ミニ独立国
ミニ独立国(ミニどくりつこく)は、日本国内において地域振興や自然保護運動の手段として一定の地域にて「建国」を標榜する活動、およびその成果である「国家」の総称。
概要
[編集]地域や地区を活性化させる目的のもと賛同者が集まり、国家経営を基準にして地域づくりを国づくりに置き換える形で、地域づくりに取り組むまちづくり団体が主となっており[1]、観光客の増加など地域の振興を目的とした宣伝の一環として架空の国家を建国する形態が多い。
政治的・思想的な主張からの独立運動や民族自決とは違い、現実に日本国からの分離独立を主張しているわけではないため、国際機関によって承認されることはなく、主催者も正式な国家の設立を目的としてはいない。個人や少人数で独立を宣言するミクロネーションと関連付けられることもあるが、思想や信念ではなく観光客の増加など宣伝を目的にしていることが違いとされる。このため住民グループや商工会・観光協会などが主体となって運営していることが多いが、町や村など地方自治体レベルで行っていることもある[2]。
自治体の住民を『国民』、首長(市町村長)を『国家元首』としている国が多いが、観光大使や広報大使を国家元首に任命する国もある。
1972年に長崎県西海町で建国された「自然の国」や[1]、1977年8月に「独立宣言」をした新邪馬台国(大分県宇佐市)がミニ独立国の先駆けとされている[3]。
東北地方の小さな村が突如日本から独立するという1981年に刊行された井上ひさしの小説『吉里吉里人』がヒットしたことをきっかけに、1982年に小説の舞台と同名の吉里吉里という地区を抱える岩手県大槌町が、町おこしの一環として「吉里吉里国」として独立宣言したことがが話題となったことをきっかけとして1980年代には各地でミニ独立国の建国が相次ぐミニ独立国ブームが起こり最盛期の1986年にはミニ独立国オリンピックが銀杏連邦(東京都八王子市)で開かれるといった盛り上がりを見せ、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世を訪問したアルコール共和国(新潟県真野町)やアイスランドと相互に友好訪問団を派遣する等の友好関係を構築した流氷あいすらんど共和国(北海道紋別市)といった独自の国際交流を図った独立国も存在した[4][5]。その後1988年からはふるさと創生事業の影響を受けて第二次ブームが起こり[2]、1990年時点では203カ国が存在していた[1]。しかし、乱立によりインパクトが無くなったこと、後発国の無計画性などで飽きられ、ブームは沈静化した。
1990年代から財政難や運営主体となっていた自治体の合併、NPO法人の増加やメンバーの高齢化などさまざまな理由で減少し、2010年代まで活動を続けるミニ独立国は少なく[6]、2020年時点ではブーム後の1990年代以降に建国されたものを含め40カ国の活動が確認されている[1]。また自治体や観光協会といった公的団体の主導で建国された国家が後に住民グループ等民間側に移管されるケースや、国名を冠した地域支援NPOの発足、国家活動を休止しつつ国家の理念を引き継いだ活動を自治体の取り組みとして行うといったケースも確認されている[1]。
地域の振興の枠組みを超えたシビアな議論を含む独立論については、都道府県独立国家論の項を参照。
ミニ独立国国際連合
[編集]ミニ独立国国際連合(ミニどくりつこくこくさいれんごう)は、ミニ独立国同士の交流を目的に発足。年1回、ミニ独立国サミットと称する国連総会を開催している。吉里吉里国とサミットを開催した国が常任理事国となっている[7]。
1983年(昭和58年)に、第1回ミニ独立国サミット(USAサミット)が大分県宇佐市の新邪馬台国で開かれた。1984年(昭和59年)までは年2回、1985年(昭和60年)からは毎年1回開催されている[7]。
主なミニ独立国の一覧
[編集]- 北の星座共和国(北海道枝幸町・歌登町・中川町・音威子府村・美深町・名寄市・幌加内町・苫前町・下川町・朝日町・風連町・士別市・剣淵町・和寒町 1989年建国[1])
- キララ共和国(北海道蘭越町 1994年建国)[1]
- サンセット共和国(北海道羽幌町)[1]
