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{{Infobox medical intervention
{{出典の明記|date=2019年7月}}
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[[File:Infuuszakjes.jpg|right|thumb|200px|<div style="text-align:center;">点滴装置</div>]]
| image = ICU IV 1.jpg
[[File:Intravenous_charge_up.jpg|thumb|200px|点滴]]
| caption = 静脈ライン([[静脈路]])から[[ボーラス投与|ボーラス注射]]を受けている。
'''点滴静脈注射'''(てんてきじょうみゃくちゅうしゃ、[[英語]]:intravenous drip, '''DIV''', '''IVD''')とは、ボトルやバッグに入れて吊した[[薬剤]]を、[[静脈]]内に留置した[[注射器|注射針]]から少量ずつ(一滴ずつ)投与する方法で、経静脈投与(静脈[[注射]]、静注と略すことがある)の一種である。単に'''点滴'''とも称される。また、そのための[[医療機器]]である点滴装置も「点滴」と呼ばれることがある。{{see also|[[輸液]]}}
| synonyms = 点滴
| alt = Photo of a person being administered fluid through an intravenous line or {{仮リンク|cannula|en|cannula|label=cannula}} in the arm
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}}
'''静脈注射'''(じょうみゃくちゅうしゃ、{{Lang-en-short|intravenous injection}}、英略語: '''IV'''<ref>{{Cite web |title=用語集:公益社団法人日本化学療法学会 |url=https://www.chemotherapy.or.jp/modules/glossary/?ao%5B2%5D=0&sf%5B2%5D=4&sq%5B2%5D=I |website=www.chemotherapy.or.jp |access-date=2023-11-23}}</ref>)は、[[静脈]]に直接水分や薬物、栄養素等を投与する医療技術である。[[意識レベル]]の低下などにより、{{仮リンク|経口|en|per os|label=経口(英: per os、英略語: p.o.)|redirect=1}}で食物や水を摂取できない、あるいは摂取しようとしない人への水分・栄養補給に用いられる[[投与経路]]のひとつである。また、[[血液製剤]]や[[電解質異常]]を是正するための[[電解質]]など、薬物投与やその他の治療にも使用される。投与速度や投与機器により、速い順にポンピング、ボーラス注射(単に注射とも)、点滴静脈注射、持続注入に分類される。本稿では、静脈注射に関わる事物について概説する。


== 目的 ==
== 概要 ==
静脈内投与は、薬剤や{{仮リンク|補液|en|fluid replacement|redirect=1}}が[[循環系]]に直接導入され、速やかに全身に行き渡るため、最も早く投与できる方法である。従って、[[外傷]]や[[手術]]時の出血に対する、[[輸液]]や[[輸血]]の投与経路に適している。また、一部の{{仮リンク|レクリエーショナルドラッグ|en|recreational drug use|redirect=1}}の摂取にも静脈内投与が用いられている。多くの治療薬は"[[ボーラス投与]]"すなわち1回で急速投与されるが、持続注入([[シリンジポンプ]]による)または点滴(自然滴下又は[[輸液ポンプ]]による)として投与されることもある。薬剤を静脈内に投与する行為、または後で使用するために静脈ラインを留置する行為は、[[医療従事者]]のみが行うべき手技である。最も単純な[[静脈路確保|静脈路]]は、[[注射針]]で[[皮膚]]を貫通させて静脈に入れ、[[注射器]]または点滴セットに接続するというものである。これを用いて目的の治療を行う。注射針では静脈に外傷が生じる危険性があるため、患者が短期間に何度もこのような治療を受ける可能性がある場合は、一方の端を静脈内に入れる[[カテーテル]]を挿入し、もう一方の端にチューブを接続してその後の治療を容易に行うことができる。この一繋がりのチューブを点滴セット、ないしは輸液セットと呼ぶ。これを用いるのが一般的な静脈内投与方法である。場合によっては、同じ点滴セットを通して複数の薬剤や治療介入を行うこともある。点滴セットの中間には三方活栓と呼ばれる切り替えバルブがあり、そこから薬剤を注入したり、他の点滴セットを連結できる。
* [[輸液]]・[[輸血]]を行う。
** 容量がおおよそ50 mLを超える注射製剤は点滴静注で投与される。
* 緩やかに、徐々に薬剤を投与する。
** 時間をかけてゆっくり投与することで、血中薬剤濃度の急激な上昇を抑え、副作用を回避する。一部の薬剤では致死的な不整脈([[塩化カリウム]]や[[リドカイン]]などで起きる)や[[アナフィラキシー・ショック]]を起こすことがあり、必ず点滴静注を行わなければならない。
* 持続的に薬剤を投与する。
** 持続的に薬剤を投与することで、[[薬理作用]]を保った血中濃度を維持することができる。


[[カテーテル]]の終点が心臓に近い太い静脈であれば「[[中心静脈ライン]]」、腕など末梢の細い静脈であれば「[[末梢静脈カテーテル|末梢静脈ライン]]」に分類される。[[カテーテル]]は末梢静脈から心臓の近くまで通すこともでき、これは{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|label=|redirect=1}}または略称でPICCラインと呼ばれる。長期的な点滴治療が必要な場合は、静脈に何度も穴を開けなくても静脈に何度も簡単にアクセスできるように、[[ポート (医療)|ポート]]を埋め込むこともある。また、[[カテーテル]]を胸部から距離の離れた[[内頸静脈|首の静脈]]や[[鎖骨下静脈|鎖骨の下の静脈]]に挿入することもあり、これは皮下トンネルという。使用する[[カテーテル]]の具体的な種類と挿入部位は、投与したい物質と挿入希望部位の静脈の健康状態に左右される。
== 手技 ==
=== 点滴装置 ===
点滴装置は、[[ガラス]][[瓶]]あるいは[[合成樹脂]]製バッグに無菌充填された薬液と、患者の静脈に刺入される注射針が、「点滴ライン」あるいは「点滴セット」と称される専用のチューブで繋がれたものより成る(組み立てる順番は後述する)。


静脈への[[カテーテル]]の挿入は、必然的に皮膚に穴を開けることになるため、痛みを伴うことがある。感染症や炎症([[静脈炎]]と呼ばれる)も、一般的な副作用である。静脈炎は、同じ静脈を繰り返し静脈注射に使用する場合に起こりやすく、最終的には静脈が注射に適さない硬い索状物になることもある。静脈外への治療薬の意図しない投与は、点滴漏れと呼ばれ、他の副作用を引き起こすことがある。
静脈であっても相応の[[血圧]]が存在するので、圧力をかけるため薬液は重力差を使って高い位置に吊す必要がある。点滴ラインの途中には「チャンバー」と呼ばれる太くなった箇所があり、ここに薬液が滴下される(「点滴」という呼称はここから来ている)。これにより薬液中の微小な気泡が除去されると共に、時間当たりの注入量(=注入速度)を測ることができる。


静脈注射の試みは、1400年代にはすでに記録されていたが、広く行われるようになったのは、安全で効果的な使用法が開発された1950年代になってからであった。1900年代初頭に、静脈からの輸液や薬剤の注射による治療効果が確かめられ、1950年代に[[カテーテル]]の血管内留置手技と必要な器材が確立された。静脈内カテーテルは有効な医学的治療手段であり続けたが、[[カテーテル]]の刺入部や三方活栓は細菌の増殖・侵入経路でもある。従って、近年は三方活栓そのものや三方活栓のフタを廃した感染リスクの低い点滴セット(クローズドシステム)が用いられるようになってきている。
注入速度は「ローラークレンメ」という[[ころ]]状の部品でチューブを圧迫し、狭窄させることによって調節するが、正確な管理が要求される場合は[[輸液ポンプ]]が用いられる。点滴ではないが、微量の薬剤を持続的に投与する方法としては、[[注射器]]を少しずつ押す[[シリンジポンプ]]も用いられる。急速に薬剤を注入するときは、加圧バッグで薬液を圧迫する方法も採られる(野外での応急手当で設備が存在しない環境の場合、手で押す)。
{{TOC limit|3}}


==器材==
=== 注射針・カテーテル ===
<gallery>
; 翼状針
ファイル:Hypodermic needle with needle cap 2.jpeg|[[注射針]]と先端キャップ、先端の拡大写真。
: 一時的かつ短時間の点滴静注には'''翼状針'''(翼付静脈針)が用いられる。注射針の両脇に体表に固定しやすくするための翼([[ポリ塩化ビニル]]製)が付いている。容器・点滴ライン・翼状針を全て組み立てて中に薬液を通してから針を刺す。
ファイル:IV Catheters 15.jpg|[[末梢静脈カテーテル]]。左端から太い順に16ゲージ、18ゲージ、20ゲージ、22ゲージ、24ゲージとなる。薄く柔軟なカテーテルの中に金属針が格納されている。血管穿刺時は金属針とカテーテルが共に血管内に送り込まれ、金属針は抜去される。
; 留置針
</gallery>
: 持続的に点滴静注を行う場合には、'''留置針'''(金属製の注射針に[[テフロン]]ないし[[ポリウレタン]]製の柔らかい外筒を付けたもので、血管に刺入後に金属の針を抜くと外筒のみが留置される)を用い、これを留置した後で容器+点滴ラインを接続する。点滴静注終了後に留置針を残す場合は、閉塞を防ぐために[[ヘパリン]]([[抗凝固薬]])希釈液で点滴ルートを満たす[[ヘパリンロック]]が行われている。また、ヘパリンの代わりに生理食塩液で満たす[[生食ロック]]も汎用されている。
; 中心静脈カテーテル
: 中心静脈から点滴静注を行う場合は、専用のカテーテルを留置する。'''中心静脈カテーテル'''は長さ30 - 70 cm程度の細い管で、静脈内に持続的に留置するため表面がコーティングされている。複数の内腔をもつカテーテルもあり(ダブルルーメンカテーテルなど)、混注不可能な薬剤を同時に投与するために用いられる。また皮下埋込式リザーバを用いるとカテーテル一式を完全に体内に埋め込むことが可能で、外来[[化学療法]]などに利用されている。


== 静脈路 ==
=== 注射針 ===
留置針やカテーテルによって確保された静脈内への薬剤投与経路を、静脈路(静脈ルート)という。静脈路は即効性を期待する投与経路として重要だが、[[血圧]]の急に下がるような緊急時にはむしろ確保が難しくなる(末梢の静脈が虚脱するため)。そのため、ルートが[[血栓]]で閉塞しないことだけを目的に少量の輸液を持続して行ったり、ヘパリンロックを行う場合もある。


[[静脈路確保]]の最も単純な方法は、[[注射針]]を皮膚から直接[[静脈]]に刺す方法である。この針に注射器を直接接続することで、「[[ボーラス投与]]」、すなわち、薬剤の単回急速投与が可能になる。あるいは、[[末梢静脈カテーテル|カテーテルを留置]]してからチューブに接続し、点滴を行うこともできる{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。 静脈路の種類と場所(すなわち、[[中心静脈カテーテル|中心ライン]]か[[末梢静脈カテーテル|末梢ライン]]か、どの静脈にラインを留置するか)は、末梢静脈への循環を制限する末梢血管収縮を引き起こす薬剤であるかどうかによって影響を受ける<ref>{{Cite journal |last1=Raehl |first1=CL |name-list-style=vanc |title=Endotracheal drug therapy in cardiopulmonary resuscitation. |journal=Clinical Pharmacy |date=July 1986 |volume=5 |issue=7 |pages=572–9 |pmid=3527527}}</ref>。
=== 末梢静脈路 ===
腕や脚などの皮下を走る[[静脈]]に留置するルート。手軽に確保できるため頻用されるが、[[浸透圧]]の高い輸液を行うと血管炎を起こしてしまうため、高カロリー輸液には適さない(末梢静脈路から投与できる[[ブドウ糖]]液の濃度は、高浸透圧による血管障害のため10%程度が上限とされている)。末梢静脈から行う栄養はPPN(Peripheral Parenteral Nutrition)と呼ばれる。


=== カテーテル・カニューレ ===
=== 中心静脈路 ===
[[ファイル:Intravenous_attempt.jpg|右|サムネイル|18ゲージ[[末梢静脈カテーテル]]を挿入する[[看護師]]。[[上腕]]は[[駆血帯]]で縛って静脈を浮き出させている。]]
[[上大静脈]]または[[下大静脈]]に留置するルート。これらは体内で最も太く血液量が多い静脈であり、中心静脈 (central vein; CV) と称される。高濃度の薬剤を投与することが可能であり、また血管外への逸脱を起こしにくく確実性の高い投与経路である。その特長を生かして[[高カロリー輸液]] (TPN:Total Parenteral Nutrition) や、血管炎をきたしやすい薬剤(一部の[[抗がん剤]]など)の投与に用いられる。またカテーテルを通して中心静脈の血圧(中心静脈圧)を測定することが可能であり、[[体液]]量の増減や鬱血性[[心不全]]の程度を把握するのに役立つ。
金属製の針ではなく、合成樹脂製の柔らかい[[カテーテル]](又は{{仮リンク|カニューレ|en|cannula|redirect=1}}とも呼ばれる)も良く用いられる。[[末梢静脈カテーテル]]は、[[病院|病院内]]、[[病院前救護|プレホスピタルケア]]、および外来診療で利用される最も一般的な静脈アクセス法である{{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。カニューレは腕、一般的には手首または{{仮リンク|肘正中静脈|en|median cubital vein|redirect=1}}に留置する{{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。[[駆血帯]]は、手足の静脈からの血液流出を制限し、静脈を膨らませて、静脈の位置を確認しやすくし、静脈にラインを留置しやすくするために使用される{{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。駆血帯を使用する場合は、薬剤の注入前に駆血帯を外し、{{仮リンク|血管外漏出|en|Extravasation (intravenous)|redirect=1}}を防ぐ。カテーテルの皮膚の外側に残る部分は接続ハブと呼ばれ、[[注射器]]や点滴セット(後述)と接続したり、ヘパリン添加生理食塩水または単なる生理食塩水で「'''ロック'''」される{{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。ロックとは、カテーテルを使用しない間に、カテーテル内での血液凝固によるカテーテル閉塞を防ぐために、上述の輸液をカテーテル内で陽圧充填した状態でカテーテルに「フタ」をしておくものである{{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。ポート付きカテーテルは上部に注入ポートがあり、しばしば薬剤の投与に使用される {{Sfn|Kowalak|2009|pp=349-354 }}。


