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| 政府首脳人物 = [[二条師忠]]→[[近衛家基]]→[[九条忠教]]→[[近衛家基]]→[[鷹司兼忠]]{{sfn|樋口|2021|p=249}}
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| 別名= 素融（法名）{{Sfn|宮内庁書陵部(3)|1931-1947|p=603}}<br>持明院殿{{sfn|次田|1987|p=389}}
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| 生年= [[1265年]][[5月10日]]（[[文永]]2年[[4月23日 (旧暦)|4月23日]]）{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|p=2}}<ref> [[東京大学史料編纂所]]「[https://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/w61/detail/020100165568?basemgno=020100165568&dispid=disp01&type=1 大日本史料総合データベース、文永2年4月23日(12650040230) 1条]」2024年3月7日閲覧。 </ref>
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'''伏見天皇'''（ふしみてんのう、[[1265年]][[5月10日]]〈[[文永]]2年[[4月23日 (旧暦)|4月23日]]〉- [[1317年]][[10月8日]]〈[[文保]]元年[[9月3日 (旧暦)|9月3日]]〉）は、[[日本]]の第92代[[天皇]]（在位:[[1287年]][[11月27日]]〈[[弘安]]10年[[10月21日 (旧暦)|10月21日]]〉- [[1298年]][[8月30日]]〈[[永仁]]6年[[7月22日 (旧暦)|7月22日]]〉）。[[諱]]は'''熈仁'''（ひろひと）。
'''伏見天皇'''（ふしみてんのう、[[1265年]][[5月10日]]〈[[文永]]2年[[4月23日 (旧暦)|4月23日]]〉- [[1317年]][[10月8日]]〈[[文保]]元年[[9月3日 (旧暦)|9月3日]]〉）は、[[日本]]の第92代[[天皇]]（在位:[[1287年]][[11月27日]]〈[[弘安]]10年[[10月21日 (旧暦)|10月21日]]〉- [[1298年]][[8月30日]]〈[[永仁]]6年[[7月22日 (旧暦)|7月22日]]〉）<ref> 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』「[https://kotobank.jp/word/%E4%BC%8F%E8%A6%8B%E5%A4%A9%E7%9A%87-15146#goog_rewarded 伏見天皇]」[[コトバンク]]より。2024年3月7日閲覧。 </ref>。[[諱]]は'''熙仁'''（ひろひと）。


[[後深草天皇]]の第二皇子。母は、[[左大臣]][[洞院実雄]]の娘、[[洞院愔子|<span lang="zh">愔</span>子]]（玄輝門院）。
[[後深草天皇]]の第二皇子。母は、[[左大臣]][[洞院実雄]]の娘、[[洞院愔子|<span lang="zh">愔</span>子]]（玄輝門院）{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|p=1}}。


[[持明院統]]の天皇で、在位中には大規模な訴訟制度改革を実行。[[皇太子]]時代より新しい歌風を模索し、[[京極為兼]]とともに[[京極派]]を成立させ、『[[玉葉和歌集]]』の[[勅撰和歌集|勅撰]]を行った。[[書道]]にも優れ、「書聖」とも称される。
日本史上随一の能書帝であり、[[書道]]の[[伏見院流]]の祖。様々な書風を使いこなし、[[宸翰様]]においては[[後醍醐天皇]]と共に代表的存在であり、[[上代様]]においても「[[三蹟]]」の一人[[藤原行成]]以上の腕前を持っていたと評される。そのため、「'''書聖'''」とも呼ばれる。また、[[京極派]]の有力[[歌人]]としても知られ、[[治天の君|治天]]中の[[勅撰和歌集]]に『[[玉葉和歌集]]』（撰者は[[京極為兼]]）がある。


== 略歴 ==
== 概要 ==
熙仁の誕生当初、叔父の[[亀山天皇]]の子孫への皇位継承が決まりかけていたが、父後深草上皇が出家の意向を表明すると、それに同情した幕府の措置によって、熙仁は皇太子となった。（→[[#皇太子となる]]）
[[持明院統]]の[[後深草天皇|後深草上皇]]の働きかけにより、建治元年（[[1275年]]）に[[大覚寺統]]の[[亀山天皇|亀山上皇]]の猶子となり親王宣下、ついで[[後宇多天皇]]の皇太子になる。弘安10年（[[1287年]]）、後宇多天皇の[[譲位]]により即位。これ以後、大覚寺統と持明院統が交代で天皇を出す時代がしばらく続くことになる。後深草上皇は2年余りで[[院政]]を停止したため、以後天皇親政が続く。正応2年（[[1289年]]）、自分の皇子である胤仁親王（[[後伏見天皇]]）を[[皇太子]]にしたため、大覚寺統との間の確執が強まる。


その後、[[霜月騒動]]の余波を受けて[[践祚]]。在位中は、宮廷内で威勢をふるっていた後深草の近臣集団や訴訟に介入してくる[[平頼綱]]の側近を排除したり、[[庭中]]の新設に代表される、訴訟制度の大規模な改革を行うなどした。こうした鎌倉時代後期の訴訟制度改革によって、[[承久の乱]]以降破綻していた[[治天の君]]の権力が回復することになったという評価も存在する。（→[[#践祚]]・[[#伏見親政]]）
正応3年（[[1290年]]）、宮中に[[甲斐源氏]]の[[浅原為頼]]父子が押し入り、伏見天皇暗殺未遂事件（[[浅原事件]]）が起きた。この事件は初め[[北条氏]]による[[霜月騒動]]に連座し、所領を没収されたことによる浅原の反抗かと思われたが、大覚寺統系の前[[参議]][[三条実盛]]の関与が疑われ、それを受けて伏見天皇と[[関東申次]][[西園寺公衡]]は亀山法皇が背後にいると主張した。しかし後深草法皇はその主張を退けた。また亀山法皇も[[鎌倉幕府|幕府]]に事件には関与していない旨の[[起請文]]を送ったことで、幕府はそれ以上の捜査には深入りせず、三条実盛も釈放された。


しかし、春宮時代から伏見に仕えていた京極為兼が幕府に処罰され、皇子の胤仁親王（[[後伏見天皇]]）への[[譲位]]を余儀なくされた。伏見の最側近である為兼が幕府に問題視されたことは、[[大覚寺統]]を有利にさせ、後伏見天皇も早々に大覚寺統の邦治親王（[[後二条天皇]]）への譲位を余儀なくされた。（→[[#譲位と両統迭立]]）
治世中門閥貴族による政治の打破などに力を入れるが、[[鎌倉幕府|幕府]]の干渉が強まると永仁6年（[[1298年]]）、[[後伏見天皇]]に譲位して院政を執り行った。しかし、幕府による[[両統迭立]]の考えのもと、後宇多上皇の皇子・邦治親王（[[後二条天皇]]）が立太子し、3年後の正安3年（[[1301年]]）には、大覚寺統の巻き返しにより後伏見天皇は後二条天皇に譲位した。両統迭立の方針に従い、皇太子には伏見上皇の第四皇子・富仁親王（[[花園天皇]]）が立てられた。延慶元年（[[1308年]]）、後二条天皇の崩御に伴い、花園天皇の即位を実現し、再び院政を敷いた。正和2年（[[1313年]]）に出家し、後伏見上皇が院政を引き継いだ。文保元年（[[1317年]]）、崩御。宝算53。


皇子の[[後伏見天皇]]と[[花園天皇]]の在位中は院政を敷いた。後伏見天皇在位中の第一次伏見院政は短期間で終了し大覚寺統の治世となったが、花園天皇在位中の第二次伏見院政では、「延慶法」や「文保法」といった法令を制定し、『[[玉葉和歌集]]』の勅撰も行った。（→[[#伏見院政]]）
伏見天皇の親政・院政時代は、持明院統と大覚寺統が解決策を見つけられず綱引きをしていた時代である。伏見天皇の政治は皮肉にも政敵である亀山上皇の政策を踏襲したものであり、朝廷における訴訟機構の刷新や[[記録荘園券契所|記録所]]の充実などにより政治的権威の回復に積極的に取り組んだ。また、[[皇位継承]]に介入する鎌倉幕府に対して強い不信感を持ち、在世中は倒幕画策の噂が立てられるほどであった。このため、伏見天皇の[[和歌]]の師で一番の側近であった[[京極為兼]]が二度も[[流罪|流刑]]となっているのは、伏見天皇が反幕府的な動きを取ったことに対する見せしめではないかという説も唱えられている。


ところが、為兼が再度逮捕され土佐に流されると、大覚寺統の後宇多上皇は幕府に花園の譲位を主張した。幕府は両統での協議を促し（[[文保の和談]]）、皇位継承計画案を提示したが、大覚寺統に有利な提案であったため、持明院統側は拒否した。そうした中、伏見は[[崩御]]した。主柱を失った[[持明院統]]は花園の譲位を認めざるを得ず、花園は皇太子尊治親王（[[後醍醐天皇]]）に譲位した。（→[[#為兼の再失脚と崩御]]）
== 人物 ==
=== 書道 ===
[[File:Prayer by Emperor Fushimi Tail 2.jpg|thumb|left|『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』（[[重要文化財]]、[[京都国立博物館]]蔵）末尾。「書聖」伏見天皇の作品の中でも白眉とされる。]]


伏見は和歌と書道に優れ、文化面でも活躍した。歌人としては京極派の代表歌人の一人に数えられ、[[能書家]]としては「書聖」「歴朝随一」とも評価されている。（→[[#歌人として]]・[[#能書家として]]）
日本史上最高の能書帝とされ、[[大覚寺統]]の[[後醍醐天皇]]と共に[[宸翰様]]（しんかんよう、禅僧の[[禅林墨跡]]を交えた書風）を代表するだけではなく、[[上代様]]など様々な書風を使いこなした。多くの[[宸翰]]（しんかん、天皇の直筆文）が[[重要文化財]]に指定されている。


== 生涯 ==
=== 皇太子となる ===
[[文永]]2年（[[1265年]]）[[4月23日 (旧暦)|4月23日]][[辰の刻]]、[[後深草上皇]]の第二皇子として誕生した{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|pp=1-2}}。

当時の天皇は後深草の弟の[[亀山天皇]]であり、[[西園寺姞子]]や鎌倉幕府の承認もあって、亀山の子孫（のちの[[大覚寺統]]）の皇位継承が既定路線となっていた{{sfn|森|2020|p=26}}{{sfn|中井|2023|pp=51-52}}。そして、文永11年（[[1274年]]）に亀山が皇子の世仁親王（[[後宇多天皇]]）に譲位すると、後深草は出家の意向を固める{{sfn|森|2020|p=28}}{{Refnest|group=注|中世史研究者の[[中井裕子]]は、娘を粗略に扱う亀山を恨んでいた[[関東申次]][[西園寺実兼]]が後深草に接近し、後深草皇統への皇位継承を幕府に働きかけたという指摘を挙げ、そのため後深草の出家の意向表明は、後深草が将来を悲観したのではなく、後深草側を有利にするための戦略であったとしている{{sfn|中井|2023|p=53}}。}}。ところが、後深草に同情した鎌倉幕府[[執権]]の[[北条時宗]]は、後深草の救済に乗り出した{{sfn|森|2020|p=28}}。歴史物語の『[[増鏡]]』には、次のようにある。

{{Quotation|今の時宗の朝臣も、いとめでたき者にて、「本院の、かく世を思し捨てんずる、いとかたじけなく、あはれなる御ことなり。故院の御おきては、やうこそあらめなれど、そこらの御このかみにて、させる御あやまりもおはしまさざらんに、いかでか忽ちに名残なくはものし給ふべき。いと怠々しきわざなり」とて、新院へも奏し、かなたこなたなごめ申して、東の御方の若宮を坊に奉りぬ{{Refnest|group=注|現代語訳：今の執権時宗朝臣もたいへんりっぱな人物で、「後深草院がこのように御出家なさろうとすることは、まことにおそれ多く、お気の毒な御ことである。後嵯峨院の御遺詔は深いわけがあるだろうが、後深草院は大ぜいの御兄弟の御兄上で、これといった御過失もおありにならないだろうのに、どうして急に皇位から関係がなくなってしまわれる、そんなことがあってよかろうか（よくないことだ）」といって、亀山院へも奏上し、あちらもこちらも（両上皇の）仲を和らげ申して、（後深草院）の東の御方の若宮（煕仁親王）を皇太子にお立てになった<ref>井上宗雄『増鏡（中）全訳注』pp.204-205.</ref>。}}。|『増鏡』草枕<ref>井上宗雄『増鏡（中）全訳注』p.203.</ref>}}

