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グラゴル文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
グラゴル文字
ルカによる福音書のグラゴル文字写本
ゾグラフウ修道院英語版所蔵)
類型: アルファベット
言語: 古代教会スラヴ語クロアチア語(近代まで一部で)
発明者: キュリロスメトディオス
時期: 860年頃 - 中世(現在も教会内の典礼には用いられる)
親の文字体系:
子の文字体系: キリル文字
Unicode範囲: U+2C00-U+2C5F
ISO 15924 コード: Glag
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。
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最も古いグラゴル文字
1843年に発見された古代教会スラブ語
1483年に活版印刷されたクロアチアの祈祷書
南スラヴ語群
言語と方言
西部南スラヴ語
スロベニア語
方言
スロベニア語の方言
セルビア・クロアチア語
クロアチア語
ボスニア語
セルビア語
方言
カイ方言
チャ方言
シュト方言
ISO 639-1にない言語
ブニェヴァツ語
モンテネグロ語
ショカツ語
クロアチア語・ボスニア語・セルビア語標準形の差異
東部南スラヴ語
古代教会スラヴ語
教会スラヴ語
ブルガリア語
方言
バナト方言
ギリシャ・スラヴ語
ショプ方言
マケドニア語
方言
マケドニア語の方言
ギリシャ・スラヴ語
遷移方言
セルビア語 / ブルガリア語 / マケドニア語
トルラク方言ゴーラ語
クロアチア語 / スロベニア語
カイ方言
アルファベット
現代
ガイ式ラテン・アルファベット1
セルビア語キリル・アルファベット
マケドニア語アルファベット
ブルガリア語アルファベット
スロベニア語アルファベット
歴史的
ボホリッチ式アルファベット
ダインコ式アルファベット
メテルコ式アルファベット
アレビツァ
ボスニア語キリル・アルファベット
グラゴル文字
初期キリル文字
1バナト方言を含む
メロエ 前3世紀
カナダ先住民 1840年
注音 1913年

グラゴル文字(グラゴルもじ、ロシア語: Глаго́лица)は、主にスラヴ語を表記するために作られたアルファベットであり、スラヴ圏最古の文字である。

特徴

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正教会キュリロス827年 - 869年)とメトディオス826年 - 885年)が、855年か862年から863年頃に、聖書やその他の文書をギリシア語からスラヴ語に翻訳するために考案した。ギリシア文字を元にして作られたものと思われるが、独特の外見を持つ。

名称・歴史

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「グラゴル」の名前は古教会スラヴ語で「言葉」を意味する名詞 “ⰳⰾⰰⰳⱁⰾⱏ / глаголъ” (glagolŭ) に由来する。これは、文字 [g] を指す名称にもなっている。glagolŭ から派生した動詞 glagolati は「話す」を意味するので、スラヴ語で広く使用されている глаголица, glagolica 「グラゴーリツァ」系の名称は「話すための印」程度の意味になる。

現在スラヴ圏で広く用いられているキリル文字(その名称はキュリロスにちなむ)は、キュリロスの弟子らがグラゴル文字を改良して作ったものだとされ、グラゴル文字とはほぼ一対一で対応している。グラゴル文字は、正教会の勢力圏では間もなくキリル文字に取って代わられたが、カトリック圏に属するクロアチアに伝わり、クロアチア語の表記に近代まで一部で用いられた。クロアチアのグラゴル文字は角張った独特の形状を持ち、主に沿岸部で使われた。15世紀末には活版印刷も行われるようになった。

文字一覧

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画像 文字 古代教会スラヴ語での名前 教会スラヴ語での名前 名称の意味 発音 起源(推定) 相当するキリル文字
Azu azъ az /ɑ/ 交差の印、またはヘブライ文字א(アレフ) А а
Bouky buky buki 文字 /b/ 不明。サマリア文字の/m/と似ているが鏡文字になっている Б б
Vede vědě vedi 知る /ʋ/ おそらくはラテン文字のVから В в
Glagolu glagoli glagoli 話す /ɡ/ ギリシア文字のΓ γ(ガンマ) Г г
Dobro dobro dobro 良い /d/ ギリシア文字のΔ δ(デルタ) Д д
Jestu (j)estъ jest 有る /ɛ/ おそらくはサマリア文字の/he/かギリシア数字のϠ ϡ (900) Е е
Zhivete živěte živete 生きる /ʒ/ おそらくはコプト文字のジャンジャ (Ϫϫ) Ж ж
Dzelo ʒělo ʒelo とても /d͡z/ おそらくはギリシア文字のϚ ϛ(スティグマ) Ѕ ѕ
Zemlja zemlja zemlja /z/ ギリシア文字のΘ θ(テータ)の変形のひとつ З з

