ティートーノス
ティートーノス(古希: Τιθωνός, Tīthōnos, ラテン語: Tithonus)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してティトノスとも表記される。
イーリオス王ラーオメドーンの子で、プリアモス、ラムポス、クリュティオス、ヒケターオーン、ヘーシオネー、キラ、アステュオケーと兄弟[1]。暁の女神エーオースの夫で、エーマティオーンとメムノーンの父[2][3]。一説にアッサラコスと兄弟[4]。
神話
[編集]女神との結婚
[編集]ティートーノスは美男子で、エーオースから熱烈に愛されたことで有名[5]。神話によるとエーオースは彼をさらってアイティオピアーに連れて行き、夫とした[3]。ホメーロスは、エーオースがティートーノスと眠るベッドから、毎朝、夜明けをもたらすために起き上がると詠っている[6][7][注釈 1]。このことからティートーノスはしばしばエーオースの夫と呼ばれ[5]、エーオースもまたティートーノスの妻と呼ばれた[9]。
シケリアのディオドーロスは、ティートーノスはアイティオピアーに遠征し、エーオースにメムノーンを生ませたと述べている[10]。
悲劇的結末
[編集]『ホメーロス風讃歌』によると、エーオースはゼウスに願い、ティートーノスを不死にしてもらった。ところが不老にしてもらうのを忘れたため、若々しい間は女神からの愛を享受していたが、老いが深まるとともにエーオースの足は遠のいて行った。それでも館の中で神々の飲食物で世話をしていたが、身体を動かすことが出来なくなったとき、ティートーノスを奥深い部屋に移して扉を閉ざし、2度と近づかなかった。しかしティートーノスは今も生きていて、その声は扉の向こうから聞こえてくるという[11]。別の話によると老いさらばえたティートーノスは最後には声だけの存在となり、エーオースによってセミの姿に変えられたとされる[12]。
なお、子供のうちエーマティオーンはヘーラクレースに殺された[13]。またメムノーンはトロイア戦争でアイティオピアー勢を率いて戦った英雄である[14][15]。
系図
[編集]ラーオメドーン | メロプス | ||||||||||||||||||||||||||||||||
ティートーノス | エーオース | プリアモス | アリスベー | ||||||||||||||||||||||||||||||
メムノーン | エーマティオーン | アイサコス | |||||||||||||||||||||||||||||||
その他のティートーノス
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ アポロドーロス、3巻12・3。
- ^ ヘーシオドス『神統記』984行-985行。
- ^ a b アポロドーロス、3巻12・4。
- ^ オウィディウス『祭暦』4巻943。
- ^ a b ヒュギーヌス、270話。
- ^ 『イーリアス』11巻1行。
- ^ 『オデュッセイア』5巻1行-2行。
- ^ 『祭暦』1巻461行)。
- ^ オウィディウス『祭暦』3巻403行。
- ^ シケリアのディオドロス、4巻75・4。
- ^ 『ホメーロス風讃歌』第5歌「アプロディーテー讃歌」220行-238行。
- ^ 『イーリアス』11巻1行への古註(カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 英雄の時代』邦訳、p.248)。
- ^ アポロドーロス、2巻5・11。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)5・3。
- ^ シケリアのディオドロス、2巻22・1-22・5。
- ^ アポロドーロス、3巻14・3。
参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- オウィディウス『祭暦』高橋宏幸、国文社(1994年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- ホメロス『イリアス(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 英雄の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)