女子野球
女子野球(じょしやきゅう)は、女性によって行われる野球のこと。狭義では女子チーム同士で行う野球のこと。男子チーム内の女子選手の活動とは区別されることがある。
概要
[編集]元来、野球は男性の競技であり、女性は野球をアレンジしたソフトボールで充分と見なされてきたが、実際には女性による野球も盛んに行われてきた。
1866年、ニューヨーク州のヴァッサー・カレッジにおいて、世界初の女子野球チームが誕生したが、危険だと父兄が抗議したため解散となった。1875年には、アメリカで女性のプロチーム「ブロンズ Blondes」と「ブルネッツ Brunettes」が誕生。入場料を取っての試合を開催する。しかしプレーの質が高くなかったことから4試合で解散した。その後、1890年代に全米で女子野球ブームが起こり、第二次世界大戦下の1943年には全米女子プロ野球リーグ(AAGPBL)が発足し、1954年まで運営された。なお、これらの選手は、その服装から「ブルーマーガールズ」と呼ばれた[要出典]。
1992年に全米女子野球連盟(AWBF)が創設され、米国のおける女子野球の統括に当たっている。1994年には40年ぶりに女子プロ野球チームコロラド・シルバービュレッツが結成され、1998年にはプロリーグ(Ladies League Baseball)も復活した。しかしそれも長く続かなかった。現在北米ではアマチュアリーグのみが存在しており、女子プロ選手は独立リーグで男子に混じって数名程プレーしている[要出典]。
2007年には韓国でアマチュア女子野球リーグ(Women's Baseball Association Korea)が発足した[要出典]。
主要な国際大会として、女子野球世界大会(国際女子野球協会主催、2004年廃止)、IBAF女子ワールドカップ(国際野球連盟(IBAF)主催、IBAFとWBSCの統合に伴い、2014年以降は世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催)、BFA女子野球アジアカップ[1](2年に1度開催)が挙げられる。
日本の女子野球
[編集]昭和以前
[編集]日本では、1910年に結成された佐伯尋常小学校女子部の野球チームが、最初の女子野球チームである(当時の雑誌『運動世界』に記事が掲載されている)。その後も女子のアマチュアチームはいくつか存在しており、1924年には福岡県立直方高等女学校(現・福岡県立直方高等学校)野球部と熊本県立第一高等女学校(現・熊本県立第一高等学校)野球部とが日本初の女子野球試合を予定していたが、前者が県当局の命令で解散させられ実現しなかったという記事が『福岡日日新聞』に掲載されている[要出典]。
1947年(昭和22年)8月29日、横浜での貿易再開を記念する横浜文化祭のイベントとして、横浜ゲーリック球場(現在の横浜スタジアム)にて開催された「横浜女子野球大会」(横浜市・神奈川新聞社・横浜文化連盟の共催)が女子野球の始まりである[2]。フォアボール、エラー、盗塁が1試合に20以上にものぼる試合であったが、大きな話題を生んだ[2]。1948年、荒木八郎と小泉吾郎によって、銀座のダンスホール「メリーゴールド」に横浜女子商業高校のソフトボール選手を合流させた「東京ブルーバード」が結成された[2]。このチームが日本初の女子プロ野球チームであったが、選手はいわば野球のできるコンパニオンに過ぎなかった[2]。
1950年(昭和25年)「ロマンス・ブルーバード」「レッドソックス」「ホーマー女子球団」「パールス」が誕生したことをきっかけに、プロリーグの日本女子野球連盟が発足、関西でも「大阪ダイヤモンド」「スターズ」「シスターズ」「神戸タイガース」「神戸ダークホース」「京都マルエイイーグルス」「京都ヴィナス」「京都八つ橋井筒」「滋賀レーククイン」が誕生した[2]。しかし、女子野球のショー的側面を重視する派閥(全日本女子野球連盟)と健全なスポーツを目指す派閥(日本女子野球連盟)に分裂した後、再び日本女子野球連盟に収斂するが、観客動員だけでの経営が不可能と判断され、1952年(昭和27年)ノンプロ=社会人野球へ移行する[2]。その後、高度経済成長を経て男子のプロ野球人気が劇的に高まる一方で、女子野球の人気は低迷し続け、1971年(昭和46年)「サロンパス」の活動停止とともに消滅した[2]。
