「扇ノ山」の版間の差分
編集の要約なし |
|||
(2人の利用者による、間の4版が非表示) | |||
3行目: | 3行目: | ||
|画像 = [[画像:Gthumb.svg|100px]] |
|画像 = [[画像:Gthumb.svg|100px]] |
||
|画像キャプション = 画像募集中 |
|画像キャプション = 画像募集中 |
||
|標高 = 1,309.9 |
|標高 = 1,309.9<ref name="県境_扇"/> |
||
|座標 = {{ウィキ座標2段度分秒|35|26|23|N|134|26|27|E|type:mountain_region:JP-31|display=inline,title}} |
|座標 = {{ウィキ座標2段度分秒|35|26|23|N|134|26|27|E|type:mountain_region:JP-31|display=inline,title}}<ref name="三省堂"/> |
||
|所在地 = {{JPN}}<br />[[兵庫県]][[美方郡]][[新温泉町]]・<br />[[鳥取県]][[鳥取市]]・<br />[[八頭郡]][[八頭町]]・[[若桜町]] |
|所在地 = {{JPN}}<br />[[兵庫県]][[美方郡]][[新温泉町]](旧温泉町)・<br />[[鳥取県]][[鳥取市]](旧国府町)・<br />[[八頭郡]][[八頭町]](旧郡家町・旧八東町)・[[若桜町]] |
||
|山系 = |
|山系 = |
||
|種類 = |
|種類 = |
||
11行目: | 11行目: | ||
|地図 = {{Embedmap|134.4408|35.4397|300}}<small>扇ノ山の位置</small>{{日本の位置情報|35|26|23|134|26|27|扇ノ山|35.4397,134.4408|扇ノ山}} |
|地図 = {{Embedmap|134.4408|35.4397|300}}<small>扇ノ山の位置</small>{{日本の位置情報|35|26|23|134|26|27|扇ノ山|35.4397,134.4408|扇ノ山}} |
||
}} |
}} |
||
'''扇ノ山'''(おうぎのせん)は、[[兵庫県]][[美方郡]][[新温泉町]]と[[鳥取県]][[鳥取市]]、[[八頭郡]][[八頭町]]、[[若桜町]]の境にある山である。[[標高]]1,309.9m。[[氷ノ山後山那岐山国定公園]]に属する。 |
|||
'''扇ノ山'''(おうぎのせん)は、[[兵庫県]]と[[鳥取県]]にまたがる山で、[[標高]]1,309.9m<ref name="日本の山"/>。[[関西百名山]]や[[日本三百名山]]に選ばれている<ref name="山渓オンライン"/>。 |
|||
== 概要 == |
|||
* 南北に連なるなだらかな尾根筋と裾野に広がる広大な高原からなり、遠くから見ると扇のように見えることからこの名がある。冬から春にかけ、鳥取市からみるこの山の雪景色が扇を広げたように見えることからこの名前がついたと言われる説もある。 |
|||
[[中国地方|中国]]・[[近畿地方]]の代表的な[[火山]]の一つで、山麓には[[湯村温泉 (兵庫県)|湯村温泉]]や[[岩井温泉]]がある。西日本では山スキーの人気地の一つでもある<ref name="山と高原"/><ref name="県境_扇"/><ref name="鳥百"/>。 |
|||
* 兵庫県側の北麓には[[畑ヶ平高原]]、[[霧ヶ滝渓谷]]、[[赤滝渓谷]]、[[上山高原]]と高原・渓谷が連なる。 |
|||
==概要== |
|||
* 鳥取県側には[[河合谷高原]]、[[広留野高原]]があり、山腹から発した[[袋川]]には[[雨滝]]、布引滝、筥滝などの滝がかかっている。 |
|||
[[大山 (鳥取県)|大山]]とならぶ鳥取県の「火山の両横綱<ref name="すぐ山_概要"/>」とされており、中国・近畿地方の代表的な火山である。[[鳥取平野]]西部からよく見える山であるとともに、日本海に近い高山でかつては航海の目印<ref name="大日本"/>にもされていた。山頂には二等三角点「扇ノ山」(標高1309.97m)がある。 |
|||
* 120万年前から40万年前にかけて活動した[[単成火山]]群で、[[新生代]][[第四紀]][[更新世]]に[[玄武岩]]質の[[溶岩]]を流出した。 |
|||
* 山頂自体は基盤岩でつくられており、火山とは言えない。山頂に火口もないが、兵庫県側の山頂周辺には多くの単成火山がある。山頂北側の'''大ヅッコ'''(1,273m)、上山高原の'''上山'''(946m)、広留野高原北端の円錐台形の小山(930m)は[[スコリア]]、[[火山礫]]などの噴出物が火口のまわりに降り積もってできた[[砕屑丘]]である。したがって扇ノ山火山と呼称するよりは、扇ノ山単成火山群という呼称が適当である。 |
|||
10数万年前まで何度か活動した火山で、噴出した溶岩による台地地形がまだ浸食が進んでいない。そのため山頂からはなだらかな山容で、四方には様々な高原が広がっている。これらの高原は農業やレジャーの地になっているほか、なだらかで雪が多いことから西日本の山スキーの名所の一つになっている。 |
|||
* 扇ノ山の[[溶岩流]]が作った[[玄武岩]]の[[柱状節理]]を山腹の各所で観察することができ、周辺の地層からは紡錘状[[火山弾]]も見つかる。 |
|||
高原地帯の辺縁部は著しい浸食があり、各地で険しい断崖や峡谷を形成し、さまざまな滝がある。[[雨滝]]([[日本の滝百選]])、諸鹿川渓谷([[21世紀に残したい日本の自然百選]])などがその典型である。一帯は[[氷ノ山後山那岐山国定公園]]の北の端をなしている。 |
|||
===名称=== |
|||
扇ノ山は[[鳥取平野]]からみえる代表的な高山である。鳥取県側から見た扇ノ山の山容は、山頂からなだらかな尾根筋が南北両翼に連なっており、扇を広げた姿に見立ててこの名がついたと考えられている<ref name="新岳"/><ref name="山と高原"/><ref name="地誌16_198"/>。古くは「扇仙」、「扇嶽」などの異表記がある<ref name="新岳"/>。 |
