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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

呉音: じ、漢音: し、拼音: )は、古代中国の文献に出てくる動物の一種。に似た一本角の獣[1]

概要

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論語』や『荘子』といった先秦の様々な文献で、「」や「蛟」(蛟竜)と並ぶ猛獣の代名詞として言及される[2]

爾雅郭璞注などによれば、一本で、色は青(青黒[3])、重さは千だった[2]

山海経』によれば、兕は「」などと一緒に中国内外各地に生息していた[4]。『爾雅』本文によれば、兕が牛に似ているのに対し、犀はに似ていた[4]

兕は楚国と縁が深い[5]。『古本竹書紀年』によれば、昭王が楚に南征に訪れた際、大兕に遭遇したという[6]。また様々な文献において、楚の君主が雲夢の地で御狩する猛獣として登場する(例:『公孫龍子』跡府篇などに伝わる「楚弓楚得」説話、『戦国策』楚策一、『楚辞』招魂[7])。

周礼考工記などによれば、兕や犀の皮革甲冑の材料として利用されていた[8]。『荀子』議兵篇などによれば、そのような用法は楚人の慣習だった。

近代以降出土した甲骨文や器物にも見える[9]

受容

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後漢画像石1973年中国河南省南陽市出土)には、兕と推定される一角獣の図像が描かれている[10][5]

漢代から魏晋南北朝時代にかけて、兕は瑞獣とみなされるようになった[5]。その背景として、讖緯思想の影響や獬豸との混同があったとされる[5]

平安時代日本の『延喜式』には、狛犬のような役割の守護獣像として「兕像」が出てくる(狛犬#伝来)。

明代の小説『西遊記』には、獨角兕大王が登場する。

正体

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現代では、架空の生物と説明されることもあれば、実在の生物と説明されることもある。実在の生物だった場合の同定は諸説あり、例えばニーダムは「インドサイ」と同定している[11]。ほかにもジャイルズラウファーらの説がある[4]

集韻』や『正字通』には「メスの犀」とする説が載っており、現代でも『大漢和辞典』などがこの説を載せる。

21世紀現代の考古学古生物学の成果を踏まえた推定では、先秦当時は「野生スイギュウ」を指したが、漢代以降に犀と混同されたのだとされる[9]

兕觥

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現代の「兕觥」
画像外部リンク
『西清続鑑』の「兕觥」(pdf 541頁)

詩経』には「兕觥」(じこう)という酒器がしばしば出てくる[12]。現代の中国考古学において、「兕觥」は怪獣の身体を模した注酒器を指す。これは民国初期王国維が、宋代の古物図録『続考古図中国語版』の説を採用したことに由来する[13][14]

しかしながら、「兕觥」は本来、怪獣の身体ではなく兕の角を模した角杯リュトンのような、円錐形の飲酒器を指していた、とする説もある[12][14]清代の古物図録『西清続鑑[12][15]や『金石索』[16]には、円錐形の兕觥の図が載っている。

『詩経』に出てくる兕觥は、罰爵、すなわち饗宴の際に礼を失った者に罰として飲ませる杯だった(『詩経』周南・巻耳の鄭玄箋)[12]青木正児はその理由について、あたかも日本の可杯のように、円錐形であるがゆえに飲み干すまで置けない(置いたら倒れる)ためだったと推定している[12]

関連項目

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脚注

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  1. ^ 青木 1988, p. 137.
  2. ^ a b 字典「兕」 - 中国哲学書電子化計画
  3. ^ 山海經圖贊(光緒觀古堂本) 第15頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃” (中国語). ctext.org. 2021年3月20日閲覧。
  4. ^ a b c ラウファー 1992, p. 5-6.
  5. ^ a b c d 松浦 2012.
  6. ^ 佐藤信弥『戦争の古代中国史』講談社現代新書、2021年。85頁。
  7. ^ 小南一郎訳注『楚辞』岩波文庫、2021年。(494頁)
  8. ^ ラウファー 1992, p. 103.
  9. ^ a b 守彬:説兕-復旦大学出土文献与古文字研究中心”. www.gwz.fudan.edu.cn (2008年). 2021年3月20日閲覧。
  10. ^ 漢代石刻畫象拓本數位典藏” (中国語). ndweb.iis.sinica.edu.tw. 中央研究院歴史語言研究所. 2021年3月20日閲覧。
  11. ^ 加納 2007, p. 357.
  12. ^ a b c d e 青木 1988, p. 137-139.
  13. ^ 樋口 2011, p. 84f.
  14. ^ a b 屈 1971, p. 533.
  15. ^ 屈 1971, p. 541.
  16. ^ ラウファー 1992, p. 98.

参考文献

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  • 青木正児「兕觥と可盃」『中華名物考』平凡社平凡社東洋文庫〉、1988年(原著1959年春秋社)。ISBN 4582804799 
  • 加納喜光『動物の漢字語源辞典』東京堂出版、2007年。ISBN 9784490107319 (357頁「兕」)
  • 屈萬里兕觥問題重探」『中央研究院歴史語言研究所集刊』第43号、1971年http://www2.ihp.sinica.edu.tw/file/3837TGrgEvj.pdf (中国語)
  • 樋口隆康『中国の古銅器』学生社、2011年。ISBN 978-4311203268 
  • 松浦史子「中国南陽の漢代画像石にみる独角獣について ――『山海経』にみる異獣「兕」のゆくえ」『漢魏六朝における『山海経』の受容とその展開 ――神話の時空と文学・図像』汲古書院、2012年。ISBN 9784762929748 
  • ベルトルト・ラウファー 著、武田雅哉 訳『サイと一角獣』博品社、1992年。ISBN 4938706032 (Chinese Clay Figures (1914) の抄訳)

外部リンク

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