4割を占め、高齢者1人を1.3人で支える超高齢社会となる(OECD諸国にで最低)という厳しい見通しが示されている{{Sfn|OECD|2014|loc=Chapt.3.11}}。特定の世代に過重な負担とならないよう、現役世代はもちろん、高齢世代、企業など、幅広い支え手がバランスよく負担することが必要であるとされる。評論家の[[伊藤剛 (評論家)|伊藤剛]]から6歳の日本人を22歳にする16年間にかける予算より、75歳の日本人を91歳にする16年間にかける予算のほうが大きい社会への懸念が指摘されている<ref>{{Cite news|title=伊藤 剛 on Twitter|url=https://twitter.com/goito/status/1020463026850258944|accessdate=2018-07-27|language=ja|work=Twitter}}</ref>。 |
2020年2月27日 (木) 15:31時点における版
日本の福祉(にほんのふくし、英語: Welfare in Japan)は厚生労働省が所管しており、2015年の社会的支出のGDP比は総純社会支出は23.5%、うち純私的支出は2.8%(義務的:0.4%、自発的:2.4%)であった[1]。
日本の社会保障支出は65歳以上の高齢者に集中している。OECDのデータで、2015年は約46.4%(公的支出と義務的義務的私的社会支出を合わせた時の社会保障支出全体に対する割合)[3]、国立社会保障・人口問題研究所の統計では、2017年度は約45.9%であった[4]。
また、総純社会的支出は、公的および私的な社会的支出を合算した上で、直接税(所得税および社会保障拠出)、現金給付に対する消費の間接税、並びに社会的目的のための減税の影響も含んだ値である。それらの税を考慮しない場合は、公的支出(一般政府[中央、地方政府、社会保障基金]によって資金の流れがコントロールされる社会支出)は21.9%、私的支出(私的部門により運営される団体によって資金の流れがコントロールされる社会支出)は3.1%(義務的:0.5%、自発的:2.5%)である。
2017年度の社会保障給付額は 120.4兆円であり、国民所得(NNI)404.2兆円[5]のうち29.8%を占めていた。これは国民1人当たりの社会保障給付費は98万100円であり、1世帯当たりでは242万4,500円に相当する[6]。
日本の福祉レジームについて厚生労働白書では「エスピン=アンデルセンは、日本の現状の福祉システムは、自由主義レジームと保守主義レジーム双方の主要要素を均等に組み合わせているが、いまだ発展途上であり、独自のレジームを形成するかどうかについては結論を留保している」と述べられている[7]。
領域
日本における福祉とは、一般的には福祉六法やそれに派生・関連した政策を指すが、広義には狭義の社会福祉に加えて、社会保障と公衆衛生の政策を含む(=公共の福祉)。かつての社会保障制度審議会の分類によれば、主として社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生及び医療・老人保健の5部門に分れており、広義ではこれらに恩給、戦争犠牲者援護を加えている[* 1]。
- 社会保険 - 医療保険・年金保険・労災保険・雇用保険・介護保険
- 各自が保険料を払い、各種リスクの保障をするというシステムである。原則として強制加入の相互扶助制度である。
- 公的扶助 - 生活保護
- 生活に困窮する者に、生活保護法に基づき国が最低限の生活の保障をし、自立を助けるシステムである。
- 社会福祉 - 老人福祉・障害者福祉・児童福祉・母子福祉・公費負担医療
- 社会生活をする上で立場が弱かったり、障害者を援助するシステムである。
- 公衆衛生及び医療 - 感染症対策・食品衛生・水道・廃棄物処理
- 国民が健康に生活ができるように、外因病や生活習慣病の予防や早期発見を目指すシステムである。
- 老人保健(2008年4月1日より後期高齢者医療制度に)
OECD分類による項目一覧
支出額 | GDPに 占める割合 |
政府一般歳出に 占める割合 | |
---|---|---|---|
高齢者 | 55兆3549億円 | 10.4% | 26.4% |
遺族 | 6兆6775億円 | 1.3% | 3.2% |
障害者 | 5兆2601億円 | 1.0% | 2.5% |
保健 | 41兆1547億円 | 7.7% | 19.7% |
家族 | 6兆9823億円 | 1.3% | 3.3% |
積極的労働政策 | 7705億円 | 0.1% | 0.4% |
失業 | 9285億円 | 0.2% | 0.4% |
住宅 | 6172億円 | 0.1% | 0.3% |
その他 | 1兆5594億円 | 0.3% | 0.7% |
総計 | 119兆3053億円 | 22.4% | 57.0% |
(参考)OECD平均 | — | 20.4% | 46.2% |
- 高齢
- 遺族
- 厚生年金:遺族年金
- 国民年金:遺族基礎年金、死亡一時金等
- 各種共済組合:遺族年金、死亡一時金、埋葬料等
- 戦争犠牲者:遺族等年金等
- 国保:葬祭諸費
- 生活保護:葬祭扶助
- 医薬品副作用被害救済制度:遺族年金、遺族一時金、葬祭料
- 生物由来製品感染被害救済制度:遺族年金、遺族一時金、葬祭料
- 公害健康被害補償制度:遺族補償費、遺族補償一時金、葬祭料
- 石綿健康被害救済制度:特別遺族弔慰金、葬祭料等
- 日本スポーツ振興センター災害共済給付:死亡見舞金等
- 犯罪被害給付制度:遺族給付金
- 障害者
- 厚生年金:障害年金、障害手当金
- 国民年金:障害年金、障害基礎年金
- 各種共済組合:障害年金、傷病手当金、休業手当金
- 国家公務員災害補償:休業補償、介護補償、補装具費等
- 地方公務員等災害補償:休業補償、介護補償、補装具費等
- 旧公共企業体職員業務災害:休業補償
- 労働者災害補償保険:休業補償、障害補償一時金、施設整備費等
