「砂糖」の版間の差分
編集の要約なし |
日本人の食事摂取基準2025に基づき健康に関する記述を変更。参考文献から『砂糖の科学』以外を除去(検証・編集の結果、これら文献を出典とする記述が全て除去されたため)。 |
||
(79人の利用者による、間の181版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
{{otheruses|甘味料の一種}}{{出典の明記| date = 2024年4月}} |
|||
{{otheruses|甘味料の一種}} |
|||
[[ファイル:Sugar 2xmacro.jpg|thumb|250px|砂糖の結晶]] |
[[ファイル:Sugar 2xmacro.jpg|thumb|250px|砂糖の結晶]] |
||
[[Image:Saccharose.svg|frame|[[グルコース]] (左) と[[フルクトース]] (右)の二糖類である[[スクロース]]( |
[[Image:Saccharose.svg|frame|[[グルコース]] (左) と[[フルクトース]] (右)の二糖類である[[スクロース]](ショ糖)<br/>[[単糖類]]:フルクトース([[果糖]])、グルコース([[ブドウ糖]])、[[ガラクトース]](脳糖)<br/>[[二糖類]]:スクロース(ショ糖)、[[マルトース]](麦芽糖)、[[ラクトース]](乳糖)<br/>ショ糖を酵素的に分解してできる果糖とブドウ糖の混合物([[転化糖]])は、砂糖より甘みの強い甘味料として使われる]] |
||
'''砂糖'''(さとう、{{lang-en |
'''砂糖'''(さとう、{{lang-en|''Sugar''}}、{{lang-de|''Zucker''}})は、甘みを持つ[[調味料]]([[甘味料]])である。物質としては[[糖]]の[[結晶]]で、一般に多用される白砂糖の主成分は[[スクロース]](Sucrose、ショ糖)と呼ばれ、これは[[ブドウ糖]]と[[果糖]]の化合物である。原料は[[サトウキビ]]や[[テンサイ]]である。 |
||
砂糖の歴史は古く、その発明は2500年前と考えられている。インドからイスラム圏とヨーロッパへ順に伝播して |
[[砂糖の歴史]]は古く、その発明は2500年前と考えられている。[[サトウキビ]]を原料とした砂糖の生産はインドからイスラム圏とヨーロッパへ順に伝播していった。サトウキビは栽培に日照と水を必要とするために、ヨーロッパ諸国は栽培に適したカリブ海地域や南米を[[植民地]]にすると、開拓された[[プランテーション]]で多数の奴隷を使役してサトウキビを生産させた。[[19世紀]]末になると「高級品」ではなく、一般に普及する食品となり、[[20世紀]]以降になると生産過剰から、地球規模で生産調整が行われるようになった。 |
||
砂糖の摂取量の多さは食事を原因とする疾患のリスクと相関する。国によっては[[肥満税]]や[[砂糖税]]を導入するなど、砂糖消費の削減が試みられている<ref name = "Fiscal policy to improve diets and prevent noncommunicable diseases: from recommendations to action">{{Cite journal|洋書 |
|||
[[世界保健機関]](WHO)は2003年の報告で、砂糖摂取量は総カロリー対して10%以下となるよう推奨したが<ref name="nutPrev2003"/>、2014年には証拠の蓄積により新たに5%以下にすることの利点を追加した<ref name="whoguide2014"/>。2016年にWHOは[[清涼飲料水]]への課税を促し、肥満、2型[[糖尿病]]、虫歯を減らせた<ref name="drink2016"/>。各国は[[肥満税]]やガイドラインを作成し、砂糖消費の削減を狙ってきた。 |
|||
| author = Anne Marie Thow |
|||
| author2 = Shauna M Downs |
|||
[[かす|搾りかす]]などの副生成物の年間排出量は、世界中で約1億トン以上で、製糖工場自身の[[燃料]]として利用されるだけでなく、[[石灰]]分を多く含むため、[[製鉄]]、[[化学工業]]、[[大気汚染]]防止のための排煙[[脱硫]]材、[[上下水道|上下水]]の浄化、河川海域の水質底質の改善、農業用の土壌改良材<ref>[http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/4575C797-9942-494A-A01B-D28CDB10465B/0/limecakehoukokusho15.pdf ライムケーキ有効利用検討報告書]北海道循環資源利用促進協議会</ref> など様々な利用がされている。また搾りかすの一部は、[[堆肥]]として農地に還元<ref>[http://sugar.lin.go.jp/japan/view/jv_0303a.htm ライムケーキの再利用化への試み(日本ビート糖業協会)]立行政法人 農畜産業振興機構</ref>されるほか、[[キクラゲ]]の菌床栽培の培地原料としても利用される。 |
|||
| author3 = Christopher Mayes |
|||
| author4 = Helen Trevena |
|||
| author5 = Temo Waqanivalu |
|||
| author6 = John Cawley |
|||
| title = Fiscal policy to improve diets and prevent noncommunicable diseases: from recommendations to action |
|||
| journal = Bull World Health Organ |
|||
| publisher = World Health Organ |
|||
| volume = 96 |
|||
| issue = 3 |
|||
| pages = 201-210 |
|||
| date = 2018-03-01 |
|||
| url = https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29531419/ |
|||
| doi = 10.2471%2FBLT.17.195982 |
|||
| access-date = 2024-01-24 |
|||
}}</ref>。 |
|||
== 原料と製法 == |
== 原料と製法 == |
||
=== サトウキビ === |
=== サトウキビ === |
||
[[ファイル:Cut sugarcane.jpg|thumb|right|250px|収穫後、処理過程前のサトウキビ]] |
[[ファイル:Cut sugarcane.jpg|thumb|right|250px|収穫後、処理過程前のサトウキビ]] |
||
[[サトウキビ]]とは[[イネ科]][[サトウキビ属]]の植物である。 |
|||
[[サトウキビ]]の[[茎]]を細かく砕いて[[汁]]を搾り、その汁の[[不純物]]を沈殿させて、上澄み液を取り出し、煮詰めて[[結晶]]を作る。伝統的な製法では、[[カキ (貝)|カキ]]灰に含まれる[[カルシウム]]等の[[ミネラル]]分が[[電解質]]となり、[[コロイド]]を凝集させる為、カキ殻を焼いて粉砕したカキ灰を沈殿助剤として加える例もある。煮詰めてできた結晶と結晶にならなかった溶液([[糖蜜]])の混合物を[[遠心分離]]機にかけて粗糖を作る。粗糖の表面を糖蜜で洗った後、さらに遠心分離機にかけて、結晶と糖蜜を分ける。その結晶を温水に溶かし、不純物を取り除き、糖液にする。それを煮詰めて結晶を生じさせ、[[真空]]状態のもとで糖液を濃縮する。結晶を成長させた後、再び遠心分離機にかけて、現れた結晶が砂糖となる。 |
|||
[[サトウキビ]]の[[茎]]を細かく砕いて[[汁]]を搾り、その汁の[[不純物]]を沈殿させて、上澄み液を取り出し、煮詰めて[[結晶]]を作る。伝統的な製法では、[[カキ (貝)|カキ]]灰に含まれる[[カルシウム]]等の[[ミネラル]]分が[[電解質]]となり、[[コロイド]]を凝集させる為、カキ殻を焼いて粉砕したカキ灰を沈殿助剤として加える例もある。 |
|||
煮詰めてできた結晶と結晶にならなかった溶液([[糖蜜]])の混合物を、[[遠心分離]]機にかけて粗糖を作る。粗糖の表面を糖蜜で洗った後、さらに遠心分離機にかけて、結晶と糖蜜を分ける。その結晶を温水に溶かし、不純物を取り除き、[[ファインリカー]]にする。それを煮詰めて結晶を生じさせ、[[真空]]状態のもとで糖液を濃縮する。結晶を成長させた後、再び遠心分離機にかけて、現れた結晶が砂糖となる。 |
|||
[[光合成]]において飽和点が高いため、他の植物よりも多く糖質を生産できる。 |
[[光合成]]において飽和点が高いため、他の植物よりも多く糖質を生産できる。 |
||
25行目: | 43行目: | ||
=== サトウカエデ === |
=== サトウカエデ === |
||
[[サトウカエデ]]の[[茎|幹]]に穴を |
[[サトウカエデ]]の[[茎|幹]]に穴を開け、そこから樹液を採集する。その樹液を煮詰めて濃縮したものが[[メープルシロップ]]である。これを更に濃縮を進めて固体状になったものが[[メープルシュガー]]である。 |
||
なお、糖分がやや低いものの、日本 |
なお、糖分がやや低いものの、日本に自生する[[イタヤカエデ]]からもメープルシュガーを作ることは可能であり、[[戦後混乱期|終戦直後]]の砂糖不足の時代に東北や北海道で製造が試みられたことがあるが、商業化ベースには乗らずに終わった{{sfn|橋本仁・高田明和|2006|p=21}}。 |
||
=== オウギヤシ(サトウヤシ) === |
=== オウギヤシ(サトウヤシ) === |
||
33行目: | 51行目: | ||
=== スイートソルガム(サトウモロコシ) === |
=== スイートソルガム(サトウモロコシ) === |
||
[[モロコシ属]]のうち、糖分を多く含むものの総称で、アメリカを中心に栽培されている。煮詰めてソルガムシュガー(ロゾク糖)をつくることもできるが、[[グルコース]]や[[フラクトース]]を多く含むため結晶化させにくく、結晶糖の収量としてはサトウキビやテンサイに劣るため、[[シロップ]]の原料として使用されることが多い。 |
[[モロコシ属]]のうち、糖分を多く含むものの総称で、[[アメリカ合衆国]]を中心に栽培されている。煮詰めてソルガムシュガー(ロゾク糖)をつくることもできるが、[[グルコース]]や[[フラクトース]]を多く含むため結晶化させにくく、結晶糖の収量としてはサトウキビやテンサイに劣るため、[[シロップ]]の原料として使用されることが多い。[[バイオエタノール]]の原料としても多く利用されている<ref>{{Cite book|和書|title=地域食材大百科(穀類・いも・豆類・種実 |volume=第1巻 |page=177 |publisher=農山漁村文化協会 |date=2010-03-10 |edition=第1刷 |isbn=9784540092619 }}</ref>。 |
||
[[かす|搾りかす]]など副生成物の年間排出量は世界中で約1億トン以上で、製糖工場自身の燃料として利用されるだけでなく、[[石灰]]分を多く含むため、[[製鉄]]、[[化学工業]]、[[大気汚染]]防止のための排煙[[脱硫]]材、上下水の浄化、河川海域の水質底質の改善、農業用の土壌改良材<ref>{{PDFlink|[http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/4575C797-9942-494A-A01B-D28CDB10465B/0/limecakehoukokusho15.pdf ライムケーキ有効利用検討報告書]}} 北海道循環資源利用促進協議会</ref>として使われる。搾りかすの一部は堆肥として農地に還元<ref>[http://sugar.lin.go.jp/japan/view/jv_0303a.htm ライムケーキの再利用化への試み(日本ビート糖業協会)] 独立行政法人 農畜産業振興機構</ref>されるほか、[[キクラゲ]]の菌床栽培の[[培地]]原料としても利用される。[[テンサイ]](ビート)の搾り粕は牛の飼料として、サトウキビの搾りかす(バガス)は紙の原料としても使われる。 |
|||
== 世界の歴史 == |
|||
== 歴史 == |
|||
{{Main|砂糖の歴史}} |
{{Main|砂糖の歴史}} |
||
=== |
=== 原産地と語源 === |
||
サトウキビの原産地は、南太平洋の島々で、そこから[[東南アジア]]を経て、[[インド]]に伝わったとされるが、「インド原産」という説も強い。砂糖の歴史は古く、約2500年前に東インドでサトウキビの搾り汁を煮詰めて砂糖をつくる方法が発明されたと考えられている<ref name="Smith12-13">{{Cite book|和書|title=砂糖の歴史 |series=食の図書館 |pages=12-13 |author=アンドリュー・スミス |publisher=原書房|date=2016/01/07 |edition=第1刷 |isbn=9784562051755 }}</ref>。例えば、[[カウティリヤ]]により[[紀元前4世紀]]後半に書かれたとされる[[サンスクリット]]で書かれた古典「アルタシャーストラ」(「[[実利論]]」)には、純度が一番低いグダ、[[キャンディ]]の語源とされるカンダ、純度が最も高いサルカラ (SarkaraあるいはSarkkara) の3種類の砂糖の説明が記載されている<ref name="Smith12-13" />。サルカラは英語の「'''Sugar'''」やフランス語の「'''Sucre'''」の語源になった。 |
|||
サトウキビの原産地は、南太平洋の島々で、そこから東南アジアを経て、[[インド]]に伝わったとされるが、「インド原産」という説も強い。 |
|||
砂糖の歴史は古く、約2500年前に東インドでサトウキビの搾り汁を煮詰めて砂糖をつくる方法が発明されたと考えられている<ref name="Smith12-13">{{Cite book|和書|title=砂糖の歴史 |series=食の図書館 |pages=12-13 |author=アンドリュー・スミス |publisher=原書房|date=2016/01/07 |editon=第1刷 |isbn=9784562051755 }}</ref>。例えば、[[カウティリヤ]]により[[紀元前4世紀]]後半に書かれたとされる[[サンスクリット]]で書かれた古典「アルタシャーストラ」(「[[実利論]]」)には、純度が一番低いグダ、[[キャンディ]]の語源とされるカンダ、純度が最も高いサルカラ (SarkaraあるいはSarkkara) の3種類の砂糖の説明が記載されている<ref name="Smith12-13"></ref>。サルカラは英語の{{Lang|en|Sugar}}やフランス語の{{Lang|fr|Sucre}}の語源になった。 |
|||
また、パタンジャリが紀元前400~200年の間に書いたと推定されるサンスクリット文法の解説書「マハーバーシャ」には、砂糖を加えた[[ライスプディング]]や発酵飲料 |
また、パタンジャリが紀元前400~200年の間に書いたと推定されるサンスクリット文法の解説書「マハーバーシャ」には、砂糖を加えた[[ライスプディング]]や発酵飲料の作り方が記載されている<ref>{{Cite book|和書|title=砂糖の歴史 |series=食の図書館 |page=12 |author=アンドリュー・スミス |publisher=原書房|date=2016/01/07 |edition=第1刷 |isbn=9784562051755 }}</ref>。砂糖は[[病気]]による衰弱や疲労の回復に効果があるとされ、[[薬]]としても用いられた。当時は「インドの[[塩]]」と呼ばれ、塩と関連づけられていた。 |
||
砂糖は[[病気]]による衰弱や疲労の回復に効果があるとされ、[[薬]]としても用いられた。当時は「インドの[[塩]]」等と呼ばれ、塩などと関連づけられていた。 |
|||
[[ダレイオス1世]]はインド遠征の際にサトウキビを[[ペルシア]]に持ち帰り、国家機密として輸出と栽培を独占した。その後サトウキビは戦乱とともに[[黒海]]方面や[[ペルシャ湾]]岸、[[中東]]一帯に広がっていった。[[フェニキア人]]や[[古代エジプト]]人は砂糖を[[香辛料]]や[[生薬]]として扱った。[[中国]]での砂糖製造の歴史は古く主に広東地方で行われていた。[[唐代]]の本草学者、蘇敬の『博物誌』には「[[太宗 (唐)|太宗]]は砂糖の製造技術を学ぶため、リュー(インド)、とくにモキト(ベンガル)に職人を派遣した」と記述されている。 |
[[ダレイオス1世]]はインド遠征の際にサトウキビを[[ペルシア]]に持ち帰り、国家機密として輸出と栽培を独占した。その後サトウキビは戦乱とともに[[黒海]]方面や[[ペルシャ湾]]岸、[[中東]]一帯に広がっていった。[[フェニキア人]]や[[古代エジプト]]人は砂糖を[[香辛料]]や[[生薬]]として扱った。[[中国]]での砂糖製造の歴史は古く主に広東地方で行われていた。[[唐代]]の本草学者、蘇敬の『博物誌』には「[[太宗 (唐)|太宗]]は砂糖の製造技術を学ぶため、リュー(インド)、とくにモキト(ベンガル)に職人を派遣した」と記述されている。 |
||
古代ギリシャの[[テオフラストス]]は『植物学概論』で「葦から採れる蜜」について書き留めている。そして[[アレクサンドロス3世]]がインドに遠征した。また、[[帝政ローマ]]時代のギリシア人医師[[ディオスコリデス]]は砂糖をサッカロン(saccharon)と呼び、考察を行った。プリニウスやストラボン |
古代ギリシャの[[テオフラストス]]は『植物学概論』で「葦から採れる蜜」について書き留めている。そして[[アレクサンドロス3世]]がインドに遠征した。また、[[帝政ローマ]]時代のギリシア人医師[[ディオスコリデス]]は砂糖をサッカロン(saccharon)と呼び、考察を行った。[[ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|プリニウス]]や[[ストラボン]]以後のローマ時代の学者はこれに倣った<ref>マグロンヌ・トゥーサン=サマ 『世界食物百科』玉村豊男 翻訳監修、原書房、1998年、ISBN 4087603172、pp.572-575</ref>。 |
||
=== プランテーションの成立 === |
|||
ローマ帝国の版図はインドに及ぶことがなかった。欧州がインドと経済交渉するときは、トルキスタン西部の銀鉱山を中心とするイスラム経済圏を介する必要があった。英語のシュガーと[[スターリング・ポンド|スターリング]]は実際アラビア語に由来する。 |
|||
[[File:Cukrová homole 001.jpg|right|thumb|記録によれば12世紀ごろのヨルダンからヨーロッパに派生した輸送状態の円錐形精製砂糖 [[棒砂糖|シュガーローフ(棒砂糖)]]。購入者は刃先の付いたニッパー({{ill2|シュガーニップス|en|Sugar nips}})で切りながら消費した。]] |
|||
=== 西インド諸島への道のり === |
|||
[[File:Cukrová homole 001.jpg|right|thumb|記録によれば12世紀ごろのヨルダンからヨーロッパに派生した輸送状態の円錐形精製砂糖 {{ill2|シュガーローフ|en|Sugarloaf}}。購入者は刃先の付いたニッパー({{ill2|シュガーニップス|en|Sugar nips}})で切りながら消費した。]] |
|||
[[Image:Sugarnips62.jpg|thumb|シュガーニップス]] |
[[Image:Sugarnips62.jpg|thumb|シュガーニップス]] |
||
[[Image:Sugarloaf_Box_-_Open.jpg|thumb|スウェーデンのシュガーローフボックス]] |
[[Image:Sugarloaf_Box_-_Open.jpg|thumb|スウェーデンのシュガーローフボックス]] |
||
966年[[ヴェネツィア共和国]]が中東から来る砂糖を貨物集散所に通して流通させる仕組みをつくった。[[11世紀]]末に[[十字軍]]がサトウキビを[[キプロス]]に持ち帰った。まず[[14世紀]]には[[シチリア]]で、ついで[[15世紀]]初頭には[[バレンシア (スペイン)|バレンシア]]地方へ栽培法が伝播し、[[地中海]]周辺が砂糖の生産地となった。しかし、この15世紀からは[[大西洋]]の探検が少しずつ始まり、[[スペイン]]が[[カナリア諸島]]で、[[ポルトガル]]が[[マデイラ諸島]]と[[アゾレス諸島]]でそれぞれサトウキビ栽培を始めた。この島々からの砂糖は1460年代には |
966年[[ヴェネツィア共和国]]が中東から来る砂糖を貨物集散所に通して流通させる仕組みをつくった。[[11世紀]]末に[[十字軍]]がサトウキビを[[キプロス]]に持ち帰った。まず[[14世紀]]には[[シチリア]]で、ついで[[15世紀]]初頭には[[バレンシア (スペイン)|バレンシア]]地方へ栽培法が伝播し、[[地中海]]周辺が砂糖の生産地となった。 |
||
しかし、この15世紀からは[[大西洋]]の探検が少しずつ始まり、[[スペイン]]が[[カナリア諸島]]で、[[ポルトガル]]が[[マデイラ諸島]]と[[アゾレス諸島]]でそれぞれサトウキビ栽培を始めた。この島々からの砂糖は1460年代には[[ヨーロッパ]]へ輸出されており、シチリアやバレンシアでの砂糖生産は競争に敗れて衰退した。<ref>{{Cite book|和書|title=中世ヨーロッパ 食の生活史 |page=59 |author=ブリュノ・ロリウー |translator=吉田春美 |publisher=原書房 |date=2003-10-04 |edition=第1刷 |isbn=4562036877 }}</ref> |
|||
新大陸の発見によって、まず最初に砂糖の大生産地となったのは[[ブラジル]]の北東部(ノルデステ)だった。[[1530年代]]にサトウキビ栽培が始まり、[[1630年]]に[[レシフェ]]を中心とする地方が[[オランダ]]領となると、さらに生産が促進された。しかし[[1654年]]にブラジル北東部が再びポルトガル領となると、サトウキビ生産者たちは技術を持ったまま[[カリブ海]]の[[イギリス]]や[[フランス]]領に移民し、[[1650年代]]からはカリブ海域において大規模な砂糖[[プランテーション]]が相次いで開発され、この地方が砂糖生産の中心地となった<ref>{{Cite book|和書|title=略奪の海カリブ: もうひとつのラテン・アメリカ史 |series=岩波新書, 新赤版 75 |pages=138-139 |author=増田義郎 |publisher=岩波書店 |date=1989-06-20 | |
