ディープ・ブルー (コンピュータ)
Power アーキテクチャ |
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ディープ・ブルー(Deep Blue)は、IBMが開発したチェス専用のスーパーコンピュータである。
概要
[編集]大学の研究室で生まれたチェス専用スーパーコンピュータ「ディープ・ソート」の研究を引き継ぐ形で、IBMが1989年より開発を開始したもので、ディープ・ソートを破った当時チェスの世界チャンピオンだった、ガルリ・カスパロフを打ち負かすことを目標とした。当時のIBMの開発チームの責任者は後の香港大学電子商業科技研究所所長の譚崇仁[1][2]、主任設計者は後に中国北京でマイクロソフトリサーチアジア上級研究員[3][4] となる許峰雄だった。
ディープ・ブルーは、32プロセッサー・ノードを持つIBMのRS/6000 SPをベースに、チェス専用のVLSIプロセッサを512個を追加して作られた。プログラムはC言語で書かれ、オペレーティングシステム はAIXが使われていた。開発チームは、グランドマスターであるジョエル・ベンジャミンを含めて6名。
1秒間に2億手の先読みを行い、対戦相手となる人間の思考を予測する。予測の方法は、対戦相手(この場合カスパロフ)の過去の棋譜を元にした評価関数(指し手がどのぐらい有効かを導く数式)を用いて、効果があると考えられる手筋すべてを洗い出すというものである。
過去に2回の対戦が行われ、1回目(1996年2月)はカスパロフが3勝1敗2引き分けで勝利、2回目(1997年5月)には使命を果たす形で6戦中2勝1敗3引き分けでディープ・ブルーが勝利した(ディープ・ブルー対ガルリ・カスパロフを参照)。現在では解体されてしまっているが、一部はコンピュータ歴史博物館などに展示されている。
表向きの使命はチェスで人間の世界王者に勝利するというものであるが、その背景には、より知能的な問題処理能力、高速な計算能力、莫大な量のデータマイニングといった多くの分野に貢献するという目的もあった。実際にIBMは、この研究を通して得た技術を自社製品などに適用している。
現在では、アルゴリズムの改良およびパーソナルコンピュータの計算能力の向上により、一般消費者向けのチェス対局ソフトが人間のトッププレーヤーに匹敵するようになってきている。
さらにディープ・ブルーの目的を引き継いで、世界最強のチェスコンピュータを作ろうという試みがヒドラ (Hydra) プロジェクトとして進められていたが、2009年に開発は中止された。
備考
[編集]- 「ディープ・ソート」と「ディープ・ブルー」という名の由来は、生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えを参照。
- IBMは10年後の2007年5月に「Deep Blueの子孫」と称してスーパーコンピュータのBlue Geneを発表した[5]。
- 世界王者を倒した「最強」のイメージにあやかってか、コンピュータチェスソフトは最上級モデルに「ディープ(Deep)」と付けることが多い(Deep Fritz、Deep Shredder、Deep Rybkaなど)。
- 業務としての研究は終了したが、IBMはコンピュータオリンピアードに協賛するほか、人間の世界選手権のスポンサーもつとめているなど、チェス業界の関係は続いている[6]。また日本IBMは碁聖戦に協賛していた(現在はレノボジャパンが引き継いでいる)。
- 主任設計者の許峰雄はチェスより複雑な囲碁でもディープ・ブルーのような人工知能に対する人類の敗北が起きると予言した[7]。それから10年後、Google DeepMindの開発したAlphaGoで現実となった。
評価関数
[編集]以下の項目に一部自動化の力を借りながら、主に手作業でパラメータを割り振っている。
- 評価レジスタ - 54パラメータ
- Rooks on 7th rank
- Bias
- Opposing rook behind passed
- Mpin and hung
- Pinned and simple hung
- Hung
- Xraying
- Pinned and hung
- Permanent pin and simple hung
- Knight trap
- Rook trap
- Queen trap
- Wasted pawns
- Bishop pair
- Separated passed
- Missing wing
- Bishops of opposite colors
- Evaluation control
- Side to move
- 評価テーブル - 8096パラメータ
- Multiple pawns
- Minor on weak
- Self block
- Opponent block
- Back block
- Pinned
- Mobility
- Pawn structure
- Passed pawns
- Joint signature
- Rooks on files
- Bishops
- Pawn storm
- Pawn shelter
- Development
- Trapped bishop
- Signature
- Contempt
- Piece placement
参照
[編集]- ^ “Deep Blue”. IBM 2018年1月12日閲覧。
- ^ “人物专访:超级电脑“深蓝”研究主管谭崇仁”. 中新社. (1999年11月14日) 2018年1月12日閲覧。
- ^ “IBM“深藍之父”加盟微軟亞洲研究院”. 人民網. (2003年4月21日) 2018年1月7日閲覧。
- ^ “不要深藍,不要深綠,要多采多姿”. 天下雑誌. (2011年4月19日) 2018年1月7日閲覧。
- ^ 新たな科学技術の発見のためのエンジンとなったIBM Blue Gene - IBMの生んだチェス・チャンピオン「Deep Blue」の子孫として -
- ^ Anand-Topalov - FIDE World Chess Championship 2010 - 右側の協賛企業バナーを参照
- ^ “"Cracking Go: Brute-force computation has eclipsed humans in chess, and it could soon do the same in this ancient Asian game," by Feng-hsiung Hsu, ''IEEE Spectrum,'' October 2007”. Spectrum.ieee.org. 2009年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月23日閲覧。
関連文献
[編集]- ブルース パンドルフィーニ, 鈴木知道 訳 『ディープブルー vs. カスパロフ』 (河出書房新社、1998/10) ISBN 4309263534–1996年の 6 ゲームマッチを一手一手解説
- ミハイル コダルコフスキー, レオニド シャンコヴィチ, 高橋啓 訳 『人間対機械 ― チェス世界チャンピオンとスーパーコンピューターの闘いの記録』 (毎日コミュニケーションズ、1998/04) ISBN 4839900264 --- カスパロフのセコンドによる 1997年の対局の記録。
関連項目
[編集]- ディープ・ブルー対ガルリ・カスパロフ
- 並列コンピューティング
- ワトソン (コンピュータ) - 2011年のIBMのクイズ番組対戦用コンピュータ・システム