ダモクレス
ダモクレス(ダーモクレース、ギリシア語: Δαμοκλῆς〈ラテン翻字:Dāmoklē̂s〉、ラテン語:Damocles、紀元前4世紀前期)は、古代ギリシア植民都市シュラクサイ(現・シラクサ)の僭主ディオニュシオス2世の臣下とされる人物。「ダモクレスの剣」の故事で有名。
ダモクレスの剣
[編集]ダモクレスの剣(ダモクレスのつるぎ[1][2]、- のけん[3]。英語:sword of Damocles[4], Sword of Damocles[4][3])とは、栄華の最中にも危険が迫っていること[1]や、そのような危険[4]、または、常に身に迫る一触即発の危険な状態[3]をいう。
歴史のうえでは、紀元前4世紀初頭、古代ギリシア文化圏内にあったシケリア島(現・シチリア島)にて全島を支配下に収めて繁栄を謳歌する植民都市シュラクサイ(現・シラクサ)での話。その実、ギリシア神話に見られる話。 全シケリアを統べる僭主ディオニュシオス2世に臣下として仕える若きダモクレスは、ある日、僭主の権力と栄光を羨み、追従の言葉を述べた。すると後日、僭主は贅を尽くした饗宴にダモクレスを招待し、自身がいつも座っている玉座に腰掛けてみるよう勧めた。それを受けてダモクレスが玉座に座ってみたところ、ふと見上げた頭上に己を狙っているかのように吊るされている1本の剣のあることに気付く。剣は天井から今にも切れそうな頼りなく細い糸[* 1][5]で吊るされているばかりであった。ダモクレスは慌ててその場から逃げ出す[6]。僭主ディオニュシオス2世は、ダモクレスが羨む僭主という立場がいかに命の危険を伴うものであるかをこのような譬えで示し、ダモクレスもまたこれを理解するのであった[7]。
統治者・支配者の幸福の危うさを悟らせる故事「ダモクレスの剣」は、古代から現代に至る長きにわたり、古代においては古代ギリシア・ローマ文化圏で、中世以降においてはヨーロッパ文化圏を中心とした世界で、成句として好んで用いられてきた[5]。後述するキケロの『トゥスクルム談義』は古代ギリシア・ローマ文化圏における代表的引用例、ケネディ大統領の国連演説はヨーロッパ文化圏における代表的引用例である。
キケロ『トゥスクルム談義』
[編集]ダモクレスの剣の逸話として、有名なものに、共和政ローマ期の政治家にして文筆家、キケロが書いた『トゥスクルム談義』があり以下はその引用である。
Dionysius "visne igitur," inquit,"o Domocle, ipse hanc vitam dequestare et fortunam mean experirri?" |
ディオニュシオスは言った。「それではダモクレスよ、おまえはみずからこの暮らしをちょっと味わって、私の幸福を経験する気があるか?」。 |
—ラテン語原文 | —日本語訳(逸身喜一郎訳) |
ケネディ大統領の国連演説
[編集]この逸話が日本でよく知られるようになったのは、ケネディ大統領の国連演説(1961年)である[8]。
Today, every inhabitant of this planet must contemplate the day when this planet may no longer be habitable. |
地球のすべての住人は、いずれこの星が居住に適さなくなってしまう可能性に思いをはせるべきであろう。 |
演説と故事とは、完全な類比にはなっていないが、謂わんとするところは明快である。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b 『大辞泉』
- ^ 『大辞林』第3版
- ^ a b c 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』
- ^ a b c 小学館『プログレッシブ英和中辞典』第4版
- ^ a b 「馬の尾の毛」の出典は、五之治昌比呂「『走れメロス』とディオニュシオス伝説」『西洋古典論集』第16巻、京都大学西洋古典研究会、1999年8月、39-59頁、ISSN 0289-7113、NAID 110004687698。
- ^ ダモクレスの剣 - 塾頭通信 - 北海道師範塾 第430号、2012年11月7日
- ^ トリビア・コーナー - インベストライフ - 末崎孝幸、I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社
- ^ (参考資料:Kennedy, John (1961年9月25日). “Address Before the General Assembly of the United Nations”. Selected Speeches of John F. Kennedy. Columbia Point, Boston MA 02125, USA: John F. Kennedy Presidential Library and Museum. 2011年8月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月5日閲覧。)
参考文献
[編集]- 逸身喜一郎『ラテン語のはなし―通読できるラテン語文法』大修館書店、2000年。ISBN 978-4-469-21262-4。 - 22 ダモクレスの剣 -不定詞構文より。