「姓」の版間の差分
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2023年2月21日 (火) 22:16時点における版
姓(せい)は、主に東アジアの漢字文化圏・儒教圏ので用いられる血縁集団の名称[1][2]。
その範囲は地域や時代によって変動し、氏や名字といった他の血縁集団名と様々な階層関係にあった。近代以降、ヨーロッパなどの他の文化圏の血縁集団名、家系名の訳語としても用いられている。
日本や儒教圏における姓
日本の姓の歴史
姓は、名字・苗字(みょうじ)や氏(うじ)とも言い(姓と氏・名字という語は本来は別々の意味を有した。しかし、明治時代以降は、「氏」として戸籍に記載されて管理されている。現代ではほぼ同一の言葉として使われている。
江戸時代以前の身分ごとの姓(苗字)への習慣差
明治時代まで武家以外には姓(苗字)が無かったとされているが、誤りである[3]。正確には公的な場で名乗ること(苗字公称)が、武士の特権とされていただけ、農民などは私的な場以外で名乗ることが禁止(苗字公称の禁止)されていただけである。近世の日本の百姓は皆苗字を持っていたものの、使用するのは武士の関わらない仲間同士の場面(私的な場)に限られていた。小川寺(小平市)の梵鐘の寄進者名が最古の庶民層の名前の資料として残っている。この梵鐘は1686年(貞享3年)に鋳造され、小川寺の檀家である小川村の百姓らが寄進したものであるが、鐘の表面には寄進者名の農民らの苗字が全て付されている。公的な場で苗字を名乗ることが禁じられていたため、武士以外の苗字が記録に残されることが少なくなっているだけで、武士以外も苗字(姓)自体は私的に持っていた[4]。
江戸時代の1846年(弘化3年)時点で氷川神社(東京都中野区江古田)の造営奉納取立帳にも全村軒の戸主全員の「苗字」が記載されている。江戸から離れた現在の長野県松本平の南安曇郡の33村でも2345人中16人を除いて「苗字」が記載されている[3]。
明治時代における全国民に対する統一制度
1875年(明治8年)2月13日に太政官布告で全国民への「氏」の使用が義務化された。1876年(明治9年)3月17日に太政官指令で「夫婦別氏(妻に実家の氏を名乗らせること)」を国民すべてに適用することとした。その後、1898年(明治31年)に旧民法で「夫婦同氏」とされた。
儒教圏における夫婦別姓と子女の姓
どの国でも結婚、夫婦の姓には歴史と宗教が大きく関わっており、共通している歴史は男尊女卑で家父長制であったことで、 宗教は欧米ではキリスト教が、中国、韓国では儒教が大きく影響している。 女性は夫の支配下に入ると考えられていたため、キリスト教圏の国では女性が結婚と同時に夫の姓を名乗っていた。儒教圏における夫婦別姓は、妻は子を産むための「外の者」であるとの思想に基づいた夫婦別姓であった[1]。韓国、中国は「夫婦別姓」で、韓国では2008年から夫婦の合意がある時は、子供の姓は妻の姓も選べるようになったが、圧倒的に少ない[5][6]。中国大陸では数千年も子供は夫の姓を名乗ることが文化や伝統となっており、父親の姓を受け継ぐ典型的な男権社会である[7][2]。そして、中華人民共和国でも夫婦別姓制度の下で子供は夫の姓を名乗ることが習慣化していた。それでも一人っ子政策終了後の2018年時点には中国の上海市における新生児数約9万人のうち夫姓91.2%に対して、8.8%であるものの妻姓を名乗る子供も現れるようになっている[8]。
姓に用いる文字
日本
日本人の姓は、基本的に漢字である。ただし「一ノ瀬」などのように一部に片仮名が含まれているもの、「反り目」のように平仮名が含まれているもの、「佐々木」の「々」のように記号が含まれているものもある[9]。
漢字文化圏以外から日本に移り住み、日本国籍を取得した者の中には、元の姓の読みを当て字にする(有道出人等)、片仮名で表記する(ハーフナー・マイク等)など本人の意向に沿った姓を選択できるため、新しい苗字が出来ることもあるが、使える文字は戸籍統一文字に限定されている。
2016年時点で日本には数多くの名字が存在するが、上位5,000ほどの名字で人口の80%以上は網羅されるとされている[10]。
主な姓
日本
