コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

バイタルサイン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
バイタルサイン
医学的診断
血圧心拍数を含む複数のバイタルパラメータのモニタリングシステムを統合した麻酔器
目的 人の一般的な身体的健康状態を評価する

バイタルサインバイタルとも呼ばれる)は、体の生命維持(生命を支える)機能の状態を示す最も重要な4~6個の医学的徴候のグループを指す。これらの測定は、ヒトの一般的な身体的健康状態を評価し、考えられる疾病の手掛かりを得て、容態の状況を示すために行われる[1]。ヒトのバイタルサインの正常範囲は、年齢、体重、性別、全体的な健康状態によって異なる[2]

主要なバイタルサインは4つある:体温血圧脈拍(または心拍数)、呼吸数で、それぞれBT、BP、PR(HR)、RRと略記される。ただし、臨床状況によっては、「第5のバイタルサイン」や「第6のバイタルサイン」と呼ばれる他の測定値も含まれることがある。

主要なバイタルサイン

[編集]

ほとんどの医療現場で標準とされている主要なバイタルサインは4つある:[3]

  1. 体温
  2. 心拍数または脈拍
  3. 呼吸数
  4. 血圧

必要な機器は体温計血圧計、そして時計である[4]。 脈拍は手で測定できるが、医療従事者が患者の心尖拍動を測定するには聴診器が必要な場合がある[5]

体温

[編集]
電子体温計

体温を測定英語版すると、核心温(体の中心部の温度)英語版の指標が得られる。核心温は厳密に制御されているが(体温調節英語版)、これは生体内の化学反応の速度への影響が大きいためである。体温は、体が産生する熱と失う熱のバランスによって維持される[1]

体温は、個人の正常体温の測定部位別、測定条件別のベースラインを確立するために記録される。

体温は口腔内、直腸、腋窩、耳、または皮膚から測定できる。口腔、直腸、腋窩の体温はガラス製または電子体温計で測定できる[6]。 直腸温は口腔温より約0.5℃高く、腋窩温は口腔温より約0.5℃低いことに注意する[7]。 耳と皮膚の体温測定には、これらの部位から温度を測定するように設計された特別な機器が必要である[6]

37 °C (99 °F)が「正常」体温とされているが、個人差がある。ほとんどのヒトの正常体温は36.0 - 37.5 °C (96.8 - 99.5 °F)の範囲内にある[8]

体温をチェックする主な理由は、発熱がある場合の全身感染や炎症の兆候を探ることである。発熱とは37.8 °C (100.0 °F)以上の体温と考えられている[8]。 体温上昇の他の原因には熱中症があり、これは制御されていない熱産生や体の熱交換メカニズムの異常によって起こる[8]

体温低下(低体温症)も評価する必要がある。低体温症は35 °C (95 °F)未満の体温と分類される[7]

また、時間経過による患者の体温の傾向を確認することも推奨される。38℃の発熱は、患者の以前の体温がそれより高かった場合、必ずしも不吉な兆候を示すものではない。

脈拍

[編集]
橈骨動脈触知による脈拍測定

脈拍は、心臓が動脈に血液を送り出す際の拍動数で、1分間あたりの拍動数(beats per minute: bpm)として記録される[6]。 心拍数とも呼ばれることがあるが、心拍数は心臓の単位時間あたりの拍動数で、心拍数の提供に加えて、脈拍は強さと明らかなリズムの異常についても評価すべきである[6]。 脈拍は一般的に手首(橈骨動脈)で測定される。他の測定部位には、肘(上腕動脈英語版)、首(頸動脈英語版)、膝の裏(膝窩動脈英語版)、または足(足背動脈英語版後脛骨動脈英語版)がある[6]。 脈拍は上記の部位で人差し指と中指を使って、しっかりと、しかし優しく圧迫して測定し、60秒間に感じる拍動数を数える(または30秒間数えて2倍する)[6]。 脈拍数は聴診器を使って心拍英語版を直接聴くことでも測定できる。脈拍は運動、体力レベル、病気、感情、薬物によって変動することがある[6]

