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'''テーメノス'''({{lang-grc-short|'''Τήμενος'''}}, {{ラテン翻字||el|Tēmenos}}, {{lang-en|Temenus}})は、[[ギリシア神話]]に登場する人物である。[[長母音]]を省略して'''テメノス'''とも表記される。[[ヘーラクレイダイ]]の1人で、[[アリストマコス]]の息子。[[クレスポンテース]]、[[アリストデーモス]]と兄弟。[[ヘーラクレース]]の玄孫であり、ヘーラクレイダイ一族による[[ミュケーナイ]]への五度目の攻撃及び最終攻撃を指揮した。
'''テーメノス'''({{lang-grc-short|'''Τήμενος'''}}, {{ラテン翻字||el|Tēmenos}}, {{lang-en|Temenus}})は、[[ギリシア神話]]に登場する人物である。[[長母音]]を省略して'''テメノス'''とも表記される。[[ヘーラクレイダイ]]の1人で、[[アリストマコス]]の息子。[[クレスポンテース]]、[[アリストデーモス]]と兄弟。[[ヘーラクレース]]の玄孫であり、ヘーラクレイダイ一族による[[ミュケーナイ]]への五度目の攻撃及び最終攻撃を指揮した。


テーメノスの子供は異説が多く、娘[[ヒュルネートー]]のほかに[[アゲラーオス]]、エウリュビオス、カリアースという息子たちがいた<ref name=Ap_2_8_4>アポロドーロス、2巻8・4。</ref>。[[パウサニアス]]によればテーメノスの子は[[ケイソス]]、パルケース、ケリュネース、アガイオス<ref>パウサニアス、2巻28・3。</ref>、イストミオスである<ref>パウサニアス、4巻3・8。</ref>。[[エウリーピデース]]によれば[[アルケラーオス (ギリシア神話)|アルケラーオス]]という子もいた<ref>エウリーピデース『アルケラーオス』断片。</ref>。彼はまた[[フェイドン|ペイドン]]と[[カラノス (マケドニア王)|カラノス]]の父であり、カラノスは後に[[マケドニア王国]]の創設者となり、[[アルゲアス朝]]の始祖となった。[[紀元前356年]]に生まれた[[アレクサンドロス大王]]がヘーラクレースの血筋を主張するのも、テーメノスの子孫だからである。
テーメノスの子供は異説が多く、娘[[ヒュルネートー]]のほかに[[アゲラーオス]]、エウリュビオス、カリアースという息子たちがいた<ref name=Ap_2_8_4>アポロドーロス、2巻8・4。</ref>。[[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]によればテーメノスの子は[[ケイソス]]、パルケース、ケリュネース、アガイオス<ref>パウサニアス、2巻28・3。</ref>、イストミオスである<ref>パウサニアス、4巻3・8。</ref>。[[エウリーピデース]]によれば[[アルケラーオス (ギリシア神話)|アルケラーオス]]という子もいた<ref>エウリーピデース『アルケラーオス』断片。</ref>。彼はまた[[フェイドン|ペイドン]]と[[カラノス (マケドニア王)|カラノス]]の父であり、カラノスは後に[[マケドニア王国]]の創設者となり、[[アルゲアス朝]]の始祖となった。[[紀元前356年]]に生まれた[[アレクサンドロス大王]]がヘーラクレースの血筋を主張するのも、テーメノスの子孫だからである。


== 神話 ==
== 神話 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
* [[パウサニアス]]『ギリシア案内記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
* [[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]『ギリシア案内記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)


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2021年11月15日 (月) 11:02時点における版

テーメノス古希: Τήμενος, Tēmenos, 英語: Temenus)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してテメノスとも表記される。ヘーラクレイダイの1人で、アリストマコスの息子。クレスポンテースアリストデーモスと兄弟。ヘーラクレースの玄孫であり、ヘーラクレイダイ一族によるミュケーナイへの五度目の攻撃及び最終攻撃を指揮した。

テーメノスの子供は異説が多く、娘ヒュルネートーのほかにアゲラーオス、エウリュビオス、カリアースという息子たちがいた[1]パウサニアスによればテーメノスの子はケイソス、パルケース、ケリュネース、アガイオス[2]、イストミオスである[3]エウリーピデースによればアルケラーオスという子もいた[4]。彼はまたペイドンカラノスの父であり、カラノスは後にマケドニア王国の創設者となり、アルゲアス朝の始祖となった。紀元前356年に生まれたアレクサンドロス大王がヘーラクレースの血筋を主張するのも、テーメノスの子孫だからである。

神話

ペロポネソスへの帰還

テーメノス家の定住先。

ヘーラクレースの子孫であるヘーラクレイダイは、ミュケーナイ王エウリュステウスペロポネソスを追放されて久しく、その末裔であるテーメノスはペロポネソスへの帰還を使命としていた。テーメノス、アリストデーモス、クレスポンテースは帰還する術をデルポイの神託に伺った。ところが返ってきたのは、祖先らが授かった神託と同じものであった。祖先たちはその神託に従ったのに、未だにペロポネソスへの帰還を果たせていない。テーメノスは怒って「父祖は神の告げたとおりにしたのに行動したのに死んでしまったではないか、なぜ同じお告げなのか」と非難した。すると神託は、彼らが死んだのは神託を正しく理解できなかったためであり、3度の収穫の後とは、3世代(ヒュロスクレオダイオス、アリストマコス)の後という意味であり、狭き場所とは、コリントス地峡の西の細長い海(コリントス湾)のことであると告げた。そこでテーメノスはロクリス地方のナウパクトスで軍船を建造し海軍を組織した[5]

