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鱗甲目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
鱗甲目
センザンコウ
上から、センザンコウ科、†Patriomanidae科、†Eomanidae科、†Eurotamanduidae
保全状況評価[1]
(センザンコウ属単位で)
ワシントン条約附属書II
(ただし全種が附属書Iに掲載)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
下綱 : 有胎盤類 Placentalia
上目 : ローラシア獣類 Laurasiatheria
階級なし : 広獣類 Ferae
: 鱗甲目 Pholidota
学名
Pholidota Weber, 1904[2]
Manidae Gray, 1821[2]
Manis Linnaeus, 1758[2]
タイプ種
Manis pentadactyla Linnaeus, 1758[2]
和名
鱗甲目[3]
センザンコウ科[3][4][5]
センザンコウ属[3]
下位分類群

鱗甲目(りんこうもく、Pholidota)は、哺乳綱に分類される。現生種ではセンザンコウ(穿山甲)センザンコウ属のみで本目を構成する。以前は有鱗目とされることもあった[4]。鱗甲目の現生種8種を総称してセンザンコウ(穿山甲)と呼ぶ。

哺乳類でありながら硬いで覆われているのが特徴で、丸まって外敵から身を守る。典型的なアリ・シロアリ食者であり、歯がなく、長い吻、長い舌、強力な前肢、長い爪、鋭い嗅覚をもつ[6]中華圏、インド文化圏などで鱗や肉に薬効があると信じられているため、アジアアフリカ大陸に生息する8種全てが密猟により絶滅の危機にある[7]

分類

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形態や食性から、古くは貧歯類に含まれていた[5]。体の構造が異なるため別の目として独立させられた。従来の化石研究では食肉目に最も近い動物群であることが知られていたが、近年の遺伝子研究に基づく新しい系統モデルでも、4つの大グループのうちローラシア獣類の一つとして、食肉目や奇蹄目などの近縁グループとされている。多数の絶滅群を含むキモレステス目内の有鱗亜目・鱗甲亜目とされることもある。

アフリカ大陸に分布する種をアフリカセンザンコウ属Phataginusに分類する説もあった。一方で現生種と化石種1種の頭蓋の比較から、それらは全体として単系統群だがアフリカセンザンコウ属Phataginusは偽系統群であるとしてセンザンコウ属のシノニムとする説もある[2]

以下の分類・英名は、Schlitter(2005)に従う[2]。和名は川田ら(2018)に従う[3]

センザンコウ科の化石記録は始新世中期から更新世まで断続的に発見されており、その大半がヨーロッパから発見されている。現生のものと同の化石は、アジアとアフリカの中新世後期及び鮮新世前期以降のものが知られている[8]

化石種も含めた下位分類は必ずしも定説をみていないが、センザンコウ科以外の絶滅科としては、いずれも始新世の北米大陸に生息していた†エピコテリウム科(Epoicotheriidae Simpson,1927)[9]、†パトリオマニス科(Patriomanidae Emry,1970)、†メタケイロミス科(Metacheiromyidae Wortman,1903)[10]などが提唱されている。

エオマニス Eomanis は典型的なセンザンコウの形態であるが、鱗が尾の途中までしかない[6]

系統

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鱗甲目の系統的位置[11][12][13][14][15]
北方真獣類

Euarchontoglires 真主齧類

ローラシア獣類

Eulipotyphla 真無盲腸目

Scrotifera

Chiroptera 翼手目

Ferungulata
有蹄類

Perissodactyla 奇蹄目

Artiodactyla 鯨偶蹄目

Euungulata
広獣類

Pholidotamorpha 広義の鱗甲目

Pan-Carnivora 食肉目、†肉歯目など

Ferae
Laurasiatheria
Boreoeutheria
鱗甲目の内部系統[16][17]
Pholidotamorpha

Palaeanodonta

Pholidota
Euromanis

Euromanis krebsi

?

†Pholidota sp. (BC 16’08)

Eurotamanduidae
Eurotamandua

Eurotamandua joresi

Eupholidota
Eomanoidea
Eomanidae
Eomanis

Eomanis waldi

エオマニス
Manoidea
Patriomanidae
Cryptomanis

Cryptomanis gobiensis

Patriomanis

Patriomanis americana

Necromanis

Necromanis franconica

Necromanis parva

Necromanis quercyi

?

Manidae センザンコウ科

鱗甲目(狭義)
広義の鱗甲目
センザンコウ科内部の系統[16][17][18][19]
Manidae センザンコウ科
Maninae
Manis
(Paramanis)

Manis culionensis パラワンセンザンコウ

Manis javanica マレーセンザンコウ

?

Manis palaeojavanica

?