かくして熙仁は、建治元年（[[1275年]]）[[10月27日 (旧暦)|10月27日]]に[[親王宣下]]を受け{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=177}}{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|p=3}}、同年[[11月5日 (旧暦)|11月5日]]に後宇多天皇の皇太子となった{{sfn|森|2020|p=29}}{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|p=4}}。この際、熙仁は亀山の[[猶子]]となっている{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=177}}{{sfn|河内・新田|2018|p=164}}。

皇太子時代の熙仁は、『[[日本書紀]]』や『[[古今和歌集]]』の講義を聞いたり、『[[万葉集]]』について[[京極為兼]]を試したりするなど、古典を熱心に学んだ{{sfn|阿尾|2011|pp=2-3}}。愛読書は『[[源氏物語]]』であり、近臣と『源氏物語』の談議に熱中することもあったという{{sfn|阿尾|2011|p=3}}。京極為兼はのちに熙仁の股肱の臣となるが、熙仁は為兼による和歌の指導を受け、春宮時代から和歌の新風を模索していた{{sfn|阿尾|2011|p=101}}。これは後に、「[[京極派]]」として確立することとなる。

=== 践祚 ===
後宇多の在位は13年に及び、その間は亀山上皇による[[院政]]が敷かれた。当時の鎌倉幕府では、執権[[北条貞時]]の外祖父である[[安達泰盛]]を中心として、大規模な政治改革が行われていたが、亀山院政下の朝廷でも、[[院評定|院評定制]]の改革や21か条におよぶ[[新制|公家新制]]の制定をはじめとする政治改革が、連動して行われていた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=182-184}}（[[弘安徳政]]）。ところが、弘安8年（[[1285年]]）11月に[[霜月騒動]]が発生して[[平頼綱]]に泰盛が討たれると、頼綱に大覚寺統は危険視されるようになる{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=184}}。

そうして、弘安10年（[[1287年]]）10月、鎌倉幕府の要請により、熙仁は践祚した{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=184}}{{sfn|河内・新田|2018|p=166}}。（以下「伏見天皇」とする）同時に、父後深草による院政が開始された。正応2年（[[1289年]]）4月には、熙仁の第一皇子である胤仁親王（のちの[[後伏見天皇]]）が皇太子となった{{Sfn|宮内庁書陵部(1)|1931-1947|p=203}}{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=187}}。これを受けて、失意の亀山は突然出家してしまう{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=187}}。

さらに、正応3年（[[1290年]]）3月に、二条富小路内裏に乱入した武士による伏見天皇暗殺未遂事件（[[浅原事件]]）が発生すると、大覚寺統の関与が疑われた{{sfn|今谷|2019|p=57}}。伏見や義兄の[[西園寺公衡]]は亀山の関与と重い処分を主張したが、後深草は亀山の関与に言及せず、亀山は即座に告文を幕府に送った{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=189}}。これにより亀山は事なきを得たが、亀山はかねてより幕府からの印象が悪く、事件への関与を疑われたことは、大覚寺統の痛手となってしまった{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=189}}。

=== 伏見親政 ===
[[ファイル:伏見天皇綸旨.jpg|サムネイル|伏見天皇の綸旨（「[[東寺百合文書]]」）]]
==== 親政の開始 ====
正応3年（[[1290年]]）7月26日、伏見は出家していた後深草に政務を譲られ、8月8日に内裏の鬼間にて[[院評定|議定始]]を行った{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=189}}。伏見親政の開始である{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=189}}。

ところが、政務から引退したはずの後深草法皇は、日常の政務から国家的大事に至るまで、様々な発言を行っていた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=191}}。また、伏見の践祚に関与した頼綱も、朝廷の政務に口入するようになっていた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=187}}。さらに、後深草の近臣は宮廷内で幅を利かせ、頼綱の側近である禅空は朝廷の裁判に盛んに介入するようになった{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=192-193}}。

そこで伏見は、後深草の近臣が禅空の口入によって官位昇進していたことに目をつけ、禅空の所行を鎌倉幕府に訴えた。こうして、禅空が関与した訴訟の裁許をすべて無効とさせ、さらに後深草の近臣らの解官に成功する{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=193}}。

もっとも以降も伏見は後深草の意向を尊重しているが、自ら政治を主導する体制を着実に整えていった{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=194}}。

==== 政治改革の実行 ====
正応6年（[[1293年]]）前後に相次いだ社会不安を受けて、伏見は政務に大きな意欲を出し始めた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=195}}。

正応5年（[[1292年]]）7月、訴訟手続などを規定した[[新制]]を発した（「正応法」）{{sfn|藤原|1985|p=22}}。この新制は、裁判規範の確立を第一とした従来の立法と異なり、ほぼ全ての条項が訴訟手続に関するもので、様々な新しい訴訟手続が規定された画期的な法であった{{sfn|藤原|1985|p=22}}。そして正応6年6月1日、伏見は訴訟制度の大規模な改革を実行する{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=195}}。亀山院政にならい、議定（院政では[[院評定]]と呼ばれる）を国政に関する事柄を審議する「徳政議定」と、所領に関する民事訴訟である雑訴を審議する「雑訴議定」（雑訴沙汰）に分けつつ、新たに雑訴議定の議定衆を3番編成の交代制としたうえで{{sfn|美川|2018|p=202}}{{sfn|本郷|1995|p=164}}、[[記録所]]（院政では[[文殿]]と呼ばれる）に「[[庭中]]」を新設した{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=183,195}}{{sfn|美川|2018|p=203}}。さらに、それまで朝廷では禁止されていた[[越訴]]（[[再審]]）が亀山院政下で認められていたが、伏見親政下では、これを受理する専門の機関として「越訴奉行」が新設されている{{sfn|美川|2018|pp=205-206}}{{Refnest|group=注|亀山や伏見などが行った、「徳政」「徳政政策」「公家徳政」と呼ばれる中世公家政権の政治改革において、「雑訴の興行」が特に重視されたのは、[[徳政令]]に象徴されるように、「[[徳政]]」の根幹が「旧領回復」にあるとされ、その「旧領回復」は訴訟によって実現されるので、その手続きの充実、すなわち「雑訴の興行」を行うことで「徳政」が実現されると考えられたためである{{sfn|藤原|1985|pp=2-3}}。}}。

この改革は、大覚寺統派の廷臣にも絶賛された{{sfn|今谷|2019|p=59}}。中世史研究者の[[美川圭]]は、こうした鎌倉時代後期の[[院評定|院評定制]]や雑訴沙汰といった朝廷の訴訟制度の充実によって、[[承久の乱]]で破綻した[[治天の君]]の権力が回復することになった、と指摘している{{sfn|美川|2018|p=206}}。また、こうした政治改革は、幕府の期待に応えるとともに、大覚寺統を掣肘する狙いがあったとされる{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=196}}。

伏見が同年7月に[[伊勢神宮]]に奉納した自筆宣命には、次のように記されている{{Sfn|宮内庁書陵部(2)|1931-1947|p=306}}<ref>帝國學士院『宸翰英華(1)』1944、p.156。</ref>。
{{Cquote|'''不徳に依りて天譴是れ{{ruby|遁|のが}}れ難し。但し{{ruby|咎徴|きゅうちょう}}を示すことは、天の未だ棄てず、神の{{ruby|恤|あはれ}}む所なり。{{ruby|茲|ここ}}に因りて、近日徳政を興行し、雑訴を決断すること、志の及ぶ所疎簡の思ひ無く、理の推す所私曲の儀無き処に、{{ruby|妖孽|ようげつ}}猶絶えず'''}}

=== 譲位と両統迭立 ===
永仁6年（[[1298年]]）1月7日、伏見の春宮時代から仕えており、伏見が厚い信頼を寄せていた京極為兼が{{sfn|今谷|2019|pp=51,56}}、陰謀の企てがあるという某人の讒言によって六波羅探題に逮捕された{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=200-201}}（その後[[佐渡国]]に流される{{sfn|今谷|2019|p=65}}）。この事件の背景には、為兼の周囲に特殊な人脈が形成されており、彼らが伏見の政務に口入していたことが幕府に問題視されたことが挙げられている{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=202}}。

かくして、同年[[7月22日 (旧暦)|7月22日]]、伏見は皇太子胤仁親王への譲位を余儀なくされ{{Sfn|宮内庁書陵部(2)|1931-1947|p=418}}、新たな皇太子には後宇多上皇の皇子邦治親王（のちの[[後二条天皇]]）が立った<ref> [[東京大学史料編纂所]]「[https://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/w61/detail/020100171989?basemgno=020100171989&dispid=disp01&type=1 大日本史料総合データベース、永仁6年8月10日(12980080100) 1条]」 </ref>。その後、後伏見天皇も正安3年（[[1301年]]）に退位を余儀なくされ、大覚寺統は復権を果たした{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=203}}。

もっとも、伏見は後伏見の弟である富仁親王（のちの[[花園天皇]]）の立太子を主張し、幕府に認められた{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=203}}。こうして、[[両統迭立]]は常態化していくこととなる{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=204}}。

なお、富仁の立太子は将来的に[[持明院統]]を分裂させる危険性があった。そのため伏見は、富仁の立太子の際、富仁を後伏見の[[猶子]]にしたうえで、後伏見に皇子が誕生した際は富仁の猶子とし、その皇子の系統に皇位を継承させるよう厳命している{{Sfn|深津|2014|p=26}}。当時伏見が後伏見に送った消息（[[宮内庁書陵部]]蔵「伏見院御文類」）には、次のようにある{{Sfn|深津|2014|pp=26,28}}。
{{Cquote|'''皇子出生の時は嫡孫の儀として、向後一流を継体するのほか、更に希望あるべからず候、春宮もし謂ひをもって先途に達し、御子孫に対し相争ふの所存候は、ひとへに不義不孝の仁たるべく候、かくの如く申し置くの上、ゆめ子細あるべからず候、此の条国の為、世の為、更に私事無く候、殊に御意を得有るべく候'''}}

=== 伏見院政 ===
後伏見の在位中に敷かれた第一次伏見院政は、後伏見の譲位により3年を経ずして終了した。乾元2年（[[1303年]]）に為兼が帰京すると、[[京極派]]が確立する{{sfn|阿尾|2011|p=101}}。

{{wikisource|文保法}}
延慶元年（[[1308年]]）8月に後二条の崩御により富仁親王が践祚すると、第二次伏見院政が開始された。第二次伏見院政では、延慶2年（[[1309年]]）の「延慶法」、文保元年（[[1318年]]）の「文保法」など、いくつかの「雑訴法」{{Refnest|group=注|「雑訴法」（ざっそほう）とは、所領関係の法規定のことであり、「民事訴訟手続法」「雑訴関係手続き法」ともいうべきものである{{sfn|森|2023|p=63}}。中世史研究者の[[森茂暁]]は、持明院統の治世下で発された「雑訴法」として、「延慶法」「文保法」のほかに、永仁年間成立の「永仁法」、正和3年（[[1314年]]）11月13日成立の「正和法」の存在を指摘している{{sfn|森|2023|p=61}}。}}が制定された{{Sfn|森|2023|p=61}}。さらに、正和元年（[[1312年]]）には、為兼を撰者として、伏見上皇の[[勅撰和歌集]]『[[玉葉和歌集]]』が成立した{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。

正和2年（[[1313年]]）7月、後伏見に量仁親王（のちの[[光厳天皇]]）が誕生{{sfn|深津|2014|p=25}}。10月に伏見は後伏見に政務を譲り出家した{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。

=== 為兼の再失脚と崩御 ===
もっとも、後深草のように、伏見も完全に隠居したわけではなく、しばしば後伏見の政務に意見した。このことが後伏見にとっての精神的な重荷となり、翌年5月には政務返上を表明するまでに至った{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。また、後伏見は自身の退位の大きな要因となった為兼を「佞臣」と称して憎んでいた{{sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=223-224}}。