|||
東の兵庫県側からは山容は見えず、主に「畑ヶ平」(はたけがなる)と呼ばれていた([[畑ヶ平高原]]参照)<ref name="山と高原"/>。 |
|||
==地形・地質== |
|||
[[火山帯#白山火山帯|大山火山系]]<ref name="小学館全書Ⅲ808"/>に分類され、[[第三紀]]の終わり、おおむね[[鮮新世]]から[[第四紀]]の[[更新世]]にかけて何度も活動した[[火山]]である。 |
|||
珍しいタイプの火山で、もともと[[中新世]]に形成された[[緑色凝灰岩]]を中心とする[[堆積岩]]による古い[[中国山地]]があり、これが標高600-700mまで侵食されて低地性の山地を形成していたところを、鮮新世にこの基盤を突き破って火山活動が起きた。このとき形成されたのは主に[[流紋岩]]や[[安山岩]]である<ref name="新岳"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="地誌16_198"/><ref name="岩美町誌"/>{{refnest|group="注"|中国山地の原型はもっぱら第三紀中頃(数千万年前)までに形成されており、扇ノ山の火山活動が始まるまでには1000から数千万年ほどの間があった<ref name="岩美町誌"/>。}}。火山活動が始まった時期については、[[放射年代測定]]は得られていないものの、古い溶岩の磁気や他の火山灰層との上限関係に基づいて推定されており、少なくとも73万年前より以前であると考えられている。また、同様の手法で火山活動の終期は10数万年前とされている<ref name="すぐ山_扇"/>。 |
|||
この間、断続的に十数回の噴火を繰り返した。噴出源(火口)はいまの県境に沿って移動しており、厳密には複数の[[単成火山]]から成る火山群である。それぞれの火口から流れ出た溶岩は古くに形成されていた浸食谷を埋め、山全体として緩やかな斜面を形成した。火山活動は大きく3期(ⅠからⅢ期)に分けられており、[[凝灰岩]]の角礫と更新世の噴火による玄武岩や安山岩が層を成している。山頂付近には「穴ヶ原」と呼ばれる窪地地形があり、かつての火口と考えられている<ref name="新岳"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="地誌16_198"/><ref name="地誌16_224"/><ref name="日本の山"/><ref name="PREF-HG-生物"/><ref name="岩美町誌"/><ref name="すぐ山_扇"/>。 |
|||
火山活動のⅠ期には、主に玄武岩質安山岩の溶岩を噴出し、[[若桜町]]の[[来見野川]]にある「屏風岩」はこのときできたものである。Ⅰ期の後期には玄武岩質の溶岩の流出が少なくとも5度に渡ってあった。このときの岩は[[袋川]]上流の[[雨滝]]まわりの渓谷で露頭を形成している。Ⅰ期とⅡ期のあいだには有意な河川浸食が認められており、Ⅱ期には北西方向や南方向へ溶岩流が進出した<ref name="すぐ山_扇"/>。 |
|||
このあと大山の火山灰層を挟んでⅢ期の溶岩流があり、これが[[上山高原]]、[[畑ヶ平高原]]、[[河合谷高原]] 、[[広留野高原]]といった平坦部を形成した。これらの溶岩台地は火山地形としては比較的新しく、浸食されずに原型がよく残されている。特に標高800m以上では浸食がまだ進んでおらず、[[火山砕屑岩]]がみられ、四方になだらかな溶岩台地が残っていて高原状になっている。平坦部には大山由来の[[火山灰]]が堆積して[[黒ボク土|黒ボク]]土壌になっており、植生が豊かで、一部は耕作地として利用されている。特に、全般的に急斜面地の多い鳥取県の中では、[[河合谷高原]]は県内一、二の広さをもつ高原である。これらの高原の辺縁部は[[開析]]が進んでいて、大きな滝をいくつも作り、深いV字渓谷が形成されている<ref name="新岳"/><ref name="日本の山"/><ref name="鳥百"/><ref name="百科_河合谷"/><ref name="岩美町誌"/><ref name="すぐ山_扇"/>。 |
|||
*[[上山高原]] - 北に桂の滝、シワガラの滝、布滝など。南に[[霧ヶ滝渓谷]]や[[赤滝渓谷]]があり、霧ヶ滝などがある<ref name="新岳"/><ref name="角川_兵庫扇"/>。 |
|||
*[[畑ヶ平高原]] - 上山高原から霧ヶ滝渓谷を経た南側に広がる。兵庫県側からはこの高原に遮られて扇ノ山全体が見えず、「畑ヶ平」が山の呼び名だった<ref name="新岳"/><ref name="角川_兵庫扇"/>。 |
|||
*[[河合谷高原]] - 辺縁部に[[雨滝]]([[日本の滝百選]])などの「四十八滝」がある。北には天神池・天神滝があり、[[蒲生川 (鳥取県)|蒲生川]]へと続いている<ref name="日本の山"/><ref name="PREF-TT-登山"/>。 |
|||
*[[広留野高原]] - 南の[[来見野渓谷]](諸鹿渓谷)には大鹿滝(日本の自然百選<ref name="日本の山"/>)をはじめ多くの滝がある<ref name="新岳"/><ref name="PREF-TT-登山"/>。[[火山砕屑物]]が堆積してできた[[火砕丘]]があり、1971(昭和46)年に見つかった直径約1mの紡錘形の火山弾が「扇ノ山の火山弾」として鳥取県の[[天然記念物]]に指定されている<ref name="PREF-TT-火山弾"/>。 |
|||