八木久仁子は昭和期の女子野球の消滅理由として、経営母体の脆弱さ、ショービジネスとしての魅力不足、野球の実力そのものの低さ、テレビとの親和性の低さ、結婚と選手の引退、実業団「女子ソフトボール」の隆盛を挙げている[2]。
平成
[編集]1980年代に入ると、1986年に全国大学女子軟式野球連盟が、1987年に全国女子軟式野球連盟がそれぞれ発足。1987年には第1回全日本大学女子野球選手権大会が、1990年には第1回全日本女子軟式野球選手権大会が開催された。全日本大学女子野球選手権大会は通称「マドンナ達の甲子園」としても知られるなど、軟式野球は長年国内の女子野球を支える存在であった[3]。
一方、硬式野球でも1997年に全国高等学校女子硬式野球連盟が発足し、第1回全国高等学校女子硬式野球選手権大会が開催され、2002年には日本の女子野球を普及・発展させることを目的とする団体として、新たに日本女子野球協会が発足した。
2002年秋には埼玉栄高校女子硬式野球部を中心に関東女子硬式野球連盟が発足し、4チームによるリーグ戦(翌年以降、春・秋の年2回開催)がスタート。NPB球団・読売ジャイアンツの後援により「ジャイアンツ杯争奪関東女子硬式野球リーグ戦(通称:ヴィーナスリーグ)」と名付けられ、これを契機に関東地方を中心にクラブ、大学チームが次々と創設・加盟。2007年には連盟の選抜チームがアメリカ遠征を行いアメリカ・カナダの代表チームと対戦、2009年からはユースリーグ(13歳から16歳)が創設され7チームによるリーグ戦が行なわれるようになるなど、様々な企業による協賛を受けながら現在も年々規模を拡大している。
2005年には日本女子野球協会主催で第1回全日本女子硬式野球選手権大会が開催された。
2009年に日本女子プロ野球機構が発足し、翌年から関西を拠点として女子プロ野球リーグが復活(詳細後述)。2011年からはプロを含む社会人と大学、高校生が一体となった総合選手権「女子野球ジャパンカップ」が開催された。2013年以降は、女子学童を対象とした「NPBガールズトーナメント」が男子プロ野球を管轄するNPBと全日本軟式野球連盟の共催で開催されている。
2014年、日本女子野球協会は全日本女子野球連盟に改組。2013年に国際野球連盟(IBAF)と国際ソフトボール連盟(ISF)が統合する形で新組織世界野球ソフトボール連盟(WBSC)を設立していたことも含め、これを境に各種大会の運営事情が大きく変化した。
2018年開催の全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップでは優勝投手が女子選手の島野愛友利であることが話題を呼んだ[4][5]。
女子プロ野球
[編集]2009年、わかさ生活を株主として日本女子プロ野球機構(GPBL→JWBL)が発足、翌2010年より関西を拠点として女子プロ野球が日本で復活することになった。
しかし、初年度から毎年赤字収支が続き(2018年度実績は、1球団当たり年間2億以上の経費に対して売り上げ5000万円前後に留まった[6])、発足から10年目を迎えた2019年1月には、わかさ生活社長でリーグ名誉会長・角谷建耀知が「観客増など黒字化の見通しが立たなければ同年限りでの運営からの撤退も視野に入れる」と発言したこともあり、リーグ存続が危ぶまれる事態が本格化[7]。
その他契約形態の変更などを巡る議論の末、2019年11月にはリーグ所属選手71人の半数にあたる36人が退団すると[8][9][10]、翌2020年オフにも43人中26人が退団[11]、その後も退団が相次いだ結果、2021年7月に所属選手が0人となったことで同年のリーグ戦開催の中止を発表、同年オフにリーグの無期限休止を発表するに至り、リーグは事実上の消滅状態となった[12][13]。
令和