針とカテーテルの太さ、大きさの規格には、[[バーミンガムワイヤーゲージ|バーミンガム・ゲージ]]と[[フレンチ (医学)|フレンチ・ゲージ]]がある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=188-191,349}}。バーミンガムゲージの14は相当太いカテーテル(心肺蘇生用)であり、24~26は最小である{{Sfn|Kowalak|2009|pp=188-191,349}}。最も一般的なサイズは、16ゲージ([[献血]]や[[輸血]]に使用される中型ライン)、18ゲージおよび20ゲージ(輸液や採血用の汎用ライン)、22ゲージ(小児用の汎用ライン)である{{Sfn|Kowalak|2009|pp=188-191,349}}。12~14ゲージの末梢ラインは、大量の輸液を迅速に行うことができるため、[[救急医療]]で人気がある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=188-191,349}}。これらのラインは、しばしば「大径(large bore)」または「外傷ライン(trauma line)」と呼ばれる{{Sfn|Kowalak|2009|pp=188-191,349}}。
中心静脈カテーテルは[[大腿静脈]]、[[内頚静脈]]、[[鎖骨下静脈]]などから挿入し、中心静脈に留置される。手技はやや煩雑で、[[合併症]]の危険を伴う(後述)。また、中心静脈ルートが[[細菌]]等に感染した場合、致死的な[[敗血症]]の原因となることがある。[[正中静脈]]から挿入するキット(PICC; Peripherally inserted central catheter)も存在する。
[[ファイル:Injection 23.JPG|サムネイル|翼状針]]


== 合併症 ==
=== 翼状針 ===
'''翼状針'''(よくじょうしん)は注射針と薬液投与用のチューブが一体となったものである<ref name=":1">{{Cite web |title=翼状針 – 輸液製剤協議会 |url=https://www.yueki.com/faq/word40/index.html |website=www.yueki.com |access-date=2023-10-07}}</ref>{{Sfn|Kowalak|2009|p=342}}。金属針を体内に留置するため、点滴漏れが起こりやすく{{Sfn|Kowalak|2009|p=350}}、長時間の留置には不向きだが、短時間の処置に用いられている<ref name=":1" />。採血専用の製品もある<ref>{{Cite web |title=翼状針 |url=http://nikkenkyo.or.jp/shinjuku/first/yokuzyoushin |website=日本健康管理協会 |access-date=2023-10-07 |language=ja}}</ref>。
=== 共通 ===
; カテーテル感染
: 共通して抱えているのが[[感染]]である。薬剤の調製や注入の際に混入した病原体が、プラスティックのルートに付着し繁殖する。末梢静脈では[[静脈炎]]が、中心静脈ではカテーテル熱と呼ばれる断続的な高熱が出現する。感染が疑われる場合には速やかにカテーテルを抜去する。ヘパリンロックに使う希釈液を病棟でまとめて調製し、使用都度ごとに注射器に取る使用法において、希釈液の汚染によりカテーテル感染が起こるとの報告がある。


=== 点滴セット ===
;電解質異常
[[ファイル:Infuuszakjes.jpg|サムネイル|輸液に接続された点滴セット。輸液バッグに接続する針からカテーテルに接続する部分まで加工・滅菌済みの製品が用いられている<ref>{{Cite web |url=https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_t_03211_000_000_2011_j_ed10_ch.pdf |title=JIS 滅菌ずみ輸液セット |access-date=2023-12-08 |author=日本規格協会}}</ref>。{{仮リンク|ドリップチャンバー|en|Drip chamber|redirect=1}}は輸液の袋の下部にあり、輸液の滴下を確認できるようになっているk。]]
:輸液製剤の選択や、点滴量の決定への誤りの結果、不適切な輸液製剤の選択、および量の計算の誤り、そもそも点滴を要しないにもかかわらず、過量の点滴を行ったことにより生じる。
輸液容器と、カテーテルとの間を繋ぐ器材を点滴セット(又は輸液セット)と呼ぶ<ref>{{Cite web |title=輸液セット – 輸液製剤協議会 |url=https://www.yueki.com/faq/words02/index.html |website=www.yueki.com |access-date=2023-12-07}}</ref>。薬液ボトルに刺入される針と、[[合成樹脂|合成樹脂製]]のチューブ、[[末梢静脈カテーテル|留置針]]に接続するためのコネクタが一体となっている<ref>{{Cite journal|和書|author=脇屋義文, 梅村雅之 |date=2021-12 |url=https://agu.repo.nii.ac.jp/records/3461 |title=〈総説〉輸液療法時における薬剤師の役割 |journal=愛知学院大学薬学会誌 |ISSN=1882-9511 |publisher=愛知学院大学薬学会 |volume=14 |pages=1-8 |CRID=1050853487343983488}}</ref>。輸液や留置針に接続する際は、感染を防ぐために、[[無菌操作]]が要求される<ref>{{Cite web |title=無菌操作を厳重に行うのはなぜ?|点滴静脈内注射 {{!}} 看護roo![カンゴルー] |url=https://www.kango-roo.com/learning/5456/ |website=看護roo! |date=2020-09-26 |access-date=2023-10-07}}</ref>。輸液のための点滴ラインの設置および管理に使用される機器は、通常、患者の身長より高い位置に吊るされた輸液バッグと、薬剤を投与するための滅菌チューブの点滴セットで構成されている{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。基本的な "自然滴下"点滴では、バッグを人の背丈より高い位置に吊るし、静脈に刺した針に取り付けたチューブを通して薬液を重力で滴下するだけである{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。追加の装置がなければ、投与速度を正確に制御することはできない。このため、流量を調節するための[[クランプ]]を組み込んだ点滴セットもある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。点滴セットには、「{{仮リンク|Y管 (点滴)|en|Y-Set (intravenous therapy)|label=Y管|redirect=1}}」と呼ばれる、同じラインを通して他の輸液を投与できるパーツ(側管とも呼ばれる)が組み込まれている場合もある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。[[空気塞栓]]の原因となる空気の血流への流入を防ぎ、滴下流量を視覚的に推定できる{{仮リンク|ドリップチャンバー|en|drip chamber|redirect=1}}を採用しているシステムもある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。点滴セットは60滴で1mlのものと20滴で1mlのものと2種類の規格が存在し、前者や一般に小児用、後者は成人用と呼称される<ref name=":13" />。


=== 末梢静脈路 ===
=== 三方活栓 ===
[[ファイル:Intravenous_therapy_2007-SEP-13-Singapore.JPG|サムネイル|点滴チューブに接続された三方活栓(蓋付き)。]]
; 静脈炎
点滴セットの途中からは他の薬剤を投与したり、別の点滴セットを接続するための開口部(ポート)が存在するが、非使用時は切り替えバルブで開口部が閉鎖されるようになっている<ref name=":13" />。この部分を'''三方活栓'''という<ref name=":13" />。医療現場では略語の'''三活'''が用いられることもある<ref>{{Cite web |title=「側管からivするときの三活の向きは?」輸液管理に欠かせない三方活栓が一目でわかる!【看護師はやの勉強ノート】vol.13|レバウェル看護 お役立ち情報 |url=https://kango-oshigoto.jp/media/article/16817/ |website=レバウェル看護 お役立ち情報 |access-date=2023-05-22 |language=ja}}</ref>。さらに開口部に汚染防止のためのフタがついていることもあるが、フタと三方活栓との間隙が清掃困難であるために、むしろ汚染しやすいとされ<ref>{{Cite journal|和書|author=近藤真紀 |year=2000 |title=三方活栓の注入口が直接的な血流感染因子となるのかについての検討 : 高濃度の菌液注入後の三方活栓の培養実験結果からの考察 |url=https://doi.org/10.11550/jsei1986.15.316 |journal=環境感染 |ISSN=09183337 |publisher=日本環境感染学会 |volume=15 |issue=4 |pages=316-324 |doi=10.11550/jsei1986.15.316 |CRID=1390001204438106368}}</ref>、フタや三方活栓そのものが撤廃されて注入用のポートのみを有する点滴セットが主流となりつつある<ref>{{Cite web |title=中心静脈カテーテルの管理について知りたい。|レバウェル看護 技術Q&A(旧ハテナース) |url=https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/944/ |website=看護師の技術Q&A |access-date=2023-10-07}}</ref>。
: 末梢静脈では高浸透圧の濃い[[輸液]]などで血管痛が生じ、ひいては[[血管炎]]に至る。
; 血管外漏出
: 血管への穿刺が不確実な場合や血管壁が脆弱な場合、薬液が血管外に漏れるいわゆる「点滴漏れ」が起こる。穿刺部周囲に[[浮腫]]を生じ、痛みを伴う。組織障害性の強い[[造影剤]]や[[化学療法]]剤が漏出した場合は[[壊死]]を起こす事もある。


=== 中心静脈路 ===
===側管===
輸液と同時に静脈内投与する追加の薬剤は、点滴キットに三方活栓から接続することができる。これは'''側管'''と呼ばれる<ref>{{Cite web |url=https://www.pmda.go.jp/files/000209346.pdf |title=三方活栓の取扱い時の注意について |access-date=2023-10-03 |publisher=医薬品医療機器総合機構}}</ref>。主管の輸液は、側管の輸液をチューブから洗い流すために必要である<ref name="CCM2010" />。ボーラス輸液または側管の輸液を主管の輸液と同じラインで投与する場合は、溶液の配合の適合性を考慮する必要がある<ref name="CCM2010" />。この配合の適合性の問題は「'''配合変化'''」と呼ばれ<ref>{{Cite web |title=注射薬における配合変化の影響 {{!}} 2020年 {{!}} 記事一覧 {{!}} 医学界新聞 {{!}} 医学書院 |url=https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2020/PA03397_05 |website=www.igaku-shoin.co.jp |access-date=2023-10-03 |language=ja}}</ref>、配合を回避すべき場合は「'''配合禁忌'''」と呼ばれる<ref>{{Cite web |title=配合禁忌(はいごうきんき)とは? 意味や使い方 |url=https://kotobank.jp/word/%E9%85%8D%E5%90%88%E7%A6%81%E5%BF%8C-598714 |website=コトバンク |access-date=2023-10-03 |language=ja |first=精選版 |last=日本国語大辞典,デジタル大辞泉,日本大百科全書(ニッポニカ),百科事典マイペディア,世界大百科事典内言及}}</ref>。配合禁忌は、分子安定性の問題、溶解度の変化、または一方の薬剤の分解によって生じる可能性がある<ref name="CCM2010" />
; 誤穿刺
===輸液ポンプ/シリンジポンプ===
: カテーテルを挿入する際に体腔に誤穿刺する。鎖骨下静脈の穿刺では[[気胸]]を生じることがある。誤挿入したまま薬液を注入して、[[胸腔]]や[[腹腔]]・[[後腹膜]]腔に薬液貯留をきたす事もある。[[動脈]]を誤穿刺したあと[[血腫]]を生じ[[気管]]や[[食道]]を圧迫して[[呼吸困難]]になることもある。通常は入れないが右房までカテーテルを挿入しカテ先が貫いて[[心タンポナーデ]]になったり、[[洞結節]]などを刺激して[[不整脈]]を生じる事もある。どんなに上手な人がやっても一定の確率で合併症は起こり得る。
<gallery>
; カテーテル切断
ファイル:EDK Pump 1.jpg|リンク=|輸液ポンプ。点滴セットが組み込まれている。
: カテーテルを引き千切った場合、カテーテルが心臓やその他の血管内に閉塞してしまう事があり、[[手術]]や[[血管内治療]]で取り出す必要がある。中心静脈圧は正常で10 cm水柱圧あるので、また[[サイフォン|サイフォンの原理]]もあり、カテーテルの切断部から[[失血]]する事故も報告されている。
ファイル:Injectomat1.JPG|リンク=|[[シリンジポンプ]]。[[注射器]]が組み込まれている。時間あたり流量(ml/h)を小数点一桁の単位まで設定できる。
ファイル:Syringe drivers.JPG|リンク=|シリンジポンプ。多種の薬剤投与が必要な場合は専用のラックに懸架して使用される。
</gallery>[[輸液ポンプ]]や[[シリンジポンプ]]を使用すると、流量と総輸液量を正確に制御することができる{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。輸液ポンプは、投与する輸液の数と大きさに基づいてプログラムされ、点滴が空にならないように、すべての薬液が完全に投与されるようにする{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。輸液ポンプは主に、一定の流量が重要な場合、または投与速度の変化が臨床上、[[有意]]な結果を生じる場合に利用される{{Sfn|Kowalak|2009|pp=316-321, 344-348}}。 シリンジポンプは薬剤注入精度が非常に高い<ref name=":02">{{Cite journal|last=吉田浩二|last2=福崎誠|date=2015|title=シリンジポンプの使用条件が注入量に及ぼす影響の検証|url=https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502253237393737|journal=日本職業・災害医学会会誌|volume=63|issue=1|pages=31–35|language=ja|issn=1345-2592}}</ref>。[[集中治療室]]などの高度医療において必要不可欠の機器である<ref name=":02" />。
{{Main|輸液ポンプ|シリンジポンプ}}


==薬剤、輸液の投与方法の速度による分類==
[[ファイル:MAG-40 Corpsman gain unique trauma experience through local UK hospital DVIDS230742.jpg|サムネイル|輸液や輸液の急速注入に用いられるレベル1<sup>TM</sup>急速注入システム。]]

=== ポンピング ===
外傷や手術などで発生する大量の出血による[[循環血液量減少]]を補うため、三方活栓に接続した注射器で輸液や輸血を点滴セットから吸引し、それを患者方向に押し込む操作を繰り返すことで、高速で輸液、輸血を行う[[手技]]である<ref>{{Cite journal|last=Kawakami|first=Yutaka|last2=Tagami|first2=Takashi|date=2021-07-29|title=Pumping infusions with a syringe may cause contamination of the fluid in the syringe|url=https://www.nature.com/articles/s41598-021-94740-1|journal=Scientific Reports|volume=11|issue=1|pages=15421|language=en|doi=10.1038/s41598-021-94740-1|issn=2045-2322}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=蓑輪尭久, 権守直紀, 浅井明倫, 稲田麗, 近藤明日香, 松本卓也, 福本正俊, 中野浩 |date=2013 |url=https://doi.org/10.3918/jsicm.20.102 |title=用手ポンピングにおける90度法と180度法の効率比較 |journal=日本集中治療医学会雑誌 |ISSN=1340-7988 |publisher=日本集中治療医学会 |volume=20 |issue=1 |pages=102-103 |doi=10.3918/jsicm.20.102 |CRID=1390282679420568832}}</ref>。点滴回路の最も細い部分である[[留置針]]や[[カテーテル]]が律速部分となるため、大量出血のリスクがある患者では、これらは太いものであるのが望ましい<ref>{{Cite web |url=https://www.nature.com/articles/s41598-021-94740-1 |title=術中心停止に対するプラクティカルガイド |access-date=2023-11-23 |publisher=[[日本麻酔科学会]]}}</ref>。三方活栓や注射器による操作を介さずに器械によって高速で輸液や輸血を行う方法もあり、これは急速注入(Rapid Infusion)と呼ばれる<ref>{{Cite web |title=Rapid Infusion System - an overview {{!}} ScienceDirect Topics |url=https://www.sciencedirect.com/topics/nursing-and-health-professions/rapid-infusion-system |website=www.sciencedirect.com |access-date=2023-12-09}}</ref>。注入の流速はカテーテルの半径の4乗と圧較差の積に比例し、カテーテル長と輸液の粘性に反比例する<ref name=":19">{{Cite web |url=https://static1.squarespace.com/static/5e6d5df1ff954d5b7b139463/t/62c8552d55bd7f4253b506b7/1657296173583/ICU_OnePager_Hemorrhagic_Shock_v11.pdf |title=APPROACH TO HEMORRHAGIC SHOCK |access-date=2024-11-26 |publisher=Nick Mark MD}}</ref>。22ゲージ、1.16インチの[[留置針]]では1mの点滴高さでの流速は36mL/分だが、8.5Fr、10cmの[[シースイントロデューサー]]では130mL/分に達する<ref name=":19" />。