脈拍は年齢によっても変動する。新生児の心拍数は100~160bpm、乳児(0~5か月)は90~150bpm、幼児(6~12か月)は80~140bpmとなることがある[7]。 1~3歳の子どもの心拍数は80~130bpm、3~5歳の子どもは80~120bpm、より年長の子ども(6~10歳)は70~110bpm、思春期(11~14歳)は60~105bpmとなることがある[7]。 成人(15歳以上)の心拍数は60~100bpmとなることがある[7]

呼吸数

[編集]

平均呼吸数は年齢によって異なるが、18歳から65歳のヒトの正常範囲は1分間に16~20回である[9]。 呼吸数の潜在的な呼吸機能障害の指標としての価値は研究されてきたが、研究結果はその価値が限定的であることを示唆している。呼吸の主な機能はCO2を除去して循環血中に重炭酸塩基を残すことであるため、呼吸数はアシドーシスの明確な指標となる。

血圧

[編集]
血圧を測定するためのマンシェット聴診器

血圧は2つの値として記録される。すなわち、心臓の最大収縮時に生じる高い収縮期英語版圧と、より低い拡張期英語版圧である[6]。 成人の正常血圧はおよそ120/80で、120が収縮期血圧、80が拡張期血圧を示す[7]。 収縮期圧と拡張期圧の差を脈圧英語版という。

これらの圧の測定は現在通常アネロイド式または電子式の血圧計で行われる。古典的な測定装置は水銀血圧計である。アメリカとイギリスでは一般的に水銀ミリメートル単位が使用されるが、SI単位の圧力単位が使用されるところもある。血圧は一般的には、上腕動脈で測定される。血圧は四肢の他の部分でも測定される。これらの圧は英語版の血管閉塞や動脈閉塞英語版を評価するために使用される(足首上腕指数英語版を参照)。

また、血圧は動脈内にカテーテルを留置して、圧トランスデューサー経由でリアルタイムで測定することも可能であり、これは観血的血圧測定と呼ばれる。

その他の徴候

[編集]

アメリカでは、上記の4つに加えて、多くの医療従事者は政府の法により、患者の身長体重ボディマス指数を記録することが要求または推奨されている[10]。 従来のバイタルサインとは対照的に、これらの測定値は変化する速度が遅いため、急性の状態変化の評価には有用ではない。しかし、長期の病気や慢性的な健康問題の影響を評価するのには有用である。

バイタルサインの定義は評価される状況によっても異なることがある。特に救急救命士は、病院外の環境では呼吸、脈拍、血圧、体温に加えて意識を「5つのバイタルサイン」として測定するよう教育されている[11]

第5のバイタルサイン

[編集]

「第5のバイタルサイン」は、以下の異なるパラメータを指すことがある。

  • 痛みは、米国退役軍人省などの一部の組織では標準的な第5のバイタルサインとみなされている[12]。 痛みは患者の主観的な報告に基づいて0~10の痛みスケール英語版で測定され、信頼性が低い場合がある[13]。 痛みを定期的に記録しても治療方法が変わらない可能性があることを示す研究もある[14][15][16]

第6のバイタルサイン

[編集]

標準的な「第6のバイタルサイン」は存在せず、その使用は第5のバイタルサインよりも、より非公式で分野に依存している。

年齢による変動

[編集]
基準値の血圧範囲
段階 おおよその年齢 収縮期 拡張期
範囲 典型例 範囲 典型例
乳児 1~12か月 75-100[29] 85 50–70[29] 60
幼児 1~4歳 80-110[29] 95 50–80[29] 65
就学前児 3~5歳 80-110[29] 95 50–80[29] 65
学童期 6~13歳 85-120[29] 100 55–80[29] 65
思春期 13~18歳 95-140[29] 115 60–90[29] 75

子どもと乳児は、以下の表に示すように成人より速い呼吸数と心拍数を持つ:

年齢 正常心拍数
(毎分の拍動数)
正常呼吸数
(毎分の呼吸数)
範囲[30] 典型例 範囲[31] 典型例
新生児 100–160[32] 130 30–50 40
0~5か月 90–150 120 25–40 30
6~12か月 80–140 110 20–30 25
1~3歳 80–130 105 20–30 25
3~5歳 80–120 100 20–30 25
6~10歳 70–110 90 15–30 20
11~14歳 60–105 80 12–20 16
15~20歳 60–100 80 12–30[33] 20