こうした持明院統内部での対立を利用し、為兼を嫌っていた[[西園寺実兼]]は、為兼を再度失脚させるために後伏見に接近した{{sfn|野口・長村・坂口|2022|p=224}}。さらに、実兼は伏見と為兼が倒幕を企てていると幕府に讒言をし、正和4年（[[1315年]]）に為兼は再度逮捕され、その後[[土佐国]]に流された{{sfn|本郷|1995|pp=174-175}}。以後も伏見が倒幕を企てているという噂は絶えず、伏見は幕府に告文を送って無実を主張した{{sfn|本郷|1995|p=175}}。その告文（「伏見院賜于関東御告文」）には、次のようにある{{sfn|深津|2014|p=21}}。
{{Cquote|'''愚身、建治に儲弐に備え、弘安に践祚を遂ぐ、これみな東関の貴命に依る。生涯の先途を極む。この芳恩を{{ruby|荷|にな}}いながら、いかでか不義を存ずべけんや'''}}
こうした事態を好機として、大覚寺統の後宇多上皇は、花園天皇の譲位と皇太子尊治親王（のちの[[後醍醐天皇]]）の践祚を幕府に主張した{{sfn|本郷|1995|p=175}}。これを受けて、文保元年（[[1317年]]）4月に幕府は使者を派遣し、皇位継承について両統が協議するように申し入れる{{sfn|本郷|1995|p=175}}。こうして始まったのが、[[文保の和談]]であった。この和談では、皇太子尊治親王が践祚し、後二条の皇子[[邦良親王]]が新たな皇太子となり、邦良親王の践祚後に後伏見の皇子量仁親王を新たな皇太子とする、という案が幕府より示された{{sfn|本郷|1995|p=175}}。これは明らかに大覚寺統に有利な提案であり、持明院統側は受け入れなかった{{sfn|本郷|1995|p=175}}。

そうしたなか、同年[[9月3日 (旧暦)|9月3日]][[寅の刻]]に、伏見法皇は[[持明院殿]]にて[[崩御]]する。宝算53{{Sfn|宮内庁書陵部(3)|1931-1947|p=625}}。

中心人物を失った持明院統はなすすべなく、文保2年（[[1318年]]）2月に花園天皇は尊治親王に譲位した{{sfn|本郷|1995|p=176}}。

== 歌人として ==
{{see also|玉葉和歌集}}

伏見は、[[京極派|京極派和歌]]の庇護者であると同時に{{sfn|次田・岩佐|1979|p=457}}、京極為兼とともに和歌の新風を模索した一人である{{sfn|阿尾|2011|p=105}}。中宮の[[永福門院]]や子の[[花園院]]とともに、京極派の代表歌人とされる<ref> 『日本大百科全書(ニッポニカ) 』「[https://kotobank.jp/word/%E4%BA%AC%E6%A5%B5%E6%B4%BE-478147#goog_rewarded 京極派]」[[コトバンク]]より。2024年3月7日閲覧。 </ref>。以下、歌人としての伏見の活動を記す。伏見が詠んだ和歌の実例などは、[[#御製]]を参照のこと。

=== 京極派の成立 ===
伏見は春宮時代より古典や和歌を愛好し{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=196}}{{sfn|阿尾|2011|pp=2-3}}、同好の青年貴族たちを集めて伏見の周辺には一種の文芸サロンが形成されていた{{sfn|今谷|2019|p=55}}。そこに、和歌における心の絶対視を主張する為兼が現れると、伏見周辺のグループは急速に和歌への志向を強め、和歌の新風を模索し始めた{{sfn|今谷|2019|p=55}}。これが、京極派の嚆矢である{{sfn|今谷|2019|p=55}}。

もっとも、京極派の歌風はただちに確立したわけではなく、初期の京極派の和歌には、観念的志向の強いものが多かった{{sfn|阿尾|2011|p=105}}。中世文学研究者の[[阿尾あすか]]も、正安元年（[[1299年]]）に詠まれた伏見の御製{{Refnest|group=注|つくづくと 見ぬ空までも かなしきは 一人きく夜の 軒の春雨}}について、「説明的で観念性が勝っており、どこか表現もぎこちない」としている{{sfn|阿尾|2011|p=105}}。

為兼の配流と伏見の退位ののちも、伏見は中宮の[[永福門院]]や女房、廷臣たちとともに新風を模索し続けた{{sfn|阿尾|2011|p=105}}。そして、乾元2年（[[1303年]]）に為兼が帰京すると、京極派の歌風は確立した{{sfn|阿尾|2011|p=29}}。このころの伏見宮廷で開かれた[[歌合]]の記録（『仙洞五十番歌合』）が残っており、この歌合で詠まれた伏見の御製{{Refnest|group=注|我もかなし 草木も心 いたむらし 秋風ふれて 露くだる頃}}を為兼は、「心詞たくみにして凡俗之界ヲ隔ツ」と絶賛している{{sfn|阿尾|2011|p=29}}。

=== 京極派勅撰集の計画 ===
==== 永仁勅撰の議 ====
永仁元年（[[1293年]]）8月27日、かねてより勅撰集の撰集を企図していた伏見天皇は、[[二条為世]]・[[京極為兼]]・[[飛鳥井雅有]]（病気により参内せず）・[[九条隆博]]らの歌道家を召して、撰集下命の日時と形式、撰歌の範囲、応製百首の実施、などについて下問した{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=197-198}}。

この下問では、特に撰歌の範囲が問題となり、「上古」の歌にはもはや採るべきものは無いとする為世と、伏見の[[万葉集|万葉風]]を慕う趣向に基づいて「上古」以来の和歌を採るべきとする為兼との間で議論が繰り広げられた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=198-199}}。結局、隆博が為兼の意見に賛同したことにより、伏見は為兼の主張を全面的に認めた形で撰集を命じた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=199-200}}。（[[永仁勅撰の議]]）

ただし、永仁度の勅撰計画は、為兼の失脚と伏見の退位により白紙となった{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=200-201}}。

==== 玉葉和歌集の成立 ====
皇子が即位し院政を敷くことになった伏見上皇は、為兼を中心に再度勅撰集を編纂することを志した{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|pp=222-223}}。その際、為世は為兼が撰者に相応しくないと伏見に訴えた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。約半年におよんで問答は続いたが、結局、応長元年（[[1311年]]）5月に伏見は幕府の了解を得て為兼を撰者に命じた{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。（[[延慶両卿訴陳状|延慶両卿訴陳]]）

かくして、正和元年（[[1312年]]）[[3月28日 (旧暦)|3月28日]]、為兼の手によって『[[玉葉和歌集]]』が成立した{{Sfn|野口・長村・坂口|2022|p=223}}。

== 能書家として ==
{{Gallery
|Prayer by Emperor Fushimi Tail 2.jpg|『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』[[重要文化財]]、[[京都国立博物館]]蔵。「書聖」伏見天皇の作品の中でも白眉とされる。
|伏見天皇宸筆古今和歌集（筑後切）.jpg|伏見天皇宸筆古今和歌集（筑後切）。[[東京国立博物館]]所蔵。
|伏見天皇宸翰消息.jpg|伏見天皇の宸翰消息。重要文化財、[[東京国立博物館]]所蔵。
|伏見天皇宸翰和歌（五十首）.jpg|伏見天皇の宸翰和歌。重要文化財、東京国立博物館所蔵。
}}
[[歴史物語]]『[[増鏡]]』「裏千鳥」では、「御手もいとめでたく、昔の行成大納言にもまさり給へる、など時の人申しけり。やさしうも強うも書かせおはしましけるとかや」と、「[[三蹟]]」の[[藤原行成]]以上の書の腕前を持っていたと評され、さらに様々な書風をこなしていたことがわかる{{sfn|井上|1983|pp=38–43}}。「やさしうも強うも」云々は、[[草書]]と[[楷書]]も使い分けたという解釈や、上代様も宸翰様も使い分けた、などの解釈がある{{sfn|井上|1983|pp=38–43}}。伏見天皇の書を称える話は『[[正徹物語]]』下巻冒頭などにもある{{sfn|井上|1983|pp=42–43}}。
[[歴史物語]]『[[増鏡]]』「裏千鳥」では、「御手もいとめでたく、昔の行成大納言にもまさり給へる、など時の人申しけり。やさしうも強うも書かせおはしましけるとかや」と、「[[三蹟]]」の[[藤原行成]]以上の書の腕前を持っていたと評され、さらに様々な書風をこなしていたことがわかる{{sfn|井上|1983|pp=38–43}}。「やさしうも強うも」云々は、[[草書]]と[[楷書]]も使い分けたという解釈や、上代様も宸翰様も使い分けた、などの解釈がある{{sfn|井上|1983|pp=38–43}}。伏見天皇の書を称える話は『[[正徹物語]]』下巻冒頭などにもある{{sfn|井上|1983|pp=42–43}}。


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代表的作品は、上代様によって書かれた『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』（重要文化財、[[京都国立博物館]]蔵）{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}。[[室町時代]]の公卿[[三条西実隆]]は「希代之鴻宝」と評し、羽田は、深い学識を豊かで流麗に表現した「名品中の名品」と評している{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}。その他の代表作には、正和5年の願文や{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}、「筑後切」などがある{{sfn|小松|2006|pp=185–187}}。
代表的作品は、上代様によって書かれた『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』（重要文化財、[[京都国立博物館]]蔵）{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}。[[室町時代]]の公卿[[三条西実隆]]は「希代之鴻宝」と評し、羽田は、深い学識を豊かで流麗に表現した「名品中の名品」と評している{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}。その他の代表作には、正和5年の願文や{{sfn|宸翰：天皇の書|2012|p=259}}、「筑後切」などがある{{sfn|小松|2006|pp=185–187}}。


皇子の[[尊円法親王]]が創始した[[御家流]]は、近世には標準的書風の一つとして広まった。
皇子の[[尊円法親王]]が創始した[[青蓮院流]]は、近世には朝廷や幕府をはじめ、庶民にも広く普及した<ref> デジタル大辞泉「[https://kotobank.jp/word/%E9%9D%92%E8%93%AE%E9%99%A2%E6%B5%81-80008#w-80008 青蓮院流]」[[コトバンク]]より。2024年3月8日閲覧。 </ref>。


== 人間関係 ==
== 諡号・追号・異名 ==
=== 後深草院との関係 ===
退位後長く住んだ洛南の離宮伏見殿にちなみ、伏見院と追号。また、伏見天皇崩御の場でもある持明院殿とも称された。なお、持明院殿は持明院統代々の仙洞御所であり、「持明院統」の呼称もそれに由来するとされているが、実際には[[室町院]]（[[後堀河天皇]]の皇女）の遺産として伏見上皇が継承して以来の御所である<ref>[[近藤成一]]「内裏と院御所」（初出:[[五味文彦]] 編『都市の中世』（吉川弘文館、1992年）/所収:近藤『鎌倉時代政治構造の研究』（校倉書房、2016年） ISBN 978-4-7517-4650-9）</ref>。
[[ファイル:Emperor Go-Fukakusa.jpg|サムネイル|後深草天皇]]
在位中には後深草の近臣集団の排除を行うなどもあったが、比較的関係は良好であったようで、在位中の11年間で122日、退位後から後深草崩御までの7年間で1365日の面謁があったという{{sfn|杉田|2014|p=81}}。

後深草の葬儀の際も、院御所内限定であったが、伏見は藁沓を着して葬列に供奉した{{sfn|久水|2020|p=81}}。『[[とはずがたり]]』では、次のように描写されている{{sfn|次田|1987|pp=387,389}}。
{{Quotation|持明院殿の御所、門まで出でさせおはしまして、帰り入らせおはしますとて、御直衣の御袖にて、御涙をはらはせおはしましし御色気、さこそと悲しく見参らせて<br>
（現代語訳：持明院殿〈伏見院〉が門までお見送りにお出になられて、帰り入られるとき、御直衣の御袖で御涙をお払いになった御様子は、さぞかしと悲しくお見上げした。）}}