===ボーラス===
{{Main|ボーラス投与}}
一部の薬剤は[[ボーラス投与|ボーラス]]投与が可能で、これは「ワンショット」とも呼ばれる<ref>{{Cite web |title=静脈注射【ナース専科】 |url=https://medical-term.nurse-senka.jp/terms/1412 |website=ナース専科 |access-date=2023-10-03 |last=SMS}}</ref>。薬剤を入れたシリンジを静脈ラインの三方活栓に接続し、薬剤を投与する<ref name="CCM2010">{{Cite journal|last1=Kanji|first1=Salmaan|last2=Lam|first2=Jason|last3=Johanson|first3=Christel|last4=Singh|first4=Avinder|last5=Goddard|first5=Rob|last6=Fairbairn|first6=Jennifer|last7=Lloyd|first7=Tammy|last8=Monsour|first8=Danny|last9=Kakal|first9=Juzer|date=September 2010|title=Systematic review of physical and chemical compatibility of commonly used medications administered by continuous infusion in intensive care units|journal=Critical Care Medicine|volume=38|issue=9|pages=1890–1898|doi=10.1097/CCM.0b013e3181e8adcc|pmid=20562698|display-authors=6|name-list-style=vanc|s2cid=205539703}}</ref>。ボーラスは、急速に投与することもあれば(注射器の[[注射桿]]を素早く押し込む)、数分かけてゆっくりと投与することもある<ref name=CCM2010 />。正確な投与手技は、薬剤やその他の要因によって異なる<ref name=CCM2010 />。場合によっては、ボーラスの直後に「プレーン」の輸液(すなわち、薬剤を添加していない輸液)を投与して、薬剤をさらに点滴の中で推し進めて血流に送り込む。この処置は「[[フラッシュ]]」と呼ばれる{{Efn|例: [[心肺蘇生]]時の[[アドレナリン]]投与直後の[[生理食塩水]]ボーラス投与<ref>{{Cite web |url=http://chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2919.pdf |title=心停止の救急で使う薬 |access-date=2023-11-23 |publisher=中外医学社}}</ref>
}}<ref name=":16" />。フラッシュに生理食塩水を用いる場合は{{仮リンク|生食フラッシュ|en|Saline flush|redirect=1}}と呼ばれる<ref name=":16">{{Cite journal|和書|author=大森 智史|year=2023|title=薬語図鑑-基礎薬学用語を現場で使える知識に訳してみました 第2部 臨床現場で見聞きする用語編 71 フラッシュ・ロック -フラッシュやロックに用いるのは生食? ヘパリン?|url=https://doi.org/10.15104/ph.2023040129|journal=薬局|volume=74|page=268|doi=10.15104/ph.2023040129}}</ref>。[[塩化カリウム]]など一部の薬剤は、血中濃度の急上昇に伴う毒性が高いため、ボーラスでは投与できない<ref name="CCM2010" />。

=== 点滴静脈注射 ===
比較的量の多い、薬液、栄養剤、輸血などを長時間かけて、一滴ずつ静脈内に投与する方法である<ref name=":5">{{Cite web |title=点滴注射(てんてきちゅうしゃ)とは? 意味や使い方 |url=https://kotobank.jp/word/%E7%82%B9%E6%BB%B4%E6%B3%A8%E5%B0%84-578547 |website=コトバンク |access-date=2023-11-22 |language=ja |first=精選版 |last=日本国語大辞典,デジタル大辞泉,日本大百科全書(ニッポニカ),世界大百科事典内言及}}</ref>。略称として点滴静注、点滴注入、点滴など<ref name=":5" />。英略語は'''DIV'''<ref>{{Cite web |title=ヒポクラ × マイナビ |url=https://hpcr.jp/topic/plus/jargon/DIV |website=ヒポクラ × マイナビ |access-date=2023-12-10 |language=ja |last=エクスメディオ}}</ref>。点滴という言葉は元来は水滴の意味として、1533年頃に[[杜牧]]の「夜雨詩」で用いられている<ref name=":15">{{Cite web |title=点滴(てんてき)とは? 意味や使い方 |url=https://kotobank.jp/word/%E7%82%B9%E6%BB%B4-578545 |website=コトバンク |access-date=2023-12-10 |language=ja |first=精選版 日本国語大辞典,デジタル大辞泉,百科事典マイペディア,普及版 |last=字通,世界大百科事典内言及}}</ref>。1872年の「医語類聚〈[[奥山虎章]]〉」で、「Instillation 点滴法」とあるが、これは[[蘭学]]系の訳語である可能性が高いとされる<ref name=":15" />。

点滴は、[[βラクタム系]]を含む一部の[[抗生物質]]のように、薬剤の血中濃度を長期にわたって一定に保つことが望ましい場合に行われることがある<ref name="Dhaese" />。血中薬物濃度の変動(すなわち、[[ピーク値|ピーク薬物濃度]]と[[トラフ値|トラフ薬物濃度]]の変動)を抑制するために、前の輸液が終了した直後に次の輸液を開始することもある<ref name="Dhaese">{{Cite journal |last1=Dhaese |first1=Sofie |last2=Heffernan |first2=Aaron |last3=Liu |first3=David |last4=Abdul-Aziz |first4=Mohd Hafiz |last5=Stove |first5=Veronique |last6=Tam |first6=Vincent H. |last7=Lipman |first7=Jeffrey |last8=Roberts |first8=Jason A. |last9=De Waele |first9=Jan J. | display-authors=6 | name-list-style=vanc |title=Prolonged Versus Intermittent Infusion of β-Lactam Antibiotics: A Systematic Review and Meta-Regression of Bacterial Killing in Preclinical Infection Models |journal=Clinical Pharmacokinetics |date=25 July 2020 |volume=59 |issue=10 |pages=1237–1250 |doi=10.1007/s40262-020-00919-6|pmid=32710435 |s2cid=220732187 }}</ref>。また、[[利尿薬]][[フロセミド]]のように、同じ理由で間欠的なボーラス注射の代わりに点滴投与が行われることもある<ref>{{Cite journal |last1=Chan |first1=Jeffrey Shi Kai |last2=Kot |first2=Thompson KA Ming |last3=Ng |first3=Marcus |last4=Harky |first4=Amer | name-list-style=vanc |title=Continuous Infusion Versus Intermittent Boluses of Furosemide in Acute Heart Failure: A Systematic Review and Meta-Analysis |journal=Journal of Cardiac Failure |date=November 2019 |volume=26 |issue=9 |pages=786–793 |doi=10.1016/j.cardfail.2019.11.013|pmid=31730917 |s2cid=208063606 }}</ref>。間欠的、すなわち一定時間おきの点滴は、長時間の薬液の安定性に懸念がある場合や、[[抗生物質]][[バンコマイシン]]など、同じ静脈ラインで同時に投与すると配合禁忌のある医薬品を投与できるようにする場合に行われることがある<ref name="EJDMP2018">{{Cite journal |last1=Elbarbry |first1=Fawzy | name-list-style=vanc |title=Vancomycin Dosing and Monitoring: Critical Evaluation of the Current Practice |journal=European Journal of Drug Metabolism and Pharmacokinetics |date=June 2018 |volume=43 |issue=3 |pages=259–268 |doi=10.1007/s13318-017-0456-4|pmid=29260505 |s2cid=13071392 }}</ref>。

=== 持続注入 ===
{{Main|シリンジポンプ}}
他の呼び名として、持続静注、持続静脈内投与、持続点滴など<ref name=":17">{{Cite web |title=CIV |url=https://allie.dbcls.jp/ |website=allie.dbcls.jp |access-date=2023-12-10 |language=en}}</ref>。Continuous Intravenous Infusionより、英略語は'''CIV'''<ref name=":17" />。1時間に数mlなど、微量の薬液を正確に投与できる機器、[[シリンジポンプ]]を用いる。新生児や未熟児で静脈注射が必要な場合、身体の大きさが小さいので持続注入が行われることが多い<ref>{{Cite web |title=はじめに |url=http://kcmc-nicu.net/ |website=神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト |access-date=2023-12-09}}</ref><ref>{{Cite web |title=第3回 小児の輸液管理|目的、穿刺部位、挿入部位の固定ポイント、注意点 |url=https://knowledge.nurse-senka.jp/500295 |website=ナース専科 |access-date=2023-12-09 |language=ja |last=SMS}}</ref>。[[カテコラミン]]など、作用が非常に強力で流量の厳密な制御が必要となる薬剤の投与にも頻用される<ref name=":11">{{Cite journal|和書|author=斉藤沙織, 城丸瑞恵 |year=2013 |url=https://doi.org/10.11240/jsem.16.551 |title=カテコラミン製剤のシリンジ交換に関する研究動向 |journal=日本臨床救急医学会雑誌 |ISSN=13450581 |publisher=日本臨床救急医学会 |volume=16 |issue=4 |pages=551-556 |doi=10.11240/jsem.16.551 |CRID=1390282680487979648}}</ref>。シリンジポンプによって投与される薬剤の中には短時間の中断でも生命維持に支障を来すものが多いため、薬液の補充・交換には熟練を要する<ref name=":11" />。

==静脈アクセスの種類==
{{Seealso|静脈路確保}}
注射針やカテーテルを留置する静脈は末梢静脈と中心静脈に大別されるが、末梢ラインのように数日しか留置されないものから、ポートやトンネル型カテーテルのように年単位で留置<ref>{{Cite web |title=[2] Broviacカテーテル,Hickmanカテーテル {{!}} ニュートリー株式会社 |url=https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch9-2/keyword2/ |website=www.nutri.co.jp |access-date=2023-11-23 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=[3] 完全皮下埋め込み式カテーテル(CVポート) {{!}} ニュートリー株式会社 |url=https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch9-2/keyword3/ |website=www.nutri.co.jp |access-date=2023-11-23 |language=ja}}</ref>されるものまで様々である。
===末梢ライン===
[[ファイル:Pediatric patients receiving chemotherapy.jpg|thumb|left|小児では、手、足、または{{仮リンク|肘窩|en|antecubital fossa|redirect=1}}に[[静脈路確保]]を行う際に四肢を固定するためにアームボードを使用することが推奨される<ref>{{Cite book |title=Roberts and Hedges' Clinical Procedures in Emergency Medicine E-Book | first1 = James R. | last1 = Roberts | first2 = Jerris R. | last2 = Hedges | name-list-style = vanc |edition=6th |publisher=Elsevier Health Sciences |year=2013 |isbn=9781455748594 | url = https://books.google.com/books?id=slyLreFkHuIC&pg=PA349 | page = 349 }}</ref>。]]
{{Main|末梢静脈カテーテル}}末梢静脈カテーテルは、腕、手、足などの[[末梢静脈]]に挿入する{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。この方法で投与された薬剤は、静脈を通って心臓に到達し、そこから循環系を通じて全身に行き渡る。末梢静脈の太さにより、安全に投与できる薬剤の量と速度が制限される<ref name="PICChist">{{Cite journal |last1=Rivera |first1=AM |last2=Strauss |first2=KW |last3=van Zundert |first3=A |last4=Mortier |first4=E | name-list-style=vanc |title=The history of peripheral intravenous catheters: how little plastic tubes revolutionized medicine. |journal=Acta Anaesthesiologica Belgica |date=2005 |volume=56 |issue=3 |pages=271–82 |pmid=16265830}}</ref>。末梢ラインは、皮膚から{{仮リンク|末梢静脈|en|peripheral vein|redirect=1}}に挿入される短い[[カテーテル]]で構成される{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。これは通常、金属製の{{仮リンク|トロカール|en|trocar|label=内針|redirect=1}}に柔軟なプラスチック製の{{仮リンク|カニューレ|en|cannula|label=外筒|redirect=1}}が被さった形状である{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。外筒と内針の先端を合わせたら、両者を静脈内の適切な位置まで進め、固定する。その後、内針を引き抜いて廃棄する{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。最初の外筒挿入後、そこから直接採血することもある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348}}。

[[ファイル:Blausen 0181 Catheter CentralVenousAccessDevice NonTunneled.png|thumb|非トンネル型中心静脈カテーテルの図解|alt=Labelled computer-drawn illustration of parts of an inserted non-tunneled central intravenous line]]

===中心静脈ライン===
{{Main|中心静脈カテーテル}}
中心静脈ラインは、カテーテルがより太い中枢側の静脈(胴体内の静脈)、通常は[[上大静脈]]、[[下大静脈]]、または心臓の[[右心房]]に挿入される[[静脈アクセス]]である<ref name="Marino's" />。中心静脈アクセスにはいくつかのタイプがあり、カテーテルが体外からいわゆる[[中心静脈]]に到達する経路に基づいて分類される<ref name="Marino's">{{Cite book|和書 |last1=Marino |first1=Paul L. |name-list-style=vanc |title=Marino's the ICU book |year=2014 |chapter=2. Central Venous Access |publisher=LWW |location=Philadelphia |isbn=978-1451121186 |edition=Fourth |pages=17-22 }}</ref>。中心静脈カテーテルからは、大量輸液、高張液、血管障害性の薬剤、高カロリー輸液などを投与することができる{{Sfn|Kowalak|2009|p=342}}。

