拡散性低酸素症
拡散性低酸素症(かくさんせいていさんそしょう、英: diffusion hypoxia[1])とは、亜酸化窒素を用いた全身麻酔からの回復時、体内から肺胞内への亜酸化窒素の洗い出しによって生じる低酸素症である。発見者に因んでフィンク効果(Fink effect)と呼ばれることもある[2]。
歴史
[編集]この効果は、1955年の論文で最初に説明したバーナード・レイモンド・フィンク(Bernard Raymond Fink)(1914-2000)にちなんで名付けられた[2][3][4]。フィンクは拡散性無酸素症(diffusion anoxia)と呼んでいた[2][3]。
病態生理
[編集]患者が笑気麻酔[注釈 1]から回復するとき、高濃度の亜酸化窒素が血液から肺胞へ(濃度勾配により)移行するため、短時間ではあるが、肺胞内の酸素と二酸化炭素はこのガスによって希釈される。特に患者の換気量が少ない場合、呼吸のたびに吐き出される亜酸化窒素が肺胞酸素を希釈する時間が長くなるので低酸素症になる[5]。
とりわけ、二酸化炭素も希釈されることにより、中枢の呼吸駆動が低下し、換気が減少することもこの低酸素症の原因となる[2]。亜酸化窒素は麻酔回復時の最初の5-10分間に大量に肺胞内に放出されるので、呼吸抑制と低酸素のリスクが高い[2]。よって、亜酸化窒素を用いる麻酔では多くの麻酔科医がこの間、純酸素を投与する[2][6]。
エントノックス
[編集]亜酸化窒素と酸素の50:50の混合ガスであるエントノックス(Entonox)は、英国の救急隊により、陣痛、腹痛や小児の鎮痛に用いられている[7]。これには低酸素を回避するのに十分な酸素が混合されており、なおかつ鎮痛作用を持つ[8][7]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 笑気は亜酸化窒素の別名
出典
[編集]- ^ S. Ahanatha Pillai (2007). Understanding Anaesthesiology. Jaypee Brothers Publishers. p. 101. ISBN 978-81-8448-169-3
- ^ a b c d e f Miller 2007, p. 122.
- ^ a b J. Roger Maltby (2002). Notable Names in Anaesthesia. Royal Society of Medicine Press. p. 63. ISBN 978-1-85315-512-3
- ^ Bernard R. Fink (1955). “Diffusion Anoxia”. Anesthesiology 16 (4): 511–519. doi:10.1097/00000542-195507000-00007. PMID 13238868.
- ^ S. EINARSSON (1993). “Nitrous Oxide Elimination and Diffusion Hypoxia During Normo- and Hypoventilation”. British Journal of Anaesthesia 71 (2): 189–93. doi:10.1093/bja/71.2.189. PMID 8123390.
- ^ Andrew B. Lumb; John F. Nunn (2005). Nunn's Applied Respiratory Physiology (6th ed.). Elsevier/Butterworth Heinemann. p. 169. ISBN 978-0-7506-8791-1
- ^ a b Joanne D. Fisher; Simon N. Brown; Matthew W. Cooke (October 2006). UK Ambulance Service Clinical Practice Guidelines (2006). Joint Royal Colleges Ambulance Liaison Committee. ISBN 1-84690-060-3. オリジナルの5 June 2011時点におけるアーカイブ。 27 February 2018閲覧。
- ^ “Entonox”. AnaesthesiaUK (www.frca.co.uk) (26 January 2009). 31 October 2007時点のオリジナルよりアーカイブ。27 February 2017閲覧。
参考文献
[編集]- Miller, Ronald 著、武田純三 訳『ミラー麻酔科学』メディカルサイエンスインターナショナル、2007年4月1日。ISBN 9784895924658。