Manis sp. (Scale_H4 & Scale_H8)

?

Manis lydekkeri

Manis crassicaudata インドセンザンコウ

?

Manis hungarica

Manis pentadactyla ミミセンザンコウ

センザンコウ属
?

Manidае sp. (DPC 3972 & DPC 4364)

Smutsiinae
Phatagininae
Phataginus

Phataginus tetradactyla オナガセンザンコウ

Phataginus tricuspis キノボリセンザンコウ

Smutsiinae
Smutsia

Smutsia gigantea オオセンザンコウ

Smutsia olteniensis

Smutsia temminckii サバンナセンザンコウ

狭義
広義

現生種の特徴

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形態

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センザンコウの鱗の構造
丸まって身を守るセンザンコウ

オオセンザンコウは頭胴長(体長)75 - 85センチメートル、尾長65 - 80センチメートル、体重25 - 33キログラム[4]。オナガセンザンコウが体長30 - 35センチメートル、尾長55 - 65センチメートル、体重1.2 - 2.0キログラム[4]。オナガセンザンコウやキノボリセンザンコウは物に巻きつけることができる長い尾を持ち、オナガセンザンコウの尾椎は46 - 47個で哺乳綱の中では最も多い[4][5]。全身は腹面と四肢の内側を除いて、角質の鱗で覆われる[4]。目名Pholidotaは古代ギリシャ語のpholisやpholidosに由来し、「鱗」の意[20]

頭部は円錐状で、頭骨は単純な形状をしている[4]耳介は退化しているか、消失している[4]。歯や咀嚼するための筋肉はなく、角質の胃で獲物をすり潰す[4][5]

分布

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アフリカ大陸(セネガルからケニア南アフリカ共和国にかけて)、アジア(インドから中華人民共和国南部、台湾スマトラ島ボルネオ島にかけて)[4]

生態

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森林やサバンナなどに生息する[4]。オナガセンザンコウやキノボリセンザンコウは樹上棲[4]夜行性だが、キノボリセンザンコウは昼間に活動することもある[5]。属名Manisラテン語で「死霊・オバケ」の意があるmanesに由来し、夜間に活動することに由来する[20]。昼間は地下に掘った巣穴や岩の隙間、樹洞などで休む[5]。地表棲の種は前肢の爪を内側へ丸めこみ、前肢の甲の外側を接地して移動する[4]。尾を支点にして立ち上がったり、後肢を使って素早く移動したりすることもある[4]

アリシロアリを食べる[4]

主に1回に1頭(種によっては2 - 3頭を産んだ例もあり)の幼獣を産む[4]

人間との関係

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食用とされたり、鱗が薬用や魔除けなどになると信じられていることもある[5]

1995年にセンザンコウ属単位で絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)附属書IIに掲載された。2000年にはインドセンザンコウ・パラワンセンザンコウ、マレーセンザンコウ、ミミセンザンコウの輸出割当が0とされた。2017年にはセンザンコウ属単位でワシントン条約附属書IIに掲載されているものの全種が種単位でワシントン条約附属書Iに掲載された[21]

中国ではセンザンコウを「鯪鯉」などと表記し、古くは魚の一種だと考えられていた。李時珍本草綱目』にも記載があり、鱗は漢方薬媚薬の材料として珍重されている。実際にはセンザンコウの鱗は人間の毛や爪と同じケラチン質が主成分であり、古来語られているような薬効は西洋医学の観点からは現時点で確認されていないが、2000年代に入ってもなお中国などへ向けた密輸品が摘発されている[22][23]。インドでは希少生物としての保護に加えて、新型コロナウイルスの媒介源の可能性があるとして捕獲が禁止されているが、密猟が続いている[24]

インドでは鱗がリウマチに効くお守りとして用いられているほか、中国やアフリカではセンザンコウの肉を食用、鱗を魔よけとして用いることもある。ベトナムではジャライ族が民族楽器クニーの素材として用いる。 が皮革製品の材料に使われることもあるが、ほとんど流通していない稀少品として価値をつけられている。