=== PICCライン ===
{{Main|{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|label=|redirect=1}}}}
{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|label=末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter)|redirect=1}}(PICCライン、ピックラインとも呼ばれる)は、中心静脈カテーテルの一種であり、[[シース]]を通して末梢静脈に挿入されたカテーテルを心臓に向けて慎重に送り、上大静脈または右心房に末端を留置する<ref name="PICCbook">{{Cite book|和書 |editor1-last=Sandrucci |editor1-first=Sergio |editor2-last=Mussa |editor2-first=Baudolino |name-list-style=vanc |title=Peripherally inserted central venous catheters |date=5 July 2014 |publisher=Springer |location=Milan |isbn=978-88-470-5665-7 |chapter=Chapter 1,5,6}}</ref>。これらのラインは通常、腕の末梢静脈に留置され、[[超音波検査|超音波]]ガイド下で[[セルディンガー法]]を用いて留置されることもある<ref name="PICCbook" />。挿入時に透視を行わなかった場合は、カテーテルの先端が正しい位置にあることを確認するために[[X線撮影|X線検査]]が行われる<ref name="PICCbook" />。カテーテルの先端が正しい位置にあるかどうかを判断するために、[[心電図]]で判断する場合もある<ref name="PICCbook" />。
===トンネル型カテーテル===
[[ファイル:Hickman line catheter with 2 lumens.jpg|thumb|upright=0.7|トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンカテーテルは、胸部の皮膚から挿入し、首の静脈([[内頸静脈|内頚静脈]])に挿入する。|alt=Photograph of an inserted Hickman line, which is a type of tunneled catheter, inserted in the chest.トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンラインを胸部に挿入した写真。トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンラインを胸部の皮膚から挿入し、トンネル状にして喉の頸静脈に挿入する。]]

トンネル型カテーテルは[[中心静脈カテーテル]]の一種で、皮膚の下に挿入されてから[[中心静脈]]に到達するまでにかなりの距離がある。トンネル型ラインを使用すると、皮膚表面の細菌が静脈内に直接移動できないため、他の[[静脈アクセス]]と比較して感染のリスクが低下する<ref>{{Cite journal |last1=Agarwal |first1=Anil K. |last2=Haddad |first2=Nabil |last3=Boubes |first3=Khaled |name-list-style=vanc |title=Avoiding problems in tunneled dialysis catheter placement |journal=Seminars in Dialysis |date=November 2019 |volume=32 |issue=6 |pages=535–540 |doi=10.1111/sdi.12845|pmid=31710156 |s2cid=207955194 }}</ref>。トンネル型中心静脈ラインには、{{仮リンク|ヒックマンカテーテル|en|Hickman line|redirect=1}}やブロビアックカテーテルなどがある{{Sfn|Kowalak|2009|p=368}}。トンネル型ラインは、[[慢性腎不全|腎機能が低下した人]]の[[人工透析|血液透析]]に必要な長期静脈アクセスの選択肢である<ref name="JVA2016">{{Cite journal |last1=Roca-Tey |first1=Ramon |name-list-style=vanc |title=Permanent Arteriovenous Fistula or Catheter Dialysis for Heart Failure Patients |journal=The Journal of Vascular Access |date=March 2016 |volume=17 |issue=1_suppl |pages=S23–S29 |doi=10.5301/jva.5000511|pmid=26951899 |s2cid=44524962 }}</ref>。

===埋め込み型ポート===
{{Main|ポート (医療)}}
[[ポート (医療)|埋め込み型ポート]]とは、薬剤投与のための皮膚から突出する外部コネクタを持たない中心ラインのことである{{Sfn|Kowalak|2009|p=381}}。その代わり、ポートは[[シリコンゴム]]で覆われた小さな[[リザーバー]]で構成されており、このリザーバーを皮下に埋め込む{{Sfn|Kowalak|2009|p=381}}。薬剤の投与は、皮膚とシリコン製のポートカバーを通してリザーバーに薬剤を注入することによって行われる{{Sfn|Kowalak|2009|p=381}}。注射針が抜かれると、リザーバーカバーは自ら再密閉する{{Sfn|Kowalak|2009|p=381}}。ポートカバーは、その寿命の間、1000-2000回の注射針刺入に対して機能するように設計されている<ref name=":10">{{Cite web |url=https://mpssociety.org/wp-content/uploads/2011/07/Port-a-Cath__8-06.pdf |title=PORT-A-CATH FACT SHEET |access-date=2023-12-07 |publisher=National MPS Society}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002kclz-att/2r9852000002kcqu.pdf |title=承認番号 21800BZZ10076000 機械器具74 医薬品注入 高度管理医療機器 * 体内植込み用カテーテル * JMDN コード 70384000 IV カテーテル |access-date=2023-12-08}}</ref>。ポートは腕または胸部の皮下に[[局所麻酔|局所麻酔下]]の小手術で留置される<ref name=":10" /><ref>{{Cite journal |last1=Li |first1=Guanhua |last2=Zhang |first2=Yu |last3=Ma |first3=Hongmin |last4=Zheng |first4=Junmeng |name-list-style=vanc |title=Arm port vs chest port: a systematic review and meta-analysis |journal=Cancer Management and Research |date=3 July 2019 |volume=11 |pages=6099–6112 |doi=10.2147/CMAR.S205988|pmid=31308748 |pmc=6613605 |s2cid=196610436 |doi-access=free }}</ref>。

==適応==
===医学的な適応===
{{Multiple image
| width = 160
| image1 = Intravenuos administration.jpg
| alt1 = Photograph of an intravenous line inserted in the wrist.
| image2 = Infuuszakjes.jpg
| alt2 = Photograph of two intravenous solution bags hanging from a pole.
| footer = 左: 手首に留置された静脈ライン。
右: 点滴棒に吊るされた2つの輸液バッグ。
}}
静脈注射は、全身に投与しなければならない薬剤<ref name=":9">{{Cite journal|和書|author=北村正樹 |year=2002 |url=https://doi.org/10.11453/orltokyo1958.45.381 |title=薬剤の剤形と投与経路 |journal=耳鼻咽喉科展望 |ISSN=0386-9687 |publisher=耳鼻咽喉科展望会 |volume=45 |issue=5 |pages=381-384 |doi=10.11453/orltokyo1958.45.381 |CRID=1390282679927092096}}</ref>や補液の投与、特に迅速な投与が必要な場合に行われる。肝臓での[[初回通過効果]]代謝を回避できる<ref name=":9" />。[[静脈]]内に注入できる物質には、{{仮リンク|血漿増量剤|en|volume expander|redirect=1}}、[[血液製剤]]、薬剤、栄養剤などがある{{Sfn|Kowalak|2009|p=342}}。
====輸液====
{{Main|{{仮リンク|血漿増量剤|en|volume expander|redirect=1}}|緩衝液}}輸液は、「{{仮リンク|血漿増量剤|en|volume expander|redirect=1}}」<ref>{{Cite web |title=輸液の種類 – 輸液製剤協議会 |url=https://www.yueki.com/intravenous_solutions/ |website=www.yueki.com |access-date=2023-11-23}}</ref>または体液補充の一環として、静脈内から投与されることがある{{Sfn|Miller|2007|pp=1403-1406}}。輸液は、{{仮リンク|晶質液|en|crystalloids|redirect=1}}と[[膠質液]]に大別される{{Sfn|Miller|2007|pp=1403-1406}}。晶質液は、[[ミネラル]]やその他の水溶性分子の[[水溶液]]である{{Sfn|Miller|2007|pp=1403-1406}}。膠質液は[[ゼラチン]]のような大きな不溶性分子を含む{{Sfn|Miller|2007|pp=1403-1406}}。血液そのものは膠質液と考えられている<ref>{{Cite web |url=https://www.sciencetimes.com/articles/27916/20201028/what-colloids-why-important.htm |title=What Are Colloids and Why Are They Important? |access-date=2023-12-06 |publisher=THE SCIENCE TIMES}}</ref>。

最も一般的に使用される晶質液は、0.9%濃度の[[塩化ナトリウム]]溶液である[[生理食塩水]]で、血液と{{仮リンク|等張|en|Isotonicity|redirect=1}}である<ref name="gregory" />。血液は弱アルカリ性であり{{Sfn|飯野|2013|p=|pp=14-15}}、アルカリ化剤が添加されている[[乳酸リンゲル液]]{{Sfn|飯野|2013|p=|pp=14-15}}も体液補充に頻用され<ref>{{Citation|title=Ringer's Lactate|last=Singh|first=Shashank|last2=Kerndt|first2=Connor C.|last3=Davis|first3=David|date=2023|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK500033/|publisher=StatPearls Publishing|pmid=29763209|access-date=2023-12-07}}</ref>、[[ショック]]の患者によく用いられる{{Sfn|飯野|2013|p=62}}。膠質液は血液中の[[膠質浸透圧]]を高く保つが、晶質液では血液希釈のために膠質浸透圧が低下する<ref name="gregory">{{Cite web |last1=Martin |first1=Gregory S. | name-list-style=vanc |title=An Update on Intravenous Fluids |url=http://www.medscape.com/viewarticle/503138 |website=Medscape |publisher=WebMD |access-date=25 August 2020}}</ref>。晶質液は膠質液よりも一般的にかなり安価である<ref name="gregory" />。  

[[アシドーシス]]を是正するために使用される[[緩衝液]]も、静脈内投与される{{Sfn|飯野|2013|p=|pp=62-63}}。緩衝液として静脈内投与される溶液には、{{仮リンク|炭酸水素ナトリウム注射液|en|intravenous sodium bicarbonate|redirect=1}}がある<ref>{{Cite journal |last1=Fujii |first1=Tomoko |last2=Udy |first2=Andrew |last3=Licari |first3=Elisa |last4=Romero |first4=Lorena |last5=Bellomo |first5=Rinaldo | name-list-style=vanc |title=Sodium bicarbonate therapy for critically ill patients with metabolic acidosis: A scoping and a systematic review |journal=Journal of Critical Care |date=June 2019 |volume=51 |pages=184–191 |doi=10.1016/j.jcrc.2019.02.027|pmid=30852347 |s2cid=73725286 }}</ref>。

==== 薬物療法と治療 ====
[[ファイル:Glass IV.jpg|right|thumb|2つの点滴バ<nowiki/>ッグ(それぞれ[[ブドウ糖]]溶液<nowiki/>と抗生剤の[[レボフロキサシン]]が入っている)と点滴棒に吊るされた紙の記録用紙の写真|alt=Photograph of two intravenous solution bags (containing glucose and levofloxacin, respectively) and a paper log sheet hanging from a pole.]]

医薬品は一般的に生理食塩水やブドウ糖溶液に混和されて投与されることもある<ref name="Flynn2007" />('''混注'''と呼ばれる<ref>{{Cite web |title=混注 – 輸液製剤協議会 |url=https://www.yueki.com/faq/words30/index.html#:~:text=%E8%BC%B8%E6%B6%B2%E3%81%AB%E6%8A%97%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%B3%AA%E3%80%81%E6%8A%97,%E6%B3%A8%E6%84%8F%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82 |website=www.yueki.com |access-date=2023-12-07}}</ref>)。

[[経口投与|経口薬]]など他の[[投与経路]]と比較すると、静脈内投与は輸液や薬液を全身に最も速く送達する方法である<ref>{{Cite web |title=What is an IV Vitamin Therapy? A Complete Guide by Nepenthe |url=https://www.nepenthewellness.com/complete-guide-to-iv-vitamin-therapy/ |access-date=2022-09-02 |language=en-US}}</ref>。極度の高血圧([[高血圧緊急症]]と呼ばれる)では、臓器障害を防ぐために血圧をコントロールしながら速やかに低下させるために、[[降圧剤]]の静脈注射が行われることがある<ref name="JEM2012">{{Cite journal |last1=Peacock |first1=W. Frank |last2=Hilleman |first2=Daniel E. |last3=Levy |first3=Phillip D. |last4=Rhoney |first4=Denise H. |last5=Varon |first5=Joseph |name-list-style=vanc |title=A systematic review of nicardipine vs labetalol for the management of hypertensive crises |journal=The American Journal of Emergency Medicine |date=July 2012 |volume=30 |issue=6 |pages=981–993 |doi=10.1016/j.ajem.2011.06.040|pmid=21908132 }}</ref>。[[心房細動]]では、正常な心臓のリズムを回復させるために[[アミオダロン]]の静脈内投与が行われることがある<ref>{{Cite journal |last1=Vardas |first1=Panos E. |last2=Kochiadakis |first2=George E. |name-list-style=vanc |title=Amiodarone for the Restoration of Sinus Rhythm in Patients with Atrial Fibrillation |journal=Cardiac Electrophysiology Review |date=September 2003 |volume=7 |issue=3 |pages=297–299 |doi=10.1023/B:CEPR.0000012400.34597.00|pmid=14739732 }}</ref>。[[バンコマイシン]]のように、血液中の薬物濃度をより迅速に高めるために、投与[[レジメン]]を開始する前に薬の[[ローディング]]用量または[[ボーラス投与|ボーラス]]量を投与する場合もある<ref>{{Cite journal |last1=Álvarez |first1=Rocío |last2=López Cortés |first2=Luis E. |last3=Molina |first3=José |last4=Cisneros |first4=José M. |last5=Pachón |first5=Jerónimo |name-list-style=vanc |title=Optimizing the Clinical Use of Vancomycin |journal=Antimicrobial Agents and Chemotherapy |date=May 2016 |volume=60 |issue=5 |pages=2601–2609 |doi=10.1128/AAC.03147-14|pmid=26856841 |pmc=4862470 |s2cid=9560849 }}</ref>。

