アムピトリーテー
アムピトリーテー Ἀμφιτρίτη | |
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海の女神 海の女王 | |
住処 | 海 |
シンボル | イルカ, 三叉戟 |
配偶神 | ポセイドーン |
親 | ネーレウス, ドーリス |
兄弟 | ガラテイア, テティス, プサマテー |
子供 | トリートーン, ロデー, ベンテシキューメー |
ローマ神話 | サラーキア |
アムピトリーテー(古希: Ἀμφιτρίτη, Amphitrītē)は、ギリシア神話の海神ポセイドーンの妃で海の女王である[1][2]。アンフィトリーテー、長母音を省略してアムピトリテ、アンピトリテ、アンフィトリテとも表記される。名前の意味は「大地を取り巻く第三のもの」、即ち海をあらわす。聖獣はイルカで、象徴は冠、ヴェール、王笏。
概要
[編集]アムピトリーテーは、ネーレウスがオーケアノスの娘ドーリスとの間にもうけた50人の娘ネーレーイデスの1人で[3][4]、ポセイドーンとの間に、トリートーン[5][6]、ロデー[6]、ベンテシキューメーを生んだ[7]。子供のうち、トリートーンは上半身が人間、下半身がイルカ(または魚)の姿をした海神である。ロデーは太陽神ヘーリオスの妻となった。ベンテシキューメーはエウモルポスを育てたといわれる。アムピトリーテーの三人の子供というのは、彼女自身の三面相を示すもので、トリートーンは幸運の新月、ロデーは刈入れのころの満月、ベンテシキューメーは危険な旧月を現している[8]。
神話
[編集]ホメーロスとヘーシオドス
[編集]アムピトリーテーは海の女性的化身である[9]。ホメーロスの『オデュッセイア』によると、青黒い瞳をしており、大波を起こすとされ[10]、海の巨大な怪魚や海獣を数知れず飼っているとされている[11]。しかしホメーロスにおいては十分な擬人化が進んでおらず、単に海を指すと思われる個所もある[12]。ヘーシオドスの『神統記』では、アムピトリーテーは同じネーレーイデスのキューモドケー、キューマトレーゲーとともに、荒れ狂う風を鎮めることができ[13]、またポセイドーンとの間にトリートーンを生んだと詠われている[5]。『ホメーロス風讃歌』の「アポローン讃歌」によると、レートーがデーロス島でアルテミスとアポローンを出産したとき、ディオーネー、レアー、テミスをはじめとする多くの女神たちとともに立ち会った[14]。
ポセイドーンとの結婚
[編集]後世の神話ではアムピトリーテーとポセイドーンの結婚の物語が語られている。それによればアムピトリーテーは姉妹たちとともにナクソス島で踊っているときにポセイドーンによってさらわれた[15]。あるいはポセイドーンの求婚に最初は抵抗したが、ポセイドーンからイルカをプレゼントされ、婚姻を承諾した[16]。
エラトステネースによると、アムピトリーテーははじめポセイドーンを嫌って海の西端のアトラースのもとに逃げ、彼女の姉妹たちによって匿われた。ポセイドーンがイルカにアムピトリーテーを探させると、1頭のイルカが大西洋の島にアムピトリーテーがいるのを発見し、説得してポセイドーンのところに連れて行った。その結果ポセイドーンはアムピトリーテーと結婚することができ、この功績によってイルカは天に配置され、いるか座となった[17]。
オッピアノスもエラトステネースとほぼ同じ神話を述べている。それによるとアムピトリーテーが隠れたのはオーケアノスの宮殿であった。そしてポセイドーンはイルカから隠れ場所を教わると、すぐさま拒絶するアムピトリーテーを奪い、結婚したという[18]。
ポセイドーンはもともと大地の神だったが[19]、アムピトリーテーとの結婚によって海も司るようになったともいわれる[20]。アムピトリーテーは、気のおけない妻で、夫の度々の不実を辛抱強く我慢した[21]。
テーセウス伝説
[編集]アムピトリーテーはテーセウス伝説にも登場する。アテーナイの英雄テーセウスがミーノータウロスの生贄としてクレーテー島に連れてこられたとき、ミーノース王は彼がポセイドーンの子であることを信じなかった。ミーノースは自分の指輪をはずして海に投げ入れ、本当にポセイドーンの子ならば指輪を取ってくることができるだろう、と言った。そこでテーセウスが海に潜ると、イルカが彼をポセイドーンの王宮に運んだ。やって来たテーセウスに、アムピトリーテーはミーノースの指輪と、真紅の外套、花冠を授けた[22][注釈 1]。
ギャラリー
[編集]-
パリス・ボルドーネ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1560年頃)個人蔵
-
ハンス・ロッテンハンマー『ネプチューンとアンフィトリテ』(1600年頃)エルミタージュ美術館所蔵
-
セバスティアーノ・リッチ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1691年-1694年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ パウサニアース(1巻17・3)によると、ミーノースの指輪と黄金の冠を授けたことになっている。
出典
[編集]- ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』29頁。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話 上巻』新潮社、1956年、234頁。
- ^ ヘーシオドス『神統記』243行。
- ^ アポロドーロス、1巻2・7。
- ^ a b ヘーシオドス『神統記』930行-933行。
- ^ a b アポロドーロス、1巻4・6。
- ^ アポロドーロス、3巻15・4。
- ^ ロバート・グレーヴス『ギリシア神話 上巻』紀伊国屋書店、1973年、16章1。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』、150頁。
- ^ 『オデュッセイア』12巻60。
- ^ 『オデュッセイア』5巻422、12巻97。
- ^ 『オデュッセイア』3巻91。
- ^ ヘーシオドス『神統記』252行-254行。
- ^ 『ホメーロス風讃歌』第3歌「アポローン讃歌」94。
- ^ 『オデュッセイア』3巻91に対する古註(カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』p.232)。
- ^ シブサワ・コウ『爆笑ギリシア神話』光栄。
- ^ エラトステネス、31話。
- ^ オッピアノス『漁夫訓』1巻386行-393行。
- ^ マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル 『ギリシア・ローマ神話事典』 大修館書店
- ^ カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』p.224、231、232。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』、151頁。
- ^ バッキュリデース、第17歌。
参考文献
[編集]- アラトス / ニカンドロス / オッピアノス『ギリシア教訓叙事詩集』伊藤照夫訳、京都大学学術出版会(2007年)
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア合唱抒情詩集 アルクマン他』丹下和彦訳、京都大学学術出版会(2002年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)
- フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社(1991年)
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- エラトステネスの星座物語 31. いるか座