=== 東二条院との関係 ===
伏見の母は、後深草の側室である[[洞院愔子]]（玄輝門院）であるが、その正妃である[[西園寺公子]]（東二条院）ともよく交流していた{{sfn|杉田|2014|p=78}}。春宮時代の伏見と東二条院および後深草で郭公の初音勝負を見物したり、東二条院は後深草とともに春宮時代の伏見を訪問することもあった{{sfn|杉田|2014|p=78}}。

=== 京極為兼との関係 ===
[[京極為兼]]は、伏見が春宮であった弘安3年（1283年）以前より熙仁に仕えた{{sfn|今谷|2019|p=53}}。為兼は曾祖父[[藤原定家]]譲りの歌才があり{{sfn|今谷|2019|p=50}}、また和歌における心の絶対視を主張しており、熙仁とともに和歌の新風を模索した{{sfn|阿尾|2011|pp=104-105}}。

一方で為兼は伏見の最側近でもあり、「朕に無二の志を尽くし、忠勤を励む人物である」と伏見が宸記にしたためる程であった{{sfn|今谷|2019|p=56}}。為兼は歌道の家の出であったが、勅使として南都北嶺の騒擾の解決をはかったり、[[関東申次]][[西園寺実兼]]の使者として関白と天皇の間を往来したりするなど、重要な政務に関わっていた{{sfn|今谷|2019|p=59}}。為兼は伏見が出家したその日に出家し、伏見も自身の供養を為兼に託すほどであった{{sfn|今谷|2019|p=82}}。

伏見は為兼と夢について語らいあうこともあったようで、宸記には次のようなやりとりが記されている（{{harvnb|今谷|2019|pp=60-61}}より引用）。

{{Quotation|
[天皇]　今朝、予（天皇）は面白い夢を見たぞ。</br>
[為兼]　ほほう、どんな夢でございましょう。</br>
[天皇]　驚くでないぞ。実はな、禅林寺（[[亀山法皇]]）殿が夢にあらわれ、父上（後深草）に謝罪されたのじゃ。「日ごろ、持明院殿に害意を抱いてきたが、後悔いたしておる。許されたい」と申されてな。どうじゃ。これは吉夢というべきではないかな。</br>
[為兼]　それは御意の通りにございます。実は私めも、この元旦に面白い夢を見ました。</br>
[天皇]　はてさて、どんな夢じゃ。つぶさに申してみよ。</br>
[為兼]　さればでございます。山に松の木が三本生えておりましたが、私めがその松の木を、口を開けて吞み込んだところで目が覚めました。実はそれがし、日頃から、政務長久・君臣合体・不生之理、の三ヵ条を祈念しておりましたが、呑み込んだ三本の松は、その三条が叶う佳瑞（吉兆）かと喜んでおるしだいにございます。</br>
[天皇]　なるほど、その方らしい夢じゃ。</br>
}}

上述の通り、為兼は二度の失脚と配流の憂き目にあっているが、この理由（特に一度目の失脚）については諸説ある。[[花園天皇]]の回顧に基づく「政治関与」説が代表的であるが、[[今谷明]]は、[[興福寺]]の騒擾の鎮静化に失敗し事態を悪化させたためと主張している{{sfn|今谷|2019|p=75}}。

== 御製 ==
[[ファイル:広沢切.jpg|サムネイル|伏見天皇宸翰の『伏見院御集』の断簡。「広沢切」と呼ばれる。[[東京国立博物館]]所蔵。]]

=== 唯識思想からの影響 ===
{{Quote|style=font-size:100%;|text=
'''春きぬと 思ひなしぬる 朝けより 空も霞の 色になりゆく'''<br>
（春が来たと思い定めた朝から、そのような心に従って空も霞がかった様子になってゆくことよ{{sfn|阿尾|2011|p=6}}）
|source=『玉葉和歌集』春上・5}}
『玉葉和歌集』の当代歌人の最初の歌として採られており、京極派の主張を体現したものとされる{{sfn|阿尾|2011|pp=8-9}}。この御製は、ほかの立春の歌と異なり、自分の心が「春が来た」と認識したことで空も霞んで見えるとしている{{sfn|阿尾|2011|p=7}}。こうした心の絶対視という京極派の主張は、為兼が信奉する[[法相宗]]の[[唯識|唯識思想]]からの影響が指摘されている{{sfn|阿尾|2011|p=8}}。

=== 伏見天皇の自然観 ===
{{Quote|style=font-size:100%;|text=
'''{{ruby|四|よつ}}の時 あめつちをして 受けゆけば {{ruby|四方|よも}}のかたちの 背くしもなし'''<br>
（四季という一年の時間が、自然の摂理によって容認されて作用してゆくので、森羅万象、あらゆる事象がその摂理に逆らうようなことはないのだよ{{sfn|阿尾|2011|p=66}}）
|source=『伏見院御集』}}
「あめつち」（＝天地）は伏見が好んで用いた語である{{sfn|阿尾|2011|p=66}}。同時代の歌には、天地開闢神話を意識した用例も存在するが、伏見の場合は、「万物を生み出し形づくるエネルギー」「自然の摂理」として「あめつち」を捉え、『[[日本書紀]]』にある「陰陽」に近い意味として用いている{{sfn|阿尾|2011|pp=67-68}}。伏見は、四季、山河草木のすべてに「心」があり、自然の摂理、四季、万物の心が調和したときに国土の自然は順調に治まる、と考えた{{sfn|阿尾|2011|p=68}}。同趣のものとして、

「民やすく 国おさまりて あめつちの 受けやはらぐる 心をぞしる」<br>
「霞たち 氷もとけぬ あめつちの 心も春を をして受くれば」

などがある{{sfn|阿尾|2011|pp=68,74}}。

== 主な著作 ==
*『伏見院御記』<ref>宮内庁書陵部「[https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Toshoryo/Detail/1000648840000 書陵部所蔵資料目録・画像公開システム、伏見院宸記（弘安１０年１０月―永仁元年１０月（有欠））]」・国書データベース「[https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100179188/1?ln=ja 伏見院御記]」等で閲覧可能。</ref>（伏見天皇宸記） - 伏見の日記。現存するものは、弘安10年（10月21日 - 12月30日）・弘安11年（1月1日 - 3月29日）・正応元年（10月12日 - 11月28日）・正応2年（1月8日 - 3月26日）・正応3年（1月1日 - 2月7日）・正応5年（1月1日 - 4月7日）・正応6年（7月1日 - 10月28日）・東二条院御落飾御記{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=153}}。弘安年間と正応年間の日記は宸筆のものが伝わる{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=153}}。
*『行幸御幸日数』 - 即位した正応元年から、後深草崩御の嘉元2年（[[1304年]]）7月までの間の行幸・御幸を註記したもの。宸筆の正本が伝わる{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=156}}。
*『伏見院御次第』 - [[大嘗祭]][[神饌]]の作法を記したものとされるが、現存せず{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=157}}。
*『伏見院御集』<ref>宮内庁書陵部「[https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Toshoryo/Detail/1000633790000?index=2&sort=Title&searchtype=Freeword&keyword=%E5%BA%83%E6%B2%A2%E5%88%87 書陵部所蔵資料目録・画像公開システム、伏見天皇御集（夏・広沢切）]」・京都国立博物館「[https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/B%E7%94%B2551?locale=ja 伏見天皇宸翰歌集（広沢切）]」・京都国立博物館「[https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/B%E7%94%B2667?locale=ja 伏見天皇宸翰和歌集（広沢切）]」・東京国立博物館「[https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/B-2422?locale=ja 伏見天皇御集（広沢切）]」等で閲覧可能。</ref> - 伏見の御製を収めたもの。伏見の宸翰が伝存し、もとは3000首以上あったとされているが、現在は「広沢切」と呼ばれる古筆切として伝わっている{{sfn|阿尾|2011|p=112}}。昭和18年（[[1943年]]）に、[[次田香澄]]がそれらのうち2650首を集成して『伏見天皇御製集』を刊行している{{sfn|阿尾|2011|p=112}}。
*『伏見院御文類』<ref>国書データベース「[https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100182557/1?ln=ja 伏見院御文類]」で閲覧可能。</ref> - 伏見天皇宸翰の文書をまとめたもの。[[宮内庁書陵部]]所蔵。
*『伏見院御百首』 - 2種類が存在する{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=163}}。
*『伏見院御五十首』{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=163}}
*『伏見院御消息』{{Sfn|列聖全集編纂会|1915-1917|p=164}}

== 御集刊 ==
*『伏見院御集集成』[[笠間書院]]、2011年。[[久保木哲夫]]ほか編
*『伏見院御集ほか [[和歌文学大系]]64』[[明治書院]]、2014年。[[久保田淳]]監修


== 系譜 ==
== 系譜 ==
{{ahnentafel top|伏見天皇の系譜<ref>『[https://dl.ndl.go.jp/pid/991587/1/1 新編纂図本朝尊卑分脈系譜雑類要集（5）]』（吉川弘文館、1903年）・『[https://dl.ndl.go.jp/pid/991588/1/1 新編纂図本朝尊卑分脈系譜雑類要集（6）]』（吉川弘文館、1904年）・「[https://dl.ndl.go.jp/pid/1879458/1/41 本朝皇胤紹運録]」（『群書類従』より、経済雑誌社、1898年）をもとに作成。</ref>|width=100%}}
{{ahnentafel top|伏見天皇の系譜|width=100%}}
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{{ahnentafel-compact5
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|6= 6. [[洞院実雄]]
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|7= 7. [[四条蔵子]]
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|8= 8. [[後土御門天皇|第83代　土御門天皇]]
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|9= 9. [[源通子]]
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|10= 10. [[西園寺実氏]]
|10= 10. [[西園寺実氏]]
116行目: 281行目:


== 后妃・皇子女 ==
== 后妃・皇子女 ==
以下、主に{{harv|宮内庁書陵部(4)|1931-1947}}による。
[[中宮]]の[[西園寺鏱子]]（永福門院）は[[京極派]]を代表する大歌人で、[[典侍]]の[[北畠親子]]も勅撰集に53首が入集した有力歌人である。

