不和の林檎
不和の林檎(ふわのりんご、Apple of Discord)は、ギリシア神話において、トロイア戦争の発端とされる事件である。
アイアコスの子・ペーレウスと海の女神・テティスの結婚式には全ての神々が招かれた中、ただ一柱、不和と争いを司る女神・エリスは招待されなかった[1][2]。彼女は怒り、宴会の席に「最も美しい女神に(καλλίστῃ)」という文字が書かれた黄金の林檎を投げ入れた[1]。ゼウスの妻・ヘーラー、戦いと知恵の女神・アテーナー、愛と美の女神・アプロディーテーは、それぞれ自分が一番美しい容貌の持ち主であるとして、この林檎を得るために争った[2]。その後の出来事はパリスの審判を参照。
この事から、「不和の林檎」という言葉は、論争の要点や、小さな出来事が大事になることを表す言葉となった[3]。
派生的用法
[編集]この事から、ギリシア神話のエリスと同一視されるローマ神話の女神はディスコルディア (Discordia) と呼ばれる。また、ドイツ語及びオランダ語では、この語は英語よりもより口語的に使用され、ドイツ語では "Zankapfel"(口論の-林檎)、あるいは "Erisapfel"(エリスの林檎)、オランダ語では "twistappel"(争いの林檎)と呼ばれる。
バルセロナの行政区・アシャンプラでは、スペイン語で La manzana de la discordia (カタルーニャ語: L'illa de la discòrdia) と呼ばれる一角がある。"manzana"(マンサナ)は、スペイン語で「林檎」と「街の一区画」の両方を表す同綴異義語である。モダニズム建築の4つの建造物(アントニ・ガウディのカサ・バトリョ、リュイス・ドメネク・イ・ムンタネーのカサ・リェオ・モレラ、ジュゼップ・プッチ・イ・カダファルクのカサ・アマトリェール、エンリック・サグニエールのカサ・ムリェラス)があることから、「不和の区画」を意味するこの名が付けられた[4]。
参考文献
[編集]- フェリックス・ギラン/著 『ギリシア神話』 青土社、137頁
- 山室静/著 『ギリシャ神話〈付・北欧神話〉』 社会思想社、204頁
- B・エヴスリン/著、小林稔/訳 『ギリシア神話小事典』 社会思想社、214頁
脚注
[編集]- ^ a b “Eris”. Encyclopædia Britannica. 2018年9月6日閲覧。
- ^ a b “Eris”. Encyclopedia Mythica. 2018年9月6日閲覧。
- ^ Timothy L. Gall; Susan B. Gall (1 January 2006). The Lincoln library of Greek & Roman mythology. Lincoln Library Press, The. pp. 16–. ISBN 978-0-912168-21-0
- ^ 岡部明子『バルセロナ 地中海都市の歴史と文化』中央公論新社、2010年、62頁。ISBN 978-4-12-102071-0。