新大陸の発見によって、まず最初に砂糖の大生産地となったのは[[ブラジル]]の北東部(ノルデステ)だった。[[1530年代]]にサトウキビ栽培が始まり、[[1630年]]に[[レシフェ]]を中心とする地方が[[オランダ]]領となると、さらに生産が促進された。しかし[[1654年]]にブラジル北東部が再びポルトガル領となると、サトウキビ生産者たちは技術を持ったまま、[[カリブ海]]の[[イギリス]]や[[フランス]]領に移民し、[[1650年代]]からはカリブ海域において大規模な砂糖[[プランテーション]]が相次いで開発され、この地方が砂糖生産の中心地となった<ref>{{Cite book|和書|title=略奪の海カリブ: もうひとつのラテン・アメリカ史 |series=岩波新書, 新赤版 75 |pages=138-139 |author=増田義郎 |publisher=岩波書店 |date=1989-06-20 |edition=第1刷 |ncid=BN03493067 |isbn=4004300754 }}</ref>。 |
||
=== 19世紀 === |
|||
=== メイク・プランテーション === |
|||
一方、[[1747年]]に[[ドイツ]]の化学者アンドレアス・マルクグラーフ([[:en:Andreas Sigismund Marggraf|Andreas Sigismund Marggraf]])がテンサイから砂糖と同じ成分をとりだすことに成功した。[[1806年]]から1813年の[[大陸封鎖]]による影響で、イギリスからヨーロッパ大陸へ砂糖が供給されなくなった。そのためにナポレオンが砂糖の自給自足を目的としてテンサイに注目し、[[フランス]]やドイツを始めヨーロッパ各地に甜菜糖業の大規模生産が広まり製糖業が発達した。ナポレオン戦争後砂糖の供給が元に戻ってもテンサイの増産は続いた。 |
一方、[[1747年]]に[[ドイツ]]の化学者アンドレアス・マルクグラーフ([[:en:Andreas Sigismund Marggraf|Andreas Sigismund Marggraf]])がテンサイから砂糖と同じ成分をとりだすことに成功した。[[1806年]]から1813年の[[大陸封鎖]]による影響で、イギリスからヨーロッパ大陸へ砂糖が供給されなくなった。そのためにナポレオンが砂糖の自給自足を目的としてテンサイに注目し、[[フランス]]やドイツを始めヨーロッパ各地に甜菜糖業の大規模生産が広まり製糖業が発達した。ナポレオン戦争後砂糖の供給が元に戻ってもテンサイの増産は続いた。 |
||
[[File:Sugar cane 2.JPG|thumb|インドの[[サトウキビ]]プランテーション<br/>インドの砂糖生産量は世界でもトップクラスだが、中国のように |
[[File:Sugar cane 2.JPG|thumb|インドの[[サトウキビ]]プランテーション<br/>インドの砂糖生産量は世界でもトップクラスだが、中国のように国内だけで消費され、輸出されることはほとんど無い]] |
||
その一方で、サトウキビからの砂糖生産も増加の一途をたどった。[[19世紀]]にはいると、イギリスは[[インド洋]]の[[モーリシャス]]や[[南太平洋]]の[[フィジー]]にもサトウキビを導入し、プランテーションを建設した。すでに奴隷制はイギリスでは廃止されていたため、ここでの主な労働力は同じイギリス領のインドから呼ばれた[[インド人]]であった<ref>{{Cite book|和書|title=オセアニアを知る事典 | |
その一方で、サトウキビからの砂糖生産も増加の一途をたどった。[[19世紀]]にはいると、イギリスは[[インド洋]]の[[モーリシャス]]や[[南太平洋]]の[[フィジー]]にもサトウキビを導入し、プランテーションを建設した。すでに奴隷制はイギリスでは廃止されていたため、ここでの主な労働力は同じイギリス領のインドから呼ばれた[[インド人]]であった<ref>{{Cite book|和書|title=オセアニアを知る事典 |editor=石川栄吉 |publisher=平凡社 |page=121 |date=1990-08-21 |edition=初版第1刷 |ncid=BN05119276 |isbn=4582126170 }}</ref>。そのため、現在でもこの両国においてはインド系住民が多い。やがてオーストラリアの[[クイーンズランド州]]でも生産するようになる。<!--アメリカの砂糖史は以降の主役である。[[ルイジアナ買収]]と[[アダムズ=オニス条約]]による[[スペイン領フロリダ]]割譲が、最初の生産地誕生であった。関税に保護されてルイジアナとフロリダの生産量は向上していった。そして1860年[[キューバ]]での砂糖生産も世界の4分の1を占めるまでになっていた<ref>{{Cite book|和書|title=ラテンアメリカを知る事典 |page=187 |publisher=平凡社 |date=1999-12-10 |edition=新訂増補版第1刷 |ncid=BA4474584X |isbn=4582126251 }}</ref>。[[南北戦争]]を機会に砂糖は増産され続けた。[[ハワイ王国]]からの輸入も1860年から1865年で13倍以上も増加した。終戦後ハワイの対米輸出は需要の減退と関税の引き上げに阻まれた。そこでハワイ製糖産業の中核(エージェンシー)は、政府にアメリカへの併合等を要求して1876年に米布互恵条約を締結させた<ref name=mieko>松本三恵子 「アメリカ砂糖内国市場におけるハワイ砂糖産業の地位と戦略」 大阪大学経済学 第50巻 2-3号 2000年12月 169-191頁</ref>。この条約は無関税を約束させるかわりに、どのような特権もアメリカ以外に貸与できなくなるものであった。1884年、この条約は[[真珠湾]]に米軍基地を建設し同湾を独占使用する条件で更新された([[ハワイ併合]]まで継続)<ref name=mieko />。--> |
||
19世紀末の国際価格低落による砂糖消費の増加は非アルコール飲料の消費増加と軌を一にしている<ref>伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』pp.16-18 [[八坂書房]] 2008年 ISBN 9784896949223 |
|||
アメリカの砂糖史は以降の主役である。[[ルイジアナ買収]]と[[アダムズ=オニス条約]]による[[スペイン領フロリダ]]割譲が、最初の生産地誕生であった。関税に保護されてルイジアナとフロリダの生産量は向上していった。そして1860年[[キューバ]]での砂糖生産も世界の4分の1を占めるまでになっていた<ref>{{Cite book|和書|title=ラテンアメリカを知る事典 |page=187 |publisher=平凡社 |date=1999-12-10 |editon=新訂増補版第1刷 |ncid=BA4474584X |isbn=4582126251 }}</ref>。[[南北戦争]]を機会に砂糖は増産され続けた。[[ハワイ王国]]からの輸入も1860年から1865年で13倍以上も増加した。終戦後ハワイの対米輸出は需要の減退と関税の引き上げに阻まれた。そこでハワイ製糖産業の中核(エージェンシー)は、政府にアメリカへの併合等を要求して1876年に米布互恵条約を締結させた<ref name=mieko>松本三恵子 「アメリカ砂糖内国市場におけるハワイ砂糖産業の地位と戦略」 大阪大学経済学 第50巻 2-3号 2000年12月 169-191頁</ref>。この条約は無関税を約束させるかわりに、どのような特権もアメリカ以外に貸与できなくなるものであった。1884年、この条約は[[真珠湾]]に米軍基地を建設し同湾を独占使用する条件で更新された([[ハワイ併合]]まで継続)<ref name=mieko />。1890年アメリカは砂糖関税の徴収を廃止した。このマッキンレー関税法は合衆国本土生産者に補助金を出したので、ハワイとキューバの競争は熾烈なものとなった。米布間に[[海底ケーブル]]の敷かれた1895年、ハワイの製糖組合HSPA([[:en:Hawaiian Sugar Planters' Association|Hawaiian Sugar Planters' Association]])が結成され、さっそく生産性向上に貢献した。キューバ事情としては1899年[[ユナイテッド・フルーツ]]が設立された。 |
|||
</ref>。砂糖入り飲料(イギリスでは砂糖入り[[紅茶]]、ヨーロッパ大陸では砂糖入り[[コーヒー]])と[[パン]]の組み合わせが庶民の安く手軽な朝食として取り入れられ、一般的なものとなっていったのである<ref>{{Cite book|和書|title=ヨーロッパの舌はどう変わったか: 十九世紀食卓革命 |author=南直人 |series=講談社選書メチエ 123 |date=1998-02-10 |edition=第1刷 |pages=79-89 |isbn=406258123X }}</ref>。<!--厳しさを増す国際市場では砂糖[[トラスト]]が生成された<ref>小平直行 「米国精糖業独占資本と帝国主義の成立」 熊本大学教養部紀要 人文・社会科学編 30 41-61頁 1995年1月31日</ref>。--><!-- |
|||
=== 20世紀 === |
|||
[[米西戦争]]でアメリカは砂糖生産地を拡大した([[プエルトリコ]]・[[フィリピン]]・キューバ)。1903年米玖互恵通商条約は両国間の関税を20%引き下げた。キューバは、産業構造が砂糖生産に特化してしまい、輸出先はもちろんアメリカに限定され、輸入面においては[[1907年恐慌]]の非常口となった。フィリピンは南北戦争を機に砂糖の対米輸出を増加させて、1880年代には対米輸出が砂糖輸出額の60%を占めた。しかし低質なフィリピン糖は次第に受け入れられなくなり、1890年代には対米輸出割合が10%に落ち込んだ。その後、革命と牛疫で生産量も減じた。米西戦争でアメリカ領となってからも「パリ条約第四条」の規定に対米自由貿易とアメリカ資本受け入れを阻まれていた。1909年以降、フィリピンは制限を解かれ[[第一次世界大戦]]まで順調に対米輸出量を増やした<ref name=mieko />。 |
|||
戦場となった欧州は焼け野原となりテンサイ糖業も衰退した。一時期には[[人工甘味料]]の一種である[[サッカリン]]が砂糖の代用品として使われ、その後は[[アセスルファムカリウム|アセスルファムK]]も使われるようになる。キューバでは関税が引き下げられたことで、世界で図抜けて増産していた(100万トン)。戦後はアメリカで価格統制が取り払われた。[[1920年]]5月、ニューヨーク粗糖相場は1ポンド23.57セントにまで暴騰した。このとき[[ヴェルサイユ体制]]により旧[[ドイツ帝国]]の技術と機械で欧州のテンサイ糖業が復興していた。そして早くも同年8月に価格は下落して12月に4.16セントまで暴落した([[世界恐慌|世界農業恐慌]])。それでもキューバ糖は[[モノカルチャー]]なので生産調整できなかった。そのように工作した合衆国は1921年以降、キューバ糖を関税で締め出しながら、本土・属領(ハワイ・フィリピン・プエルトリコ)の砂糖生産は野放しに保護した<ref name=mieko />。 |
|||
19世紀末の国際価格低落による砂糖消費の増加は非アルコール飲料の消費増加と軌を一にしている<ref>伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』pp.16-18 [[八坂書房]] [[2008年]] ISBN 9784896949223 |
|||
</ref>。砂糖入り飲料(イギリスでは砂糖入り[[紅茶]]、ヨーロッパ大陸では砂糖入り[[コーヒー]])と[[パン]]の組み合わせが庶民の安く手軽な朝食として取り入れられ、一般的なものとなっていったのである<ref>{{Cite book|和書|title=ヨーロッパの舌はどう変わったか: 十九世紀食卓革命 |author=南直人 |series=講談社選書メチエ 123 |date=1998-02-10 |edition=第1刷 |pages=79-89 |isbn=406258123X }}</ref>。厳しさを増す国際市場では砂糖[[トラスト]]が生成された<ref>小平直行 「米国精糖業独占資本と帝国主義の成立」 熊本大学教養部紀要 人文・社会科学編 30 41-61頁 1995年1月31日</ref>。 |
|||
[[1931年]]のチャドボーン([[:en:Thomas Chadbourne|Thomas Chadbourne]])協定がモノカルチャー国に止めを刺す形となり、キューバは砂糖輸出先の大部分を失った。1925年には500万トンを超えていた生産量は1933年およそ200万トンにまで激減した。キューバでは購買力が下がりすぎて、アメリカ製品をキューバへ輸出することが難しくなった。しかし[[農業調整法]]は砂糖を政府買上げの対象にはしなかった。1933年初頭に関税委員会が「供給統制計画」を立案し、同年7月に農務長官が「砂糖安定協定」を作成した。そして1934年5月9日からジョンズ・コスティガン砂糖法([[:en:Jones–Costigan amendment|Jones–Costigan amendment]])が施行され、1974年まで運用された。法律の割当によると、ハワイ・フィリピン・本土甘藷は減産の必要があったのに対して、キューバ・本土テンサイ・プエルトリコには増産の余地があった<ref name=mieko />。 |
|||
=== チャドボーン協定 === |
|||
[[米西戦争]]でアメリカは砂糖生産地を拡大した([[プエルトリコ]]・[[フィリピン]]・キューバ)。1903年米玖互恵通商条約は両国間の関税を20%引き下げた。キューバは、産業構造が砂糖生産に特化してしまい、輸出先はもちろんアメリカに限定され、輸入面においては[[1907年恐慌]]の非常口となった。フィリピンは南北戦争を機に砂糖の対米輸出を増加させて、1880年代には対米輸出が砂糖輸出額の60%を占めた。しかし低質なフィリピン糖は次第に受け入れられなくなり、1890年代には対米輸出割合が10%に落ち込んだ。その後、革命と牛疫で生産量も減じた。米西戦争でアメリカ領となってからも「パリ条約第四条」の規定に対米自由貿易とアメリカ資本受け入れを阻まれていた。1909年以降、フィリピンは制限を解かれ[[第一次世界大戦]]まで順調に対米輸出量を増やした。<ref name=mieko /> |
|||
[[フィリピン独立法]]がフィリピン糖の対米輸出を制限した<ref name=mieko />。フィリピンの糖業は次第に縮小した。 |
|||
戦場となった欧州は焼け野原となりテンサイ糖業も衰退した。一時[[サッカリン]]が砂糖の代用品となった。現在[[アセスルファムカリウム|アセスルファムK]]も出回っている。これら代用品は砂糖以上の健康にかかわる問題が指摘されている。この点、[[高橋久仁子]]は1999年に砂糖の過剰摂取防止のためにエビデンスのない有害論を持ち出すのは問題であり、「現在の消費水準及び使用法で有害であることを示す証拠はない」と主張している<ref>高橋久仁子「[http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_9906a.htm 砂糖-愛されるが故に嫌われ、甘いが故に苦い評判の不思議-]」独立行政法人農畜産業振興機構、2010年3月6日、2015年7月10日閲覧</ref>。代用品を売り込む方便としての有害論は危険である。 |
|||
ハワイではブルーワー([[:en:C. Brewer & Co.|C. Brewer & Co.]])とアメリカン・ファクターズ([[:en:Amfac, Inc.|Amfac, Inc.]])の二大エージェンシーが1935年までに島内プランテーションの半分以上を所有した。後者は元来[[ドイツ帝国]]のハックフィールド商会であったが、敵性資産として売却されたのだった。ハワイの地域総生産高において、1930年代後半から[[第二次世界大戦]]に備え軍事支出が30%を占めるようになった<ref name=mieko />。日本軍がフィリピンを占拠した結果、アメリカに対するフィリピンからの砂糖輸入が途絶えたため、キューバの生産量は1939年の300万トンから1947年の650万トンにまで増加した。1948年フィリピンからアメリカへの輸出が再開されると市場にフィリピン産が大量に出回り、アメリカで新たな砂糖法が施行されたこともあり、キューバは再び減産を強いられた<ref name=mieko>松本三恵子 「アメリカ砂糖内国市場におけるハワイ砂糖産業の地位と戦略」 大阪大学経済学 第50巻 2-3号 2000年12月 169-191頁</ref>。1953年、新たな国際砂糖協定が生産割当を策定した。1968年から欧州域内で生産調整する砂糖クオータ制度がスタートした。EUとアメリカの貿易摩擦により、この制度は1981年から欧州の補助金付き対米輸出を裏づけるものとして機能するようになった。同制度は、2017年9月末をもって廃止された。--> |
|||
キューバ糖は戦時中に関税引き下げのため世界で図抜けて増産していた(100万トン)。戦後にアメリカで価格統制が取り払われた。すると1920年5月ニューヨーク粗糖相場は1ポンド23.57セントにまで暴騰した。このとき[[ヴェルサイユ体制]]により旧[[ドイツ帝国]]の技術と機械で欧州のテンサイ糖業が復興していた。そして早くも同年8月に価格は下落して12月に4.16セントまで暴落した([[世界恐慌|世界農業恐慌]])。それでもキューバ糖は[[モノカルチャー]]なので生産調整できなかった。そのように工作した合衆国は1921年以降、キューバ糖を関税で締め出しながら、本土・属領(ハワイ・フィリピン・プエルトリコ)の砂糖生産は野放しに保護した。<ref name=mieko /> |
|||
== 日本における砂糖の歴史 == |
|||
{{出典の明記| date = 2020年3月}} |
|||
=== 純然たる舶来品 === |
|||
1931年のチャドボーン([[:en:Thomas Chadbourne|Thomas Chadbourne]])協定がモノカルチャー国へとどめをさした。キューバは砂糖輸出先の大部分を失った。1925年には500万トンを超えていた生産量は1933年およそ200万トンにまで激減した。キューバの購買力が下がりすぎて、アメリカ製品をキューバへ輸出することが難しくなった。しかし[[農業調整法]]は砂糖を政府買上げの対象としなかった。1933年初頭に関税委員会が「供給統制計画」を立案し、同年7月に農務長官が「砂糖安定協定」を作成した。そして1934年5月9日からジョンズ・コスティガン砂糖法([[:en:Jones–Costigan amendment|Jones–Costigan amendment]])が施行され、1974年まで運用された。法律の割当によると、ハワイ・フィリピン・本土甘藷は減産の必要があったのに対して、キューバ・本土テンサイ・プエルトリコには増産の余地があった。<ref name=mieko /> |
|||
[[日本]]には[[奈良時代]]に[[鑑真]]によって伝えられたとされている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.eikoh-seminar.com/1kagaku/item/text20161009.pdf |title=柳田理科雄の1日1科学 砂糖|publisher=栄光ゼミナール|author=柳田理科雄|accessdate=2020-06-06|format=PDF}}</ref>。[[唐]]において精糖技術が伝播する以前は、砂糖はシロップ状の糖蜜の形で使用されていた。唐の[[李世民|太宗]]の時代に西方から[[精糖]]技術が伝来すると、持ち運びが簡便になった。当初は[[輸入]]でしかもたらされない貴重品であり[[医薬品]]として扱われていた。 |
|||
[[平安時代]]後期には[[本草和名]]に見られるようにある程度製糖の知識も普及し、お菓子や[[贈り物|贈答品]]の一種として扱われた。[[室町時代]]には幾つもの文献に砂糖羊羹、砂糖饅頭、砂糖飴、砂糖餅といった砂糖を使った和菓子が見られるようになってくる。名に「砂糖」と付くことからも、[[調味料]]としての砂糖は当時としては珍しい物だということがわかる<ref>{{Cite book|和書|author=鈴木晋一 |title=たべもの噺 |publisher=平凡社 |date=1986 |pages=159-162 |isbn=4582828132 }}</ref>。[[狂言]]『[[附子]]』の中でも珍重されている。 |
|||
[[フィリピン独立法]]がフィリピン糖の対米輸出を制限した<ref name=mieko />。フィリピンの糖業は次第に縮小した。 |
|||
[[画像:Kompeito konpeito.JPG|thumb|right|280px|[[金平糖]]。戦国時代に宣教師によって持ち込まれた砂糖菓子のひとつである]] |
|||
ハワイではブルーワー([[:en:C. Brewer & Co.|C. Brewer & Co.]])とアメリカン・ファクターズ([[:en:Amfac, Inc.|Amfac, Inc.]])の二大エージェンシーが1935年までに島内プランテーションの半分以上を所有した。後者は元来[[ドイツ帝国]]のハックフィールド商会であったが、敵性資産として売却されたのだった。ハワイの地域総生産高において、1930年代後半から[[第二次世界大戦]]に備え軍事支出が30%を占めるようになった。<ref name=mieko /> |
|||
やがて[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]に[[南蛮貿易]]が開始されると宣教師たちによって[[金平糖]]がもちこまれ、さらにアジアから砂糖の輸入がさかんになり、徐々に砂糖の消費量は増大していった。[[1580年]]([[天正]]8年)に[[土佐国]]([[高知県]])の[[戦国大名]]であった[[長宗我部元親]]は、織田信長家臣の[[明智光秀]]を介して、信長に[[鷹狩]]用の[[鷹]]16羽と同時に砂糖3000斤(約1,800㎏)を贈っている(『[[信長公記]]』)。 |
|||
== |
=== 国産化の試み === |
||
江戸時代初期、[[薩摩藩]]支配下の[[琉球王国]]では、[[1623年]]に[[儀間真常]]が部下を[[明]]の[[福州]]に派遣して、サトウキビの栽培と黒糖の生産法を学ばせた。帰国した部下から得た知識を元に砂糖生産を奨励し、やがて琉球の特産品となった。 |
|||
=== 純然たる舶来品 === |
|||
[[日本]]には[[奈良時代]]に[[鑑真]]によって伝えられたとされている。中国においては[[唐]]の[[李世民|太宗]]の時代に西方から[[精糖]]技術が伝来されたことにより、持ち運びが簡便になったためとも言われている。当初は[[輸入]]でしかもたらされない貴重品であり[[医薬品]]として扱われていた。精糖技術が伝播する以前の中国では、砂糖はシロップ状の糖蜜の形で使用されていた。 |
|||