- シャンシャン共和国(北海道室蘭市 1985年 - [8])
- アホーツク共和国(北海道美幌町)[9]
- 別海ミルク王国(北海道別海町、1986年 - 2023年3月[10])
- ウソタン砂金共和国(北海道枝幸郡浜頓別町 1987年建国)[1]
- サンライズ王国(北海道紋別郡雄武町 1989年建国)[1]
- 流氷あいすらんど共和国(北海道紋別市 1984年[1] - 2022年[11])
- ゆあみさわ村(北海道岩見沢市)[12]
- ポテト共和国(北海道ニセコ町)[12]
- クサダ・ラーケ共和国(北海道倶知安町)[9]
- オルレアン84(北海道椴法華村)[12]
- ゆう・もあ王国(北海道中標津町)[9]
- えぞ共和国(北海道函館市)[13]
- カエル村(秋田県西仙北町 1983年建国)[1]
- カシオペア連邦(岩手県二戸市、一戸町、九戸村、浄法寺町、軽米町 1991年建国)
- 小町の国(秋田県湯沢市 1987年建国)[1]
- 吉里吉里国(岩手県上閉伊郡大槌町)
- ジパング国会津芦ノ牧藩(福島県会津若松市)
- ニコニコ共和国(福島県二本松市岳温泉、2006年、日本国と合併[14])
- カブトムシ自然王国(福島県常葉町、現田村市 1988年建国)[1]
- まほろば連邦(宮城県大和町ほか、平成の大合併に伴い、2004年4月18日に解散[15])
- アルコール共和国(新潟県真野町、現佐渡市 1983年建国)[1]
- ニイガタ首長国連邦(新潟県新潟市と周辺6町村)[9]
- さんさい共和国(新潟県入広瀬村、現魚沼市 1983年建国)[1]
- コシヒカリ共和国(新潟県六日町、現南魚沼市)[4]
- 新堀芸術連邦響和国(新潟県大島村、現上越市 1984年建国)[4]
- おけさ民宿共和国(新潟県佐渡島全域 1984年建国)[4]
- 若者共和国(新潟県吉田町、現燕市 1991年建国)[4]
- 葛塚連邦(新潟県豊栄市、現新潟市 2002年建国)[4]
- 立山連邦王国(富山県高岡市)
- 白山連峰合衆国(石川県旧鶴来町ほか、平成の大合併に伴い、2004年11月30日に事業終了、同年度末に解散[16])
- ミルク王国ウチナダ(石川県内灘町 2013年建国)[1]
- さぎ草王国(福井県越前市安養寺町 2000年建国)[1]
- さくほジーバ共和国(長野県佐久穂町 2011年建国)[1]
- 銀杏国(東京都八王子市)[9]
- 西さがみ連邦共和国(神奈川県小田原市、箱根町、真鶴町、湯河原町、2010年4月統合解散[17])
- いかんべ共和国(栃木県那須郡南那須町、2005年10月1日、合併により終了)
- 天狗王国ゆづかみ(栃木県那須郡湯津上村 1989年建国)[1]
- いちご市(栃木県鹿沼市、2016年開始)[1]
- ロマンの森共和国(千葉県君津市 1995年建国)[1]
- 伊豆・伊東お菓子ぃ共和国(静岡県伊東市 2011年建国)[1]
- 伊豆いとう地魚王国(静岡県伊東市 2015年建国)[1]
- カメハメハ王国(静岡県牧之原市)[1]
- チロリン村(京都府宮津市)
- カニ王国(兵庫県城崎郡城崎町 1981年建国)[1]
- そやんか合衆国(大阪府大阪市大正区[18]、現存せず)
- あわじ国(兵庫県南あわじ市 2016年建国)[1]
- ツチノコ共和国(奈良県吉野郡下北山村 1989年建国)[1]
- イノブータン王国(和歌山県すさみ町 1986年建国)[1]
- いずもオロチ王国(島根県出雲市)
- 青海島共和国(山口県長門市)[1]
- チカチカ共和国(愛媛県松山市)
- 四万十河童王国(高知県四万十町 2010年建国)[1]
- 河童共和国(福岡県嘉麻市 稲築町 1988年建国) [1]
- 新邪馬台国(大分県宇佐市、1977年建国[1] 新型コロナウイルス感染症の流行を機に2020年、10年ぶりに活動を再開[19])
- ひしかりガラッパ王国(鹿児島県伊佐郡菱刈町)
- 大隅の國やっちく松山藩(鹿児島県志布志市 1989年建国)[1]
- パナウル王国(鹿児島県大島郡与論町 1983年建国)[1]
- みやんじょチクリン村(鹿児島県宮之城町)[9]
