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主文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

主文(しゅぶん)は、裁判の中で、結論を記載した部分をいう。

主文と内容

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主文
無罪判決 被告人は無罪。
有罪判決 被告人を○○に処する。(この裁判が確定した日から○年間その刑の執行を猶予する。)
原告敗訴判決 原告の請求を棄却する。
原告勝訴判決 被告は原告に対し、○○を支払え(引き渡せ etc)。
上訴審の棄却判決 本件控訴上告)を棄却する。
上訴審の破棄判決 原判決を破棄する。(原判決を次の通り変更する etc)。

民事訴訟

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民事訴訟終局判決においては、主文で訴えの却下、請求棄却あるいは請求認容が明らかにされなければならない。さらに、訴訟費用の負担(民事訴訟法67条)、控訴権濫用に対する制裁(民事訴訟法303条2項、及び仮執行宣言(民事訴訟法259条)に関する事項も主文に記載される。

既判力があるのは、主文の部分とされる(民事訴訟法114条1項)が、主文の解釈に必要である場合は、理由の参照が許され得る。既判力類似の効力を、主文を超えて理由にまで拡張しようとする争点効という理論があるが、判例では認められていない(最高裁判決昭和44年6月24日判例時報569号48頁)。

刑事訴訟

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刑事訴訟の終局判決においては、主文で刑の言渡し無罪の免除、免訴公訴棄却あるいは管轄違いが明らかにされなければならない。さらに、刑の執行猶予保護観察没収押収物還付、罰金等の仮納付、訴訟費用の負担などが必要な場合には主文に記載される。

刑事訴訟における既判力は、認定された犯罪事実又は審判の対象となった犯罪事実と公訴事実において同一と考えられる範囲に及ぶのであって、主文のみで決することはできない。

裁判官が刑事事件の判決を朗読する際、通常は主文を先に言い渡し、続いて判決理由を読み上げる[1]。一方で死刑判決の場合は判決理由を先に言い渡し主文を後回しにすることが多く、一般的には主文後回しといわれている[2]。これは、死刑判決において冒頭で主文を言い渡すと、被告人が動揺してその後の判決理由を聞かなくなるため、判決理由を被告人によく聞かせるためとされている[3][4]。このような慣例は遅くとも1965年(昭和40年)ごろには存在していたとされる[5]。このため、判決公判の冒頭に主文朗読がなされずにまず判決理由の説明が行われることは、裁判の当事者や報道機関などが「死刑の可能性が非常に高い」と判断する材料ともなっている。

ただし、刑事訴訟法上は判決の主文と判決理由を読み上げる順番については明確な規定があるわけではない[3]。そのため、裁判官によっては、死刑判決でも冒頭で主文を言い渡したり、逆に死刑以外の判決で主文を後回しにしたりする例も存在する[6]

また、2009年5月、音楽プロデューサー小室哲哉著作権譲渡に関する詐欺事件において、極めて異例ともいえる主文後回しによる判決理由の説明が行われた。同月21日から始まる予定の裁判員制度の評議では、まず、有罪か無罪かの判断をした上で量刑を決めることになっており、裁判員制度を意識したものとみられている[7]。ただし、この著作権譲渡に関する詐欺事件を担当した杉田宗久元判事は執行猶予でも主文後回しにすることが多い[8]

死刑判決の冒頭主文朗読の例

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以下、第一審で死刑判決が言い渡されたか、控訴審で死刑以外(無期懲役など)の原判決を破棄自判して死刑が言い渡された事例を列挙する。控訴審で死刑の原判決を支持し、被告人の控訴棄却する判決が言い渡された事例では、主文が冒頭で言い渡された事例(北海道庁爆破事件[9]富山・長野連続女性誘拐殺人事件[10]大牟田4人殺害事件[注 1][11]など)と、後回しにされた事例(北九州市病院長殺害事件[12]市川一家4人殺害事件[13]石巻3人殺傷事件[14]など)の双方が存在する。

無期刑以下の刑の判決の主文後回しの例

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共犯者との同時審理で共犯者が死刑判決を言い渡された事例は含まない。