- 協会健保、組合健保:傷病手当金等
- 公衆衛生:原爆被爆者等援護対策費等
- 医薬品副作用被害救済制度:障害年金等
- 生物由来製品感染被害救済制度:障害年金等
- 公害健康被害補償制度:障害補償費、療養手当等
- 石綿健康被害救済制度
- 日本スポーツ振興センター災害共済給付:障害見舞金等
- 犯罪被害給付制度:重傷病給付金等
- 保健
- 家族
- 積極的労働市場政策
- 失業
- 雇用保険等:失業等給付費
- 住宅
- 生活保護:住宅扶助、公的賃貸住宅家賃対策補助、認知症高齢者グループホーム、グループホーム、老人ホーム
- その他
- 各種共済組合:災害給付等
- 生活保護:生活扶助、生業扶助
- 社会福祉:災害救助関係等、婦人保護費
- 戦争犠牲者:引揚者援護費
- 被災者生活再建支援制度:支援金支出
所管
社会政策の所管は厚生労働省である。うち、社会保障部分については同省の外局である社会保険庁が所管していたが、2008年10月に政府管掌健康保険の事業運営を分離し、新しく全国健康保険協会(非公務員型公法人)が設立された。また、2010年1月に公的年金の事業運営を行うため、新しく日本年金機構(非公務員型公法人)が設立された。
根拠法
日本での福祉は日本国憲法第25条第2項(生存権)を保障する政策として取り組まれている。同条では「国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定されており、社会福祉は、慈善や相互扶助のみではなく、国の責任で向上・増進させるべきとの規定がなされている。
- 福祉六法 - 生活保護法 / 児童福祉法 / 母子及び父子並びに寡婦福祉法 /身体障害者福祉法 / 知的障害者福祉法 /老人福祉法
- その他の社会福祉法 - 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 / 社会福祉法 / 介護保険法 / 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 / 子ども・子育て支援法
社会保障審議会
社会保障審議会は厚生労働大臣の諮問機関である(厚生労働省設置法第7条)。厚生労働省発足に伴い、社会保障関連の8審議会を統合再編し2001年(平成13年)に設置された。実質審議は、政令で決められた分科会と、必要に応じ設置される部会で行われる。分科会は、医療(特定機能病院の承認)、介護給付費(介護報酬改定)、統計、福祉文化、医療保険保険料率の5分科会、部会が10部会、その他に特別部会がある。
歴史
日本の近代国家としての福祉政策は、明治時代の「恤救規則」を皮切りに大正時代から昭和初期にその発展が見られるが、当時は、貧民や弱者に対しては慈善的・救貧的・恩賜的要素が強く、その他の国民に対しては富国強兵政策としての要素が強かった。
明治初期に福祉の基礎と貧民や弱者の保護の為の福祉組合と救貧組合と相互扶助組合が作られたが当時の日本人は理解を示さず、明治の終わりごろには治安警察法の厳しい取締り、活動が小さく行われた。国家の責務として、本格的に始まったのは第二次世界大戦後で、まずは敗戦処理として始まった。まず復員軍人や遺族の経済問題に対処するため生活保護法が作られ、続いて戦争孤児のため児童福祉法が制定、児童養護施設が次々と民間でつくられた。次に傷痍軍人などを救済するため1950年に身体障害者福祉法が施行されるなど、福祉政策として確立していくようになる。以上の3つの法律を「福祉三法」と呼ぶ。その後1960年代に現在の知的障害者福祉法、老人福祉法、母子福祉法(のちの母子及び父子並びに寡婦福祉法)が制定された。これらを併せて「福祉六法」と呼ぶ。
本格的な少子高齢社会を背景に1997年に児童福祉法が改正、2000年には、高齢者向けの保健・福祉サービスを統合した介護保険法が施行され、児童福祉や高齢者福祉サービスを皮切りに福祉政策はこれまでの措置制度から契約中心の制度へと大きく転換し、2006年には障害者自立支援法が施行されることとなったが、一連の改革を「社会福祉基礎構造改革」と呼んでいる。
戦前・戦中
日本の社会保障は、第二次世界大戦前にドイツのオットー・フォン・ビスマルクの社会政策にならい社会保険制度が作られた[10]。
- 医療保険
- 日本で最初の社会保険は、1922年に施行された健康保険法である[11]。また、農村に対する救済策として1938年に国民健康保険法が制定された[11]。
- 年金
- 古くは明治時代から、官吏や軍人に対する恩給、官業労働者に対する退職年金があったが、民間労働者に対する公的年金制度はなかった。1941年には、肉体労働者(ブルーカラー)を対象とした労働者年金保険法が創設され[11]、これは前年に発足した船員保険の年金制度とともに、最初の民間労働者を対象とする年金制度であった。
明治後半から昭和初期にかけて、日本の産業経済の形態が近代化した。それに伴い資本主義体制のもとでは必然的に発生してくる貧富の差の拡大、経済不況による失業者の増大等々の内部矛盾を和らげるため、つまり階級妥協を図る面から、労働者の生活安全対策として社会保険の必要性が高まり、労働者を対象に健康保険制度が創設された。
1940年には健康保険法の対象外だった本社職員等を対象に職員健康保険が実施されたが、1942年の健康保険法改正により翌1943年から健康保険に統合された。1938年から実施された国民健康保険制度は、労働者以外の住民を対象とし、当時の農村漁村不況対策の一環として発足した。もともと、日本の農村漁村の衛生状態は悪く、疾病も多発する状態にあったが、1929年に始まる世界恐慌は、地域住民を非常に不安な状態にした。その対策として国民健康制度が企画され、幾多の曲折の後実現した。さらに1944年には対象を職員や女子にも拡大する形で厚生年金保険法が制定された。
この頃は、日華事変が起こり日本が戦争体制に突入した時期でもあり、本来の目的とは別に、兵力供給源である 農村漁村の保健対策としての戦時政策の側面もあった。
日本国憲法の理念