火山活動の末期には、各火口の周囲で[[スコリア]]、[[火山礫]]などの噴出物が降り積もって[[火砕丘|砕屑丘]]が形成された。山頂北側の「大ズッコ」(1,273m)、「小ズッコ」(1,149m<ref group="注">国土地理院地図では概ね小ズッコに相当する位置にある指示点に「1159m」の記載があるが、ここでは県庁の資料の値を記載した。</ref>)、上山高原の「上山」(946m)、広留野高原北端の円錐台形の小山(930m)などがこれにあたる。また、山頂そのものはⅠ期より以前の鳥越火砕岩層と呼ばれる第三紀の照来層群の一種でできており、扇ノ山の火山体ではない<ref name="PREF-TT-登山"/><ref name="すぐ山_扇"/>。 |
|||
火山としては、かつては「[[楯状火山]]<ref name="地誌16_224"/><ref name="図説-小学館_276"/>」(アスピーデ<ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="日本の山"/>)ないし「[[火山#旧分類|鐘状火山]]<ref name="地誌16_224"/>」に分類されていた。また、最後に噴火したのは約40万年前<ref name="神戸新聞20150616"/>とされており「[[死火山]]」に分類されていたが、近年はこうした用語・分類自体が用いられない<ref name="鳥百"/><ref name="角川_扇"/>。([[火山#火山の分類]]参照) |
|||
扇ノ山を源流とする川には、鳥取県側では[[千代川]]の支流[[袋川]]、[[蒲生川 (鳥取県)|蒲生川]]、兵庫県側では[[岸田川]]などがある。南西山麓の[[若桜町]]角谷ではヒスイを産する<ref name="日本の山"/>。 |
|||
===菅野湿原=== |
|||
'''菅野湿原'''は扇ノ山の北西山麓にある[[ミズゴケ]]中心の湿原で、天然記念物に指定されている。南と北には千代川の支流による浸食谷があるが、菅野湿原のあたりは標高400m前後の台地となって侵食に取り残されている。湿原はその台地の中央付近の窪地状の一帯にある<ref name="県史I-49"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/>。 |
|||
湿原の地層は厚さ5m超の泥炭層と大山火山灰層が積み重なっていて、5mの泥炭層に含まれる花粉の分析から、このあたりの過去1万年間の気候変動を知る手がかりになる<ref name="県史I-49"/>。 |
|||
{|class=wikitable |
|||
|- |
|||
|地層の深さ||おおよその年代||代表的な花粉||推定される気候等 |
|||
|- |
|||
|0-1m||1500年前||マツ、イネ科、ソバ||気候が大きく変わり、ヒトの生活利用の影響がある |
|||
|- |
|||
|1-2.5m||4000年前||ブナ、ミズナラ、スギ||涼しくなり、植物が増える |
|||
|- |
|||
|2.5-3m||不明||花粉がほとんどみられない時代||植生不明 |
|||
|- |
|||
|3-5m||9000-8000年前||ツガ、ミズメ||やや暖かくなり、後氷期へ移行 |
|||
|- |
|||
|5m-||12000-10000年前||ブナ、ミズナラ、スギ||現在よりも400-500mほど森林帯が低い |
|||
|- |
|||
|} |
|||
==自然== |
|||
山の誕生後、気候変動や大山の噴火によって環境が大きく変わった。また、標高が高い高原や険しい谷、湿原、滝など多様な環境である。氷河時代の生き残りとみられる寒地性植物がみられるほか、滝が多く、滝周辺に特有の植物群落が多く見られる<ref name="報告1967_101"/>。 |
|||
===植物=== |
|||
全山で[[チシマザサ]]が茂っているほか、鳥取県内では唯一、北方性の[[タケシマラン]]が自生している<ref name="新岳"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="PREF-TT-みち"/>。標高の高い部分では湿地性の[[ザゼンソウ]]、[[サンインシロカネソウ]]などが分布する。なかでも岸田川源流の滝や雨滝一帯に自生する[[タジマタムラソウ]]は1919年に新種とされた<ref name="報告1967_101"/>。このほか、[[ミズトラノオゴケ]]、[[マルバマンサク]]、[[アサクラザンショウ]]、[[ヤマアサクラザンショウ]]なども扇ノ山一帯を特産とする植物である<ref name="報告1967_101"/>。分布学上の顕著なものは、[[ヨコワサルオガセ]]、[[アカウラカワイワタケ]]、[[イワタケ]]など樹皮や岩石のつく地衣類や、[[ヤナギゴケ]]などである<ref name="報告1967_101"/>。 |
|||
自然林では、[[ブナ]]、[[カエデ]]類([[ハウチワカエデ]]や[[イタヤカエデ]]など)、[[ミズナラ]]、[[スギ]]が残されている。明治以降の開発によってブナ林は大きく損なわれたが、南斜面の標高が高い部分にはブナの[[天然林|原始林]]がある。このほか渓谷部では[[トチノキ]]、[[ホオノキ]]、[[サワグルミ]]、[[カツラ]]、イタヤカエデ、が自然林を形成している<ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="新岳"/><ref name="PREF-TT-みち"/>。 |
|||
河合谷高原などでは開墾によって自然林が失われたが、いまはブナの[[人工林|植林]]が行われている<ref name="新岳"/><ref name="PREF-TT-みち"/>。兵庫県側では道路の開削が進み、原生林は畑ヶ平高原の一部にしか残されていない<ref name="角川_兵庫扇"/>。 |
|||
このほか、[[ウド]]、[[オオバギボウシ|ギボウシ]]、[[フキ]]、[[ゼンマイ]]、[[ワラビ]]、スズノコ([[ササ]]の一種[[スズタケ]]の若芽)などの山野草が自生し、春の山菜採取地にもなっている<ref name="角川_扇"/><ref name="百科_河合谷"/>。 |
|||
===動物=== |
|||
