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「気管切開」の版間の差分

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{{混同|輪状甲状靱帯切開}}
'''気管切開'''(きかんせっかい、tracheotomy)とは、[[気管]]とその上部の[[皮膚]]を切開してその部分から気管にカニューレを挿入する[[気道確保]]方法。
{{Infobox medical intervention
| Name = 気管切開
| Image = Traqueostomia.png
| Caption = 番号の説明':<br />
1 – [[声帯]]<br />
2 – {{仮リンク|甲状軟骨|en|Thyroid cartilage|redirect=1}}<br />
3 – {{仮リンク|輪状軟骨|en|Cricoid cartilage|redirect=1}}<br />
4 – [[気管輪]]<br />
5 – バルーンカフ
| ICD10 = 0B110F4
| ICD9 = {{ICD9proc|31.1}}
| MeshID = D014140
| MedlinePlus = 002955
| OtherCodes =
|Pronunciation={{IPAc-en|ˌ|t|r|eɪ|k|i|ˈ|ɒ|t|ə|m|i}}, {{Small|イギリス英語}} {{IPAc-en|ˌ|t|r|æ|k|i|-}}}}
'''気管切開'''(きかんせっかい、{{Lang-en-short|tracheotomy or tracheostomy}})または気管切開術は、{{仮リンク|外科的気道確保|en|surgical airway management|redirect=1}}の一種である。首の前面を切開し、[[気管]]を切開して直接、[[気道確保|気道を開く]]手術である。出来上がった[[ストーマ]](穴)は、呼吸をするためのチューブ<ref>{{Cite web |last1=Molnar |first1=Heather |title=Types of Tracheostomy Tubes |date=11 April 2023 |url=http://www.hopkinsmedicine.org/tracheostomy/about/types.html |language=en |access-date=2024-03-23 |publisher=[[ジョン・ホプキンス大学]]}}</ref>の挿入経路として用いることができ、単独で{{仮リンク|気道|en|airway|redirect=1|label=呼吸をするための経路}}としても機能する。このチューブ(気切チューブ)があれば、鼻や口を介すること無く呼吸が可能となる。一方、[[声帯]]を空気が通過しない、もしくは流量が減少するため、発声は出来なくなるか、制限される。気管切開は複雑な手技とされ、[[外科医|外科系医師]]によって[[手術室]]で行われるのが望ましい。緊急時には、この手技は[[輪状甲状靱帯切開]]よりも合併症の発症率が高いため、利点はない。しかし、長期間の[[換気 (医学)|換気]]を必要とする患者では好まれる手技である<ref name=":32">{{Cite web|和書 |title=外科的気道確保 - 21. 救命医療 |url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/21-%E6%95%91%E5%91%BD%E5%8C%BB%E7%99%82/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%81%9C%E6%AD%A2/%E5%A4%96%E7%A7%91%E7%9A%84%E6%B0%97%E9%81%93%E7%A2%BA%E4%BF%9D |website=MSDマニュアル プロフェッショナル版 |access-date=2023-07-03 |language=ja-JP}}</ref>。


==用語と語源について==
== 適応 ==
[[ファイル:Tracheostomy NIH.jpg|frame|図Aは、頸部の側面図と、気管(気管支)に気管切開チューブを正しく挿入した状態を示す。図Bは、気管切開を行った患者の外観を示す。|alt=]]
気管切開は上気道の状態に関わらず確実な換気が得られる一方、生体への[[侵襲]]が大きいという欠点がある。そのため、気道確保が必要な[[患者]]に最初に気管切開を行うことは原則としてない。以下に挙げる条件が適応となりうる。
気管切開(tracheotomy)の[[語源学|語源]]は、気管を意味するtrachea([[ギリシア語|ギリシャ語]] τραχεία(tracheía))と「切る」を意味する語根 tom-(ギリシャ語 τομή(''tomḗ)''から)という2つのギリシャ語に由来する<ref name=":0">{{Cite web |author=Romaine F. Johnson |date=6 March 2003 |url=http://www.bcm.edu/oto/grand/03_06_03.htm |title=Adult Tracheostomy |publisher=Department of Otolaryngology–Head and Neck Surgery, [[ベイラー医科大学|Baylor College of Medicine]] |location=Houston, Texas |archive-url=https://web.archive.org/web/20080517073046/http://www.bcm.edu/oto/grand/03_06_03.htm |archive-date=17 May 2008 |access-date=2008-05-17}}</ref>。別名のtracheostomyという言葉は、「口」を意味する語根stom-(ギリシャ語のστόμα(stóma)から)を含み、半永久的または永久的な開口部を作ること、および開口部そのものを指す。上記の用語の使い分けは曖昧である。その曖昧さの一因は、[[ストーマ]](開口部)を造設した時点で、そのストーマ(開口部)が永久的なものであるかどうかが不明確であるためである<ref name=":1">{{Cite web |author1=Jonathan P Lindman |author2=Charles E Morgan |date=7 June 2010 |url=http://emedicine.medscape.com/article/865068-overview |title=Tracheostomy |publisher=WebMD |access-date=2024-03-23}}</ref>。
# [[気管挿管]]が長期にわたっている場合
#: 気管挿管を長期にわたりおこなっていると、カフ圧によって気管粘膜が障害され、[[潰瘍]]や狭窄を起こしたり、感染の原因となったりすることもある。そのため、長期にわたりそうな場合は気管切開に変更する。
# 気道確保が必要な症例で気管挿管ができない場合
#: 原則として気管切開は緊急時の第一選択とはならないが、上気道の損傷や[[腫瘍]]による狭窄・閉塞などで挿管できない場合や、[[脊髄損傷|頚髄損傷]]の恐れがあり頚部を伸展できない場合は気管切開によって確実に気道を確保することが有効となる。


気管切開の開口部から気管内には通常、'''気管切開チューブ'''(略称: 気切チューブ)が気管内に留置される。このチューブは[[カニューレ]]または[[トロカール]]と呼ばれることもある。
== 手技 ==
気管切開は複雑な手技とされ、[[外科医]]によって[[手術室]]で行われるのが望ましい。緊急時には、この手技は[[輪状甲状靱帯切開]]よりも合併症の発症率が高いため、利点はない。しかし、長期間の換気を必要とする患者では好まれる手技である<ref name=":3">{{Cite web|和書|title=外科的気道確保 - 21. 救命医療 |url= https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/21-%E6%95%91%E5%91%BD%E5%8C%BB%E7%99%82/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%81%9C%E6%AD%A2/%E5%A4%96%E7%A7%91%E7%9A%84%E6%B0%97%E9%81%93%E7%A2%BA%E4%BF%9D |website=MSDマニュアル プロフェッショナル版 |access-date=2023-07-03 |language=ja-JP}}</ref>。


==適応==
特に輪状甲状靭帯切開は気管挿管ができない場合に生命を左右する重要な手技であり、[[外科学|外科系医師]]でなくても患者の命を預かる[[臨床医]]として知っているべき手技である<ref>[http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse4212.pdf 挿管困難で呼ばれた時に何ができますか] - 中外医学社、2024年2月3日閲覧。</ref>。そのため、[[内科学|内科医師]]が[[当直]]で呼吸困難の患者に対応する際に輪状甲状靭帯切開を施行しなくてはならない場合がある<ref>{{Cite journal|和書|author=吉富淳, 春田純一, 齊藤岳児, 牛越博昭, 森田浩之, 中村真潮 |date=2019-02 |url=https://doi.org/10.2169/naika.108.301 |title=救急診療の最前線 |journal=日本内科学会雑誌 |ISSN=00215384 |publisher=日本内科学会 |volume=108 |issue=2 |pages=301-309 |doi=10.2169/naika.108.301 |CRID=1390846609803781888}}</ref>。
気管切開を行う主な理由は以下の4つである<ref name=":1" />。


# 緊急時の[[気道確保]]
皮膚を切開して[[組織 (生物学)|皮下組織]]や[[筋肉]]を剥離し、気管を露出する。気管を逆U字型に切開し、その部分からカニューレを挿入してカフで固定する。その後、カニューレを皮膚と縫合することで固定し、皮膚も一部縫合した上で開口部を[[ガーゼ]]で覆う。
# 長期間の[[機械換気 (医学)|人工呼吸]]のための気道確保
# 機能的または物理的な[[上気道閉塞]]
# 気管または気管支分泌物の[[気道クリアランス|クリアランス]]の低下/不全(自力での[[喀痰]]排泄能低下)


急性期(短期間)の気管切開の[[適応 (医学)|適応]]は、重度の{{仮リンク|顔面外傷|en|facial trauma|redirect=1}}、頭頸部の腫瘍(例.[[悪性腫瘍|がん]]、{{仮リンク|鰓裂嚢胞|en|branchial cleft cyst|redirect=1}})、急性{{仮リンク|血管浮腫|en|angioedema|redirect=1}}、および頭頸部の[[炎症]]などである。
気管切開は緊急時を除いて気管挿管によって気道確保を行った上で実施する。そして、挿管されたチューブを抜くと同時に気管切開用のチューブを挿入し、呼吸管理することとなる。
[[ファイル:Medical ventilator 001.jpg|左|サムネイル|気管切開中の患者は、[[人工呼吸器]]による呼吸補助を必要とすることがある。]]
慢性期(長期間)の気管切開の適応には、長期的な[[機械換気 (医学)|機械換気]]と[[気管内吸引|気管吸引]]が必要な場合などがある([[昏睡]]患者、頭頸部の大手術後など)。気管切開を行うことで、[[鎮静薬]]や[[昇圧剤|昇圧薬]]の投与量を大幅に減らすことができ、[[集中治療室]](ICU)での入院期間も短縮できる<ref>{{Cite thesis|last1=Eberhardt|first1=Lars Karl|title=Dilatational Tracheostomy on an Intensive Care Unit|date=2008|url=http://vts.uni-ulm.de/doc.asp?id=6821|publisher=Universität Ulm|type=Dissertation}}</ref>。


極端な例では、{{仮リンク|持続気道陽圧|en|continuous positive airway pressure|redirect=1|label=CPAP療法}}に耐えられない重症の{{仮リンク|閉塞性睡眠時無呼吸|en|obstructive sleep apnea|redirect=1|label=閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)}}の治療法として適応されることがある。気管切開がOSAに有効な理由は、気管切開が上気道を完全に迂回する唯一の手術法だからである。この手術は、1980年代まではOSAに対して一般的に行われていた。以後は、{{仮リンク|口蓋垂軟口蓋咽頭形成術|en|uvulopalatopharyngoplasty|redirect=1}}、{{仮リンク|オトガイ舌筋前方移動術|en|genioglossus advancement|redirect=1|label=オトガイ舌筋前方移動術(genioglossus advancement)}}、{{仮リンク|上下顎前方移動術|en|maxillomandibular advancement|redirect=1|label=上下顎前方移動術(maxillomandibular advancement)}}などの他の手術が代替手術として提案されるようになった。
緊急時には輪状甲状靭帯に針を穿刺して気道を確保する。それだけでは気道確保は不十分であることが多いため、その後は気管内カニューレに差し替えて呼吸管理する。その際は輪状甲状靭帯上から気管にアプローチしていく。なお、輪状甲状靭帯の切開は気道狭窄を起こしやすいため、長期にわたって呼吸管理する必要がある場合は通常の気管切開に移行する。


