総合支所
総合支所(そうごうししょ)とは、市町村及び特別区に設置される支所のうち、本来の市町村及び特別区の事務所とほぼ同等の権能を有することで、ほとんどの事務処理がその内部で完結しうる権能を有するものをいう。
「政令指定都市(地方自治法第252条の19に基づく、指定都市という。)における区役所(地方自治法第252条の20第1項に基づく、区の事務所及び地方自治法第252条の20の2第1項に基づく、総合区の事務所という。)のようなもの」と説明される場合が多いが、区役所のような法定必置機関ではなく、市町村及び特別区の条例に基づいて設置され、具体的な権能等もそれぞれの事務分掌規程等で定められるので、「総合支所」という統一的な定義が存在するわけではない。
それゆえ「総合支所」という名称も統一的なものではなく、市町村によっては「支所」「総合行政センター」等の名称を用いている例もある。
ちなみに、都道府県の支庁又は地方事務所の名称では「支庁」「地方振興局」等を用いられることが多く、「総合支所」が用いられることはほとんどない。また、「支所」は「出先機関の、さらに出先機関」(例:○○保健所○○支所)で用いられる傾向にある。
概要
[編集]地方公共団体において、地方公共団体の職員が事務事業を執行する事務所は、原則として1つのみであり、それは「市役所」「町役場」「県庁」等の名称で呼ばれる。
これに対し、本来の市町村の事務所とは別の場所に、出先となる支所及び出張所を設置することが、地方自治法第155条で認められている。その際には、条例の制定が必須である。ただし多くの場合、条例では設置場所及び所管区域を定めるに留まり、具体的な権能や職責、支所内部の組織構成等は、別の規則で定めるという構成を取っている。
多くの場合、「面積が広い」「人口が多い」「地理的に遠隔である」等の理由によって設置されているが、これについても具体的な統一基準はなく、すべて市町村の判断に任されている。そのため、「過去の市町村合併以前の、旧市町村の事務所」をそのまま移行させている場合、同一市内における「支所の偏在」が問題化することも少なくない。
ところで、同法第156条では、法律又は条例で定めるところにより、保健所その他の行政機関の設置が定められている関係から、第155条の規定は「総合出先機関」に関する規定であるという解釈も成り立つが[1]、「平成の大合併」が始まる前までの多くの市町村においては、「窓口応対業務を主とする支所」の名称を「支所」とすることが大半であった。
そのこととの対比もあって、市町村長(特別区の区長を含む。)の権限に属する事務の全般にわたって分掌する事務所のことを、多くの「支所」と区別するため、特に「総合支所」と称するようになったと思われる。
歴史的経過
[編集]- 「昭和の大合併」及びそれに続く市町村合併において、廃止されるべき市町村の事務所を、そのまま「事務所」として残すケースがいくつか見られた。ただし、この当時には「総合支所」という用語が使われることはなく、多くは「支所」と呼ばれた。
- 1990年代において、人口が50万人を超える市において「事務の集中による弊害」(例:事務量の増大による遅延、画一的な事務処理、現場を重視しない事務)が目立つようになった。そこで、指定都市における区の事務所を準じて、市の区域を分け、それぞれに「総合出先機関」を設置する例が見られるようになった(例:東京都世田谷区、大阪府堺市)。さらにそれらの市においては、従来から「支所」が設置されていたこともあって、「総合支所」と名付けられることが多く見られた。
- 1990年代以前においても、合併によって廃止された市町村の事務所を、そのまま「総合支所」とする例もあった。(例:熊本市北部総合支所等【1991年合併】)
- 「平成の大合併」においては、相当数の市町村で「総合支所方式」が採用された。
- 以上とは別に、指定都市の区または総合区の事務所の出張所の名称として総合支所を用いているものがある。(例:宮城県仙台市)
総合支所の位置付け
[編集]この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