モニタリング

[編集]

バイタルパラメータのモニタリングには、通常少なくとも血圧心拍数が含まれ、できればパルスオキシメトリ呼吸数も含める。関連するバイタルパラメータを同時に測定・表示するマルチモーダルモニターは、通常集中治療室のベッドサイドモニターや手術室麻酔器に統合されている。これらにより患者の継続的なモニタリングが可能となり、医療スタッフは患者の全体的な状態の変化について継続的に情報を得ることができる。

モニタリングは従来、看護師や医師によって行われてきたが、消費者自身が使用できる機器を開発している企業もいくつかある。これにはCherish Health、Scanadu、Azoiなどがある。

早期警戒スコア

[編集]

早期警戒スコアは、個々のバイタルサインの値を単一のスコアに組み合わせたものとして提案されている。これは、バイタルサインの悪化が心停止集中治療室への入室に先行することが多いという認識に基づいている。適切に使用された場合、迅速対応チーム英語版は悪化している患者を評価・治療し、有害な転帰を阻止できる[9][34][35]

ギャラリー

[編集]


脚注

[編集]
  1. ^ a b Vital Signs: How to Check My Vitals at Home” (英語). Cleveland Clinic. 2023年11月6日閲覧。
  2. ^ Vital Signs Table - ProHealthSys” (3 July 2013). 2024年12月2日閲覧。
  3. ^ Vital Signs”. Cleveland Clinic. 10 Sep 2020閲覧。
  4. ^ Vital Signs (Body Temperature, Pulse Rate, Respiration Rate, Blood Pressure)” (英語). www.hopkinsmedicine.org (2022年6月14日). 2023年11月6日閲覧。
  5. ^ Apical Pulse: What It Is and How to Take It” (英語). Cleveland Clinic. 2023年11月6日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h Vital Signs (Body Temperature, Pulse Rate, Respiration Rate, Blood Pressure)” (英語). www.hopkinsmedicine.org. 2019年8月30日閲覧。
  7. ^ a b c d e f Normal Vital Signs: Normal Vital Signs, Normal Heart Rate, Normal Respiratory Rate”. Medscape (2019年7月23日). 2024年12月2日閲覧。
  8. ^ a b c LeBlond, Richard F.; Brown, Donald D.; Suneja, Manish; Szot, Joseph F. (2014-09-05). DeGowin's diagnostic examination (10th ed.). New York: McGraw-Hill Education. ISBN 9780071814478. OCLC 876336892 
  9. ^ a b National Early Warning Score Development and Implementation Group (NEWSDIG) (2012). National Early Warning Score (NEWS): standardising the assessment of acute-illness severity in the NHS. London: Royal College of Physicians. ISBN 978-1-86016-471-2 
  10. ^ What should I include when I record vital signs of my patients for MU? - Providers & Professionals - HealthIT.gov”. 2018年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年8月24日閲覧。
  11. ^ 【救急活動】救急現場のバイタルサイン測定:呼吸(消防職員向け)【基本手技】”. 救急隊のホットライン (2023年6月8日). 2024年12月25日閲覧。
  12. ^ Pain as the 5Th Vital Sign Toolkit” (pdf). アメリカ合衆国退役軍人省 (2000年10月). 2024年12月5日閲覧。
  13. ^ Lorenz, Karl A.; Sherbourne, Cathy D.; Shugarman, Lisa R.; Rubenstein, Lisa V.; Wen, Li; Cohen, Angela; Goebel, Joy R.; Hagenmeier, Emily et al. (1 May 2009). “How Reliable is Pain as the Fifth Vital Sign?”. J Am Board Fam Med 22 (3): 291–298. doi:10.3122/jabfm.2009.03.080162. PMID 19429735. 
  14. ^ Wellbery, Caroline (15 October 2006). “Tips From Other Journals - American Family Physician”. American Family Physician 74 (8): 1417–1418. http://www.aafp.org/afp/2006/1015/p1417a.html. 
  15. ^ “Measuring pain as the 5th vital sign does not improve quality of pain management”. J Gen Intern Med 21 (6): 607–12. (2006). doi:10.1111/j.1525-1497.2006.00415.x. PMC 1924634. PMID 16808744. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1924634/. 
  16. ^ The Fifth Vital Sign: Implementation of the Neonatal Infant Pain Scale”. 2012年5月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月24日閲覧。
  17. ^ American College of Obstetricians and Gynecologists. (2015). “Menstruation in girls and adolescents: using the menstrual cycle as a vital sign. Committee Opinion No. 651”. Obstet Gynecol 126: 143–6. 
  18. ^ “Menstruation in Girls and Adolescents: Using the Menstrual Cycle as a Vital Sign”. Pediatrics (American Academy of Pediatrics, Committee on Adolescence, American College of Obstetricians and Gynecologists, Committee on Adolescent Health Care.) 118 (5). (2006). 
  19. ^ Mower W; Myers G; Nicklin E; Kearin K; Baraff L; Sachs C (1998). “Pulse oximetry as a fifth vital sign in emergency geriatric assessment”. Acad Emerg Med 5 (9): 858–65. doi:10.1111/j.1553-2712.1998.tb02813.x. PMID 9754497. 
  20. ^ Mower W; Sachs C; Nicklin E; Baraff L (1997). “Pulse oximetry as a fifth pediatric vital sign”. Pediatrics 99 (5): 681–6. doi:10.1542/peds.99.5.681. PMID 9113944. 
  21. ^ Neff T (1988). “Routine oximetry. A fifth vital sign?”. Chest 94 (2): 227. doi:10.1378/chest.94.2.227a. PMID 3396392. 
  22. ^ Mining Vital Signs from Wearable Healthcare Device via Nonlinear Machine Learning”. University of Hull. 2016年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年5月14日閲覧。
  23. ^ Vardi A; Levin I; Paret G; Barzilay, Z (2000). “The sixth vital sign: end-tidal CO2 in pediatric trauma patients during transport”. Harefuah 139 (3–4): 85–7, 168. PMID 10979461. 
  24. ^ “Manual vital signs reliably predict need for life-saving interventions in trauma patients”. J Trauma 59 (4): 821–8; discussion 828–9. (2005). doi:10.1097/01.ta.0000188125.44129.7c. PMID 16374268. 
  25. ^ Bierman A (2001). “Functional Status: The Sixth Vital Sign”. J Gen Intern Med 16 (11): 785–6. doi:10.1111/j.1525-1497.2001.10918.x. PMC 1495293. PMID 11722694. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1495293/. 
  26. ^ Nursing care of dyspnea: the 6th vital sign in individuals with chronic obstructive pulmonary disease (COPD).”. National Guideline Clearinghouse. 2009年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月16日閲覧。
  27. ^ “Physical performance measures in the clinical setting”. J Am Geriatr Soc 51 (9): 314–322. (2003). doi:10.1046/j.1532-5415.2003.51104.x. PMID 12588574. http://www.jhsph.edu/research/centers-and-institutes/roger-c-lipitz-center-for-integrated-health-care/Pra_PraPlus/studenski_et_al.pdf. 
  28. ^ Bellelli, Giuseppe; Trabucchi, Marco (May 1, 2008). “Delirium as the Sixth Vital Sign”. Journal of the American Medical Directors Association 9 (4): 279; author reply 279–80. doi:10.1016/j.jamda.2007.08.014. PMID 18457806. https://www.jamda.com/article/S1525-8610(08)00072-8/abstract. 
  29. ^ a b c d e f g h i j PEDIATRIC AGE SPECIFIC Archived 2017-05-16 at the Wayback Machine., page 6. Revised 6/10. By Theresa Kirkpatrick and Kateri Tobias. UCLA Health System
  30. ^ Emergency Care, Page 214
  31. ^ Emergency Care, Page 215
  32. ^ Vorvick, Linda. “Pulse”. MedlinePlus. U.S. National Library of Medicine. 23 January 2011閲覧。
  33. ^ Normal Vital Signs: Normal Vital Signs, Normal Heart Rate, Normal Respiratory Rate” (2019年7月23日). 2024年12月25日閲覧。
  34. ^ National Institute for Health and Clinical Excellence. Clinical guideline 50: Acutely ill patients in hospital. London, 2007.
  35. ^ Acute care toolkit 6: The medical patient at risk” (英語). www.rcp.ac.uk. 2024年12月5日閲覧。

関連文献

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]