- 奄美サンサン王国(鹿児島県奄美諸島)[9]
- 銀河連邦(宇宙航空研究開発機構関係市町)
- しそう森林王国(兵庫県宍粟郡、現宍粟市 1989年建国)[1]
- カセットボーイ共和国(国土なし、アイワによるイベント形式)
- ぺんた共和国(佐賀県 七山村、厳木町、富士町、三瀬村、脊振村)
- 川南合衆国(宮崎県児湯郡川南町)
- 末吉社会主義共和国連邦[要検証 ](鹿児島県曽於市末吉町)
- 兵庫五国連邦(兵庫県)[20]
ミニ独立国をテーマとした作品
[編集]- 吉里吉里人
- 1981年に発表された井上ひさしの長編小説。東北地方の寒村が独立宣言を行う。ブームのきっかけとなった。
- サクラクエスト
- 2017年に放送されたテレビアニメ。ブームの終焉により寂れたミニ独立国「チュパカブラ王国」の2代目国王(観光大使)となった主人公が、仲間たちと共に地域おこしを開始する。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj 足立大育, 十代田朗, 津々見崇「ミニ独立国を契機としたまちづくりの持続性に関する研究」『観光研究』第33巻第3号、日本観光研究学会、2021年、145-151頁、CRID 1390855267548367616、doi:10.18979/jitr.33.3_145、ISSN 1342-0208。
- ^ a b 大下茂, 天野光一, 熊耳冬樹「ミニ独立国による地域づくりに関する研究 : 地域をアピールする観点からの考察を含めて」『観光研究』第8巻第2号、日本観光研究学会、1997年、9-18頁、CRID 1390282680746369024、doi:10.18979/jitr.8.2_9、ISSN 1342-0208。
- ^ “サントリー地域文化賞 地域別受賞者一覧 新邪馬台国”. サントリー文化財団 (1999年11月). 2016年12月22日閲覧。
- ^ a b c d e f おとなプラス 独立しよう、国を作ろう!地域が輝いた「ミニ独立国」ブーム… 新潟県内でもユニークな活動を展開 今はなき「3カ国」の遺産とは - 新潟日報2023年9月15日
- ^ あいすらんどの歴史 - 流氷あいすらんど共和国(Internet Archive)
- ^ 風・論説委員室から 森川純 ミニ独立国に学ぶこと - 北海道新聞2018年1月14日朝刊
- ^ a b “ミニ独立国国際連合”. ツチノコ共和国. 2016年12月22日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 新世代歌人山田航のモノローグ紀行 室蘭中島町を行く - 北海道新聞2020年8月7日夕刊
- ^ a b c d e f g ミニ独立国が万博 全国から40カ国参加へ - 朝日新聞1985年10月14日朝刊
- ^ 別海ミルク王国37年で活動終了 - 北海道新聞2023年4月13日夕刊釧路根室版
- ^ 氷の迷路や結婚式… 紋別「流氷あいすらんど共和国」、38年の歴史に幕 メンバー高齢化で - 北海道新聞2023年1月26日朝刊北見・オホーツク版
- ^ a b c ミニ独立国が一同に北海道連邦岩見沢サミット - 岩見沢新聞1986年8月4日
- ^ 港町ルネッサンス第二回えぞ共和国の若者たち - 開発こうほう1989年10月号(北海道開発協会 国立国会図書館デジタルコレクション)
- ^ “ニコニコ共和国の観光戦略”. 岳温泉 陽日の郷あづま館 (2006年8月22日). 2012年12月22日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “大和市のあゆみ(年表)市制施行以後” (PDF). 大和市. p. 5. 2012年12月22日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “第17回合併協議会会議録” (PDF). 松任・石川広域合併協議会. p. 7 (2004年8月20日). 2012年12月22日閲覧。
- ^ 西さがみ連邦共和国|小田原市 小田原市