* 中宮：[[西園寺鏱子|藤原（西園寺）&#x93f1;子]]（永福門院）（1271年 - 1342年） - [[西園寺実兼]]女
* 中宮：[[西園寺鏱子|藤原（西園寺）&#x93f1;子]]（永福門院）（1271年 - 1342年） - [[西園寺実兼]]女
** 養子：胤仁親王（[[後伏見天皇]]）
** 養子：胤仁親王（[[後伏見天皇]]）
* 女院：[[洞院季子|藤原（洞院）季子]]（顕親門院）（1265年 - 1336年） - [[洞院実雄]]女
* 女院：[[洞院季子|藤原（洞院）季子]]（顕親門院）（1265年 - 1336年） - [[洞院実雄]]女
** 第一皇女：[[璹子内親王]]（朔平門院）（1287年 - 1310年）
** 第一皇女：[[璹子内親王]]（朔平門院）（1287年 - 1310年）
** 第三皇子：[[寛性法親王]]（1289年 - 1346年） - [[仁和寺]]御室
** 第二皇子：[[寛性法親王]]（仁和寺宮・恵命院・常瑜伽院）（1289年 - 1346年） - [[仁和寺]]御室
** 第三皇女：[[延子内親王]]（延明門院）（1291年 - ?）
** 第三皇女：[[延子内親王]]（延明門院）（1291年 - ?）
** 第四皇子：富仁親王（[[花園天皇]]）（1297年 - 1348年）
** 第四皇子：富仁親王（[[花園天皇]]）（1297年 - 1348年）
* 典侍（准三后）：[[五辻経子|藤原（五辻）経子]]（中園准后） - [[五辻経氏]]女
* 典侍（准三后）：[[五辻経子|藤原（五辻）経子]]（中園准后・中納言局・中納言典侍） - [[五辻経氏]]女
** 第一皇子：胤仁親王（[[後伏見天皇]]）（1288年 - 1336年）
** 第一皇子：胤仁親王（[[後伏見天皇]]）（1288年 - 1336年）
* 典侍（従三位）：権大納言局 - [[北畠親子|源（北畠）親子]] - [[源具氏|源（中院）具氏]]女、[[北畠師親]]養女
* 後宮（従三位）：[[北畠親子|源（北畠）親子]]（権大納言局・権大納言典侍） - [[源具氏|源（中院）具氏]]女、[[北畠師親]]養女
** 第六皇子：[[尊悟入道親王]]（1299年 - 1359年）
** 第六皇子：[[尊悟入道親王]]（円満院宮・後平等院宮）（1301年 - 1359年）
* 宮人（従三位）：[[洞院英子|洞院（藤原）英子]] - [[洞院公宗]]女
* 後宮（従三位）：[[洞院英子|藤原（洞院）英子]] - [[洞院公宗]]女
** 第二皇女：[[誉子内親王]]（章義門院）（? - 1336年）
** 第二皇女：[[誉子内親王]]（章義門院）（? - 1336年）
* 宮人（従三位）：[[正親町守子|藤原（正親町）守子]]（東御方） - [[正親町実明]]女
* 後宮（従三位）：[[正親町守子|藤原（正親町）守子]]（東御方） - [[正親町実明]]女
** 皇子：[[寛胤法親王]] 　
** 第七皇子：[[寛胤法親王]]（後安祥寺・小河宮）（1309年 - 1376年）
** 皇子：[[道凞法親王]]
** 第八皇子：[[道熙法親王]]（十楽院宮）
* 掌侍：三善衡子（播磨内侍） - [[三善俊衡]]女
* [[掌侍]]：三善衡子（播磨内侍） - [[三善俊衡]]女
** 第五皇子：[[尊円法親王]]（1298年 - 1356年）
** 第五皇子：[[尊円法親王]]（1298年 - 1356年）
* 後宮：藤原基輔女（後伏見院兵衛督）
* [[高倉茂通|藤原（高倉）茂通]]女
** 第四皇女：[[進子内親王]]<ref> [[コトバンク]]「[https://kotobank.jp/word/%E9%80%B2%E5%AD%90%E5%86%85%E8%A6%AA%E7%8E%8B-1083044 進子内親王]」2024年3月6日閲覧。 </ref>
** 第七皇子：尊凞法親王
* 後宮：[[高倉茂通|藤原（高倉）茂通]]女（春日局）
* 宮人：春日局 - 僧[[任快]]女
** 第二皇子：[[恵助法親王]]（1289年 - 1328年）
** 第九皇子：[[尊熙法親王]]
* 後宮：僧[[任快]]女（治部卿局・春日局）
* 宮人：[[西御方]] - 僧深源女
** 第八皇子：[[聖珍法親王]]
** 第三皇子：[[恵助法親王]]（桂園院宮・聖護院宮）（1289年 - 1328年）
* 後宮：僧深源女（西御方）
** 第十皇子：[[聖珍法親王]]（後菩提寺・東南院宮）（? - 1382年）

* 生母不明
** 皇子（夭折）


== 在位中の元号 ==
== 在位中の元号 ==
148行目: 317行目:
* [[永仁]] 1293年8月5日 - （[[1298年]][[7月22日 (旧暦)|7月22日]]）
* [[永仁]] 1293年8月5日 - （[[1298年]][[7月22日 (旧暦)|7月22日]]）


== 陵・霊廟 ==
== 諡号・追号・異名 ==
離宮伏見殿にちなみ、伏見院と追号。また、伏見法皇崩御の場でもある持明院殿とも称された。なお、持明院殿は持明院統代々の仙洞御所であり、「持明院統」の呼称もそれに由来するとされているが、実際には[[室町院]]（[[後堀河天皇]]の皇女）の遺産として伏見が継承して以来の御所である<ref>[[近藤成一]]「内裏と院御所」（初出:[[五味文彦]] 編『都市の中世』（吉川弘文館、1992年）/所収:近藤『鎌倉時代政治構造の研究』（校倉書房、2016年） ISBN 978-4-7517-4650-9）</ref>。

== 陵 ==
[[ファイル:Fukakusa Kita Misasagi.jpg|right|thumb|200px|深草北陵]]
[[ファイル:Fukakusa Kita Misasagi.jpg|right|thumb|200px|深草北陵]]
[[天皇陵|陵]]（みささぎ）は、[[宮内庁]]により[[京都府]][[京都市]][[伏見区]]深草坊町にある'''深草北陵'''（ふかくさきたのみささぎ）に治定されている。宮内庁上の形式は方形堂。深草北陵には持明院統歴代が葬られており、「深草十二帝陵」とも称される。
[[天皇陵|陵]]（みささぎ）は、[[宮内庁]]により[[京都府]][[京都市]][[伏見区]]深草坊町にある[[深草北陵]]（ふかくさきたのみささぎ）に治定されている{{Sfn|宮内庁書陵部(3)|1931-1947|p=638}}<ref> 宮内省諸陵寮 編『[https://dl.ndl.go.jp/pid/1237123/1/23 陵墓要覧 昭和9年11月調]』1934,p.32。 </ref>。宮内庁上の形式は方形堂<ref> [[宮内庁]]「[https://www.kunaicho.go.jp/ryobo/guide/092/index.html -天皇陵-伏見天皇 深草北陵]」2024年3月7日閲覧 </ref>。

また[[皇居]]では、[[皇霊殿]]（[[宮中三殿]]の1つ）において他の歴代天皇・皇族とともに天皇の霊が祀られている。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
<references />


== 御集刊 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
*『伏見院御集集成』[[笠間書院]]、2011年。[[久保木哲夫]]ほか編
=== 出典 ===
*『伏見院御集ほか [[和歌文学大系]]64』[[明治書院]]、2014年。[[久保田淳]]監修
{{Reflist|20em}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Citation|和書|author=[[阿尾あすか]]|date=2011|title=伏見院|publisher=笠間書院|series=コレクション日本歌人選012|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011227248|isbn=9784305706126|ref={{SfnRef|阿尾|2011}} }}
* {{ Citation | 和書
* {{Citation|和書|last=井上|first=宗雄|title=増鏡 （下）|author-link=井上宗雄|publisher=講談社|series=講談社学術文庫|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001644853|year=1983|isbn=9784061584501}}
| last=井上
* {{Citation|和書|author=[[今谷明]]|date=2019|title=中世奇人列伝|publisher=[[草思社]]|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I029811049|isbn=9784794224118|ref={{SfnRef|今谷|2019}} }}
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* {{Citation|和書|author=[[遠藤珠紀]]・[[水野智之]]編|date=2023|title=北朝天皇研究の最前線|publisher=[[山川出版社]]|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I033169650|isbn=9784634152403|ref={{SfnRef|遠藤・水野|2023}} }}
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**　{{Cite journal|和書|author=[[中井裕子]]|year=2023|title=南北朝分裂の淵源はどこにあるのか？|ref={{sfnref|中井|2023}} }}
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**　{{Cite journal|和書|author=[[森茂暁]]|year=2023|title=北朝の訴訟制度を支えた『暦応雑訴法』|ref={{sfnref|森|2023}} }}
| publisher=講談社
* {{Citation|和書|author=[[河内祥輔]]; [[新田一郎 (法学者)|新田一郎]]|date=2018|title=天皇と中世の武家|publisher=講談社|series=天皇の歴史4|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000130-I000119164-00|isbn=9784062924849|ref={{SfnRef|河内・新田|2018}} }}
| series=講談社学術文庫
* {{Citation|和書|editor=[[京都国立博物館]]|title=宸翰 天皇の書―御手が織りなす至高の美―|publisher=京都国立博物館|date=2012|ref={{harvid|宸翰：天皇の書|2012}}}}
| year=1983
* {{Citation|和書|author=[[宮内庁書陵部]]|date=1931-1947|title=天皇皇族実録151.伏見天皇　巻1|url=https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Kobunsho/Detail/4000743610000?index=0&sort=Title&searchtype=Freeword&keyword=%E4%BC%8F%E8%A6%8B%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%80%80%E5%AE%9F%E9%8C%B2|ref={{SfnRef|宮内庁書陵部(1)|1931-1947}} }}
| isbn=978-4061584501
* {{Citation|和書|author=[[宮内庁書陵部]]|date=1931-1947|title=天皇皇族実録152.伏見天皇　巻2|url=https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Kobunsho/Detail/4000743620000?index=1&sort=Title&searchtype=Freeword&keyword=%E4%BC%8F%E8%A6%8B%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%80%80%E5%AE%9F%E9%8C%B2|ref={{SfnRef|宮内庁書陵部(2)|1931-1947}} }}
}}
* {{Citation|和書|author=[[宮内庁書陵部]]|date=1931-1947|title=天皇皇族実録153.伏見天皇　巻3|url=https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Kobunsho/Detail/4000743630000?index=2&sort=Title&searchtype=Freeword&keyword=%E4%BC%8F%E8%A6%8B%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%80%80%E5%AE%9F%E9%8C%B2|ref={{SfnRef|宮内庁書陵部(3)|1931-1947}} }}
* {{Citation | 和書
* {{Citation|和書|author=[[宮内庁書陵部]]|date=1931-1947|title=天皇皇族実録154.伏見天皇　巻4|url=https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Kobunsho/Detail/4000743640000?index=3&sort=Title&searchtype=Freeword&keyword=%E4%BC%8F%E8%A6%8B%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%80%80%E5%AE%9F%E9%8C%B2|ref={{SfnRef|宮内庁書陵部(4)|1931-1947}} }}
| editor=[[京都国立博物館]]
* {{Citation|和書|last=小松|first=茂美|author-link=小松茂美|title=天皇の書|publisher=文藝春秋|series=文春新書|date=2006|isbn=978-4166604999}}
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* {{Citation|和書|author=[[次田香澄]]; [[岩佐美代子]]|year=1979|title=風雅和歌集|series=中世の文学|publisher=三弥井書店|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I099280909-00|ref={{SfnRef|次田・岩佐|1979}} }}
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* {{Citation|和書|author=[[野口実]]・[[長村祥知]]・[[坂口太郎]]|date=2022|title=公武政権の競合と協調|publisher=吉川弘文館|series=京都の中世史（3）|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I032213227|isbn=9784642068628|ref={{SfnRef|野口・長村・坂口|2022}} }}
}}
* {{Citation|和書|author=[[樋口健太郎]]|date=2021|title=摂関家の中世 : 藤原道長から豊臣秀吉まで|publisher=吉川弘文館|series=歴史文化ライブラリー（521）|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I031323181|isbn=9784642059213|ref={{SfnRef|樋口|2021}} }}
* {{Citation | 和書
* {{Citation|和書|last=久水|first=俊和|authorlink=久水俊和|year=2020|title=中世天皇葬礼史 : 許されなかった“死”|publisher=戎光祥出版|series=戎光祥選書ソレイユ|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I012215600-00|isbn=9784864033527|ref=harv}}
| last=小松
* {{Citation|和書|author=[[深津睦夫]]|date=2014|title=光厳天皇 : をさまらぬ世のための身ぞうれはしき|publisher=ミネルヴァ書房|series=日本評伝選|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I025164327|isbn=9784623070060|ref={{SfnRef|深津|2014}} }}
| first=茂美
* {{Citation|和書|last=藤原|first=良章|authorlink=藤原良章|year=1985|title=公家庭中の成立と奉行 : 中世公家訴訟制に関する基礎的考察|journal=史学雑誌|volume=94|pages=1701-1742|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigaku/94/11/94_KJ00003673544/_article/-char/ja/|doi=|ref=harv}}{{フリーアクセス}}
| author-link=小松茂美
* {{Citation|和書|author=[[本郷和人]]|date=1995|title=中世朝廷訴訟制度の研究|publisher=東京大学出版会|ref={{SfnRef|本郷|1995}} }}
| title=天皇の書
* {{Citation|和書|last=美川|first=圭|authorlink=美川圭|year=2018|title=公卿会議 : 論戦する宮廷貴族たち|publisher=中央公論新社|series=中公新書（2510）|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029267030-00|isbn=9784121025104|ref=harv}}
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* {{Citation|和書|author=[[森茂暁]]|date=2020|title=南朝全史 : 大覚寺統から後南朝へ|publisher=講談社|url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I030221466|isbn=9784065187746|ref={{SfnRef|森|2020}} }}
| series=文春新書
* {{Citation|和書|author=[[列聖全集編纂会]]|date=1915-1917|title=列聖全集 　御撰解題|publisher=列聖全集編纂会|url=https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/945321/1/88|ref={{SfnRef|列聖全集編纂会|1915-1917}} }}
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[[Category:鎌倉時代の天皇|ふしみ]]
[[Category:鎌倉時代の天皇|ふしみ]]