江戸時代には海外からの主要な輸入品のひとつに砂糖があげられるようになり、[[オランダ]]や中国の貿易船が[[バラスト]]代わりの底荷として大量の砂糖を[[出島]]に持ち込んだ。このころ日本からは大量の[[金]]・[[銀]]が産出されており、その経済力をバックに砂糖は高値で輸入され、大量の砂糖供給は、砂糖を使った[[和菓子]]の発達をもたらした。 |
|||
[[平安時代]]後期には[[本草和名]]に見られるようにある程度製糖の知識も普及し、お菓子や[[贈り物|贈答品]]の一種として扱われるようにもなっていた。[[室町時代]]には幾つもの文献に砂糖羊羹、砂糖饅頭、砂糖飴、砂糖餅といった砂糖を使った和菓子が見られるようになってくる。名に「砂糖」と付くことからも、[[調味料]]としての砂糖は当時としては珍しい物だということがわかる<ref>{{Cite book|和書|author=鈴木晋一 |title=たべもの噺 |publisher=平凡社 |date=1986 |pages=159-162 |isbn=4582828132 }}</ref>。[[狂言]]『[[附子]]』の中でも珍重されている。[[日明貿易]]も[[海禁]]政策の影響を免れなかったということになる。 |
|||
しかし17世紀後半には金銀は枯渇し、金銀流出の原因のひとつとなっていた砂糖輸入を減らすために、[[江戸幕府]]の[[征夷大将軍|将軍]][[徳川吉宗]]が[[琉球王国|琉球]]からサトウキビをとりよせて[[江戸城]]内で栽培させ、サトウキビの栽培を奨励して砂糖の国産化をもくろんだ。また、殖産興業を目指す各藩も価格の高い砂糖に着目し、自領内で栽培を奨励した。 |
|||
<!--[[画像:Kompeito konpeito.JPG|thumb|right|280px|[[金平糖]]。戦国時代に宣教師によって持ち込まれた砂糖菓子のひとつである]]--> |
|||
やがて[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]に[[南蛮貿易]]が開始されると宣教師たちによって[[金平糖]]などの砂糖菓子がもちこまれ、さらにアジアから砂糖の輸入がさかんになり(やがて[[オランダ]]が中継する)、徐々に砂糖の消費量は増大していく。 |
|||
特に[[高松藩]]主[[松平頼恭]]がサトウキビ栽培を奨励し、天保期には国産白砂糖流通量の6割を占めるまでになった。また、高松藩はこのころ[[和三盆]]の開発に成功し、高級砂糖として現在でも製造されている。こうした動きによって[[19世紀]]にはいると砂糖のかなりは日本国内でまかなえるようになった。 |
|||
世界の歴史では[[オランダ領東インド]]の砂糖プランテーションに触れなかったが、それは日本の砂糖事情と密接に関係している。 |
|||
[[天保]]元年から3年([[1830年]]から[[1832年]])には、[[大坂]]での取引量は輸入糖430万斤と国産糖2320万斤、あわせて2750万斤(1万6500トン)となり、さらに幕末の慶応元年([[1865年]])にはその2倍となっていた<ref>{{Cite book|和書|title=ヴィジュアル日本生活史 江戸の料理と食生活 |page=103 |author=原田信男編著|authorlink=原田信男 |publisher=小学館 |year=2004=06-20 |edition=第1版第1刷 |isbn=4096261300 }}</ref>。 |
|||
=== 国産化の試み === |
|||
江戸時代初期、[[薩摩藩]]支配下の[[琉球王国]]では[[1623年]]に[[儀間真常]]が部下を[[明]]の[[福州]]に派遣してサトウキビの栽培と黒糖の生産法を学ばせた。帰国した部下から得た知識を元に砂糖生産を奨励し、やがて琉球の特産品となった。 |
|||
江戸時代には海外からの主要な輸入品のひとつに砂糖があげられるようになり、[[オランダ]]や中国の貿易船が[[バラスト]]代わりの底荷として大量の砂糖を[[出島]]に持ち込んだ。このころ日本からは大量の[[金]]・[[銀]]が産出されており、その経済力をバックに砂糖は高値で輸入され、大量の砂糖供給は砂糖を使った[[和菓子]]の発達をもたらした。しかし17世紀後半には金銀は枯渇し、金銀流出の原因のひとつとなっていた砂糖輸入を減らすために[[江戸時代]]の[[征夷大将軍|将軍]][[徳川吉宗]]が[[琉球]]からサトウキビをとりよせて[[江戸城]]内で栽培させ、サトウキビの栽培を奨励して砂糖の国産化をもくろんだ。また、殖産興業を目指す各藩も価格の高い砂糖に着目し、自領内で栽培を奨励した。とくに[[高松藩]]主[[松平頼恭]]がサトウキビ栽培を奨励し、天保期には国産白砂糖流通量の6割を占めるまでになった。また、高松藩はこのころ[[和三盆]]の開発に成功し、高級砂糖として現在でも製造されている。こうした動きによって[[19世紀]]にはいると砂糖のかなりは日本国内でまかなえるようになった。[[天保]]元年から3年([[1830年]]から[[1832年]])には、[[大坂]]での取引量は輸入糖430万斤と国産糖2320万斤、あわせて2750万斤(1万6500トン)となり、さらに幕末の慶応元年([[1865年]])にはその2倍となっていた<ref>{{Cite book|和書|title=ヴィジュアル日本生活史 江戸の料理と食生活 |page=103 |author=[[原田信男]]編著 |publisher=小学館 |year=2004=06-20 |edition=第1版第1刷 |isbn=4096261300 }}</ref>。一方、このころ大阪の[[儒者]]である[[中井履軒]]は著書「老婆心」の中で砂糖の害を述べ、砂糖亡国論を唱えた<ref>{{Cite book|和書|title=飲食事典 |author=本山荻舟 |publisher=平凡社 |page=241 |date=1956-12-25 |ncid=BN01765836 |isbn=458210701X}}</ref>。また幕府も[[文政]]元年(1818年)にサトウキビの作付け制限を布告したが、実効は上がらず砂糖生産は増え続けた。江戸時代、国内の砂糖の流通は[[砂糖問屋]]が行っていた。 |
|||
一方、このころ[[大坂]]の[[儒者]]である[[中井履軒]]は、著書『老婆心』の中で砂糖の害を述べ、砂糖亡国論を唱えた<ref>{{Cite book|和書|title=飲食事典 |author=本山荻舟 |publisher=平凡社 |page=241 |date=1956-12-25 |ncid=BN01765836 |isbn=458210701X}}</ref>。また江戸幕府も[[文政]]元年(1818年)に、サトウキビの作付け制限を布告したが、実効は上がらず砂糖生産は増え続けた。江戸時代、砂糖の流通は[[砂糖問屋]]が行っていたが、幕府崩壊とともに独占体制が崩れ、[[明治]]時代には自由な流通が行われることとなった。 |
|||
=== 自給率の向上 === |
|||
[[天保の改革]]にあたり[[薩摩藩]]は[[奄美大島|大島]]・[[喜界島]]・[[徳之島]]の三島砂糖買入れ制度を実施した。 |
|||
=== 明治時代初期、鹿児島県徳之島における砂糖製造 === |
|||
[[明治時代]]初期、鹿児島県[[徳之島]]における砂糖製造は下の図に示す手順で行われた。 |
[[明治時代]]初期、鹿児島県[[徳之島]]における砂糖製造は下の図に示す手順で行われた。 |
||
<gallery> |
<gallery> |
||
ファイル:德之島事情6.jpg|サトウキビを刈り取る |
|||
ファイル:德之島事情7.jpg|牛や人力で運ぶ |
|||
ファイル:德之島事情8.jpg|専用の圧搾機「[[砂糖車]]」で汁を搾る |
|||
ファイル:德之島事情10.jpg|3つの釜に分けて煮立て、[[黒糖]]に加工する |
|||
ファイル:德之島事情11.jpg|[[樽]]に詰めて出荷する |
|||
</gallery> |
</gallery> |
||
[[File:Statue of Haruji Matsue.JPG|thumb|200px|サイパン島の[[砂糖王公園]]に現存する[[松江春次]]像]] |
|||
=== 明治以後 === |
|||
明治時代中期、[[大日本製糖]]などの[[独占]]的な企業体も現われた。これには次のような政治背景がある。 |
|||
[[File:Statue of Haruji Matsue.JPG|thumb|200px|サイパン島の[[砂糖王公園]]に現存する[[松江春次]]像]] |
|||
[[日清戦争]]の結果として[[台湾]]が日本領となると、[[台湾総督府]]は糖業を中心とした開発を行った。また[[第一次世界大戦]]の結果、日本の[[委任統治]]領となった[[南洋諸島]]のうち、[[マリアナ諸島]]の[[サイパン島]]、[[テニアン島]]、[[ロタ島]]でも[[南洋興発]]による大規模なサトウキビ栽培が始まった。これにともなって日本には大量の砂糖が供給されることとなったが、沖縄を除く日本本土ではサトウキビの生産が衰退した。しかし台湾や南洋諸島での増産によって生産量は増大しつづけ、[[昭和]]に入ると砂糖の自給をほぼ達成した。一方、北海道においては明治初期にテンサイの生産が試みられたが一度失敗し、昭和期に入ってやっと商業ベースに乗るようになった。 |
[[日清戦争]]の結果として[[台湾]]が日本領となると、[[台湾総督府]]は糖業を中心とした開発を行った。また[[第一次世界大戦]]の結果、日本の[[委任統治]]領となった[[南洋諸島]]のうち、[[マリアナ諸島]]の[[サイパン島]]、[[テニアン島]]、[[ロタ島]]でも[[南洋興発]]による大規模なサトウキビ栽培が始まった。これにともなって日本には大量の砂糖が供給されることとなったが、沖縄を除く日本本土ではサトウキビの生産が衰退した。しかし台湾や南洋諸島での増産によって生産量は増大しつづけ、[[昭和]]に入ると砂糖の自給をほぼ達成した。一方、北海道においては明治初期にテンサイの生産が試みられたが一度失敗し、昭和期に入ってやっと商業ベースに乗るようになった。 |
||
この砂糖生産の拡大と生活水準の向上によって砂糖の消費量も増大し、[[1939年]]には一人当たり砂糖消費量が16.28kgと戦前の最高値に達し、[[2010年]]の消費量(16.4kg)とほぼ変わらないところまで消費が伸びていた{{Sfn|橋本仁・高田明和|2006|p=6}} |
この砂糖生産の拡大と生活水準の向上によって砂糖の消費量も増大し、[[1939年]]には一人当たり砂糖消費量が16.28kgと戦前の最高値に達し、[[2010年]]の消費量(16.4kg)とほぼ変わらないところまで消費が伸びていた{{Sfn|橋本仁・高田明和|2006|p=6}}。 |
||
戦時色が強くなった1939年には[[公定価格]]の設定対象になり、増税の上で卸売価格と小売価格が凍結された<ref>砂糖、ビールなどに公定価格(昭和14年3月31日 東京朝日新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p153 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年</ref>。 |
|||
1976年[[オイルショック]]という国際環境で[[日豪砂糖交渉]]が行われ、新しい太平洋問題として現出した。 |
|||
また、1940年に生活物資の[[配給 (物資)|配給制]]が導入されると、砂糖は[[マッチ]]とならんでいち早く対象となった<ref>砂糖、マッチの切符を配布、津お経(昭和15年5月26日 東京日日新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p117 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年</ref>。その後、[[第二次世界大戦]]の戦況の悪化にともない、砂糖の消費量は激減し、1945年の[[日本の降伏|敗戦]]によって、砂糖生産の中心地であった台湾や南洋諸島を失ったことで、砂糖の生産流通は一時大打撃を受け、[[1946年]]の一人あたり消費量は0.20kgまで落ち込んだ。その後[[1952年]]に、砂糖の[[配給 (物資)|配給]]が終了して生産が復活し、日本の経済復興とともに再び潤沢に砂糖が供給されるようになった。 |
|||
== 生産と消費 == |
== 生産と消費 == |
||
{| class="wikitable" style="float:right" |
{| class="wikitable" style="float:right" |
||
|+ 砂糖の総生産量(2003年)<ref>Quelle: [[ハンデルスブラット|Handelsblatt]] |
|+ 砂糖の総生産量(2003年)<ref>Quelle: [[ハンデルスブラット|Handelsblatt]] - "Die Welt in Zahlen." 2005</ref> |
||
|- |
|- |
||
! 順位 |
! 順位 |
||
193行目: | 212行目: | ||
[[画像:Sugar production vs consumption of principal countries 2015.png|360px|thumb|主要生産国と主要消費国における砂糖'''生産'''と'''消費'''の比較。2015年。単位は千トン。(輸出入比較ではない)<ref name=usda></ref>]] |
[[画像:Sugar production vs consumption of principal countries 2015.png|360px|thumb|主要生産国と主要消費国における砂糖'''生産'''と'''消費'''の比較。2015年。単位は千トン。(輸出入比較ではない)<ref name=usda></ref>]] |
||
=== 世界 === |
=== 世界 === |
||
砂糖の生産量は増加しており、1980年代には年1億トン前後であったものが2000年代には年1.4-1.5億トン程度になっている<ref>[[独立行政法人]][[農畜産業振興機構]]「砂糖類情報」[http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/e_1_01.htm 世界砂糖需給バランス]</ref>。全生産量のうち約30%が[[貿易]]で取引される。生産量の内訳は、サトウキビによるものが約70%、テンサイによるものが約30%である<ref>同 [http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/e_1_07.htm 主要国の砂糖の生産量]の主要国生産量より算出</ref>。サトウキビからの砂糖の主要[[生産国]]は、[[ブラジル]]・[[インド]]・[[中華人民共和国|中国]]であるが、ブラジルは中国の約3倍の生産量、インドは中国の約2倍の生産量である<ref>上記資料「3e主要国の砂糖の生産量」より、2000年10月-2005年9月の5年間平均値を算出</ref>。テンサイからの砂糖の主要生産国は、[[欧州連合|EU]]各国([[ドイツ]]・[[フランス]]他)、[[アメリカ合衆国]]、[[ロシア]]である。 |
|||
日本軍がフィリピン糖業を破壊すると、キューバの生産量は1939年の300万トンから1947年の650万トンにまで増加した。1948年フィリピンからの輸出が再開されるとアメリカで新たな砂糖法が施行され、キューバが再び減産を強いられた<ref name=mieko />。1953年、新たな国際砂糖協定が生産割当を策定した。1968年から欧州域内で生産調整する砂糖クオータ制度がスタートした。EUとアメリカの貿易摩擦により、この制度は1981年から欧州の補助金付き対米輸出を裏づけるものとして機能するようになった。 |
|||
一方、輸出国は主要生産国とは異なっている。これは、主要生産国のかなりが生産量は多いものの国内需要を満たすことができないことによる。世界最大の輸出国はブラジルであり、[[2008年]]には2025万トン、世界の総輸出量の59.6%を占め、圧倒的なシェアを持っている。次いで[[タイ王国|タイ]]が510万トン(15.0%)、[[オーストラリア]]が389万トン(11.5%)、[[グアテマラ]]が159万トン(4.7%)、[[南アフリカ]]が80万トン(2.4%)と続く<ref>[http://sugar.alic.go.jp/japan/shiten/shiten1002a.htm 世界砂糖市場の最近の動向]農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧</ref>。 |
|||
砂糖の生産量は増加しており、1980年代には年1億トン前後であったものが2000年代には年1.4–1.5億トン程度になっている<ref>[[独立行政法人]][[農畜産業振興機構]]「砂糖類情報」[http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/e_1_01.htm 世界砂糖需給バランス]</ref>。全生産量のうち約30%が[[貿易]]で取引される。生産量の内訳は、サトウキビによるものが約70%、テンサイによるものが約30%である<ref>同 [http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/e_1_07.htm 主要国の砂糖の生産量]の主要国生産量より算出</ref>。サトウキビからの砂糖の主要[[生産国]]は、[[ブラジル]]・[[インド]]・[[中華人民共和国|中国]]などであるが、ブラジルは中国の約3倍の生産量、インドは中国の約2倍の生産量である<ref>上記資料「3e主要国の砂糖の生産量」より、2000年10月–2005年9月の5年間平均値を算出</ref>。テンサイからの砂糖の主要生産国は、[[欧州連合|EU]]各国([[ドイツ]]・[[フランス]]他)、[[アメリカ合衆国]]、[[ロシア]]である。 |
|||
砂糖はさまざまな工業製品の原料として利用されている。[[オリゴ糖]]や[[パラチノース]]、[[食品添加物]]([[乳化剤]])の[[ショ糖脂肪酸エステル]]は砂糖を原料として製造されており<ref>「現代糖業技術史-第二次大戦終了以後- 精製糖編」pp117-140 社団法人糖業協会編 丸善プラネット 2006年2月20日初版発行</ref>、着色料としてのカラメルも砂糖を原料とする。また、[[ポリウレタン]]や[[ポリエステル]]、[[プラスチック]]の原料としても利用されている<ref>[http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_9909b.htm 砂糖は甘いだけのものではない─化学工業原料としての砂糖]農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧</ref>。近年では[[石油]]に代わる燃料として[[バイオエタノール]]が注目された。そこでサトウキビやテンサイがバイオエタノールの製造に多く使用された。糖分を多く含む可食部分を醸造原料に使う限りエタノールは食料と競合するため、[[2007年-2008年の世界食料価格危機]]の主因となった。なお、バイオエタノール製造に不可欠なのは糖分であって、サトウキビやテンサイ由来でなくてもよい。 |
|||
一方、輸出国は主要生産国とは異なっている。これは、主要生産国のかなりが生産量は多いものの国内需要を満たすことができないことによる。世界最大の輸出国はブラジルであり、[[2008年]]には2025万トン、世界の総輸出量の59.6%を占め、圧倒的なシェアを持っている。次いで[[タイ王国|タイ]]が510万トン(15.0%)、[[オーストラリア]]が389万トン(11.5%)、[[グアテマラ]]が159万トン(4.7%)、[[南アフリカ]]が80万トン(2.4%)と続く<ref>[http://sugar.alic.go.jp/japan/shiten/shiten1002a.htm 世界砂糖市場の最近の動向]農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧</ref>。 |
|||
砂糖はさまざまな工業製品の原料として利用されている。[[オリゴ糖]]や[[パラチノース]]、[[食品添加物]]([[乳化剤]])の[[ショ糖脂肪酸エステル]]は砂糖を原料として製造されており<ref>「現代糖業技術史-第二次大戦終了以後- 精製糖編」pp117-140 社団法人糖業協会編 丸善プラネット 2006年2月20日初版発行</ref>、着色料としてのカラメルも砂糖を原料とする。また、[[ポリウレタン]]や[[ポリエステル]]、[[プラスチック]]の原料としても利用されている<ref>[http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_9909b.htm 砂糖は甘いだけのものではない─化学工業原料としての砂糖]農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧</ref>。近年では[[石油]]に代わる燃料として[[バイオエタノール]]が注目された。そこでサトウキビやテンサイがバイオエタノールの製造に多く使用された。糖分を多く含む可食部分を醸造原料に使う限りエタノールは食料と競合するため、[[2007年-2008年の世界食料価格危機]]の主因となった。なお、バイオエタノール製造に不可欠なのは糖分であって、サトウキビやテンサイ由来でなくてもよい。 |
|||
=== 日本 === |
=== 日本 === |
||
砂糖の日本国内消費・生産は、 |
砂糖の日本国内消費・生産は、1995-2004年度の10年間平均値(1995年10月-2005年9月)では、国内総需要は年230万トン(国産36%:輸入64%)、国産量は年83万トン(テンサイ約80%:サトウキビ約20%)である<ref>同 - [http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/j_1_01.htm 砂糖および異性化糖の需給総括表]</ref>。年毎の動向を見ると、総消費量は、[[1985年]]には一人当たり21.9kgだったものが、[[2010年]]には16.4kgと大きく減少してきたが<ref>独立行政法人農畜産業振興機構「砂糖類情報」 - [http://sugar.alic.go.jp/japan/data/j_html/j_1_01.htm 砂糖および異性化糖の需給総括表]</ref>、ここ数年は下げ止まっている状態である。 |
||
日本で販売されている砂糖 |