第二次世界大戦後に緊急対策として求められたのは、引揚者や失業者などを中心とした生活困窮者に対する生活援護施策と劣悪な食糧事情や衛生環境に対応した栄養改善とコレラ等の伝染病予防だった。1946年に生活保護法が制定され[11]、不完全ながらも国家責任の原則、無差別平等の原則、最低生活保障の原則という3原則に基づく公的扶助制度が確立された。
1946年に制定された日本国憲法第25条においては社会保障が以下のように記され、生存権の根拠とされている。
一、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
二、国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
日本国憲法の理念に基づき、各分野における施策展開の基礎となる基本法の制定や体制整備が進められ、1947年に児童福祉法、1949年に身体障害者福祉法、1950年に生活保護法の改正[11]、1951年に社会福祉事業法が制定された。
1950年に社会保障制度審議会(内閣総理大臣の諮問機関として 1949年に設置された)が発表した「社会保障制度に関する勧告」中で[11]、社会保障制度を次のように規定している。
『社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。』
『このような生活保障の責任は国家にある。国家はこれに対する綜合的企画をたて、これを政府及び公共団体を通じて民主的能率的に実施しなければならない。この制度は、もちろん、すべての国民を対象とし、公平と機会均等とを原則としなくてはならぬ。またこれは健康と文化的な生活水準を維持する程度のものたらしめなければならない。そうして一方国家がこういう責任をとる以上は、他方国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神に立って、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならない。』 — 社会保障制度に関する勧告 (PDF) (Report). 社会保障制度審議会. 昭和25年10月16日.{{cite report}}
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の日付が不正です。 (説明)
またGHQ答申を受け、総理府には首相所属の諮問機関として社会保障制度審議会が設置され、「内閣総理大臣及び関係各大臣は、社会保障に関する企画、立法又は運営の大綱に関して、あらかじめ、審議会の意見を求めなければならない」と定められた[12]。
労災保険と雇用保険の創設
1947年に労働基準法が制定され、業務上の災害について事業主の補償義務を明確にし、さらに労働者災害補償保険法が制定されて健康保険と屋外労働者を対象とする労働者災害扶助責任保険により保護されていた労働者の業務上の災害については、労働者災害補償保険制度(労災保険)として独立した。また、終戦による失業者の増大により、失業者の生活を安定させ、社会的混乱を防ぐ必要から1947年に失業保険法および失業手当法が制定された。その後、雇用構造の改善、労働者の能力開発・向上その他労働者の福祉の増進のために、1975年に雇用保険法が施行され、失業保険法は廃止された。
国民皆保険・皆年金の確立
国民健康保険制度は、戦時中は相当の普及をみたが、戦後、財政事情の悪化に伴って多くの市町村で休廃止されていた。1955年頃は、農業、自営業などに従事する人々や零細企業従業員を中心に、国民の約3分の1に当たる約3000万人が医療保険の適用を受けない無保険者だった。しかし1955年に始まった大型景気により日本経済は本格的な経済成長過程に入り、急速に成長を遂げ国民生活も向上していく。このため、1957年度から4ヶ年計画により全市町村に普及せしめることとし、1961年に完全普及されてユニバーサルヘルスケア(国民皆保険)が達成された。
労働者年金保険制度についても、1944年に厚生年金保険に改称され対象が職員や女子にも拡大された。戦後、家族制度の動向や老齢人口の増加等を背景に地域住民に対する年金制度の要望が高まり、1959年に国民年金法が制定され、1961年に国民年金制度が発足し、国民皆年金が確立された。さらに、1985年に高齢化社会においても健全で安定した年金制度を樹立するための抜本的改革が行われ、国民年金は国民共通の基礎年金を支給する制度に改められた。
福祉元年
高度経済成長の中で革新自治体の誕生や参議院での保革伯仲などの当時の政治状況への危機感から、田中角栄内閣は1973年を福祉元年と位置づけ、社会保障の大幅な制度拡充を実施した[13]。具体的には、老人医療費無料制度の創設(70歳以上の高齢者の自己負担無料化)[13]、健康保険の被扶養者の給付率の引き上げ[13]、高額療養費制度の導入[13]、年金の給付水準の大幅な引き上げ、物価スライド・賃金スライドの導入[13]などが挙げられる。第一次石油危機を契機とした先進諸国が低成長化によって税収が減少、社会保障の抑制の必要性がされるようになる。高齢者への無償福祉や低額福祉導入後、先進諸国における人口の急激な高齢化・少子化は社会保障の役割と規模の拡大によって社会保障費が増大し続けている。
年度 | 金額 | 国民所得比 |
---|---|---|
1980年 | 24兆7736億円 | 12.15% |
1985年 | 35兆6798億円 | 13.69% |
1990年 | 47兆2203億円 | 13.61% |
1995年 | 64兆7243億円 | 17.54% |
2000年 | 78兆1191億円 | 21.01% |
2005年 | 87兆7827億円 | 23.99% |
2010年 | 105兆3646億円 | 29.11% |
2015年 | 116兆8403億円 | 29.96% |
2016年 | 118兆4089億円 | 30.27% |
2017年 | 120兆2443億円 | 29.75% |