2024年3月29日 (金) 12:57時点における版

伏見天皇
伏見天皇（天子摂関御影）
即位礼 1288年4月16日（正応元年3月15日）[1][2]
大嘗祭 1288年12月16日（正応元年11月22日）[3][4]
元号 弘安
正応
永仁
時代 鎌倉時代
関白 二条師忠→近衛家基→九条忠教→近衛家基→鷹司兼忠[5]
先代 後宇多天皇
次代 後伏見天皇
誕生 1265年5月10日（文永2年4月23日）[6][7]
崩御 1317年10月8日（文保元年9月3日）[8][9]
持明院殿
大喪儀 1317年10月9日（文保元年9月4日）[10]
陵所 深草北陵
追号 伏見院
（伏見天皇）
諱 熙仁
別称 素融（法名）[11]
持明院殿[12]
元服 1278年1月13日（建治3年12月19日）[13]
父親 後深草天皇
母親 洞院愔子（玄輝門院）
中宮 西園寺鏱子（永福門院）
子女 後伏見天皇
花園天皇
ほか（后妃・皇子女節参照）
親署 伏見天皇の親署
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伏見天皇（ふしみてんのう、1265年5月10日〈文永2年4月23日〉- 1317年10月8日〈文保元年9月3日〉）は、日本の第92代天皇（在位:1287年11月27日〈弘安10年10月21日〉- 1298年8月30日〈永仁6年7月22日〉）[14]。諱は熙仁（ひろひと）。

後深草天皇の第二皇子。母は、左大臣洞院実雄の娘、愔子（玄輝門院）[15]。

持明院統の天皇で、在位中には大規模な訴訟制度改革を実行。皇太子時代より新しい歌風を模索し、京極為兼とともに京極派を成立させ、『玉葉和歌集』の勅撰を行った。書道にも優れ、「書聖」とも称される。

概要

熙仁の誕生当初、叔父の亀山天皇の子孫への皇位継承が決まりかけていたが、父後深草上皇が出家の意向を表明すると、それに同情した幕府の措置によって、熙仁は皇太子となった。（→#皇太子となる）

その後、霜月騒動の余波を受けて践祚。在位中は、宮廷内で威勢をふるっていた後深草の近臣集団や訴訟に介入してくる平頼綱の側近を排除したり、庭中の新設に代表される、訴訟制度の大規模な改革を行うなどした。こうした鎌倉時代後期の訴訟制度改革によって、承久の乱以降破綻していた治天の君の権力が回復することになったという評価も存在する。（→#践祚・#伏見親政）

しかし、春宮時代から伏見に仕えていた京極為兼が幕府に処罰され、皇子の胤仁親王（後伏見天皇）への譲位を余儀なくされた。伏見の最側近である為兼が幕府に問題視されたことは、大覚寺統を有利にさせ、後伏見天皇も早々に大覚寺統の邦治親王（後二条天皇）への譲位を余儀なくされた。（→#譲位と両統迭立）

皇子の後伏見天皇と花園天皇の在位中は院政を敷いた。後伏見天皇在位中の第一次伏見院政は短期間で終了し大覚寺統の治世となったが、花園天皇在位中の第二次伏見院政では、「延慶法」や「文保法」といった法令を制定し、『玉葉和歌集』の勅撰も行った。（→#伏見院政）

ところが、為兼が再度逮捕され土佐に流されると、大覚寺統の後宇多上皇は幕府に花園の譲位を主張した。幕府は両統での協議を促し（文保の和談）、皇位継承計画案を提示したが、大覚寺統に有利な提案であったため、持明院統側は拒否した。そうした中、伏見は崩御した。主柱を失った持明院統は花園の譲位を認めざるを得ず、花園は皇太子尊治親王（後醍醐天皇）に譲位した。（→#為兼の再失脚と崩御）

伏見は和歌と書道に優れ、文化面でも活躍した。歌人としては京極派の代表歌人の一人に数えられ、能書家としては「書聖」「歴朝随一」とも評価されている。（→#歌人として・#能書家として）

生涯

皇太子となる

文永2年（1265年）4月23日辰の刻、後深草上皇の第二皇子として誕生した[16]。

当時の天皇は後深草の弟の亀山天皇であり、西園寺姞子や鎌倉幕府の承認もあって、亀山の子孫（のちの大覚寺統）の皇位継承が既定路線となっていた[17][18]。そして、文永11年（1274年）に亀山が皇子の世仁親王（後宇多天皇）に譲位すると、後深草は出家の意向を固める[19][注 1]。ところが、後深草に同情した鎌倉幕府執権の北条時宗は、後深草の救済に乗り出した[19]。歴史物語の『増鏡』には、次のようにある。

今の時宗の朝臣も、いとめでたき者にて、「本院の、かく世を思し捨てんずる、いとかたじけなく、あはれなる御ことなり。故院の御おきては、やうこそあらめなれど、そこらの御このかみにて、させる御あやまりもおはしまさざらんに、いかでか忽ちに名残なくはものし給ふべき。いと怠々しきわざなり」とて、新院へも奏し、かなたこなたなごめ申して、東の御方の若宮を坊に奉りぬ[注 2]。 — 『増鏡』草枕[22]

かくして熙仁は、建治元年（1275年）10月27日に親王宣下を受け[23][24]、同年11月5日に後宇多天皇の皇太子となった[25][26]。この際、熙仁は亀山の猶子となっている[23][27]。

皇太子時代の熙仁は、『日本書紀』や『古今和歌集』の講義を聞いたり、『万葉集』について京極為兼を試したりするなど、古典を熱心に学んだ[28]。愛読書は『源氏物語』であり、近臣と『源氏物語』の談議に熱中することもあったという[29]。京極為兼はのちに熙仁の股肱の臣となるが、熙仁は為兼による和歌の指導を受け、春宮時代から和歌の新風を模索していた[30]。これは後に、「京極派」として確立することとなる。

践祚

後宇多の在位は13年に及び、その間は亀山上皇による院政が敷かれた。当時の鎌倉幕府では、執権北条貞時の外祖父である安達泰盛を中心として、大規模な政治改革が行われていたが、亀山院政下の朝廷でも、院評定制の改革や21か条におよぶ公家新制の制定をはじめとする政治改革が、連動して行われていた[31]（弘安徳政）。ところが、弘安8年（1285年）11月に霜月騒動が発生して平頼綱に泰盛が討たれると、頼綱に大覚寺統は危険視されるようになる[32]。

そうして、弘安10年（1287年）10月、鎌倉幕府の要請により、熙仁は践祚した[32][33]。（以下「伏見天皇」とする）同時に、父後深草による院政が開始された。正応2年（1289年）4月には、熙仁の第一皇子である胤仁親王（のちの後伏見天皇）が皇太子となった[34][35]。これを受けて、失意の亀山は突然出家してしまう[35]。

さらに、正応3年（1290年）3月に、二条富小路内裏に乱入した武士による伏見天皇暗殺未遂事件（浅原事件）が発生すると、大覚寺統の関与が疑われた[36]。伏見や義兄の西園寺公衡は亀山の関与と重い処分を主張したが、後深草は亀山の関与に言及せず、亀山は即座に告文を幕府に送った[37]。これにより亀山は事なきを得たが、亀山はかねてより幕府からの印象が悪く、事件への関与を疑われたことは、大覚寺統の痛手となってしまった[37]。

伏見親政

伏見天皇の綸旨（「東寺百合文書」）

親政の開始

正応3年（1290年）7月26日、伏見は出家していた後深草に政務を譲られ、8月8日に内裏の鬼間にて議定始を行った[37]。伏見親政の開始である[37]。

ところが、政務から引退したはずの後深草法皇は、日常の政務から国家的大事に至るまで、様々な発言を行っていた[38]。また、伏見の践祚に関与した頼綱も、朝廷の政務に口入するようになっていた[35]。さらに、後深草の近臣は宮廷内で幅を利かせ、頼綱の側近である禅空は朝廷の裁判に盛んに介入するようになった[39]。

そこで伏見は、後深草の近臣が禅空の口入によって官位昇進していたことに目をつけ、禅空の所行を鎌倉幕府に訴えた。こうして、禅空が関与した訴訟の裁許をすべて無効とさせ、さらに後深草の近臣らの解官に成功する[40]。

もっとも以降も伏見は後深草の意向を尊重しているが、自ら政治を主導する体制を着実に整えていった[41]。

政治改革の実行

正応6年（1293年）前後に相次いだ社会不安を受けて、伏見は政務に大きな意欲を出し始めた[42]。

正応5年（1292年）7月、訴訟手続などを規定した新制を発した（「正応法」）[43]。この新制は、裁判規範の確立を第一とした従来の立法と異なり、ほぼ全ての条項が訴訟手続に関するもので、様々な新しい訴訟手続が規定された画期的な法であった[43]。そして正応6年6月1日、伏見は訴訟制度の大規模な改革を実行する[42]。亀山院政にならい、議定（院政では院評定と呼ばれる）を国政に関する事柄を審議する「徳政議定」と、所領に関する民事訴訟である雑訴を審議する「雑訴議定」（雑訴沙汰）に分けつつ、新たに雑訴議定の議定衆を3番編成の交代制としたうえで[44][45]、記録所（院政では文殿と呼ばれる）に「庭中」を新設した[46][47]。さらに、それまで朝廷では禁止されていた越訴（再審）が亀山院政下で認められていたが、伏見親政下では、これを受理する専門の機関として「越訴奉行」が新設されている[48][注 3]。

この改革は、大覚寺統派の廷臣にも絶賛された[50]。中世史研究者の美川圭は、こうした鎌倉時代後期の院評定制や雑訴沙汰といった朝廷の訴訟制度の充実によって、承久の乱で破綻した治天の君の権力が回復することになった、と指摘している[51]。また、こうした政治改革は、幕府の期待に応えるとともに、大覚寺統を掣肘する狙いがあったとされる[52]。

伏見が同年7月に伊勢神宮に奉納した自筆宣命には、次のように記されている[53][54]。

「 不徳に依りて天譴是れ遁（のが）れ難し。但し咎徴（きゅうちょう）を示すことは、天の未だ棄てず、神の恤（あはれ）む所なり。茲（ここ）に因りて、近日徳政を興行し、雑訴を決断すること、志の及ぶ所疎簡の思ひ無く、理の推す所私曲の儀無き処に、妖孽（ようげつ）猶絶えず 」

譲位と両統迭立

永仁6年（1298年）1月7日、伏見の春宮時代から仕えており、伏見が厚い信頼を寄せていた京極為兼が[55]、陰謀の企てがあるという某人の讒言によって六波羅探題に逮捕された[56]（その後佐渡国に流される[57]）。この事件の背景には、為兼の周囲に特殊な人脈が形成されており、彼らが伏見の政務に口入していたことが幕府に問題視されたことが挙げられている[58]。

かくして、同年7月22日、伏見は皇太子胤仁親王への譲位を余儀なくされ[59]、新たな皇太子には後宇多上皇の皇子邦治親王（のちの後二条天皇）が立った[60]。その後、後伏見天皇も正安3年（1301年）に退位を余儀なくされ、大覚寺統は復権を果たした[61]。

もっとも、伏見は後伏見の弟である富仁親王（のちの花園天皇）の立太子を主張し、幕府に認められた[61]。こうして、両統迭立は常態化していくこととなる[62]。

なお、富仁の立太子は将来的に持明院統を分裂させる危険性があった。そのため伏見は、富仁の立太子の際、富仁を後伏見の猶子にしたうえで、後伏見に皇子が誕生した際は富仁の猶子とし、その皇子の系統に皇位を継承させるよう厳命している[63]。当時伏見が後伏見に送った消息（宮内庁書陵部蔵「伏見院御文類」）には、次のようにある[64]。