- ^ ひと ミニ独立国の万国博を企画した北浦浩さん - 朝日新聞1985年10月28日朝刊
- ^ コロナと戦うため「新邪馬台国」開国 宇佐の「ミニ独立国」10年ぶりに活動 「アマビエ」シール販売 /大分、毎日新聞、2020年6月13日地方版。
- ^ “U5H兵庫五国連邦 各国紹介”. 兵庫五国連邦(U5H). 2024年11月1日閲覧。
参考文献
[編集]- 白石 太良「地域づくり型ミニ独立国のいま--4つの事例から」『流通科学大学論集, 人間・社会・自然編』第22巻第2号、流通科学大学学術研究会、2010年1月、2010-01頁、ISSN 13465538、NAID 40017002333。
- 大塚亮太、初沢敏生「わが国におけるミニ独立国運動の特徴」『福島地理論集』第47巻、福島地理学会、2004年9月、16-22頁、ISSN 09196854、NAID 40006612866。
- 瀬沼克彰「第16回全国ミニ独立国サミットに出席して (特集 「地域学」と生涯学習)」『社会教育』第52巻第11号、全日本社会教育連合会、1997年11月、39-41頁、ISSN 13425323、NAID 40001633873。
- 倉原 宗孝、後藤由紀・日景敏也「住民主体のまちづくりに向けての北海道ミニ独立国の活動に関する考察」『日本建築学会計画系論文集』第488号、日本建築学会、1996年10月30日、165-175頁、ISSN 13404210、NAID 110004654464。
- 後藤有紀、倉原宗孝「7376 北海道ミニ独立国の活動にみる地域・自己の世界生成に関する考察 : その2. 5つの典型事例にみる考察」『学術講演梗概集. F, 都市計画, 建築経済・住宅問題, 建築歴史・意匠』、日本建築学会、1994年7月25日、751-752頁、ISSN 09150161、NAID 110004205747。
- 倉原宗孝、後藤有紀「7375 北海道ミニ独立国の活動にみる地域・自己の世界生成に関する考察 : その1. 道内の独立国の概要」『学術講演梗概集. F, 都市計画, 建築経済・住宅問題, 建築歴史・意匠』、日本建築学会、1994年7月25日、749-750頁、ISSN 09150161、NAID 110004205746。
- 倉原宗孝、後藤有紀「095 北海道ミニ独立国の活動にみる生活者意識・行動の生成過程とその評価(まちづくり,都市計画)」『日本建築学会北海道支部研究報告集』第67号、日本建築学会、1994年3月18日、377-380頁、ISSN 13440705、NAID 110006879437。
- 白石太良「地域づくり型ミニ独立国運動の変容(II)」『流通科学大学論集. 人文・自然編』第5巻第1号、流通科学大学、1992年9月30日、1-10頁、ISSN 09153047、NAID 110000508858。
- 白石太良「地域づくり型ミニ独立国運動の変容」『流通科学大学論集. 人文・自然編』第4巻第1号、流通科学大学、1991年9月30日、93-116頁、ISSN 09153047、NAID 110000508846。
- 白石太良「<研究ノート>ミニ独立国運動による地域づくりの現況 : アンケート調査の整理を中心に」、流通科学大学、1990年9月30日、ISSN 09153047、NAID 110000508834。
- 白石太良「兵庫県における村おこし型ミニ独立国の動向」『流通科学大学論集. 人文・自然編』第2巻第1号、流通科学大学、1989年9月30日、23-40頁、ISSN 09153047、NAID 110000508811。
- 大沼一雄「過疎の町・過疎の島-2-瀬戸の海に浮かぶミニ独立国」『地理』第31巻第12号、古今書院、1986年12月、97-102頁。
- 小林章「「ミニ独立国」「○○村」構想は商業の販促に利用できる(2)村おこしから始まる商業活性化」『商店界』第71巻第8号、誠文堂新光社、1990年8月、134-136頁。
- 内閣府、総理府「ミニ独立国"チクリン村"で町おこし――(鹿児島県・宮之城町)」『時の動き』第12巻第8号、国立印刷局、1988年1月、74-76頁。