2025年 (2018年の予測[16][17]) |
140兆8000億円 | |
2040年 (2018年の予測) |
188兆5000億円 | |
社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~24.0%(同188.2~190.0兆円)となる[16]。
社会保障負担の対GDP比は、2018年度の20.8%(名目額117.2兆円)から、2025年度に21.5~21.6%(同139.0~139.4兆円)となり、2040年度は23.5~23.7%(同185.6~187.3兆円)へと上昇する。その内訳をみると、保険料負担は2018年度の12.4%(同70.2兆円)から、2025年度に12.6%(同81.2~81.4兆円)となり、2040年度には13.4~13.5%(同106.1~107.0兆円)へと上昇、公費負担は2018年度の8.3%(同46.9兆円)から、2025年度に9.0%(同57.8~58.0兆円)となり、2040年度には10.1~10.2%(同79.5~80.3兆円)へと上昇する。(「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月厚生労働省推計)[16]の「計画ベース・経済ベースラインケースによる」のケースによる)。
保障制度の見直し
1973年秋にオイルショックが勃発し、原油価格の高騰がインフレを招き企業収益を圧迫し、高度経済成長時代の終焉をもたらした。また、低成長化による税収減と同時に、インフレに対して給付水準を合わせていくため社会保障関係費が急増したため、財界(特に第二次臨時行政調査会の「増税なき財政再建」や「日本型福祉社会論」)や大蔵省からの抑制圧力が加わった。自民党政権は、選挙への影響を考慮して当初は「見直し論」を抑え込んでいたものの、1980年の衆参同日選挙での自民党の大勝を受けて、安定成長への移行及び国の財政再建への対応、将来の超高齢化へ適合するよう、社会保障制度の見直しが行われた。
1982年に老人保健制度が創設され[19]、老人医療費に関して公費負担から社会保険への転換が行われ、患者本人の一部負担導入や全国民で公平に負担するための老人保健拠出金の仕組みが導入された。1984年には健康保険の本人負担を1割に引き上げ[19]、退職者医療制度を導入した。1985年には全国民共通の基礎年金制度が導入される一方で給付水準が引き下げられた。
少子高齢化への対応
日本は諸外国に比べ高齢化のスピードが速く、高齢化社会の定義である高齢化率7%からその倍の14%になるまでわずか24年(1970年-1994年)であったため、高齢者の介護問題が老後最大の不安要因として認識された。また、1989年の合計特殊出生率がひのえうまの年を下回り、戦後最低となったことは「1.57ショック」と呼ばれた。
1989年のゴールドプラン、1994年の新ゴールドプラン及びエンゼルプラン、1995年の障害者プラン、2000年の新エンゼルプランにより保健福祉サービスの基盤が図られた[20]。
日本の高齢化のスピードが速かったことから、高齢者の介護問題が老後最大の不安要因として認識されて、2000年に介護保険制度が創設され、老人福祉と老人医療に分かれていた高齢者の介護制度を社会保険の仕組みで再編成した[21]。介護保険は、老人福祉と老人医療に分かれていた高齢者の介護制度を社会保険の仕組みで再編成したものであり、世界的にもドイツに続く創設であった。従来の社会福祉は、行政機関がサービス実施の可否、サービス内容、提供主体等を決定する措置制度の考え方であるのに対し、介護保険制度は、サービス利用者を中心に据えた利用者本位の考え方であり、利用者とサービス事業者が契約によりサービスを行う契約制度である。介護保険を契機に、障害福祉サービスや保育サービスも措置制度から契約制度へと考え方や仕組みが変更されてきている。
また、厚生年金の支給開始年齢の引き上げや医療費の患者負担の引き上げが行われた[21]。
-
2050年の日本(国連推計値)
-
2100年の日本(国連推計値)
福祉の供給主体
福祉を担当する組織(行政機関)には以下のようなものをあげられる。
- 保健所
- 市町村保健センター
- 子育て支援センター
- 福祉事務所 - 社会福祉法によって規定されている。福祉業務を担当する第一線機関である。
- 児童相談所 - 児童福祉法によって規定されている。児童に対するあらゆる相談に応じる。
- 身体障害者更生相談所および知的障害者更生相談所:身体障害者福祉法および知的障害者福祉法によって規定されている。福祉事務所では扱えない高度な問題を担当する。
その他、老人福祉法による「在宅介護支援センター(老人介護支援センター)」、介護保険法による「地域包括支援センター」などがある(こちらは多くが民間福祉事業者へ委託)。
福祉従事者
社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士、公認心理師、薬剤師、精神科医、社会保険労務士などの国家資格があるが、これらは一部を除き業務独占ではなく名称独占のため、職務の棲み分けが明確でなく、施設によっては国家資格を職名として使用しないところもある。
福祉に関わる資格
国家資格(国が定めたカリキュラムとトレーニングを積んだ後に国家試験受験資格が与えられて、国家試験に合格した者のみ与えられる資格)
- 【社会福祉士及び介護福祉士法】
- 【精神保健福祉士法】
- 精神保健福祉士(精神障害者に特化した相談援助)
- 【児童福祉法】
- 保育士(保育園の先生など)
- 【教育職員免許法】
- 【公認心理師法】
- 【薬剤師法】
- 【医師法】
- 【社会保険労務士法】
- 【保健師助産師看護師法】
- 【栄養士法】
- 【理学療法士及び作業療法士法】
公的資格 学歴、実務経験は問わず受験できる試験、資格もあるが介護支援専門員は一定の条件を満たさなければ受験資格の発生しない資格もある。なお、厚生労働省による介護職員の研修体系見直しで『介護職員基礎研修』と『訪問介護員1級養成研修』は2012年度末で廃止され、改正社会福祉士及び介護福祉士法で導入される『実務者研修』に一本化された。