長時間の人工呼吸が必要な場合は、通常、気管切開が考慮される。この処置を行うタイミングは、臨床状況や医療従事者の嗜好に左右される。2000年に行われた国際的な多施設共同研究によると、人工呼吸を開始してから気管切開を受けるまでの期間の中央値は11日であった<ref>{{Cite journal | vauthors = Esteban A, Anzueto A, Alía I, Gordo F, Apezteguía C, Pálizas F, Cide D, Goldwaser R, Soto L, Bugedo G, Rodrigo C, Pimentel J, Raimondi G, Tobin MJ | title = How is mechanical ventilation employed in the intensive care unit? An international utilization review | journal = American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine | volume = 161 | issue = 5 | pages = 1450–8 | date = May 2000 | pmid = 10806138 | doi = 10.1164/ajrccm.161.5.9902018 }}</ref>。病院や医療提供者によって定義は異なるが、早期気管切開は10日未満(2~14日)、晩期気管切開は10日以上と考えられる。
== 合併症 ==
{{節スタブ}}
* [[感染]]
: 気管が外部と露出しているため、感染のリスクも高くなる。そのため、ガーゼの交換時は感染が起こらないよう清潔な状態で行う必要がある。
* 気道分泌の増加
: 気管を刺激するため、分泌物が多量となる。そのため、定期的に吸引して閉塞しないようにしなければならない。


==代替手段==
== スピーキングカニューレ ==
[[非侵襲的人工呼吸]]の一種である二相性[[キュイラス換気]]を行えば、ごく一部のケースでは気管切開を回避することができる<ref name=Linton2005>{{Cite journal|last=Linton|first=DM|title=Cuirass ventilation: a review and update|journal=Critical Care and Resuscitation|volume=7|issue=1|pages=22–8|year=2005|doi=10.1016/S1441-2772(23)01566-1 |pmid=16548815|doi-access=free}}</ref>。
気管切開を行うと当然ながら[[カニューレ]]([[w:Cannula|Cannula]])を介して呼吸が行われる。そのため、[[声帯]]を気流が流れることがなく、発声が不可能となってしまう。それを解決するために、スピーキングカニューレ(もしくはスピーチカニューレ®<ref>[http://www.kokenmpc.co.jp/products/medical_plastics/tracheal_tube/speech_cannula/ スピーチカニューレ] - KOKEN、2018年3月31日閲覧</ref>)が用いられることがある。スピーキングカニューレでは一部の気流を上気道にも流すことで発声を可能とすることができる。発声ができるようになるには訓練をする必要もあるが、言語によるコミュニケーションが可能になることは[[クオリティ・オブ・ライフ]]に大きく貢献する。


== 脚注 ==
==器材==
[[ファイル:Tracheostomy tube.jpg|thumb|複管式気切チューブの部品。膨張式カフ(右上)付き外筒(上段)、内筒(中央)、オブチュレーター(下段)]]
<references />
気管切開チューブは、単管式でも複管式、カフ付きとカフなしがある。複管式の気管切開チューブは、外側カニューレ(または外筒)、内側カニューレ(内筒)、およびオブチュレータから構成される。オブチュレーターは、気管切開チューブを挿入する際に、外側カニューレの留置ガイドとして使用され、外側カニューレが所定の位置に装着されると取り外される。外側カニューレはそのまま留置され続けるが、分泌物がたまるため、その際は、内側カニューレを取り外して洗浄するか、交換する。単管式気管切開チューブには、取り外し可能な内側カニューレはなく、狭い気道に適している。カフ付き気管切開チューブは、チューブの先端に膨らませることができるバルーンがあり、気管を密閉して[[陽圧換気]]を可能にし、[[誤嚥]]を防ぐ。


気管切開を行うと[[カニューレ]]を介して呼吸が行われる。そのため、[[声帯]]を気流が流れることがなく、発声が不可能となってしまう。それを解決するために、スピーキングカニューレ(もしくはスピーチカニューレ<ref>[http://www.kokenmpc.co.jp/products/medical_plastics/tracheal_tube/speech_cannula/ スピーチカニューレ] - KOKEN、2018年3月31日閲覧</ref>)が用いられることがある。これらのカニューレには、1個または数個の柵状の穴が空いており、このタイプは発声が可能である<ref name="Taylor">Taylor, C. R., Lillis, C., LeMone, P., Lynn, P. (2011) Fundamentals of nursing: The art and science of nursing care. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins, page 1382–1383, 1404.</ref>。スピーキングカニューレでは一部の気流を上気道にも流すことで発声を可能とすることができる。発声ができるようになるには訓練をする必要もあるが、言語によるコミュニケーションが可能になることは[[クオリティ・オブ・ライフ]]に大きく貢献する。
{{Respiratory system procedures}}
{{Medical-stub}}


特殊な気管切開チューブバルブ(Passy-Muir弁<ref name=":8">{{Cite journal|vauthors= Passy V, Baydur A, Prentice W, Darnell-Neal R|title=Passy-Muir tracheostomy speaking valve on ventilator-dependent patients|journal=The Laryngoscope|volume=103|issue= 6|pages=653–8|year=1993|pmid=8502098|doi=10.1288/00005537-199306000-00013|s2cid=22397705}}</ref>など)は、患者の発話を補助するために作られた。患者は一方向弁のあるチューブから息を吸い込むことができる。息を吐くと、圧力によってバルブが閉じ、チューブの周りの空気が[[声帯]]を通過し、音声が発生する<ref name="Cullen1963">{{Cite journal|vauthors=Cullen JH|title=An evaluation of tracheostomy in pulmonary emphysema|journal=Annals of Internal Medicine|volume=58|issue=6|pages=953–60|year=1963|pmid=14024192|doi=10.7326/0003-4819-58-6-953}}</ref>。

==手術手技==
===観血的気管切開===
気管切開は典型的には観血的手技(open surgical tracheotomy: '''OST''')により、通常、[[無菌]]の手術室で行われる。最適な患者の体位は、肩の下にクッションを置き、頸部を伸ばすことである([[甲状腺位]])。一般的には、{{仮リンク|胸骨上切痕|en|suprasternal notch|redirect=1}}の二横指上を横切開する。あるいは、甲状軟骨から胸骨上ノッチのすぐ上まで、首の正中を縦切開してもよい。皮膚、皮下組織、[[舌骨下筋]]を脇に避け、[[甲状腺峡部]]を露出させ、切離ないしは上方に牽引する。輪状軟骨を同定し、気管を安定させ前方に引っ張るための気管フックを留置した後、軟骨輪の間から、または複数の気管輪を垂直に横切って(十字切開)、気管を切開する。チューブを挿入しやすくするために、気管軟骨輪の一部を切除することもある。切開が完了したら、適切なサイズのチューブを挿入する。チューブを人工呼吸器に接続し、十分な換気と酸素化を確認する。その後、固定器具を気管切開チューブにとりつけ、紐で結びつけるか、皮膚に縫合、またはその両方で頸部に装着する<ref name=":4">{{Cite book|title=CURRENT Diagnosis & Treatment in Otolaryngology—Head & Neck Surgery, 3e|last=Lalwani|first=Anil K.|publisher=McGraw-Hill|year=2012|isbn=978-0-07-162439-8|location=New York, NY|pages=Yu KY. Chapter 38. Airway Management & Tracheotomy}}</ref><ref name=":6">{{Cite book|title=Zollinger's Atlas of Surgical Operations, 10th edition|last1=Ellison|first1=E. Christopher|last2=Zollinger, Jr|first2=Robert M.|publisher=McGraw-Hill|year=2016|isbn=978-0-07-179755-9|location=New York, NY|pages=Chapter 120- Tracheotomy, Chapter 121- Tracheotomy, Percutaneous Dilational}}</ref>。

===経皮的気管切開===
最初に広く認められた経皮的気管切開術(Percutaneous dilatational tracheotomy: '''PDT''')は、1985年にニューヨークの外科医Pat Ciagliaによって報告された<ref name="Ciaglia1985">{{Cite journal | vauthors = Ciaglia P, Firsching R, Syniec C | title = Elective percutaneous dilatational tracheostomy. A new simple bedside procedure; preliminary report | journal = Chest | volume = 87 | issue = 6 | pages = 715–9 | date = June 1985 | pmid = 3996056 | doi = 10.1378/chest.87.6.715 | s2cid = 27125996 }}</ref>。次に広く使われるようになったのは、1989年にオーストラリアの集中治療専門医{{仮リンク|ビル・グリッグス|en|Bill Griggs|label=ビル・グリッグス(Bill Griggs)}}によって開発された方法である<ref name="Griggs1990">{{Cite journal | vauthors = Griggs WM, Worthley LI, Gilligan JE, Thomas PD, Myburg JA | title = A simple percutaneous tracheostomy technique | journal = Surgery, Gynecology & Obstetrics | volume = 170 | issue = 6 | pages = 543–5 | date = June 1990 | pmid = 2343371 }}</ref>。1995年にはFantoniが経皮的気管切開の経喉頭アプローチを開発した<ref name=":7">{{Cite web|url=http://www.translaryngealtracheostomyfantoni.it/|title=Translaryngeal Tracheostomy- TLT Fantoni method|website=www.translaryngealtracheostomyfantoni.it|access-date=2018-12-21|archive-date=11 September 2017|archive-url=https://web.archive.org/web/20170911163221/http://translaryngealtracheostomyfantoni.it/}}</ref>。Griggs法とCiaglia Blue Rhino法が現在使用されている2つの主な手技である。これら2つの手技の間で多くの比較研究が行われているが、明確な差は現れていない<ref name="Ambesh2002">{{Cite journal|vauthors=Ambesh SP, Pandey CK, Srivastava S, Agarwal A, Singh DK|date=December 2002|title=Percutaneous tracheostomy with single dilatation technique: a prospective, randomized comparison of Ciaglia blue rhino versus Griggs' guidewire dilating forceps|journal=Anesthesia and Analgesia|volume=95|issue=6|pages=1739–45, table of contents|doi=10.1097/00000539-200212000-00050|pmid=12456450|s2cid=22222451|doi-access=free}}</ref>。OSTに対するPDTの利点は、患者のベッドサイドで手技を行えることである。これにより、手術室での処置に必要なコストや時間・人員を大幅に削減することができる<ref name=":6" />。PDTの[[禁忌 (医学)|禁忌]]は、気管切開部位の感染、コントロールされていない出血性疾患、不安定な心肺状態、安静を維持できない患者、気管喉頭構造の解剖学的異常などである<ref name=":0" />。

==リスクと合併症==
気管切開には、他の外科手術と同様、難しい症例もある。子供の手術は、体が小さいのでより難しい。首が短かったり、甲状腺が大きかったりすると、気管に到達するのが難しくなる<ref name="Wharton1897">{{Cite journal | vauthors = Rosen H | title = On enactment | journal = Journal of the American Psychoanalytic Association | volume = 40 | issue = 4 | pages = 1228–9 | date = January 1897 | pmid = 1430766| pmc = 1430766 | doi = 10.1097/00000441-189701000-00008 }}</ref>。首に異常のある患者、肥満の患者、大きな[[甲状腺腫]]のある患者には、他にも問題点がある。

