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ヘル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
18世紀のアイスランド語写本『SÁM 66』に描かれた、バルドルの奪還に来たヘルモーズ(左)を迎えるヘル(右下)。
John Charles Dollmanによって描かれた、ヘルモーズ(手前)を迎えるヘル。(1909年)
ヨハネス・ゲールツによって描かれたヘルとガルム。(1889年)

ヘル (Hel, Hela) は、北欧神話における老衰疾病による死者の国を支配する女神エーリューズニルという館に住む。

古ノルド語のヘルはゲルマン祖語の「隠す」と言う意味の* khalija、また、その語の元となったインド・ヨーロッパ祖語の「隠す」「秘密にする」という意味の*Kel-から来ている。英語hell地獄)と語源が共通している。

解説

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散文エッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』では、ロキ巨人アングルボザとの間にもうけたと云われ、フェンリルヨルムンガンドは彼女の兄弟である[1]ヘルだけはロキがアングルボザの心臓を食べて、その後に女巨人に変身して自らヘルを生んだという説もある[2]

ヘルはオーディンによって兄弟達同様に遠隔地であるニヴルヘイムへ追放された。オーディンはそこに九つの世界において名誉ある戦死者を除く、たとえば疾病や老衰で死んだ者達や悪人の魂を送り込み、彼女に死者を支配する役目を与えた[1]。その地は彼女の名と同じく「ヘル」(ヘルヘイム)と呼ばれる。

北欧神話の中で唯一、死者を生者に戻すことができる人物である[注釈 1]

ヘルの半身は青く、半身は人肌の色をしている[3]。資料によっては上半身は人肌の色で、下半身は腐敗して緑がかった黒へ変色しているとされる[4]。これは彼女の体の半分が生きていて、もう半分が死んでいるということを意味している。 絵画では(左右)半身は白く、半身が黒い姿(あるいは半身が赤、半身が青)で描かれる。

フリッグの命を受けたヘルモーズバルドル蘇生をヘルに懇願したが、ヘルは、九つの世界の住人すべてがバルドルのために泣いてを流せば蘇生させてもいい、という条件を与えた。しかし女巨人セックに化けたヘルの父のロキが涙を流さなかったのでバルドルが蘇ることはなかった[5]

ラグナロクのときは、死者ので造った船ナグルファルに死者達[6]またはスルトの一族[7]ないし霜の巨人族[8]が乗り、巨人に加勢する死者の軍団がアースガルドに攻め込んでくるという[9]。書物によっては死者の軍勢を送り、彼女自身はヘルヘイム(ニヴルヘルともいう)に残ったままという説もある[10]

ラグナロクが起きた後で彼女がどうなったのかはわからない。だが冥界の住人がラグナロクが起きている間、慄いている描写があり、冥界は滅びなかったと唱える者もいる[11]シーグルズル・ノルダルは『巫女の予言』について、バルドルやヘズ、心正しい人々を残し、ヘルと彼女の支配する死者達は滅びたと解釈している[12]

松村武雄が紹介したエピソードによると、ヘルは生まれた時から邪悪な存在で[13]冥界からたまに地上に出て人々を虐殺することもあるという[14][15]

脚注

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注釈

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  1. ^ そもそも彼女以外に死者の蘇生ができるのなら、ヘルモーズがわざわざヘルの元に行く必要はない。北欧神話に登場する神々は全知全能の存在ではないし、不老不死の存在でもないので、神々でさえも死ねば全てヘルの元に行く(たとえば『ロキの口論』第63節では、トールがロキを「おまえをヘルの死者の門へ送る」と威嚇している)。実際にロキの陰謀で死んだアース神族のバルドルがヘルの元におり、彼女の下す裁定に従わなければならなかった。

出典

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  1. ^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』248-249頁。
  2. ^ 『虚空の神々』323頁。
  3. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』249頁。
  4. ^ 『北欧神話物語』青土社 83-84頁
  5. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』272-273頁。
  6. ^ 『ゲルマン神話(上)』281頁。
  7. ^ 『虚空の神々』332頁。
  8. ^ 『ドラゴン』98頁。
  9. ^ 『世界の神話 ギリシャ・ローマ/ケルト/北欧』原書房 494頁
  10. ^ 池上良太『図解 北欧神話 (F-Files No.010) 単行本(ソフトカバー)』第2章:北欧神話の登場人物のNO.060「ヘル」
  11. ^ 森瀬繚、静川龍宗『「北欧神話」がわかる オーディン、フェンリルからカレワラまで (ソフトバンク文庫)』
  12. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』229頁。
  13. ^ 『北欧の神話伝説〔II〕』122頁。
  14. ^ 『北欧の神話伝説〔II〕』126頁。
  15. ^ 『よくわかる「世界の死神」事典』(七会静著、廣済堂あかつき〈廣済堂文庫〉、2009年、ISBN 978-4-331-65459-0)60-61頁。

参考文献

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関連項目

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