求刑死刑
求刑無期刑
求刑有期刑

無罪判決の主文後回しの例

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  • 神戸市北区5人殺傷事件:第一審判決(無罪) - 2021年(令和3年)11月4日[117]神戸地裁第1刑事部[118](飯島健太郎裁判長:裁判員裁判)[119]
    • 検察官は「被告人は事件当時、心神耗弱状態だった」として無期懲役を求刑していたが、神戸地裁は「犯行には妄想による圧倒的な影響があった」という精神鑑定の結果を採用し、「事件当時、被告人は心神喪失状態だった疑いがある」として、無罪を言い渡した[119]

脚注

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注釈

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  1. ^ 大牟田4人殺害事件の控訴審判決 - 2007年(平成19年)12月25日、福岡高裁(正木勝彦裁判長)は、加害者一家4人(いずれも2011年に死刑確定)のうち、母親と次男に言い渡されていた原判決(第一審・福岡地裁久留米支部の判決)を支持し、両被告人からなされていた控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した[11]。被告人の1人である次男は判決後、退廷間際に「メリークリスマス!」と絶叫した[11]
  2. ^ 被告人(農業:北津軽郡中里町在住、判決時点で29歳)は、農機具買い入れや賭博などで約135万円の借金を抱えたことから、1960年(昭和35年)12月8日、北津軽郡武田村の農協事務室へ強盗に押し入ったが、金庫をこじ開けられず、宿直員を殺してから開けようとして、寝ていた会計係の男性(当時29歳)をハンマーで撲殺し、隣で寝ていた販売員の男性(同26歳)も包丁で刺して重傷を負わせたものの、金品は得られなかった[15]強盗殺人および同未遂事件で、判決文は『刑事裁判資料』第193号681頁に収録されている[16]。なお、この死刑判決は青森地裁弘前支部が初めて、求刑通り死刑を言い渡した事例であるが[17]、被告人は1965年(昭和40年)1月19日仙台高裁秋田支部で無期懲役(原判決を破棄自判)の判決を受け、確定している[16]
  3. ^ 1964年2月27日、千葉県船橋市高根町の民家で高齢夫婦(夫66歳・妻59歳)が男3人組(うち1人は被害者夫婦の縁戚)にタオルで絞殺された事件[18]。千葉地裁で3人に死刑判決が言い渡された事例はこれが初めてである[19]
  4. ^ 裁判部および裁判長名の出典[21]。冒頭で主文が宣告されたことの出典[20]
  5. ^ 木村は死刑確定後の1995年、インパクト出版会から著書『本当の自分を生きたい。死刑囚・木村修治の手記』を出版している[25]
  6. ^ 1987年(昭和62年)1月4日新潟県新潟市上木戸(現:新潟市東区上木戸)で元愛人一家6人を襲って2人(元愛人の女性とその義母)を刺殺し、元愛人の子供3人にも怪我を負わせた[32]。新潟地裁で言い渡された死刑判決は、1966年に言い渡された新潟デザイナー誘拐殺人事件の第一審判決以来22年ぶりだったが[33]、東京高裁(近藤和義裁判長)は1991年(平成3年)10月22日に原判決(第一審の死刑判決)を破棄して無期懲役判決を言い渡した[34]。その後も量刑不当を理由に最高裁へ上告したが、1993年(平成5年)3月31日までに最高裁第三小法廷園部逸夫裁判長)から上告を棄却する決定を受け、無期懲役が確定した[35]
  7. ^ 廣田は第一審で死刑判決を受けた後、実名で『噂の眞相』に「毎日を先陣としたマスコミ報道陣は「赤報隊」に射殺されよ!」と題した手記を寄稿している[37]
  8. ^ 裁判長を務めた上田は同日時点で既に定年退官していたため、中西武夫裁判官が代読した[42][41]
  9. ^ 1992年(平成4年)7月10日に岡山県赤磐郡山陽町桜が丘西六丁目で会社社長の男が拳銃を乱射し、4人が死傷(3人が死亡)した[46]。刑事裁判では被告人の責任能力が争点となり、第一審で2回、控訴審(広島高裁岡山支部)で1回の計3回にわたり被告人の精神鑑定が実施された[47]。結局、第一審の審理は、初公判(1992年10月10日)から[48]、結審まで41回(6年4か月)を要する長期裁判となったが[49]、岡山地裁は「心神耗弱に近い状態」(保崎秀夫慶應義塾大学名誉教授)と「意識障害があったとは認められない」(斉藤正彦東京大学講師)との2回の精神鑑定結果を踏まえ、斉藤鑑定を採用して「心神喪失や心神耗弱状態にはなかった」と判断した上で、被告人の無反省な態度や、被害者感情などから死刑を選択した[50]。しかし、被告人は控訴中の2002年(平成14年)2月18日に死亡したため[51]、本事件は同高裁支部(片岡安夫裁判長)により公訴棄却の決定が出された[52]。なお第一審判決は当時、岡山地裁管内では37年ぶりとなる死刑判決だった[50]
  10. ^ 2009年(平成21年)5月30日[62]自宅アパート(神奈川県川崎市幸区中幸町一丁目)[63]の隣室などで、男性(当時71歳)を刺殺したほか、物音で駆けつけた男性の妻(当時68歳)と大家(男性の兄・当時73歳)を殺害した[62]。判決後(2011年6月29日)に弁護団が東京高裁へ控訴したが[64]、同年7月4日に被告人が自ら控訴を取り下げ、死刑が確定(裁判員裁判では2件目の死刑確定事件)[65]2015年12月18日東京拘置所で死刑執行(法務大臣岩城光英 / 裁判員裁判で死刑を言い渡され、刑が確定した死刑囚の刑執行は初)[66]
  11. ^ 同事件は控訴審・東京高裁第6刑事部(大熊一之裁判長)で[71]2019年12月5日に「犯行時、被告人は心神耗弱状態だった」として原判決破棄・無期懲役の判決が言い渡され[72]東京高検上告を断念[73]。2020年9月9日付で最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)が被告人の上告を棄却する決定を出し[74]、無期懲役が確定[75]
  12. ^ 被害者のうち1人は殺人罪を適用。
  13. ^ 家令和典裁判官の担当部は、横浜地裁第1刑事部(合議係)である(2021年9月時点)[103]
  14. ^ 金沢地裁は「本来死刑を選択すべき事案であるが、被告人は犯行時17歳の少年であったため、18歳未満への死刑適用を禁じ、代わりに無期懲役を課することを義務付ける少年法第51条1項が適用される」としている[111]