- 【介護保険法】
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)(介護保険サービスのケアプランを立てる者)
- 訪問介護員(ホームヘルパー)1級〜3級(介護福祉士予備軍、1級は2級資格取得者のみ)※無試験
- 介護職員基礎研修課程修了資格(訪問介護員の付加資格)※無試験
- 福祉用具専門相談員(福祉用具の販売、貸与を斡旋する人)※無試験
- 福祉住環境コーディネーター1級〜3級(誰でも受験できる福祉の検定資格(1級は2級取得者のみ))
任用資格(教育機関で特定の科目を履修するか、一定の実務経験があれば自然に発生する資格だが、実際に業務をおこなう際にしか発動しない資格)
財政
年度 | 金額 | 国民所得比 |
---|---|---|
1980年 | 24兆7736億円 | 12.15% |
1985年 | 35兆6798億円 | 13.69% |
1990年 | 47兆2203億円 | 13.61% |
1995年 | 64兆7243億円 | 17.54% |
2000年 | 78兆1191億円 | 21.01% |
2005年 | 87兆7827億円 | 23.99% |
2010年 | 105兆3646億円 | 29.11% |
2015年 | 116兆8403億円 | 29.96% |
2016年 | 118兆4089億円 | 30.27% |
2017年 | 120兆2443億円 | 29.75% |
2025年 (2018年の予測[16][23]) |
140兆8000億円 | |
2040年 (2018年の予測) |
188兆5000億円 | |
社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~24.0%(同188.2~190.0兆円)となる[16]。
社会保障負担の対GDP比は、2018年度の20.8%(名目額117.2兆円)から、2025年度に21.5~21.6%(同139.0~139.4兆円)となり、2040年度は23.5~23.7%(同185.6~187.3兆円)へと上昇する。その内訳をみると、保険料負担は2018年度の12.4%(同70.2兆円)から、2025年度に12.6%(同81.2~81.4兆円)となり、2040年度には13.4~13.5%(同106.1~107.0兆円)へと上昇、公費負担は2018年度の8.3%(同46.9兆円)から、2025年度に9.0%(同57.8~58.0兆円)となり、2040年度には10.1~10.2%(同79.5~80.3兆円)へと上昇する。(「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月厚生労働省推計)[16]の「計画ベース・経済ベースラインケースによる」のケースによる)。
社会保障の収入
社会保障財源の収入総額は、2017年度では141兆5,693億円であり、内訳は社会保険料が50.0%、税収が35.3%、資産運用による収入が10.0%、その他4.8%であった[24]。
社会保険料 70兆7,979億円(50.0%) |
被保険者拠出 | 37兆3,647億円(26.4%) |
事業主拠出 | 33兆4,332億円(23.6%) | |
税 49兆9,269億円(35.3%) |
政府一般会計より | 33兆3,167億円(23.5%) |
地方自治体一般会計より | 16兆6,102億円(11.7%) | |
他の収入 | 資産収入 | 14兆1,145億円(10.0%) |
その他 | 6兆7,300億円(4.8%) | |
計 | 141兆5,693億円(100%) |
社会保障の給付
社会保障給付費は、2017年には 120兆2,443億円で、GDP比にして21.97%であった[24]。また高齢者関係給付費は56兆5,211億円となり同給付費の47.0%を占めている[24]。
分類 | 給付費 | GDP比率 |
---|---|---|
医療 | 39兆4,195億円(32.8%) | 7.20% |
年金 | 54兆8,349億円(45.6%) | 10.02% |
その他の福祉 | 25兆9,898億円(21.6%) | 4.75% |
計 | 120兆2,443 億円 (100%) | 21.97% |
社会保障関係費
政府一般会計歳出に占める医療や年金、介護、生活保護などの社会保障分野の経費。一貫して増加し続けており、財政赤字の大きな原因となっている。2013年度決算の社会保障関係費は約29.2兆円であった。
歳入概数 | 歳出概数 | ||
---|---|---|---|
所得税 | 18兆8,815億円(18.2%) | 社会保障関係費 | 32兆5,210億円(33.1%) |
消費税 | 17兆5,138億円(16.9%) | 地方交付税交付金等 | 15兆5,671億円(15.9%) |
法人税 | 11兆9,953億円(11.6%) | 公共事業関係費 | 6兆9,116億円(7.0%) |
その他の税 | 9兆3,452億円(9.0%) | 文教及び科学振興費 | 5兆7,030億円(5.8%) |
公債金収入 | 33兆5,545億円(32.4%) | 防衛関係費 | 5兆2,742億円(5.4%) |
その他収入 | 6兆696億円(5.9%) | 食料安定供給関係費 | 1兆1,809億円(1.2%) |
前年度剰余金受入 | 5兆2,322億円(5.0%) | その他の経費 | 8兆4,366億円(8.6%) |
国債費 | 22兆5,208億円(23.0%) | ||
歳入計 | 103兆6,440億円(100%) | 歳出計 | 98兆1,156億円(100%) |
歳入増減・支出不要 次年度繰越・その他 |
5兆5,284億円 |
社会保障関係費 | ||
年金給付費(35.4%) | 11兆4,831億円 | |
