Intel Arc
開発者 | インテル |
---|---|
メーカー | TSMC |
販売開始 | 2022年3月30日[1] |
種類 | Graphics Processing Unit |
Intel Arc(インテル アーク)は、インテルが設計および開発しているコンシューマー向けGraphics Processing Unit (GPU) のブランド名である。
主要なターゲットはゲーマーやクリエイターで[2]、NVIDIAのGeForceやAMDのRadeonが競合となる。
語源と命名規則
[編集]ブランド名である「Arc」の語源は、アーキテクチャを物語のストーリーアークになぞらえていることに由来する[3]。開発コードネームはRPGからインスパイアされており、アルファベット順に「Alchemist」「Battlemage」「Celestial」「Druid」と続く。
Arc Aシリーズ
[編集]発売日 | 2022年3月30日[1] |
---|---|
コードネーム | Alchemist |
アーキテクチャ | Xe-HPG |
ファブリケーション プロセス | TSMC N6 |
カード | |
エントリレベル | Arc 3 |
ミッドレンジ | Arc 5 |
ハイエンド | Arc 7 |
対応レンダリング | |
Direct3D | DirectX 12 Ultimate |
OpenCL | OpenCL 3.0 |
OpenGL | OpenGL 4.6 |
Vulkan | Vulkan 1.3 |
歴史 | |
後継 | Arc Bシリーズ |
Xe-HPGアーキテクチャを採用した第一世代の製品群。開発コードネームは「Alchemist」で、TSMCのN6プロセスで製造される[4]。
AI処理ユニットを活用した独自アップスケーラーの「Intel XeSS」や、インテル製統合GPUと組み合わせてパフォーマンスを向上させる「Intel Deep Link」を備える。同世代のGeForceやRadeonと同じくDirectX 12 Ultimateに対応しているほか、いち早くDisplayPort 2.0やAV1のハードウェアエンコードに対応した[4]。
当初の発売予定は2021年だったが[5]、ソフトウェアの開発遅延が原因で発売延期を繰り返した。下位モデルからの順次発売という形を取り、モバイル向け製品は2022年の3月[6]、デスクトップ向け製品は6月[7]、最上位モデルのArc A770は10月に発売された[8]。
性能を最大限引き出すために、インテルはResizable BARの有効化を推奨している[9]。
評価
[編集]発売当初、ゲームタイトルによるパフォーマンスのばらつきや、競合製品より高い消費電力が指摘された[10][11][12][13]。特に古いAPIで動作するゲームは最適化不足の傾向が強く[14]、インテルはグラフィックスドライバーの更新を重ねて改善を図った[15][16]。
ライターの加藤勝明は、2023年10月にArc A580が発売された際、「1年の熟成を経て、Arcは“まあ使えるGPU”にはなった」と評した[17]。
デスクトップ
[編集]ブランドとモデル | コア | プロセス | トランジスタ数 (億) | ダイサイズ (mm2) |
クロック (MHz) |
ユニット数 | L2キャッシュ (MB) |
メモリ | 単精度浮動小数点演算性能 (TFLOPS) | TBP (W) |
接続 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Xeコア RTU |
XVE XMX |
タイプ | 容量 (GB) |
帯域 (GB/s) |
バス幅 (bit) |
クロック (GT/s) | |||||||||||
Arc 7 | A770 16GB | ACM-G10 | TSMC N6 | 21.7 | 406 | 2100 | 32 | 512 | 16 | GDDR6 | 16 | 560 | 256 | 17.5 | 17.2032 | 225 | PCIe 4.0 x16 |
A770 8GB | 8 | 512 | 16.0 | ||||||||||||||
A750 | 2050 | 28 | 448 | 12 | 14.6944 | ||||||||||||
Arc 5 | A580 | 1700 | 24 | 384 | 8 | 10.445 | 175 | ||||||||||
Arc 3 | A380 | ACM-G11 | 7.2 | 157 | 2000 | 8 | 128 | 4 | 6 | 186 | 96 | 15.5 | 4.096 | 75 | PCIe 4.0 x8 | ||
A310 | 6 | 96 | 4 | 124 | 64 | 3.072 |
モバイル
[編集]ブランドとモデル | コア | プロセス | トランジスタ数 (億) | ダイサイズ (mm2) |
クロック (MHz) |
ユニット数 | L2キャッシュ (MB) |
メモリ | 単精度浮動小数点演算性能 (TFLOPS) | TGP (W) |
接続 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Xeコア RTU |
XVE XMX |
タイプ | 容量 (GB) |
帯域 (GB/s) |
バス幅 (bit) |
クロック (GT/s) | |||||||||||
Arc 7 | A770M | ACM-G10 | TSMC N6 | 21.7 | 406 | 1650 | 32 | 512 | 16 | GDDR6 | 16 | 512 | 256 | 16.0 | 13.5168 | 120 - 150 | PCIe 4.0 x16 |