起こりうる[[合併症]]には、[[出血]]、[[気道確保]]失敗、{{仮リンク|皮下気腫|en|subcutaneous emphysema|redirect=1}}、[[創部感染]]、ストーマの[[蜂巣炎]]、[[気管輪]]の損傷、気管切開チューブの位置異常、[[気管支痙攣]]などがある<ref name="Ferlito2003">{{Cite journal|date=December 2003|title=Percutaneous tracheotomy|journal=Acta Oto-Laryngologica|volume=123|issue=9|pages=1008–12|doi=10.1080/00016480310000485|pmid=14710900|vauthors=Ferlito A, Rinaldo A, Shaha AR, Bradley PJ|s2cid=23470798}}</ref>。

早期合併症には、感染、出血、{{仮リンク|縦隔気腫|en|pneumomediastinum|redirect=1}}、[[気胸]]、{{仮リンク|気管食道瘻|en|tracheoesophageal fistula|redirect=1}}、[[反回神経]]損傷、チューブの位置異常などがある。遅発性合併症には、{{仮リンク|気管腕頭動脈瘻|en|Tracheoinnominate fistula|redirect=1}}、{{仮リンク|気管狭窄|en|tracheal stenosis|redirect=1}}、遅発性気管食道瘻、気管皮膚瘻などがある<ref name=":4" />。

2013年の[[システマティックレビュー]](1985年から2013年4月までの発表症例)では、経皮的拡張気管切開術(PDT)の合併症と危険因子が調査され、死亡の主な原因は[[出血]](38.0%)、気道合併症(29.6%)、気管穿孔(15.5%)、[[気胸]](5.6%)であった<ref name=":2">{{Cite journal | vauthors = Simon M, Metschke M, Braune SA, Püschel K, Kluge S | title = Death after percutaneous dilatational tracheostomy: a systematic review and analysis of risk factors | journal = Critical Care | volume = 17 | issue = 5 | pages = R258 | date = October 2013 | pmid = 24168826 | pmc = 4056379 | doi = 10.1186/cc13085 | doi-access = free }}</ref>。2017年に行われた同様のシステマティックレビュー(1990年から2015年の症例)では、観血的気管切開術(OST)とPDTの両方における致死率が調査され、2つの術式間で死亡率と死因が同程度であることが確認された<ref name=":5" />。

出血はまれであるが、気管切開後死亡の原因となる可能性が最も高い。出血は通常、気管と近傍の血管との間の異常な交通である{{仮リンク|気管腕頭動脈瘻|en|Tracheoinnominate fistula|redirect=1}}が原因で起こり、術後3日から6週間の間に現れることがほとんどである。瘻孔は、器具の位置の誤り、褥瘡や粘膜損傷を引き起こす高いカフ圧、低位の気管切開、頸部の運動の繰り返し、[[放射線療法|放射線治療]]、または長時間の挿管によっても生じることがある<ref>{{Cite journal | vauthors = Grant CA, Dempsey G, Harrison J, Jones T | title = Tracheo-innominate artery fistula after percutaneous tracheostomy: three case reports and a clinical review | journal = British Journal of Anaesthesia | volume = 96 | issue = 1 | pages = 127–31 | date = January 2006 | pmid = 16299043 | doi = 10.1093/bja/aei282 | doi-access = free }}</ref>。

PDTに関する2013年のシステマティックレビューで確認された潜在的な危険因子は、[[気管支鏡]]による位置確認をしていないことであった。気管支鏡(気道の内部を可視化するために患者の口または気管切開口から挿入する器具)を使用すると、気切チューブの適切な留置確認と解剖学的構造を可視化するのに有用である。しかし、これは手技と患者の解剖学的構造の両方に関する外科医の技量と習熟度に左右されることもある<ref name=":2" />。

気道に関する潜在的な合併症は多数ある。PDT中の死亡の主な原因には、気切チューブの外れ、処置中の気道確保失敗、チューブの誤留置などがある<ref name=":2" />。より緊急性の高い合併症の1つに、自然発生的またはチューブ交換時の気切チューブの外れまたは位置異常がある。まれではあるが(気切チューブ使用日数の1/1000以下)、気道喪失による致死率は高い<ref>{{Cite journal|title=Tracheostomy tube displacement: An update on emergency airway management|last=Rajendram|journal=Indian Journal of Respiratory Care|volume=6|issue=2|pages=800–806|doi=10.4103/ijrc.ijrc_12_17|year=2017|doi-access=free}}</ref>。このような事態の重大性から、気切チューブを使用している人は、医療従事者と相談し、事前に具体的な緊急挿管ないしは再挿入計画を書面で作成しておく必要がある。

{{仮リンク|喉頭気管狭窄|en|Laryngotracheal stenosis|redirect=1}}は、喉頭・気管の異常な狭窄として知られており、気管切開後の長期合併症の可能性がある。狭窄の最も一般的な症状は、徐々に悪化する[[呼吸困難]]である。しかし[[発生率]]は低く、0.6~2.8%で、大出血や創感染症がある場合は発生率が高くなる。2016年のシステマティックレビューでは、観血的気管切開を受けた患者ではPDTと比較して気管狭窄の発生率が高いことが確認されたが、その差は統計的に有意ではなかった<ref name=":3">{{Cite journal|last1=Dempsey|first1=Ged A.|last2=Morton|first2=Ben|last3=Hammell|first3=Clare|last4=Williams|first4=Lisa T.|last5=Smith|first5=Catrin Tudur|last6=Jones|first6=Terence|date=2016-03-01|title=Long-term Outcome Following Tracheostomy in Critical Care: A Systematic Review*|journal=Critical Care Medicine|language=en|volume=44|issue=3|pages=617–628|doi=10.1097/CCM.0000000000001382|pmid=26584197|s2cid=32649464|issn=0090-3493}}</ref>。

ベッドサイドでの経皮的気管切開術に関する2000年のスペインの研究では、全合併症率は10~15%、手技による死亡率は0%と報告されており<ref name="Anon2000">{{Cite journal | vauthors = Añón JM, Gómez V, Escuela MP, De Paz V, Solana LF, De La Casa RM, Pérez JC, Zeballos E, Navarro L | title = Percutaneous tracheostomy: comparison of Ciaglia and Griggs techniques | journal = Critical Care | volume = 4 | issue = 2 | pages = 124–8 | year = 2000 | pmid = 11056749 | pmc = 29040 | doi = 10.1186/cc667 | doi-access = free }}</ref>、これはオランダ<ref name="VanHeurn1996">{{Cite journal | vauthors = van Heurn LW, van Geffen GJ, Brink PR | title = Clinical experience with percutaneous dilatational tracheostomy: report of 150 cases | journal = The European Journal of Surgery = Acta Chirurgica | volume = 162 | issue = 7 | pages = 531–5 | date = July 1996 | pmid = 8874159 }}</ref><ref name="Polderman2003">{{Cite journal | vauthors = Polderman KH, Spijkstra JJ, de Bree R, Christiaans HM, Gelissen HP, Wester JP, Girbes AR | title = Percutaneous dilatational tracheostomy in the ICU: optimal organization, low complication rates, and description of a new complication | journal = Chest | volume = 123 | issue = 5 | pages = 1595–602 | date = May 2003 | pmid = 12740279 | doi = 10.1378/chest.123.5.1595 }}</ref>や米国の文献<ref name="Hill1996">{{Cite journal | vauthors = Hill BB, Zweng TN, Maley RH, Charash WE, Toursarkissian B, Kearney PA | title = Percutaneous dilational tracheostomy: report of 356 cases | journal = The Journal of Trauma | volume = 41 | issue = 2 | pages = 238–43; discussion 243–4 | date = August 1996 | pmid = 8760530 | doi = 10.1097/00005373-199608000-00007 }}</ref><ref name="Powell1998">{{Cite journal | vauthors = Powell DM, Price PD, Forrest LA | title = Review of percutaneous tracheostomy | journal = The Laryngoscope | volume = 108 | issue = 2 | pages = 170–7 | date = February 1998 | pmid = 9473064 | doi = 10.1097/00005537-199802000-00004 | s2cid = 44972690 }}</ref>で報告されている他の一連の症例報告と同程度である。2013年のシステマティックレビューでは、手技による死亡率は0.17%、600例に1例と算出されている<ref name=":2" />。複数のシステマティックレビューで、死亡率、大出血、創感染率に経皮的手術法と観血的手術法の間に有意差はないことが確認されている<ref name=":5">{{Cite journal | vauthors = Klemm E, Nowak AK | title = Tracheotomy-Related Deaths | journal = Deutsches Ärzteblatt International | volume = 114 | issue = 16 | pages = 273–279 | date = April 2017 | pmid = 28502311 | pmc = 5437259 | doi = 10.3238/arztebl.2017.0273 }}</ref><ref name=":3" />。

特に2017年のシステマティックレビューでは、全気管切開のうち最も一般的な死因とその頻度を算出し、出血(OST:0.26%、PDT:0.19%)、気道喪失(OST:0.21%、PDT:0.20%)、チューブの誤留置(OST:0.11%、PDT:0.20%)とした<ref name=":5" />。

2003年のアメリカの遺体を対象とした研究では、Ciaglia Blue Rhino法では多発性の気管輪骨折が、その小規模な症例シリーズの100%に発生した合併症として確認されている<ref name="Hotchkiss2003">{{Cite journal | vauthors = Hotchkiss KS, McCaffrey JC | title = Laryngotracheal injury after percutaneous dilational tracheostomy in cadaver specimens | journal = The Laryngoscope | volume = 113 | issue = 1 | pages = 16–20 | date = January 2003 | pmid = 12514375 | doi = 10.1097/00005537-200301000-00003 | s2cid = 25597029 }}</ref>。上記の比較研究では、生残患者30人中9人に気管輪骨折が確認されている<ref name="Ambesh2002" />一方、他の小規模な研究では20例中5例であったとされる<ref name="Byhahn2000">{{Cite journal | vauthors = Byhahn C, Lischke V, Halbig S, Scheifler G, Westphal K | title = [Ciaglia blue rhino: a modified technique for percutaneous dilatation tracheostomy. Technique and early clinical results] | language = de | journal = Der Anaesthesist | volume = 49 | issue = 3 | pages = 202–6 | date = March 2000 | pmid = 10788989 | doi = 10.1007/s001010050815 | s2cid = 42582829 | trans-title = Ciaglia blue rhino: a modified technique for percutaneous dilatation tracheostomy. Technique and early clinical results }}</ref>。
==歴史==

===古代===
最も古い気管切開の描写は、紀元前3600年頃の[[エジプト]]の2つの[[粘土板]]に見られる<ref name="Pahor1992I" />。紀元前1550年頃に作られた110ページの{{仮リンク|エジプトの医学パピルス|en|Egyptian medical papyri|redirect=1}}である[[エーベルス・パピルス]]でも気管切開について言及されている<ref name="Pahor1992I" /><ref name="Frost1976" />。気管切開は古代インドの経典である[[リグ・ヴェーダ]]にも記載されており、「頸部軟骨が完全に切断されない限り、結紮具を用いずに気管を再び結合させることができる恩寵豊かな方法」<ref name="Frost1976" /><ref name="Stock1987" /><ref name="Pahor1992" />と記されている。{{仮リンク|スシュルタ・サンヒター|en|Sushruta Samhita|redirect=1}}(紀元前400年頃)は、気管切開について言及しているアーユルヴェーダ医学と外科学に関する[[インド亜大陸]]の別のテキストである<ref name="Sushruta" />。