日本で販売されている砂糖は、[[賞味期限]]が記載されていない。理由は[[食品衛生法]]や[[農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律|JAS法]]で、砂糖は長期保存可能食品のため、表記を免除されているからである<ref>[http://www.maruha.co.jp/products/pro10800.html マルハの例]</ref><ref>[http://www.fnsugar.co.jp/guide/sugar/qanda_2.html フジ日本精糖の例]</ref>。一部のメーカーでは、代表的な長期保存の可能な食品である[[缶詰]]の賞味期限に倣う形で、製造後3年に設定していたことがあった<ref>[http://www.nurs.or.jp/~lionfan/omoshiroi_108.html 日新製糖の例]</ref>。<!--精製された結晶としては以上の通りである。しかし、他の成分を追加した調味料の例を引き、それらにおける賞味期限の内部的な目安が3年程度とされる<ref>[http://d.hatena.ne.jp/Fujiwarakoyuki/20070521 旧武田食品(現ハウスウェルネスフーズ)の製品「タケシオ」について問い合わせた回答内容]</ref>ことから、化学的根拠は不明だが、事実上の賞味期限(メーカーが[[品質]]を保証できる期間)は3年から5年程度と考える者もいるようである。-->長い賞味期限は在庫を膨張させている。 |
||
南北に長い日本列島はサトウキビの栽培に適した亜熱帯とテンサイ |
南北に長い[[日本列島]]は、サトウキビの栽培に適した亜熱帯とテンサイ栽培に適した冷帯の両方が存在する。国産量は微増傾向にあるが、それはテンサイ糖の増加によるもので、サトウキビ糖は微減傾向にある。サトウキビの生産地は[[沖縄県]]や[[鹿児島県]]で、戦前は他に台湾とマリアナ諸島で砂糖が大量に生産されていた。テンサイの生産地は[[北海道]]である。 |
||
サトウキビの主たる生産地は[[沖縄県]]や[[鹿児島県]]で、戦前は他に台湾とマリアナ諸島で砂糖が大量に生産されていた。テンサイの生産地は主に[[北海道]]である。 |
|||
日本の輸入はタイが約4割、オーストラリアが約4割、南アフリカが約1割をそれぞれ占め、この3カ国で9割以上の輸入をまかなっている。 |
日本の砂糖輸入は、タイ王国が約4割、オーストラリアが約4割、南アフリカが約1割をそれぞれ占め、この3カ国で9割以上の輸入をまかなっている。 |
||
<!-- 上記の参考資料各ページでは、データの無断転載を禁じているのでご注意下さい --><br> |
<!-- 上記の参考資料各ページでは、データの無断転載を禁じているのでご注意下さい --><br> |
||
主要国の国民1人1日当りの砂糖消費量(g)は以下のようである。日本は先進国の中では、非常に少ない方である<ref>[http://sugar.alic.go.jp/japan/data/wj-(9).pdf 需給関係資料2014年] |
主要国の2014年国民1人1日当りの砂糖消費量(g)は以下のようである。日本は先進国の中では、非常に少ない方である<ref>{{PDFlink|[http://sugar.alic.go.jp/japan/data/wj-(9).pdf 需給関係資料2014年]}} 農畜産振興機構</ref><ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0442.html 甘いもの好きの国際比較] 社会実情データ図録</ref><ref>[http://www.keepeek.com/Digital-Asset-Management/oecd/agriculture-and-food/oecd-fao-agricultural-outlook-2014_agr_outlook-2014-en#page1 OECD-FAO] OECD-FAO Agricultural Outlook 2014 p287</ref>。 |
||
{| |
{| |
||
291行目: | 307行目: | ||
| rowspan="16" | 原料糖(粗糖) |
| rowspan="16" | 原料糖(粗糖) |
||
| rowspan="11" | 精製糖 |
| rowspan="11" | 精製糖 |
||
| rowspan="4" | |
| rowspan="4" | ザラメ糖 |
||
|- |
|- |
||
| |
| グラニュー糖 |
||
| 99.95 || 0.01 > || 0.01 > || 0.01 > |
|||
|- |
|||
| 白双糖 |
|||
| 99.95 || 0.01 > || 0.01 > || 0.02 |
| 99.95 || 0.01 > || 0.01 > || 0.02 |
||
|- |
|- |
||
| 中 |
| 中双糖 |
||
| 99.70 || 0.05 || 0.03 || 0.03 |
| 99.70 || 0.05 || 0.03 || 0.03 |
||
|- |
|- |
||
| |
| rowspan="4" | 車糖 |
||
| 99.95 || 0.01 > || 0.01 > || 0.01 > |
|||
|- |
|||
| rowspan="4" | くるま糖 |
|||
|- |
|- |
||
| 上白糖 || 97.80 || 1.30 || 0.02 || 0.80 |
| 上白糖 || 97.80 || 1.30 || 0.02 || 0.80 |
||
337行目: | 353行目: | ||
※ 三木健(1994)、「砂糖の種類と特性」<ref>三木健、「[https://doi.org/10.11541/jag1994.41.343 砂糖の種類と特性]」 『応用糖質科学』 1994年 41巻 3号 p.343-350, {{doi|10.11541/jag1994.41.343}}</ref>より引用し改変 |
※ 三木健(1994)、「砂糖の種類と特性」<ref>三木健、「[https://doi.org/10.11541/jag1994.41.343 砂糖の種類と特性]」 『応用糖質科学』 1994年 41巻 3号 p.343-350, {{doi|10.11541/jag1994.41.343}}</ref>より引用し改変 |
||
砂糖は、製造法によって(A)含蜜糖と(B)分蜜糖とに大きく分けられる。(A)含蜜糖は糖蜜を分離せずにそのまま結晶化したもので、[[黒砂糖]]・白下糖・[[カソナード]](赤砂糖)・[[和三盆]]・ソルガム糖、[[メープルシュガー]] |
砂糖は、製造法によって(A)含蜜糖と(B)分蜜糖とに大きく分けられる。(A)含蜜糖は糖蜜を分離せずにそのまま結晶化したもので、[[黒砂糖]]・白下糖・[[カソナード]](赤砂糖)・[[和三盆]]・ソルガム糖、[[メープルシュガー]]がこれに当たる。[[糖蜜]]を分離していないため原料本来の風味が残るのが特徴である。ほとんどの精糖原料から作ることができるが、テンサイから砂糖を作る場合は高度な精製が必要なため、含蜜糖の製造は一般的ではない(不可能という訳ではない)。 |
||
これに対し(B)分蜜糖は、文字通り糖蜜を分離し糖分のみを精製したもので |
これに対し(B)分蜜糖は、文字通り糖蜜を分離し糖分のみを精製したもので、一般的に使用される砂糖である。まず原料からある程度の精製を行い、[[粗糖]]を作成する。粗糖は精製糖の原料であり、不純物も多くそのままでは食用に適さない。このため、生産地の近くでまず一次精製を行って粗糖を作成した後、[[貨物船]]に積み、消費地の近くで二次精製を行って、商品として流通する精製糖が作られる。しかし、生産地で粗糖を経由せず直接製造する耕地白糖や、粗糖工場に精製工場を併設して産地で精製した最終製品まで製造する耕地精糖といった種類も存在する。 |
||
[[File:Kandiszucker weiß.jpg|thumb|250px|氷砂糖]] |
[[File:Kandiszucker weiß.jpg|thumb|250px|氷砂糖]] |
||
精製糖は、大きくザラメ糖・車糖・加工糖・液糖の4つに分類される。ザラメ糖はハードシュガーとも呼ばれ、結晶が大きく乾いてさらさらした砂糖であり、[[ |
精製糖は、大きくザラメ糖・車糖・加工糖・液糖の4つに分類される。ザラメ糖はハードシュガーとも呼ばれ、結晶が大きく乾いてさらさらした砂糖であり、[[グラニュー糖]]・[[白双糖]](しろざらとう)・[[中双糖]](ちゅうざらとう)がこれに属する。なお、一般的には白双糖と中双糖を指してザラメという。白双糖を白ザラメ、中双糖を黄ザラメともいう。一方、車糖はソフトシュガーとも呼ばれ、結晶が小さくしっとりとした手触りのある砂糖で、[[上白糖]]・[[三温糖]]がこれに属する。液糖はその名の通り、液体の砂糖である。また、ザラメ糖を原料として、[[角砂糖]]・[[氷砂糖]]・[[粉砂糖]]・顆粒状糖の加工糖が製造される。 |
||
日本においては最も一般的な砂糖は上白糖であり、日本での消費の半分以上を占める<ref>伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』p115 八坂書房 2008年 ISBN 9784896949223 |
日本においては最も一般的な砂糖は上白糖であり、日本での消費の半分以上を占める<ref>伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』p115 八坂書房 2008年 ISBN 9784896949223</ref>が、上白糖は日本独自のもので、製造・消費されるのも日本であり、ヨーロッパやアメリカ合衆国では、ほとんど使われない{{sfn|橋本仁・高田明和|2006|p=72}}。世界では「砂糖」といえば『グラニュー糖』を指す。 |
||
</ref>が、上白糖は日本独自のもので、製造・消費されるのも主に日本であり、ヨーロッパやアメリカではほとんど使われない{{sfn|橋本仁・高田明和|2006|p=72}}。世界的には一般に砂糖といえばグラニュー糖を指す。 |
|||
1970年代後半には、クロマトグラフィー果糖濃縮技術の出現で[[異性化糖]](高果糖コーンシロップ、HFCS)の大量生産を可能とした<ref name="pmid15699220">{{cite journal |authors=Cordain L, [[:en:Stanley Boyd Eaton|Eaton SB]], Sebastian A, et al. |title=Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=81 |issue=2 |pages= |
1970年代後半には、クロマトグラフィー果糖濃縮技術の出現で、[[異性化糖]](高果糖コーンシロップ、HFCS)の大量生産を可能とした<ref name="pmid15699220">{{cite journal |authors=Cordain L, [[:en:Stanley Boyd Eaton|Eaton SB]], Sebastian A, et al. |title=Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=81 |issue=2 |pages=341-54 |year=2005 |pmid=15699220 |doi= |url=http://ajcn.nutrition.org/content/81/2/341.long}}</ref>。異性化糖の消費が増加し、砂糖の消費を減少させた<ref name="pmid15699220"/>。 |
||
== 調理上の特性 == |
== 調理上の特性 == |
||
砂糖は単に食品に甘味をつけるためだけではなく、食品にさまざまな効果を与えるためにも利用される<ref>[https://daitoseito.com/?mode=f4 砂糖ラボ➚大東製糖 公式ネットショップ]</ref>。 |
砂糖は単に食品に甘味をつけるためだけではなく、食品にさまざまな効果を与えるためにも利用される<ref>[https://daitoseito.com/?mode=f4 砂糖ラボ➚大東製糖 公式ネットショップ]{{要検証|=|date=2020年3月}}</ref>。 |
||
* [[タンパク質]]の熱凝固抑制-卵焼きやプリンが柔らかく仕上がる |
* [[タンパク質]]の熱凝固抑制-卵焼きやプリンが柔らかく仕上がる |
||
*乾燥防止-焼き菓子の乾燥を防ぐ |
* 乾燥防止-焼き菓子の乾燥を防ぐ |
||
* ペクチンのゲル化-果物の[[ペクチン]]を[[ゲル化]]させかつ[[水分活性]]を抑えることで日持ちのする[[ジャム]]にする。 |
* ペクチンのゲル化-果物の[[ペクチン]]を[[ゲル化]]させかつ[[水分活性]]を抑えることで日持ちのする[[ジャム]]にする。 |
||
* デンプンの老化抑制-[[デンプン]]の老化を抑制して菓子を柔らかく保つ。 |
|||
* デンプンの老化抑制-[[デンプン]]の老化を抑制して餅菓子などを柔らかく保つ。 |
|||
* 油脂の酸化抑制 |
* 油脂の酸化抑制 |
||
* [[イースト菌]]の発酵促進 |
* [[イースト菌]]の発酵促進 |
||
363行目: | 376行目: | ||
: [[アミノ酸]]との[[メイラード反応]]によって食品によい色と香りを与える。 |
: [[アミノ酸]]との[[メイラード反応]]によって食品によい色と香りを与える。 |
||
* 防腐 |
* 防腐 |
||
: 砂糖漬け、あんこ |
: 砂糖漬け、あんこ、果実ジャム。 |
||
[[日本料理]]においては料理の[[さしすせそ (調味料)|さしすせそ]]の一つに数えられ |
[[日本料理]]においては、「料理の[[さしすせそ (調味料)|さしすせそ]]」の一つに数えられ、中心的な調味料の一つとなっている。これは、[[醤油]]、塩、砂糖による組み合わせを基本とする料理が多いことによる。一方、[[西洋料理]]や[[中華料理]]においては、砂糖を大量に使う料理のほうが少ない。 |
||
== 食品に含まれる砂糖 == |
== 食品に含まれる砂糖 == |
||
国立健康・栄養研究所によれば、飲料に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>[ |
国立健康・栄養研究所によれば、飲料に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0326-10l-002.pdf 自分の飲んでいる飲み物からとる糖分の目安]}} 国立健康・栄養研究所</ref><ref>{{PDFlink|[http://www.toshiba.co.jp/hospital/education/diabetic/pdf/drink_todo_2.pdf 清涼飲料水・酒類の糖度とブドウ糖含有量]}} 東芝病院の糖尿病委員会</ref> |
||
: ヤクルト‥‥‥‥‥‥砂糖 12g |
|||
: コーヒー飲料(小)‥‥砂糖 18g |
|||
: サイダー缶‥‥‥‥‥砂糖 36g |
|||
: 炭酸飲料(コーラ)‥‥砂糖 42g |
|||
文部科学省によれば、菓子類に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>[ |
文部科学省によれば、菓子類に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>[https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/attach/1299202.htm 日本食品標準成分表] 文部科学省「日本食品標準成分表2010について第3章の15」(菓子類)</ref> |
||
: どらやき‥‥‥‥‥‥可食部100gに、砂糖38g |
|||
: きんつば‥‥‥‥‥‥可食部100gに、砂糖40g |
|||
: 練りようかん‥‥‥‥可食部100gに、砂糖56g |
|||
: シュークリーム‥‥‥可食部100gに、砂糖15g |
|||
: ショートケーキ‥‥‥可食部100gに、砂糖23g |
|||
英国政府によれば、食品に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>[http://www.nhs.uk/livewell/goodfood/pages/top-sources-of-added-sugar-in-our-diet.aspx 我々の食品に含まれる『加えられた砂糖』の源] |
英国政府によれば、食品に含まれる砂糖の量は、次のようである。<ref>[http://www.nhs.uk/livewell/goodfood/pages/top-sources-of-added-sugar-in-our-diet.aspx 我々の食品に含まれる『加えられた砂糖』の源] 英国政府NHS(国民保健サービス)</ref> |
||
: プレーン・チョコレート‥100gに、砂糖62g |
|||
: フルーツ・ヨーグルト‥‥100gに、砂糖17g |
|||
: トマト・ケチャップ‥‥‥100gに、砂糖28g |
|||
== 生理的作用 == |
|||
料理にも砂糖は含まれる。ただし、レシピごとに異なる。次の数字は一例である。なお、みりん大さじ1杯は、酒大さじ1杯と砂糖小さじ1杯で代用できる。<br> |
|||
{{Main|スクロース}} |
|||
酢豚‥‥‥‥‥‥‥‥1人前に、砂糖5g<br> |
|||
砂糖の主成分はスクロース(ショ糖)である。液糖はショ糖を主成分とするショ糖型液糖と、ショ糖だけではなくブドウ糖と果糖を含む転化型液糖に分類される<ref name="日本食品標準成分表2020"> |
|||
カツどん‥‥‥‥‥‥1人前に、砂糖7g<br> |
|||
{{Cite report|和書 |
|||
寿司ご飯‥‥‥‥‥‥1合のお米を炊いて、砂糖10gを加える<br> |
|||
| author = 文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 |
|||
ラーメンのツユ‥‥‥1人前に、砂糖3g |
|||
| title = 日本食品標準成分表2020年版(八訂) |
|||
| date = 2020-02-01 |
|||
| url = https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html |
|||
}}</ref>。ショ糖は消化の過程でブドウ糖と果糖に分解されて吸収される<ref name = "食事中の蔗糖含有量が2型糖尿病患者の食後血糖値に及ぼす影響">{{Cite journal|和書 |
|||
| author = 秋山 有代 |
|||
| author2 = 元島 洋子 |
|||
| author3 = 竹内 恭子 |
|||
| author4 = 徳永 貢 |
|||
| author5 = 土田 温子 |
|||
| author6 = 保阪 大也 |
|||
| author7 = 矢澤 麻佐子 |
|||
| author8 = 松田 彰 |
|||
| author9 = 大村 栄治 |
|||
| author10 = 今井 康雄 |
|||
| author11 = 河津 捷二 |
|||
| title = 食事中の蔗糖含有量が2型糖尿病患者の食後血糖値に及ぼす影響 |
|||
| journal = 糖尿病 |
|||
| publisher = 一般社団法人 日本糖尿病学会 |
|||
| volume = 49 |
|||
| issue = 5 |
|||
| pages = 355-360 |
|||
| date = 2006年 |
|||
| doi = 10.11213/tonyobyo.49.355 |
|||
| access-date = 2024-01-26 |
|||
}}</ref>。 |
|||
== 健康 |
== 砂糖と健康 == |
||
{{医学の情報源|date=2024年1月}} |
|||
[[ヒト]]の[[胃]]は1分間に約3回ほどのペースで動いているが、胃内に糖が入ると胃の動きが止まることが[[東京大学]]での実証試験で判明している。被験者に[[砂糖水]]を飲ませると数十秒間胃腸の動きが完全に静止し、逆に塩水を飲ませると胃腸の動きが急に活性化した。さらにはチューブで直接[[十二指腸]]へ糖分を流し込んだ実験でも胃の運動が停止した。量的には[[角砂糖]]の1/4-1/5個くらいで起こる。糖分は[[唾液]]、[[胃液]]、[[腸液]]などで5.4%等張液になり消化吸収されるため大量の糖分の摂取により1時間以上という長時間の停滞が起こるとされる。糖を飲ませると[[細胞]]の動きが緩慢になる反応を東京大学では糖反射と名付けたが、このメカニズムは未だ解明されていない。多すぎる糖の摂取は細胞にはいわば絶縁物質として作用し、[[神経]][[信号]]の伝達を阻害するのではないかと考えられている。また、糖分は[[カリウム]]の働きも加味され[[静脈]]の弛緩をもたらすとともに[[血液]]粘度を上げる。そのため血流の遅滞が起こり、[[組織]]や[[静脈]]に老廃物が蓄積することで様々な[[病気]]が発症することがある<ref name="komajo">[https://www.komajo.ac.jp/kin/topics/o-141201kenko.html 健康だより平成26年12月号「糖反射とは」駒澤女子短期大学付属こまざわ幼稚園]</ref><ref name="haisetsuno">[http://www.geocities.jp/tbcby865/haisetsuno-kagaku/shiryou/satou-ni-tsuite.htm 「砂糖」に付いて 排泄の科学より]</ref>。 |
|||
[[炭水化物]]は[[生理的熱量|エネルギー]]源として重要な役割を担っており、炭水化物が直接に特定の健康障害の原因となるとの報告は、[[2型糖尿病]]を除けば、理論的にも疫学的にも乏しいとしている。 |
|||
砂糖は多くの病気・疾患の原因になる食品として問題視されている。日本における古い例としては、日本に栄養学を創設した[[佐伯矩]]も、1930年の内務省衛生局『栄養と嗜好』にて「栄養研究の大いに進歩しているアメリカでは三白の禍として白パン・白砂糖・白い乳粉を憂いているが、わが国でも三白の禍ありて、それは白い米、白砂糖、白い味付けの粉がそれである」としており日米に重複しているのが砂糖であるし<ref>内務省衛生局『栄養と嗜好』1930年。15-16頁。</ref>、[[マクロビオティック]]の提唱者として有名な思想家[[桜沢如一]]が1939年に『砂糖の毒と肉食の害』を著している<ref>『[http://go-library.org/work/0032/ 砂糖の毒と肉食の害]』、{{全国書誌番号|46054726}}</ref>。1978年に、英国の生理学者[[ジョン・ユドキン]]は、「純白、この恐ろしきもの - 砂糖の問題点」という本を書いた。また砂糖は「[[毒]]」であるとして、[[ロバート・ラスティグ]]ら米国の[[小児科]]医師たちが、健康への悪影響を挙げ、砂糖の害は[[たばこ]]や[[酒]]と共通しているとして、同じように税を課すべきである との指摘を英国の科学雑誌[[ネイチャー]]に発表した<ref>[http://accelerate.ucsf.edu/uploads/pilotawards/1331566366/the_toxic_truth_about_sugar.pdf The toxic truth about sugar] Nature 2012年2月2日、Vol 482, p27</ref>。またこの事に対し砂糖や飲料の業界団体が一斉に反論する事態となった<ref>[http://www.asahi.com/international/update/0206/TKY201202060147.html] 砂糖はたばこ・酒と同じ「毒」 課税提唱に米業界が反発 朝日新聞デジタル 2012年2月6日</ref>。砂糖を[[有害物質]]として規制すべきと一部の専門家たちが指摘している。砂糖は高カロリーで肥満をもたらすだけでなく、[[タバコ]]や[[アルコール]]などと同じ依存性があり、含有する成分の果糖が内分泌系に悪影響を与え、心臓病や心臓発作、2型糖尿病などを連鎖的に引き起こすリスクを高める。砂糖に関しては[[砂糖依存症]]が科学的に示されており、ほかの食品とは違った過剰摂取が起こる。 |