薬物が十分に吸収されなかったり、血流に入る前に代謝されたりする可能性がある[[経口投与]]とは異なり、静脈内投与の[[バイオアベイラビリティ]]は定義上100%である<ref name="Flynn2007">{{Cite book | last=Flynn | first=Edward | name-list-style=vanc | title=xPharm: The Comprehensive Pharmacology Reference | chapter=Pharmacokinetic Parameters | publisher=Elsevier | year=2007 | isbn=978-0-08-055232-3 | doi=10.1016/b978-008055232-3.60034-0 | pages=1–3}}</ref>。薬によっては、経口バイオアベイラビリティがほとんどないものもある<ref>{{Cite web |title=インスリンなどの注射薬を経口薬に置きかえる新技術 |url=https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/19/00075/ |website=Beyond Health|ビヨンドヘルス 健康・医療 Disruptive Innovation |date=2019-10-30 |access-date=2023-12-08 |language=ja |first=Beyond Health|ビヨンドヘルス 健康・医療 Disruptive |last=Innovation}}</ref>。ある種の薬剤は静脈注射でしか投与できない。他の[[投与経路]]では十分な吸収が得られないからである<ref name="BCcampus">{{Cite book |last1=Doyle |first1=GR |last2=McCutcheon |first2=JA |title=Clinical Procedures for Safer Patient Care |date=13 November 2015 |publisher=BCcampus |location=Victoria, BC |url=https://opentextbc.ca/clinicalskills/chapter/6-9-iv-main-and-mini-bag-medications/ |chapter=7.5}}</ref>。例えば、重度の[[脱水 (医療)|脱水症]]の場合、早期回復のために静脈内投与による治療が必要となる<ref>{{Cite web |last=C |first=Dr |date=2022-08-24 |title=Intravenous Rehydration: Risks, Benefits, And Uses |url=https://www.medsnews.com/health/intravenous-rehydration-risks-benefits-and-uses/ |access-date=2022-08-24 |website=Meds News – Health & Medicine Information |language=en}}</ref>。[[フロセミド]]のように、経口薬のバイオアベイラビリティが人によって予測できないことも、静脈内投与が必要な理由である<ref>{{Cite journal |last1=Boles Ponto |first1=Laura L. |last2=Schoenwald |first2=Ronald D. |name-list-style=vanc |title=Furosemide (Frusemide) A Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Review (Part I) |journal=Clinical Pharmacokinetics |date=1 May 1990 |volume=18 |issue=5 |pages=381–408 |doi=10.2165/00003088-199018050-00004|pmid=2185908 |s2cid=32352501 }}</ref>。また、吐き気や嘔吐がある場合、下痢がひどい場合などは、薬が消化管から十分に吸収されない可能性があるため、経口薬はあまり好ましくない。このような場合、患者が経口剤に耐えられるようになるまで、静脈内投与を行うことがある<ref>{{Cite web |title=小児における脱水 - 19. 小児科 |url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%84%B1%E6%B0%B4%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%BC%B8%E6%B6%B2%E7%99%82%E6%B3%95/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%84%B1%E6%B0%B4 |website=MSDマニュアル プロフェッショナル版 |access-date=2023-12-10 |language=ja-JP}}</ref>。静脈内投与から経口投与への切り替えは、一般的に静脈内投与よりも費用と時間の節約になるため、通常は可能な限り早く行われる<ref>{{Cite web |title=経口補液 - 19. 小児科 |url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%84%B1%E6%B0%B4%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%BC%B8%E6%B6%B2%E7%99%82%E6%B3%95/%E7%B5%8C%E5%8F%A3%E8%A3%9C%E6%B6%B2 |website=MSDマニュアル プロフェッショナル版 |access-date=2023-12-10 |language=ja-JP}}</ref>。薬剤を経口剤に変更できる可能性があるかどうかは、病院内で使用する適切な抗生物質療法を選択する際に考慮されることがある。静脈注射が必要な場合は、退院できる可能性は低いからである<ref>{{Cite journal |last1=Wetzstein |first1=GA |name-list-style=vanc |title=Intravenous to oral (iv:po) anti-infective conversion therapy. |journal=Cancer Control |date=March 2000 |volume=7 |issue=2 |pages=170–6 |doi=10.1177/107327480000700211 |pmid=10783821|doi-access=free }}</ref>。

[[アプレピタント]]など一部の薬剤は、静脈内投与に適した形に化学的に修飾され、[[ホスアプレピタント]]などの[[プロドラッグ]]となっている。これは薬物動態学的な理由や、活性型に代謝されるまで意図的に薬効を遅らせるためである<ref>{{Cite journal |last1=Patel |first1=P |last2=Leeder |first2=JS |last3=Piquette-Miller |first3=M |last4=Dupuis |first4=LL |name-list-style=vanc |title=Aprepitant and fosaprepitant drug interactions: a systematic review. |journal=British Journal of Clinical Pharmacology |date=October 2017 |volume=83 |issue=10 |pages=2148–2162 |doi=10.1111/bcp.13322 |pmid=28470980|pmc=5595939 }}</ref>。

====血液製剤====
{{Main|血液製剤|輸血|代替血液}}
[[血液製剤]]とは、輸血に使用するために[[供血者]]から採取される血液のあらゆる成分のことである<ref>{{Cite web|url=https://www.nhlbi.nih.gov/health-topics/blood-transfusion|title=Blood Transfusion {{!}} National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)|website=www.nhlbi.nih.gov|access-date=2019-06-16}}</ref>。輸血は、外傷による大量出血の際に使用されたり、手術中に失われた血液を補うために使用されたりする。輸血は、血液疾患による重度の貧血や血小板減少症の治療にも行われる。初期の輸血は[[全血]]から成っていたが、現代の医療では、一般的に、{{仮リンク|赤血球濃厚|en|packed red blood cells|redirect=1}}、{{仮リンク|新鮮凍結血漿|en|fresh frozen plasma|redirect=1}}または{{仮リンク|クリオプレピシテート|en|cryoprecipitate|redirect=1}}などの成分輸血のみが使用される<ref>{{Cite journal |last1=Avery |first1=Pascale |last2=Morton |first2=Sarah |last3=Tucker |first3=Harriet |last4=Green |first4=Laura |last5=Weaver |first5=Anne |last6=Davenport |first6=Ross | name-list-style=vanc |title=Whole blood transfusion versus component therapy in adult trauma patients with acute major haemorrhage |journal=Emergency Medicine Journal |date=June 2020 |volume=37 |issue=6 |pages=370–378 |doi=10.1136/emermed-2019-209040|pmid=32376677 |s2cid=218532376 |url=https://qmro.qmul.ac.uk/xmlui/handle/123456789/64119 |doi-access=free }}</ref>。[[代替血液]]は研究段階に留まっており、少なくとも2022年時点では実用化されていない<ref>{{Cite web |title=人工血液について Q10 {{!}} 日本人工臓器学会 |url=https://www.jsao.org/public/faq/faq03/ |access-date=2023-11-23 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=Q7. 血液は人工的に造れないの?|東海北陸ブロック血液センター|日本赤十字社 |url=https://www.bs.jrc.or.jp/tkhr/bbc/ |website=東海北陸ブロック血液センター |access-date=2023-11-23 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=次世代医療の切り札となる「人工血液」 中央大学・小松晃之研究室{{!}}SDGs@大学{{!}}朝日新聞EduA |url=https://www.asahi.com/edua/article/14788812 |website=www.asahi.com |access-date=2023-11-23 |language=ja}}</ref>。

====栄養====
{{Main|高カロリー輸液}}
[[ファイル:Patient lying in hospital bed in intensive care unit in Germany in 2015.jpg|thumb|このドイツの病院の[[集中治療室]]の患者は、以前に腹部の外科手術を受け、[[敗血症性ショック|重度の敗血症]]を合併したため、食事ができなかった。[[抗生物質]]、[[高カロリー輸液|中心静脈栄養]]、[[鎮痛剤]]を[[シリンジポンプ]](背景右側)により持続注射された。]]
[[高カロリー輸液|静脈栄養]]とは、必要な栄養素を静脈ラインから投与することである。これは、[[食事]]や[[消化]]によって栄養を摂取することができない人に行われる。静脈栄養を受けている人には、[[塩類]]、[[ブドウ糖]]、[[アミノ酸]]、[[脂質]]、[[ビタミン]]などを含む[[高カロリー輸液|静脈栄養剤]]が投与される。使用される静脈栄養剤の正確な処方は、投与される人の特定の栄養ニーズによって異なる。栄養を静脈内にのみ投与する場合は、完全静脈栄養({{Lang-en-short|Total Parenteral Nutrition: TPN}})と呼ばれ、栄養の一部のみを静脈内に投与する場合は、部分静脈栄養法({{Lang-en-short|Partial Parenteral Nutrition: PPN}})または補完的静脈栄養法({{Lang-en-short|Supplemental Parenteral Nutrition: SPN}})と呼ばれる<ref>{{Cite book |last1=Halter |first1=Jeffrey B. |last2=Ouslander |first2=Joseph G. |last3=Studenski |first3=Stephanie |last4=High |first4=Kevin P. |last5=Asthana |first5=Sanjay |last6=Supiano |first6=Mark A. |last7=Ritchie |first7=Christine | display-authors=6 | name-list-style=vanc |editor1-last=Edmonson |editor1-first=Karen G. |editor2-last=Davis |editor2-first=Kim J. |title=Hazzard's geriatric medicine and gerontology |publisher=McGraw Hill |location=New York |isbn=978-0-07-183345-5 |edition=Seventh |chapter=Chapter 35|date=23 December 2016 }}</ref>。

====画像診断====
{{Main|造影剤}}
医用画像診断は、体内の部位を互いに明確に区別できることに依存している。これを実現する方法の1つが、静脈への[[造影剤]]の投与である<ref>{{Cite journal |last1=Runge |first1=VM |last2=Ai |first2=T |last3=Hao |first3=D |last4=Hu |first4=X |name-list-style=vanc |title=The developmental history of the gadolinium chelates as intravenous contrast media for magnetic resonance. |journal=Investigative Radiology |date=December 2011 |volume=46 |issue=12 |pages=807–16 |doi=10.1097/RLI.0b013e318237913b |pmid=22094366|s2cid=8425664 }}</ref>。採用する特定の画像診断技術によって、血管やその他の構造物をより鮮明に映し出すための適切な造影剤の特性が決定される。一般的な造影剤は[[末梢静脈]]に投与され、そこから循環系全体に分布して撮影部位に到達する<ref>{{Cite journal |last1=Rawson |first1=JV |last2=Pelletier |first2=AL |title=When to Order a Contrast-Enhanced CT. |journal=American Family Physician |date=1 September 2013 |volume=88 |issue=5 |pages=312–6 |pmid=24010394}}</ref>。

===他の用途===
====スポーツ====
点滴による水分や栄養の補給は、以前から[[アスリート]]にとって一般的な手法であったが<ref name=":8">{{Cite web |title=IV nutrition risks becoming the norm for athletes, despite no evidence it works {{!}} BMJ |url=https://www.bmj.com/company/newsroom/iv-nutrition-risks-becoming-the-norm-for-athletes-despite-no-evidence-it-works/ |access-date=2023-12-03 |language=en-US}}</ref>、医学的なメリットに乏しく<ref name="usada" />、競技におけるドーピング規定に違反する可能性がある<ref name=":8" />。だが、2022年時点でも、点滴をスポーツ目的で行わないよう、啓蒙し続ける必要がある状況である<ref name=":8" />。[[世界アンチ・ドーピング機構]]は、医学的免除がある場合を除き、12時間あたり100mLを超える静脈注射を禁止している<ref name="usada"/>。{{仮リンク|アメリカアンチドーピング機構|en|United States Anti-Doping Agency|redirect=1}}は、点滴注射が禁止物質使用や検査結果を、隠蔽する目的で行われる可能性があると指摘している<ref name="usada">{{Cite web |title=IV Infusion: Explanatory Note |url=https://www.usada.org/iv-infusions-explanatory-note/ |website=U.S. Anti-Doping Agency (USADA) |access-date=24 July 2018 |date=5 January 2018}}</ref>。この種の治療を提供する「ブティック静注クリニック」に通って出場停止処分を受けた選手には、2017年のサッカー選手[[サミル・ナスリ]]<ref>{{Cite news |author1=Press Association |title=Samir Nasri's doping ban extended from six to 18 months after appeal by Uefa |url=https://www.theguardian.com/football/2018/aug/01/samir-nasri-doping-ban-extended-18-months |access-date=2 August 2018 |work=The Guardian |date=1 August 2018 |language=en}}</ref>、2018年の水泳選手[[ライアン・ロクテ]]がいる<ref>{{Cite magazine2 |last1=Caron |first1=Emily | name-list-style = vanc |title=Ryan Lochte suspended 14 months for anti-doping violation |magazine=[[スポーツ・イラストレイテッド|Sports Illustrated]] |date=23 July 2018 |url=https://www.si.com/olympics/2018/07/23/ryan-lochte-suspended-anti-doping-rule-violation-iv-infusion-photo |access-date=24 July 2018 |language=en}}</ref>。

====二日酔い治療====
1960年代、米国[[メリーランド州]]の医師ジョン・マイヤーズは「[[マイヤーズカクテル]]」を開発した<ref>{{Cite web |title=マイヤーズカクテル(ビタミン・ミネラル点滴) {{!}} 点滴療法研究会 |url=https://www.iv-therapy.org/medical/info05/ |access-date=2023-10-03 |language=ja}}</ref>。これはビタミンとミネラルを配合した非処方箋の点滴で、{{仮リンク|二日酔いの薬|en|hangover cure|redirect=1}}や[[滋養強壮|滋養強壮薬]]として販売されていた<ref name="Hess2014"/>。同様の治療を提供する初の「静注ブティック」クリニックが2008年に東京に開業した<ref name="Hess2014"/>。このようなクリニックは、[[ELLE (雑誌)]]にその顧客が「裏の顔は大酒飲みの健康オタク」と評され、2010年代には華やかな[[セレブリティ|セレブ]]の顧客によって宣伝されている<ref name="Hess2014">{{Cite web |last1=Hess |first1=Amanda | name-list-style = vanc |title=The Party Girl Drip |url=https://www.elle.com/beauty/health-fitness/advice/a14177/iv-therapy-boutiques/ |website=Elle |access-date=24 July 2018 |date=23 April 2014}}</ref>。点滴療法はまた、[[急性アルコール中毒]]の人々に、アルコール摂取によって生じる電解質とビタミンの欠乏を是正するために使用されている<ref>{{Cite journal |last1=Flannery |first1=Alexander H. |last2=Adkins |first2=David A. |last3=Cook |first3=Aaron M. | name-list-style=vanc |title=Unpeeling the Evidence for the Banana Bag: Evidence-Based Recommendations for the Management of Alcohol-Associated Vitamin and Electrolyte Deficiencies in the ICU |journal=Critical Care Medicine |date=August 2016 |volume=44 |issue=8 |pages=1545–1552 |doi=10.1097/CCM.0000000000001659|pmid=27002274 |s2cid=22431890 }}</ref>。これらの輸液は黄色なので{{仮リンク|バナナバッグ|en|Banana bag|redirect=1}}と呼ばれることもある<ref name="PPMHP">{{cite book |title=Principles of Psychopharmacology for Mental Health Professionals |author1=Jeffrey E Kelsey |author2=D Jeffrey Newport |author3=Charles B Nemeroff |name-list-style=amp |chapter=Alcohol Use Disorders |pages=196–197 |publisher=Wiley-Interscience |year=2006 |isbn=978-0-471-79462-2}}</ref>。これらの「カクテル」には医学的に何らかの予防または治療効果を示す[[エビデンス (医学)|エビデンス]]がほとんどない<ref>{{Cite web |title=A closer look at vitamin injections {{!}} Science-Based Medicine |url=https://sciencebasedmedicine.org/a-closer-look-at-vitamin-injections/ |website=sciencebasedmedicine.org |date=2013-05-24 |access-date=2023-10-03 |language=en-US}}</ref>。