「 皇子出生の時は嫡孫の儀として、向後一流を継体するのほか、更に希望あるべからず候、春宮もし謂ひをもって先途に達し、御子孫に対し相争ふの所存候は、ひとへに不義不孝の仁たるべく候、かくの如く申し置くの上、ゆめ子細あるべからず候、此の条国の為、世の為、更に私事無く候、殊に御意を得有るべく候 」

伏見院政

後伏見の在位中に敷かれた第一次伏見院政は、後伏見の譲位により3年を経ずして終了した。乾元2年（1303年）に為兼が帰京すると、京極派が確立する[30]。

ウィキソースに文保法の原文があります。

延慶元年（1308年）8月に後二条の崩御により富仁親王が践祚すると、第二次伏見院政が開始された。第二次伏見院政では、延慶2年（1309年）の「延慶法」、文保元年（1318年）の「文保法」など、いくつかの「雑訴法」[注 4]が制定された[66]。さらに、正和元年（1312年）には、為兼を撰者として、伏見上皇の勅撰和歌集『玉葉和歌集』が成立した[67]。

正和2年（1313年）7月、後伏見に量仁親王（のちの光厳天皇）が誕生[68]。10月に伏見は後伏見に政務を譲り出家した[67]。

為兼の再失脚と崩御

もっとも、後深草のように、伏見も完全に隠居したわけではなく、しばしば後伏見の政務に意見した。このことが後伏見にとっての精神的な重荷となり、翌年5月には政務返上を表明するまでに至った[67]。また、後伏見は自身の退位の大きな要因となった為兼を「佞臣」と称して憎んでいた[69]。

こうした持明院統内部での対立を利用し、為兼を嫌っていた西園寺実兼は、為兼を再度失脚させるために後伏見に接近した[70]。さらに、実兼は伏見と為兼が倒幕を企てていると幕府に讒言をし、正和4年（1315年）に為兼は再度逮捕され、その後土佐国に流された[71]。以後も伏見が倒幕を企てているという噂は絶えず、伏見は幕府に告文を送って無実を主張した[72]。その告文（「伏見院賜于関東御告文」）には、次のようにある[73]。

「 愚身、建治に儲弐に備え、弘安に践祚を遂ぐ、これみな東関の貴命に依る。生涯の先途を極む。この芳恩を荷（にな）いながら、いかでか不義を存ずべけんや 」

こうした事態を好機として、大覚寺統の後宇多上皇は、花園天皇の譲位と皇太子尊治親王（のちの後醍醐天皇）の践祚を幕府に主張した[72]。これを受けて、文保元年（1317年）4月に幕府は使者を派遣し、皇位継承について両統が協議するように申し入れる[72]。こうして始まったのが、文保の和談であった。この和談では、皇太子尊治親王が践祚し、後二条の皇子邦良親王が新たな皇太子となり、邦良親王の践祚後に後伏見の皇子量仁親王を新たな皇太子とする、という案が幕府より示された[72]。これは明らかに大覚寺統に有利な提案であり、持明院統側は受け入れなかった[72]。

そうしたなか、同年9月3日寅の刻に、伏見法皇は持明院殿にて崩御する。宝算53[8]。

中心人物を失った持明院統はなすすべなく、文保2年（1318年）2月に花園天皇は尊治親王に譲位した[74]。

歌人として

→「玉葉和歌集」も参照

伏見は、京極派和歌の庇護者であると同時に[75]、京極為兼とともに和歌の新風を模索した一人である[76]。中宮の永福門院や子の花園院とともに、京極派の代表歌人とされる[77]。以下、歌人としての伏見の活動を記す。伏見が詠んだ和歌の実例などは、#御製を参照のこと。

京極派の成立

伏見は春宮時代より古典や和歌を愛好し[52][28]、同好の青年貴族たちを集めて伏見の周辺には一種の文芸サロンが形成されていた[78]。そこに、和歌における心の絶対視を主張する為兼が現れると、伏見周辺のグループは急速に和歌への志向を強め、和歌の新風を模索し始めた[78]。これが、京極派の嚆矢である[78]。

もっとも、京極派の歌風はただちに確立したわけではなく、初期の京極派の和歌には、観念的志向の強いものが多かった[76]。中世文学研究者の阿尾あすかも、正安元年（1299年）に詠まれた伏見の御製[注 5]について、「説明的で観念性が勝っており、どこか表現もぎこちない」としている[76]。

為兼の配流と伏見の退位ののちも、伏見は中宮の永福門院や女房、廷臣たちとともに新風を模索し続けた[76]。そして、乾元2年（1303年）に為兼が帰京すると、京極派の歌風は確立した[79]。このころの伏見宮廷で開かれた歌合の記録（『仙洞五十番歌合』）が残っており、この歌合で詠まれた伏見の御製[注 6]を為兼は、「心詞たくみにして凡俗之界ヲ隔ツ」と絶賛している[79]。

京極派勅撰集の計画

永仁勅撰の議

永仁元年（1293年）8月27日、かねてより勅撰集の撰集を企図していた伏見天皇は、二条為世・京極為兼・飛鳥井雅有（病気により参内せず）・九条隆博らの歌道家を召して、撰集下命の日時と形式、撰歌の範囲、応製百首の実施、などについて下問した[80]。

この下問では、特に撰歌の範囲が問題となり、「上古」の歌にはもはや採るべきものは無いとする為世と、伏見の万葉風を慕う趣向に基づいて「上古」以来の和歌を採るべきとする為兼との間で議論が繰り広げられた[81]。結局、隆博が為兼の意見に賛同したことにより、伏見は為兼の主張を全面的に認めた形で撰集を命じた[82]。（永仁勅撰の議）

ただし、永仁度の勅撰計画は、為兼の失脚と伏見の退位により白紙となった[56]。

玉葉和歌集の成立

皇子が即位し院政を敷くことになった伏見上皇は、為兼を中心に再度勅撰集を編纂することを志した[83]。その際、為世は為兼が撰者に相応しくないと伏見に訴えた[67]。約半年におよんで問答は続いたが、結局、応長元年（1311年）5月に伏見は幕府の了解を得て為兼を撰者に命じた[67]。（延慶両卿訴陳）

かくして、正和元年（1312年）3月28日、為兼の手によって『玉葉和歌集』が成立した[67]。

能書家として

  • 『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』重要文化財、京都国立博物館蔵。「書聖」伏見天皇の作品の中でも白眉とされる。
    『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』重要文化財、京都国立博物館蔵。「書聖」伏見天皇の作品の中でも白眉とされる。
  • 伏見天皇宸筆古今和歌集（筑後切）。東京国立博物館所蔵。
    伏見天皇宸筆古今和歌集（筑後切）。東京国立博物館所蔵。
  • 伏見天皇の宸翰消息。重要文化財、東京国立博物館所蔵。
    伏見天皇の宸翰消息。重要文化財、東京国立博物館所蔵。
  • 伏見天皇の宸翰和歌。重要文化財、東京国立博物館所蔵。
    伏見天皇の宸翰和歌。重要文化財、東京国立博物館所蔵。

歴史物語『増鏡』「裏千鳥」では、「御手もいとめでたく、昔の行成大納言にもまさり給へる、など時の人申しけり。やさしうも強うも書かせおはしましけるとかや」と、「三蹟」の藤原行成以上の書の腕前を持っていたと評され、さらに様々な書風をこなしていたことがわかる[84]。「やさしうも強うも」云々は、草書と楷書も使い分けたという解釈や、上代様も宸翰様も使い分けた、などの解釈がある[84]。伏見天皇の書を称える話は『正徹物語』下巻冒頭などにもある[85]。

書道史研究者の小松茂美は、天皇という範囲に限定せず、「現代の書道史においても歴朝随一と言うにはばからぬ」と評している[86]。美術史・古文書研究者の羽田聡は、「魔法使いのような変幻自在ぶり」「書聖」と評している[87]。

代表的作品は、上代様によって書かれた『紙本墨書伏見天皇宸翰御願文（正和二年二月九日）』（重要文化財、京都国立博物館蔵）[88]。室町時代の公卿三条西実隆は「希代之鴻宝」と評し、羽田は、深い学識を豊かで流麗に表現した「名品中の名品」と評している[88]。その他の代表作には、正和5年の願文や[88]、「筑後切」などがある[89]。

皇子の尊円法親王が創始した青蓮院流は、近世には朝廷や幕府をはじめ、庶民にも広く普及した[90]。

人間関係

後深草院との関係

後深草天皇

在位中には後深草の近臣集団の排除を行うなどもあったが、比較的関係は良好であったようで、在位中の11年間で122日、退位後から後深草崩御までの7年間で1365日の面謁があったという[91]。

後深草の葬儀の際も、院御所内限定であったが、伏見は藁沓を着して葬列に供奉した[92]。『とはずがたり』では、次のように描写されている[93]。

持明院殿の御所、門まで出でさせおはしまして、帰り入らせおはしますとて、御直衣の御袖にて、御涙をはらはせおはしましし御色気、さこそと悲しく見参らせて
（現代語訳：持明院殿〈伏見院〉が門までお見送りにお出になられて、帰り入られるとき、御直衣の御袖で御涙をお払いになった御様子は、さぞかしと悲しくお見上げした。）

東二条院との関係

伏見の母は、後深草の側室である洞院愔子（玄輝門院）であるが、その正妃である西園寺公子（東二条院）ともよく交流していた[94]。春宮時代の伏見と東二条院および後深草で郭公の初音勝負を見物したり、東二条院は後深草とともに春宮時代の伏見を訪問することもあった[94]。

京極為兼との関係

京極為兼は、伏見が春宮であった弘安3年（1283年）以前より熙仁に仕えた[95]。為兼は曾祖父藤原定家譲りの歌才があり[96]、また和歌における心の絶対視を主張しており、熙仁とともに和歌の新風を模索した[97]。

一方で為兼は伏見の最側近でもあり、「朕に無二の志を尽くし、忠勤を励む人物である」と伏見が宸記にしたためる程であった[98]。為兼は歌道の家の出であったが、勅使として南都北嶺の騒擾の解決をはかったり、関東申次西園寺実兼の使者として関白と天皇の間を往来したりするなど、重要な政務に関わっていた[50]。為兼は伏見が出家したその日に出家し、伏見も自身の供養を為兼に託すほどであった[99]。

伏見は為兼と夢について語らいあうこともあったようで、宸記には次のようなやりとりが記されている（今谷 2019, pp. 60–61より引用）。

[天皇]　今朝、予（天皇）は面白い夢を見たぞ。
[為兼]　ほほう、どんな夢でございましょう。
[天皇]　驚くでないぞ。実はな、禅林寺（亀山法皇）殿が夢にあらわれ、父上（後深草）に謝罪されたのじゃ。「日ごろ、持明院殿に害意を抱いてきたが、後悔いたしておる。許されたい」と申されてな。どうじゃ。これは吉夢というべきではないかな。
[為兼]　それは御意の通りにございます。実は私めも、この元旦に面白い夢を見ました。
[天皇]　はてさて、どんな夢じゃ。つぶさに申してみよ。
[為兼]　さればでございます。山に松の木が三本生えておりましたが、私めがその松の木を、口を開けて吞み込んだところで目が覚めました。実はそれがし、日頃から、政務長久・君臣合体・不生之理、の三ヵ条を祈念しておりましたが、呑み込んだ三本の松は、その三条が叶う佳瑞（吉兆）かと喜んでおるしだいにございます。
[天皇]　なるほど、その方らしい夢じゃ。

上述の通り、為兼は二度の失脚と配流の憂き目にあっているが、この理由（特に一度目の失脚）については諸説ある。花園天皇の回顧に基づく「政治関与」説が代表的であるが、今谷明は、興福寺の騒擾の鎮静化に失敗し事態を悪化させたためと主張している[100]。

御製

伏見天皇宸翰の『伏見院御集』の断簡。「広沢切」と呼ばれる。東京国立博物館所蔵。

唯識思想からの影響

春きぬと 思ひなしぬる 朝けより 空も霞の 色になりゆく
（春が来たと思い定めた朝から、そのような心に従って空も霞がかった様子になってゆくことよ[101]）
—『玉葉和歌集』春上・5

『玉葉和歌集』の当代歌人の最初の歌として採られており、京極派の主張を体現したものとされる[102]。この御製は、ほかの立春の歌と異なり、自分の心が「春が来た」と認識したことで空も霞んで見えるとしている[103]。こうした心の絶対視という京極派の主張は、為兼が信奉する法相宗の唯識思想からの影響が指摘されている[104]。