扇ノ山の一帯は[[ツキノワグマ]]、[[ヤマネ]]などの野生哺乳類、[[イヌワシ]]、[[クマタカ]]、[[オオタカ]]などの猛禽類、[[オオムラサキ]]や[[ギフチョウ]]といった稀少な蝶類などの生息地になっている<ref name="新岳"/><ref name="PREF-TT-みち"/>。川には[[ハコネサンショウウオ]]や[[ヒダサンショウウオ]]が生息<ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="角川_扇"/>。 |
|||
==登山・行楽== |
|||
大部分のエリアが[[氷ノ山後山那岐山国定公園]]に指定されていて、同公園の北限域になっている<ref name="新岳"/><ref name="日本の山"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/>。 |
|||
谷が深く、繁茂するチシマザサに阻まれて、かつては冬の雪山登山しか不可能だった<ref name="日本の山"/><ref name="大日本"/><ref name="山と高原"/>。 |
|||
また、交通が不便でヒュッテなども整備されておらず、宣伝もされていなかった。一方、近くの氷ノ山のほうは大山に次ぐ鳥取県第2位の標高がりながら、登りやすい山で広く宣伝されていた。こうしたことも、扇ノ山の夏季登山が行われなかった理由になっていた<ref name="山と高原"/>。 |
|||
一方、中国・近畿地方でも特に雪が多く、西日本の山スキー愛好家にとってはシーズン早くからシーズンの終わりまでスキーを楽しめる「山スキーのメッカ」となっていた<ref name="山と高原"/>。 |
|||
いまは標高900m付近まで車道が整備され、そこから1時間あまりで山頂に到達できる登山道がいくつも整備されている<ref name="新岳"/><ref name="分県山"/>。 |
|||
===登山=== |
|||
なだらかな斜面のため、さまざまな登山路がある。主要なルートは北の河合谷高原経由で、[[中国自然歩道]]になっている。河合谷高原には「水とのふれあい広場」が設けられており、ここから約1時間で山頂に至る<ref name="日本の山"/><ref name="新岳"/><ref name="分県山"/>。 |
|||
山頂には1994年に木造2階建ての避難小屋が建てられた<ref name="新岳"/>。この小屋の2階からは、妙見山、鉢伏山、氷ノ山、東山、沖ノ山を一望し、西には大山を見ることができる。北は日本海、西は鳥取平野を望み、東は岸田川の渓谷を見下ろす<ref name="新岳"/><ref name="小学館全書Ⅲ808"/><ref name="PREF-TT-みち"/><ref name="分県山"/>。 |
|||
===山スキー=== |
|||
扇ノ山はこの一帯で最も雪が多い<ref name="山と高原"/>。1956(昭和31)年の『山と高原』によれば、例年11月上旬に初雪があり、12月中旬からじゅうぶんな積雪が得られる。その後、4月いっぱいか、雪が多い年であれば5月中もスキーができたという<ref name="山と高原"/>。 |
|||
山頂からはなだらかな斜面が続いており、長いコースでは山麓まで平均12度ほどの傾斜が数キロも続く。また、標高1200m以上の山頂近辺だけでも平均17度のゲレンデとなり、鞍部で自然停止できるほどの広さがある。ただし、谷部には急峻な断崖があるためコースを誤ると極めて危険である<ref name="山と高原"/>。 |
|||
兵庫県側の上山高原、鳥取県側の河合谷高原がとくに山スキーの地として知られている<ref name="角川_兵庫扇"/><ref name="百科_河合谷"/>。 |
|||
== 脚注・出典 == |
|||
=== 注釈 === |
|||
{{Reflist|group=注}} |
|||
=== 出典 === |
|||
{{Reflist|colwidth=30em |
|||
|refs= |
|||
<!--国交省--> |
|||
<!--鳥取県庁--> |
|||
<!--鳥取市--> |
|||
<!--岩美町--> |
|||
*<ref name="岩美町誌">『岩美町誌』p43-48</ref> |
|||
<!--鳥取県庁--> |
|||
*<ref name="PREF-TT-火山弾">[[鳥取県|鳥取県庁]] 教育委員会事務局 文化財課 文化財係 [http://db.pref.tottori.jp/bunkazainavi.nsf/bunkazai_web_view/1C53452E114F10014925796F0007FEEA?OpenDocument 扇ノ山の火山弾]2015年10月9日閲覧。</ref> |
|||
*<ref name="PREF-TT-みち">[[鳥取県|鳥取県庁]] 生活環境部 緑豊かな自然課 [http://www.pref.tottori.lg.jp/93958.htm 扇ノ山へのみち]2015年10月9日閲覧。</ref> |
|||
*<ref name="PREF-TT-登山">[[鳥取県|鳥取県庁]] 鳥取県東部生活環境事務所 {{PDFlink|[http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/413269/200603guide.pdf 登山ガイド]}}2015年10月9日閲覧。</ref> |
|||
<!--兵庫県庁--> |
|||
*<ref name="PREF-HG-生物">[[兵庫県|兵庫県庁]] {{PDFlink|[http://www.kankyo.pref.hyogo.jp/JPN/apr/boshu/seibututayouseihyogosenryaku/3-main_%20knitting_3.pdf ひょうごの生物多様性]}}2015年10月9日閲覧。</ref> |
|||
<!--その他URL--> |
|||