- 1965年ごろまでの市町村合併によって設置された「支所」は、合併後数年のうちに整理統合され、廃止または窓口応対業務の限る機関とされるケースが多かった。ところが、それ以降の合併においては、地元住民の要望が強い等の事情により、引き続き「支所」のままで現在に至っているところが少なくない。(例:鹿児島市谷山支所、岡山市西大寺支所[注釈 1])
- 大阪府堺市は、以前から指定都市への指定を「市是」としていたが、長い間、人口要件(かつては「人口100万人以上」、その後「人口100万人となることが見込まれる80万人以上」と変更され、これによって千葉市等が昇格を果たしたが、堺市は85万人前後をピークとして人口が減少していた)によって阻害されてきた。つまり、堺市での総合支所の設置は、「指定都市と同等の行政能力を有する」ことを示し、人口要件の特例を認めさせる実績作りともいえた。なお、「平成の大合併」において、人口要件に「市町村合併によって人口70万人以上となった市」という特例が定められたため、堺市は隣接する美原町と合併することで人口要件をクリアし、悲願の昇格を果たした(この際、従来の総合支所及び美原町役場を廃し、区の事務所を設置する。)。一方、東京都世田谷区においても、以前から「特別区から市へ」「市から指定都市へ」という潮流が存在しており、総合支所の設置もその流れの一つと考えることも可能である。
- 「平成の大合併」期の総合支所も、多くは将来的な統合を前提とした激変緩和措置として設置されている(「総合支所方式」の項目に詳しい)。
- 指定都市においても「区の事務所の出張所」の名称として総合支所が設置される場合があるが、これについては、大きく2つに分かれる。
- 過去の合併等の経緯や、地理的な遠隔地にあるという事情があるものの、単独の区とするほどの人口がない場合。
- 人口急増等で、将来的に分区が見込める地区について、先行的に区割りを設定し、区役所となるべき建物も建設しておく場合。(「分区に先行する激変緩和措置」という見方も可能である)
総合支所を設置している市町村及び特別区
[編集]以下は、各団体の公式サイト等にて、「総合支所」という名称の支所を設置していることが確認できたもののリストである。
よって、これらの総合支所が、全て同一の権能を有している訳ではない。逆に、「総合支所」と名乗らなくても、他市の「総合支所」と同等の権能を有しているものもある。
- 北海道
- 青森県
- 岩手県
- 宮城県
- 秋田県
- 山形県
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- 酒田市 八幡総合支所 松山総合支所 平田総合支所
- 福島県
- 茨城県
- 栃木県
- 群馬県
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- 太田市 尾島総合支所 薮塚本町総合支所 新田総合支所……2008年4月1日付けで改正する条例が施行により、尾島総合支所、薮塚本町総合支所及び新田総合支所を廃する。地方自治法第244条に基づく公の施設である行政センターを設置し、行政センター内に市民の便宜を図るため連絡所(地方自治法第158条に基づく内部組織である。)を設置する。
- 渋川市 北橘総合支所 伊香保総合支所 子持総合支所 小野上総合支所 赤城総合支所……改正する条例が施行により、北橘総合支所、伊香保総合支所、子持総合支所、小野上総合支所及び赤城総合支所の名称を北橘行政センター、伊香保行政センター、子持行政センター、小野上行政センター及び赤城行政センターに変更する。
- 埼玉県
- 千葉県
-
- 匝瑳市 野栄総合支所
- 東京都
- 石川県
- 福井県
- 山梨県
-
- 北杜市 明野総合支所 須玉総合支所 高根総合支所 長坂総合支所 大泉総合支所 小淵沢総合支所 白州総合支所 武川総合支所
- 長野県
- 岐阜県
-
- 本巣市 根尾総合支所
- 静岡県
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- 川根本町 総合支所……「総合支所」という名称の総合支所である。
- 愛知県
- 三重県
- 滋賀県
- 大阪府
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- 堺市 ……指定都市の指定により、旧総合支所の庁舎に地方自治法第252条の20第1項に基づく区の事務所を設置する。ただし、合併地区である美原区は、旧美原町役場の庁舎に地方自治法第252条の20第1項に基づく区の事務所である美原区役所を設置する。
