源語秘訣
『源語秘訣』(げんごひけつ)は、一条兼良が『源氏物語』の秘事を記し、子息・一条冬良に伝えた秘伝書である。以下の名称でも呼ばれる。
- 『源語秘訣抄』(げんごひけつしょう)
- 『源氏十五箇奥義』(げんじじゅうごかおうぎ)
- 『源私抄』(げんししょう)
- 『源氏秘説』(げんじひせつ)
- 『源氏十七ヶ条秘訣』(げんじじゅうしちかじょうひけつ)
- 『源氏不審抄』(げんじふしんしょう)
- 『源氏物語之内秘事十五ヶ条』(げんじものがたりのひじじゅうごかじょう)
- 『源氏物語秘訣抄』(げんじものがたりひけつしょう)
- 『源氏物語秘事』(げんじものがたりひじ)
著者
[編集]一条兼良は室町時代の公卿・摂政関白で古典学者である。一般に「かねら」と呼ばれることが多い。兼良の著作とされる抄出・注釈・評論・随筆・戯作は『弁疑書目録』(べんぎしょもくろく)によって窺える。『弁疑書目録』は兼良の著作書目を多く載せている(すべて著作というわけではなく、学ぶ際に書写・抄出・覚書の形式をとり、後世から著作とされることもある)[1]。この中に『花鳥余情』のほか、難語を解釈した『源氏物語和秘抄』(『和秘鈔』とも)、光源氏の年譜である『源氏物語年立』、有職故実を記す『江家次第』なども記されている。研究は公事の根源を究めるため、学は和漢、神儒仏教の3教にも及んでいる。
成立
[編集]『花鳥余情』が完成する文明4年(1472年)に13か条の『花鳥口伝抄』(かちょうくでんしょう)を作成し、その後1項目替え、『口伝抄』(くでんしょう)を作り終えていることから、本来3か条の秘事と10か条の口伝を合わせた13か条であった。その後2項目加え15か条の『源語秘訣』ができたとされる[2]。
書誌
[編集]以下2種の奥書(おくがき)によって伝本を分類できるが、内容はほぼ同一である。
- 唯伝一子之書也不可出閫外付嘱中納言中将畢、
- 文明九年二月吉日 老衲覚恵 草名
- 唯伝一子之秘説也堅可禁外見者也 後成恩寺御奥書同御判
前者は冬良に授けた相伝本、後者は前者とは別系統で他者から求められた際、「一子にしか伝えないほどの秘説」とに断り書き(但し書き)したものとされる[2]。
概要
[編集]文明9年(1477年)に成立。全1冊で15項目からなるが、一説によると、16・17項目からなる。巻名と内容に関しての項目があり、有職故実に関することを含め、兼良自身の考察が書かれている。
『花鳥余情』は序文によると、四辻善成の『河海抄』の不足を補い、訂正を行うためとあるが、『源語秘訣』は『花鳥余情』の秘伝書として著している。『源語秘訣』本文には「色々の説あり、いつれも皆あやまり也、信用すへからす」(榊巻)、「旧説さま/\にいへり、皆証拠もなき事也、もちゐるにたらす」(乙女巻)など旧説に対し否定する箇所も見られる。
内容
[編集]『花鳥余情』に「秘説これあり、別にしるすべし」などとしている項目に関しての注である。以下15項目からなり、そのうち最後の1項目は奥書の後に書かれているものもある。
- 無服殯の事(桐壺巻)
- 揚名のすけの事(夕顔巻)
- 侍童着指貫事(夕顔巻)
- おきなもほとくまひ出ぬへき事(花宴巻)
- 大将かりの随身事(葵巻)
- ねの子の三か一の事(葵巻)
- さるもしいませ給への事(葵巻)
- とのゐもの袋の事(賢木巻)
- まくなきの事(明石巻)
- わか君のたすき引ゆひ給へる事(薄雲巻)
- をしかいもとあるしの事(乙女巻)