====その他====
一部の国では、非処方のブドウ糖の静脈内投与が、滋養強壮目的で行われているが、ブドウ糖溶液が処方薬である米国などでは、日常的な医療の一部ではない<ref name=NYT />。店頭の診療所で密かに行われているような不適切な静脈内ブドウ糖投与(「リンゲル」{{Efn|実際の[[リンゲル液]]とは組成が全く異なる。リンゲル液は電解質を主成分とする<ref>{{Cite web |title=医療用医薬品 : リンゲル (商品詳細情報) |url=https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00058246 |website=www.kegg.jp |access-date=2023-11-23}}</ref>
。}}と呼ばれる)は、不適切な手技とミスによりリスクが高まる<ref name=NYT>{{Cite news|author1=Jiha Ham|title=A Life Upended After an IV Glucose Treatment Popular Among Asian Immigrants|url=https://www.nytimes.com/2015/03/21/nyregion/despite-warnings-asian-immigrants-rely-on-glucose-injections-as-a-cure-for-ailments.html|access-date=March 21, 2015|work=The New York Times|date=March 20, 2015|quote=Although many doctors warn Asian immigrants in New York that the effects of injecting glucose differ little from drinking sugary water, many Asians, especially of older generations, still use the intravenous solution. In their homelands, it is commonly prescribed by doctors as a method to cure colds, fevers and sometimes an upset stomach.}}</ref>。[[静脈路]]はまた、[[ヘロイン]]や[[フェンタニル]]、[[コカイン]]、[[メタンフェタミン]]、[[ジメチルトリプタミン]]などの[[レクリエーショナルドラッグ]]の自己投与のために、医療機関外で使用されることがある<ref>{{Cite journal |last1=Han |first1=Y |last2=Yan |first2=W |last3=Zheng |first3=Y |last4=Khan |first4=MZ |last5=Yuan |first5=K |last6=Lu |first6=L | name-list-style=vanc |title=The rising crisis of illicit fentanyl use, overdose, and potential therapeutic strategies. |journal=Translational Psychiatry |date=11 November 2019 |volume=9 |issue=1 |pages=282 |doi=10.1038/s41398-019-0625-0 |pmid=31712552|pmc=6848196 |doi-access=free }}</ref>。

静脈注射は、[[獣医学]]領域でも行われる<ref name=Fluid-Therapy>{{Cite book|first5=Anda|first4=Jiwoong|first3=Page|first2=Julien|first1=Edward|last5=Young|last4=Her|last3=Yaxley|last2=Guillaumin|last1=Cooper|title=Small Animal Fluid Therapy|year=2022 |isbn=978-1-78924-338-3|id={{ISBN2|978-1-78924-339-0}}. {{ISBN2|978-1-78924-340-6}}|url=https://www.cabidigitallibrary.org/doi/10.1079/9781789243406.0000|publisher={{仮リンク|Centre for Agriculture and Bioscience International|en|Centre for Agriculture and Bioscience International|label=CABI}} (Centre for Agriculture and Bioscience International)|doi=10.1079/9781789243406.0000 |s2cid=251612116 }}</ref>。

==手技==
注射に伴う痛みを軽減するために、穿刺の約45分前に[[局所麻酔薬]]({{仮リンク|リドカイン・プロピトカイン配合剤クリーム|en|EMLA|label=エムラクリーム|redirect=1}}や[[テトラカイン]]外用薬など)を静脈穿刺部位の皮膚に塗布してもよい{{Sfn|Kowalak|2009|pp=344-348 }}。{{仮リンク|冷却スプレー|en|Vapocoolant|redirect=1}}は、[[静脈路確保]]の際の疼痛を軽減する可能性がある<ref>{{Cite journal|date=April 2016|title=Vapocoolants (cold spray) for pain treatment during intravenous cannulation|url=http://espace.library.uq.edu.au/view/UQ:387354/UQ387354_OA.pdf|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2016|issue=4|pages=CD009484|doi=10.1002/14651858.CD009484.pub2|pmc=8666144|pmid=27113639|vauthors=Griffith RJ, Jordan V, Herd D, Reed PW, Dalziel SR}}</ref>。<gallery>
ファイル:Catheter Schema 1 pose de l'aiguille.svg|リンク=|[[セルディンガー法]]。まず、[[留置針|静脈留置針]]で静脈を穿刺する。
ファイル:Catheter Schema 2 pose du fil.svg|リンク=|ガイドワイヤーを静脈留置針内から血管内に送り込む。
ファイル:Catheter Schema 3 retrait de l'aiguille.svg|リンク=|静脈留置針を抜去する。
ファイル:Catheter Schema 4 entree et sortie du dilatateur.svg|リンク=|ダイレーターでワイヤー周囲の組織を拡げる。
ファイル:Catheter Schema 5 pose du catheter.svg|リンク=|カテーテルをワイヤーに沿って血管内に送り込む。
ファイル:Catheter Schema 6 catheter en place.svg|リンク=|カテーテルを皮膚に固定する。
</gallery>[[中心静脈カテーテル]]の多くは、[[セルディンガー法]]、すなわち、まず目標静脈を注射針または静脈留置針で穿刺した後、その中からガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を入れ、その針金に沿わせてカテーテルを送り込む手技により留置される<ref name=":6">{{Cite web |url=https://anesth.or.jp/files/pdf/JSA_CV_practical_guide_2017.pdf |title=安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のためのプラクティカルガイド 2017 |access-date=2023-11-23 |publisher=[[日本麻酔科学会]]}}</ref>。[[超音波診断装置]]で血管や周囲の構造物を可視化しながらこの[[手技]]を行うことが推奨されている<ref name=":6" />。

カテーテルが正しく挿入されていなかったり、静脈が特にもろくて破れたりすると、血液が周囲の組織に漏れることがある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=355-359}}。このような状況も、点滴漏れ、静脈の破裂、または「組織化(tissuing)」として知られている{{Sfn|Kowalak|2009|pp=355-359}}。このカテーテルを使用して薬剤を投与すると、薬剤が{{仮リンク|血管外漏出|en|extravasation|label=血管外に漏出|redirect=1}}し、[[浮腫]]を引き起こし、痛みや組織の損傷を引き起こし、薬剤によっては[[壊死]]を起こすこともある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=355-359}}。[[静脈路確保]]を試みる際は、損傷した静脈からの薬剤の滲出を防ぐために、「漏れた」部位の近位に新しいアクセス部位を見つけなければならない{{Sfn|Kowalak|2009|pp=355-359}}。このため、最初のカテーテルは四肢の最も遠位の適切な静脈に留置することが望ましい{{Sfn|Kowalak|2009|pp=355-359}}。

==副作用==
===痛み===
静脈ラインの留置は、皮膚を貫くときに痛みを伴い、医学的に[[侵襲|侵襲的]]と考えられる<ref>{{Cite journal|last=Cooke|first=Marie|last2=Ullman|first2=Amanda J.|last3=Ray-Barruel|first3=Gillian|last4=Wallis|first4=Marianne|last5=Corley|first5=Amanda|last6=Rickard|first6=Claire M.|date=2018-02-28|title=Not "just" an intravenous line: Consumer perspectives on peripheral intravenous cannulation (PIVC). An international cross-sectional survey of 25 countries|url=https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0193436|journal=PLOS ONE|volume=13|issue=2|pages=e0193436|language=en|doi=10.1371/journal.pone.0193436|issn=1932-6203|pmc=PMC5831386|pmid=29489908}}</ref>。このため、他の[[投与経路]]で十分な場合には、[[静脈内投与]]は通常好まれない。軽度または中等度の脱水の治療も、点滴ラインによる非経口的水分補給よりも、[[経口補水療法]]が優先される<ref name="ACEPfive">{{Citation |author1 = American College of Emergency Physicians |author1-link = American College of Emergency Physicians |title = Five Things Physicians and Patients Should Question |publisher = American College of Emergency Physicians |work = {{仮リンク|Choosing Wisely|en|Choosing Wisely|label=Choosing Wisely}}: an initiative of the {{仮リンク|ABIM Foundation|en|ABIM Foundation|label=ABIM Foundation}} |url = http://www.choosingwisely.org/doctor-patient-lists/american-college-of-emergency-physicians/ |access-date = January 24, 2014 |archive-date = March 7, 2014 |archive-url = https://web.archive.org/web/20140307012443/http://www.choosingwisely.org/doctor-patient-lists/american-college-of-emergency-physicians/ |url-status = dead }}</ref><ref>{{Cite journal | vauthors = Hartling L, Bellemare S, Wiebe N, Russell K, Klassen TP, Craig W | title = Oral versus intravenous rehydration for treating dehydration due to gastroenteritis in children | journal = The Cochrane Database of Systematic Reviews | issue = 3 | pages = CD004390 | date = July 2006 | volume = 2006 | pmid = 16856044 | doi = 10.1002/14651858.CD004390.pub2 | pmc = 6532593 }}</ref>。救急外来での小児の脱水の治療は、点滴ラインの疼痛と合併症のために、点滴療法よりも経口療法の方が良好な転帰を示す<ref name="ACEPfive"/>。

ある種の薬剤には、静脈内投与に伴う特有の痛みの感覚もある。これには[[塩化カリウム]]が含まれ、静脈内投与すると灼熱感や痛みを感じることがある<ref name=AJM2020>{{Cite journal |last1=Heng |first1=Shu Yun |last2=Yap |first2=Robert Tze-Jin |last3=Tie |first3=Joyce |last4=McGrouther |first4=Duncan Angus |name-list-style=vanc |title=Peripheral Vein Thrombophlebitis in the Upper Extremity: A Systematic Review of a Frequent and Important Problem |journal=The American Journal of Medicine |date=April 2020 |volume=133 |issue=4 |pages=473–484.e3 |doi=10.1016/j.amjmed.2019.08.054|pmid=31606488 |s2cid=204545798 }}</ref> 。

===感染と炎症===
[[ファイル:Staphylococcus on catheter.png|サムネイル|[[カテーテル]]に付着した[[ブドウ球菌]]とそれらが分泌する[[バイオフィルム]]の[[電子顕微鏡]]写真。バイオフィルムは抗生物質の作用を阻害する。]]
静脈ラインの留置には皮膚を貫通する必要があるため、感染のリスクがある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。[[コアグラーゼ陰性ブドウ球菌]]や''{{仮リンク|カンジダ・アルビカンス|en|Candida albicans|redirect=1}}''などの皮膚常在菌がカテーテル周囲の挿入部位から侵入したり、汚染された器具から誤って細菌がカテーテル内部に侵入したりすることがある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。[[静脈アクセス]]部位の感染は通常局所的で、目に見えやすい[[腫脹]]、発赤、発熱を引き起こす{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。しかし、病原菌が血流に入り込んで[[敗血症]]を引き起こすこともあり、突然生命を脅かすこともある{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。中心静脈ラインは、中枢の循環に直接細菌を送り込む可能性があるため、敗血症のリスクが高くなる{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。留置期間が長いラインも感染のリスクを高める{{Sfn|Kowalak|2009|pp=358, 373 }}。 

静脈の炎症も起こることがあり、[[血栓性静脈炎]]または単に静脈炎と呼ばれる{{Sfn|Kowalak|2009|p=355,358}}。この炎症は、感染、カテーテル自体、または投与される特定の輸液や薬物によって引き起こされることがある。静脈炎を繰り返すと、静脈に沿って瘢痕組織が形成されることがある。末梢静脈ラインは、感染症や静脈炎などの合併症の危険性があるため、いつまでも静脈内に留置しておくことはできない。しかし、最近の研究では、臨床的に適切な場合にのみ点滴を交換しても、[[ルーチン]]の点滴交換と比較して、合併症のリスクが増加しないことが判明している<ref>{{Cite journal|vauthors= Webster J, Osborne S, Rickard CM, Marsh N|date=23 January 2019|title=Clinically-indicated replacement versus routine replacement of peripheral venous catheters|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=1|issue=1 |pages=CD007798|doi=10.1002/14651858.CD007798.pub5|issn=1469-493X|pmc=6353131|pmid=30671926}}</ref>。適切な無菌的手技で留置する場合、末梢静脈ラインを72~96時間ごとを超える頻度で交換することは推奨されない<ref>{{Cite journal | vauthors = O'Grady NP, Alexander M, Burns LA, Dellinger EP, Garland J, Heard SO, Lipsett PA, Masur H, Mermel LA, Pearson ML, Raad II, Randolph AG, Rupp ME, Saint S | display-authors=6 | title = Guidelines for the prevention of intravascular catheter-related infections | journal = Clinical Infectious Diseases | volume = 52 | issue = 9 | pages = e162-93 | date = May 2011 | pmid = 21460264 | pmc = 3106269 | doi = 10.1093/cid/cir257 }}</ref>。

静脈炎は、静脈内薬物使用者<ref>{{Cite journal |last1=Jaffe |first1=Richard B. |name-list-style=vanc |title=Cardiac and vascular involvement in drug abuse |journal=Seminars in Roentgenology |date=July 1983 |volume=18 |issue=3 |pages=207–212 |doi=10.1016/0037-198x(83)90024-x|pmid=6137064 }}</ref>および化学療法を受けている患者<ref>{{Cite journal |last1=Lv |first1=Luyu |last2=Zhang |first2=Jiaqian |name-list-style=vanc |title=The incidence and risk of infusion phlebitis with peripheral intravenous catheters: A meta-analysis |journal=The Journal of Vascular Access |date=May 2020 |volume=21 |issue=3 |pages=342–349 |doi=10.1177/1129729819877323|pmid=31547791 |s2cid=202745746 }}</ref>に特によくみられ、静脈は時間の経過とともに硬化してアクセスが困難になり、時には硬くて痛みを伴う「静脈索"venous cord".」が形成されることがある。索の存在は、点滴治療に伴う不快感や疼痛の原因であり、索のある部位には静脈ラインを留置できないため、静脈ラインの留置がより困難になる<ref>{{Cite journal |last1=Mihala |first1=G |last2=Ray-Barruel |first2=G |last3=Chopra |first3=V |last4=Webster |first4=J |last5=Wallis |first5=M |last6=Marsh |first6=N |last7=McGrail |first7=M |last8=Rickard |first8=CM |display-authors=6 |name-list-style=vanc |title=Phlebitis Signs and Symptoms With Peripheral Intravenous Catheters: Incidence and Correlation Study. |journal=Journal of Infusion Nursing |date=2018 |volume=41 |issue=4 |pages=260–263 |doi=10.1097/NAN.0000000000000288 |pmid=29958263|s2cid=49613143 }}</ref>。