A730M | 1100 | 24 | 384 | 12 | 12 | 336 | 192 | 14.0 | 6.7584 | 80 - 120 | |||||||
Arc 5 | A570M | ACM-G12 | 1300 | 16 | 256 | 8 | 8 | 224 | 128 | 75 - 95 | PCIe 4.0 x8 | ||||||
A550M | ACM-G10 | 21.7 | 406 | 900 | 3.6864 | 60 | |||||||||||
A530M | ACM-G12 | 1200 | 12 | 192 | 8 / 4 | 65 - 95 | |||||||||||
Arc 3 | A370M | ACM-G11 | 7.2 | 157 | 1550 | 8 | 128 | 4 | 4 | 112 | 64 | 3.1744 | 35 - 50 | ||||
A350M | 1150 | 6 | 96 | 1.7664 | 25 - 35 |
歴史
[編集]開発までの経緯
[編集]インテルが単体GPU市場への参入に挑戦したのは、Intel Arcで三度目となる[18]。
最初の挑戦は1998年に発売されたIntel 740である。前評判[19]とは裏腹に性能は期待外れで、後継製品のIntel 752は発表こそされたが、ビデオカードとして出荷されることはなかった[20]。単体GPUとしては失敗したものの、Intel 752はそのままIntel 810チップセットにオンボードグラフィックとして統合されたことにより、現在まで続く統合GPUとして受け継がれていった。
二度目の挑戦はPlayStation 4への採用も検討されていたLarrabeeである[21]。GPGPUを見据えて開発されたが、グラフィックス性能では競合に劣っており、インテルは2009年末にLarrabeeの製品化を断念した[22]。
インテルは統合GPUを含む市場占有率では圧倒していたが、性能ではNVIDIAとAMDに遠く及ばなかった。一方、その二社しかいない単体GPU市場では長い間NVIDIAの一人勝ちと言える状況が続いており、インテルはここに参入の余地があると考えた[18]。
Iris Xe MAXの開発と発売
[編集]2017年11月8日、インテルは新たに組織するCore and Visual Computing GroupのSVP兼チーフアーキテクトにラジャ・コドゥリが就任すると発表した[23]。コドゥリはS3 GraphicsやATI Technologies、AMD、Appleを渡り歩き、2013年にビジュアルコンピューティングのVPとしてAMDに復帰[24]。2015年の組織再編で誕生したRadeon Technologies GroupのSVP兼チーフアーキテクトに就任して以来、AMDのグラフィックス部門を率いてきた[25]。
2018年6月12日、インテルはTwitterで2020年に単体GPUを投入すると発表[26]。2020年1月にはコードネーム「DG1」を搭載したビデオカードを公開し[27]、同年10月に「Intel Iris Xe MAX Graphics」として正式に発表した[28]。あくまでTiger Lakeマイクロアーキテクチャの統合GPUを抜き出しただけのIris Xe MAXを搭載するPCは少なく、ビデオカードに至っては市場に出回ることがほとんどなかった[29]。
Arc Aシリーズの開発と発売
[編集]本命となるゲーミング向け単体GPUの詳細は、2020年8月13日に開催された「Intel Architecture Day 2020」で明らかにされた。ラジャ・コドゥリはゲーミング向け単体GPUのXe-HPGアーキテクチャ採用や、レイトレーシングのハードウェアアクセラレーション対応を説明。製品は2021年に出荷予定だと述べた[5]。
2021年6月2日、コドゥリはTwitterでゲーミング向け単体GPUのチップを公開した[30]。
2021年8月16日、インテルはコンシューマ向け高性能GPUのブランド「Intel Arc」を発表。発売時期は2022年第1四半期に延期された[31]。
2022年3月30日、インテルはモバイル向けの「Intel Arc A」シリーズを発売。エントリークラスである「Arc 3」からリリースされる。ミドルクラスの「Arc 5」とハイエンドクラスの「Arc 7」および、デスクトップ向け製品の発売は夏以降に延期された[6]。
2022年5月7日、ドイツのIgor's Labはソフトウェアの開発の遅れからデスクトップ向け製品のさらなる発売延期の可能性を指摘[32]。インテルでVisual Computing GroupのVP兼GMを務めるリサ・ピアースはこれを認め、地理的、需要的な要因からArc A3シリーズを中国市場で先行発売すると発表。Arc A5およびArc A7の出荷開始は夏後半を予定していると説明した[33]。
2022年6月14日、インテルはIntel Arcシリーズ初のデスクトップ向け製品となるArc A380を発表した[7]。日本では9月22日にASRockが「Intel Arc A380 Challenger ITX 6GB OC」を発売[34]。これが日本で最初に発売されたIntel Arc搭載ビデオカードとなった。
2022年9月8日、インテルはデスクトップ向け製品の仕様を公開[35]。10月12日にハイエンドクラスのArc A770およびArc A750を発売した[8]。