- 水鳥のくかにまとへる事(玉鬘巻)
- 高巾子の事(初音巻)
- ひのよそひの事(胡蝶巻)
- ついたちころ月の事(藤裏葉巻)
以下は奥書の後に書かれている項目
- 外にかつらの院(松風巻)
このうち「揚名介」(ようめいのすけ)「ねのこの餅」「とのゐものの袋」は「三箇の秘事といひつたへたり」とする。『花鳥余情』で「とのゐものの袋」の条には「ことなる事なけれど、秘事といひつたへたる事なければ、あらはにしるすに及ばず」と注している。
『花鳥余情』の〈別注〉と『源語秘訣』の項目には、項目数は同じであるが、項目内容が重ならないものもある。また項目内容が重なるが、大内政弘の求めに応じて与えた『花鳥口伝抄』と、冬良以外に送った『口伝抄』では解説や典拠を省略し、『源語秘訣』にのみ記述がある。
諸本
[編集]著者自筆本は現在伝わっていない。写本・版本は多いため、以下一部挙げておく。
写本
[編集]- 国立国会図書館蔵本
- 国立公文書館内閣文庫本(延宝8年写)(校正本)
- 静嘉堂文庫本
- 東洋文庫岩崎文庫本
- 宮内庁書陵部蔵本(寛延2年源芳隆写)
- 東京国立博物館蔵本(寛文8年坂上家広写)
- 学習院大学蔵本
- 東京大学蔵本(伴信友写)
- 国学院大学蔵本(寛文8年窪氏知足軒奥書)
- 北野天満宮蔵本
- 神宮文庫本
- 前田育徳会尊経閣文庫本
- 京都大学蔵本(吉村正武写・寛文8奥書)
- 立命館大学図書館西園寺文庫蔵本(西園寺賞季写・明和5奥書)
版本
[編集]刊年が延宝8年版
- 国立国会図書館蔵本
- 国立公文書館内閣文庫本(加茂真淵等書入本)
- 静嘉堂文庫本
- 九州大学蔵本
- 早稲田大学蔵本
- 浅野文庫本
- 神宮文庫本
中村孫兵衛版(同版ながら刊年が不明も存する)
- 国立国会図書館本
- 静嘉堂文庫本
- 学習院大学蔵本
翻刻本
[編集]- 『群書類従』巻319;物語部13
- 梁瀬一雄・伊井春樹『源語研究資料集』(碧冲洞叢書第87輯)1969年(昭和44年)2月
- 『増補国語国文学研究史大成3 源氏物語上』三省堂 1977年(昭和52年)
- 中野幸一編『源氏物語古註釈叢刊 第2巻 花鳥余情 源氏和秘抄 源氏物語之内不審条々 源語秘訣 口伝抄』武蔵野書院 1978年(昭和53年)12月
マイクロフィルム
[編集]静嘉堂文庫所蔵
- 『源語秘訣』『源語秘訣抜粋』(物語文学書集成)雄松堂書店
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 伊井春樹編『源氏物語 注釈書・享受史事典』東京堂出版、2001年(平成13年)9月発行
- 日本古典文学大辞典編纂委員会編『日本古典文学大辞典』1983年(昭和58年)10月 - 1985年(昭和60年)2月発行
- 正宗敦夫編『覆刻 日本古典全集 書目集 上』現代思潮社 1980年(昭和55年)2月発行
- 永島福太郎著『人物叢書 新装版 一条兼良』吉川弘文館 1988年(昭和63年)12月
- 『国書総目録』
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 日本古典籍総合目録 - 国文学研究資料館のデータベース。岩波書店の国書総目録の後を継いだ「新国書総目録」とも。
- コーニツキー版 欧州所在日本古書総合目録 - 国文学研究資料館の欧州各国にある和装本が掲載されるデータベース。『源語秘訣』はスウェーデンに江戸前期の刊本がある。