[[ギリシャ]]の医師[[ヒポクラテス]](紀元前460~370年頃)は、気管切開を非難した。ヒポクラテスは、気管切開の際に[[頸動脈]]が不注意で裂傷し、死亡する危険性があることを警告し、「最も困難な[[瘻孔]]は軟骨部に生じるものである」とも述べている<ref>{{Cite journal|last=Jones|first=W. H. S.|date=1952-06|title=Hippocrates in English - John Chadwick and W. N. Mann: The Medical Works of Hippocrates, A new translation from the original Greek made for English readers. Pp. 301. Oxford: Blackwell, 1950. Cloth, 20s. net.|url=https://www.cambridge.org/core/journals/classical-review/article/abs/hippocrates-in-english-john-chadwick-and-w-n-mann-the-medical-works-of-hippocrates-a-new-translation-from-the-original-greek-made-for-english-readers-pp-301-oxford-blackwell-1950-cloth-20s-net/35D3ACF2ECE9A31695680235FD2EE7C8|journal=The Classical Review|volume=2|issue=2|pages=79–80|language=en|doi=10.1017/S0009840X00158688|issn=1464-3561}}</ref>。{{仮リンク|ビザンチウムのホメロス|en|Homerus of Byzantium|redirect=1|label=ビザンチウムのホメロス(Homerus of Byzantium)}}は、[[アレクサンドロス3世|アレキサンダー大王]](紀元前356~323年)が兵士の気管を剣先で切開して[[窒息]]から救ったことを記したと言われている<ref name="Szmuk2008" />。

ヒポクラテスの懸念をよそに、[[ペルガモン]]の[[ガレノス]](129-199)と[[カッパドキア]]の{{仮リンク|アレタエウス|en|Aretaeus|redirect=1|label=アレタエウス(Aretaeus)}}(ともに紀元後2世紀にローマに住んでいた)は、{{仮リンク|ビテュニアのアスクレピアデス|en|Asclepiades of Bithynia|redirect=1|label=ビテュニアのアスクレピアデス(Asclepiades of Bithynia)}}が初めて待機的な気管切開を行った人と認めている<ref name="Gumpert1794" /><ref name="Yapijakis2009" />。しかし、アレタエウスは、[[気管軟骨]]に切開を加えると二次的な創傷感染が起こりやすく、治癒しないと考えていたため、気管切開を行うことに警告を発していた。彼は、「[[創縁]]は癒合しない、なぜなら両者とも軟骨質であり、合わさる性質を持っていないからである」と書いている<ref name="Goodall1934">{{Cite journal|last=Goodall|first=E.W.|year=1934|title=The story of tracheostomy|journal=British Journal of Children's Diseases|volume=31|pages=167–76, 253–72}}</ref><ref name="Grillo2003" />。紀元2世紀にローマに住んでいた他のギリシア人外科医{{仮リンク|アンティルス|en|Antyllus|redirect=1|label=アンティルス(Antyllus)}}は、口腔疾患を治療する際に気管切開を行ったと報告されている。アンティルスは、生命を脅かす気道閉塞の治療には、第3気管輪と第4気管輪の間を[[横切開]]することを推奨し、現代で使用されている手技により近いものに改良した<ref name="Goodall1934" />。一方、アンティルスは、重度の[[クループ]]の場合、病変が手術部位の奥であるため、気管切開術は有効ではなかったと記している。アンティルスの原著は失われたが、いずれもギリシャ人の医師であり歴史家でもあった、[[オリバシウス]](320-400年頃)と[[アイギナのパウロス]](625-690年頃)によって保存された<ref name="Goodall1934" />。ガレノスは気管の解剖学を明らかにし、[[喉頭]]が声を発生させることを初めて実証した<ref name="Galen1956-oxford" /><ref name="Galen1956-rsm" />。ガレノスは[[人工呼吸]]の重要性も理解していたのかもしれない。というのも、彼はある実験で、死んだ動物の肺を膨らませるためにふいごを使ったからである<ref name="Galen1528" /><ref name="Baker1971" />。

===中世===
気管切開の提唱者であった7世紀のビザンチンの医師、[[アイギナのパウロス]]は、気管切開をテーマとした以前のギリシア人著者の著作を認め、彼自身の著作の中で気管切開に関する記述を行っている<ref>{{Cite book|page=3|title=Tracheotomy: Airway Management, Communication, and Swallowing, Second Edition|last=Myers|first=Eugene N.|isbn=978-1-59756-840-1|year=2007|publisher=Plural Publishing|author-link=Eugene Nicholas Myers}}</ref>。1000年、アラビア語圏のスペインに住んでいたアラブ人、[[アブー・アル=カースィム・アッ=ザフラウィー]](936-1013)は、30巻からなる図譜つきの手術書である''{{仮リンク|解剖の書|en|Al-Tasrif|redirect=1|label=解剖の書(Kitab al-Tasrif)}}''{{訳語疑問点|date=2024年3月}}を出版した。彼は気管切開を行ったことはないが、自殺未遂で自分の喉を切った奴隷の少女を治療した。彼は傷を縫い合わせ、少女は回復し、喉頭の切開が治癒することを証明した。1020年頃、[[イブン・スィーナー]](980-1037)は『''{{仮リンク|医学典範|en|The Canon of Medicine|redirect=1|label=医学典範(The Canon of Medicine)}}''』の中で、[[呼吸]]を容易にするための[[気管挿管]]について述べている<ref>{{Cite book|author=Patricia Skinner|title=The Gale Encyclopedia of Alternative Medicine| veditors = Fundukian LJ |chapter=Unani-tibbi |publisher= {{仮リンク|Gale (publisher)|en|Gale (publisher)|redirect=1|label=Gale Cengage}}|location=[[ファーミントン・ヒルズ|Farmington Hills, Michigan]]|edition=3rd|year=2008|isbn=978-1-4144-4872-5 |chapter-url= http://findarticles.com/p/articles/mi_g2603/is_0007/ai_2603000716/}}</ref>。窒息治療のための気管切開に関する最初の明確な記述は、12世紀に[[イブン・ズフル]](1091-1161)によってなされた。Mostafa Shehatによれば、ズフルはヤギの気管切開手術に成功し、ガレノスの術式の正しさを実証した<ref name="Shehata">{{Cite journal|author=Mostafa Shehata|title=The Ear, Nose and Throat in Islamic Medicine|journal=Journal of the International Society for the History of Islamic Medicine|volume=2|issue=3|pages=2–5|date=April 2003|issn=1303-667X|url=http://www.ishim.net/ishimj/3/01.pdf}}</ref><ref name="Abdel2005" />。

===16-18世紀===
[[ファイル:Girolamo Fabrizi d'Acquapendente.jpg|thumb|[[ジェローラモ・ファブリツィオ]](1533–1619) は最初に気管切開チューブを考案した。]]

[[ルネサンス期]]には[[解剖学]]と[[外科学]]が大きく進歩し、[[外科医]]は気管に対する手術をより積極的に行うようになった。にもかかわらず、死亡率は改善しなかった<ref name="Goodall1934" />。1500年から1832年までの文献には、気管切開が成功したという記述が28件しかない<ref name="Goodall1934" />。

動物の[[気管挿管]]とその後の[[人工呼吸]]に関する最初の詳細な記述は、ブリュッセルの[[アンドレアス・ヴェサリウス]](1514-1564)によるものだった。1543年に出版された彼の画期的な著書『[[ファブリカ (ヴェサリウス)|ファブリカ]]』の中で、彼は、瀕死の動物を[[開胸術|開胸]]して気管に{{仮リンク|葦|en|reed (plant)|redirect=1}}を入れ、葦を介して間欠的に息を吹き込む実験について述べている<ref name="Baker1971" /><ref name="Vesalius1543" />。ヴェサリウスは、この技術が救命につながると書いている。

[[フェラーラ]]の{{仮リンク|アントニオ・ムサ・ブラッサボラ|en|Antonio Musa Brassavola|redirect=1|label=アントニオ・ムサ・ブラッサボラ(Antonio Musa Brassavola)}}(1490-1554)は、[[理髪外科医]]に見放された[[扁桃周囲膿瘍]]の患者を気管切開で治療した。患者は完治したようで、ブラッサボラは1546年にその記録を出版した。この手術は、気管やその開口部に関する多くの古代の文献にもかかわらず、記録された最初の気管切開の成功例とされている<ref name="Goodall1934" />。[[アンブロワーズ・パレ]](1510-1590)は、16世紀半ばに気管裂傷の縫合について述べた。ある患者は[[内頸静脈]]も損傷していたにもかかわらず生存した。別の患者は気管と食道に傷を負っており、死亡した。
[[ファイル:Acquapendente - Operationes chirurgicae, 1685 - 2984755.tif|thumb|[[ジェローラモ・ファブリツィオ]]『''Operationes chirurgicae'', 1685』の図譜]]16世紀末、解剖学者で外科医の[[ジェローラモ・ファブリツィオ]](1533-1619)は、実際に自分で手術を行ったことはないものの、著作の中で気管切開の有用な手技を述べている。彼は縦切開を推奨し、気管切開チューブのアイデアを最初に紹介した。これはまっすぐで短い{{仮リンク|カニューレ|en|cannula|redirect=1}}であり、チューブが気管の奥に進みすぎるのを防ぐための羽がついている。彼はこの手術を、[[異物]]や[[分泌物]]による[[気道閉塞]]の場合にのみ行って良い最後の手段としてのみ推奨した。ファブリツィオが記した気管切開の方法は、今日用いられているものと類似している。{{仮リンク|ジュリオ・チェーザレ・カッセリ|en|Giulio Cesare Casseri|redirect=1|label=ジュリオ・チェーザレ・カッセリ(Giulio Cesare Casseri)}}は、ファブリツィオの後を継いで[[パドヴァ大学]]の解剖学教授となり、気管切開の手技と器具に関する独自の著作を発表した。カッセリは、いくつかの穴のあいた湾曲した銀の管を使うことを推奨した。{{仮リンク|マルコ・アウレリオ・セヴェリーノ|en|Marco Aurelio Severino|redirect=1|label=マルコ・アウレリオ・セヴェリーノ(Marco Aurelio Severino)}}(1580-1656)は、熟練した外科医であり解剖学者であったが、1610年にナポリで[[ジフテリア]]が流行した際、ファブリツィオが推奨した縦切開法を用いて気管切開を複数回成功させた。彼はまた、独自の[[トロカール]]を開発した<ref>{{Cite journal | vauthors = Sedvall G, Farde L, Nybäck H, Pauli S, Persson A, Savic I, Wiesel FA | title = Recent advances in psychiatric brain imaging | journal = Acta Radiologica. Supplementum | volume = 374 | issue = 5179 | pages = 113–5 | year = 1960 | pmid = 1966956| pmc = 1966956 | doi = 10.1136/bmj.1.5179.1129 }}</ref>。