以下は、名字由来netによる2022年の調査に基づく日本国内に多い姓(上位30)である[11]。
順位 | 名字(読み) | 人数
(人)[11] |
備考 |
---|---|---|---|
1 | 佐藤(サトウ、サドウ) | およそ 184.2万 | 北海道・東北地方をはじめとする東日本(特に秋田県)や東九州に多い名字で、関西圏では大阪府・兵庫県を除きそれほど多くはない。沖縄県ではむしろ珍しい名字。 |
2 | 鈴木(スズキ、ススキ、ススギ) | およそ 177.8万 | 愛知県(特に三河)・静岡県及び南関東・東北地方に多い。南関東のランキングでは1位。発祥地は和歌山県海南市だが、西日本(特に九州・沖縄地方)にはさほど多くはない。 |
3 | 高橋(タカハシ、タカバシ) | およそ 139.2万 | この名字も東北地方をはじめ東日本(とくに岩手県の北上市周辺)や中四国地方に多い傾向がある。 |
4 | 田中(タナカ、ダナカ、デンチュウ) | およそ 132.0万 | 全国満遍なく分布し、大半の都道府県で上位にランクされるが、密度では西日本(沖縄県を除く)の方が多い。大阪府・山陰地方・福岡県のランキングでは1位であり、西日本全体でも1位である。東日本でも関東地方(特に埼玉県入間・比企地域)・甲信越地方(特に長野県)・北海道では密度が高い。 |
5 | 伊藤(イトウ) | およそ 106.0万 | 中京地方及び東北地方・関東地方・近畿地方・山陰地方に多い。件数は愛知県が最も多いが、密度では三重県の方が多い。愛知県名古屋市では市町村としては最も件数が多い。 |
6 | 渡辺(ワタナベ、ワタベ) | およそ 105.0万 | 発祥地は大阪市中央区で、沖縄県を除く全国に満遍なく分布するが、密度は山梨県や静岡県など東日本南部または中京地方・九州(特に大分県)に多い。 |
7 | 山本(ヤマモト) | およそ 103.6万 | どちらかといえば西日本に多いが、東北地方は多くない。北陸地方・山陽地方では1位、近畿地方・山陰地方では2位。東日本でも山梨県や東海地方(特に愛知県・静岡県)では上位にランクされる。 |
8 | 中村(ナカムラ) | およそ 103.2万 | 全国に分布する。どちらかといえば西日本に多い。特に近畿・九州地方に多い。 |
9 | 小林(コバヤシ、オバヤシ) | およそ 101.6万 | 関東・信越・近畿・中国地方に多い。 |
10 | 加藤(カトウ) | およそ 87.8万 | 発祥地は加賀国(石川県)だが、北陸地方ではそれほど多くない。中京地方には多く分布する。 |
11 | 吉田(ヨシダ、キチダ、ヨシタ) | およそ 81.8万 | 発祥は京都市左京区。沖縄県を除く全国に分布するが、北陸・近畿・四国地方で密度が高い。 |
12 | 山田(ヤマダ) | およそ 80.4万 | 特定の地方に多いというわけではなく、日本のどの地方においても平均的に件数が存在する。左記理由により、各種書類等の記入見本に山田姓が用いられる例は多い。 |
13 | 佐々木(ササキ) | およそ 66.1万 | 発祥地は滋賀県米原市だが、北海道・東北地方・福井県・中国地方に多い。 |
14 | 山口(ヤマグチ) | およそ 63.5万 | 全国万遍なく分布するが、西日本(特に西九州)で割合が高い。日本の都道府県名のうち、日本人の姓としては最も多い。 |
15 | 松本(マツモト) | およそ 61.9万 | 西日本や北関東に多く分布する。 |
16 | 井上(イノウエ、イカミ) | およそ 60.7万 | 西日本に多く分布する。 |
17 | 木村(キムラ) | およそ 56.8万 | 沖縄県を除く全国に分布する。 |
18 | 林(ハヤシ) | およそ 53.9万 | 北陸・近畿地方や山口県に多くに分布する。 |
19 | 斎藤(サイトウ) | およそ 53.5万 | |
20 | 清水(シミズ、キヨミズ、ショウズ) | およそ 52.6万 | |
21 | 山崎(ヤマザキ、ヤマサキ) | およそ 47.6万 | 西日本では「ヤマサキ」が多い。 |
22 | 森(モリ) | およそ 46.0万 | 西日本に多く分布する。 |
23 | 池田(イケダ、イケタ) | およそ 44.4万 | |