医療給付費(35.4%) | 11兆5,010億円 | |
介護給付費(9.3%) | 3兆130億円 | |
少子化対策費(6.5%) | 2兆1,149億円 | |
生活扶助等社会福祉費 4兆205億円(12.4%) | ||
生活保護等対策費 | 1兆5,050億円 | |
障害保健福祉費 | 1兆4,573億円 | |
母子家庭等対策費 | 1,934億円 | |
その他 | 6,864億円 | |
保健衛生対策費 (0.9%) | 3,042億円 | |
雇用労災対策費 (0.1%) | 368億円 | |
計 | 32兆4,735億円(100%) |
注:
- 生活扶助等社会福祉費の費用別内訳は、当初予算額であるため、生活扶助等社会福祉費(当初予算額:3兆8,423億円)の合計と合わないことに注意する。
- 2015年4月より「保育所運営費」及び「子どものための金銭の給付年金特別会計へ繰入」が内閣府へ移管されている。
課題
1980年代後半から合計特殊出生率や経済成長率の低下で「社会保障の危機」が言われた。日本の人口の高齢化は世界で最もスピードが速いと言われ、年々増大する高齢者医療や高齢者介護や老齢年金の財源をいかに確保するかが最大の課題と言える。2016年の高齢化率は27.3%[27]まで上昇し、高齢社会白書では「我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えている」と述べられている[28]。
2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている[29]。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応するかが鍵であるとOECDは報告している[30]。
急速な少子高齢化
日本はOECD諸国の中で最も少子高齢化が進んでおり、高齢者1人を現役世代2.3人で支えている(2015年時点)[32][31]。現在の社会保障給付は7割が高齢者に充てられており、人口の高齢化による給付の増加が現役世代の負担を年々増やしているため、給付と負担のバランスの確保や世代間の不公平の是正が求められている。
さらに約50年後の2050年には、少子高齢化が一層進み、65歳以上の高齢者が人口の約4割を占め、高齢者1人を1.3人で支える超高齢社会となる(OECD諸国にで最低)という厳しい見通しが示されている[31]。特定の世代に過重な負担とならないよう、現役世代はもちろん、高齢世代、企業など、幅広い支え手がバランスよく負担することが必要であるとされる。評論家の伊藤剛から6歳の日本人を22歳にする16年間にかける予算より、75歳の日本人を91歳にする16年間にかける予算のほうが大きい社会への懸念が指摘されている[33]。
福祉人材の供給
介護保険法制定以降、高齢者福祉では介護支援専門員や介護福祉士、2級以上のホームヘルパーのニーズが高まっているが、労働条件が非常に劣悪(いわゆる3K職場の代表格でもある)であり、低賃金が故に介護人材の離職率が極めて高く、低賃金で雇えると考えられた発展途上国の外国人労働者の受け入れが始まった(しかし、実際に経済連携協定(EPA)に基づく人材受け入れを開始してみると、外国人への日本語教育の負担が重いことが敬遠され、福祉分野での外国人の雇用は減少している[34]。
日本では超高齢化を反映し高齢者福祉施設は施設数が多いため、求人数も多いが、児童・障害施設は保育所を除くと施設数が少ないため求人数は少ない。特に高齢者福祉分野は民間企業が参入しやすいため、介護職や看護職の労働者派遣業が確立されたが、児童・障害分野は行政機関か社会福祉法人主体のものが多い。また、児童養護施設や児童相談所などでは配置人員の不足が指摘されている。また、介護福祉士は専門職であるにもかかわらず、他業種に比べ転職率が高いが、以下のような理由が考えられるとされる。
- 入所型施設では変則勤務や夜勤、宿直が多い。また年末年始やゴールデンウィーク、お盆休みでも施設に人材は必要であるため、休暇も交替でとる。下記のような様々な問題がある割に待遇が悪い。
- 雇用面では、常勤雇用が少なく、パート、アルバイトが多いことが挙げられる。これは、労働集約型であり補助金や介護報酬などに依存しているという特性上、人件費抑制やサービスを向上すべく最低基準以上の人員を雇うために非常勤の比率を高めざるを得ないからである。また、女性が多い職場のため出産、育児休業などによる代替雇用が多く、正規雇用に繋がらない場合がある。
- 利用者との関係によるストレスで精神的に疲労してしまう。例えば高齢者施設では認知症、知的障害者施設では自閉症、精神障害者施設では精神障害を持つ利用者がいるが、それらの障害は、特有の行動や認知の傾向があるため、利用者と日々信頼関係を作っていくのに時間がかかり、利用者によっては暴力行為や不調、自傷・他害、持病の発作など、突発的なことに対応していくことが要求される。
- 個々の職員による支援方針の違いが、職場での意見の相違となり緊張感をもたらす。また、職員の大半が福祉職という同質的集団になるため、お互いに馴れ合いになりがちな傾向もあり、人権侵害と思われる行為を指摘しにくく、閉鎖的な緊張感も存在する為と考えられる。また長く勤続する職員ほど利用者のことをよく知っているために、従来のやり方が正しいという場の空気が生まれ、新人などが問題意識を持っていても指摘しにくい土壌もある。これらの原因で、誤った支援方針に異議を唱えることが難しいとの指摘もある。
- 利用者だけでなく、その家族や病院、行政機関、学校など各種関係機関との連絡調整に忙殺される。特に入所施設では、利用者と家族との関係、利用者の金銭管理に時間を割くことが多い。
- 居宅訪問介護の場合、ヘルパーの移動時間が労働時間として計算される事はほとんどないため、実質的な拘束時間が実労働時間よりも遥かに長いといった事態が起こりがちな為。
