略語
略語(りゃくご、英: abbreviation)とは、ある語の一部を何らかの方法で省略または簡略した形で、なお元の意味を保っているもの[1]。広義では、頭字語をも指す。類似する概念に、省略語(しょうりゃくご)・短縮語(たんしゅくご)がある。地名・人名・団体名その他の固有名詞の正式名称について略したものは、略称(りゃくしょう)という[2][3]。
略語が作られる主な理由は、発話や筆記、あるいは機械を使った音声や文字の入力、そして通信および印刷などを行う際に、語形の長さからくる煩わしさを回避するためである。他に、仲間以外に知られないようにするために作られる隠語的な略語もある[2][4]。
略語の形態
[編集]日本語
[編集]日本語の略語:
- 和語・漢語の略語[注 1]
- 外来語ないし和製英語の略語[注 2]
- カタカナ略語 - カタカナ表記による語が何らかの方法で簡略化したもの
- 単一語
- 複合語
- 前省略型(例:ヒットエンドラン→エンドラン)
- 中省略型(例:ルポルタージュライター→ルポライター)
- 後省略型(例:コンビニエンスストア→コンビニ、デパートメントストア→デパート)
- 頭字語型(例:エンジンストール→エンスト、パーソナルコンピュータ→パソコン)
- 文字による略語(例:パシフィック・リーグ→パ・リーグ)
- ローマ字略語 - ローマ字表記のまま簡略に出来ているもの。後述する外国語の頭字語の中には、日本語の一部として定着したものもある。(例:Parent-Teacher Association→PTA)
- カタカナ略語 - カタカナ表記による語が何らかの方法で簡略化したもの
- 異言語の混成(混種語)による略語(例:空+オーケストラ→カラオケ)
国語学者の森岡健二によれば、日本語(和語・漢語)の略語全体に目立つ特徴は、その大部分が固有名詞か、専門用語か、あるいは俗語・隠語の仲間であるということである[7]。また、外来語のカタカナ略語は、原語の形態素に沿って忠実に簡略化したものでなく、原語の形態を無視した符号的な性格をもつところに特色があるという[8]。日本語の略語は、外来語由来のものも含めて、ふつう4拍以内に収まることが多い[2]。
アルファベットを使用する言語
[編集]アルファベットを使用する言語の略語(英語を例に)[注 3]:
- 頭字による省略(頭字語)
- アクロニム - 複合語を構成する各単語の頭文字だけを並べた語で、略語を通常の単語と同じように発音するもの[注 4](例:National Aeronautics and Space Administration→NASA→ナサ、Radio Detecting and Ranging→radar→レーダー)
- イニシャリズム - 複合語を構成する各単語の頭文字だけを並べた語で、略語のアルファベットを一字ずつ発音するもの[注 4](例:Federal Bureau of Investigation→FBI→エフ・ビー・アイ、United States of America→USA→ユー・エス・エー)
- 切り捨てによる省略(端折り語、クリッピング)- 単語を短縮して表現する方法
- 混成による省略(ブレンド)
- ラテン語由来の古典的な略語(例:confer→cf., exempli gratia→e.g., et cetera→etc.)
中国語
[編集]- 縮略 - 語の一部を省略したもの
- 簡称 - 名称を簡略化したもの(例:中国作家協会→作協、北京大学→北大、中国中央电视台→央视)
- 語頭連結型 - ABXY→AXの形(例:法律制度→法制、公共衛生→公衛)
- 語頭語尾連結型 - ABXY→AYの形(例:公共道徳→公徳、節約用水→節水)
- 語尾語頭連結型 - ABXY→BXの形(例:人民警察→民警、教授徒弟→授徒)
- 語尾連結型 - ABXY→BYの形(例:結婚年齢→婚齢、教師学生→師生)
- 語の省略型
- 前項語の省略 - ABXY→XYの形(例:国際公制→公制、工作母機→母機)
- 後項語の省略 - ABXY→ABの形(例:華氏温度→華氏、通信連絡→通信)
- 語順の転倒型 - ABXY→XBまたはXAの形(例:審閲校訂→校閲、船舶租賃→租船)
- 統括 - 複数の語の共通の意味をもつ音節を取り出し、それらの語の数を冠したもの(例:徳育、智育、体育→三育)
- 代称 - 省略という方法ではなく、他の語で置き換えるもの(例:上海→滬、広州→穗)
中国語の略語について、『略語手冊』(李熙宗・孫蓮芬 編、1986年、知識出版社)には二字漢語による合成語とその縮略型、語順の転倒型が2438語収録されているが、前述した縮略型略語の中では語頭連結型が36.5%を占めており、語頭(A・X)の省略は一般に少ない[11]。特に、前項語の語頭(A)が省略されている略語は22.4%にすぎないのに対して、語尾(B)が省略されている語は77.5%もある[12]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 松村明『日本文法大辞典』明治書院
- ^ a b c 平凡社『世界大百科事典』改訂新版 p.607【略語】林大執筆項より。
- ^ 「略語」『小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2023年1月8日閲覧。
- ^ 「略語」『世界大百科事典 第2版』 。コトバンクより2023年1月8日閲覧。
- ^ 森岡 (1988).
- ^ 田辺 (1988).
- ^ 森岡 (1988), p. 8.
- ^ 森岡 (1988), p. 11.
- ^ 花本金吾 (2015年12月16日). “新語リポート 第3回 略語とその種類①”. オーレックス英和辞典・和英辞典 [O-LEX]. 旺文社. 2023年1月8日閲覧。
- ^ 竹中 (1988).
- ^ 李 & 孙 1988, p. [要ページ番号].
- ^ 竹中 (1988), p. 26.
参考文献
[編集]- 図書
- (中国語) 略语手册 - Lüeyu shouce. 百科手册:语文 / 倪海曙主编. 李熙宗・孙莲芬 編 (1st ed.). 上海: 知识出版社. (1986-7)
- 論文
- 森岡健二「略語の条件」『日本語学』第7巻第10号、明治書院、1988年10月、4-12頁。
- 田辺洋二「外来語の略語:カタカナ語とローマ字語」『日本語学』第7巻第10号、明治書院、1988年10月、13-21頁。
- 竹中憲一「中国語の略語」『日本語学』第7巻第10号、明治書院、1988年10月、22-29頁。
この記事で示されている出典について、該当する記述が具体的にその文献の何ページあるいはどの章節にあるのか、特定が求められています。 |
- 菅野謙「洋語の略語形」『日本語学』第4巻第9号、明治書院、1985年9月、54-64頁。
- 蜂矢真郷「古語の略語」『日本語学』第7巻第10号、明治書院、1988年10月、30-37頁。
- 吉村弓子「漢語の略語」『日本語学』第7巻第10号、明治書院、1988年10月、38-42頁。
- 石野博史「略語の造語法」『日本語学』第12巻第10号、明治書院、1993年9月、57-64頁。
- 岡田祥平「インターネット上に観察される略語:ツイッターと「質問サイト」を対象とした研究の可能性」『日本語学』第34巻第2号、明治書院、2015年2月、4-16頁、CRID 1521136279857799168。
- クドヤーロワ・タチアーナ「現代新聞における略語使用の変動傾向」『計量国語学』第28巻第3号、計量国語学会、2011年12月20日、79-93頁、doi:10.24701/mathling.28.3_79。
- 中川秀太「漢語・外来語の略語」『日本語学』第34巻第2号、明治書院、2015年2月、30-42頁、CRID 1520854805510068864。
- 岩佐義樹「平成の新聞と略語:「セクハラ」を中心に」『日本語学』第37巻第10号、明治書院、2018年9月、46-56頁。