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交響曲第103番 (ハイドン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

交響曲第103番 変ホ長調 Hob. I:103 は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン1795年に作曲した交響曲。いわゆる『ロンドン交響曲』のうちの1曲であり、第1楽章の冒頭と結尾で、ティンパニの長い連打があることから『太鼓連打』(: The Drumroll, : mit dem Paukenwirbel)の愛称で呼ばれている。

初演以来、本作はハイドンの交響曲のうちでも人気のある曲の一つとなっており、現在でも頻繁に演奏、録音されている。

作曲と初演

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本作は、ハイドンの2度のイギリス滞在の間に作曲された12曲の『ロンドン交響曲』のうち、最後から2番目の交響曲である。

ハイドンのイギリス訪問以前から、ハイドンの作品はイギリスで広く知られていて、イギリスにとってもハイドンの訪問は悲願であった。そのため、イギリスではハイドンは熱烈な歓迎を受け、このようなことから、ハイドンのイギリス滞在はハイドンの人生の内でも実り多い時期の一つとなった。このような中で、ハイドンは1794年から1795年にかけての冬、ロンドンで本作を作曲した。

初演は1795年3月2日国王劇場にて、オペラコンサーツと呼ばれるコンサートの中で行われ、そのときの管弦楽団は当時としてはかなりの大規模となる60人から成っていた。演奏の指導はコンサートマスターを務めたジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティとハイドン自身が行い、初演は大成功であったと伝えられている。当時ロンドンで発行されていた新聞モーニング・クロニクル英語版」の評論家は次のように述べている。

Another new Overture [i.e., symphony], by the fertile and enchanting Haydn, was performed; which, as usual, had continual strokes of genius, both in air and harmony.

The Introduction excited deepest attention, the Allegro charmed, the Andante was encored, the Minuets, especially the trio, were playful and sweet, and the last movement was equal, if not superior to the preceding."

創意と魅力に富んだハイドンの新たな序曲(交響曲)が初演された。それはいつもの通り、旋律においても和声においても、全曲を通して天才的なひらめきに満ちたものであった。

序奏はこの上なく深い注目をそそり、主部のアレグロは魅惑的であり、アンダンテはアンコールされた。メヌエット、特にトリオは陽気で心地良く、終楽章は前の楽章以上ではないまでも、同様に優れていた。

ハイドンは後に、ウィーンで本作を演奏するために終楽章に少し手を加えており、現在一般的に演奏されているものはこの時の版である。また、1831年にはドイツ作曲家リヒャルト・ワーグナーが本作をピアノ独奏用に編曲している[1]

楽器編成

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編成表
木管 金管
フルート 2 ホルン 2 ティンパニ 2 第1ヴァイオリン
オーボエ 2 トランペット 2 第2ヴァイオリン
クラリネット 2 ヴィオラ
ファゴット 2 チェロ
コントラバス

構成

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  • 第1楽章 アダージョ - アレグロコンスピーリト - アダージョ
    変ホ長調、4分の3拍子 - 8分の6拍子、ソナタ形式
    (譜例1)
    
\version "2.18.2"
\relative c {
    \key ees \major 
    \time 3/4
     \tempo "Adagio"
     \clef "bass"  
    \tempo 4 = 60
    ees16 \pp ^\markup {Timpani} ees ees ees  \repeat unfold 2 {ees16 ees ees ees}
    <ees, ees'>4 ^\markup {Vc} (<d d'> <ees ees'>)
    <c c'> (<aes' aes'> <f f'>)
    <d d'> (<bes' bes'> <aes aes'>)
    <g g'> (<ees ees'> c')
     <f, f'>2. (bes2) r4
 }
    (譜例2)
    vignette
    (譜例3)
    
