ジム・グレイ
ジェームズ・ニコラス・グレイ (ジム・グレイ) | |
---|---|
2006年 | |
生誕 |
1944年1月12日[1] カリフォルニア州サンフランシスコ[2] |
死没 |
2007年1月28日(63歳) 洋上で行方不明 |
国籍 | アメリカ合衆国 |
研究分野 | 計算機科学 |
研究機関 |
IBM タンデムコンピューターズ DEC マイクロソフト |
出身校 | カリフォルニア大学バークレー校 |
博士課程 指導教員 | Michael Harrison[2] |
主な業績 | データベース、トランザクション処理 |
主な受賞歴 | チューリング賞(1998)[3] |
プロジェクト:人物伝 |
ジェームズ・ニコラス・グレイ(James Nicholas Gray、1944年1月12日 - 2007年1月28日洋上で行方不明となり、2012年5月16日に死亡認定された[4])は、アメリカ合衆国の計算機科学者。通称はジム・グレイ (Jim Gray)。1998年、「データベースおよびトランザクション処理に関する独創的な研究とシステム実装についての技術的リーダーシップに対して」チューリング賞を授与された[5]。
経歴
[編集]カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。母は教師、父はアメリカ陸軍の軍人で、2番目の子である。生まれた直後に一家はローマに移り、3年間過ごしたため、グレイは英語の前にイタリア語を覚えた[2]。その後バージニア州に移り4年間過ごしたが、両親が離婚。母と共にサンフランシスコに戻った[2]。父はアマチュア発明家であり、タイプライターのインクリボン・カートリッジの特許を取得し、実際に特許使用料を得ていた[2]。
空軍士官学校には入学できなかったため、1961年にカリフォルニア大学バークレー校に入学[2]。学費を稼ぐため、ジェネラル・ダイナミクスで職業体験学習として働いた。そこでモンロー計算機の使い方を習得している。化学の成績が悪かったため、わずか6カ月でバークレーを離れ、一時的に就職している。後にグレイはそのことを "dreadful"(全くひどい)と表現している[2]。復学すると、1966年に Engineering Mathematics(統計学の類)の学士号を取得した。
そのころ結婚し、妻の生まれ故郷であるニュージャージー州に移った。妻は教師の職を得て、グレイ自身はベル研究所でデジタルシミュレーションの仕事(Multicsプロジェクトの一部)を得た。ベル研究所では週3日間働き、2日間はクーラント数理科学研究所で修士課程の大学院生として学んでいた。夫妻は1年間働いて金をため、5年をかけて世界中を旅行しようと計画していた[2]。旅行に出る前に3カ月間バークレーに戻っている。2カ月間旅行した後、再びバークレーに戻った。旅行は2カ月で十分だったという[2]。グレイは大学院に入り、マイケル・ハリソンが指導した。1969年、プログラミング言語についての研究で博士号を取得し、その後2年間IBMでポスドクとして研究を続けた[2]。バークレーにいたときに娘が生まれているが、後に離婚した[2]。
業績
[編集]グレイは産業界の研究者兼ソフトウェア設計者としていくつかの企業(IBM、タンデム、DEC)に勤務し、1995年からはマイクロソフトの研究所の技術フェローを勤めていた[1]。
いくつかの主要なデータベースやトランザクション処理システムの開発に関わった。IBMの System R はSQL関係データベースの先駆けであり、業界標準となった。マイクロソフトでは TerraServer-USA やスローン・デジタル・スカイサーベイで使用する Skyserver などの開発を手がけた。
よく知られている業績は次の通り。
- データベースの階層型ロック手法の確立[6]
- トランザクションのコミットの意味論
- ストレージ割り当ての "five-minute rule"
- データウェアハウスのデータキューブ演算子
- 信頼できるトランザクション処理の要求仕様(ACIDテスト)を明確にし、それをソフトウェアに実装した。
Virtual Earth の開発も助けた[7][8][9][10]。また、Conference on Innovative Data Systems Research の共同創設者の1人である。
行方不明
[編集]2007年1月28日、母親の散骨のためにサンフランシスコ近海のファラロン諸島にヨット Tenacious で向かい、行方不明となった。沿岸警備隊は4日間C-130やヘリコプターを使った上空からの捜索と警備艇による捜索を行ったが、何の痕跡も見つからなかった[11][12][13][14]。
マイクロソフトなどはグレイが映った人工衛星からのヨット映像などを公開し、捜査に参加するよう呼びかけている。
グレイのヨットにはEPIRB(非常用位置指示無線標識装置)があり、沈没などの非常時には自動で遭難信号を発するようになっていた。グレイが帆走していたファラロン諸島周辺は、サンフランシスコ湾に出入りする貨物船の東西航路の北にあたる。その日の天気は快晴で、グレイの船からの無線を受信した船はなく、不審な信号も報告されていない。
2007年2月1日、DigitalGlobeの人工衛星が問題の海域をスキャンし、数千枚の画像を得た[15]。その画像群が Amazon Mechanical Turk にポストされ、グレイのヨットが写っていないか画像を解析する仕事が分配された。
2007年2月16日、友人たちによる捜索は打ち切られたが、手がかりの収集は続けられた。結局、2007年5月31日に家族の水面下の捜索も終わった。ハイテク機器を駆使した水上と水中での捜索でも、何の手がかりも得られなかった[16][17][18][19][20]。
カリフォルニア大学バークレー校とグレイの家族は、2008年5月31日にグレイの追悼イベントを開催。リチャード・ラシッドらが追悼の辞を述べた[21]。マイクロソフトは WorldWide Telescope というソフトウェア製品にグレイへの献辞を添えている。2008年、マイクロソフトはウィスコンシン州マディソンにオープンした研究センターにジム・グレイの名を冠した[22]。
行方不明から5年後の2012年5月16日、法的に海で死亡したと認定された[23][4]。
著作
[編集]- Transaction Processing: Concepts and Techniques (with Andreas Reuter) (1993). ISBN 1-55860-190-2.
