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リュシテアー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

リュシテアー古代ギリシャ語: Λυσιθέα, Lysithea)またはリュシトエー古代ギリシャ語: Λυσιθόη, Lysithoe)は、ギリシア神話に登場するオーケアノスの娘(オーケアニス)でゼウスの愛人のひとり[1][2][3]。またエウエーノスの娘ともされる[4]

リュシテアーがゼウスによって身ごもったとき、彼女は妊娠をゼウスから隠しておこうと望んだ。そこで彼女は植物・動物・石に助けを頼んだ。植物と動物は助けることを拒否したが、石は彼女が出産するまで閉じこめて匿った。この間リュシテアーは彼女の運命のことで涙を流し、この涙が石に与えられて水晶が誕生することになった[5][6]

リュシテアーはディオニューソスの母とも呼ばれるセメレーの別名であると主張する著者たちもいる。セメレーはのちにディオニューソスから神性を分け与えられてオリュンポスに上げられ、そこでテュオーネーという名で神々のもとで暮らした[7]

文献証拠

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リュシテアーに関する歴史的典拠には、ローマの政治家・文筆家であったマールクス・トゥッリウス・キケロー(紀元前106年 – 紀元前43年)およびビザンツの官吏・文筆家であったヨハンネス・リュドス(リュディア人ヨハネス、490年頃 – 565年)によるものがある。

キケローはその著作『神々の本性について』(De natura deorum) においてリュシトエー (Lysithoe) をヘーラクレースの母として述べており[8]、それによってまた彼女をゼウスの愛人であるとしている。しかしながら名前全体の正確なつづりは保存されておらず、後代の写本において語幹 Lysith- はフリードリヒ・クロイツァー(Friedrich Creuzer, ドイツの文献学者・神話学者)によって Lysithoe と補完された[9]

ヨハンネス・リュドスには、彼の著作『暦月について』(Περὶ τῶν μηνών) 中にギリシア神話の登場人物の系譜的注解も見いだされる。その第4巻ではヘーラクレースの7通りの異なる系図が与えられており、このうちのひとつが両親としてゼウスと、オーケアノスの娘リュシトエー (Lysithoe) とを名指している[10]。また別の箇所ではディオニューソスが、ゼウスとリュシテアー (Lysithea) との息子と呼ばれている[7][11][12]。リュシトエーとリュシテアーは事によっては同一視できるのか、それとも根本的に別々の登場人物とみなすべきかは、議論が定まっていない[9]

天文学

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1938年セス・バーンズ・ニコルソンによって発見された木星の第10衛星リシテア(当初は Jupiter X と呼ばれた)はリュシテアーの名にちなんで命名された[3]

脚注

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  1. ^ Encyclopedia Mythica 中の記事 Micha F. Lindemans: Lysithea
  2. ^ Archived 2009-09-30 at the Wayback Machine.
  3. ^ a b "Lysithea (astronomy)," Microsoft® Encarta® Online Encyclopedia 2009 (Archived 2009-04-19 at the Wayback Machine.)
  4. ^ 偽クレメンスRecognitions, 10.21. そこではユーピテル(ゼウス)によって辱められ、ヘレノスを産んだとされる。
  5. ^ Bill Arnett, Gudrun Egert, Michael Wapp. "Anhang E1: Details zum mythologischen Hintergrund". Die Neun Planeten. 2010年1月4日閲覧
  6. ^ Archived 2009-10-05 at the Wayback Machine.
  7. ^ a b Jürgen Blunck: Solar System Moons: Discovery and Mythology
  8. ^ Marcus Tullius Cicero: De natura deorum. 第3巻第42章 (オンライン版)。当該箇所は複数のヘルクレース(ヘーラクレース)を識別する文脈で、«ex eo igitur et Lysithoe est is Hercules, quem concertavisse cum Apolline de tripode accepimus.»「そして彼〔=最古のユーピテル(ゼウス)〕とリュシトエーとからこの〔第一の〕ヘルクレースが生まれ、この〔ヘルクレース〕がアポッローと鼎をめぐって争ったのだとわれわれに伝わっている」。ここにいう鼎とはデルポイの聖三脚台のこと。
  9. ^ a b Pauly-Wissowa(パウリ゠ヴィソワ古典古代学大百科事典)
  10. ^ «ἀπὸ δὲ τῶν ἱστοριῶν εὑρίσκομεν ἑπτὰ Ἡρακλεῖς γενέσθαι, πρῶτον Διὸς τοῦ Αἰθέρος καὶ Λυσιθόης τῆς Ὠκεανοῦ, [...]»「だが歴史家たちからわれわれは知っている、七人のヘーラクレースが生まれたことを;第一の者はアイテールの〔息子〕ゼウスとオーケアノスの〔娘〕リュシトエーとの〔子〕、……」(『暦月について』IV, 46. テクストは Google Books で閲覧できる)
  11. ^ «κατὰ δὲ τοὺς ποιητὰς Διόνυσοι πέντε· πρῶτος Διὸς καὶ Λυσιθέας· [...]»「だが詩人たちによればディオニューソスは五人;第一の者はゼウスとリュシテアーとの〔子〕;……」(『暦月について』IV, 38)
  12. ^ Ivan M. Linforth: The arts of Orpheus. University of California Press 1941, S. 224.