しかしナウパクトスにとどまっている間、ヘーラクレイダイに災難が降りかかった。彼らの前に神がかった予言者が現れて予言の言葉を叫んだが、ヘーラクレイダイは予言者をペロポネーソス側の人間の陰謀ではないかと疑って殺してしまった。すると建造した軍船はことごとく破壊され、兵も飢饉で離散してしまった。神託は災厄の原因は予言者の殺害にあり、殺害者を追放し、3つ眼の男を帰還の案内人とすることを告げた。そこでテーメノスはヒッポテースを追放し、3つ眼の男を探した。すると片眼の馬に乗ったオクシュロスに出会った。この男はゴルゲー(ヘーラクレースの妻デーイアネイラの姉妹)の子孫で、殺人の罪でエーリス地方に逃亡していた。テーメノスはオクシュロスが予言の男だと考え、ペロポネーソス半島へ案内を依頼した[6]

オクシュロスはコリントス地峡を通って陸路から帰還するのではなく、海を渡ってペロポネーソス半島に帰還することを勧め、海を渡るのに適したアイトーリアのモリュクリオンに案内した。ヘーラクレイダイはオクシュロスがエーリスを欲していることを知り、案内の返礼に、帰還を果たすことができたなら彼にエーリスを与えることを約束した[7]。その後、オクシュロスの案内でペロポネーソス半島に帰還を果たすと、当時のミュケーナイ王ティーサメノスオレステスヘルミオネの子)との戦いに勝利し、殺したとも[8]、追放したともいわれる。

後者の説によればヘーラクレイダイは、ラケダイモーンとアルゴスを支配していたティーサメノスと、メッセニア地方を支配していたネーレウスの子孫を追放したとされ、ティーサメノスはアカイア地方へ、ネーレウスの子孫はアテーナイへ去ったという[9]。その後、テーメノスと、アリストデーモスの2子プロクレース、エウリュステネース、そしてクレスポンテースはどの土地を得るかをくじを引いて決め、テーメノスはアルゴスを、プロクレースとエウリュステネースはラケダイモーンを、クレスポンテースはメッセニアを得た[10]

その後

アルゴスの王となったテーメノスは息子たちよりも娘ヒュルネートーの婿デーイポンテースを可愛がり重用した。息子たちはテーメノスが王位をデーイポンテースに譲るのではないかと疑い、テーメノスを暗殺した。しかし彼らは軍に反対されて王位を継承することができず、デーイポンテースがテーメノスの後を継いだといわれる[1]。パウサニアスによれば殺されたのはデーイポンテースと[11]ヒュルネートーであり[12]、テーメノスは王位を奪われた[11]。その後、アルゴスのヘーラクレイダイはケイソスの子メドーンから10代後に民衆たちによって王権を奪われた[13][14]

系譜

 
 
 
 
 
 
 
 
ヘーラクレース
 
デーイアネイラ
 
 
 
 
 
 
 
ポリュネイケース
 
アルゲイアー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イオレー
 
ヒュロス
 
グレーノス
 
クテーシッポス
 
オネイテース
 
マカリアー
 
テルサンドロス
 
デーモーナッサ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クレオダイオス
 
アリスタイクメー
 
エウアイクメー
 
トラシュアノール
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ティーサメノス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アリストマコス
 
レオーナッサ
 
 
 
 
 
アンティマコス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アウテシオーン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
テーメノス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クレスポンテース
 
アリストデーモス
 
アルゲイアー
 
テーラース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ケイソス
 
カラノス
 
ヒュルネートー
 
デーイポンテース
 
アイピュトス
 
プロクレース
 
エウリュステネース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メドーン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
グラウコス
 
ソオス
 
アギス
 
 
 


先代
ティーサメノス
アルゴス王(神話時代)
次代
デーイポンテース

その他のテーメノス

脚注

  1. ^ a b アポロドーロス、2巻8・4。
  2. ^ パウサニアス、2巻28・3。
  3. ^ パウサニアス、4巻3・8。
  4. ^ エウリーピデース『アルケラーオス』断片。
  5. ^ ア ポロド ーロス、2巻8・2。
  6. ^ アポロドーロス2巻8.3
  7. ^ パウサニアス5巻3.6
  8. ^ アポロドーロス2巻8.3
  9. ^ パウサニアス2巻18.9
  10. ^ アポロドーロス2巻8.4
  11. ^ a b パウサニアス、2巻19・1。
  12. ^ パウサニアス、2巻28・5。
  13. ^ パウサニアス、2巻19・1-2。
  14. ^ パウサニアス、2巻28・3-28・6。
  15. ^ パウサニアス、8巻22・2。
  16. ^ パウサニアス、8巻24・10。

参考文献