===点滴漏れ===
{{Seealso|浸潤|{{仮リンク|血管外漏出|en|extravasation|redirect=1}}}}
[[ファイル:Гематома (синяк) в результате непопадания иглы в вену при установке каппельницы 1.jpg|サムネイル|点滴漏れや[[静脈路確保]]失敗後に発生する[[皮下血腫]](あざ)]]
点滴漏れは、輸液または薬剤が目的の静脈ではなく周囲の組織に入ることで起こる。これは、静脈自体が破れた場合、血管内留置器具の挿入中に静脈が損傷した場合、または静脈の透過性が増加した場合にも発生する。点滴漏れはまた、針による静脈の穿刺部位が最も注入抵抗の少ない部位-たとえば挿入したままのカテーテル-になり、静脈に瘢痕による狭窄ないしは閉塞が生じた場合にも起こる。また、静脈ラインを挿入する際に、[[駆血帯]]を速やかに外さなければ起こることもある。浸潤は、皮膚の冷感や蒼白、局所の腫脹や浮腫を特徴とする。静脈ラインを外し、患肢を挙上して溜まった液体が排出されるようにすることで治療する。患部周辺に[[ヒアルロニダーゼ]]を注射することで、輸液/薬剤の拡散を早めることができる<ref>{{Cite journal |last1=Reynolds |first1=PM |last2=MacLaren |first2=R |last3=Mueller |first3=SW |last4=Fish |first4=DN |last5=Kiser |first5=TH |name-list-style=vanc |title=Management of extravasation injuries: a focused evaluation of noncytotoxic medications. |journal=Pharmacotherapy |date=June 2014 |volume=34 |issue=6 |pages=617–32 |doi=10.1002/phar.1396 |pmid=24420913|s2cid=25278254 }}</ref>。点滴漏れは、点滴の最も一般的な副作用のひとつであり<ref>{{Cite journal | vauthors = Schwamburger NT, Hancock RH, Chong CH, Hartup GR, Vandewalle KS | title = The rate of adverse events during IV conscious sedation | journal = General Dentistry | volume = 60 | issue = 5 | pages = e341-4 | year = 2012 | pmid = 23032244 }}</ref>、漏れた薬液が周囲組織に損傷を与える薬剤、例えば刺激性物質または[[化学療法剤|化学療法薬]]でない限り、通常は重篤ではない。漏れた薬液が組織傷害性の場合、{{仮リンク|血管外漏出|en|extravasation|redirect=1}}と呼ばれ、その部分の壊死を引き起こすことがある<ref>{{Cite journal | vauthors = Hadaway L | title = Infiltration and extravasation | journal = The American Journal of Nursing | volume = 107 | issue = 8 | pages = 64–72 | date = August 2007 | pmid = 17667395 | doi = 10.1097/01.NAJ.0000282299.03441.c7 }}</ref>。

===その他の合併症===
投与される輸液が体温より低い場合、[[低体温症]]が起こりうる。心臓への温度変化が急激な場合、致死的不整脈である[[心室細動]]が起こる可能性がある<ref>{{Cite journal |last1=Campbell |first1=Gillian |last2=Alderson |first2=Phil |last3=Smith |first3=Andrew F |last4=Warttig |first4=Sheryl |name-list-style=vanc |title=Warming of intravenous and irrigation fluids for preventing inadvertent perioperative hypothermia |journal=Cochrane Database of Systematic Reviews |date=13 April 2015 |volume=2015 |issue=4 |pages=CD009891 |doi=10.1002/14651858.CD009891.pub2|pmid=25866139 |pmc=6769178 }}</ref>。さらに、{{仮リンク|等張|en|isoosmolar|label=血液と浸透圧が等し|redirect=1}}くない溶液を投与した場合、[[電解質異常|電解質のバランスが崩れる]]可能性がある。病院では、定期的な[[血液検査]]で電解質濃度を積極的に監視している<ref>{{Cite journal |last1=Wang |first1=W |name-list-style=vanc |title=Tolerability of hypertonic injectables. |journal=International Journal of Pharmaceutics |date=25 July 2015 |volume=490 |issue=1–2 |pages=308–15 |doi=10.1016/j.ijpharm.2015.05.069 |pmid=26027488}}</ref>。低体温が起こると、[[血小板]]機能低下や血管反応性低下などにより、出血が増加するので産科などの出血時には[[輸血・輸液加温器]]の使用が推奨されている<ref>{{Cite journal|和書|last=稲田|first=英一|date=2018|title=産科危機的出血への対応|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/38/5/38_712/_article/-char/ja/|journal=日本臨床麻酔学会誌|volume=38|issue=5|pages=712–717|doi=10.2199/jjsca.38.712}}</ref>。

輸液を適切に計算して投与しないと、特に投与速度が速すぎると急性輸液反応(Infusion reaction)<ref>{{Cite web |title=急性輸液反応:バイオキーワード集|実験医学online:羊土社 |url=https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/2103.html |website=www.yodosha.co.jp |access-date=2023-10-03}}</ref>と呼ばれる過敏症などの副作用が生じることがある。このため、抗生物質[[バンコマイシン]]<ref name="EJDMP2018" />やがん治療に用いられる[[モノクローナル抗体]]<ref>{{Cite journal|last1=Bylsma|first1=Lauren C.|last2=Dean|first2=Rebecca|last3=Lowe|first3=Kimberly|last4=Sangaré|first4=Laura|last5=Alexander|first5=Dominik D.|last6=Fryzek|first6=Jon P.|date=September 2019|title=The incidence of infusion reactions associated with monoclonal antibody drugs targeting the epidermal growth factor receptor in metastatic colorectal cancer patients: A systematic literature review and meta‐analysis of patient and study characteristics|journal=Cancer Medicine|volume=8|issue=12|pages=5800–5809|doi=10.1002/cam4.2413|pmc=6745824|pmid=31376243|name-list-style=vanc|doi-access=free}}</ref>など、多くの薬剤には推奨最大注入速度が設定されている<ref>{{Cite journal|last=Rombouts|first=Maurien D.|last2=Swart|first2=Eleonora L.|last3=Eertwegh|first3=Alfons J. M. Van Den|last4=Crul|first4=Mirjam|date=2020-03-01|title=Systematic Review on Infusion Reactions to and Infusion Rate of Monoclonal Antibodies Used in Cancer Treatment|url=https://ar.iiarjournals.org/content/40/3/1201|journal=Anticancer Research|volume=40|issue=3|pages=1201–1218|language=en|doi=10.21873/anticanres.14062|issn=0250-7005|pmid=32132017}}</ref>。これらの注入時の反応は、バンコマイシンの「[[レッドマン症候群]]」のように、重篤なものとなることがある<ref name="EJDMP2018" />。

==歴史==
===発見と開発===
[[ファイル:James Blundell (physician).jpg|左|サムネイル|ジェームズ・ブランデル]]
注射による治療物質投与の最初の試みは、1492年、[[インノケンティウス8世 (ローマ教皇)|教皇インノケンティウス8世]]が病に倒れ、健康な人の血液を投与されたことであると記録されている<ref name="Millam">{{Cite journal|last=Millam|first=D.|date=1996|title=The history of intravenous therapy|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8708844|journal=Journal of Intravenous Nursing: The Official Publication of the Intravenous Nurses Society|volume=19|issue=1|pages=5–14|issn=0896-5846|pmid=8708844}}</ref><ref name=":0" />。この場合の治療はうまくいかず、教皇は治癒することなく、[[供血者]]も死に至った<ref name="Millam" /><ref name=":0" />。この話には異論もあり、当時の医療関係者には[[輸血]]という発想はあり得なかったとか、血液循環に関する完全な記述が発表されたのは100年以上経ってからであったと主張する者もいる<ref name=":0" />。この話は、当時の文献の翻訳に誤りがあった可能性や、意図的な捏造の可能性があるとされているが、今でも正確であると考える人もいる<ref name=":0">{{Cite journal |last1=Lindeboom |first1=G. A. |name-list-style=vanc |title=The Story of a Blood Transfusion to a Pope |journal=Journal of the History of Medicine and Allied Sciences |date=1954 |volume=IX |issue=4 |pages=455–459 |doi=10.1093/jhmas/IX.4.455|pmid=13212030 }}</ref>。医学生や看護学生向けの主要な医学史教科書のひとつは、この話全体が反ユダヤ主義的な捏造であると主張している<ref>{{Cite book|和書 |last1=Duffin |first1=Jacalyn |name-list-style=vanc |title=History of medicine: a scandalously short introduction |date=2010 |publisher=University of Toronto Press |location=Toronto [Ont.] |isbn=9780802098252 |pages=198–199 |edition=2nd |url= |deadurl=https://archive.org/details/historyofmedicin0000duff/page/198/mode/2up}}</ref>。

1656年、イギリスの[[建築家]][[クリストファー・レン]]卿と[[自然哲学者]][[ロバート・ボイル]]がこのテーマに取り組んだ<ref name=":2" />。「私は生きている犬にワインとエールを静脈から血の塊に注入した。酔っ払うまで大量に注入したが、すぐに尿に排出された」とレンが述べた。犬は生き延びて太り、後に飼い主から盗まれた。ボイルはこの記録の著者をレンとした<ref name=":2">{{Cite journal|last=Dagnino|first=Jorge|date=2009-10-01|title=Wren, Boyle, and the Origins of Intravenous Injections and the Royal Society of London|url=https://doi.org/10.1097/ALN.0b013e3181b56163|journal=Anesthesiology|volume=111|issue=4|pages=923–924|doi=10.1097/aln.0b013e3181b56163|issn=0003-3022}}</ref>。

イギリスの医師[[リチャード・ロウアー]]は、動物から動物へ、動物から人間への静脈内輸血({{仮リンク|異種輸血|en|xenotransfusion|redirect=1}})が可能であることを示した。彼は外科医{{仮リンク|エドモンド・キング|en|Sir Edmund King|redirect=1}}と協力して、精神を病んだ男性に羊の血液を輸血した。ロウアーは科学の進歩に興味があり、新鮮な血液を注入するか、古い血液を除去することで、この男性を救うことができると信じていた。輸血に同意してくれる人を見つけるのは難しかったが、精神異常の患者であるアーサー・コガが同意し、1667年11月23日に[[王立協会]]の会合でロウアーとキングによって輸血が行われた<ref name=":3">{{Cite journal|last=Felts|first=John H.|date=2000-03-07|title=Richard Lower: Anatomist and Physiologist|url=http://annals.org/article.aspx?doi=10.7326/0003-4819-132-5-200003070-00023|journal=Annals of Internal Medicine|volume=132|issue=5|pages=420|language=en|doi=10.7326/0003-4819-132-5-200003070-00023|issn=0003-4819}}</ref>。この輸血は「成功」だったとされる<ref name=":3" />。なお、同年のMajorによる発表では、[[注射針]]には[[ガチョウ]]の羽軸、薬液を入れる袋には豚の[[膀胱]]が静脈注射に用いられていた{{Sfn|飯野|2013|p=4}}。しかし、輸血による死亡例とそれに対する訴訟も起こり<ref name=":4">{{Cite journal|last=Deschamps|first=Jack‐Yves|last2=Roux|first2=Françoise A.|last3=Saï|first3=Pierre|last4=Gouin|first4=Edouard|date=2005-03|title=History of xenotransplantation|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1399-3089.2004.00199.x|journal=Xenotransplantation|volume=12|issue=2|pages=91–109|language=en|doi=10.1111/j.1399-3089.2004.00199.x|issn=0908-665X}}</ref>、フランス議会により1670年に輸血は禁止され、間もなくイギリス議会やローマ教皇もこれに追随した<ref name=":4" />。輸血が同種でなければ成功しないことがエジンバラの医師、ジョン・リーコックによって示されたのは1816年であった<ref name=":4" />。

1831年の[[エディンバラ|エジンバラ]]の医師{{仮リンク|トーマス・ラッタ|en|Thomas Latta|redirect=1}}による[[コレラ]]治療のための静脈内補液の使用まで、注射療法の試みで成功したという記録はほとんどなかった<ref name="Millam" /><ref>{{Cite journal |last=MacGillivray |first=Neil | name-list-style = vanc |year=2009 |title=Dr Thomas Latta: the father of intravenous infusion therapy |journal={{仮リンク|Journal of Infection Prevention|en|Journal of Infection Prevention|label=Journal of Infection Prevention}} |volume=10 |issue=Suppl. 1 |pages=3–6 |doi=10.1177/1757177409342141 |doi-access=free }}</ref>。静脈注射に広く使用されるようになった最初の溶液は、単純な「生理食塩水のような溶液」であり、その後、[[牛乳]]、[[砂糖]]、[[蜂蜜]]、[[卵黄]]など、様々な他の液体を用いた実験が行われた<ref name="Millam" />。1830年代、英国の産科医であった[[ジェームズ・ブランデル]]は、分娩中または分娩後に大量出血した女性の治療に血液の静脈内投与を行った<ref name="Millam" /><ref>{{Cite journal|last=Blundell|date=1829-06|title=OBSERVATIONS ON TRANSFUSION OF BLOOD.|url=https://doi.org/10.1016/S0140-6736(02)92543-2|journal=The Lancet|volume=12|issue=302|pages=321–324|doi=10.1016/s0140-6736(02)92543-2|issn=0140-6736}}</ref>。これは[[血液型]]が理解される以前のことであり、予測不可能な結果を招いた{{Efn|ABO血液型不適合の輸血が行われれば、重篤な全身状態に陥り、場合によっては死亡する<ref>{{Cite web |title=ABO Incompatibility Reaction: Causes, Risk Factors & Symptoms |url=https://www.healthline.com/health/abo-incompatibility |website=Healthline |date=2012-07-16 |access-date=2023-12-08 |language=en}}</ref>。}}。ラッタによるコレラ治療は先駆的であったが、普及せず、一般に再評価されるまで80年を要した{{Sfn|飯野|2013|p=4}}。