日本においては1990年代に入ってから福祉や介護へのニーズが高まり、福祉系大学の新規開学や学部の新設も始まった。福祉の資格取得者が増え社会的ニーズが高まっているが、雇用や労働条件は決して高いものとは言えない。また、有資格者が増える一方ですべての有資格者の力量が十分といえず、資格取得養成課程の見直しが検討されることになった。
財源の確保
社会保障に関して国民が負担する税・保険料の総額は2006年度で82兆8,000億円であるが、2025年度には143兆円に増加するとされている。潜在的国民負担率(租税負担率+社会保障負担率+財政赤字対国民所得比)については、「骨太の方針2004」でその目途を50%程度としつつ、政府の規模を抑制すると閣議決定されている。また、社会保障に要する国の負担は、2007年度は、21兆円を超え国の一般歳出の半分に近付きつつあるが、約775兆円にも及ぶ巨額な財政赤字の下では、社会保障給付を賄うための公費を含め、税負担は将来世代に先送りされている。
社会保障の給付について見直しを行い、必要な給付に対する公費負担については、将来世代に先送りすることがないよう、安定的な財源を確保する必要があるとされている。今後、少子高齢化の一層の進行が見込まれており、持続的な経済社会の活性化を実現する観点から、消費税を含む税制改革をし、世代内及び世代間の負担の公平を図ることが重要であるとされる[35][36]。
2012年の消費税法改正では、社会保障と少子化対策に用途が規定された。
経済に与える影響
日本の社会保障制度は、労使折半で社会保険料を負担する社会保険方式(被用者保険)を基本にしている。社会保障制度の充実は保険料や税の上昇を伴うため、個人については労働意欲の減退を招き労働力供給を減少させるとともに、企業については雇用や投資の減少を招き、経済成長率を低下させるという意見がある。一方、日本の社会保障への保険料や税の負担はアメリカを除く先進諸国と比べ低く、社会保障制度の充実は雇用を創出し消費を増やす効果があり、経済に対する不況時の安定機能を果たしているという意見がある。制度の持続可能性の確保の観点と経済の活力の確保の観点がともに重要であるとされる。
OECDは医療費財政を社会保険料に頼ることは、労働コストを上昇させ労働市場に悪影響を及ぼすため(2009年現在は賃金の8%が保険料であるが、増税なき場合には2035年度の保険料は24%まで上昇するとの試算[35])、雇用や投資へのゆがみをもたらしにくい付加価値税(消費税)がベストであるとしている[36]。
社会保障制度改革
日本の総人口は、2004年をピークに2005年は死亡数が出生数を上回り約2万人の減少となり、人口減少社会を迎えた。急速な少子高齢化の進行により、年金、医療、介護等の社会保障制度は、給付の面でも負担の面でも国民の生活に大きなウエイトを占め、家計や企業の経済活動に与える影響も大きくなった。人口の高齢化や支え手の減少に対応した持続可能な社会保障制度改革が必要であり、給付と負担のバランスや世代間・世代内の公平性が求められているとされる[38]。
2004年7月に「社会保障の在り方に関する懇談会(内閣官房長官主宰)」が、社会保障制度を将来にわたり持続可能なものとしていくため、社会保障制度全般について、税、保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行う必要があるとの問題意識の下で議論を開始し、2006年5月に取りまとめた「今後の社会保障の在り方について」が「骨太の方針2006」に盛り込まれた。
- 自助・共助・公助や税・保険料の役割分担、世代間・世代内の公平性等に留意しつつ、社会保障制度全体を捉えた一体的見直しを推進する。
- 社会保障の給付については、国民が負担可能な範囲となるよう不断の見直しを行う。
- 社会保障のための安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りをやめる。
2007年には社会保障国民会議が設置され、また1月の閣議決定「日本経済の進路と戦略(経済財政運営の中期方針)」では、持続可能で信頼できる社会保障制度の構築のため、自助・共助・公助の適切な役割分担の下、世代間の公平を図るとともに、サービスの質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストを低減させていくとされた。
2015年度 見込み | 2025年度見込み | ||
---|---|---|---|
年金 | 社会保険方式の場合 | 2.6兆円 (+1%弱) | 2.9兆円 (+1%弱) |
税方式の場合 | 12〜28兆円 (+3.5〜8.2%) | 15-31兆円 (+3.5〜8%) | |
医療・介護 | 4兆円 (+1%強) | 14兆円 (+4%弱) | |
少子化対策 | 1.3〜2.1兆円 (+0.4-0.6%) | 1.6〜2.5兆円 (+0.4〜0.6%) | |
計 | 社会保険方式の場合 | 7.6〜8.3兆円 (+2.3〜2.5%) | 19〜20兆円 (+5%) |
税方式の場合 | 17〜34兆円 (+5〜10%) | 31〜48兆円 (+8〜12%) |
2012年民主党政権下では、三党合意において民主党・自由民主党・公明党の実務者間で「社会保障・税一体改革に関する確認書」が交わされ、提言は社会保障制度改革国民会議が行うとされた。
2013年の自民党政権下では、社会保障国民会議が復活し、そこでは社会保障の機能強化の充実のために2015年には消費税率換算で+2.3〜10%強、2025年度には+5〜12%ほどの財源が必要との最終報告がなされた[39](社会保障と税の一体改革)。
2014年4月には、消費税が8%に引上げられている。2015年からは社会保障・税番号制度(個人番号。通称:マイナンバー)が導入された。
2015年のOECD対日審査では、最優先事項として病院平均入院日数の短縮が挙げられており、OECD平均の4倍(31.2日)である状況を短縮し、彼らを在宅ケアや介護施設に移行するよう勧告されている[36]。介護受給者は年8%のペースで増加しているが、日本の介護施設はOECD平均の半分しかないため、病床を介護施設に転換することの利点を裏付けている[36]。