|||
糖類についてはその過剰摂取が[[肥満]]や[[う蝕|う歯]]の原因になることが知られている。加糖飲料の体重への影響を検討した報告や、糖類摂取量と糖尿病の関連についての検討も多く、それらの報告をまとめた[[メタアナリシス]]では、小児でも成人でも加糖飲料摂取量が多いほど体重も多く、また2型糖尿病発症率も高いことが示されている。米国成人を対象にした[[コホート研究]]では、体重増加はエネルギー摂取量の違いを介したものであったとしている。また、2型糖尿病の発症のメカニズムについてはエネルギー摂取量を介さない、別の代謝例路も関連すると考えられている。 |
|||
肥満、2型糖尿病、う歯のいずれについても、それを超えると発症が増える、あるいは減るといった糖類摂取量の明確なしきい値は報告されていない。 |
|||
報告されている日本人の糖類摂取量の平均値は低く、過半数の日本人では糖類摂取量が各国・組織で推奨されている値よりも低い可能性がある。[[日本人の食事摂取基準]](2025年版)ではこれらの理由から糖類に対する目標量の設定はされなかった。 |
|||
*ハーバード大学の研究者がアメリカの男女約12万人のデータを分析した結果では、砂糖の入った清涼飲料の消費が増えるほど心臓疾患による死亡リスクが高まり、乳がんと大腸がんのリスクも少し高まったことが分かった<ref name="飲めば飲むほど死亡リスク">{{Cite news |和書|title=加糖ジュース、「飲めば飲むほど死亡リスク高まる」米研究で |newspaper=ニューズウィーク日本版 |date=2019-3-29 |author=松丸さとみ |url=https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2019/03/post-155.php |accessdate=2019-04-06}}</ref>。がんでは増加はなく、人工甘味料では1日4杯以上に限り心臓疾患のリスクが高まった<ref name="飲めば飲むほど死亡リスク"/>。 |
|||
一方で、一部に糖類摂取量の非常に多い日本人も存在すること、炭水化物が多く甘味料や酒類に頼る食事は数多くの[[ビタミン]]類や[[ミネラル]]類の摂取不足を招きかねないと考えられており、その実態においては注意が必要である<ref name="食事摂取基準2025年版"> |
|||
* 過量の砂糖は脂肪肝を引き起こす。脂肪肝は、肝や骨格筋において、インスリン抵抗性を引き起こす。インスリン抵抗性が生じると、膵臓はインスリン産生を増やす。やがてインスリン産生を増やしても、効果が少なくなり、血糖をコントロールできなくなる。そうして糖尿病となる。高インスリン血症は、各種の臓器障害をもたらす。<ref>[http://www.nytimes.com/2011/04/17/magazine/mag-17Sugar-t.html?pagewanted=all&_r=0 Is Sugar Toxic?] The New York Times、2011年4月13日</ref><ref>[http://podcast.uctv.tv/webdocuments/Fructose-Epidemic.pdf The Fructose Epidemic] Robert H. Lustig</ref> |
|||
{{Cite report|和書 |
|||
| author = 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会 |
|||
| title = 日本人の食事摂取基準(2025年版) |
|||
| date = 2024-10-11 |
|||
| url = https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
|||
}}</ref>{{Rp|130-132}}。 |
|||
=== フードファディズム === |
|||
* 米国疾病予防センターCDCのYang博士は、「ほとんどの米国人は砂糖を摂りすぎている。砂糖を最も多く摂取する人では、最も少なく摂取する人に比べて、心臓病で死亡する人が2.75倍も多い」という調査結果を発表した<ref>[http://www.drperlmutter.com/wp-content/uploads/2014/02/Sugar-cv.pdf Added Sugar Intake and Cardiovascular Mortality Among US Adult] JAMA internal medicine 2014年2月3日 </ref><ref>[http://www.nhs.uk/news/2014/02February/Pages/Sugar-intake-linked-to-heart-disease-deaths.aspx Sugar intake linked to heart disease deaths] 英国政府のNHS(国民栄養サービス)の文書</ref>。[[虚血性心疾患]]に関しては[[アメリカ心臓協会]]の[[2006年]]の生活指針は、砂糖の多い食べものを減らすようにすすめている<ref name="aha2006">[http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=851 Our 2006 Diet and Lifestyle Recommendations] (AHA - American Heart Association)</ref>。同協会は、砂糖の摂取を、女性は1日に25g以下、男性は1日に37.5g以下のにするよう勧めている<ref>[http://www.cbsnews.com/news/world-health-organization-lowers-sugar-intake-recommendations/ CBSニュース] 2014年3月5日</ref>。 |
|||
{{seealso|フードファディズム}} |
|||
フードファディズムはある食品や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価・信奉することを指す。食品に含まれるある成分の有効性や有害性を、その含有量や摂取頻度、摂取量を無視して論じ、バランス良く適切に食べるという食生活の基本を無視するものである。白砂糖は「悪い食品」としてフードファディズムの対象となっている。一方で精製度が低い黒砂糖は「良い食品」とされる例もある<ref name="食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム">{{Cite journal|和書 |
|||
| author = 高橋 久仁子 |
|||
| date = 2020-03-25 |
|||
| title = 食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム |
|||
| journal = 日本家政学会誌 |
|||
| publisher = 一般社団法人 日本家政学会 |
|||
| volume = 71 |
|||
| issue = 3 |
|||
| page = 200-205 |
|||
| url = https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/71/3/71_200/_article/-char/ja/ |
|||
| doi = 10.11428/jhej.71.200 |
|||
| accessdate = 2024-02-14 |
|||
}}</ref>。 |
|||
砂糖が及ぼす悪影響として疑われている主なものは、虫歯発生をはじめとし、[[脂質代謝異常]]、[[循環器疾患|心臓血管系疾患]]、[[肥満]]、[[糖尿病]]などの発症、[[悪性腫瘍|癌]]への関与、[[高血圧]]の発現、[[反応性低血糖]]の惹起、集中力低下、成績低下、[[注意欠陥・多動性障害|多動]]、非行、犯罪への関与、種々の精神的問題の原因など多様であり、[[カルシウム]]を奪い骨を弱くするという日本独自説もある。米国ではこれらの疑惑に対応するために[[米国食品医薬品局]](FDA)は1986年に糖質系甘味料が健康に及ぼす影響を調べた文献を総合的に検討し、報告書を発表し、以下のように結論した。 |
|||
* 過量の砂糖は、がんを増やす。過量の砂糖は肥満をもたらすが、肥満になると各種のがんが増える<ref>[http://www.cancer.gov/cancertopics/myths cancertopics] 米国国立がん研究所</ref>。例えば、乳がん、子宮内膜がん、大腸がん、膵臓がんなどである<ref>[http://www.cancer.gov/cancertopics/factsheet/Risk/obesity factsheet] 米国国立がん研究所</ref>。また「過剰なインスリンがあると、前がん病変は、成長や分裂を強いられて、がんへの突然変異を起こしやすい」という意見がある<ref>[http://www.nytimes.com/2011/04/17/magazine/mag-17Sugar-t.html?pagewanted=all&_r=0 Is Sugar Toxic?] The New York Times、2011年4月13日</ref>。 |
|||
* 砂糖は虫歯の発生に関与する |
|||
* その他の疑惑は、現在の消費水準及び使用法で有害であることを示す証拠はない |
|||
その後も砂糖の悪影響に関する研究の報告は出されているが、有害性を科学的信頼性をもって証明できる[[エビデンス (医学)|エビデンス]]はない。 |
|||
* 砂糖によって生じた高インスリン血症が、アルツハイマー病を引き起こすという意見がある。インスリンは血液ー脳関門(BBB、Blood Brain Barrier)を越えて脳内に入り込む。脳内の過剰なインスリンが、神経細胞に作用して、記憶障害を引き起こす<ref>[https://www.alz.washington.edu/NONMEMBER/SPR06/craft.pdf Insulin Resistance and Alzheimer's Disease: A Novel Therapeutic Target] スライド2-5</ref>。 |
|||
[[FAO]]や[[WHO]]においてもしばしば議論されているが、1997年に行われた「人の栄養における炭水化物FAO/WHO合同専門家会」でもFDAと同様の見解が発表されている。 |
|||
特定の食品成分の過剰摂取は悪影響が生ずる可能性はあるが、そういった問題は砂糖に限るものではない<ref>{{Cite web|和書|author = 高橋久仁子|date = 2010-06-06|url = http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_9906a.htm|title = 砂糖-愛されるが故に嫌われ、甘いが故に苦い評判の不思議-|website = 独立行政法人農畜産業振興機構|accessdate = 2015-07-10|archive-url=https://web.archive.org/web/20121028022912/http://sugar.alic.go.jp:80/japan/view/jv_9906a.htm |archive-date=2012-10-28 |url-status=dead |url-status-date=2024-09-23}}</ref>。 |
|||
独立行政法人[[農畜産業振興機構]]からは、いたずらに砂糖が有害であるとする主張に対して以下のような反論が紹介されている<ref>{{Cite web|和書|author = 橋本仁|date = 2010-03-06|url = https://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0008a.htm|title = 砂糖への疑惑の払拭|website = 独立行政法人農畜産業振興機構|accessdate = 2021-02-14|archive-url=https://web.archive.org/web/20121028022641/http://sugar.alic.go.jp:80/japan/view/jv_0008a.htm |archive-date=2012-10-28 |url-status=dead |url-status-date=2024-09-23}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author = 高田明和|date = 2012-12-10|url = https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000607.html|title = 砂糖の俗説を排す|website = 独立行政法人農畜産業振興機構|accessdate = 2021-01-27}}</ref>。 |
|||
* 砂糖は気分の不安定さをもたらす。砂糖を摂取すると、血糖は急速に上昇する。すると膵臓よりインスリンが放出され、血糖は逆に急速に低下する。その時に空腹感を感じ、眠気を感じる。イライラしたり、怒りっぽくなる場合がある<ref>[http://www.bbc.co.uk/science/0/21843942 How much sugar is hiding in your food?] BBC science</ref>。 |
|||
{{Quote|砂糖のエネルギーは、他の糖質と同様に1g当たり4Kcalで特別に肥満になる要因はありません。疫学的研究でみれば、砂糖摂取と肥満は逆の相関を示しています。さらに、一国の食糧供給量における砂糖供給量の割合と肥満発生率とは何の関係もありません。」「糖質と肥満に関する最近の研究では、砂糖を含めて糖質に富む食事よりも脂肪の豊富な食事の方が太りやすいというデ-タの方が優勢です。|株式会社横浜国際バイオ研究所 代表取締役社長 橋本 仁}}{{Quote|「日本人の食事による摂取カロリーは減り続けている。砂糖は肥満の原因ではない」「砂糖は脳に欠かせないブドウ糖をすぐ供給でき、甘味によってやる気を出す効果もある」「アルツハイマー病患者に砂糖を与えた場合と与えない場合を比較すると、砂糖を摂取したほうが記憶が大きく改善する」「砂糖の制限は『食の楽しみ』を奪う」「バランスのよい食事が大事だ」|浜松医科大学 名誉教授 高田 明和}} |
|||
* 過剰な砂糖は痛風をもたらす。果糖の摂りすぎは、体内でプリン体を作り出す<ref>[http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20131113.html 尿酸値に潜む死の予言 痛風予備軍が心筋梗塞] NHK「ためしてガッテン」2013年11月13日</ref><ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7219473.stm Gout surge blamed on sweet drinks] BBC、2008.2.1 |
|||
</ref>。 |
|||
=== 認知機能への影響や依存性について === |
|||
* 高カルシウム尿症の[[尿路結石]]症患者は砂糖の過剰摂取をしないように勧告されている<ref name="kidnyjp">「[http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0022/G0000058/0062 再発予防ガイドライン]」『尿路結石症診療ガイドライン 改訂版(2004年版)』、平成15-16年度厚生労働科学研究医療技術評価総合研究事業。([http://minds.jcqhc.or.jp Minds 医療情報サービス])</ref><ref>Reiner Bartl, Bertha Frisch 『骨粗鬆症 診断・予防・治療ガイド』中村利孝監訳、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2007年10月。ISBN 9784895924887。96-99頁。</ref>。 |
|||
いくつかの研究は砂糖の過剰摂取が[[行動障害]]や[[多動性障害]]を引き起こすのではないかと示唆しているが、その[[エビデンス (医学)|エビデンス]]の質は低い<ref>{{Cite journal |last=Del-Ponte |first=Bianca |last2=Quinte |first2=Gabriela Callo |last3=Cruz |first3=Suélen |last4=Grellert |first4=Merlen |last5=Santos |first5=Iná S. |date=2019 |title=Dietary patterns and attention deficit/hyperactivity disorder (ADHD): A systematic review and meta-analysis |url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0165032718329720 |journal=Journal of Affective Disorders |language=en |volume=252 |pages=160–173 |doi=10.1016/j.jad.2019.04.061|hdl=10923/18896 |hdl-access=free }}</ref>。子どもの砂糖の過剰摂取が行動障害の原因となるという主張は、科学者コミュニティでは信憑性のあるものとされていない<ref>{{Cite journal |last=Mantantzis |first=Konstantinos |last2=Schlaghecken |first2=Friederike |last3=Sünram-Lea |first3=Sandra I. |last4=Maylor |first4=Elizabeth A. |date=2019-06-01 |title=Sugar rush or sugar crash? A meta-analysis of carbohydrate effects on mood |url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763418309175 |journal=Neuroscience & Biobehavioral Reviews |volume=101 |pages=45–67 |doi=10.1016/j.neubiorev.2019.03.016 |issn=0149-7634}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Wolraich |first=Mark L. |date=1995-11-22 |title=The Effect of Sugar on Behavior or Cognition in Children: A Meta-analysis |url=http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?doi=10.1001/jama.1995.03530200053037 |journal=JAMA |language=en |volume=274 |issue=20 |pages=1617 |doi=10.1001/jama.1995.03530200053037 |issn=0098-7484}}</ref>。 |
|||
* [[膵癌]]との関連が指摘されている<ref name="wcrf2007">World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research ''[http://www.dietandcancerreport.org/?p=ER Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective]'' 2007</ref><ref name="ajcn06-1171">Susanna C Larsson et al. "Consumption of sugar and sugar-sweetened foods and the risk of pancreatic cancer in a prospective study"American Journal of Clinical Nutrition, Vol.84, No.5, November 2006, 1171-1176. PMID 17093171</ref>。 |
|||
* [[注意欠陥・多動性障害]] (ADHD) と砂糖との関連を示す小規模な研究報告が継続的に報告されている<ref>Jeff Comisarow [http://repositories.cdlib.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1008&context=uclabiolchem/nutritionbytes Can Sweet Treats Drive Kids Crazy? Sugar andHyperactivity in Children] Nutrition Bytes Vol.2(1), 1996 </ref><ref name="Schoenthaler803ny">S.J. Schoenthaler, W.E. Doraz, J.A. Wakefield, “The Impact of a Low Food Additive and Sucrose Diet on Academic Performance in 803 New York City Public Schools,” Int J Biosocial Res.8(2), 1986, pp185-195.</ref>。2006年には、5000人以上と規模の大きい研究で砂糖の多いソフトドリンクの摂取量とADHDとの相関関係が観察された<ref>Lars Lien et al. "Consumption of Soft Drinks and Hyperactivity, Mental Distress, and Conduct Problems Among Adolescents in Oslo, Norway" American Journal of Public Health Vol96, No.10 2006, pp1815-1820. PMID 17008578</ref>。 |