24 | 橋本(ハシモト) | およそ 44.2万 | |
25 | 阿部(アベ) | およそ 43.5万 | 東北地方に多く分布する。 |
26 | 石川(イシカワ、イシガワ) | およそ 42.2万 | |
27 | 山下(ヤマシタ、ヤマモト) | およそ 41.2万 | 西日本に多く分布する。 |
28 | 中島(ナカジマ、ナカシマ) | およそ 39.6万 | 中国地方や九州地方などでは「ナカシマ」が多い。 |
29 | 石井(イシイ、イワイ) | およそ 39.4万 | 関東地方に多く分布する。 |
30 | 小川(オガワ、コカワ、オカワ、コガワ) | およそ 39.2万 |
地域 | #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #6 | #7 | #8 | #9 | #10 |
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東日本全体 | 鈴木 | 佐藤 | 高橋 | 渡辺 | 伊藤 | 小林 | 田中 | 加藤 | 中村 | 吉田 |
西日本全体 | 田中 | 山本 | 中村 | 井上 | 松本 | 佐藤 | 吉田 | 伊藤 | 山田 | 山口 |
北海道・東北地方 | 佐藤 | 高橋 | 鈴木 | 佐々木 | 伊藤 | 渡辺 | 阿部 | 斎藤 | 吉田 | 千葉 |
関東地方 | 鈴木 | 佐藤 | 高橋 | 渡辺 | 小林 | 田中 | 中村 | 伊藤 | 加藤 | 吉田 |
中部地方 | 鈴木 | 伊藤 | 加藤 | 渡辺 | 佐藤 | 小林 | 山田 | 田中 | 山本 | 中村 |
近畿地方 | 田中 | 山本 | 中村 | 伊藤 | 吉田 | 井上 | 松本 | 山田 | 小林 | 山口 |
中国・四国地方 | 山本 | 田中 | 中村 | 高橋 | 井上 | 松本 | 藤井 | 佐藤 | 渡辺 | 山田 |
九州・沖縄地方 | 田中 | 中村 | 佐藤 | 山口 | 井上 | 吉田 | 山本 | 山下 | 松本 | 古賀 |
都道府県 | #1 | #2 | #3 | #4 | #5 |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 佐藤 | 高橋 | 佐々木 | 鈴木 | 伊藤 |
青森県 | 工藤 | 佐藤 | 佐々木 | 木村 | 成田 |
岩手県 | 佐藤 | 佐々木 | 高橋 | 千葉 | 菊池 |
宮城県 | 佐藤 | 高橋 | 鈴木 | 佐々木 | 阿部 |
秋田県 | 佐藤 | 高橋 | 佐々木 | 伊藤 | 鈴木 |
山形県 | 佐藤 | 鈴木 | 高橋 | 斎藤 | 伊藤 |
福島県 | 佐藤 | 鈴木 | 渡辺 | 斎藤 | 遠藤 |
茨城県 | 鈴木 | 佐藤 | 小林 | 渡辺 | 高橋 |
栃木県 | 鈴木 | 渡辺 | 佐藤 | 小林 | 高橋 |
群馬県 | 高橋 | 小林 | 佐藤 | 新井 | 清水 |
埼玉県 | 鈴木 | 高橋 | 佐藤 | 小林 | 新井 |
千葉県 | 鈴木 | 高橋 | 佐藤 | 渡辺 | 伊藤 |
東京都 | 鈴木 | 佐藤 | 高橋 | 田中 | 小林 |
神奈川県 | 鈴木 | 佐藤 | 高橋 | 渡辺 | 小林 |
新潟県 | 佐藤 | 渡辺 | 小林 | 高橋 | 鈴木 |
富山県 | 山本 | 林 | 吉田 | 中村 | 山田 |
石川県 | 山本 | 中村 | 田中 | 吉田 | 山田 |
福井県 | 田中 | 山本 | 吉田 | 山田 | 小林 |
山梨県 | 渡辺 | 小林 | 望月 | 清水 | 佐藤 |
長野県 | 小林 | 田中 | 中村 | 丸山 | 伊藤 |
岐阜県 | 加藤 | 伊藤 | 山田 | 林 | 渡辺 |
静岡県 | 鈴木 | 渡辺 | 山本 | 望月 | 杉山 |
愛知県 | 鈴木 | 加藤 | 伊藤 | 山田 | 近藤 |
三重県 | 伊藤 | 山本 | 中村 | 田中 | 鈴木 |
滋賀県 | 田中 | 山本 | 中村 | 西村 | 山田 |
京都府 | 田中 | 山本 | 中村 | 井上 | 吉田 |
大阪府 | 田中 | 山本 | 中村 | 吉田 | 松本 |
兵庫県 | 田中 | 山本 | 井上 | 藤原 | 松本 |
奈良県 | 山本 | 田中 | 吉田 | 中村 | 松本 |
和歌山県 | 山本 | 田中 | 中村 | 松本 | 前田 |
鳥取県 | 田中 | 山本 | 山根 | 松本 | 前田 |
島根県 | 田中 | 山本 | 佐々木 | 藤原 | 高橋 |
岡山県 | 山本 | 藤原 | 三宅 | 佐藤 | 田中 |
広島県 | 山本 | 藤井 | 田中 | 村上 | 高橋 |
山口県 | 山本 | 田中 | 中村 | 藤井 | 原田 |
徳島県 | 佐藤 | 近藤 | 吉田 | 森 | 田中 |
香川県 | 大西 | 田中 | 山下 | 高橋 | 山本 |
愛媛県 | 高橋 | 村上 | 越智 | 山本 | 渡部 |
高知県 | 山本 | 小松 | 山崎 | 浜田 | 高橋 |
福岡県 | 田中 | 中村 | 古賀 | 井上 | 山本 |
佐賀県 | 田中 | 山口 | 古賀 | 松尾 | 中島 |
長崎県 | 山口 | 田中 | 中村 | 松尾 | 松本 |
熊本県 | 田中 | 中村 | 松本 | 村上 | 坂本 |
大分県 | 佐藤 | 後藤 | 河野 | 小野 | 渡辺 |
宮崎県 | 黒木 | 甲斐 | 河野 | 日高 | 佐藤 |
鹿児島県 | 中村 | 山下 | 田中 | 前田 | 東 |
沖縄県 | 比嘉 | 金城 | 大城 | 宮城 | 新垣 |
中華人民共和国
2020年時点で、姓は約3000種類あるが、約100種が常用されている[13]。
言語圏ごとの姓と名の順序と表記
姓と名の表記の順は、表記対象の人がどの国の人か、どの言語圏に属しているか、ということや、それを実際に表記する言語、また書籍の種類(一般の書籍なのか、学術本なのか等)や雑誌の種類(一般人向けの雑誌なのか、科学誌なのか、その中でも具体的にどの科学誌なのか)等々の種類の影響も受ける。
日本人が、日本人の姓名を漢字やかなを用いて表記する時は、姓-名の順で表記する。中国をはじめとする漢字文化圏およびマジャル人(ハンガリー人)の人名も原語表記では姓-名で表記されるが[14]、それ以外のヨーロッパ諸言語(英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語等)では名-姓で表記される。
2000年に文部省国語審議会は、日本人の人名表記についてはローマ字表記においても「姓―名」の順が望ましいと答申した[15]。
日本サッカー協会ではこの答申に従って2012年4月から選手名を姓-名とし、姓を大文字にして表記している[16]。
科学技術情報流通技術基準(SIST)では「(論文の)参照文献欄の欧文著者名の記載順は「名・姓」順ではないのですか」という問いに対し次のように回答。
科学技術情報流通技術基準(SIST)はまた、「日本語論文の参照文献欄で外国人名をカタカナ表記する場合、「姓・名」順ですか。複数著者名の場合の区切り記号は何ですか」との問いに対し、次のように回答した。
SIST 02(参照文献の書き方)の「4.1.1 個人著者名(1)」の記載例「ケネディ、ジョン F.」のように、欧文著者名と同様に「姓・名」順です。カタカナ氏名を含む複数著者名の場合は、SISTでは規定していませんが、欧文著者名の場合を当てはめて以下の例に示すようにセミコロンで区切ります。
- (例) 森康夫:ケネディ、ジョン F.:オバマ、バラク[18]
日本政府は2019年10月に「公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について」を発表し、2020年1月から政府の各府省庁の公用文におけるローマ字表記においては「姓・名」の順に統一することとした[19]。
グローバル社会の進展に伴い、人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し、生かしていくことがますます重要となっており、このような観点から、日本人の姓名のローマ字表記については、「姓-名」という日本の伝統に即した表記としていくことが大切である。各府省庁が作成する公用文等において日本人の姓名をローマ字表記する際に、姓と名を明確に区別させる必要がある場合には、姓を全て大文字とし(YAMADA Haruo)、「姓-名」の構造を示すこととする。 — 令和元年(2019年)10月25日関係府省庁申合せ
これを受けて日本放送協会(NHK)も、2020年3月30日から、放送やWEBサイトでの表記を「姓・名」の順に統一することとしている[20]。
英語や西洋言語における日本人姓名の順序
英語では、存命中または最近死去した日本人の姓名に関して、一般的には姓が最後(名-姓の順序)でマクロンを付さずに与えられる[21]。歴史上の人物では名字が最初に(可能ならマクロンありで)付けられる[注釈 1][22]。
日本人は通常、英語や西洋言語を使う際に、伝統的な日本の姓名順序とは逆の「名-姓」という順序で姓名を紹介する[23][24]。明治時代の日本で始まったもので、多くの英語出版物では現代日本人の姓名順序は姓が後ろになっている。文部科学省の国語審議会は、この慣習が明治時代に定着したと次のように書いている。
日本人の姓名をローマ字で表記するときに、本来の形式を逆転して「名-姓」の順とする慣習は、明治の欧化主義の時代に定着したものであり、欧米の人名の形式に合わせたものである。現在でもこの慣習は広く行われており、国内の英字新聞や英語の教科書も、日本人名を「名-姓」順に表記しているものが多い。(中略)一般的には「名-姓」順とし、歴史上の人物や文学者などに限って「姓-名」順で表記している場合もある[25]。
明治時代に起こった脱亜入欧の側面として、日本人は欧米言語において西洋の「名-姓」という順序を採用し、当時の日本が後進国ではなく先進国であることを世界により広く知らしめることになった。球技などの国際的イベントに参加する際も、日本人は西洋の「名-姓」順序を使用していた[26]。日本人には実際の名の短縮形となるニックネームがしばしばあり、彼らは外国人と一緒の時にこれらの名前を使うことも多い。 例えば、「カズユキ」は自分自身を「カズ」と呼んだりもする[24]。これらの名前はミドルネームとは見なされない[24]。
大半の海外出版物では存命する日本人の姓名は逆さになっており、大半の日本人は海外販売するもの(書籍など)に書き込む自分の姓名を逆さにしている。海外と取引を行う日本企業の幹部役員は通常2種類の名刺を持っており、1つが国内で使う日本語だけのもので、もう1つが外国人向けで西洋式に「名-姓」となっているものである。海外の著名な報道出版物では、西洋式順序が用いられている[27][26]。
歴史上の人物は、英語でも名字が最初に呼ばれることが多い[25]。これは特に、日本に関する学術著作の中でそうなっている[26]。多くの学術著作は一般的に日本人の姓名について日本式の順序を使用しており、もしも著者が日本人学者ならば学術著作は日本式の順序を使用する可能性がより高い。『ジャパニーズ・ネームズ』の著者ジョン・パワーは「日本語を話したり読んだりできる人は、日本人の姓名を西洋式の順序に変えることに強い抵抗がある」と記した[24]。これら作家によって書かれた書籍には、日本人の姓名がオリジナルの順序であるという注釈がしばしば入っている[24]。一部の海外書籍には、一貫した姓名順序の慣行がない。『ルック・ジャパン』の佐伯シズカは「これは作家や翻訳者にとって頭痛の種であるだけでなく、読者にとっても混乱の元となっている」と述べた[26]。
東京に本部を置くプロの執筆者団体、Society of Writers, Editors and Translators(SWET)[28]のリン・E・リッグスは「あなたが日本に関する本を出版する場合、あなたは日本について知りたいと思っている人々に向けてそれを出版しています。それで彼らは、何か新しい事または新しいとされている何かを学ぶことに興味があるのです」と述べた。
佐伯は2001年に、大半の日本人が英語を書く際には西洋式順序を使っているとしつつも、20世紀に日本は経済大国になったことで、一部の人達が日本式順序の使用促進を始めたと述べている。SWETによって書かれた日本に関する英語著作物を作るための1998年ガイド『ジャパン・スタイルシート』は、翻訳者が姓名順序の一貫性を促したいとして、できる限り普段から日本式の姓名順序を使うよう主張している。