1620年、[[ヌムール公]]の外科医であり解剖学者でもあったフランスの外科医Nicholas Habicot(1550-1624)は、彼が行った4件の「気管支切開術」の成功報告を発表した<ref name="Habicot1620">{{Cite book|author=Nicholas Habicot|title=Question chirurgicale par laquelle il est démonstré que le Chirurgien doit assurément practiquer l'operation de la Bronchotomie, vulgairement dicte Laryngotomie, ou perforation de la fluste ou du polmon|publisher=Corrozet|location=Paris|language=fr|year=1620|page=108}}</ref>。そのうちの1件は、異物の除去のための気管切開術の最初の記録例であり、この例では刺された被害者の喉頭の血栓であった。彼はまた、小児患者に対して初めて行われた気管切開についても述べている。14歳の少年が、[[ハイウェイマン|追い剥ぎ]]による金貨の盗難を防ごうとして、9枚の金貨が入った袋を飲み込んだ。金貨は食道に詰まり、気管を閉塞した。Habicotは、この手術が喉頭の炎症患者にも有効である可能性を示唆した。彼はこの外科手術のための器具を開発したが、それは現代の設計と類似していた(彼が単管式カニューレを使用したことを除いて){{要出典|date=January 2022}}。

[[サントーリオ・サントーリオ]](1561-1636)は、手術に[[カニューレ]]を初めて使用したと考えられており、手術後数日間はカニューレをそのままにしておくことを推奨していた<ref name="Sanctorii1646">{{Cite book|author=Sanctorii Sanctorii |title=Sanctorii Sanctorii Commentaria in primum fen, primi libri canonis Avicennæ |publisher=Apud Marcum Antonium Brogiollum |location=Venetiis |language=la |year=1646 |page=1120 |ol=15197097M |url=https://openlibrary.org/works/OL5226737W/Sanctorii_Sanctorii_Commentaria_in_primum_fen_primi_libri_canonis_Auicennæ_.. |author-link=Sanctorius }}</ref>。初期の気管切開器具は、HabicotのQuestion Chirurgicale<ref name="Habicot1620" />とCasseriの1627年の遺著Tabulae anatomicaeに図解されている<ref name="Casserius1632">{{Cite book|author=Julius Casserius (Giulio Casserio) and Daniel Bucretius|title=Tabulae anatomicae LXXIIX ... Daniel Bucretius ... XX. que deerant supplevit & omnium explicationes addidit|publisher=Impensis & coelo Matthaei Meriani|location=Francofurti|language=la|year=1632|url=http://www.antiqbook.com/boox/gac/089233.shtml}}{{リンク切れ|date=July 2018 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=no }}</ref>。{{仮リンク|旧ルーヴァン大学|en|Old University of Leuven|redirect=1|label=ルーヴァン大学}}の医学部教授であったThomas Fienus(1567-1631)は、1649年に「気管切開(tracheotomy)」という言葉を初めて使用したが、この言葉が一般的に使用されるようになったのはそれから1世紀後のことである<ref>{{Cite journal | vauthors = Cawthorne T, Hewlett AB, Ranger D | title = Tracheostomy in a respiratory unit at a neurological hospital | journal = Proceedings of the Royal Society of Medicine | volume = 52 | issue = 6 | pages = 403–5 | date = June 1959 | pmid = 13667911 | pmc = 1871130 | doi=10.1177/003591575905200602}}</ref>。[[ロストック大学]]解剖学教授のGeorg Detharding(1671-1747)は、1714年に溺水者を気管切開で治療した<ref>{{Cite book |author=Georges Detharding |title=Geschichte jetzlebender Gelehrten, als eine Fortsetzung des Jetzlebenden |editor1=Von Ernst Ludwig Rathlef |editor2=Gabriel Wilhelm Goetten |editor3=Johann Christoph Strodtmann |chapter=De methodo subveniendi submersis per laryngotomiam (1714) |publisher=Berlegts Joachim Undreas Deek |location=Zelle |year=1745 |page=20 |chapter-url=https://books.google.com/books?id=flM5AAAAMAAJ&pg=PA6}}</ref><ref>{{Cite journal|date=January 1962|title=The evolution of breathing machines|journal=Medical History|volume=6|issue=1|pages=67–72|doi=10.1017/s0025727300026867|pmc=1034674|pmid=14488739|vauthors=Price JL}}</ref><ref>{{Cite journal|year=1977|title=[Curriculum vitae of the professor of anatomy, botany and higher mathematics Georg Detharding (1671–1747) at the University of Rostock (author's transl)]|journal=Anatomischer Anzeiger|volume=142|issue=1–2|pages=133–40|language=de|pmid=339777|vauthors=Wischhusen HG, Schumacher GH|trans-title=Curriculum vitae of the professor of anatomy, botany and higher mathematics Georg Detharding (1671–1747) at the University of Rostock}}</ref>。

===19世紀===
1820年代、気管切開は重度の気道閉塞を治療する正当な手段として認識され始めた。1832年、フランスの医師{{仮リンク|ピエール・ブルトノー|en|Pierre Bretonneau|redirect=1|label=ピエール・ブルトノー(Pierre Bretonneau)}}がジフテリアの最終治療手段として気管切開を行った<ref>{{Cite journal|author=Armand Trousseau|title=Mémoire sur un cas de tracheotomie pratiquée dans la période extrème de croup|journal=Journal des connaissances médico-chirurgicales|volume=1|issue=5|page=41|year=1833|author-link=Armand Trousseau}}</ref>。1852年、ブルトンノーの弟子である[[アルマン・トルーソー]]は169件の気管切開を報告した(そのうち158件はクループのため、11件は「喉頭の慢性疾患」のため)<ref>{{Cite book|author=Armand Trousseau|title=Annales de médecine belge et étrangère|editor=Jean Lequime and J. de Biefve|chapter=Nouvelles recherches sur la trachéotomie pratiquée dans la période extrême du croup|publisher=Imprimerie et Librairie Société Encyclographiques des Sciences Médicales|location=Brussels|year=1852|pages=279–288|chapter-url=https://books.google.com/books?id=khsUAAAAQAAJ&pg=PA279|author-link=Armand Trousseau}}</ref>。1858年、[[ジョン・スノウ (医師)|ジョン・スノウ]]は動物モデルでクロロホルム麻酔を投与するための気管切開と気管への[[カニューレ|カニュレーション]]を初めて報告した<ref name="Snow1858">{{Cite book| vauthors = Snow J | veditors = Richardson BW |title=On chloroform and other anaesthetics: their action and administration|chapter=Fatal cases of inhalation of chloroform, Treatment of suspended animation from chloroform|pages=[https://archive.org/details/onchloroformothe1858snow/page/120 120]–200, 251–62|publisher=John Churchill|location=London|year=1858|chapter-url=https://archive.org/details/onchloroformothe1858snow| quote = john snow. }}</ref>。1871年、ドイツの外科医{{仮リンク|フリードリヒ・トレンデレンブルク|en|Friedrich Trendelenburg|redirect=1}}(1844-1924)は、[[吸入麻酔薬|全身麻酔薬]]を投与する目的で行われ、初めて成功したヒトの[[待機的手術|待機的]]気管切開について記述した論文を発表した<ref name="Trendelenburg1871">{{Cite journal|last=Trendelenburg|first=F|author-link=Friedrich Trendelenburg|year=1871|title=Beiträge zu den Operationen an den Luftwegen|journal=Archiv für Klinische Chirurgie|volume=12|pages=112–33|language=de|trans-title=Contributions to airways surgery}}</ref><ref name="hargrave1934" /><ref name="Bain1964" /><ref name="Wawersik1991" /><ref name="Mackenzie1888" />。1880年には、スコットランドの外科医{{仮リンク|ウィリアム・メイスウェン|en|William Macewen|label=ウィリアム・メイスウェン(William Macewen)|redirect=1}}(1848-1924)が、[[声門浮腫]]のある患者に呼吸を可能にするために、気管切開の代替として、また[[クロロホルム]]を用いた全身麻酔の際に、経口[[気管挿管]]を行ったことを報告している<ref name="Macewen18800724">{{Cite journal|date=July 1880|title=General Observations on the Introduction of Tracheal Tubes by the Mouth, Instead of Performing Tracheotomy or Laryngotomy|journal=British Medical Journal|volume=2|issue=1021|pages=122–4|doi=10.1136/bmj.2.1021.122|pmc=2241154|pmid=20749630|vauthors=Macewen W}}</ref><ref name="Macewen18800731">{{Cite journal|author-link=William Macewen|date=July 1880|title=Clinical Observations on the Introduction of Tracheal Tubes by the Mouth, Instead of Performing Tracheotomy or Laryngotomy|journal=British Medical Journal|volume=2|issue=1022|pages=163–5|doi=10.1136/bmj.2.1022.163|pmc=2241109|pmid=20749636|vauthors=Macewen W}}</ref>。1888年にドイツ皇帝[[フリードリヒ3世 (ドイツ皇帝)|フリードリヒ3世]]が[[喉頭癌]]で亡くなった後、{{仮リンク|モレル・マッケンジー|en|Morell Mackenzie|redirect=1|label=モレル・マッケンジー(Morell Mackenzie)}}(1837-1892)と他の侍医達は、気管切開の当時の[[適応 (医学)|適応]]と絶対適応について論じた本を共同執筆した<ref name="Ferlito2003" />。

===20世紀以後===
[[ファイル:Cricothyrotomy.png|thumb|upright|喉頭の解剖(1)甲状軟骨 (2)輪状甲状靭帯 (3)輪状軟骨 (4)気管 (A)輪状甲状靭帯切開 (B)気管切開術|alt=]]

20世紀初頭、医師は[[機械換気 (医学)|機械換気]]を必要とする麻痺性[[急性灰白髄炎|ポリオ]]の治療に気管切開を使用し始めた。現在行われている外科的気管切開法は、1909年に[[フィラデルフィア]]、[[トーマス・ジェファーソン大学#Jefferson Medical College|ジェファーソン大学]][[喉頭科学]]教授の{{仮リンク|シュバリエ・ジャクソン|en|Chevalier Jackson|redirect=1|label=シュバリエ・ジャクソン(Chevalier Jackson)}}(1865-1958)によって報告された<ref name="Jackson1909" />。しかし、20世紀に入っても気管切開のさまざまな側面について議論は続いた。さまざまな手術器具や気切チューブとともに、多くの手技が採用された。外科医たちは、気管切開をどこでどのように行うべきかについてコンセンサスを得ることができなかったようで、「高位気管切開」と「低位気管切開」のどちらがより有益であるかを議論していた。皮肉なことに、新しく開発された[[吸入麻酔薬]]や[[全身麻酔]]の手技は、かえってリスクを増大させるようで、多くの患者が致命的な術後合併症を起こした。ジャクソンは、術後ケアの重要性を強調し、死亡率は劇的に減少した。1965年までには、外科解剖学は徹底的に広く理解され、[[抗生物質]]は広く利用できるようになり、術後感染症の治療に有用で、気管切開の他の主な合併症も管理しやすくなっていた。