出典

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  4. ^ 読売新聞社会部『ドキュメント弁護士』中央公論、2000年、56頁。 
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      • 裁判官:川合昌幸(裁判長)・畑口泰成・渡邊英夫
      • 判決主文:被告人を死刑に処する。押収してある出刃包丁1丁(平成14年押第2号の2)及び文化包丁1丁(同号の3)を没収する。
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      • 裁判官:大熊一之(裁判長)・浅香竜太・小野寺健太
      • 判決主文:原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する。原審における未決勾留日数中500日をその刑に算入する。(弁護人が上告、検察官は上告せず)
        • 検察官:亀卦川健一(公判出席、および控訴趣意書への答弁書を作成)
        • 弁護人:原琢己(主任弁護人)・佐藤健太(いずれも控訴趣意書を作成)
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    『判例時報』第2416号98頁

    【事案の概要】ペルー共和国国籍の被告人が、金品欲しさに次々と3世帯の民家に侵入して、家人合計6名を殺害し、うち4名の死体を隠匿したとされた住居侵入強盗殺人死体遺棄被告事件において、各犯行当時、被告人は精神障害の圧倒的な影響により各犯行に及んだ者ではなく、精神障害の影響はあったにせよ、個々の具体的な犯行の決意、実行場面においては、残された正常な精神機能に基づく自己の判断として、他にも選択可能な手段があったのに、犯罪になると分かっていながらあえて各犯行に及んだものと認められるから、精神障害の影響により、被告人の害悪の判断能力や行動制御能力が著しく劣った状態にもなかったと認めるのが相当であると示し、したがって、被告人は、各犯行当時、心神喪失や心神耗弱の状態になかったものと認められるから、完全責任能力を有していたと認められるなどとして、被告人を死刑に処するとした事例(裁判員裁判)。

    TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25560015

    【要旨】

    1. 被告人は犯行当時統合失調症に罹患し被害妄想が存在しておりその内容が一定程度拡がっていたことが認められるが、命令性の幻聴のような自らの行動を支配する精神症状は認められず、各犯行の動機は、精神障害による病的体験の存在を介さずとも了解可能なものであり、被告人が有していた精神症状としての妄想が各犯行の犯意の形成に影響を与えた可能性はあるものの、各犯行が統合失調症による病的体験によって直接支配されたとはいえないから、被告人は、本件犯行当時、心神喪失や心神耗弱の状態にはなく、完全責任能力を有していたと認められる
    2. 本件は金品欲しさに次々と3世帯の民家に侵入して家人合計6名を殺害し、4名の死体を隠匿したという強盗殺人等の事案であり、強固な意志に基づく残虐な犯行態様、結果の重大性、犯行動機につき、被告人の精神症状としての妄想が一定の影響を与えていることは否定できないものの、その影響は限定的で意思決定に対する非難を大きく減ずる事情とまではいえないことなどに照らし、被告人の刑事責任は極めて重く、前科がないことなど被告人に有利な事情を考慮し慎重に検討しても死刑に処するのが相当である。
      • 裁判官(裁判員裁判):佐々木直人(裁判長)・四宮知彦・片山嘉恵
      • 判決主文:被告人を死刑に処する。(被告人および弁護人は控訴)
        • 検察官:秦智子・田原昭彦・芦沢和貴・川添達郎
        • 国選弁護人:村木一郎(主任)・神尾尊礼・中原潤一
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    • 裁判所:東京高等裁判所第2刑事部
      • 裁判官:神田忠治(裁判長)・小出錞一・飯田喜信
    • 事件名:みのしろ金目的誘拐、拐取者みのしろ金要求、殺人、死体遺棄被告事件
    • 事件番号:平成7年(う)第576号
    • 判決宣告日:1996年(平成8年)4月16日
    • 判決内容:本件各控訴を棄却する。当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
    • 検察官:松本二三雄(控訴趣意書を作成)、亀井冨士雄(弁護人の控訴趣意書に対する答弁書を作成)
    • 弁護人:関二三雄(控訴趣意書と、検察官の控訴趣意書に対する答弁書を作成)
    • 原判決:甲府地裁[平成5年(わ)第266号]、1995年(平成7年)3月9日判決
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  92. ^ 「かつて強姦致傷等などの事件を起こした被告人が、被害者が警察に届け出たために逮捕されたとして逆恨みし、刑期を終えて出所後、被害者を探し出した上、包丁で刺殺し、その直後所持品を盗んだという事案において、無期懲役刑が言い渡された事例」『判例時報』第1686号、判例時報、1999年11月11日、156-162頁、doi:10.11501/2795699NDLJP:2795699  - JT女性社員逆恨み殺人事件の第一審判決。
    • 裁判所:東京地方裁判所刑事第5部
      • 裁判官:山室惠(裁判長)・伊藤寿・矢野直邦
    • 事件名:殺人、窃盗被告事件
    • 事件番号:平成9年合(わ)第133号
    • 判決宣告日:1999年(平成11年)5月27日
    • 判決主文:被告人を無期懲役に処する。押収してある包丁一丁(平成九年押第一五七九号の1)を没収する。
    • 検察官:千葉守、澤田康広(求刑:死刑)
    • 弁護人:石川弘(国選)
  93. ^ 「強姦致傷事件などを警察に届け出たことを逆恨みして、服役後に被害者を捜し出したうえ殺害したという事案において、無期懲役刑とした第一審判決を破棄して死刑を言い渡した事例」『判例時報』第1705号、判例時報、2000年5月21日、173-178頁、doi:10.11501/2795718NDLJP:2795718  - JT女性社員逆恨み殺人事件の控訴審判決。
    • 裁判所:東京高等裁判所第3刑事部
    • 事件名:殺人、窃盗被告事件
    • 事件番号:平成11年(う)第1202号
    • 判決宣告日:2000年(平成12年)2月28日
    • 判決主文:原判決を破棄する。被告人を死刑に処する。押収してある包丁一丁(東京高等裁判所平成一一年押第三一四号の1)を没収する。
    • 検察官:齊田國太郎(控訴趣意書を作成)、小高雅夫(公判出席)
    • 弁護人:石川弘(控訴趣意書に対する答弁書を作成)
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    • 判決主文:被告人を無期懲役に処する。未決勾留日数中190日を右刑に算入する。
    • 裁判官:渡邉了造(裁判長)・向野剛・上田洋幸
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参考文献

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関連項目

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