I,Izhe

Ⰹ,Ⰺ i i (十番目のI) と、そして /i/, /j/ ギリシア文字のΙ ι(イオタ)にトレマを付けたもの І і[1]
I iže iže (八番目のI) /i/, /j/ 起源は不明、おそらくはキリスト教の象徴の円と三角形の組み合わせ И и[1]
Gjerv djervь djerv /ɟ/, /c/ 起源は不明 Ћ ћ, Ђ ђ[2]
Kako kako kako どう /k/ ヘブライ文字のק(コフ) К к
Ljudie ljudьje ljudi 人々 /l/, /ʎ/ ギリシア文字のΛ λ(ラムダ) Л л
Myslite myslite mislete 思う /m/ ギリシア文字のΜ μ(ミュー) М м
Nashi našь naš 我らの /n/, /ɲ/ 起源は不明 Н н
Onu onъ on /ɔ/ 起源は不明 О о
Pokoi pokojь pokoj 安息 /p/ ギリシア文字のΠ π(ピー) П п
Rici rьci rci 言え /r/ ギリシア文字のΡ ρ(ロー) Р р
Slovo slovo slovo 言葉 /s/ 起源は不明、おそらくはキリスト教の象徴の円と三角形の組み合わせ С с
Tvrido tvrьdo tverdo /t/ ギリシア文字のΤ τ(タウ) Т т
Uku ukъ uk /u/ onとižica合字 У у
Fritu frьtъ fert /f/ ギリシア文字のΦ φ(フィ) Ф ф
Heru hěrъ her /x/ 不明。/g/やラテン文字の h と比較 Х х
Otu otъ ot から /ɔ/ onと、その鏡文字の合字 Ѿ ѿ[3]
Shta šta šta /ʃt/ červの上にša[4]を乗せた合字 Щ щ
Ci ci ci /t͡s/ ヘブライ文字のץ(ツァディーの語末形) Ц ц
Chrivi črьvь červ /t͡ʃ/ ヘブライ文字のצ(ツァディーの語頭・語中形) Ч ч
Sha ša ša /ʃ/ ヘブライ文字のש(シン) Ш ш
Jeru jerъ jer /ɯ/ おそらくはonの改変 Ъ ъ
Jery ⰟⰊ jery jery /ɨ/ jerとiの合字、並び方はいろいろである Ы ы
Jeri jerь jerj /ɪ/ おそらくはonの改変 Ь ь
Jati ětь jat /æ/, /jɑ/ おそらくは碑文ギリシア文字のΑ、またはギリシア文字のEとIの合字 Ѣ ѣ[5]
je jo /jɛ/ Ѥ ѥ[6]
Jou ju ju /ju/ iovの合字の簡体 Ю ю
Ensu (small jousu) ęsъ ja, 小さい jus /ɛ̃/ Ѧ ѧ、後のЯ я
Jensu (small jousu) 小さい口蓋化したjus /jɛ̃/ jestと口蓋化記号の合字 Ѩ ѩ[3]
Onsu (big jousu) ǫsъ 大きいユス /ɔ̃/ onと口蓋化記号の合字 Ѫ ѫ[7]
Jonsu (big jousu) 大きい口蓋化したユス /jɔ̃/ Ѭ ѭ[8]
Thita ḟita fita, tita /θ/ ギリシア文字のΘ θ(テータ) Ѳ ѳ[9]
Yzhica ižica ižica /ʏ/, /i/ ižejerの合字 Ѵ ѵ[10]

Unicode表

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Unicode では、以下の領域に次の文字が収録されている。

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
2C00
2C10
2C20
2C30 ⰿ
2C40
2C50

脚注

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  1. ^ a b ⰉⰊ,ⰋとИ,Іの関係は逆とする説もある。
  2. ^ セルビア語。
  3. ^ a b 現在は用いられない。
  4. ^ tverdoの可能性もある。
  5. ^ ロシア語では1917年1918年から、ブルガリア語では1945年から使われなくなった。
  6. ^ 仮定とする。
  7. ^ ブルガリア語では1945年から使われなくなった。
  8. ^ ブルガリア語では1910年代から使われなくなった。
  9. ^ ロシア語では1917年1918年から使われなくなった。Фと発音が同じになったため統合。
  10. ^ ロシア語では公式には1870年代から使われなくなったが、1917年-1918年まで使われていた。

関連文献

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  • 河野六郎千野栄一西田龍雄 編著『言語学大辞典(別巻)世界文字辞典』三省堂、2001年。ISBN 4-385-15177-6 
  • 服部文昭「グラゴール文字、Ⱋ及びⰌの音価について」『東京大学文学部露文研究室年報』第2巻、東京大学文学部、1982年6月、109-119頁、ISSN 091073122024年3月9日閲覧 
  • 服部文昭『古代スラヴ語の世界史』白水社、2020年。 

外部リンク

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