|||
*[[異性化糖]]は体内への吸収が早いため、血糖値の急上昇はすさまじいものがある。[[果糖]]はブドウ糖に比べて血糖値の上昇はほとんどしないが、危険なのは[[AGEs]]。このリスクがブドウ糖の10倍である。 |
|||
甘い食品や飲料水に含まれる砂糖が中毒性物質として作用するのではないかとして[[砂糖依存症]]という仮説があるが、科学的裏付けは乏しい。研究のほとんどが動物実験によるものであり信憑性からは程遠く、薬物依存症に重要ないくつかの要素([[用量反応関係|用量の概念]]など)が評価されていないことが指摘されている<ref name = "Sugar addiction: the state of the science">{{Cite journal|洋書 |
|||
== 健康管理 == |
|||
| author = Margaret L. Westwater |
|||
[[世界保健機関|WHO]]/[[国際連合食糧農業機関|FAO]]は、レポート『食事、栄養と慢性疾患の予防』([http://www.fao.org/docrep/005/ac911e/ac911e00.htm Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases] WHO/FAO 2003年)という報告書において、慢性疾患と高カロリー食の関連を指摘し、食事中の総熱量(総カロリー)に占める糖類の熱量を10%以下にすることを推奨している <ref name="nutPrev2003"> [ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/005/ac911e/ac911e02.pdf Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases], pp.56-57; WHO/FAOレポートでは"free sugar"を"all monosaccharides(単糖類) and disaccharides(二糖類) added to foods by the |
|||
| author2 = Paul C. Fletcher |
|||
manufacturer, cook or consumer, plus sugars naturally present in honey, syrups and fruit juices"と定義している。</ref><ref>村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。</ref>。なお、[http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/11/h1122-2.html 日本人の食事摂取基準(2005年版)]推定エネルギー必要量の10%を糖類をすべて砂糖に換算した場合、成人で約50—70g程度の量(3gスティックシュガーで17—23本分)に相当する。 |
|||
| author3 = Ziauddeen |
|||
| title = Sugar addiction: the state of the science |
|||
| journal = European Journal of Nutrition |
|||
| publisher = Springer Nature |
|||
| volume = 55 |
|||
| pages = 55-69 |
|||
| date = 2016-06-02 |
|||
| doi = 10.1007/s00394-016-1229-6 |
|||
| access-date = 2024-02-04 |
|||
}}</ref>。 |
|||
=== 砂糖への規制 === |
|||
2014年には、世界保健機関は肥満と口腔の健康に関する[[システマティック・レビュー]]を元に<ref name="MoynihanKelly2013">{{cite journal|last1=Moynihan|first1=P. J.|last2=Kelly|first2=S. A. M.|title=Effect on Caries of Restricting Sugars Intake: Systematic Review to Inform WHO Guidelines|journal=[[ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ|Journal of Dental Research]] |volume=93|issue=1|year=2013|pages=8–18|issn=0022-0345|doi=10.1177/0022034513508954}}</ref>、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインのドラフト(計画案)を公開した<ref name="whoguide2014">[http://www.who.int/mediacentre/news/notes/2014/consultation-sugar-guideline/en/ WHO opens public consultation on draft sugars guideline] (世界保健機関)</ref>。砂糖では、2000キロカロリーの10%は50グラム、5%は25グラムである。 |
|||
[[世界保健機関|WHO]]/[[国際連合食糧農業機関|FAO]]は、レポート『食事、栄養と慢性疾患の予防』([http://www.fao.org/docrep/005/ac911e/ac911e00.htm Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases] WHO/FAO 2003年)という報告書の中で、「食事中の総熱量(総カロリー)に占める糖類の摂取量を10%以下にすべきだ」と推奨している <ref name="nutPrev2003">{{PDFlink| [ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/005/ac911e/ac911e02.pdf Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases]}}, pp.56-57; WHO/FAOレポートでは"free sugar"を"all monosaccharides(単糖類) and disaccharides(二糖類) added to foods by the |
|||
manufacturer, cook or consumer, plus sugars naturally present in honey, syrups and fruit juices"と定義している。</ref><ref>村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。</ref>。なお、[https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/11/h1122-2.html 日本人の食事摂取基準(2005年版)]推定エネルギー必要量の10%を糖類をすべて砂糖に換算した場合、成人で約50—70g程度の量(3gスティックシュガーで17—23本分)に相当する。 |
|||
2014年、世界保健機関は肥満と口腔の健康に関する[[システマティック・レビュー]]を元に<ref name="MoynihanKelly2013">{{cite journal|last1=Moynihan|first1=P. J.|last2=Kelly|first2=S. A. M.|title=Effect on Caries of Restricting Sugars Intake: Systematic Review to Inform WHO Guidelines|journal=[[ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ|Journal of Dental Research]] |volume=93|issue=1|year=2013|pages=8-18|issn=0022-0345|doi=10.1177/0022034513508954}}</ref>、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインの計画案を公開した<ref name="whoguide2014">[http://www.who.int/mediacentre/news/notes/2014/consultation-sugar-guideline/en/ WHO opens public consultation on draft sugars guideline] (世界保健機関)</ref>。具体的には、砂糖の摂取量は「1日にティースプーン6杯分以内(約25g)に抑えること」としている。 |
|||
2016年10月、世界保健機関は、[[清涼飲料水]]に課税することで、同飲料水の消費を削減でき、肥満を減らし、2型糖尿病を減らし、虫歯も減らせるようになる、と発表した<ref name="drink2016">[http://who.int/mediacentre/news/releases/2016/curtail-sugary-drinks/en/ WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks]、2016年10月11日[[世界保健機関]]発表、2016年10月11日閲覧</ref>([[肥満税]]も参照のこと)。 |
|||
2016年10月、世界保健機関は、[[清涼飲料水]]に課税することで、「同飲料水の消費を削減でき、肥満と2型糖尿病を減らし、虫歯も減らせるようになる」と発表した<ref name="drink2016">[http://who.int/mediacentre/news/releases/2016/curtail-sugary-drinks/en/ WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks]、2016年10月11日[[世界保健機関]]発表、2016年10月11日閲覧</ref>([[肥満税]]も参照のこと)。 |
|||
2017年3月には、イギリスで2020年までに市場から年20万トンの砂糖を減らすためにガイドラインを作成し、飲料水は砂糖への課税により、また食品では、シリアル、ヨーグルト、ビスケット、ケーキ、クロワッサン、プリン、アイス、お菓子、甘いソースなどの調味料から砂糖を減らすように推奨した<ref>{{cite web |title=Guidelines on reducing sugar in food published for industry |url=https://www.gov.uk/government/news/guidelines-on-reducing-sugar-in-food-published-for-industry |date=2017-3-30 |publisher=Public Health England |accessdate=2017-6-10}}</ref>。 |
|||
[[2017年]]3月、イギリスで、2020年までに市場から年20万トンの砂糖を減らすためにガイドラインを作成し、飲料水は砂糖への課税により、また食品では、シリアル、ヨーグルト、ビスケット、ケーキ、クロワッサン、プリン、アイス、お菓子、調味料から砂糖を減らすように推奨し<ref>{{cite web |title=Guidelines on reducing sugar in food published for industry |url=https://www.gov.uk/government/news/guidelines-on-reducing-sugar-in-food-published-for-industry |date=2017-3-30 |publisher=Public Health England |accessdate=2017-6-10}}</ref>、同国は「砂糖税」を導入した。 |
|||
アメリカの消費者団体([[:en:Center for Science in the Public Interest|Center for Science in the Public Interest]])は、「消費者は、糖分を多く含む食品の摂取を控えなければならない。企業は、食品や飲料に加える糖分を減らす努力をしなければならない」<ref>[http://cspi.hpnew.com/ グローバル・ダンプ・ソフトドリンク・キャンペーン ] 消費者団体CSPI</ref>と主張し、[[アメリカ食品医薬品局|FDA]](米国)へソフトドリンクの容器に健康に関する注意書きを表示し、加工食品と飲料によりよい[[栄養表示]]を義務付けるよう請求している。アメリカでは肥満対策のため、公立学校で砂糖を多く含んだ飲料を販売しないように合意されている<ref>[http://www.nytimes.com/2006/05/04/health/04soda.html Bottlers Agree to a School Ban on Sweet Drinks] (The New York Times, 4 May 2006)</ref>。アメリカでは、[[マクドナルド]]や[[ペプシコ]]など11の大企業が、12歳以下の子供に砂糖を多く含む食品など栄養価に乏しい食品の広告をやめることで合意している<ref>[http://www.nytimes.com/2007/07/18/business/18food.html Limiting Ads of Junk Food to Children] (New York Times, 18 July 2007)</ref>。イギリスでは[[2007年]][[4月1日]]に砂糖を多く含む子供向け食品のコマーシャルが規制された<ref>[http://www.food.gov.uk/news/newsarchive/2007/mar/tvads Restrictions on TV advertising of foods to children come into force]</ref>。 |
|||
アメリカの消費者団体([[:en:Center for Science in the Public Interest|Center for Science in the Public Interest]])は、「消費者は、糖分を多く含む食品の摂取を控えなければならない。企業は、食品や飲料に加える糖分を減らす努力をしなければならない」<ref>[http://cspi.hpnew.com/ グローバル・ダンプ・ソフトドリンク・キャンペーン] 消費者団体CSPI</ref>と主張し、[[アメリカ食品医薬品局|FDA]]へソフトドリンクの容器に健康に関する注意書きを表示し、加工食品と飲料によりよい[[栄養表示]]を義務付けるよう請求している。アメリカでは肥満対策のため、公立学校で砂糖を多く含んだ飲料を販売しないように合意されている<ref>[http://www.nytimes.com/2006/05/04/health/04soda.html Bottlers Agree to a School Ban on Sweet Drinks] (The New York Times, 4 May 2006)</ref>。アメリカでは、[[マクドナルド]]や[[ペプシコ]]を初めとする11の大企業が、12歳以下の子供に砂糖を多く含む栄養価に乏しい食品の広告をやめることで合意している<ref>[http://www.nytimes.com/2007/07/18/business/18food.html Limiting Ads of Junk Food to Children] (New York Times, 18 July 2007)</ref>。イギリスでは[[2007年]][[4月1日]]に砂糖を多く含む子供向け食品のコマーシャルが規制された<ref>[http://www.food.gov.uk/news/newsarchive/2007/mar/tvads Restrictions on TV advertising of foods to children come into force]</ref>。 |
|||
2011年4月28日、アメリカ食品医薬品局 (FDA)、アメリカ疾病対策センター (CDC)、アメリカ農務省 (USDA)、連邦取引委員会 (FTC) の4機関は、肥満増加の対策として子供に販売する飲食品の指針として、加工食品1食品あたりの上限を、飽和脂肪酸1グラム、トランス脂肪酸を0グラム、砂糖を13グラム、ナトリウム を210mgとした<ref>[http://www.ftc.gov/opa/2011/04/foodmarket.shtm Interagency Working Group Seeks Input on Proposed Voluntary Principles for Marketing Food to Children](FTC, April 28 2011)</ref>。 |
|||
[[2011年]][[4月28日]]、アメリカ食品医薬品局 (FDA)、アメリカ疾病対策センター (CDC)、アメリカ農務省 (USDA)、連邦取引委員会 (FTC) の4機関は、肥満増加の対策として子供に販売する飲食品の指針として、加工食品1食品あたりの上限を、「飽和脂肪酸1グラム、トランス脂肪酸を0グラム、砂糖を13グラム、ナトリウムを210mg」とした<ref>[http://www.ftc.gov/opa/2011/04/foodmarket.shtm Interagency Working Group Seeks Input on Proposed Voluntary Principles for Marketing Food to Children](FTC, April 28 2011)</ref>。 |
|||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
||
{{脚注ヘルプ}} |
{{脚注ヘルプ}} |
||
=== 出典 === |
|||
{{Reflist|2}} |
{{Reflist|2}} |
||
== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
||
* {{Cite book|和書|title=砂糖の科学 |editor=橋本仁・高田明和 |publisher=朝倉書店 |date=2006-11-20 |edition=初版第1刷 |series=食品の科学 |isbn=978-4-25443073-8 |ref=harv }} |
|||
{{Refbegin|2}} |
|||
* {{Cite book|和書|title=砂糖の科学 |editer=橋本仁・高田明和 |publisher=朝倉書店 |date=2006-11-20 |edition=初版第1刷 |series=食品の科学 |isbn=978-4-25443073-8 |ref=harv }} |
|||
*アンドリュー・スミス 『砂糖の歴史』 [[原書房]] [[2016年]] ISBN 978-4562051755 |
|||
*[[ジョン・ユドキン]]『純白、この恐ろしきもの―砂糖の問題点』1978年 |
|||
*シドニー・ミンツ([[:en:Sidney Mintz|Sidney Mintz]]) 『甘さと権力―砂糖が語る近代史』 [[平凡社]] [[1988年]] ISBN 4582408028 |
|||
* [[川北稔]] 『砂糖の世界史』 [[岩波書店]] [[岩波ジュニア新書]] ISBN 4005002765 |
|||
*西尾弘二 『砂糖屋さんが書いた砂糖の本』 三水社 ISBN 4915607461 |
|||
*[[アスペクト (企業)|アスペクト]]、ビジネスアスキー 編 『「砂糖」至宝の調味料』 アスペクト ISBN 4757206348 |
|||
* 伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』 [[八坂書房]] [[2008年]] ISBN 9784896949223 |
|||
{{Refend}} |
|||
== |
== 関連項目 == |
||
* [http://www.alic.go.jp/sugar/index.html 独立行政法人 農畜産業振興機構「砂糖類情報」] |
|||
* [http://www2.odn.ne.jp/shokuzai/Satou.htm 砂糖 食材辞典] |
|||
* [http://www.osatou.com/iloha/index.html おさとうのいろは] |
|||
{{サイエンスチャンネル |
|||
|番組番号=B980601 |
|||
|動画番号=B050601187 |
|||
|動画タイトル=砂糖のできるまで |
|||
|中身の概要=[[愛知県]][[碧南市]]にある[[伊藤忠製糖]]の本社工場を取材して、砂糖ができるまでの間の流れを説明している |
|||
|時間=15分 |
|||
|製作年度=1998年 |
|||
}} |
|||
{{Commonscat|Sugars}} |
{{Commonscat|Sugars}} |
||
{{wiktionary}} |
{{wiktionary}} |
||
* [[未精製の甘味料の一覧]] |
|||
* [[希少糖]] |
|||
* [[ソフトドリンク]] |
|||
* [[糖度]] |
|||
* [[甘味度]] |
|||
* [[角砂糖]] |
|||
* {{ill2|砂糖菓子の彫刻|en|Sugar sculpture}} |
|||
== 外部リンク == |
|||
* [https://www.nhs.uk/live-well/eat-well/how-does-sugar-in-our-diet-affect-our-health/ Sugar] - ''The National Health Service''{{En icon}} |
|||
* {{Kotobank}} |
|||
{{炭水化物}} |
|||
{{Normdaten}} |
{{Normdaten}} |
||
{{DEFAULTSORT:さとう}} |
{{DEFAULTSORT:さとう}} |
||
[[ |
[[カテゴリ:砂糖|*]] |
