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正徹本源氏物語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

正徹本源氏物語(しょうてつほんげんじものがたり)は、室町時代中期の歌人僧侶である正徹が書写しその旨の奥書を書き加えた源氏物語の写本。またそれをもとに書写された源氏物語の写本。

概要

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正徹は数多くの和歌を詠むとともに源氏物語について冷泉為尹や『源氏雑抄物』等の著書のある今川了俊に学んでおり、自身も永享12年(1440年)には源氏物語の注釈書「一滴集」を著わすなどしている。正徹本奥書の記述によれば、正徹本とは冷泉家に伝わった冷泉為相所持本をもとにし、いくつかの写本を校合した本文であるとみられる。現在専修大学に所蔵されている「桐壺」巻のみの写本は、冷泉家相伝の冷泉為相本『源氏物語』の書写であるとされるが、その本文は正徹本に近いものである[1] 。現存する写本に見られる本文系統はおおむね三条西家本に近い青表紙本であるが、ほかの青表紙本に見られない異文が含まれていることもある[2]吉澤義則は正徹本を源氏物語の流布本が河内本から青表紙本に変わっていく際の転換点にあたる伝本であるとしている[3]上原作和は、正徹本系統の本文を、「定家卿本」として巷間流布していた青表紙本系の中の「定家自筆本明融本大島本」(第一類)、「榊原家本横山本」(第二類)に次ぐ、第三類の流布本系の可能性があるとしている[4]

現存する写本

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正徹本と考えられる源氏物語の写本として現在以下の写本が確認されている[5][6]

  • 国文学研究資料館所蔵正徹本
    江戸時代初期の書写とみられる全54帖一筆の揃い本である。正徹自筆本ではなくその転写本である。桐壷から紅葉賀、葵、賢木に正徹の奥書がみられる[7][8]
  • 慶應義塾大学付属図書館本
    江戸時代初期の書写とみられる全54帖一筆の揃い本である。
  • 宮内庁書陵部蔵本
    室町時代末期の書写とみられる全54帖の揃い本である。他に系図1帖がついている[9]

部分的に現存する写本

現存しない・または現在の所在が確認できない写本

  • 金子正臣旧蔵正徹本
    金子正臣旧蔵本。正徹の奥書を持つ室町時代末期の書写とみられる写本。戦災により焼失したとされる[12][13]
  • 徳本正俊旧蔵本
    徳本正俊旧蔵本。現在の所在は不明である[14][15]

校本への採用

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校異源氏物語及び源氏物語大成校異編への採用は無い。なお、池田亀鑑が校異源氏物語を作成した際の資料に図書寮蔵正徹本及び徳本正俊氏蔵古写本の校合書入本や正徹本(当時どこに所蔵されていたものかは不明)の校合書入本等があるため、ある時期までは正徹本が対象になっていたとみられる[16]。加藤洋介は、源氏物語大成校異篇に収録されていない定家本(青表紙本)の校異を調査して作成した「定家本源氏物語校異集成(稿)」おいて、第01帖 桐壺第02帖 帚木第03帖 空蝉第04帖 夕顔第05帖 若紫第08帖 花宴第09帖 葵第10帖 賢木第11帖 花散里第12帖 須磨第13帖 明石第14帖 澪標第15帖 蓬生第16帖 関屋第17帖 絵合第18帖 松風第22帖 玉鬘第29帖 行幸第30帖 藤袴第31帖 真木柱第34帖 若菜上第35帖 若菜下第36帖 柏木第37帖 横笛第38帖 鈴虫第39帖 夕霧第40帖 御法第41帖 幻第42帖 匂宮第44帖 竹河第47帖 総角第48帖 早蕨第51帖 浮舟第53帖 手習について宮内庁書陵部所蔵の正徹本の校異を採用している[17]

翻刻・複製・影印

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市販の書籍としては存在しないが、文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書の付属DVDに伊藤鉃也による国文学研究資料館所蔵本の翻刻が収録されている[18]