[編集]プロリーグの運営が「失敗」に終わった一方、リーグ発足前の2009年には約600人と言われていた女子硬式野球の競技人口は、2019年には3000人(学童野球を含むと2万人)を超え、2007年には全国でわずか5校しかなかった女子硬式野球部を有する高等学校が、2020年3月時点では40校にまで増加[14][15]。先述の「NPBガールズトーナメント」の創設の影響などもあって、国内における女子野球の競技人口は特に中・高校生を中心に増加の一途をたどっている[16]。
また、IBAF女子野球ワールドカップ→WBSC女子野球ワールドカップで第3回大会(2008年)から6連覇(2018年の第8回大会時点)を達成するなど、世界トップクラスの実力を擁するまでに成長している[17]。
しかし、プロリーグの消滅や、女子硬式野球部を有する大学が13校(2023年6月時点)と他カテゴリに比べて未だ少ないままであるなど[18]、女子野球選手が野球を続けるための「受け皿」の全国的な不足が課題となっていた[19]。これを受け、全日本女子野球連盟から協力を要請されたNPB球団・埼玉西武ライオンズの公認の下、2020年に「埼玉西武ライオンズ・レディース」が設立されたことを皮切りに[17]、2021年には関西女子硬式野球リーグ(ラッキーリーグ)を当初から後援している阪神タイガースが「阪神タイガース Women」を[20]、2022年には関東女子硬式野球(ヴィーナスリーグ)を報知新聞社と共に当初から後援している読売巨人軍が「読売ジャイアンツ女子チーム」をそれぞれ立ち上げるなど、NPB球団がその名を冠する女子クラブチームを運営するという動きが活性化している[21]。
さらに、2021年からは全国高等学校女子硬式野球選手権大会決勝戦の会場が阪神甲子園球場に(当初予定では男子の大会の休養日に設定されている8月22日の開催とされていたが、度重なる悪天候で何度も日程が変更され、最終的には8月23日午後5時からの決勝戦開催となった)[22]、2022年からは全国高等学校女子硬式野球選抜大会決勝戦の会場が東京ドームに変更されるといったこともあり[23]、女子野球への注目度はさらに急速に高まりつつある[24][25]。
上述のように全日本女子野球連盟はNPBにも協力要請をしており、阪神球団特別補佐の藤川球児は、少年野球に混ざっている女子選手が増えている一方で目指す進路がなく、続けたくても辞めざるを得ないことは(野球少年の人口減少が進む中で)NPBでも懸念点の1つであると語っており、将来目指せる進路・チーム作りなど協力したいとしている[26]。また、巨人で選手・コーチなどを務め女子チーム創設・初代監督の宮本和知は、きっかけに兄弟の野球を見たことであるのが多い女子選手の将来の責任を、プロ野球界が持つ必要がある[27]と考えている。女子選手のプロ化を将来の目標として公言し[28][29]、球団では練習や試合と雇用の両立を図り、男子選手や球団関係者などとの交流機会を設けている[30][31][32]。(NPB傘下チームの現状は全てクラブチームのため大学・専門学生なども在籍し、既卒者でも球団内雇用を希望しない選手もいる。また、各球団の方針により運営方法や雇用形態などいくつかの点が異なり、様々な手段を模索している。(例:西武レディースの運営会社は埼玉西武ライオンズではない。)
脚注
[編集]- ^ BFA女子野球アジアカップの新設が決定 女子野球ワールドカップの予選に
- ^ a b c d e f g h 八木久仁子「昭和の女子野球 : その興亡の要因」『人間健康研究科論集』第1巻、関西大学大学院人間健康研究科院生協議会、2018年3月、29-49頁。
- ^ 女子プロ野球が開く新時代の扉~女子野球の現在と未来~ - がんばれ!女子野球
- ^ “大会史上初の女子胴上げ投手 大淀ボーイズがジャイアンツカップ優勝”. スポーツ報知 (2018年8月17日). 2019年4月22日閲覧。
- ^ “最速123キロ女子中学生・島野愛友利 夢は「もう1度、男子と戦いたい」”. Full-Count (2019年2月6日). 2019年4月22日閲覧。
- ^ “女子プロ野球存続へ、必要なのは「わかさファースト」から脱却する覚悟”. スポーツ報知 (2019年8月27日). 2020年5月12日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年4月10日). “赤字脱出へあの手この手、背水の女子プロ野球、10年目の挑戦”. 産経ニュース. 2020年5月12日閲覧。
