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アシッドアタック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
酸攻撃から転送)
テヘランで治療を受ける37歳の被害女性(2018年)

アシッドアタック: Acid attacksAcid throwing)は、硫酸塩酸硝酸など劇物としての: acid)を他者の顔や頭部などにかけて火傷を負わせ、顔面や身体を損壊にいたらしめる行為を指す。別名『酸攻撃』ともいう[1]

25歳から34歳の女性が最も被害を受けやすく、男性優位で女性の立場が弱い地域で起こりやすいドメスティックバイオレンスである場合が多い[2][3][4]。一方、ナイフや銃などの武器規制の強化により、強盗などが純粋に犯罪行為の道具として使用するケースも増加している[5]

概説

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主に中東南アジアなどで問題になっており、アシッドアタックが盛んな国としてバングラデシュパキスタンインドコロンビアカンボジアなどの国が挙げられる。他にもアフリカ南米などにも広がり、世界各地で同様の事件が起きている[6][7]

特にバングラデシュは、アシッドアタックが世界で最も多く報告されている国であり、その数は1999年以降で3,000件以上に上る。だが、この国では女性蔑視の風潮が強いこともあり、被害にあっても裁判に至ることは少ないという。コロンビアでは国の主要産業であるゴム産業で使用される関係から、強酸の入手が容易であることが多発の原因にもなっていると考えられており、インドでは、被害者への救済策の制定と共に、酸の売買に規制がかけられることになった[8]。パキスタンでは、酸攻撃が女性の社会参加を抑制する目的もあると考えられている[9]

アシッドアタックの原因として、友人・男女関係のもつれ、人種・マイノリティ差別、社会的・政治的・宗教的対立、ギャング抗争、不動産や家畜をめぐる争いなどが挙げられている。

被害

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世界初のアシッドアタック被害者の救済支援団体である、アシッド・サバイバーズ・トラスト・インターナショナル英語版の責任者によると、世界中から毎年1,500件あまりのアシッドアタックが報告されているが、報復の懸念や被害者が教育を受けていない環境などにおかれているために通報に至らぬケースもあり、実数はもっと多いとしている。

国連の調査からは、アシッドアタックは加害男性による嫉妬や交際や縁談を断られたことに対する逆恨み、果ては父親から生まれてきた子が女だったからなどの身勝手な動機から、被害女性の外見を破壊し、苦痛を与える目的で行われているという結果が出ている[2]

世界各国の状況

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イギリス

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英国での事件数の増加は著しく、首都ロンドンで起きるアシッド・アタックの数は、2010年から2016年までの6年間で1900件以上との報告があがっている。2016年時点で、平均して週3件のアシッドアタックが起きており、英国はバングラデシュに次ぐ世界第2位のアシッドアタック多発国となっている[10][11]

これには、イギリスの厳しい武器規制が関係しているとの指摘がある。イギリスはフーリガン対策として都市部での所持品検査が厳しく、銃器のみならずスタンガンや催涙スプレーなどの護身用品の取り締まりも強化されている。また「ツーストライクス(Two strikes)」と呼ばれる規制があり、ナイフの携行で2度有罪が確定すると、自動的に6カ月以上の禁錮刑が科せられることになっている。

一方で薬品は警察の管轄ではないことから規制が緩いため、犯罪者が法の抜け穴を利用して、規制が厳しいナイフや銃に代わり、規制が緩い酸性物質を武器として使うようになったからという指摘がある[5]

  • 2008年3月 - TVプレゼンターでモデルのケイティ・パイパー英語版は、Facebookを通じて知り合った男に性暴力を受け、その2日後にその男と結託した男に酸をかけられ、左目を失明した[12]

アメリカ

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ベルギー

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  • 2009年 - ファッションモデルのパトリシア・ルフランが、配達員を装って訪問した元恋人に硫酸をかけられて顔と全身を負傷し、3カ月間昏睡状態に陥った[13]

ロシア

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マレーシア

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韓国

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  • 1999年5月20日 - 大邱広域市東区孝睦洞で、塾に行く途中の6歳の少年が男に硫酸をかけられ、49日後に死亡した。警察は犯人を特定できず、未解明のままである[16]