- 兵庫県
- 鳥取県
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- 鳥取市 国府町総合支所 青谷町総合支所 福部町総合支所 河原町総合支所 用瀬町総合支所 佐治町総合支所 気高町総合支所 鹿野町総合支所
- 島根県
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- 益田市 美都総合支所 匹見総合支所……改正する条例が施行により、美都総合支所及び匹見総合支所を廃する。分庁方式に変更する。
- 岡山県
- 広島県
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- 尾道市 因島総合支所
- 山口県
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- 下関市 菊川総合支所 豊田総合支所 豊浦総合支所 豊北総合支所
- 宇部市 北部総合支所
- 山口市 徳地総合支所 小郡総合支所 秋穂総合支所 阿知須総合支所 阿東総合支所
- 岩国市 由宇総合支所 玖珂総合支所 本郷総合支所 周東総合支所 錦総合支所 美川総合支所 美和総合支所……改正する条例が施行により、玖珂総合支所、本郷総合支所及び美川総合支所の名称を支所に玖珂支所、本郷支所及び美川支所を変更する。
- 柳井市 大畠総合支所……改正する条例が施行により、大畠総合支所を廃し、地方自治法第155条に基づく出張所である大畠出張所を設置する。
- 美祢市 美東総合支所 秋芳総合支所
- 周南市 新南陽総合支所 熊毛総合支所 鹿野総合支所
- 徳島県
- 愛媛県
-
- 西条市 小松総合支所 東予総合支所 丹原総合支所……令和4年8月1日付けで改正する条例が施行により、東予総合支所、小松総合支所及び丹原総合支所を廃し、西部支所、小松サービスセンター及び丹原サービスセンターを設置する。
- 四国中央市 川之江総合支所 土居総合支所 新宮総合支所……平成21年に改正する条例が施行により、川之江総合支所、土居総合支所及び新宮総合支所を廃する。分庁方式に変更する。
- 西予市 明浜総合支所 野村総合支所 城川総合支所 三瓶総合支所……改正する条例が施行により、明浜総合支所、野村総合支所、城川総合支所及び三瓶総合支所の名称を明浜支所、野村支所、城川支所及び三瓶支所に変更する。
- 伊方町 三崎総合支所 瀬戸総合支所……改正する条例が施行により、三崎総合支所及び瀬戸総合支所の名称を三崎支所及び瀬戸支所に変更する。
- 上島町 弓削総合支所 生名総合支所 岩城総合支所 魚島総合支所
- 高知県
- 福岡県
- 佐賀県
- 長崎県
- 熊本県
-
- 玉名市 天水総合支所 横島総合支所 岱明総合支所……改正する条例が施行により、天水総合支所、横島総合支所及び岱明総合支所の名称を天水支所、横島支所及び岱明支所に変更する。
- 山鹿市 鹿北総合支所 菊鹿総合支所 鹿本総合支所 鹿央総合支所……改正する条例が施行により、鹿北総合支所、菊鹿総合支所、鹿本総合支所及び鹿央総合支所の名称を鹿北市民センター、菊鹿市民センター、鹿本市民センター及び鹿央市民センターに変更する。
- 菊池市 泗水総合支所 七城総合支所 旭志総合支所……改正する条例が施行により、泗水総合支所、七城総合支所及び旭志総合支所の名称を泗水支所、七城支所及び旭志支所に変更する。
- 和水町 三加和総合支所……改正する条例が施行により、三加和総合支所の名称を三加和支所に変更する。
- 山都町 清和総合支所 蘇陽総合支所……改正する条例が施行により、清和総合支所及び蘇陽総合支所の名称を清和支所及び蘇陽支所に変更する。
- 大分県
- 宮崎県
- 鹿児島県
- 沖縄県
-
- 宮古島市 伊良部総合支所……平成21年4月に改正する条例が施行により、伊良部総合支所の名称を伊良部支所に変更する。改正する条例が施行により、伊良部支所を廃し、地方自治法第155条に基づく出張所である伊良部出張所を設置する。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 逐条地方自治法-長野士郎著-第10次改訂新版