- ^ 「週刊文春」編集部. “女子プロ野球大量退団 選手たちを悩ませた“首領さま”と“女子高生制服撮影会””. 文春オンライン. 2020年5月12日閲覧。
- ^ 36人が一斉退団…女子プロ野球で一体何が起きているのか? 元選手が語る問題点とは スポーツ報知 2019年11月10日
- ^ 西武支援の女子チーム監督は元西武右腕 新谷博氏「選手たちの光になりたい」 Full-Count 2020年1月16日
- ^ 在籍17人の女子プロ野球リーグ、前途多難な12年目シーズン スポーツ報知 2021年2月5日
- ^ 選手が足らずに「公式戦を中止」 女子プロ野球リーグ、なぜそんな事態に?: J-CAST ニュース 2021年03月17日
- ^ 女子プロ野球リーグが事実上の消滅 スポーツ報知 2021年7月22日
- ^ 全国の野球少女たちの“夢” 21年から活動開始の「阪神タイガース Women」にも期待 Sponichi Annex 2020年12月5日
- ^ 女子硬式野球の普及・発展 女子プロ野球リーグ 2020年12月14日閲覧
- ^ 創部相次ぎ29都道府県に拡大へ 女子野球、なぜ盛況 - 高校野球 朝日新聞デジタル2021年5月1日
- ^ a b “埼玉西武ライオンズ・レディース誕生 4.1活動予定 女子野球クラブ初のNPB冠名”. スポーツニッポン (2020年1月17日). 2020年1月19日閲覧。
- ^ 急拡大する女子野球、大学でも発展を 東海大静岡、チーム創設へ 毎日新聞 2023年6月8日
- ^ 叶わないと思っていた夢が目の前に…野球女子がNPBのユニホームを着た日 Full-Count 2020年1月17日
- ^ “「女の子の憧れのチームに」創設から6か月で関西制覇、阪神Womenの“野望””. Full-Count(フルカウント) ― 野球ニュース・速報・コラム ―. 株式会社Creative2 (2021年8月1日). 2021年8月13日閲覧。
- ^ “読売ジャイアンツ女子チームの創設について” (2021年12月8日). 2022年8月14日閲覧。
- ^ “女子高校野球の決勝が甲子園開催! 男子の休養日8・22に決定”. 日刊スポーツ (日刊スポーツ新聞社). (2021年4月28日) 2021年4月29日閲覧。
- ^ 「高校女子選抜」の決勝を2年連続で東京ドーム開催 4月2日、巨人戦後にプレーボール Full-Count 2023年1月30日
- ^ 女子野球の競技人口が急増 「生活できる環境」整備を NIKKEI STYLE 2022年12月13日
- ^ 西武・阪神・巨人も参入 中高生に広がる女子野球の未来 産経ニュース 2022年7月28日
- ^ 【視聴者質問コーナー】プロ野球からその他全ての質問に直接お答えしました!!【登録者10万人突破記念】(2021/03/06、藤川球児の真向勝負 @kyuji22fujikawa) - YouTube
- ^ 【アスアカ総集編 一気見SP vol.13】熱血!ズームイン女子野球 宮本和知(22:03~、2023/04/29、アスリートアカデミア【岡崎郁 公式チャンネル】) - YouTube
- ^ 【女子野球】宮本和知監督の試合後インタビュー【巨人×阪神】(2023/07/29、DRAMATIC BASEBALL 2023) - YouTube
- ^ “【巨人】宮本和知さん初代女子硬式野球チーム監督就任「おやじと息子のキャッチボールを、母と娘に変えていきたい」”. スポーツ報知 (2022年11月17日). 2022年11月17日閲覧。
- ^ 巨人OBや職員との交流試合、イベントや球団納会参加など。
- ^ 読売ジャイアンツ女子チームの創設について 2021.12.8 読売巨人軍
- ^ “【女子野球】巨人女子がOB戦で大勝、宮本和知監督「知っていただくきっかけになり大成功」”. スポーツ報知 (2023年11月12日). 2023年11月27日閲覧。
参考文献
[編集]- 横田順彌『明治おもしろ博覧会』、西日本新聞社、1998年、94-97頁