日本

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脚注

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  1. ^ Afghan sisters hurt in acid attack over rejected proposal”. World Now. ロサンゼルス・タイムズ (2011年11月30日). 2017年7月16日閲覧。
  2. ^ a b 国連でインターン>第11回 バングタディシュ滞在記2”. 国連フォーラム. 2016年3月18日閲覧。
  3. ^ “苦しみ続ける酸攻撃の被害女性たち、インド”. AFPBB News. (2014年10月30日). https://www.afpbb.com/articles/-/3030288 
  4. ^ Acid attacks: a horrific crime on the increase worldwide”. New Statesman. Progressive Digital Media (2014年4月1日). 2017年7月6日閲覧。
  5. ^ a b “「まぶた失い眠れない」 イギリスで急増する硫酸襲撃の恐怖”. ニューズウィーク. (2017年8月7日). https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8150.php 2018年9月23日閲覧。 
  6. ^ “コロンビアで相次ぐ酸攻撃事件、法改正求める声”. AFPBB News. (2014年4月12日). https://www.afpbb.com/articles/-/3012434 
  7. ^ “「硫酸による復讐」が急増、遠い法整備 ウガンダ”. AFPBB News. (2012年2月4日). https://www.afpbb.com/articles/-/2855233 
  8. ^ “女性への酸攻撃多発のインド、酸の売買規制へ”. AFPBB News. (2013年7月19日). https://www.afpbb.com/articles/-/2956637?pid=11051970 
  9. ^ “パキスタン、女性への酸攻撃が増加 社会進出阻止が目的か”. AFPBB News. (2014年7月14日). https://www.afpbb.com/articles/-/3021987 
  10. ^ “London Has Three Acid Attacks EVERY WEEK” (英語). LBC. (2017年7月7日). https://www.lbc.co.uk/news/london/london-has-three-acid-attacks-every-week/ 
  11. ^ “ロンドンで顔面への酸攻撃2件、激増し昨年は454件”. CNN. (2017年11月5日). https://www.cnn.co.jp/world/35109868.html 
  12. ^ 「私には、生かされた意味がある」──レイプとアシッド・アタックの被害から立ち上がった活動家、ケイティ・パイパー。【社会変化を率いるセレブたち】”. VOGUE25 JAPAN (2020年11月18日). 2024年10月8日閲覧。
  13. ^ 硫酸攻撃の被害を受けたベルギーのファッションモデル、再びカメラの前に「復帰」”. ハンギョレ新聞 (2024年1月25日). 2024年10月8日閲覧。
  14. ^ ボリショイ硫酸事件で戒告、ダンサーが処分取り消し求める ロイター、2013年4月10日
  15. ^ “マレーシアのサッカー選手、硫酸をかけられ重度のやけど 「容体は安定」”. CNN. (2024年5月8日). https://www.cnn.co.jp/showbiz/35218673.html 2024年10月8日閲覧。 
  16. ^ 大邱硫酸テロ事件、死亡した児童の両親願い聞き取られず…抗告棄却”. もっと!コリア (2015年2月4日). 2024年10月8日閲覧。
  17. ^ 叛逆への興味「浪」石川三四郎、平民新聞、1948年5月-12月、青空文庫
  18. ^ 硫酸事件と熊谷秩父道『埼玉県政と政党史』青木平八 著 (埼玉県政と政党史出版後援会, 1931)
  19. ^ 『石川三四郎集』石川三四郎、 鶴見俊輔、筑摩書房、1976、p.464
  20. ^ 北沢文武『石川三四郎の生涯と思想 上』鳩の森書房、1974年、p.42-44。
  21. ^ 汽車中の凶行『伊藤痴遊全集 続第3卷』(平凡社 1929)
  22. ^ 硫酸事件の発端『伊藤痴遊全集. 続 第10巻』(平凡社 1929)
  23. ^ 野田醤油株式会社 編『野田争議の顛末』「硫酸事件」野田醤油、1928年、p.37-38。
  24. ^ 『回想』警察庁警備局、1968年、p.258。
  25. ^ 1965年の日本の女性史 #1-3月も参照
  26. ^ 硫酸魔にご用心 中日映画社、1966年(昭和41年)01月21日
  27. ^ 硫酸ぶっかけ男の転落 エリート一家の父親直撃 週刊朝日 2015年4月24日号、Aera.dot, 朝日新聞社、2015.4.15
  28. ^ 白金高輪駅”硫酸事件” 被害男性はサークルの後輩 沖縄で逮捕の容疑者「今は話したくない」”. 東京新聞 (2021年8月28日). 2021年8月29日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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