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般若経

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

般若経(はんにゃきょう、:Prajñāpāramitā sūtra, プラジュニャーパーラミター・スートラ)は、大乗仏教経典の中でも特に般若波羅蜜(般若波羅蜜多)を強調して説く経典群の総称[1][2]

一般にを説く経典とされているが、同時に呪術的な面も色濃く持っており[3]密教経典群への橋渡しとしての役割を無視することはできない。

歴史

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最も早く成立した最初の大乗仏教経典群とされる[4]。紀元前後ころから1世紀の半ばころまでに成立したと考えられている『八千頌般若経』が最も古く基本的なものとされるが[4]、その後数百年に渡って様々な「般若経」が編纂され、また増広が繰り返された。

中国では下記するように各時代ごとに経典が持ち込まれ翻訳がなされてきたが、玄奘西域から関連経典群を持ち帰って漢訳し、集大成したとされるのが『大般若波羅蜜多経』600余巻(660-663年)であり、これはあらゆる経典中最大のものである[4]

内容

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如幻論

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般若経では一般的に、全ての(現象)は、幻(māyā)、夢(svapna)、蜃気楼(gandharvapura)のようなものであると述べられている[5]金剛般若経では以下の様に説かれる。

一切有為法 如夢幻泡影 / 如露亦如電 応作如是観

一切の有為法は、夢・幻・泡・影の如し。
の如くまた電の如し。応(まさ)に是(か)くの如き観を作(な)すべし。

即非の論理

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金剛般若経』では「A は A ではない、したがってAである」という形式の文章が使われる。中村元は、この否定を「即非の論理」と呼んでいる[7]。たとえば金剛般若経で以下のように述べられる。

須菩提。所言一切法者。即非一切法。是故名一切法。
須菩提よ、一切法と言う所は、即ち一切法に非(あら)ず。これゆえ一切法と名づく。

主な般若経典

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Prajñāpāramitā ジャワ島, インドネシア.
  • 八千頌般若経』 (はっせんじゅはんにゃきょう、: Aṣṭasāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra
アシュタサーハスリカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
  • 紀元前後1世紀ころ成立し大乗仏教初期に編纂され後の仏教発展の基礎となったと考えられている。
現存サンスクリット本に対応する残存する漢訳は、『道行般若経』支婁迦讖訳(179年)、『(小品)摩訶般若波羅蜜経』鳩摩羅什訳(408年)、のほか計4本である。
  • ネパールでは九法宝典(Navagrantha)の一つとされている[8]
  • 二万五千頌般若経』 (にまんごせんじゅはんにゃきょう、: Pañcaviṃśatisāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra
パンチャヴィンシャティサーハスリカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
  • 十万頌般若経』 (じゅうまんじゅはんにゃきょう、: Śatasāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra
シャタサーハスリカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
  • 現存サンスクリット本に対応する漢訳はないため、鳩摩羅什(344年 - 413年)の時代には編纂されていなかった可能性がある。
  • 金剛般若経』 (こんごうはんにゃきょう、金剛般若波羅蜜多経、: Vajracchedikā-prajñāpāramitā Sūtra
ヴァジュラッチェーディカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
  • その長さから「三百頌般若経」とも呼ばれる[10]
  • この経は「空」を説く般若教典の中で「空」という用語が使われていないため最古層に編纂されたものであるとする意見もある。
  • 漢訳は、玄奘『大般若経』「第九 能断金剛分」(660年-663年)や、『能断金剛般若波羅蜜多経』義浄703年)ほか計6本(7本)あるが、鳩摩羅什訳の『金剛般若波羅蜜経』(402年)が主に使用されている[11][12]
  • 般若心経』 (はんにゃしんぎょう、(仏説・摩訶)般若波羅蜜多心経、: Prajñāpāramitā Hṛdaya
プラジュニャーパーラミター・フリダヤ)
  • 「二十五頌」から成る最短の般若経典。最古のサンスクリット本が法隆寺に伝わる。(7~8世紀の写本とされている)
  • 残存する漢訳は、『摩訶般若波羅蜜大明咒経』鳩摩羅什訳(402年 - 413年)、『般若波羅蜜多心経』玄奘訳(649年)があり、こののちも4本残存するが、玄奘訳が広く用いられている。
  • 大般若波羅蜜多経』 (だいはんにゃはらみったきょう、大般若経)
    • 玄奘西域から関連経典を持ち帰って漢訳し、集大成したとされる。16会600巻。
    • 『第一会』(第1-400巻)は、『十万頌般若経』の類本とされるが、その対応は明確でない。
    • 『第二会』(第401巻-第478巻)は、『二万五千頌般若経』に相当する。
    • 『第四会』(第538巻-第555巻)及び『第五会』(第556巻-第565巻)は、『八千頌般若経』に相当する。
    • 『第九会 能断金剛分』(第577巻)は、『金剛般若経』に相当する。
    • 『第十会 般若理趣分』(第578巻)は、真言宗で重用する『理趣経』即ち『大楽金剛不空真実三摩耶経 般若波羅蜜多理趣品』不空訳(720年 - 774年)と比較的近いサンスクリット本の翻訳とされている。
    • 『第十六会 般若波羅蜜多分』(第593巻-第600巻)は、登場する菩薩の名に因んで『善勇猛般若経』(ぜんゆうみょうはんにゃきょう)として知られる。

日本語訳

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脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ 「般若経」- デジタル大辞泉、小学館。
  2. ^ 「般若経典」- ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、Britannica Japan
  3. ^ 平川 1971, pp. 587–589.
  4. ^ a b c 般若経』 - コトバンク
  5. ^ Williams, Paul; Mahayana Buddhism, the doctrinal foundations, pages 52.
  6. ^ 金剛般若経」『SAT大正新脩大藏經テキストデータベース』、東京大学大学院人文社会系研究科、No.0235, 0748c27、2018年https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT2015/T0235_..0748c27:0748c27.cit 
  7. ^ Nagatomo 2000, pp. 213, 238.
  8. ^ 藤谷厚生, 「金光明経の教学史的展開について (PDF) 」『四天王寺国際仏教大学紀要』 平成16年度 大学院 第4号 人文社会学部 第39号 短期大学部 第47号, p.1-28(p14), NAID 110006337539
  9. ^ 出三蔵記集卷十『大智論記』
  10. ^ 『大乗仏典 般若部経典 1』 長尾雅人・戸崎宏正訳 中公文庫 p326
  11. ^ 「世界大百科事典 第2版」2006年 平凡社
  12. ^ チベット語訳 『金剛般若経』 と 『法華経』 について 庄司 史生 p38

参考文献

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  • Nagatomo, Shigenori (November 2000). “The Logic of the Diamond Sutra: A is not A, therefore it is A”. Asian Philosophy 10 (3): 213–244. doi:10.1080/09552360020011277. 
  • 平川彰「般若経と六波羅蜜経」『印度學佛教學研究』第19巻第2号、日本印度学仏教学会、1971年、584-592頁、doi:10.4259/ibk.19.584 

関連項目

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