2023年3月22日、インテルのパット・ゲルシンガーCEOはTwitterで、Arcの開発を率いていたコドゥリの退社を明らかにした[36]。コドゥリは2022年末の組織再編の際、GMからチーフアーキテクトへ事実上の降格となっていた[37]。
2023年10月13日、デスクトップ向けミドルクラス製品のArc A580が発売された[38]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b “インテルのディスクリート・モバイル・グラフィックス・ファミリーが登場”. Intel (2022年3月30日). 2023年10月13日閲覧。
- ^ “インテル、新しい高性能グラフィックス・ブランド「インテル® Arc™」を発表”. Intel (2021年8月16日). 2023年10月17日閲覧。
- ^ “インテル、GPUブランド「Arc」を発表--第1世代を2022年に出荷へ”. CNET Japan (2021年8月17日). 2023年10月13日閲覧。
- ^ a b “西川善司の3DGE:IntelのノートPC向けGPU「Arc」とはいかなるGPUなのか。性能から機能までをひもといてみた”. 4Gamer.net (2022年4月15日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ a b “Intel、ゲーミング向けXeとなるXe-HPGの存在を明らかに ~Xe-HPGは外部のファウンダリで製造され、2021年に市場投入”. PC Watch (2020年8月13日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ a b “Intel,ノートPC向けの単体GPU「Intel Arc A」シリーズを正式発表。エントリー市場向けは4月,高性能モデルは2022年夏に登場”. 4Gamer.net (2022年3月31日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ a b “Intel、デスクトップ向けエントリーGPU「Intel Arc A380」発表”. エルミタージュ秋葉原 (2022年6月16日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ a b “Intel Arc A770とA750が本日より販売開始。ただし日本含まれず”. PC Watch (2022年10月13日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “インテル® Arc™グラフィックスを使用するには、サイズ変更可能な BAR が必要ですか?”. Intel (2024年2月23日). 2024年3月9日閲覧。
- ^ “Arc A380搭載グラボを徹底検証!インテルのエントリーゲーマー向けdGPUの現状性能は? (1/10)”. ASCII.jp (2022年9月18日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “エントリーグラフィックスカードの新たな選択肢になり得るか?検証で分かったIntel「Arc A380」の立ち位置”. エルミタージュ秋葉原 (2022年9月8日). 2023年10月15日閲覧。
- ^ “【Hothotレビュー】 IntelミドルレンジGPUのお手並み拝見!発売前のArc 770とA750をベンチマークテスト”. PC Watch (2022年10月5日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intelの新GPU「Arc A770/750」の性能を徹底テスト - 289ドルでRTX 3060超えは本当か!?”. マイナビニュース (2022年10月5日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intel、ArcのDirectX 9/11ゲーム最適化がまだ不十分であることを認める”. PC Watch (2022年8月5日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intelが「Arc A750 Limited Edition」の米国価格を40ドル値下げ コスパ向上×ドライバー改善でライバルと勝負!”. ITmedia PC USER (2023年2月1日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “IntelがゲーミングGPU「Intel Arc」におけるフレームレート改善を報告 計測ツール「PresentMon」のβ版も一般公開”. ITmedia PC USER (2023年8月18日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ PAD : PC Watch & AKIBA PC Hotline! plus DVPR「Intel最新GPU「Arc A580」が来た!【RTX 3050/RX 6600と比較】 速度、コスパ、消費電力、使い勝手、気になるところをチェックします!」『YouTube』、株式会社インプレス、該当時間: 21:20、2023年10月11日 。2023年10月13日閲覧。