\version "2.18.2"
 \relative c'' {
    \key ees \major 
    \time 6/8
    \tempo "Allegro con spirito"
    \set Score.currentBarNumber = #40
    \tempo 4 = 122   
     \partial 8*3 g'8-.  \p g-. aes (g-.) g-. 
     f (ees) ees16 d ees g
     bes8-. bes-. r c-. c-. des (c-.)
     c-. aes (g) g16 bes aes f
     ees8-. ees-. r g,-. g-. aes (g-.) g-. f (ees) ees16 d ees g
     bes8-. bes-. r c-. c-. des (c-.)
     c-. aes (g) g16 (bes aes f)
     <g, ees'>4 \f ees''16 d c8-. bes-. aes-.
     g r ees''16 (d) c8-. bes-. aes-.
     g (bes) ees16 (d) c8-. bes-. aes-.
     g (bes) d,16 (ees) d (ees f ees) bes' (g)
     f8-. f-. b,16 (c) b (c d c) g' (ees)
     d8 [d]  
 }
    39小節にも及ぶ長大な序奏部の冒頭にティンパニによる1小節の導入(譜例1)があり、これが本作の愛称の由来となっている。その後に低音部で現れる旋律の冒頭4音は、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」(譜例2)によく似ている。
    主部(譜例3)は典型的なソナタ形式によるが、展開部でも第1主題の展開の合間に導入部の動機が取り扱われ、最後に第2主題の展開を経て、再現部につながる。再現部は圧縮され、第2主題の展開が終わると、すぐに変イ長調 でコーダに入る。
    その後、もう一度アダージョによる序奏部の旋律が回帰した後にコデッタの再現で締めくくるが、ラストで序奏部の旋律が再び登場するという手法は、本作の4年後に出版されたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『悲愴ソナタ』の第1楽章でも同様の手法を用いている。
  • 第4楽章 フィナーレ:アレグロ・コン・スピーリト
    変ホ長調、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)、ソナタ形式。
    (譜例1)
    
\version "2.18.2"
 \new Staff \with { instrumentName = #"Cors"}
 \relative c' {
    \key c \major 
    \time 2/2
    \tempo "Allegro con spirito"
    \tempo 4 = 120
    <e c'>1 \p <g d'> <c e>2. <g d'>4 <e c'>2 r2 \fermata
 }
    (譜例2)
    
\version "2.18.2"
 << \new Staff \with { instrumentName = #"V1"}
 \relative c'' {
    \key ees \major 
    \time 2/2
    \omit Staff.TimeSignature  
    \tempo 4 = 260
    \set Score.currentBarNumber = #5

     r4 ees4-. \p ees-. ees-.
     ees2 (d4 c)
     bes (c8 d) ees4-. f-. 
     g r r2
     r4 aes4-. aes-. aes-.
     aes2 (g4 f)
     ees8 (f ees d) c4-. f-.
     bes, r r2
     r4 des4-. des-. des-.
     des2 (c4 bes)
     aes
 }
 \new Staff \with { instrumentName = #"V2"}
  \relative c'' {
    \key ees \major
    \time 2/2
    \omit Staff.TimeSignature 
   
    \repeat unfold 4 {R1}
    r4 f4-. f-. f-.
    f2 (ees4 d)
    ees8 (f ees d)
    c4-. f-. 
    bes, r r2
    r4 des-. des-. des-. des2 (c4 bes)
    aes4
    
  }
 \new Staff \with { instrumentName = #"A"}
  \relative c'' {
    \clef "alto"
    \key ees \major
     \time 2/2
    \omit Staff.TimeSignature

     \repeat unfold 7 {R1}
     r4 bes,-. bes-. bes-.
     bes2 (aes4 g)
     f8 (aes g f) e4-. c'-.
     f,
  }
 \new Staff \with { instrumentName = #"Vc"}
  \relative c' {
    \clef "bass"
    \key ees \major
     \time 2/2
    \omit Staff.TimeSignature
 
     \repeat unfold 7 {R1}
     r4 bes-. bes-. bes-.
     bes2 (aes4 g)
     f8 (aes g f) e4-. c'-.
     f,
  }
  >>
    4小節のホルンによる導入(譜例1)の後、第1主題(譜例2)が提示されるが、この主題は第2楽章と同様にクロアチア民謡(フラニョ・クハチ英語版によれば、この楽章で用いられた民謡は "Divojčicapotokgazi" といわれている)からの引用であると考えられている。
    第2主題は第1主題との関連性が非常に強く、単一主題とも捉えられる。

脚注

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  1. ^ Deathridge J., Geck M. and Voss E. (1986). Wagner Werk-Verzeichnis (WWV): Verzeichnis der musikalischen Werke Richard Wagners und ihrer Quellen ("Catalogue of Wagner's Works: Catalogue of Musical Compositions by Richard Wagner and Their Sources"). Mainz, London, & New York: Schott Musik International. pp. 76 – 77

外部リンク

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