伏見天皇の自然観

四（よつ）の時 あめつちをして 受けゆけば 四方（よも）のかたちの 背くしもなし
（四季という一年の時間が、自然の摂理によって容認されて作用してゆくので、森羅万象、あらゆる事象がその摂理に逆らうようなことはないのだよ[105]）
—『伏見院御集』

「あめつち」（＝天地）は伏見が好んで用いた語である[105]。同時代の歌には、天地開闢神話を意識した用例も存在するが、伏見の場合は、「万物を生み出し形づくるエネルギー」「自然の摂理」として「あめつち」を捉え、『日本書紀』にある「陰陽」に近い意味として用いている[106]。伏見は、四季、山河草木のすべてに「心」があり、自然の摂理、四季、万物の心が調和したときに国土の自然は順調に治まる、と考えた[107]。同趣のものとして、

「民やすく 国おさまりて あめつちの 受けやはらぐる 心をぞしる」
「霞たち 氷もとけぬ あめつちの 心も春を をして受くれば」

などがある[108]。

主な著作

  • 『伏見院御記』[109]（伏見天皇宸記） - 伏見の日記。現存するものは、弘安10年（10月21日 - 12月30日）・弘安11年（1月1日 - 3月29日）・正応元年（10月12日 - 11月28日）・正応2年（1月8日 - 3月26日）・正応3年（1月1日 - 2月7日）・正応5年（1月1日 - 4月7日）・正応6年（7月1日 - 10月28日）・東二条院御落飾御記[110]。弘安年間と正応年間の日記は宸筆のものが伝わる[110]。
  • 『行幸御幸日数』 - 即位した正応元年から、後深草崩御の嘉元2年（1304年）7月までの間の行幸・御幸を註記したもの。宸筆の正本が伝わる[111]。
  • 『伏見院御次第』 - 大嘗祭神饌の作法を記したものとされるが、現存せず[112]。
  • 『伏見院御集』[113] - 伏見の御製を収めたもの。伏見の宸翰が伝存し、もとは3000首以上あったとされているが、現在は「広沢切」と呼ばれる古筆切として伝わっている[114]。昭和18年（1943年）に、次田香澄がそれらのうち2650首を集成して『伏見天皇御製集』を刊行している[114]。
  • 『伏見院御文類』[115] - 伏見天皇宸翰の文書をまとめたもの。宮内庁書陵部所蔵。
  • 『伏見院御百首』 - 2種類が存在する[116]。
  • 『伏見院御五十首』[116]
  • 『伏見院御消息』[117]

御集刊

系譜

伏見天皇の系譜[118]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
16. 第82代　後鳥羽天皇
 
 
 
 
 
 
 
8. 第83代　土御門天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
17. 源在子
 
 
 
 
 
 
 
4. 第88代　後嵯峨天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
18. 源通宗
 
 
 
 
 
 
 
9. 源通子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2. 第89代　後深草天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
20. 西園寺公経(=12)
 
 
 
 
 
 
 
10. 西園寺実氏
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
21. 一条全子
 
 
 
 
 
 
 
5. 西園寺姞子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
22. 四条隆衡
 
 
 
 
 
 
 
11. 四条貞子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
23. 坊門信清女
 
 
 
 
 
 
 
1. 第92代　伏見天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
24. 藤原実宗
 
 
 
 
 
 
 
12. 西園寺公経(=20)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
25. 持明院基家女
 
 
 
 
 
 
 
6. 洞院実雄
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
26. 平親宗
 
 
 
 
 
 
 
13. 平親宗女
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3. 洞院愔子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
28. 藤原隆季
 
 
 
 
 
 
 
14. 藤原隆房
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
29. 藤原忠隆女
 
 
 
 
 
 
 
7. 四条蔵子
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

系図

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
88 後嵯峨天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
宗尊親王
（鎌倉将軍6）
 
【持明院統】
89 後深草天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【大覚寺統】
90 亀山天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
惟康親王
（鎌倉将軍7）
 
92 伏見天皇
 
 
 
 
 
久明親王
（鎌倉将軍8）
 
91 後宇多天皇
 
恒明親王
〔常盤井宮家〕
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
93 後伏見天皇
 
95 花園天皇
 
守邦親王
（鎌倉将軍9）
 
94 後二条天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
直仁親王
 
 
 
 
 
邦良親王
 
96 後醍醐天皇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
光厳天皇 北1
 
 
 
 
 
 
 
 
 
康仁親王
〔木寺宮家〕
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


后妃・皇子女

以下、主に(宮内庁書陵部(4) & 1931-1947)による。

  • 生母不明
    • 皇子（夭折）

在位中の元号

諡号・追号・異名

離宮伏見殿にちなみ、伏見院と追号。また、伏見法皇崩御の場でもある持明院殿とも称された。なお、持明院殿は持明院統代々の仙洞御所であり、「持明院統」の呼称もそれに由来するとされているが、実際には室町院（後堀河天皇の皇女）の遺産として伏見が継承して以来の御所である[120]。

陵

深草北陵

陵（みささぎ）は、宮内庁により京都府京都市伏見区深草坊町にある深草北陵（ふかくさきたのみささぎ）に治定されている[121][122]。宮内庁上の形式は方形堂[123]。

脚注

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注釈

  1. ^ 中世史研究者の中井裕子は、娘を粗略に扱う亀山を恨んでいた関東申次西園寺実兼が後深草に接近し、後深草皇統への皇位継承を幕府に働きかけたという指摘を挙げ、そのため後深草の出家の意向表明は、後深草が将来を悲観したのではなく、後深草側を有利にするための戦略であったとしている[20]。
  2. ^ 現代語訳：今の執権時宗朝臣もたいへんりっぱな人物で、「後深草院がこのように御出家なさろうとすることは、まことにおそれ多く、お気の毒な御ことである。後嵯峨院の御遺詔は深いわけがあるだろうが、後深草院は大ぜいの御兄弟の御兄上で、これといった御過失もおありにならないだろうのに、どうして急に皇位から関係がなくなってしまわれる、そんなことがあってよかろうか（よくないことだ）」といって、亀山院へも奏上し、あちらもこちらも（両上皇の）仲を和らげ申して、（後深草院）の東の御方の若宮（煕仁親王）を皇太子にお立てになった[21]。
  3. ^ 亀山や伏見などが行った、「徳政」「徳政政策」「公家徳政」と呼ばれる中世公家政権の政治改革において、「雑訴の興行」が特に重視されたのは、徳政令に象徴されるように、「徳政」の根幹が「旧領回復」にあるとされ、その「旧領回復」は訴訟によって実現されるので、その手続きの充実、すなわち「雑訴の興行」を行うことで「徳政」が実現されると考えられたためである[49]。
  4. ^ 「雑訴法」（ざっそほう）とは、所領関係の法規定のことであり、「民事訴訟手続法」「雑訴関係手続き法」ともいうべきものである[65]。中世史研究者の森茂暁は、持明院統の治世下で発された「雑訴法」として、「延慶法」「文保法」のほかに、永仁年間成立の「永仁法」、正和3年（1314年）11月13日成立の「正和法」の存在を指摘している[66]。
  5. ^ つくづくと 見ぬ空までも かなしきは 一人きく夜の 軒の春雨
  6. ^ 我もかなし 草木も心 いたむらし 秋風ふれて 露くだる頃

出典

  1. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 98.
  2. ^ 東京大学史料編纂所「大日本史料総合データベース、正應元年3月15日(12880030150) 1条」2024年3月7日閲覧。
  3. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 174.
  4. ^ 東京大学史料編纂所「大日本史料総合データベース、正應元年11月22日(12880110220) 1条」2024年3月7日閲覧。
  5. ^ 樋口 2021, p. 249.
  6. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 2.
  7. ^ 東京大学史料編纂所「大日本史料総合データベース、文永2年4月23日(12650040230) 1条」2024年3月7日閲覧。
  8. ^ a b 宮内庁書陵部(3) & 1931-1947, p. 625.
  9. ^ 東京大学史料編纂所「大日本史料総合データベース、文保元年9月3日(13170090030) 1条」2024年3月7日閲覧。
  10. ^ 宮内庁書陵部(3) & 1931-1947, p. 635.
  11. ^ 宮内庁書陵部(3) & 1931-1947, p. 603.
  12. ^ 次田 1987, p. 389.
  13. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 13.
  14. ^ 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』「伏見天皇」コトバンクより。2024年3月7日閲覧。
  15. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 1.
  16. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, pp. 1–2.
  17. ^ 森 2020, p. 26.
  18. ^ 中井 2023, pp. 51–52.
  19. ^ a b 森 2020, p. 28.
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  21. ^ 井上宗雄『増鏡（中）全訳注』pp.204-205.
  22. ^ 井上宗雄『増鏡（中）全訳注』p.203.
  23. ^ a b 野口・長村・坂口 2022, p. 177.
  24. ^ 宮内庁書陵部(1) & 1931-1947, p. 3.
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  28. ^ a b 阿尾 2011, pp. 2–3.
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  31. ^ 野口・長村・坂口 2022, pp. 182–184.
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  51. ^ 美川 2018, p. 206.
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  56. ^ a b 野口・長村・坂口 2022, pp. 200–201.
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  58. ^ 野口・長村・坂口 2022, p. 202.
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  66. ^ a b 森 2023, p. 61.
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  106. ^ 阿尾 2011, pp. 67–68.
  107. ^ 阿尾 2011, p. 68.
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  109. ^ 宮内庁書陵部「書陵部所蔵資料目録・画像公開システム、伏見院宸記（弘安１０年１０月―永仁元年１０月（有欠））」・国書データベース「伏見院御記」等で閲覧可能。
  110. ^ a b 列聖全集編纂会 & 1915-1917, p. 153.
  111. ^ 列聖全集編纂会 & 1915-1917, p. 156.
  112. ^ 列聖全集編纂会 & 1915-1917, p. 157.
  113. ^ 宮内庁書陵部「書陵部所蔵資料目録・画像公開システム、伏見天皇御集（夏・広沢切）」・京都国立博物館「伏見天皇宸翰歌集（広沢切）」・京都国立博物館「伏見天皇宸翰和歌集（広沢切）」・東京国立博物館「伏見天皇御集（広沢切）」等で閲覧可能。
  114. ^ a b 阿尾 2011, p. 112.
  115. ^ 国書データベース「伏見院御文類」で閲覧可能。
  116. ^ a b 列聖全集編纂会 & 1915-1917, p. 163.
  117. ^ 列聖全集編纂会 & 1915-1917, p. 164.
  118. ^ 『新編纂図本朝尊卑分脈系譜雑類要集（5）』（吉川弘文館、1903年）・『新編纂図本朝尊卑分脈系譜雑類要集（6）』（吉川弘文館、1904年）・「本朝皇胤紹運録」（『群書類従』より、経済雑誌社、1898年）をもとに作成。
  119. ^ コトバンク「進子内親王」2024年3月6日閲覧。
  120. ^ 近藤成一「内裏と院御所」（初出:五味文彦 編『都市の中世』（吉川弘文館、1992年）/所収:近藤『鎌倉時代政治構造の研究』（校倉書房、2016年） ISBN 978-4-7517-4650-9）
  121. ^ 宮内庁書陵部(3) & 1931-1947, p. 638.
  122. ^ 宮内省諸陵寮 編『陵墓要覧 昭和9年11月調』1934,p.32。
  123. ^ 宮内庁「-天皇陵-伏見天皇 深草北陵」2024年3月7日閲覧

参考文献

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伝承の時代
古墳時代
飛鳥時代
奈良時代
平安時代
鎌倉時代
南北朝時代
南朝
北朝
室町時代
安土桃山時代
江戸時代
近現代
  • 前の数字は代数。南朝を正統とする。
  • 名前の赤背景は女性天皇。
  • 第37代斉明天皇は第35代皇極天皇の、第48代称徳天皇は第46代孝謙天皇の重祚。
  • 後の数字は在位年。なお、江戸時代以前は日付までを考慮した厳密な和暦からの換算は行なっていない。
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