*<ref name="神戸新聞20150616">[[神戸新聞]]NEXT 2015年6月16日付 [http://www.kobe-np.co.jp/news/bousai/201506/0008126028.shtml 「巨大噴火」兵庫も備えを 全国で火山活発化、降灰被害の恐れも]2015年10月9日閲覧。</ref> |
|||
*<ref name="山渓オンライン">[[山と溪谷社]]オンライン [http://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=810 扇ノ山]2015年10月8日閲覧。</ref> |
|||
<!--文献--> |
|||
*<ref name="県境_扇">『鳥取県境の山』p12「扇ノ山」</ref> |
|||
*<ref name="図説-小学館_276">『図説日本文化地理大系4 中国1』p276</ref> |
|||
*<ref name="地誌16_198">『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』p198</ref> |
|||
*<ref name="地誌16_224">『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』p224</ref> |
|||
*<ref name="県史I-49">『鳥取県史 第1巻 原始古代』p49-50</ref> |
|||
*<ref name="新岳">『新日本山岳誌』p1451-1452</ref> |
|||
*<ref name="三省堂">『日本山名事典』p137</ref> |
|||
*<ref name="大日本">『増補 大日本地名辞書』第三巻 中国・四国p304</ref> |
|||
*<ref name="日本の山">『日本の山1000』p601</ref> |
|||
*<ref name="小学館全書Ⅲ808">『日本大百科全書3』p808</ref> |
|||
*<ref name="山と高原">『山と高原』(232巻)p50-51 西村公夫「関西の山々 スキーのメッカ扇ノ山」</ref> |
|||
*<ref name="鳥百">『鳥取県百名山』p21-23</ref> |
|||
*<ref name="百科_河合谷">『鳥取県大百科事典』p197「河合谷高原」</ref> |
|||
*<ref name="分県山">『新・分県登山ガイド30 鳥取県の山』p112-119「扇ノ山」</ref> |
|||
*<ref name="すぐ山_概要">『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』p5-9「鳥取県の地形の概要」</ref> |
|||
*<ref name="すぐ山_扇">『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』p20-23「扇ノ山」</ref> |
|||
*<ref name="報告1967_101">『日本自然保護協会調査報告 第32号 氷ノ山・後山・那岐山国定公園候補地 学術調査報告』p101-109</ref> |
|||
<!--角川--> |
|||
*<ref name="角川_扇">『日本地名大辞典 31 鳥取県([[角川日本地名大辞典]])』p153-154</ref> |
|||
*<ref name="角川_兵庫扇">『日本地名大辞典 28 兵庫県(角川日本地名大辞典)』p269</ref> |
|||
}} |
|||
===参考文献=== |
|||
*鳥取県庁 |
|||
:*{{PDFlink|[http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/873005/sy_2013_003.pdf 地勢及び地質]}} |
|||
*『増補 大日本地名辞書』第三巻 中国・四国,吉田東伍・著,冨山房,1900,1970 |
|||
*『山と高原』(232巻),朋文堂,1956 |
|||
*『図説日本文化地理大系4 中国1』,浅香幸雄・編,小学館,1962 |
|||
*『日本自然保護協会調査報告 第32号 氷ノ山・後山・那岐山国定公園候補地 学術調査報告』,財団法人 日本自然保護協会,1967 |
|||
*『岩美町誌』,岩美町誌刊行委員会,1968 |
|||
*『鳥取県史 第1巻 原始古代』,鳥取県,1972 |
|||
*『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』日本地誌研究所・編,二宮書店,1977 |
|||
*『日本地名大辞典 31 鳥取県([[角川日本地名大辞典]])』,[[角川書店]],1982,ISBN 978-4040013107 |
|||
*『鳥取県大百科事典』,新日本海新聞社鳥取県大百科事典編纂委員会・編,新日本海新聞社,1984 |
|||
*『日本地名大辞典 28 兵庫県(角川日本地名大辞典)』,角川書店,1988,ISBN 4-04-001280-1 |
|||
*『鳥取県の地名([[日本歴史地名大系]])』,[[平凡社]],1992 |
|||
*『日本大百科全書3』,秋庭隆・編,小学館,1985,1995(二版第二刷) |
|||
*『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』,豊島吉則・赤木三郎・岡田昭明・編,鳥取県衛生環境部自然保護課,1993,1994(第2版) |
|||
*『ふるさとの文化遺産 郷土資料事典31 鳥取県』,ゼンリン,人文社,1998 |
|||
*『鳥取県境の山』,日本山岳会山陰支部・山陰の山研究委員会・編,日本山岳会山陰支部・刊,1999 |
|||
*『日本の山1000』山と渓谷社,1992,1999,ISBN 4-635-09025-6 |
|||
*『鳥取県百名山』中島篤巳・著,葦書房,2002,ISBN 4-7515-0843-8 |
|||
*『新日本山岳誌』日本山岳会・編著,2005,ISBN 978-4779500008 |
|||