参考文献

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  • 斎藤達哉「仮名写本における「改行」と「文字使用」 : 正徹奥書本源氏物語の事例から」『専修大学人文科学研究所月報』第253号 (京都総合研究特集号)、専修大学人文科学研究所、2011年(平成23年)9月30日、pp. 11-29。

脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ 久保木秀夫「冷泉為相本、嘉吉文安年間における出現」日向一雅・仁平道明編『源氏物語の始発 桐壺巻論集』竹林舎、2006。 ISBN 4-9020-8412-0
  2. ^ 加藤洋介「境域を行く 室町期の源氏物語本文--三条西家本と正徹本と」學燈社編『國文學 解釈と教材の研究』第46巻第14号(通号第677号)(特集 王朝文学--韻文と散文の交通)、學燈社、2001年(平成13年)12月、pp. 54-60。
  3. ^ 吉沢義則「正徹自筆本」『源氏随攷』晃文社、1942年(昭和17年)5月、pp. 271-273。
  4. ^ 上原作和 (2014年12月24日). “物語学の森 傳冷泉為秀筆の本のこと”. 2015年1月2日閲覧。
  5. ^ 菅原郁子「正徹本の所在」今西裕一郎編『文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書 日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究』第1号、国文学研究資料館、2012年(平成24年)8月、pp. 89-98。
  6. ^ 菅原郁子「『源氏物語』正徹本の本文系統 一 専修大学図書館所蔵『源氏物語』(為秀筆本)に及ぶ冷泉家の書写経路」『専修国文』第92号、専修大学日本語日本文学文化学会、2013年1月20日、pp. 29-65。
  7. ^ 伊藤鉃也「新収資料紹介四九 源氏物語江戸初期写五十四帖」『国文学研究資料館報』第59号、国文学研究資料館、2002年(平成14年)9月、p.. 1、10。
  8. ^ 伊藤鉃也「展示資料検討報告九 源氏物語(正徹本奥書転写本)」人間文化研究機構国文学研究資料館文学形成研究系「平安文学における場面生成研究」プロジェクト編『物語の生成と受容 国文学研究資料館平成21年度研究成果報告 巻次 5』2010年(平成22年)2月、pp. 132-135。 ISBN 978-4-87592-143-1
  9. ^ 大津有一「諸本解題 書陵部蔵正徹本源氏物語」『源氏物語事典 下巻』東京堂出版 1960年(昭和35年)(合本は1987年(昭和62年)3月15日刊)、p. 135。
  10. ^ 吉沢義則『源氏随攷』晃文社、1942年(昭和17年)
  11. ^ 大阪青山短期大学『大阪青山短期大学所蔵品図録 第1輯』大阪青山短期大学、1992年(平成4年)10月。 ISBN 978-4-7842-0744-2
  12. ^ 池田亀鑑『源氏物語大成 研究資料編』中央公論社、1956年(昭和31年)、p. 258。
  13. ^ 大津有一「諸本解題 金子氏蔵正徹本源氏物語」池田亀鑑編『源氏物語事典 下巻』東京堂出版、1960年(昭和35年)、p. 133。
  14. ^ 池田亀鑑「徳本氏旧蔵源氏物語」『源氏物語大成 研究資料編』中央公論社、1956年(昭和31年)、pp. 256-258。
  15. ^ 大津有一「諸本解題 徳本氏旧蔵源氏物語」池田亀鑑編『源氏物語事典 下巻』東京堂出版、1960年(昭和35年)、p. 142。
  16. ^ 『桃園文庫目録 上巻』東海大学付属図書館、1986年(昭和61年)3月、p. 77。
  17. ^ 加藤洋介 (2014年4月6日). “定家本源氏物語校異集成(稿)”. 大阪大学. 2015年1月2日閲覧。
  18. ^ 今西裕一郎編『文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書 日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究』第1号、国文学研究資料館、2012年(平成24年)8月。