==社会と文化==
気管切開を受けたことのある(一時的なものを含む)著名人には、[[ミカ・ハッキネン]]、[[スティーヴン・ホーキング|スティーブン・ホーキング]]、{{仮リンク|コニー・カルプ|en|Connie Culp|redirect=1}}、[[クリストファー・リーヴ]]<ref>{{Cite web|url=http://www.chrisreevehomepage.com/biography.html|title=Biography (Christopher Reeve Homepage) |website=www.chrisreevehomepage.com |access-date=2018-12-19}}</ref>、[[ジークフリート&ロイ|ロイ・ホーン]]、[[ウィリアム・レンキスト]]、[[ギャビー・ギフォーズ]]、[[ジョージ・マイケル]]、[[ヴァル・キルマー]]<ref name="ValKilmerTracheotomy">{{Cite web |last1=Day |first1=Nate |title=Val Kilmer says he's doing great after tracheotomy: 'I feel a lot better than I sound' |url=https://www.foxnews.com/entertainment/val-kilmer-doing-a-lot-better-after-tracheotomy |website=Fox News |access-date=14 June 2022 |date=3 August 2020}}</ref>、その他多数が含まれる<ref>{{Cite web|url=http://www.tracheostomy.com/resources/more/famous/index.htm|title=Famous people who have or have had Tracheostomies|website=www.tracheostomy.com|access-date=2018-12-19|archive-date=24 December 2018|archive-url=https://web.archive.org/web/20181224075316/http://www.tracheostomy.com/resources/more/famous/index.htm}}</ref>。

映画やテレビ番組では、気道を確保するために首に緊急処置を施す場面が多く見られる。例えば、2008年のホラー映画『[[ソウ5]]』では、首から上で溺れさせられた登場人物が、呼吸のための気道を確保するためにペンで首を刺し、手作業で気管切開を行っている<ref>{{Cite web |title=Water Cube |url=https://sawfilms.fandom.com/wiki/Water_Cube |website=Saw Wiki |access-date=2024-03-25 |language=en}}</ref><ref>{{Cite web |title=Tracheotomy: Does TV Get it Right? |url=https://www.lung.org/blog/tracheotomy-does-tv-get-right |website=www.lung.org |access-date=2024-03-25 |language=en |first=American Lung |last=Association}}</ref>。緊急気道確保の最も一般的な方法は[[輪状甲状靱帯切開|輪状甲状靭帯切開]]で、皮膚と輪状靭帯を切開するものである。これはしばしば気管切開と混同されたり、誤った名前で呼ばれたりする。しかし、開口部の位置や代替気道が必要な期間によって、両者はまったく異なるものである(右図)。
{{Clear}}

==出典==
{{Reflist|2|refs=

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<ref name=Bain1964>{{Cite journal |last1=Bain |first1=J A |last2=Spoerel |first2=W E |title=Observation on the use of cuffed tracheqstomy tubes (with particular reference to the james tube) |journal=Canadian Anaesthetists' Society Journal |volume=11 |pages=598–608 |year=1964 |doi=10.1007/BF03004104 |pmid=14232175 |issue=6|doi-access=free }}</ref>

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<ref name=Frost1976>{{Cite journal |last1=Frost |first1=EA |title=Tracing the tracheostomy |journal=Annals of Otology, Rhinology, and Laryngology |volume=85 |issue=5 Pt.1 |pages=618–24 |year=1976 |pmid=791052|doi=10.1177/000348947608500509 |s2cid=34938843 }}</ref>

<ref name=Galen1528>{{Cite book|first=C|last=Galeni Pergameni|author-link=Galen|title=De usu partium corporis humani, libri VII|editor=Nicolao Regio Calabro |chapter=De usu partium corporis humani, libri VII, cap. IV|publisher=Simonis Colinaei|location=Paris|language=la|year=1528|page=339|chapter-url=http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k542146.image.f8|access-date=6 September 2010}}</ref>

<ref name="Galen1956-oxford">{{Cite book |first=C |last=Galeni Pergameni |author-link=Galen |title=Galen on anatomical procedures: De anatomicis administrationibus |others=Edited and translated by {{仮リンク|Charles Singer|en|Charles Singer|redirect=1|label=Singer CJ}} |publisher=Geoffrey Cumberlege, Oxford University Press/Wellcome Historical Medical Museum |location=London |year=1956 |pages=195–207}} See also: {{Cite journal |doi=10.1001/jama.1956.02970230088033 |title=Galen on Anatomical Procedures: De Anatomicis Administrationibus |journal=JAMA |year=1956 |volume=162 |issue=6 |pages=616 |url=http://jama.ama-assn.org/cgi/content/summary/162/6/616-c}}</ref>

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<ref name=Grillo2003>{{Cite journal |last1=Grillo |first1=H |title=Development of tracheal surgery: a historical review. Part 1: techniques of tracheal surgery |journal=Annals of Thoracic Surgery |volume=75 |issue=2 |pages=610–9 |year=2003 |pmid=12607695 |doi=10.1016/S0003-4975(02)04108-5}}</ref>

<ref name=Gumpert1794>{{Cite book|first=CG|last=Gumpert|title=Asclepiadis Bithyniae Fragmenta|chapter=Cap. VIII: de morborum cognitione et curatione secundum Asclepiadis doctrinam|publisher=Industrie-Comptoir|location=Weimar|language=la|year=1794|pages=133–84|chapter-url=http://digitale.bibliothek.uni-halle.de/vd18/content/pageview/1672989|access-date=6 September 2010}}</ref>

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<ref name=Stock1987>{{Cite journal|last=Stock|first=CR|title=What is past is prologue: a short history of the development of tracheostomy|journal=Ear, Nose, & Throat Journal|volume=66|issue=4|pages=166–9|year=1987|pmid=3556136}}</ref>

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==参考文献==
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*{{Cite book|editor-last=Barash|editor-first=PG|editor2-last=Cullen|editor2-first=BF|editor3-last=Stoelting|editor3-first=RK|title=Clinical Anesthesia|publisher=Lippincott Williams & Wilkins|location=Philadelphia|edition=6th|year=2009|isbn=978-0-7817-8763-5|url=https://books.google.com/books?id=-YI9P2DLe9UC|access-date=6 September 2010}}
*{{Cite book|editor-last=Benumof|editor-first=JL|title=Benumof's Airway Management: Principles and Practice|publisher=Mosby-Elsevier|location=Philadelphia|edition=2nd|year=2007|isbn=978-0-323-02233-0|url=https://books.google.com/books?id=uUVYjVUexKUC|access-date=6 September 2010}}
*{{Cite book|editor-last=Classen|editor-first=M|title=Gastroenterological endoscopy|publisher=Georg Thieme Verlag|location=Stuttgart, Germany|edition=1st|year=2002|isbn=978-1-58890-013-5|url=http://www.buecher-nach-isbn.info/3-13/3131258519-Gastroenterological-Endoscopy-Meinhard-Classen-Guido-N.-J.-Tytgat-Charles-J.-Lightdale-3-13-125851-9.html|access-date=6 September 2010}}
*{{Cite book|editor-last=Doherty|editor-first=GM|title=Current Diagnosis & Treatment: Surgery|publisher=McGraw-Hill Medical|edition=13th|year=2010|isbn=978-0-07-163515-8|url=https://books.google.com/books?id=a14yDQKv4vMC&pg=PA151|access-date=6 September 2010}}
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{{refend}}

==関連文献==
* {{Cite journal | vauthors = Plotnikow GA, Roux N, Feld V, Gogniat E, Villalba D, Ribero NV, Sartore M, Bosso M, Quiroga C, Leiva V, Scrigna M, Puchulu F, Distéfano E, Scapellato JL, Intile D, Planells F, Noval D, Buñirigo P, Jofré R, Nielsen ED | title = Evaluation of tracheal cuff pressure variation in spontaneously breathing patients | journal = International Journal of Critical Illness and Injury Science | volume = 3 | issue = 4 | pages = 262–8 | date = October 2013 | pmid = 24459624 | pmc = 3891193 | doi = 10.4103/2229-5151.124148 | doi-access = free }}<br />
==関連項目==
{{Portal box|歴史|医学と医療}}
*{{仮リンク|解剖学の歴史|en|History of anatomy|redirect=1}}
*[[医学史]]
*{{仮リンク|外科の歴史|en|History of surgery|redirect=1}}<br />
==外部リンク==
{{Wiktionary|tracheotomy|pharyngotomy|laryngotomy|tracheostomy|Position=left}}
{{Commonscat|Tracheotomy|position=}}
* {{DorlandsDict|eight/000109880|Tracheotomy}}
* [https://www.youtube.com/watch?v=YE-n8cgl77Q 気管切開患者の救命(YouTube、英語)]
* [https://www.tracheostomyeducation.com 医療従事者、介護者、患者のための記事やコースを含む気管切開に関する包括的なリソース(英語)]
* [http://www.globaltrach.org 世界気管切開共同体(Global Tracheostomy Collaborative)。気管切開に関する病院、介護者、患者のためのリソースを提供する国際的な共同研究(英語)]

{{麻酔}}
{{医学史}}
{{Respiratory system procedures}}
{{Normdaten}}
{{Normdaten}}

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2024年3月26日 (火) 11:09時点における版

気管切開
治療法
番号の説明':

1 – 声帯
2 – 甲状軟骨英語版
3 – 輪状軟骨英語版
4 – 気管輪

5 – バルーンカフ
発音 [ˌtrkiˈɒtəmi], イギリス英語 [ˌtræki-]
ICD-10-PCS 0B110F4
ICD-9-CM 31.1
MeSH D014140
MedlinePlus 002955
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気管切開(きかんせっかい、: tracheotomy or tracheostomy)または気管切開術は、外科的気道確保英語版の一種である。首の前面を切開し、気管を切開して直接、気道を開く手術である。出来上がったストーマ(穴)は、呼吸をするためのチューブ[1]の挿入経路として用いることができ、単独で呼吸をするための経路としても機能する。このチューブ(気切チューブ)があれば、鼻や口を介すること無く呼吸が可能となる。一方、声帯を空気が通過しない、もしくは流量が減少するため、発声は出来なくなるか、制限される。気管切開は複雑な手技とされ、外科系医師によって手術室で行われるのが望ましい。緊急時には、この手技は輪状甲状靱帯切開よりも合併症の発症率が高いため、利点はない。しかし、長期間の換気を必要とする患者では好まれる手技である[2]

用語と語源について

図Aは、頸部の側面図と、気管(気管支)に気管切開チューブを正しく挿入した状態を示す。図Bは、気管切開を行った患者の外観を示す。

気管切開(tracheotomy)の語源は、気管を意味するtrachea(ギリシャ語 τραχεία(tracheía))と「切る」を意味する語根 tom-(ギリシャ語 τομή(tomḗ)から)という2つのギリシャ語に由来する[3]。別名のtracheostomyという言葉は、「口」を意味する語根stom-(ギリシャ語のστόμα(stóma)から)を含み、半永久的または永久的な開口部を作ること、および開口部そのものを指す。上記の用語の使い分けは曖昧である。その曖昧さの一因は、ストーマ(開口部)を造設した時点で、そのストーマ(開口部)が永久的なものであるかどうかが不明確であるためである[4]