*『新・分県登山ガイド30 鳥取県の山』,藤原道弘・著,山と渓谷社,2010,ISBN 978-4-635-02380-1 |
|||
*『日本山名事典』三省堂.2011,ISBN 978-4-385-15428-2 |
|||
==外部リンク== |
|||
*鳥取県庁 |
|||
:*[http://www.pref.tottori.lg.jp/93958.htm 扇ノ山へのみち] (生活環境部 緑豊かな自然課) |
|||
:*{{PDFlink|[http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/413269/200603guide.pdf 登山ガイド]}} |
|||
*[[山と溪谷社]]オンライン [http://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=810 扇ノ山] |
|||
{{日本三百名山}} |
{{日本三百名山}} |
||
25行目: | 200行目: | ||
{{近畿百名山}} |
{{近畿百名山}} |
||
{{中国百名山}} |
{{中国百名山}} |
||
{{mountain-stub|pref=兵庫県|pref2=鳥取県}} |
|||
{{DEFAULTSORT:おうきのせん}} |
{{DEFAULTSORT:おうきのせん}} |
2015年10月27日 (火) 06:53時点における版
扇ノ山 | |
---|---|
画像募集中 | |
標高 | 1,309.9[1] m |
所在地 |
日本 兵庫県美方郡新温泉町(旧温泉町)・ 鳥取県鳥取市(旧国府町)・ 八頭郡八頭町(旧郡家町・旧八東町)・若桜町 |
位置 | 北緯35度26分23秒 東経134度26分27秒 / 北緯35.43972度 東経134.44083度座標: 北緯35度26分23秒 東経134度26分27秒 / 北緯35.43972度 東経134.44083度[2] |
扇ノ山の位置 | |
プロジェクト 山 |
扇ノ山(おうぎのせん)は、兵庫県と鳥取県にまたがる山で、標高1,309.9m[3]。関西百名山や日本三百名山に選ばれている[4]。
中国・近畿地方の代表的な火山の一つで、山麓には湯村温泉や岩井温泉がある。西日本では山スキーの人気地の一つでもある[5][1][6]。
概要
大山とならぶ鳥取県の「火山の両横綱[7]」とされており、中国・近畿地方の代表的な火山である。鳥取平野西部からよく見える山であるとともに、日本海に近い高山でかつては航海の目印[8]にもされていた。山頂には二等三角点「扇ノ山」(標高1309.97m)がある。
10数万年前まで何度か活動した火山で、噴出した溶岩による台地地形がまだ浸食が進んでいない。そのため山頂からはなだらかな山容で、四方には様々な高原が広がっている。これらの高原は農業やレジャーの地になっているほか、なだらかで雪が多いことから西日本の山スキーの名所の一つになっている。
高原地帯の辺縁部は著しい浸食があり、各地で険しい断崖や峡谷を形成し、さまざまな滝がある。雨滝(日本の滝百選)、諸鹿川渓谷(21世紀に残したい日本の自然百選)などがその典型である。一帯は氷ノ山後山那岐山国定公園の北の端をなしている。
名称
扇ノ山は鳥取平野からみえる代表的な高山である。鳥取県側から見た扇ノ山の山容は、山頂からなだらかな尾根筋が南北両翼に連なっており、扇を広げた姿に見立ててこの名がついたと考えられている[9][5][10]。古くは「扇仙」、「扇嶽」などの異表記がある[9]。
東の兵庫県側からは山容は見えず、主に「畑ヶ平」(はたけがなる)と呼ばれていた(畑ヶ平高原参照)[5]。
地形・地質
大山火山系[11]に分類され、第三紀の終わり、おおむね鮮新世から第四紀の更新世にかけて何度も活動した火山である。
珍しいタイプの火山で、もともと中新世に形成された緑色凝灰岩を中心とする堆積岩による古い中国山地があり、これが標高600-700mまで侵食されて低地性の山地を形成していたところを、鮮新世にこの基盤を突き破って火山活動が起きた。このとき形成されたのは主に流紋岩や安山岩である[9][11][10][12][注 1]。火山活動が始まった時期については、放射年代測定は得られていないものの、古い溶岩の磁気や他の火山灰層との上限関係に基づいて推定されており、少なくとも73万年前より以前であると考えられている。また、同様の手法で火山活動の終期は10数万年前とされている[13]。
この間、断続的に十数回の噴火を繰り返した。噴出源(火口)はいまの県境に沿って移動しており、厳密には複数の単成火山から成る火山群である。それぞれの火口から流れ出た溶岩は古くに形成されていた浸食谷を埋め、山全体として緩やかな斜面を形成した。火山活動は大きく3期(ⅠからⅢ期)に分けられており、凝灰岩の角礫と更新世の噴火による玄武岩や安山岩が層を成している。山頂付近には「穴ヶ原」と呼ばれる窪地地形があり、かつての火口と考えられている[9][11][10][14][3][15][12][13]。
火山活動のⅠ期には、主に玄武岩質安山岩の溶岩を噴出し、若桜町の来見野川にある「屏風岩」はこのときできたものである。Ⅰ期の後期には玄武岩質の溶岩の流出が少なくとも5度に渡ってあった。このときの岩は袋川上流の雨滝まわりの渓谷で露頭を形成している。Ⅰ期とⅡ期のあいだには有意な河川浸食が認められており、Ⅱ期には北西方向や南方向へ溶岩流が進出した[13]。
このあと大山の火山灰層を挟んでⅢ期の溶岩流があり、これが上山高原、畑ヶ平高原、河合谷高原 、広留野高原といった平坦部を形成した。これらの溶岩台地は火山地形としては比較的新しく、浸食されずに原型がよく残されている。特に標高800m以上では浸食がまだ進んでおらず、火山砕屑岩がみられ、四方になだらかな溶岩台地が残っていて高原状になっている。平坦部には大山由来の火山灰が堆積して黒ボク土壌になっており、植生が豊かで、一部は耕作地として利用されている。特に、全般的に急斜面地の多い鳥取県の中では、河合谷高原は県内一、二の広さをもつ高原である。これらの高原の辺縁部は開析が進んでいて、大きな滝をいくつも作り、深いV字渓谷が形成されている[9][3][6][16][12][13]。