||
[[カテゴリ:糖類]] |
|||
[[カテゴリ:インドの発明]] |
2024年12月27日 (金) 09:04時点における最新版
砂糖(さとう、英語: Sugar、ドイツ語: Zucker)は、甘みを持つ調味料(甘味料)である。物質としては糖の結晶で、一般に多用される白砂糖の主成分はスクロース(Sucrose、ショ糖)と呼ばれ、これはブドウ糖と果糖の化合物である。原料はサトウキビやテンサイである。
砂糖の歴史は古く、その発明は2500年前と考えられている。サトウキビを原料とした砂糖の生産はインドからイスラム圏とヨーロッパへ順に伝播していった。サトウキビは栽培に日照と水を必要とするために、ヨーロッパ諸国は栽培に適したカリブ海地域や南米を植民地にすると、開拓されたプランテーションで多数の奴隷を使役してサトウキビを生産させた。19世紀末になると「高級品」ではなく、一般に普及する食品となり、20世紀以降になると生産過剰から、地球規模で生産調整が行われるようになった。
砂糖の摂取量の多さは食事を原因とする疾患のリスクと相関する。国によっては肥満税や砂糖税を導入するなど、砂糖消費の削減が試みられている[1]。
原料と製法
[編集]サトウキビ
[編集]サトウキビの茎を細かく砕いて汁を搾り、その汁の不純物を沈殿させて、上澄み液を取り出し、煮詰めて結晶を作る。伝統的な製法では、カキ灰に含まれるカルシウム等のミネラル分が電解質となり、コロイドを凝集させる為、カキ殻を焼いて粉砕したカキ灰を沈殿助剤として加える例もある。
煮詰めてできた結晶と結晶にならなかった溶液(糖蜜)の混合物を、遠心分離機にかけて粗糖を作る。粗糖の表面を糖蜜で洗った後、さらに遠心分離機にかけて、結晶と糖蜜を分ける。その結晶を温水に溶かし、不純物を取り除き、ファインリカーにする。それを煮詰めて結晶を生じさせ、真空状態のもとで糖液を濃縮する。結晶を成長させた後、再び遠心分離機にかけて、現れた結晶が砂糖となる。
光合成において飽和点が高いため、他の植物よりも多く糖質を生産できる。
テンサイ(サトウダイコン)
[編集]テンサイの根を千切りにし、温水に浸して糖分を溶け出させて、その糖液を煮詰め、濾過して不純物を取り除く。真空状態のもとで糖液を濃縮し、結晶を成長させた後、遠心分離機にかけて現れた結晶が砂糖である。
砂糖の原料となりうるテンサイのベータブルガロシド(betavulgaroside)類には小腸でのグルコースの吸収抑制等による血糖値上昇抑制活性が認められた[2](詳細はサポニンを参照のこと)。
サトウカエデ
[編集]サトウカエデの幹に穴を開け、そこから樹液を採集する。その樹液を煮詰めて濃縮したものがメープルシロップである。これを更に濃縮を進めて固体状になったものがメープルシュガーである。
なお、糖分がやや低いものの、日本に自生するイタヤカエデからもメープルシュガーを作ることは可能であり、終戦直後の砂糖不足の時代に東北や北海道で製造が試みられたことがあるが、商業化ベースには乗らずに終わった[3]。
オウギヤシ(サトウヤシ)
[編集]オウギヤシは東南アジアからインド東部にかけて栽培されている。樹液からパームシュガー(椰子砂糖)が作られる。また、それを発酵させて酒を作る。
スイートソルガム(サトウモロコシ)
[編集]モロコシ属のうち、糖分を多く含むものの総称で、アメリカ合衆国を中心に栽培されている。煮詰めてソルガムシュガー(ロゾク糖)をつくることもできるが、グルコースやフラクトースを多く含むため結晶化させにくく、結晶糖の収量としてはサトウキビやテンサイに劣るため、シロップの原料として使用されることが多い。バイオエタノールの原料としても多く利用されている[4]。
搾りかすなど副生成物の年間排出量は世界中で約1億トン以上で、製糖工場自身の燃料として利用されるだけでなく、石灰分を多く含むため、製鉄、化学工業、大気汚染防止のための排煙脱硫材、上下水の浄化、河川海域の水質底質の改善、農業用の土壌改良材[5]として使われる。搾りかすの一部は堆肥として農地に還元[6]されるほか、キクラゲの菌床栽培の培地原料としても利用される。テンサイ(ビート)の搾り粕は牛の飼料として、サトウキビの搾りかす(バガス)は紙の原料としても使われる。
歴史
[編集]原産地と語源
[編集]サトウキビの原産地は、南太平洋の島々で、そこから東南アジアを経て、インドに伝わったとされるが、「インド原産」という説も強い。砂糖の歴史は古く、約2500年前に東インドでサトウキビの搾り汁を煮詰めて砂糖をつくる方法が発明されたと考えられている[7]。例えば、カウティリヤにより紀元前4世紀後半に書かれたとされるサンスクリットで書かれた古典「アルタシャーストラ」(「実利論」)には、純度が一番低いグダ、キャンディの語源とされるカンダ、純度が最も高いサルカラ (SarkaraあるいはSarkkara) の3種類の砂糖の説明が記載されている[7]。サルカラは英語の「Sugar」やフランス語の「Sucre」の語源になった。
また、パタンジャリが紀元前400~200年の間に書いたと推定されるサンスクリット文法の解説書「マハーバーシャ」には、砂糖を加えたライスプディングや発酵飲料の作り方が記載されている[8]。砂糖は病気による衰弱や疲労の回復に効果があるとされ、薬としても用いられた。当時は「インドの塩」と呼ばれ、塩と関連づけられていた。
ダレイオス1世はインド遠征の際にサトウキビをペルシアに持ち帰り、国家機密として輸出と栽培を独占した。その後サトウキビは戦乱とともに黒海方面やペルシャ湾岸、中東一帯に広がっていった。フェニキア人や古代エジプト人は砂糖を香辛料や生薬として扱った。中国での砂糖製造の歴史は古く主に広東地方で行われていた。唐代の本草学者、蘇敬の『博物誌』には「太宗は砂糖の製造技術を学ぶため、リュー(インド)、とくにモキト(ベンガル)に職人を派遣した」と記述されている。
古代ギリシャのテオフラストスは『植物学概論』で「葦から採れる蜜」について書き留めている。そしてアレクサンドロス3世がインドに遠征した。また、帝政ローマ時代のギリシア人医師ディオスコリデスは砂糖をサッカロン(saccharon)と呼び、考察を行った。プリニウスやストラボン以後のローマ時代の学者はこれに倣った[9]。
プランテーションの成立
[編集]966年ヴェネツィア共和国が中東から来る砂糖を貨物集散所に通して流通させる仕組みをつくった。11世紀末に十字軍がサトウキビをキプロスに持ち帰った。まず14世紀にはシチリアで、ついで15世紀初頭にはバレンシア地方へ栽培法が伝播し、地中海周辺が砂糖の生産地となった。
しかし、この15世紀からは大西洋の探検が少しずつ始まり、スペインがカナリア諸島で、ポルトガルがマデイラ諸島とアゾレス諸島でそれぞれサトウキビ栽培を始めた。この島々からの砂糖は1460年代にはヨーロッパへ輸出されており、シチリアやバレンシアでの砂糖生産は競争に敗れて衰退した。[10]
新大陸の発見によって、まず最初に砂糖の大生産地となったのはブラジルの北東部(ノルデステ)だった。1530年代にサトウキビ栽培が始まり、1630年にレシフェを中心とする地方がオランダ領となると、さらに生産が促進された。しかし1654年にブラジル北東部が再びポルトガル領となると、サトウキビ生産者たちは技術を持ったまま、カリブ海のイギリスやフランス領に移民し、1650年代からはカリブ海域において大規模な砂糖プランテーションが相次いで開発され、この地方が砂糖生産の中心地となった[11]。
19世紀
[編集]一方、1747年にドイツの化学者アンドレアス・マルクグラーフ(Andreas Sigismund Marggraf)がテンサイから砂糖と同じ成分をとりだすことに成功した。1806年から1813年の大陸封鎖による影響で、イギリスからヨーロッパ大陸へ砂糖が供給されなくなった。そのためにナポレオンが砂糖の自給自足を目的としてテンサイに注目し、フランスやドイツを始めヨーロッパ各地に甜菜糖業の大規模生産が広まり製糖業が発達した。ナポレオン戦争後砂糖の供給が元に戻ってもテンサイの増産は続いた。
その一方で、サトウキビからの砂糖生産も増加の一途をたどった。19世紀にはいると、イギリスはインド洋のモーリシャスや南太平洋のフィジーにもサトウキビを導入し、プランテーションを建設した。すでに奴隷制はイギリスでは廃止されていたため、ここでの主な労働力は同じイギリス領のインドから呼ばれたインド人であった[12]。そのため、現在でもこの両国においてはインド系住民が多い。やがてオーストラリアのクイーンズランド州でも生産するようになる。
19世紀末の国際価格低落による砂糖消費の増加は非アルコール飲料の消費増加と軌を一にしている[13]。砂糖入り飲料(イギリスでは砂糖入り紅茶、ヨーロッパ大陸では砂糖入りコーヒー)とパンの組み合わせが庶民の安く手軽な朝食として取り入れられ、一般的なものとなっていったのである[14]。
日本における砂糖の歴史
[編集]純然たる舶来品
[編集]日本には奈良時代に鑑真によって伝えられたとされている[15]。唐において精糖技術が伝播する以前は、砂糖はシロップ状の糖蜜の形で使用されていた。唐の太宗の時代に西方から精糖技術が伝来すると、持ち運びが簡便になった。当初は輸入でしかもたらされない貴重品であり医薬品として扱われていた。
平安時代後期には本草和名に見られるようにある程度製糖の知識も普及し、お菓子や贈答品の一種として扱われた。室町時代には幾つもの文献に砂糖羊羹、砂糖饅頭、砂糖飴、砂糖餅といった砂糖を使った和菓子が見られるようになってくる。名に「砂糖」と付くことからも、調味料としての砂糖は当時としては珍しい物だということがわかる[16]。狂言『附子』の中でも珍重されている。
やがて戦国時代に南蛮貿易が開始されると宣教師たちによって金平糖がもちこまれ、さらにアジアから砂糖の輸入がさかんになり、徐々に砂糖の消費量は増大していった。1580年(天正8年)に土佐国(高知県)の戦国大名であった長宗我部元親は、織田信長家臣の明智光秀を介して、信長に鷹狩用の鷹16羽と同時に砂糖3000斤(約1,800㎏)を贈っている(『信長公記』)。
国産化の試み
[編集]江戸時代初期、薩摩藩支配下の琉球王国では、1623年に儀間真常が部下を明の福州に派遣して、サトウキビの栽培と黒糖の生産法を学ばせた。帰国した部下から得た知識を元に砂糖生産を奨励し、やがて琉球の特産品となった。
江戸時代には海外からの主要な輸入品のひとつに砂糖があげられるようになり、オランダや中国の貿易船がバラスト代わりの底荷として大量の砂糖を出島に持ち込んだ。このころ日本からは大量の金・銀が産出されており、その経済力をバックに砂糖は高値で輸入され、大量の砂糖供給は、砂糖を使った和菓子の発達をもたらした。
しかし17世紀後半には金銀は枯渇し、金銀流出の原因のひとつとなっていた砂糖輸入を減らすために、江戸幕府の将軍徳川吉宗が琉球からサトウキビをとりよせて江戸城内で栽培させ、サトウキビの栽培を奨励して砂糖の国産化をもくろんだ。また、殖産興業を目指す各藩も価格の高い砂糖に着目し、自領内で栽培を奨励した。
特に高松藩主松平頼恭がサトウキビ栽培を奨励し、天保期には国産白砂糖流通量の6割を占めるまでになった。また、高松藩はこのころ和三盆の開発に成功し、高級砂糖として現在でも製造されている。こうした動きによって19世紀にはいると砂糖のかなりは日本国内でまかなえるようになった。
天保元年から3年(1830年から1832年)には、大坂での取引量は輸入糖430万斤と国産糖2320万斤、あわせて2750万斤(1万6500トン)となり、さらに幕末の慶応元年(1865年)にはその2倍となっていた[17]。
一方、このころ大坂の儒者である中井履軒は、著書『老婆心』の中で砂糖の害を述べ、砂糖亡国論を唱えた[18]。また江戸幕府も文政元年(1818年)に、サトウキビの作付け制限を布告したが、実効は上がらず砂糖生産は増え続けた。江戸時代、砂糖の流通は砂糖問屋が行っていたが、幕府崩壊とともに独占体制が崩れ、明治時代には自由な流通が行われることとなった。
明治時代初期、鹿児島県徳之島における砂糖製造
[編集]明治時代初期、鹿児島県徳之島における砂糖製造は下の図に示す手順で行われた。
明治以後
[編集]日清戦争の結果として台湾が日本領となると、台湾総督府は糖業を中心とした開発を行った。また第一次世界大戦の結果、日本の委任統治領となった南洋諸島のうち、マリアナ諸島のサイパン島、テニアン島、ロタ島でも南洋興発による大規模なサトウキビ栽培が始まった。これにともなって日本には大量の砂糖が供給されることとなったが、沖縄を除く日本本土ではサトウキビの生産が衰退した。しかし台湾や南洋諸島での増産によって生産量は増大しつづけ、昭和に入ると砂糖の自給をほぼ達成した。一方、北海道においては明治初期にテンサイの生産が試みられたが一度失敗し、昭和期に入ってやっと商業ベースに乗るようになった。
この砂糖生産の拡大と生活水準の向上によって砂糖の消費量も増大し、1939年には一人当たり砂糖消費量が16.28kgと戦前の最高値に達し、2010年の消費量(16.4kg)とほぼ変わらないところまで消費が伸びていた[19]。
戦時色が強くなった1939年には公定価格の設定対象になり、増税の上で卸売価格と小売価格が凍結された[20]。 また、1940年に生活物資の配給制が導入されると、砂糖はマッチとならんでいち早く対象となった[21]。その後、第二次世界大戦の戦況の悪化にともない、砂糖の消費量は激減し、1945年の敗戦によって、砂糖生産の中心地であった台湾や南洋諸島を失ったことで、砂糖の生産流通は一時大打撃を受け、1946年の一人あたり消費量は0.20kgまで落ち込んだ。その後1952年に、砂糖の配給が終了して生産が復活し、日本の経済復興とともに再び潤沢に砂糖が供給されるようになった。
生産と消費
[編集]順位 | 国 | 生産量 (百万トン) |
---|---|---|
1 | ブラジル | 24,8 |
2 | インド | 22,1 |
3 | 中国 | 11,1 |
4 | アメリカ合衆国 | 8,0 |
5 | タイ | 7,3 |
6 | オーストラリア | 5,4 |
7 | メキシコ | 4,9 |
8 | フランス | 4,4 |
9 | ドイツ | 4,2 |
10 | パキスタン | 4,0 |
11 | キューバ | 3,8 |
12 | 南アフリカ共和国 | 2,6 |
13 | コロンビア | 2,6 |
14 | フィリピン | 2,1 |
15 | インドネシア | 2,1 |
16 | ポーランド | 2,0 |
世界
[編集]砂糖の生産量は増加しており、1980年代には年1億トン前後であったものが2000年代には年1.4-1.5億トン程度になっている[24]。全生産量のうち約30%が貿易で取引される。生産量の内訳は、サトウキビによるものが約70%、テンサイによるものが約30%である[25]。サトウキビからの砂糖の主要生産国は、ブラジル・インド・中国であるが、ブラジルは中国の約3倍の生産量、インドは中国の約2倍の生産量である[26]。テンサイからの砂糖の主要生産国は、EU各国(ドイツ・フランス他)、アメリカ合衆国、ロシアである。
一方、輸出国は主要生産国とは異なっている。これは、主要生産国のかなりが生産量は多いものの国内需要を満たすことができないことによる。世界最大の輸出国はブラジルであり、2008年には2025万トン、世界の総輸出量の59.6%を占め、圧倒的なシェアを持っている。次いでタイが510万トン(15.0%)、オーストラリアが389万トン(11.5%)、グアテマラが159万トン(4.7%)、南アフリカが80万トン(2.4%)と続く[27]。
砂糖はさまざまな工業製品の原料として利用されている。オリゴ糖やパラチノース、食品添加物(乳化剤)のショ糖脂肪酸エステルは砂糖を原料として製造されており[28]、着色料としてのカラメルも砂糖を原料とする。また、ポリウレタンやポリエステル、プラスチックの原料としても利用されている[29]。近年では石油に代わる燃料としてバイオエタノールが注目された。そこでサトウキビやテンサイがバイオエタノールの製造に多く使用された。糖分を多く含む可食部分を醸造原料に使う限りエタノールは食料と競合するため、2007年-2008年の世界食料価格危機の主因となった。なお、バイオエタノール製造に不可欠なのは糖分であって、サトウキビやテンサイ由来でなくてもよい。
日本
[編集]砂糖の日本国内消費・生産は、1995-2004年度の10年間平均値(1995年10月-2005年9月)では、国内総需要は年230万トン(国産36%:輸入64%)、国産量は年83万トン(テンサイ約80%:サトウキビ約20%)である[30]。年毎の動向を見ると、総消費量は、1985年には一人当たり21.9kgだったものが、2010年には16.4kgと大きく減少してきたが[31]、ここ数年は下げ止まっている状態である。
日本で販売されている砂糖は、賞味期限が記載されていない。理由は食品衛生法やJAS法で、砂糖は長期保存可能食品のため、表記を免除されているからである[32][33]。一部のメーカーでは、代表的な長期保存の可能な食品である缶詰の賞味期限に倣う形で、製造後3年に設定していたことがあった[34]。長い賞味期限は在庫を膨張させている。
南北に長い日本列島は、サトウキビの栽培に適した亜熱帯とテンサイ栽培に適した冷帯の両方が存在する。国産量は微増傾向にあるが、それはテンサイ糖の増加によるもので、サトウキビ糖は微減傾向にある。サトウキビの生産地は沖縄県や鹿児島県で、戦前は他に台湾とマリアナ諸島で砂糖が大量に生産されていた。テンサイの生産地は北海道である。
日本の砂糖輸入は、タイ王国が約4割、オーストラリアが約4割、南アフリカが約1割をそれぞれ占め、この3カ国で9割以上の輸入をまかなっている。
主要国の2014年国民1人1日当りの砂糖消費量(g)は以下のようである。日本は先進国の中では、非常に少ない方である[35][36][37]。
ブラジル | 172g | |
オーストラリア | 167g | |
ドイツ | 127g | |
アルゼンチン | 125g | |
オランダ | 120g | |
ロシア | 116g | |
タイ | 114g | |
メキシコ | 109g | |
フランス | 107g | |
エジプト | 100g | |
英国 | 93g | |
米国 | 89g | |
インド | 55g | |
日本 | 45g | |
中国 | 31g |
種類
[編集]呼称 | 糖種 | ショ糖 % | 転化糖 % | 灰分 % | 水分 % | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
砂糖 | 分蜜糖 | ||||||||
原料糖(粗糖) | 精製糖 | ザラメ糖 | |||||||
グラニュー糖 | 99.95 | 0.01 > | 0.01 > | 0.01 > | |||||
白双糖 | 99.95 | 0.01 > | 0.01 > | 0.02 | |||||
中双糖 | 99.70 | 0.05 | 0.03 | 0.03 | |||||
車糖 | |||||||||
上白糖 | 97.80 | 1.30 | 0.02 | 0.80 | |||||
中白糖 | 95.70 | 1.90 | 0.10 | 1.60 | |||||
三温糖 | 95.40 | 2.10 | 0.40 | 1.60 | |||||
液糖 | |||||||||
ショ糖型 | 67.00 | 0.20 | 0.01 | 32.00 | |||||
50%転化型 | 37.50 | 37.50 | 0.01 | 25.0 | |||||
加工糖 | |||||||||
角砂糖 | 99.80 | 0.01 | 0.01 > | 0.15 | |||||
氷砂糖 | 99.80 | 0.06 | 0.01 | 0.06 | |||||
粉砂糖 | 99.80 | 0.02 | 0.01 | 0.02 | |||||
顆粒状糖 | 99.80 | 0.01 | 0.02 | 0.02 | |||||
原料糖 | 原料糖 | 97.70 | 0.70 | 0.45 | 0.50 | ||||
耕地白糖 | 耕地白糖 | ||||||||
含蜜糖 | 黒砂糖 | 75-86 | 2.0-7.0 | 1.3-1.6 | 5.0-8.0 |
※ 三木健(1994)、「砂糖の種類と特性」[38]より引用し改変
砂糖は、製造法によって(A)含蜜糖と(B)分蜜糖とに大きく分けられる。(A)含蜜糖は糖蜜を分離せずにそのまま結晶化したもので、黒砂糖・白下糖・カソナード(赤砂糖)・和三盆・ソルガム糖、メープルシュガーがこれに当たる。糖蜜を分離していないため原料本来の風味が残るのが特徴である。ほとんどの精糖原料から作ることができるが、テンサイから砂糖を作る場合は高度な精製が必要なため、含蜜糖の製造は一般的ではない(不可能という訳ではない)。
これに対し(B)分蜜糖は、文字通り糖蜜を分離し糖分のみを精製したもので、一般的に使用される砂糖である。まず原料からある程度の精製を行い、粗糖を作成する。粗糖は精製糖の原料であり、不純物も多くそのままでは食用に適さない。このため、生産地の近くでまず一次精製を行って粗糖を作成した後、貨物船に積み、消費地の近くで二次精製を行って、商品として流通する精製糖が作られる。しかし、生産地で粗糖を経由せず直接製造する耕地白糖や、粗糖工場に精製工場を併設して産地で精製した最終製品まで製造する耕地精糖といった種類も存在する。
精製糖は、大きくザラメ糖・車糖・加工糖・液糖の4つに分類される。ザラメ糖はハードシュガーとも呼ばれ、結晶が大きく乾いてさらさらした砂糖であり、グラニュー糖・白双糖(しろざらとう)・中双糖(ちゅうざらとう)がこれに属する。なお、一般的には白双糖と中双糖を指してザラメという。白双糖を白ザラメ、中双糖を黄ザラメともいう。一方、車糖はソフトシュガーとも呼ばれ、結晶が小さくしっとりとした手触りのある砂糖で、上白糖・三温糖がこれに属する。液糖はその名の通り、液体の砂糖である。また、ザラメ糖を原料として、角砂糖・氷砂糖・粉砂糖・顆粒状糖の加工糖が製造される。
日本においては最も一般的な砂糖は上白糖であり、日本での消費の半分以上を占める[39]が、上白糖は日本独自のもので、製造・消費されるのも日本であり、ヨーロッパやアメリカ合衆国では、ほとんど使われない[40]。世界では「砂糖」といえば『グラニュー糖』を指す。
1970年代後半には、クロマトグラフィー果糖濃縮技術の出現で、異性化糖(高果糖コーンシロップ、HFCS)の大量生産を可能とした[41]。異性化糖の消費が増加し、砂糖の消費を減少させた[41]。
調理上の特性
[編集]砂糖は単に食品に甘味をつけるためだけではなく、食品にさまざまな効果を与えるためにも利用される[42]。
- タンパク質の熱凝固抑制-卵焼きやプリンが柔らかく仕上がる
- 乾燥防止-焼き菓子の乾燥を防ぐ
- ペクチンのゲル化-果物のペクチンをゲル化させかつ水分活性を抑えることで日持ちのするジャムにする。
- デンプンの老化抑制-デンプンの老化を抑制して菓子を柔らかく保つ。
- 油脂の酸化抑制
- イースト菌の発酵促進
- 着色・着香
- 防腐
- 砂糖漬け、あんこ、果実ジャム。
日本料理においては、「料理のさしすせそ」の一つに数えられ、中心的な調味料の一つとなっている。これは、醤油、塩、砂糖による組み合わせを基本とする料理が多いことによる。一方、西洋料理や中華料理においては、砂糖を大量に使う料理のほうが少ない。
食品に含まれる砂糖
[編集]国立健康・栄養研究所によれば、飲料に含まれる砂糖の量は、次のようである。[43][44]
- ヤクルト‥‥‥‥‥‥砂糖 12g
- コーヒー飲料(小)‥‥砂糖 18g
- サイダー缶‥‥‥‥‥砂糖 36g
- 炭酸飲料(コーラ)‥‥砂糖 42g
文部科学省によれば、菓子類に含まれる砂糖の量は、次のようである。[45]
- どらやき‥‥‥‥‥‥可食部100gに、砂糖38g
- きんつば‥‥‥‥‥‥可食部100gに、砂糖40g
- 練りようかん‥‥‥‥可食部100gに、砂糖56g
- シュークリーム‥‥‥可食部100gに、砂糖15g
- ショートケーキ‥‥‥可食部100gに、砂糖23g
英国政府によれば、食品に含まれる砂糖の量は、次のようである。[46]
- プレーン・チョコレート‥100gに、砂糖62g
- フルーツ・ヨーグルト‥‥100gに、砂糖17g
- トマト・ケチャップ‥‥‥100gに、砂糖28g
生理的作用
[編集]砂糖の主成分はスクロース(ショ糖)である。液糖はショ糖を主成分とするショ糖型液糖と、ショ糖だけではなくブドウ糖と果糖を含む転化型液糖に分類される[47]。ショ糖は消化の過程でブドウ糖と果糖に分解されて吸収される[48]。
砂糖と健康
[編集]炭水化物はエネルギー源として重要な役割を担っており、炭水化物が直接に特定の健康障害の原因となるとの報告は、2型糖尿病を除けば、理論的にも疫学的にも乏しいとしている。 糖類についてはその過剰摂取が肥満やう歯の原因になることが知られている。加糖飲料の体重への影響を検討した報告や、糖類摂取量と糖尿病の関連についての検討も多く、それらの報告をまとめたメタアナリシスでは、小児でも成人でも加糖飲料摂取量が多いほど体重も多く、また2型糖尿病発症率も高いことが示されている。米国成人を対象にしたコホート研究では、体重増加はエネルギー摂取量の違いを介したものであったとしている。また、2型糖尿病の発症のメカニズムについてはエネルギー摂取量を介さない、別の代謝例路も関連すると考えられている。 肥満、2型糖尿病、う歯のいずれについても、それを超えると発症が増える、あるいは減るといった糖類摂取量の明確なしきい値は報告されていない。
報告されている日本人の糖類摂取量の平均値は低く、過半数の日本人では糖類摂取量が各国・組織で推奨されている値よりも低い可能性がある。日本人の食事摂取基準(2025年版)ではこれらの理由から糖類に対する目標量の設定はされなかった。 一方で、一部に糖類摂取量の非常に多い日本人も存在すること、炭水化物が多く甘味料や酒類に頼る食事は数多くのビタミン類やミネラル類の摂取不足を招きかねないと考えられており、その実態においては注意が必要である[49]:130-132。
フードファディズム
[編集]フードファディズムはある食品や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価・信奉することを指す。食品に含まれるある成分の有効性や有害性を、その含有量や摂取頻度、摂取量を無視して論じ、バランス良く適切に食べるという食生活の基本を無視するものである。白砂糖は「悪い食品」としてフードファディズムの対象となっている。一方で精製度が低い黒砂糖は「良い食品」とされる例もある[50]。
砂糖が及ぼす悪影響として疑われている主なものは、虫歯発生をはじめとし、脂質代謝異常、心臓血管系疾患、肥満、糖尿病などの発症、癌への関与、高血圧の発現、反応性低血糖の惹起、集中力低下、成績低下、多動、非行、犯罪への関与、種々の精神的問題の原因など多様であり、カルシウムを奪い骨を弱くするという日本独自説もある。米国ではこれらの疑惑に対応するために米国食品医薬品局(FDA)は1986年に糖質系甘味料が健康に及ぼす影響を調べた文献を総合的に検討し、報告書を発表し、以下のように結論した。
- 砂糖は虫歯の発生に関与する
- その他の疑惑は、現在の消費水準及び使用法で有害であることを示す証拠はない
その後も砂糖の悪影響に関する研究の報告は出されているが、有害性を科学的信頼性をもって証明できるエビデンスはない。 FAOやWHOにおいてもしばしば議論されているが、1997年に行われた「人の栄養における炭水化物FAO/WHO合同専門家会」でもFDAと同様の見解が発表されている。 特定の食品成分の過剰摂取は悪影響が生ずる可能性はあるが、そういった問題は砂糖に限るものではない[51]。
独立行政法人農畜産業振興機構からは、いたずらに砂糖が有害であるとする主張に対して以下のような反論が紹介されている[52][53]。
砂糖のエネルギーは、他の糖質と同様に1g当たり4Kcalで特別に肥満になる要因はありません。疫学的研究でみれば、砂糖摂取と肥満は逆の相関を示しています。さらに、一国の食糧供給量における砂糖供給量の割合と肥満発生率とは何の関係もありません。」「糖質と肥満に関する最近の研究では、砂糖を含めて糖質に富む食事よりも脂肪の豊富な食事の方が太りやすいというデ-タの方が優勢です。—株式会社横浜国際バイオ研究所 代表取締役社長 橋本 仁
「日本人の食事による摂取カロリーは減り続けている。砂糖は肥満の原因ではない」「砂糖は脳に欠かせないブドウ糖をすぐ供給でき、甘味によってやる気を出す効果もある」「アルツハイマー病患者に砂糖を与えた場合と与えない場合を比較すると、砂糖を摂取したほうが記憶が大きく改善する」「砂糖の制限は『食の楽しみ』を奪う」「バランスのよい食事が大事だ」—浜松医科大学 名誉教授 高田 明和
認知機能への影響や依存性について
[編集]いくつかの研究は砂糖の過剰摂取が行動障害や多動性障害を引き起こすのではないかと示唆しているが、そのエビデンスの質は低い[54]。子どもの砂糖の過剰摂取が行動障害の原因となるという主張は、科学者コミュニティでは信憑性のあるものとされていない[55][56]。
甘い食品や飲料水に含まれる砂糖が中毒性物質として作用するのではないかとして砂糖依存症という仮説があるが、科学的裏付けは乏しい。研究のほとんどが動物実験によるものであり信憑性からは程遠く、薬物依存症に重要ないくつかの要素(用量の概念など)が評価されていないことが指摘されている[57]。
砂糖への規制
[編集]WHO/FAOは、レポート『食事、栄養と慢性疾患の予防』(Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases WHO/FAO 2003年)という報告書の中で、「食事中の総熱量(総カロリー)に占める糖類の摂取量を10%以下にすべきだ」と推奨している [58][59]。なお、日本人の食事摂取基準(2005年版)推定エネルギー必要量の10%を糖類をすべて砂糖に換算した場合、成人で約50—70g程度の量(3gスティックシュガーで17—23本分)に相当する。
2014年、世界保健機関は肥満と口腔の健康に関するシステマティック・レビューを元に[60]、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインの計画案を公開した[61]。具体的には、砂糖の摂取量は「1日にティースプーン6杯分以内(約25g)に抑えること」としている。
2016年10月、世界保健機関は、清涼飲料水に課税することで、「同飲料水の消費を削減でき、肥満と2型糖尿病を減らし、虫歯も減らせるようになる」と発表した[62](肥満税も参照のこと)。
2017年3月、イギリスで、2020年までに市場から年20万トンの砂糖を減らすためにガイドラインを作成し、飲料水は砂糖への課税により、また食品では、シリアル、ヨーグルト、ビスケット、ケーキ、クロワッサン、プリン、アイス、お菓子、調味料から砂糖を減らすように推奨し[63]、同国は「砂糖税」を導入した。
アメリカの消費者団体(Center for Science in the Public Interest)は、「消費者は、糖分を多く含む食品の摂取を控えなければならない。企業は、食品や飲料に加える糖分を減らす努力をしなければならない」[64]と主張し、FDAへソフトドリンクの容器に健康に関する注意書きを表示し、加工食品と飲料によりよい栄養表示を義務付けるよう請求している。アメリカでは肥満対策のため、公立学校で砂糖を多く含んだ飲料を販売しないように合意されている[65]。アメリカでは、マクドナルドやペプシコを初めとする11の大企業が、12歳以下の子供に砂糖を多く含む栄養価に乏しい食品の広告をやめることで合意している[66]。イギリスでは2007年4月1日に砂糖を多く含む子供向け食品のコマーシャルが規制された[67]。
2011年4月28日、アメリカ食品医薬品局 (FDA)、アメリカ疾病対策センター (CDC)、アメリカ農務省 (USDA)、連邦取引委員会 (FTC) の4機関は、肥満増加の対策として子供に販売する飲食品の指針として、加工食品1食品あたりの上限を、「飽和脂肪酸1グラム、トランス脂肪酸を0グラム、砂糖を13グラム、ナトリウムを210mg」とした[68]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ Anne Marie Thow; Shauna M Downs; Christopher Mayes; Helen Trevena; Temo Waqanivalu; John Cawley (2018-03-01). “Fiscal policy to improve diets and prevent noncommunicable diseases: from recommendations to action”. Bull World Health Organ (World Health Organ) 96 (3): 201-210. doi:10.2471%2FBLT.17.195982 2024年1月24日閲覧。.
- ^ 吉川雅之「薬用食物の糖尿病予防成分」『化学と生物』第40巻第3号、2002年、172-178頁、doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172、NAID 130003634293。
- ^ 橋本仁・高田明和 2006, p. 21.
- ^ 『地域食材大百科(穀類・いも・豆類・種実』 第1巻(第1刷)、農山漁村文化協会、2010年3月10日、177頁。ISBN 9784540092619。
- ^ ライムケーキ有効利用検討報告書 (PDF) 北海道循環資源利用促進協議会
- ^ ライムケーキの再利用化への試み(日本ビート糖業協会) 独立行政法人 農畜産業振興機構
- ^ a b アンドリュー・スミス『砂糖の歴史』(第1刷)原書房〈食の図書館〉、2016年1月7日、12-13頁。ISBN 9784562051755。
- ^ アンドリュー・スミス『砂糖の歴史』(第1刷)原書房〈食の図書館〉、2016年1月7日、12頁。ISBN 9784562051755。
- ^ マグロンヌ・トゥーサン=サマ 『世界食物百科』玉村豊男 翻訳監修、原書房、1998年、ISBN 4087603172、pp.572-575
- ^ ブリュノ・ロリウー 著、吉田春美 訳『中世ヨーロッパ 食の生活史』(第1刷)原書房、2003年10月4日、59頁。ISBN 4562036877。
- ^ 増田義郎『略奪の海カリブ: もうひとつのラテン・アメリカ史』(第1刷)岩波書店〈岩波新書, 新赤版 75〉、1989年6月20日、138-139頁。ISBN 4004300754。 NCID BN03493067。
- ^ 石川栄吉 編『オセアニアを知る事典』(初版第1刷)平凡社、1990年8月21日、121頁。ISBN 4582126170。 NCID BN05119276。
- ^ 伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』pp.16-18 八坂書房 2008年 ISBN 9784896949223
- ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか: 十九世紀食卓革命』(第1刷)〈講談社選書メチエ 123〉、1998年2月10日、79-89頁。ISBN 406258123X。
- ^ 柳田理科雄. “柳田理科雄の1日1科学 砂糖” (PDF). 栄光ゼミナール. 2020年6月6日閲覧。
- ^ 鈴木晋一『たべもの噺』平凡社、1986年、159-162頁。ISBN 4582828132。
- ^ 原田信男編著『ヴィジュアル日本生活史 江戸の料理と食生活』(第1版第1刷)小学館、2004=06-20、103頁。ISBN 4096261300。
- ^ 本山荻舟『飲食事典』平凡社、1956年12月25日、241頁。ISBN 458210701X。 NCID BN01765836。
- ^ 橋本仁・高田明和 2006, p. 6.
- ^ 砂糖、ビールなどに公定価格(昭和14年3月31日 東京朝日新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p153 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
- ^ 砂糖、マッチの切符を配布、津お経(昭和15年5月26日 東京日日新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p117 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
- ^ Quelle: Handelsblatt - "Die Welt in Zahlen." 2005
- ^ a b Sugar and Sweeteners Yearbook TablesU.S. Department of Agricultureホームページ 2016年8月29日閲覧
- ^ 独立行政法人農畜産業振興機構「砂糖類情報」世界砂糖需給バランス
- ^ 同 主要国の砂糖の生産量の主要国生産量より算出
- ^ 上記資料「3e主要国の砂糖の生産量」より、2000年10月-2005年9月の5年間平均値を算出
- ^ 世界砂糖市場の最近の動向農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧
- ^ 「現代糖業技術史-第二次大戦終了以後- 精製糖編」pp117-140 社団法人糖業協会編 丸善プラネット 2006年2月20日初版発行
- ^ 砂糖は甘いだけのものではない─化学工業原料としての砂糖農畜産業振興機構 2012年8月5日閲覧
- ^ 同 - 砂糖および異性化糖の需給総括表
- ^ 独立行政法人農畜産業振興機構「砂糖類情報」 - 砂糖および異性化糖の需給総括表
- ^ マルハの例
- ^ フジ日本精糖の例
- ^ 日新製糖の例
- ^ 需給関係資料2014年 (PDF) 農畜産振興機構
- ^ 甘いもの好きの国際比較 社会実情データ図録
- ^ OECD-FAO OECD-FAO Agricultural Outlook 2014 p287
- ^ 三木健、「砂糖の種類と特性」 『応用糖質科学』 1994年 41巻 3号 p.343-350, doi:10.11541/jag1994.41.343
- ^ 伊藤汎監修 『砂糖の文化誌 ―日本人と砂糖』p115 八坂書房 2008年 ISBN 9784896949223
- ^ 橋本仁・高田明和 2006, p. 72.
- ^ a b Cordain L, Eaton SB, Sebastian A, et al. (2005). “Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century”. Am. J. Clin. Nutr. 81 (2): 341-54. PMID 15699220 .
- ^ 砂糖ラボ➚大東製糖 公式ネットショップ[要検証 ]
- ^ 自分の飲んでいる飲み物からとる糖分の目安 (PDF) 国立健康・栄養研究所
- ^ 清涼飲料水・酒類の糖度とブドウ糖含有量 (PDF) 東芝病院の糖尿病委員会
- ^ 日本食品標準成分表 文部科学省「日本食品標準成分表2010について第3章の15」(菓子類)
- ^ 我々の食品に含まれる『加えられた砂糖』の源 英国政府NHS(国民保健サービス)
- ^ 文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』(レポート)2020年2月1日 。
- ^ 秋山 有代、元島 洋子、竹内 恭子、徳永 貢、土田 温子、保阪 大也、矢澤 麻佐子、松田 彰 ほか「食事中の蔗糖含有量が2型糖尿病患者の食後血糖値に及ぼす影響」『糖尿病』第49巻第5号、一般社団法人 日本糖尿病学会、2006年、355-360頁、doi:10.11213/tonyobyo.49.355、2024年1月26日閲覧。
- ^ 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(レポート)2024年10月11日 。
- ^ 高橋 久仁子「食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム」『日本家政学会誌』第71巻第3号、一般社団法人 日本家政学会、2020年3月25日、200-205頁、doi:10.11428/jhej.71.200、2024年2月14日閲覧。
- ^ 高橋久仁子 (2010年6月6日). “砂糖-愛されるが故に嫌われ、甘いが故に苦い評判の不思議-”. 独立行政法人農畜産業振興機構. 2012年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年7月10日閲覧。
- ^ 橋本仁 (2010年3月6日). “砂糖への疑惑の払拭”. 独立行政法人農畜産業振興機構. 2012年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月14日閲覧。
- ^ 高田明和 (2012年12月10日). “砂糖の俗説を排す”. 独立行政法人農畜産業振興機構. 2021年1月27日閲覧。
- ^ Del-Ponte, Bianca; Quinte, Gabriela Callo; Cruz, Suélen; Grellert, Merlen; Santos, Iná S. (2019). “Dietary patterns and attention deficit/hyperactivity disorder (ADHD): A systematic review and meta-analysis” (英語). Journal of Affective Disorders 252: 160–173. doi:10.1016/j.jad.2019.04.061. hdl:10923/18896 .
- ^ Mantantzis, Konstantinos; Schlaghecken, Friederike; Sünram-Lea, Sandra I.; Maylor, Elizabeth A. (2019-06-01). “Sugar rush or sugar crash? A meta-analysis of carbohydrate effects on mood”. Neuroscience & Biobehavioral Reviews 101: 45–67. doi:10.1016/j.neubiorev.2019.03.016. ISSN 0149-7634 .
- ^ Wolraich, Mark L. (1995-11-22). “The Effect of Sugar on Behavior or Cognition in Children: A Meta-analysis” (英語). JAMA 274 (20): 1617. doi:10.1001/jama.1995.03530200053037. ISSN 0098-7484 .
- ^ Margaret L. Westwater; Paul C. Fletcher; Ziauddeen (2016-06-02). “Sugar addiction: the state of the science”. European Journal of Nutrition (Springer Nature) 55: 55-69. doi:10.1007/s00394-016-1229-6.
- ^ Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases (PDF) , pp.56-57; WHO/FAOレポートでは"free sugar"を"all monosaccharides(単糖類) and disaccharides(二糖類) added to foods by the manufacturer, cook or consumer, plus sugars naturally present in honey, syrups and fruit juices"と定義している。
- ^ 村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。
- ^ Moynihan, P. J.; Kelly, S. A. M. (2013). “Effect on Caries of Restricting Sugars Intake: Systematic Review to Inform WHO Guidelines”. Journal of Dental Research 93 (1): 8-18. doi:10.1177/0022034513508954. ISSN 0022-0345.
- ^ WHO opens public consultation on draft sugars guideline (世界保健機関)
- ^ WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks、2016年10月11日世界保健機関発表、2016年10月11日閲覧
- ^ “Guidelines on reducing sugar in food published for industry”. Public Health England (2017年3月30日). 2017年6月10日閲覧。
- ^ グローバル・ダンプ・ソフトドリンク・キャンペーン 消費者団体CSPI
- ^ Bottlers Agree to a School Ban on Sweet Drinks (The New York Times, 4 May 2006)
- ^ Limiting Ads of Junk Food to Children (New York Times, 18 July 2007)
- ^ Restrictions on TV advertising of foods to children come into force
- ^ Interagency Working Group Seeks Input on Proposed Voluntary Principles for Marketing Food to Children(FTC, April 28 2011)
参考文献
[編集]- 橋本仁・高田明和 編『砂糖の科学』(初版第1刷)朝倉書店〈食品の科学〉、2006年11月20日。ISBN 978-4-25443073-8。