気管切開の開口部から気管内には通常、気管切開チューブ(略称: 気切チューブ)が気管内に留置される。このチューブはカニューレまたはトロカールと呼ばれることもある。

適応

気管切開を行う主な理由は以下の4つである[4]

  1. 緊急時の気道確保
  2. 長期間の人工呼吸のための気道確保
  3. 機能的または物理的な上気道閉塞
  4. 気管または気管支分泌物のクリアランスの低下/不全(自力での喀痰排泄能低下)

急性期(短期間)の気管切開の適応は、重度の顔面外傷英語版、頭頸部の腫瘍(例.がん鰓裂嚢胞英語版)、急性血管浮腫英語版、および頭頸部の炎症などである。

気管切開中の患者は、人工呼吸器による呼吸補助を必要とすることがある。

慢性期(長期間)の気管切開の適応には、長期的な機械換気気管吸引が必要な場合などがある(昏睡患者、頭頸部の大手術後など)。気管切開を行うことで、鎮静薬昇圧薬の投与量を大幅に減らすことができ、集中治療室(ICU)での入院期間も短縮できる[5]

極端な例では、CPAP療法英語版に耐えられない重症の閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)英語版の治療法として適応されることがある。気管切開がOSAに有効な理由は、気管切開が上気道を完全に迂回する唯一の手術法だからである。この手術は、1980年代まではOSAに対して一般的に行われていた。以後は、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術英語版オトガイ舌筋前方移動術(genioglossus advancement)英語版上下顎前方移動術(maxillomandibular advancement)英語版などの他の手術が代替手術として提案されるようになった。

長時間の人工呼吸が必要な場合は、通常、気管切開が考慮される。この処置を行うタイミングは、臨床状況や医療従事者の嗜好に左右される。2000年に行われた国際的な多施設共同研究によると、人工呼吸を開始してから気管切開を受けるまでの期間の中央値は11日であった[6]。病院や医療提供者によって定義は異なるが、早期気管切開は10日未満(2~14日)、晩期気管切開は10日以上と考えられる。

代替手段

非侵襲的人工呼吸の一種である二相性キュイラス換気を行えば、ごく一部のケースでは気管切開を回避することができる[7]

器材

複管式気切チューブの部品。膨張式カフ(右上)付き外筒(上段)、内筒(中央)、オブチュレーター(下段)

気管切開チューブは、単管式でも複管式、カフ付きとカフなしがある。複管式の気管切開チューブは、外側カニューレ(または外筒)、内側カニューレ(内筒)、およびオブチュレータから構成される。オブチュレーターは、気管切開チューブを挿入する際に、外側カニューレの留置ガイドとして使用され、外側カニューレが所定の位置に装着されると取り外される。外側カニューレはそのまま留置され続けるが、分泌物がたまるため、その際は、内側カニューレを取り外して洗浄するか、交換する。単管式気管切開チューブには、取り外し可能な内側カニューレはなく、狭い気道に適している。カフ付き気管切開チューブは、チューブの先端に膨らませることができるバルーンがあり、気管を密閉して陽圧換気を可能にし、誤嚥を防ぐ。

気管切開を行うとカニューレを介して呼吸が行われる。そのため、声帯を気流が流れることがなく、発声が不可能となってしまう。それを解決するために、スピーキングカニューレ(もしくはスピーチカニューレ[8])が用いられることがある。これらのカニューレには、1個または数個の柵状の穴が空いており、このタイプは発声が可能である[9]。スピーキングカニューレでは一部の気流を上気道にも流すことで発声を可能とすることができる。発声ができるようになるには訓練をする必要もあるが、言語によるコミュニケーションが可能になることはクオリティ・オブ・ライフに大きく貢献する。

特殊な気管切開チューブバルブ(Passy-Muir弁[10]など)は、患者の発話を補助するために作られた。患者は一方向弁のあるチューブから息を吸い込むことができる。息を吐くと、圧力によってバルブが閉じ、チューブの周りの空気が声帯を通過し、音声が発生する[11]

手術手技

観血的気管切開

気管切開は典型的には観血的手技(open surgical tracheotomy: OST)により、通常、無菌の手術室で行われる。最適な患者の体位は、肩の下にクッションを置き、頸部を伸ばすことである(甲状腺位)。一般的には、胸骨上切痕英語版の二横指上を横切開する。あるいは、甲状軟骨から胸骨上ノッチのすぐ上まで、首の正中を縦切開してもよい。皮膚、皮下組織、舌骨下筋を脇に避け、甲状腺峡部を露出させ、切離ないしは上方に牽引する。輪状軟骨を同定し、気管を安定させ前方に引っ張るための気管フックを留置した後、軟骨輪の間から、または複数の気管輪を垂直に横切って(十字切開)、気管を切開する。チューブを挿入しやすくするために、気管軟骨輪の一部を切除することもある。切開が完了したら、適切なサイズのチューブを挿入する。チューブを人工呼吸器に接続し、十分な換気と酸素化を確認する。その後、固定器具を気管切開チューブにとりつけ、紐で結びつけるか、皮膚に縫合、またはその両方で頸部に装着する[12][13]

経皮的気管切開

最初に広く認められた経皮的気管切開術(Percutaneous dilatational tracheotomy: PDT)は、1985年にニューヨークの外科医Pat Ciagliaによって報告された[14]。次に広く使われるようになったのは、1989年にオーストラリアの集中治療専門医ビル・グリッグス(Bill Griggs)英語版によって開発された方法である[15]。1995年にはFantoniが経皮的気管切開の経喉頭アプローチを開発した[16]。Griggs法とCiaglia Blue Rhino法が現在使用されている2つの主な手技である。これら2つの手技の間で多くの比較研究が行われているが、明確な差は現れていない[17]。OSTに対するPDTの利点は、患者のベッドサイドで手技を行えることである。これにより、手術室での処置に必要なコストや時間・人員を大幅に削減することができる[13]。PDTの禁忌は、気管切開部位の感染、コントロールされていない出血性疾患、不安定な心肺状態、安静を維持できない患者、気管喉頭構造の解剖学的異常などである[3]

リスクと合併症

気管切開には、他の外科手術と同様、難しい症例もある。子供の手術は、体が小さいのでより難しい。首が短かったり、甲状腺が大きかったりすると、気管に到達するのが難しくなる[18]。首に異常のある患者、肥満の患者、大きな甲状腺腫のある患者には、他にも問題点がある。

起こりうる合併症には、出血気道確保失敗、皮下気腫英語版創部感染、ストーマの蜂巣炎気管輪の損傷、気管切開チューブの位置異常、気管支痙攣などがある[19]

早期合併症には、感染、出血、縦隔気腫英語版気胸気管食道瘻英語版反回神経損傷、チューブの位置異常などがある。遅発性合併症には、気管腕頭動脈瘻英語版気管狭窄英語版、遅発性気管食道瘻、気管皮膚瘻などがある[12]

2013年のシステマティックレビュー(1985年から2013年4月までの発表症例)では、経皮的拡張気管切開術(PDT)の合併症と危険因子が調査され、死亡の主な原因は出血(38.0%)、気道合併症(29.6%)、気管穿孔(15.5%)、気胸(5.6%)であった[20]。2017年に行われた同様のシステマティックレビュー(1990年から2015年の症例)では、観血的気管切開術(OST)とPDTの両方における致死率が調査され、2つの術式間で死亡率と死因が同程度であることが確認された[21]

出血はまれであるが、気管切開後死亡の原因となる可能性が最も高い。出血は通常、気管と近傍の血管との間の異常な交通である気管腕頭動脈瘻英語版が原因で起こり、術後3日から6週間の間に現れることがほとんどである。瘻孔は、器具の位置の誤り、褥瘡や粘膜損傷を引き起こす高いカフ圧、低位の気管切開、頸部の運動の繰り返し、放射線治療、または長時間の挿管によっても生じることがある[22]

PDTに関する2013年のシステマティックレビューで確認された潜在的な危険因子は、気管支鏡による位置確認をしていないことであった。気管支鏡(気道の内部を可視化するために患者の口または気管切開口から挿入する器具)を使用すると、気切チューブの適切な留置確認と解剖学的構造を可視化するのに有用である。しかし、これは手技と患者の解剖学的構造の両方に関する外科医の技量と習熟度に左右されることもある[20]

気道に関する潜在的な合併症は多数ある。PDT中の死亡の主な原因には、気切チューブの外れ、処置中の気道確保失敗、チューブの誤留置などがある[20]。より緊急性の高い合併症の1つに、自然発生的またはチューブ交換時の気切チューブの外れまたは位置異常がある。まれではあるが(気切チューブ使用日数の1/1000以下)、気道喪失による致死率は高い[23]。このような事態の重大性から、気切チューブを使用している人は、医療従事者と相談し、事前に具体的な緊急挿管ないしは再挿入計画を書面で作成しておく必要がある。

喉頭気管狭窄英語版は、喉頭・気管の異常な狭窄として知られており、気管切開後の長期合併症の可能性がある。狭窄の最も一般的な症状は、徐々に悪化する呼吸困難である。しかし発生率は低く、0.6~2.8%で、大出血や創感染症がある場合は発生率が高くなる。2016年のシステマティックレビューでは、観血的気管切開を受けた患者ではPDTと比較して気管狭窄の発生率が高いことが確認されたが、その差は統計的に有意ではなかった[24]

ベッドサイドでの経皮的気管切開術に関する2000年のスペインの研究では、全合併症率は10~15%、手技による死亡率は0%と報告されており[25]、これはオランダ[26][27]や米国の文献[28][29]で報告されている他の一連の症例報告と同程度である。2013年のシステマティックレビューでは、手技による死亡率は0.17%、600例に1例と算出されている[20]。複数のシステマティックレビューで、死亡率、大出血、創感染率に経皮的手術法と観血的手術法の間に有意差はないことが確認されている[21][24]

特に2017年のシステマティックレビューでは、全気管切開のうち最も一般的な死因とその頻度を算出し、出血(OST:0.26%、PDT:0.19%)、気道喪失(OST:0.21%、PDT:0.20%)、チューブの誤留置(OST:0.11%、PDT:0.20%)とした[21]

2003年のアメリカの遺体を対象とした研究では、Ciaglia Blue Rhino法では多発性の気管輪骨折が、その小規模な症例シリーズの100%に発生した合併症として確認されている[30]。上記の比較研究では、生残患者30人中9人に気管輪骨折が確認されている[17]一方、他の小規模な研究では20例中5例であったとされる[31]

歴史

古代

最も古い気管切開の描写は、紀元前3600年頃のエジプトの2つの粘土板に見られる[32]。紀元前1550年頃に作られた110ページのエジプトの医学パピルス英語版であるエーベルス・パピルスでも気管切開について言及されている[32][33]。気管切開は古代インドの経典であるリグ・ヴェーダにも記載されており、「頸部軟骨が完全に切断されない限り、結紮具を用いずに気管を再び結合させることができる恩寵豊かな方法」[33][34][35]と記されている。スシュルタ・サンヒター英語版(紀元前400年頃)は、気管切開について言及しているアーユルヴェーダ医学と外科学に関するインド亜大陸の別のテキストである[36]