政治史
戦後の低負担高福祉
日本の国民負担率[40]は40%未満であり、高負担高福祉の欧州、特に70%を超える北欧諸国に比べれば低い状態にある。
北欧の社民主義の左派政党の政権の中では、グローバリズムが進展し企業などの国境を越えた拠点移動が容易となった現代においては、国内の雇用維持創出のために法人税や所得税を下げ、消費税をより優先的な財源とすることが高福祉国家を実現する上で重要だという意見もあり、日本の福祉財源確保に関する方針は基本的にはこのような考えの下で進められてきた。一方で、福祉財源の確保は消費税の増税よりも公共事業や地方交付税[41]の削減などを優先して確保すべきだという主張もあり、政治的には、福祉政策をどの水準に保つかということと、どのように税収を確保するかという議論は切り離せないものである。
近代の先進国における政党政治では、左派政党が高負担・高福祉の路線を、右派政党が低負担・低福祉の路線をそれぞれ主張して競う状況が多く見られたが、日本においては長らく与党を担う右派の自民党が中負担・中福祉として社民主義に近い路線を採用していた。しかし1960年代頃から、地方選挙等で野党側の候補が医療費無料対象の拡大など高福祉の政策を掲げて当選する場面が増え、東京都に始まり、他のいくつかの地方自治体でも同様に老人医療費の無料化などが導入されていった。
このように福祉政策に対する方針が選挙においてより争点化され影響力を持つようになった結果、現在の日本の福祉政策は、福祉財源全体を管理する与党側の思惑としては財源を据え置きにしたまま、福祉内容の面ではより拡充が進んでしまうという形になり、相対的に「低負担・高福祉」の歪んだ構造へと変化してきた。
社会体制が高福祉化へ転換する中で社会保障関係費が歳出に占める割合は年々増加し、また、高齢者の医療費負担が引き下げられたことで医学的治療の必要性が低い人々にまで過剰な通院を促してしまう(病院のサロン化)など、諸々の問題を生じさせることにもなった。
脚注
- ^ 「社会保障将来像委員会 第一次報告」(平成5年 総理府社会保障制度審議会事務局)によれば、社会保障について次のように定義している。『まず第一に、社会保障は、国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障する制度である。社会保障は、歴史的には救貧や防貧のためのものとして発展してきたが、今日ではそれより広く国民に安定した生活を保障するものとなっている。第二に、社会保障は、給付を行うことによって国民の生活を保障する制度である。各種の規制を行うことで国民の生活を健康で安全なものとするものもあるが、このような規制は他の多くの公共政策とかかわっており、必ずしも社会保障に限られるものではない。第三に、社会保障は、国や地方公共団体の責任として生活保障を行う制度である。国民が生活困難の状態に陥った場合、あるいは陥ろうとする場合、国民自身やその家族が自らの力でそれを克服しようと努めるだけでなく、社会のさまざまな人々や組織が手を差し延べて、困難な状態から抜け出すための援助を行うこともある。社会保障は、これらの中でも国や地方公共団体が公的責任として国民の生活を支えるものである。以上のことから、社会保障とは、「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うものである」ということができる。』
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- ^ OECD 2014.
- ^ 厚生労働白書 2011, Chapt.4.
- ^ a b 社会保障国民会議 最終報告 (Report). 社会保障国民会議. 4 November 2013.
- ^ 税金や社会保険料を国民所得で割った割合
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参考文献
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- OECD Economic Surveys: Japan 2009, OECD, (2009-08-13), Chapt.3, doi:10.1787/eco_surveys-jpn-2009-en, ISBN 9789264054561
- OECD Society at a glance 2014, OECD, (2014), doi:10.1787/soc_glance-2014-en, ISBN 9789264206694
- 『厚生労働白書 平成25年版』厚生労働省、2013年。ISBN 978-4905427582 。
- 厚生労働白書 平成24年版 (Report). 厚生労働省. 2012.
- 厚生労働白書 平成23年版 (Report). 厚生労働省. 2011.
- 「社会保障費用統計 (平成23年度)」、国立社会保障・人口問題研究所、2013年12月。
- 新川敏光; 井戸正伸; 宮本太郎; 眞柄秀子『比較政治経済学』有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2004年。ISBN 978-4-641-12225-3。
- 新川敏光『日本型福祉レジームの発展と変容』ミネルヴァ書房、2005年。ISBN 978-4-623-04394-1。
- 宮本太郎『福祉政治 : 日本の生活保障とデモクラシー』有斐閣〈有斐閣Insight〉、2008年。ISBN 978-4-641-17802-1。
関連項目
- 福祉、社会保障
- 日本の年金
- ユニバーサルヘルスケア / 医療制度
- 高齢化社会、少子化
- 社会保障国民会議
- 福祉従事者に関して
- 特別養護老人ホーム
- グループホーム
- 生涯活躍のまち
- 民生委員・児童委員
- 消防団 - 水防団 - 海防団
- 老人会
- デイケア