- ^ a b “【笠原一輝のユビキタス情報局】 「沢下り」から「沢登り」へと他2社とは逆の製品展開を行なうIntelのGPU戦略”. PC Watch (2022年3月31日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “『Intel740』でゲームソフトメーカーはどう動く?”. ASCII.jp (1998年2月19日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “GPU黒歴史 高い前評判を裏切るおそまつな実力 Intel 740 (1/3)”. ASCII.jp (2012年2月6日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “なぜLarrabeeベースのPS4はハードルが高いのか”. PC Watch (2009年3月5日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “GPU黒歴史 Intel Larrabeeほかマイナー系GPUを総ざらえ (3/3)”. ASCII.jp (2012年7月2日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “AMD Radeon部門のトップがIntelに移籍”. PC Watch (2017年11月9日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “AMDからAppleへ移っていたGPUアーキテクトRaja Koduri氏がAMDに復帰”. 4Gamer.net (2013年4月23日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “AMD,GPU部門を「Radeon Technologies Group」として再編。GPU市場におけるシェア奪還を目指す”. 4Gamer.net (2015年9月10日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “【やじうまPC Watch】 Intel、2020年に「i740」以来の“単体GPU”投入を予告”. PC Watch (2018年6月13日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “【イベントレポート】 Intel、同社初の単体GPU「DG1」搭載ビデオカードを初披露。開発者向けボードは第1四半期中に出荷”. PC Watch (2020年1月10日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “Intel、22年ぶりのディスクリートGPU「Iris Xe MAX」を正式発表”. PC Watch (2020年11月1日). 2023年10月10日閲覧。
- ^ “【Hothotレビュー】 Iris Xe MAX搭載ビデオカードを入手!色々ベンチマークを走らせてみた”. PC Watch (2022年4月11日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ @RajaXg「2021年6月2日のツイート」2021年6月2日。X(旧Twitter)より2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intel、コンシューマ向け高性能GPUブランド「Arc」。第1弾は2022年初”. PC Watch (2021年8月17日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intel’s Alchemist desktop graphics cards not until late summer? Driver confusion and competitor reactions” (英語). igor´sLAB (2022年5月7日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intel、Arc Graphicsの出荷状況など説明、デスクトップ版カードはQ2に中国から”. マイナビニュース (2022年5月11日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “PCパーツファン注目の「Intel Arc A380」ビデオカードが遂に発売、ASRock製で価格は29,680円i740以来、24年ぶりの一般市場向けディスクリートGPU”. AKIBA PC Hotline! (2022年9月22日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Intel Arcデスクトップ版の仕様が全公開”. PC Watch (2022年9月9日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ @PGelsinger「2023年3月22日のツイート」2023年3月21日。X(旧Twitter)より2023年10月12日閲覧。
- ^ “IntelでGPU開発を担っていたRaja Koduri氏が退社、生成AIソフト企業を立ち上げへ”. TECH+(テックプラス) (2023年3月28日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “【やじうまミニレビュー】 「Intel Arc A580」ついに発売へ。シリーズ最後のピースの性能やいかに?”. PC Watch (2023年10月10日). 2023年10月12日閲覧。
関連項目
[編集]- Intel Arc Pro - インテルが展開するプロフェッショナル向けGPUのブランド。