- 上山高原 - 北に桂の滝、シワガラの滝、布滝など。南に霧ヶ滝渓谷や赤滝渓谷があり、霧ヶ滝などがある[9][17]。
- 畑ヶ平高原 - 上山高原から霧ヶ滝渓谷を経た南側に広がる。兵庫県側からはこの高原に遮られて扇ノ山全体が見えず、「畑ヶ平」が山の呼び名だった[9][17]。
- 河合谷高原 - 辺縁部に雨滝(日本の滝百選)などの「四十八滝」がある。北には天神池・天神滝があり、蒲生川へと続いている[3][18]。
- 広留野高原 - 南の来見野渓谷(諸鹿渓谷)には大鹿滝(日本の自然百選[3])をはじめ多くの滝がある[9][18]。火山砕屑物が堆積してできた火砕丘があり、1971(昭和46)年に見つかった直径約1mの紡錘形の火山弾が「扇ノ山の火山弾」として鳥取県の天然記念物に指定されている[19]。
火山活動の末期には、各火口の周囲でスコリア、火山礫などの噴出物が降り積もって砕屑丘が形成された。山頂北側の「大ズッコ」(1,273m)、「小ズッコ」(1,149m[注 2])、上山高原の「上山」(946m)、広留野高原北端の円錐台形の小山(930m)などがこれにあたる。また、山頂そのものはⅠ期より以前の鳥越火砕岩層と呼ばれる第三紀の照来層群の一種でできており、扇ノ山の火山体ではない[18][13]。
火山としては、かつては「楯状火山[14][20]」(アスピーデ[11][3])ないし「鐘状火山[14]」に分類されていた。また、最後に噴火したのは約40万年前[21]とされており「死火山」に分類されていたが、近年はこうした用語・分類自体が用いられない[6][22]。(火山#火山の分類参照)
扇ノ山を源流とする川には、鳥取県側では千代川の支流袋川、蒲生川、兵庫県側では岸田川などがある。南西山麓の若桜町角谷ではヒスイを産する[3]。
菅野湿原
菅野湿原は扇ノ山の北西山麓にあるミズゴケ中心の湿原で、天然記念物に指定されている。南と北には千代川の支流による浸食谷があるが、菅野湿原のあたりは標高400m前後の台地となって侵食に取り残されている。湿原はその台地の中央付近の窪地状の一帯にある[23][11]。
湿原の地層は厚さ5m超の泥炭層と大山火山灰層が積み重なっていて、5mの泥炭層に含まれる花粉の分析から、このあたりの過去1万年間の気候変動を知る手がかりになる[23]。
地層の深さ | おおよその年代 | 代表的な花粉 | 推定される気候等 |
0-1m | 1500年前 | マツ、イネ科、ソバ | 気候が大きく変わり、ヒトの生活利用の影響がある |
1-2.5m | 4000年前 | ブナ、ミズナラ、スギ | 涼しくなり、植物が増える |
2.5-3m | 不明 | 花粉がほとんどみられない時代 | 植生不明 |
3-5m | 9000-8000年前 | ツガ、ミズメ | やや暖かくなり、後氷期へ移行 |
5m- | 12000-10000年前 | ブナ、ミズナラ、スギ | 現在よりも400-500mほど森林帯が低い |
自然
山の誕生後、気候変動や大山の噴火によって環境が大きく変わった。また、標高が高い高原や険しい谷、湿原、滝など多様な環境である。氷河時代の生き残りとみられる寒地性植物がみられるほか、滝が多く、滝周辺に特有の植物群落が多く見られる[24]。
植物
全山でチシマザサが茂っているほか、鳥取県内では唯一、北方性のタケシマランが自生している[9][11][25]。標高の高い部分では湿地性のザゼンソウ、サンインシロカネソウなどが分布する。なかでも岸田川源流の滝や雨滝一帯に自生するタジマタムラソウは1919年に新種とされた[24]。このほか、ミズトラノオゴケ、マルバマンサク、アサクラザンショウ、ヤマアサクラザンショウなども扇ノ山一帯を特産とする植物である[24]。分布学上の顕著なものは、ヨコワサルオガセ、アカウラカワイワタケ、イワタケなど樹皮や岩石のつく地衣類や、ヤナギゴケなどである[24]。
自然林では、ブナ、カエデ類(ハウチワカエデやイタヤカエデなど)、ミズナラ、スギが残されている。明治以降の開発によってブナ林は大きく損なわれたが、南斜面の標高が高い部分にはブナの原始林がある。このほか渓谷部ではトチノキ、ホオノキ、サワグルミ、カツラ、イタヤカエデ、が自然林を形成している[11][9][25]。
河合谷高原などでは開墾によって自然林が失われたが、いまはブナの植林が行われている[9][25]。兵庫県側では道路の開削が進み、原生林は畑ヶ平高原の一部にしか残されていない[17]。
このほか、ウド、ギボウシ、フキ、ゼンマイ、ワラビ、スズノコ(ササの一種スズタケの若芽)などの山野草が自生し、春の山菜採取地にもなっている[22][16]。
動物
扇ノ山の一帯はツキノワグマ、ヤマネなどの野生哺乳類、イヌワシ、クマタカ、オオタカなどの猛禽類、オオムラサキやギフチョウといった稀少な蝶類などの生息地になっている[9][25]。川にはハコネサンショウウオやヒダサンショウウオが生息[11][22]。
登山・行楽
大部分のエリアが氷ノ山後山那岐山国定公園に指定されていて、同公園の北限域になっている[9][3][11]。
谷が深く、繁茂するチシマザサに阻まれて、かつては冬の雪山登山しか不可能だった[3][8][5]。
また、交通が不便でヒュッテなども整備されておらず、宣伝もされていなかった。一方、近くの氷ノ山のほうは大山に次ぐ鳥取県第2位の標高がりながら、登りやすい山で広く宣伝されていた。こうしたことも、扇ノ山の夏季登山が行われなかった理由になっていた[5]。
一方、中国・近畿地方でも特に雪が多く、西日本の山スキー愛好家にとってはシーズン早くからシーズンの終わりまでスキーを楽しめる「山スキーのメッカ」となっていた[5]。
いまは標高900m付近まで車道が整備され、そこから1時間あまりで山頂に到達できる登山道がいくつも整備されている[9][26]。
登山
なだらかな斜面のため、さまざまな登山路がある。主要なルートは北の河合谷高原経由で、中国自然歩道になっている。河合谷高原には「水とのふれあい広場」が設けられており、ここから約1時間で山頂に至る[3][9][26]。