- The Benchmark Handbook: For Database and Transaction Processing Systems (1991). Morgan Kaufmann. ISBN 978-1-55860-159-8.
出典
[編集]- ^ a b “DeWitt Undergraduate CS Scholarship: Dr. James Gray”. University of Wisconsin–Madison. 2010年2月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月18日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k Oral History Interview with Jim Gray (Synopsis at Charles Babbage Institute, University of Minnesota. 3 January 2002. Retrieved 2010-01-19.
- ^ Gray, J. (2003). “What next?: A dozen information-technology research goals”. Journal of the ACM 50: 41–57. doi:10.1145/602382.602401 . Jim Gray Turing Award lecture
- ^ a b Greengard, Samuel (June 2012). Vardi, Moshe. ed. “Jim Gray Declared Dead”. Communications of the ACM (ACM Media) 55 (7): 19. ISSN 0001-0782.
- ^ James ("Jim") Nicholas Gray, Turing Award citation
- ^ Eswaran, K. P.; Gray, J. N.; Lorie, R. A.; Traiger, I. L. (1976). “The notions of consistency and predicate locks in a database system”. Communications of the ACM 19 (11): 624–633. doi:10.1145/360363.360369.
- ^ An Interview with Jim Gray June 2003, Interviewed by David A. Patterson
- ^ Interview with Jim Gray by Marianne Winslett, for ACM SIGMOD Record, March 2003 as part of Distinguished Database Profiles
- ^ Interview on MSDN Channel 9, Behind the Code, March 3, 2006
- ^ Interview by Mark Whitehorn for The Register 30 May 2006
- ^ “Coast Guard searches for missing SF boater: 63-year-old man failed to return from trip to Farallon Islands”. San Francisco Chronicle. (January 29, 2007)
- ^ Doyle, Jim (January 30, 2007). “Sea search for missing Microsoft scientist: No sign of S.F. man who set out alone for Farallon Islands in 40-foot sailboat”. San Francisco Chronicle
- ^ Schevitz, Tanya; Rubenstein, Steve (January 31, 2007). “Search for missing sailor extends to Humboldt”. San Francisco Chronicle
- ^ May, Meredith; Doyle, Jim (January 31, 2007). “Vast search off coast for data wizard”. San Francisco Chronicle
- ^ Hafner, Katie (February 3, 2007). “Silicon Valley's High-Tech Hunt for Colleague”. New York Times 2010年5月6日閲覧。
- ^ Inside the High-Tech Hunt for a Missing Silicon Valley Legend, Wired Magazine (August 2007)
- ^ Hellerstein, J. M.; Tennenhouse, D. L. (2011). “Searching for Jim Gray”. Communications of the ACM 54 (7): 77. doi:10.1145/1965724.1965744 .
- ^ Blog for people trying to locate Jim Gray
- ^ Help Find Jim Information to help locate Jim Gray
- ^ Print a MISSING Poster Hang a MISSING Poster in Southern California and Mexico.
- ^ Jim Gray Tribute website from the University of California, Berkeley
- ^ Database Pioneer Joins Microsoft to Start New Database Research Lab, an April 2008 press release from Microsoft
- ^ Nick Wingfield (May 18, 2012). “Closure in Disappearance of Computer Scientist”. New York Times 2012年5月18日閲覧。
外部リンク
[編集]- Gray's Microsoft Research home page, accessed 7 July 2012
- Video Behind the Code on Channel 9, interviewed by Barbara Fox, 2005
- Oral History Interview with Jim Gray, Charles Babbage Institute, University of Minnesota.
- The Future of Databases, SQL Down Under. Interview with Dr Greg Low, 2005.
- Tribute by Mark Whitehorn for The Register April 30, 2007
- Stonebraker, M.; Dewitt, D. J. (2008). “A tribute to Jim Gray”. Communications of the ACM 51 (11): 54. doi:10.1145/1400214.1400230.
- EE380: The Search for Jim Gray, Panel Discussion at Stanford University May 28, 2008
- Tribute by IEEE Computer Society, ACM, and UC Berkeley to honor Jim Gray May 31, 2008
- Tribute by James Hamilton
- Why Do Computers Stop and What Can Be Done About It?, a technical report by Jim Gray, 1985
- Saade, E. (2008). “Search survey for S/V Tenacious”. ACM SIGMOD Record 37 (2): 70. doi:10.1145/1379387.1379409 .[リンク切れ]
- Hellerstein, J. M.; Tennenhouse, D. L. (2011). “Searching for Jim Gray”. Communications of the ACM 54 (7): 77. doi:10.1145/1965724.1965744 .
- Crawford, D. (2008). “Jim Gray”. Communications of the ACM 51 (11): 7. doi:10.1145/1400214.1400216.
- Szalay, A. S. (2008). “Jim Gray, astronomer”. Communications of the ACM 51 (11): 58. doi:10.1145/1400214.1400231.
- Gray, J. (2008). “Technical perspectiveThe Polaris Tableau system”. Communications of the ACM 51 (11): 74. doi:10.1145/1400214.1400233.