1987年、日本の英語教科書出版社の1社が日本式順序を使用し、2001年では日本の英語教科書出版社の8社のうち6社が日本式順序を使用した。2000年12月、文部科学省の国語評議会は「一定の書式に従って書かれる名簿や書類などは別として、一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましい」[25]として、英語著作物で日本式の姓名順序を使用するよう推奨した。同時に 、個人名のどの部分が名字でどの部分が名前であるかを明確にするために、名字を大文字にする(YAMADA Haruo)ことやコンマを使用する(Yamada,Haruo)との提言もなされた[25]。
英語における日本の姓名の優先順位に関して文化庁が行った2000年1月の「国語に関する世論調査」[29][26]では、34.9%が日本式の順序を優先し、30.6%が西洋式の順序を優先し、29.6%がどちらでもなかった。
1986年に国際交流基金は、すべての刊行物に日本式の姓名順序を使用することを決定した。 国際交流基金の出版部広報は2001年頃に、よく読まれる英語話者の新聞を含む一部のSWET出版物は、西洋式順序を使用し続けると述べた。 2001年時点で同局のスタイルシートでは、状況に応じて異なる姓名順序を使用することを推奨している。例えば、国際会議の文書など、日本に精通していない読者向けの出版物には西洋式の順序を使用するよう提唱している[26]。
脚注
注釈
- ^ 例えば、平清盛(Taira no Kiyomori)、徳川家康(Tokugawa Ieyasu)、坂本龍馬(Sakamoto Ryōma)、東郷平八郎(:Tōgō Heihachirō)など。詳細は英語版en:Japanese_name#Historical_namesを参照。おおむね江戸時代幕末までに誕生した人物に適用され、明治生まれだと野口英世もHideyo Noguchiの形になる。
出典
- ^ a b “夫婦別姓 ―家族と多様性の各国事情 - とよなか男女共同参画推進センターすてっぷWebサイト”. toyonaka-step.jp (2022年4月18日). 2023年2月7日閲覧。
- ^ a b Inc, PRESIDENT (2022年2月5日). “中国が世界にずっと先駆けて「夫婦別姓」を実現した理由”. PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン). 2023年2月7日閲覧。
- ^ a b 豊田武『苗字の歴史』中央公論社、1971年、145頁。ISBN 978-4121002624。
- ^ 教育委員会教育部 図書館 (2011年10月17日). “市史編さんこぼれ話No.18 「近世の百姓に苗字はあったのか」”. 東京都小平市公式ホームページ. 2022年11月11日閲覧。
- ^ “Worldwide Wan > 夫婦別姓-韓国の事情 ◆金ディオン”. wan.or.jp. 2023年2月7日閲覧。
- ^ IPPNEE (2021年10月14日). “子どもの姓はどうなる?韓国が「夫婦別姓」である理由”. Cosmopolitan. 2023年2月7日閲覧。
- ^ “中国、兄は父親の姓、弟は母親の姓を名乗るパターンが増加中--人民網日本語版--人民日報”. j.people.com.cn. 2023年2月7日閲覧。
- ^ “中国一人っ子政策終了で異変、妻の姓名乗る子供増える”. NEWSポストセブン. 2023年2月7日閲覧。
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参考文献
- Power, John. "Japanese names."(Archive) The Indexer. June 2008. Volume 26, Issue 2, p. C4-2-C4-8(7 pages). ISSN 0019-4131. Accession number 502948569. Available on EBSCOHost.
関連項目
外部リンク
- 日本の姓の全国順位データベース - 静岡大学総合情報処理センター