山頂には1994年に木造2階建ての避難小屋が建てられた[9]。この小屋の2階からは、妙見山、鉢伏山、氷ノ山、東山、沖ノ山を一望し、西には大山を見ることができる。北は日本海、西は鳥取平野を望み、東は岸田川の渓谷を見下ろす[9][11][25][26]。
山スキー
扇ノ山はこの一帯で最も雪が多い[5]。1956(昭和31)年の『山と高原』によれば、例年11月上旬に初雪があり、12月中旬からじゅうぶんな積雪が得られる。その後、4月いっぱいか、雪が多い年であれば5月中もスキーができたという[5]。
山頂からはなだらかな斜面が続いており、長いコースでは山麓まで平均12度ほどの傾斜が数キロも続く。また、標高1200m以上の山頂近辺だけでも平均17度のゲレンデとなり、鞍部で自然停止できるほどの広さがある。ただし、谷部には急峻な断崖があるためコースを誤ると極めて危険である[5]。
兵庫県側の上山高原、鳥取県側の河合谷高原がとくに山スキーの地として知られている[17][16]。
脚注・出典
注釈
出典
- ^ a b 『鳥取県境の山』p12「扇ノ山」
- ^ 『日本山名事典』p137
- ^ a b c d e f g h i j 『日本の山1000』p601
- ^ 山と溪谷社オンライン 扇ノ山2015年10月8日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 『山と高原』(232巻)p50-51 西村公夫「関西の山々 スキーのメッカ扇ノ山」
- ^ a b c 『鳥取県百名山』p21-23
- ^ 『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』p5-9「鳥取県の地形の概要」
- ^ a b 『増補 大日本地名辞書』第三巻 中国・四国p304
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 『新日本山岳誌』p1451-1452
- ^ a b c 『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』p198
- ^ a b c d e f g h i j 『日本大百科全書3』p808
- ^ a b c d 『岩美町誌』p43-48
- ^ a b c d e 『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』p20-23「扇ノ山」
- ^ a b c 『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』p224
- ^ 兵庫県庁 ひょうごの生物多様性 (PDF) 2015年10月9日閲覧。
- ^ a b c 『鳥取県大百科事典』p197「河合谷高原」
- ^ a b c d 『日本地名大辞典 28 兵庫県(角川日本地名大辞典)』p269
- ^ a b c 鳥取県庁 鳥取県東部生活環境事務所 登山ガイド (PDF) 2015年10月9日閲覧。
- ^ 鳥取県庁 教育委員会事務局 文化財課 文化財係 扇ノ山の火山弾2015年10月9日閲覧。
- ^ 『図説日本文化地理大系4 中国1』p276
- ^ 神戸新聞NEXT 2015年6月16日付 「巨大噴火」兵庫も備えを 全国で火山活発化、降灰被害の恐れも2015年10月9日閲覧。
- ^ a b c 『日本地名大辞典 31 鳥取県(角川日本地名大辞典)』p153-154
- ^ a b 『鳥取県史 第1巻 原始古代』p49-50
- ^ a b c d 『日本自然保護協会調査報告 第32号 氷ノ山・後山・那岐山国定公園候補地 学術調査報告』p101-109
- ^ a b c d e 鳥取県庁 生活環境部 緑豊かな自然課 扇ノ山へのみち2015年10月9日閲覧。
- ^ a b c 『新・分県登山ガイド30 鳥取県の山』p112-119「扇ノ山」
参考文献
- 鳥取県庁
- 『増補 大日本地名辞書』第三巻 中国・四国,吉田東伍・著,冨山房,1900,1970
- 『山と高原』(232巻),朋文堂,1956
- 『図説日本文化地理大系4 中国1』,浅香幸雄・編,小学館,1962
- 『日本自然保護協会調査報告 第32号 氷ノ山・後山・那岐山国定公園候補地 学術調査報告』,財団法人 日本自然保護協会,1967
- 『岩美町誌』,岩美町誌刊行委員会,1968
- 『鳥取県史 第1巻 原始古代』,鳥取県,1972
- 『日本地誌 第16巻 中国・四国地方総論、鳥取県・島根県』日本地誌研究所・編,二宮書店,1977
- 『日本地名大辞典 31 鳥取県(角川日本地名大辞典)』,角川書店,1982,ISBN 978-4040013107
- 『鳥取県大百科事典』,新日本海新聞社鳥取県大百科事典編纂委員会・編,新日本海新聞社,1984
- 『日本地名大辞典 28 兵庫県(角川日本地名大辞典)』,角川書店,1988,ISBN 4-04-001280-1
- 『鳥取県の地名(日本歴史地名大系)』,平凡社,1992
- 『日本大百科全書3』,秋庭隆・編,小学館,1985,1995(二版第二刷)
- 『鳥取県のすぐれた自然 -地形・地質編-』,豊島吉則・赤木三郎・岡田昭明・編,鳥取県衛生環境部自然保護課,1993,1994(第2版)
- 『ふるさとの文化遺産 郷土資料事典31 鳥取県』,ゼンリン,人文社,1998
- 『鳥取県境の山』,日本山岳会山陰支部・山陰の山研究委員会・編,日本山岳会山陰支部・刊,1999
- 『日本の山1000』山と渓谷社,1992,1999,ISBN 4-635-09025-6
- 『鳥取県百名山』中島篤巳・著,葦書房,2002,ISBN 4-7515-0843-8
- 『新日本山岳誌』日本山岳会・編著,2005,ISBN 978-4779500008
- 『新・分県登山ガイド30 鳥取県の山』,藤原道弘・著,山と渓谷社,2010,ISBN 978-4-635-02380-1
- 『日本山名事典』三省堂.2011,ISBN 978-4-385-15428-2
外部リンク
- 鳥取県庁