出典

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  1. ^ I, II and III (valid from 22 June 2021)<https://cites.org/eng> [Accessed 25/06/2021]
  2. ^ a b c d e f Duane A. Schlitter, "Order Pholidota," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Page 530 - 531.
  3. ^ a b c d 川田伸一郎他 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』58巻 別冊(日本哺乳類学会、2018年)1 - 53頁
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Christopher Dickman「センザンコウ」伊澤紘生訳『動物大百科 6 有袋類ほか』(今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年)56 - 57頁
  5. ^ a b c d e f g 川道武男「鎧をまとって身を守る センザンコウ」『動物たちの地球58 哺乳類II 10 ネズミ・ウサギほか』(朝日新聞社、1992年)316 - 317頁
  6. ^ a b 冨田幸光『新版 絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄・岡本泰子イラスト、丸善出版、2011年、72頁。
  7. ^ 世界で一番密猟される哺乳類、センザンコウ WWFジャパン(2020年2月15日)2021年12月31日閲覧
  8. ^ 『絶滅哺乳類図鑑』63頁
  9. ^ G. G. Simpson. 1927. "A North American Oligocene edentate" Annals of Carnegie Museum 17(2):283-299
  10. ^ J. L. Wortman. 1903."Studies of Eocene Mammalia in the Marsh Collection, Peabody Museum." Part II. Primates. Suborder Cheiromyoidea. The American Journal of Science, series 4 16:345-368
  11. ^ O’Leary, M. A., Bloch JI, Flynn, J. J., Gaudin, T. J., Giallombardo, A., Giannini, N. P., Goldber, S. L, Kraatz, B. P., Luo, Z-X, Jin Meng, Xijun Ni, Novacek, M. J., Perini, F. A., Randall, Z. S., Rougier, G. W., Sargis, E. J., Silcox, M. T., Simmons, N. B., Spaulding, M. Velazco, P. M., Weksler, M., Wible, J. R. Cirranello, A. L. (2013.) "The Placental Mammal Ancestor and the Post–K-Pg Radiation of Placentals." Science 339:6120:662-667.
  12. ^ Burger, Benjamin J. (15 October 2015). The Systematic Position of the Saber-Toothed and Horned Giants of the Eocene: The Uintatheres (Order Dinocerata) (PDF). Society of Vertebrate Paleontology 75th Annual Meeting. Dallas. 2020年2月20日閲覧 Conference abstract (p. 99). Explanation and conclusions: Episode 17: Systematic position of the Uintatheres (Order Dinocerata) - YouTube.
  13. ^ Orliac, M. J.; o'Leary, M. A. (2016). “The inner ear of Protungulatum (Pan-Euungulata, Mammalia)”. Journal of Mammalian Evolution 23 (4): 337–352. doi:10.1007/s10914-016-9327-z. https://link.springer.com/article/10.1007/s10914-016-9327-z. 
  14. ^ Frank Zachos (2020.) "Mammalian Phylogenetics: A Short Overview of Recent Advances"
  15. ^ Xue Lv, Jingyang Hu, Yiwen Hu, Yitian Li, Dongming Xu, Oliver A. Ryder, David M. Irwin, Li Yu (2021.) "Diverse phylogenomic datasets uncover a concordant scenario of laurasiatherian interordinal relationships", Molecular Phylogenetics and Evolution, Volume 157
  16. ^ a b Gaudin, Timothy (28 August 2009). “The Phylogeny of Living and Extinct Pangolins (Mammalia, Pholidota) and Associated Taxa: A Morphology Based Analysis”. Journal of Mammalian Evolution (Heidelberg, Germany: Springer Science+Business Media) 16 (4): 235–305. doi:10.1007/s10914-009-9119-9. オリジナルの25 September 2015時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150925134257/http://web2.utc.edu/~gvv824/Gaudin%20et%20al%202009.pdf 14 May 2015閲覧。. 
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  19. ^ Gaubert, Philippe; Antunes, Agostinho; Meng, Hao; Miao, Lin; Peigné, Stéphane; Justy, Fabienne; Njiokou, Flobert; Dufour, Sylvain et al. (11 May 2018). “The Complete Phylogeny of Pangolins: Scaling Up Resources for the Molecular Tracing of the Most Trafficked Mammals on Earth” (英語). Journal of Heredity 109 (4): 347–359. doi:10.1093/jhered/esx097. PMID 29140441. 
  20. ^ a b Martha E. Hieath "Manis pentadactyla". Mammalian Species, No. 414, American Society of Mammalogists, 1992, Pages 1-6.
  21. ^ UNEP (2021). Manis crassicaudata. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 25/06/2021]
  22. ^ “冷凍センザンコウ14トンを押収、インドネシア”. ナショナル ジオグラフィック (ナショナル ジオグラフィック協会). (2008年8月7日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/220/ 2023年12月5日閲覧。 
  23. ^ “センザンコウの大量密輸摘発、タイ”. NHK News Web (NHK(cache)). (2012年5月27日). オリジナルの2012年5月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120530072257/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120527/k10015410111000.html 2012年5月28日閲覧。 
  24. ^ 【コロナで変わる世界】第2部パンデミックと社会(4)インド 密猟急増/野生動物 感染媒介か毎日新聞』朝刊2021年1月6日1面(2021年12月31日閲覧)

センザンコウに関する著作

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関連項目

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