ギリシャの医師ヒポクラテス(紀元前460~370年頃)は、気管切開を非難した。ヒポクラテスは、気管切開の際に頸動脈が不注意で裂傷し、死亡する危険性があることを警告し、「最も困難な瘻孔は軟骨部に生じるものである」とも述べている[37]ビザンチウムのホメロス(Homerus of Byzantium)英語版は、アレキサンダー大王(紀元前356~323年)が兵士の気管を剣先で切開して窒息から救ったことを記したと言われている[38]

ヒポクラテスの懸念をよそに、ペルガモンガレノス(129-199)とカッパドキアアレタエウス(Aretaeus)英語版(ともに紀元後2世紀にローマに住んでいた)は、ビテュニアのアスクレピアデス(Asclepiades of Bithynia)英語版が初めて待機的な気管切開を行った人と認めている[39][40]。しかし、アレタエウスは、気管軟骨に切開を加えると二次的な創傷感染が起こりやすく、治癒しないと考えていたため、気管切開を行うことに警告を発していた。彼は、「創縁は癒合しない、なぜなら両者とも軟骨質であり、合わさる性質を持っていないからである」と書いている[41][42]。紀元2世紀にローマに住んでいた他のギリシア人外科医アンティルス(Antyllus)英語版は、口腔疾患を治療する際に気管切開を行ったと報告されている。アンティルスは、生命を脅かす気道閉塞の治療には、第3気管輪と第4気管輪の間を横切開することを推奨し、現代で使用されている手技により近いものに改良した[41]。一方、アンティルスは、重度のクループの場合、病変が手術部位の奥であるため、気管切開術は有効ではなかったと記している。アンティルスの原著は失われたが、いずれもギリシャ人の医師であり歴史家でもあった、オリバシウス(320-400年頃)とアイギナのパウロス(625-690年頃)によって保存された[41]。ガレノスは気管の解剖学を明らかにし、喉頭が声を発生させることを初めて実証した[43][44]。ガレノスは人工呼吸の重要性も理解していたのかもしれない。というのも、彼はある実験で、死んだ動物の肺を膨らませるためにふいごを使ったからである[45][46]

中世

気管切開の提唱者であった7世紀のビザンチンの医師、アイギナのパウロスは、気管切開をテーマとした以前のギリシア人著者の著作を認め、彼自身の著作の中で気管切開に関する記述を行っている[47]。1000年、アラビア語圏のスペインに住んでいたアラブ人、アブー・アル=カースィム・アッ=ザフラウィー(936-1013)は、30巻からなる図譜つきの手術書である解剖の書(Kitab al-Tasrif)英語版[訳語疑問点]を出版した。彼は気管切開を行ったことはないが、自殺未遂で自分の喉を切った奴隷の少女を治療した。彼は傷を縫い合わせ、少女は回復し、喉頭の切開が治癒することを証明した。1020年頃、イブン・スィーナー(980-1037)は『医学典範(The Canon of Medicine)英語版』の中で、呼吸を容易にするための気管挿管について述べている[48]。窒息治療のための気管切開に関する最初の明確な記述は、12世紀にイブン・ズフル(1091-1161)によってなされた。Mostafa Shehatによれば、ズフルはヤギの気管切開手術に成功し、ガレノスの術式の正しさを実証した[49][50]

16-18世紀

ジェローラモ・ファブリツィオ(1533–1619) は最初に気管切開チューブを考案した。

ルネサンス期には解剖学外科学が大きく進歩し、外科医は気管に対する手術をより積極的に行うようになった。にもかかわらず、死亡率は改善しなかった[41]。1500年から1832年までの文献には、気管切開が成功したという記述が28件しかない[41]

動物の気管挿管とその後の人工呼吸に関する最初の詳細な記述は、ブリュッセルのアンドレアス・ヴェサリウス(1514-1564)によるものだった。1543年に出版された彼の画期的な著書『ファブリカ』の中で、彼は、瀕死の動物を開胸して気管に英語版を入れ、葦を介して間欠的に息を吹き込む実験について述べている[46][51]。ヴェサリウスは、この技術が救命につながると書いている。

フェラーラアントニオ・ムサ・ブラッサボラ(Antonio Musa Brassavola)英語版(1490-1554)は、理髪外科医に見放された扁桃周囲膿瘍の患者を気管切開で治療した。患者は完治したようで、ブラッサボラは1546年にその記録を出版した。この手術は、気管やその開口部に関する多くの古代の文献にもかかわらず、記録された最初の気管切開の成功例とされている[41]アンブロワーズ・パレ(1510-1590)は、16世紀半ばに気管裂傷の縫合について述べた。ある患者は内頸静脈も損傷していたにもかかわらず生存した。別の患者は気管と食道に傷を負っており、死亡した。

ジェローラモ・ファブリツィオOperationes chirurgicae, 1685』の図譜

16世紀末、解剖学者で外科医のジェローラモ・ファブリツィオ(1533-1619)は、実際に自分で手術を行ったことはないものの、著作の中で気管切開の有用な手技を述べている。彼は縦切開を推奨し、気管切開チューブのアイデアを最初に紹介した。これはまっすぐで短いカニューレ英語版であり、チューブが気管の奥に進みすぎるのを防ぐための羽がついている。彼はこの手術を、異物分泌物による気道閉塞の場合にのみ行って良い最後の手段としてのみ推奨した。ファブリツィオが記した気管切開の方法は、今日用いられているものと類似している。ジュリオ・チェーザレ・カッセリ(Giulio Cesare Casseri)英語版は、ファブリツィオの後を継いでパドヴァ大学の解剖学教授となり、気管切開の手技と器具に関する独自の著作を発表した。カッセリは、いくつかの穴のあいた湾曲した銀の管を使うことを推奨した。マルコ・アウレリオ・セヴェリーノ(Marco Aurelio Severino)英語版(1580-1656)は、熟練した外科医であり解剖学者であったが、1610年にナポリでジフテリアが流行した際、ファブリツィオが推奨した縦切開法を用いて気管切開を複数回成功させた。彼はまた、独自のトロカールを開発した[52]

1620年、ヌムール公の外科医であり解剖学者でもあったフランスの外科医Nicholas Habicot(1550-1624)は、彼が行った4件の「気管支切開術」の成功報告を発表した[53]。そのうちの1件は、異物の除去のための気管切開術の最初の記録例であり、この例では刺された被害者の喉頭の血栓であった。彼はまた、小児患者に対して初めて行われた気管切開についても述べている。14歳の少年が、追い剥ぎによる金貨の盗難を防ごうとして、9枚の金貨が入った袋を飲み込んだ。金貨は食道に詰まり、気管を閉塞した。Habicotは、この手術が喉頭の炎症患者にも有効である可能性を示唆した。彼はこの外科手術のための器具を開発したが、それは現代の設計と類似していた(彼が単管式カニューレを使用したことを除いて)[要出典]

サントーリオ・サントーリオ(1561-1636)は、手術にカニューレを初めて使用したと考えられており、手術後数日間はカニューレをそのままにしておくことを推奨していた[54]。初期の気管切開器具は、HabicotのQuestion Chirurgicale[53]とCasseriの1627年の遺著Tabulae anatomicaeに図解されている[55]ルーヴァン大学英語版の医学部教授であったThomas Fienus(1567-1631)は、1649年に「気管切開(tracheotomy)」という言葉を初めて使用したが、この言葉が一般的に使用されるようになったのはそれから1世紀後のことである[56]ロストック大学解剖学教授のGeorg Detharding(1671-1747)は、1714年に溺水者を気管切開で治療した[57][58][59]

19世紀

1820年代、気管切開は重度の気道閉塞を治療する正当な手段として認識され始めた。1832年、フランスの医師ピエール・ブルトノー(Pierre Bretonneau)英語版がジフテリアの最終治療手段として気管切開を行った[60]。1852年、ブルトンノーの弟子であるアルマン・トルーソーは169件の気管切開を報告した(そのうち158件はクループのため、11件は「喉頭の慢性疾患」のため)[61]。1858年、ジョン・スノウは動物モデルでクロロホルム麻酔を投与するための気管切開と気管へのカニュレーションを初めて報告した[62]。1871年、ドイツの外科医フリードリヒ・トレンデレンブルク英語版(1844-1924)は、全身麻酔薬を投与する目的で行われ、初めて成功したヒトの待機的気管切開について記述した論文を発表した[63][64][65][66][67]。1880年には、スコットランドの外科医ウィリアム・メイスウェン(William Macewen)英語版(1848-1924)が、声門浮腫のある患者に呼吸を可能にするために、気管切開の代替として、またクロロホルムを用いた全身麻酔の際に、経口気管挿管を行ったことを報告している[68][69]。1888年にドイツ皇帝フリードリヒ3世喉頭癌で亡くなった後、モレル・マッケンジー(Morell Mackenzie)英語版(1837-1892)と他の侍医達は、気管切開の当時の適応と絶対適応について論じた本を共同執筆した[19]

20世紀以後

喉頭の解剖(1)甲状軟骨 (2)輪状甲状靭帯 (3)輪状軟骨 (4)気管 (A)輪状甲状靭帯切開 (B)気管切開術

20世紀初頭、医師は機械換気を必要とする麻痺性ポリオの治療に気管切開を使用し始めた。現在行われている外科的気管切開法は、1909年にフィラデルフィアジェファーソン大学喉頭科学教授のシュバリエ・ジャクソン(Chevalier Jackson)英語版(1865-1958)によって報告された[70]。しかし、20世紀に入っても気管切開のさまざまな側面について議論は続いた。さまざまな手術器具や気切チューブとともに、多くの手技が採用された。外科医たちは、気管切開をどこでどのように行うべきかについてコンセンサスを得ることができなかったようで、「高位気管切開」と「低位気管切開」のどちらがより有益であるかを議論していた。皮肉なことに、新しく開発された吸入麻酔薬全身麻酔の手技は、かえってリスクを増大させるようで、多くの患者が致命的な術後合併症を起こした。ジャクソンは、術後ケアの重要性を強調し、死亡率は劇的に減少した。1965年までには、外科解剖学は徹底的に広く理解され、抗生物質は広く利用できるようになり、術後感染症の治療に有用で、気管切開の他の主な合併症も管理しやすくなっていた。

社会と文化

気管切開を受けたことのある(一時的なものを含む)著名人には、ミカ・ハッキネンスティーブン・ホーキングコニー・カルプ英語版クリストファー・リーヴ[71]ロイ・ホーンウィリアム・レンキストギャビー・ギフォーズジョージ・マイケルヴァル・キルマー[72]、その他多数が含まれる[73]

映画やテレビ番組では、気道を確保するために首に緊急処置を施す場面が多く見られる。例えば、2008年のホラー映画『ソウ5』では、首から上で溺れさせられた登場人物が、呼吸のための気道を確保するためにペンで首を刺し、手作業で気管切開を行っている[74][75]。緊急気道確保の最も一般的な方法は輪状甲状靭帯切開で、皮膚と輪状靭帯を切開するものである。これはしばしば気管切開と混同されたり、誤った名前で呼ばれたりする。しかし、開口部の位置や代替気道が必要な期間によって、両者はまったく異なるものである(右図)。

出典

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参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク