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藤前干潟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
藤前干潟

干潮時の藤前干潟(2013年4月)

地図
所在地 日本の旗 日本
愛知県名古屋市港区海部郡飛島村[1]
位置
藤前干潟の位置(日本内)
藤前干潟
北緯35度04分47秒 東経136度50分15秒 / 北緯35.07972度 東経136.83750度 / 35.07972; 136.83750座標: 北緯35度04分47秒 東経136度50分15秒 / 北緯35.07972度 東経136.83750度 / 35.07972; 136.83750
面積 323ha/3.23[1][2] km2
湖沼型 干潟
プロジェクト 地形
テンプレートを表示
藤前干潟周辺の空中写真。1987年撮影の13枚を合成作成。
国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。
庄内川河口部の干潟で休息する水鳥名港西大橋名港トリトン
埋立が回避された庄内川新川河口部の藤前干潟
庄内川河口部の漂流ゴミと水鳥
ラムサール条約湿地藤前干潟 藤前活動センター
庄内川河口左岸の名古屋市野鳥観察館の南側に併設されている稲永ビジターセンター(環境省のラムサール条約関連施設)
満潮時の庄内川河口と南陽工場

藤前干潟(ふじまえひがた)とは、愛知県名古屋市港区海部郡飛島村にまたがる、ラムサール条約登録地の干潟である[1][3]

概要

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藤前干潟は、名古屋港西南部の庄内川新川日光川河口が合流する、名古屋市港区藤前地区の地先に広がる干潟である。かつて、西1区と呼ばれ、名古屋市のゴミ埋め立て予定地計画があった場所でもある。

干潟の面積はおよそ323ヘクタール(ha)[1]。潮位が名古屋港基準面で70センチメートル以下になると、干潟が海面の上に現れる。伊勢湾に残る最後の大規模な干潟で、シギチドリ類やオナガガモスズガモといったカモ類など渡り鳥の飛来地として有名である[4]

ゴミ埋め立て計画中止後、藤前干潟と、隣接する庄内川・新川・日光川の3河川の河口にある庄内川河口干潟、新川河口干潟、飛島干潟の一部を保全し、2002年平成14年)11月1日に国指定藤前干潟鳥獣保護区(集団渡来地)に指定(面積770ヘクタール[4]、うち特別保護地区323ヘクタール)、同年11月18日にラムサール条約に登録された[3]。2007年(平成19年)5月22日に、名古屋市とオーストラリアジロング市が湿地提携に調印し、両市は湿地映像の相互配信を行っている[5]

歴史

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1950年代以前には藤前干潟がある伊勢湾最奥部には広大な干潟が広がっていたが、港湾開発・工場用地・農業用地の埋立開発により、そのほとんどが消滅した[6][7]名古屋市愛岐処分場岐阜県多治見市)が2001年(平成13年)に満杯予定であったことから名古屋市が藤前干潟の一部を埋め立てる開発計画を立てたが、環境庁(現:環境省)や住民団体などの反対により埋立は撤回された[8]

年表

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  • 1950年代 - 伊勢湾最奥部の干潟など4,000ヘクタールほどが、臨海工業用地造成のために埋立地となる。
  • 1964年昭和39年) - 西部臨海団地が造成され、西側では農地としての鍋田干拓地の444ヘクタールの干拓が完了した。
  • 1969年(昭和44年) - 伊勢湾台風後に、名古屋港の南端に高潮防波堤が建設された。
  • 1981年(昭和56年)7月 - 藤前干潟の一部を含む西1区(101ヘクタール)が廃棄物処理用地等として港湾計画が立てられた。
  • 1984年(昭和59年)6月 - 名古屋市が埋立による「ごみの最終処分場」を西1区に建設する計画を発表。
  • 1985年(昭和60年)4月6日 - 庄内川河口部左岸に、藤前干潟の水鳥を観察するための「野鳥観察館」が開設された[9]
  • 1987年(昭和62年) - 「藤前干潟を守る会」の前身となる「名古屋港の干潟を守る連絡会」が発足。
  • 1990年平成2年)1月 - 環境庁が湾港審議会で藤前干潟の開発に対して、環境配慮するように指示した。
  • 1991年(平成3年)6月 - 名古屋市議会に埋立中止請願書と10万人の署名が提出された。
  • 1993年(平成5年)12月 - 名古屋市の事業計画が見直されて、46.5ヘクタールに縮小された計画で事業実施を決定された。
  • 1997年(平成9年)3月 - 名古屋市港区藤前二丁目101番地に、可燃ゴミ焼却施設の「名古屋市新南陽工場」が完成[10]
  • 1998年(平成10年) - 名古屋市が環境影響評価書を公表し、藤前干潟の埋立の環境への影響代償措置として人工干潟の造成を指示したが、環境庁と運輸省はこの人工干潟を承認しなかった。
  • 1999年(平成11年)1月 - 名古屋市が藤前干潟の埋立計画を断念。翌月「ごみ非常事態」を宣言し、その後徹底したごみの分別とリサイクルの取り組みが行われた[6]
  • 2002年(平成14年)11月1日 - 国の鳥獣保護区(集団渡来地)の指定を受けた。
  • 2002年11月18日 - ラムサール条約第8回締約国会議(COP8)にて、「藤前干潟」としてラムサール条約に登録された。
  • 2004年(平成16年)10月5日- 「藤前干潟クリーン大作戦実行委員会」が結成された。
  • 2005年(平成17年)3月27日 - 藤前干潟の接岸部に藤前活動センター、庄内川左岸河口にある稲永公園内に稲永ビジターセンターが開設された[9]
  • 2012年(平成24年) - 庄内川河口部左岸堤防の高潮堤防改修工事が完了[11]

ゴミ埋め立て処分場問題

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この問題は、名古屋市がこの干潟をゴミ処分場にするという計画が持ち上がったことがきっかけに発生した。名古屋市はアセスメントを行った結果、その計画が渡り鳥などの生態に影響すると知りながらも、人工干潟の造成を条件に埋め立てを実行に移そうとした。しかし、1999年(平成11年)に環境庁は人工干潟の造成では現環境の維持は極めて困難とする見解を出した。寺田達志環境庁環境影響評価課長が検討結果を持って名古屋市役所に単身で訪れるなど異例の行動で強硬な反対姿勢を示した[12]ほか、市民運動なども活発に行われ、その結果名古屋市は埋め立てを断念。ゴミの増大に悩む名古屋市のゴミ収集制度見直しの契機となった。

藤前干潟の生物

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鳥類

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東アジアで繁殖した多数のシギ類チドリ類が春と秋に旅鳥として飛来する重要な中継地の一つである。採餌と休息を行った後にオーストラリアやニュージーランドへと渡り越冬する。「ダイゼンの越冬群」と「ハマシギの越冬群」が愛知県のレッドリストで地域個体群の指定を受けている[13][14]。冬にはロシア極東アラスカ方面で繁殖した多数のカモ類が飛来し越冬する。ミサゴなどの猛禽類アオサギカルガモカワウなどは一年中この周辺に留まる。172種の鳥類が確認されている[15]。シギ・チドリ類は41種確認されている。各季節ごとに干潟で見られる代表的な種を以下に示す[6]

鳥類の種類

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他にはカラフトアオアシシギサンカノゴイツクシガモも見られる[3]

渡り鳥の飛来調査

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環境省により、藤前干潟の渡り鳥の飛来調査が行われている[16]。毎年定期的に60種ほどの水鳥が確認されている[17]。スズガモ、オナガガモ等のカモ類が10月から3月にかけて約1万羽、ハマシギが10月から5月にかけて約3000羽確認されている[17]2011年(平成23年)9月6日から2012年(平成24年)6月26日までの期間で、30回飛来数の調査が行われた[18]。周辺には稲永公園などの森があるため、水鳥以外の多数の野鳥も観察できる。

飛来調査の種類

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底生動物

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ゴカイカニなど174種ほどの底生生物の生息が確認されていて[15]、河口域の水質浄化の役割を果たしている[6]。カニやゴカイ類などは渡り鳥などのエサとなっている[6]

底生動物の種類

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哺乳類

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  • 鯨類 - スナメリ(現存する国内の干潟で鯨類が生息する希有な例)

生物の画像集

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藤前干潟の課題

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干潟には不法投棄や河川の上流から漂流ゴミが多く、アシ原などの窪地などに大量のゴミが堆積している。クリーン大作戦などの清掃活動が行われているが、流入するゴミに対応し切れていない。回収が難しい微細なマイクロプラスチックも多く漂着している[19]

近年は釣り人の急増により、釣りごみ(ルアーや針、釣り糸、餌の袋など)の投棄や、浅瀬での根掛かりで放棄された釣り糸や針が多く見られ、鳥獣保護区内での釣りごみに起因する傷害鳥が目立つようになった。

関連施設

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藤前干潟エリア

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  • ラムサール条約湿地藤前干潟・藤前活動センター、その東側には名古屋市のゴミ焼却場(南陽工場)がある[20]

稲永公園・庄内川河口エリア

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交通アクセス

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藤前干潟エリア

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稲永公園・庄内川河口エリア

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その他

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NPO法人藤前干潟を守る会により、「ガタレンジャー」と呼ばれるボランティアガイドが組織されている。

脚注

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  1. ^ a b c d 藤前干潟(ふじまえひがた)『日本のラムサール条約湿地』(環境省)p.40
  2. ^ 藤前干潟の拡大地図”. 名古屋市. 2012年10月2日閲覧。
  3. ^ a b c d Fujimae-Higata | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2004年1月1日). 2023年4月8日閲覧。
  4. ^ a b 藤前干潟”. 環境省. 2012年1月13日閲覧。
  5. ^ 藤前干潟情報”. 環境情報ネット. 2012年1月14日閲覧。
  6. ^ a b c d e くらしといのとをつなぐ翔橋藤前干潟” (PDF). 環境省名古屋自然保護官事務所 (2009年3月). 2012年10月2日閲覧。
  7. ^ 藤前干潟とは?”. 藤前干潟を守る会. 2012年10月2日閲覧。
  8. ^ 藤前干潟保全までの歴史的経緯”. 環境省名古屋自然保護官事務所. 2012年10月2日閲覧。
  9. ^ a b 名古屋市野鳥観察館”. 名古屋市. 2012年10月2日閲覧。
  10. ^ 南陽工場について”. 名古屋市. 2012年10月2日閲覧。
  11. ^ この工事に伴い、河口部のヨシ原が伐採されてその一部が消滅した。
  12. ^ 朝日新聞1998年12月18日
  13. ^ レッドデータブックあいち2009(ダイゼンの越冬群)” (PDF). 愛知県. pp. 176 (2009年). 2012年10月2日閲覧。
  14. ^ レッドデータブックあいち2009(ハマシギの越冬群)” (PDF). 愛知県. pp. 177 (2009年). 2012年10月2日閲覧。
  15. ^ a b 藤前干潟ってどんなところ?”. 環境省名古屋自然保護官事務所. 2012年10月2日閲覧。
  16. ^ 渡り鳥の飛来状況の調査”. 環境省. 2012年10月2日閲覧。
  17. ^ a b 渡り鳥の飛来状況の調査(藤前干潟の概要)”. 環境省. 2012年10月2日閲覧。
  18. ^ 括弧内の数値は30回の調査で、最も多く確認された日のカウント数
  19. ^ 「藤前」ラムサール登録20年/名古屋の干潟 未来へ/漂着ごみ 地域で取り組み『読売新聞』夕刊2022年10月7日8面
  20. ^ 藤前干潟学習用リーフレット” (PDF). 名古屋市. 2012年1月14日閲覧。

参考文献

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  • 藤前干潟を守る愛知の女性たち『残せたよ干潟ありがとう 藤前干潟を守る愛知の女性たち』新日本婦人の会愛知県本部、1999年9月。 
  • 『ラムサール条約湿地藤前干潟 藤前活動センター(パンフレット)』環境省。 
  • 辻淳夫『ちどりの叫び しぎの夢』東銀座出版社、2013年
  • 松浦さと子『そして、干潟は残った』リベルタ出版、1999年
  • 松原武久『一周おくれのトップランナー 名古屋市民のごみ革命』KTC中央出版、2001年

関連項目

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外部リンク

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