===近現代===
[[ファイル:Justinejohnstone 2b.jpg|サムネイル|[[ジャスティン・ジョンストン]]。点滴療法に関する研究で業績を残しただけでなく、舞台女優としても活躍した<ref>{{Cite web |title=Justine Johnstone – Broadway Cast & Staff {{!}} IBDB |url=https://www.ibdb.com/broadway-cast-staff/justine-johnstone-47120 |website=www.ibdb.com |access-date=2023-10-07}}</ref>。]]
[[ファイル:Werner Forssmann.jpg|左|サムネイル|[[ヴェルナー・フォルスマン]]が自分で自分に入れた人類初の[[中心静脈カテーテル]]の[[X線撮影|レントゲン写真]]]]
静脈内注射による薬剤投与は、1890年代後半にイタリアの医師{{仮リンク|グイード・バチェリ|en|Guido Baccelli|redirect=1}}によって[[マラリア]]や[[梅毒]]の治療法として広められ<ref>{{Cite journal|last=Hogner|first=Rich.|date=1895-06-27|title=Intravenous, Medicated Injections According to Prof. Guido Baccelli's Method|url=http://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJM189506271322602|journal=The Boston Medical and Surgical Journal|volume=132|issue=26|pages=636–640|language=en|doi=10.1056/NEJM189506271322602|issn=0096-6762}}</ref>、1930年代にサミュエル・ヒルシュフェルト、ハロルド・T・ハイマン、{{仮リンク|ジャスティン・ジョンストン|en|Justine Johnstone|redirect=1}}によってさらに開発された<ref>{{Cite book | last = Stanley | first = Autumn | name-list-style = vanc | title = Mothers and daughters of invention: notes for a revised history of technology | url = https://books.google.com/books?id=uRJt7QqA7GEC | access-date = 2011-06-05 | year = 1995 | publisher = Rutgers University Press | isbn = 978-0-8135-2197-8 | pages = 141–142 | quote = Wanger and colleagues had in effect invented the modern I.V.-drip method of drug delivery [...] }}</ref><ref>{{Cite web |first=Laura |last=Geggel |name-list-style=vanc |date=3 December 2012 |url=http://well.blogs.nytimes.com/2012/12/03/spotlight-on-a-rare-condition/ |title=A Royal Spotlight on a Rare Condition |work=[[ニューヨーク・タイムズ|The New York Times]] |access-date=2023-09-13}}</ref>。1915年頃から小児下痢症に輸液が治療として行われはじめ、死亡率が90%から10%に激減した{{Sfn|飯野|2013|p=4}}。

1950年、血管内にプラスチックカテーテルを留置する革新的な方法が報告された<ref name="mayo">{{Cite journal|last=Narr|first=Bradly J.|last2=Southorn|first2=Peter A.|date=1 October 2008|title=The Massa or Rochester Plastic Needle|url=https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(11)60624-1/fulltext|journal=Mayo Clinic Proceedings|volume=83|issue=10|pages=1165–1167|language=en|accessdate=16 April 2019|DOI=10.4065/83.10.1165|PMID=18828978|ISSN=0025-6196}}</ref>。それは[[メイヨー・クリニック|メイヨークリニック]]の麻酔科研修医デービッド・マッサ (David J. Massa、1923-1990)によるもので、カテーテルの内側に金属針を入れ、金属針もろとも血管内にカテーテルを入れ、金属針は抜去するというものであった<ref name="mayo" />。それまでは血管内に薬液を注入する方法は3つあったが、いずれも欠点を抱えていた<ref name="mayo" />。1つは[[カットダウン]]、すなわち小手術で皮膚を切開して血管を直視下で切開し、カテーテルを留置するものであるが、患者の苦痛が大きかった<ref name="mayo" />。もう一つはカテーテルでは無く、金属針で血管を穿刺し、血管内に留置し続けるものであったが、針が血管を傷つけないよう患者は大きな運動制限を強いられ、それでも点滴漏れのためにしばしば再穿刺が必要となった<ref name="mayo" />。3つめは血管を穿刺して針の中からカテーテルを入れるというものであったが、細いカテーテルしか入れられず、針穴がカテーテルよりも大きいので点滴漏れが起こりやすかった<ref name="mayo" />。

静脈注射の制限として、高濃度の栄養剤<ref name=":14">{{Cite web |title=中心静脈栄養(TPN) {{!}} 輸液と栄養 |url=https://www.otsukakj.jp/healthcare/iv/tpn/ |website=大塚製薬工場 |access-date=2023-12-10}}</ref>や抗がん剤<ref>{{Cite web |title=抗がん剤について|化学療法サポート |url=http://chemo-support.jp/anticancer-drugs/ |website=chemo-support.jp |access-date=2023-12-10}}</ref>などは末梢静脈から投与した場合は、血管を痛めてしまう問題があった。このような薬剤の投与経路には血液流量の多い[[中心静脈]]が向いている<ref name=":14" />。1929年、[[ドイツ]]の[[外科学|外科]][[研修医]][[ヴェルナー・フォルスマン]]が、プラスチック製の[[尿道カテーテル]]を自分の左腕の{{仮リンク|尺側皮静脈|en|Basilic vein|redirect=1}}に挿入し、[[右心房]]まで到達させた(初のヒトでの[[中心静脈カテーテル]])<ref name=":7">{{Cite journal|last=Mueller|first=Richard L.|last2=Sanborn|first2=Timothy A.|date=1995-01-01|title=The history of interventional cardiology: Cardiac catheterization, angioplasty, and related interventions|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0002870395900551|journal=American Heart Journal|volume=129|issue=1|pages=146–172|language=en|doi=10.1016/0002-8703(95)90055-1|issn=0002-8703}}</ref>。しかし、上司に無許可であったために叱責され、彼は病院を解雇されてしまった<ref name=":7" />。だが、この手技の医学上の貢献が後に評価され、1956年に[[ノーベル医学賞]]を授与された<ref>{{Cite web |title=耳寄りな心臓の話(第5話)『わが身にカテーテルを通す』 |はあと文庫|心日本心臓財団刊行物|公益財団法人 日本心臓財団 |url=https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/05.html |website=www.jhf.or.jp |access-date=2023-04-13}}</ref><ref name=":12">{{Cite book|和書 |title=ICUブック |url=https://www.worldcat.org/oclc/931498024 |publisher=メディカルサイエンス・インターナショナル |date=2015 |location=東京 |isbn=978-4-89592-831-1 |oclc=931498024 |first=Paul L. |last=Marino |edition=第4版 |translator=稲田英一 |page=3}}</ref>。

フォルスマンの貢献により、静脈内注射で使用できる薬剤と血管の選択肢が広がったが、中心静脈にカテーテルを入れるためには小手術で目標血管そのものに直接カテーテルを入れるか、太い針で血管を穿刺して、その中からカテーテルを入れる必要があった。1953年、[[スウェーデン]]の[[放射線医学|放射線科医]]、{{仮リンク|スヴェン・イヴァー・セルディンガー|en|Sven Ivar Seldinger}}が血管を細い針で穿刺して、その中からまず、ワイヤーを留置し、そのワイヤーをガイドにして太いカテーテルを入れる手技を開発し、これによって中心カテーテル留置の安全性と確実性が高まった<ref name="Seldinger">{{Cite journal|last=Seldinger SI|year=1953|title=Catheter replacement of the needle in percutaneous arteriography; a new technique|journal=Acta Radiologica|volume=39|issue=5|pages=368–76|DOI=10.3109/00016925309136722|PMID=13057644}}</ref>。

{{Main|セルディンガー法}}

1950年代から60年代はじめにかけて、日本で現在でも使用されている'''ソリタ'''方式の輸液が東京大学小児科と[[清水製薬]]により開発・発売された<ref>{{Cite web |title=小児を救った命の水~輸液療法と「ソリタ」‐T輸液開発の物語|お役立ちトピックス|医療関係の皆様|栄養ケア食品サイト|味の素株式会社 |url=https://www.ajinomoto.co.jp/nutricare/medical/topicks/sorita3.html |website=www.ajinomoto.co.jp |access-date=2023-12-07}}</ref>{{Sfn|飯野|2013|p=5}}。1960年代には、必要な栄養をすべて点滴で補給するというコンセプトが真剣に検討され始めた。最初の静脈栄養は、[[タンパク加水分解物]]およびブドウ糖から成っていた<ref name="Millam" />。これに続いて1975年に、[[完全静脈栄養]]、すなわちタンパク質、脂肪、および炭水化物を含む栄養剤を形成するために添加される静脈内{{仮リンク|脂肪乳剤|en|fat emulsion|redirect=1}}およびビタミンが開発された<ref name="Millam" />。

1970年代から1980年代にかけて、プラスチック製カニューレの使用が日常化し、その挿入は看護スタッフに委ねられることが多くなった<ref name="Rivera">{{Cite journal|date=2005|title=The history of peripheral intravenous catheters : How little plastic tubes revolutionized medicine|journal=Acta Anaesthesiol. Belg.|volume=56|issue=3|pages=271–82|PMID=16265830}}</ref>。日本においては、1951年の厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)以降、保健師助産師看護師法上、看護師が業務として行えなかった<ref name=":18">{{Cite web |title=・看護師等による静脈注射の実施について(◆平成14年09月30日医政発第930002号) |url=https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6758&dataType=1&pageNo=1 |website=www.mhlw.go.jp |access-date=2023-12-11}}</ref>が、2002年の行政通達により、「診療の補助」として看護師が行えるものと明文化された<ref name=":18" /><ref>{{Cite journal|author=小沼敦|year=2007|title=看護師の業務範囲についての一考察 ―静脈注射と産婦に対する内診を例に―|url=https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999716_po_068010.pdf?contentNo=1|journal=レファレンス|issue=平成19年9月号|page=10}}</ref>。それまでは、看護師が静脈注射をする状況が既成事実化しており、実態と法解釈がかけ離れている状況が長く続いていた<ref>{{Cite news|和書 |title=看護師の静脈注射OK 厚労省 |newspaper=朝日新聞 |date=2002-07-25 |edition=朝刊 3社会}}</ref>。

静脈注射は高濃度の薬剤を直接血管内に投与できることから、抗生物質の投与にも頻用されてきたが、血管内と体外を貫通するカテーテルの存在そのものが細菌の侵入経路となり、感染症のリスクである<ref name=":13">{{Cite journal|和書 |author=鈴木正彦 |year=2017 |url=https://doi.org/10.11638/jssmn.51.5_225 |title=輸液ラインのリスク・マネジメント |journal=外科と代謝・栄養 |volume=51 |issue=5 |pages=225-233 |doi=10.11638/jssmn.51.5_225 |publisher=日本外科代謝栄養学会}}</ref>。とりわけ、複数の薬剤を1つのカテーテルから投与する際に頻用されてきた三方活栓は細菌汚染のリスクが高いことが1980年代に報告された<ref name=":13" />。以降は三方活栓を有さない注入ポートのみを有する点滴セット(クローズドシステム)が開発され、用いられるようになってきている<ref name=":13" />。そして、合併症を防ぐためにカテーテルは不要になり次第、速やかに抜去することが推奨されている<ref>{{Cite web |url=https://www.safetyandquality.gov.au/standards/clinical-care-standards/management-peripheral-intravenous-catheters-clinical-care-standard/quality-statements/remove-safely-and-replace-if-needed |title=Remove safely and replace if needed |access-date=2024-10-23 |publisher=Australian Commission on Safety and Quality in Health Care}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|colwidth=30em}}

==参考文献==
* {{Cite book|洋書 |title=Lippincott's nursing procedures. |date=2009 |publisher=Lippincott Williams & Wilkins |location=Philadelphia |isbn=978-0781786898 |edition=5th |url=https://archive.org/details/lippincottsnursi0000unse/mode/2up?view=theater |year=2009 |author=Kowalak |ref=harv |first=Jennifer P. |last=Kowalak}}
* {{Cite book|和書 |title=ICUブック |date=2015-11-30 |publisher=メディカルサイエンスインターナショナル |isbn=4895928314 |edition=第4版 |author=Paul L. Marino |translator=稲田英一}}
* {{Citebook|和書 |title=ミラー麻酔科学 |date=2007-04-01 |year=2007 |publisher=メディカルサイエンスインターナショナル |ref=harv |last=Miller |first=Ronald |translator=[[武田純三]] |isbn=9784895924658}}
* {{Citebook|和書 |title=一目で分かる輸液 |date=2013-05-30 |year=2013 |publisher=メディカル・サイエンス・インターナショナル |edition=第3版 |ref=harv |last=飯野 |first=靖彦 |isbn=9784895927475}}

== 関連文献 ==

* {{Cite book |last1=Marino |first1=Paul L. |name-list-style= |title=Marino's the ICU book |year=2014 |chapter= |publisher=LWW |location=Philadelphia |isbn=978-1451121186 |edition=Fourth|洋書 |ref=harv}}
* {{Citebook|洋書 |title=Infusion theapy in clinical practice |year=2001 |publisher=W.B.Saunders |isbn=0-7216-8716-4 |last=Hankins |first=Judy |edition=2nd |ref=harv}}
* {{Citebook|洋書 |title=Standards for Infusion Therapy |year=2016 |publisher=Royal College of Nursing |isbn=978-1-910672-70-9 |archive-url=https://web.archive.org/web/20180903205051/https://www.rcn.org.uk/-/media/royal-college-of-nursing/documents/publications/2016/december/005704.pdf?la=en&hash=37F253A9C126155D23B5AC6A6C719C8521BECF81 |author=Royal College of Nursing |edition=4th |ref=harv |url=https://www.rcn.org.uk/-/media/Royal-College-Of-Nursing/Documents/Publications/Obselete/005704.pdf |archive-date=2018-09-03}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[注射]]
* [[投与経路]]
* [[静脈路確保]]
* [[輸液]]
* [[輸血]]
* [[高カロリー輸液]]
* [[バクスターの公式]]
* [[バクスターの公式]]
* {{仮リンク|ニードルレスコネクタ|en|Needleless connector|redirect=1}}
* [[:en:Central venous catheter]]
* {{仮リンク|Rehydrex|en|Rehydrex|label=Rehydrex}}- 海外で販売されている{{仮リンク|血漿増量剤|en|Volume expander|redirect=1}}の一種
* [[:en:Peripheral parenteral nutrition]]
* [[:en:Peripherally inserted central catheter]]
* [[:en:Total parenteral nutrition]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク==
{{Commonscat|Intravenous therapy}}
{{Commonscat-inline|Intravenous therapy}}
* {{Kotobank |word=点滴注射}}
* {{Kotobank |word=輸液}}
* [https://www.jspen.or.jp/ 日本静脈経腸栄養学会 (JSPEN)]
* [https://www.jspen.or.jp/ 日本静脈経腸栄養学会 (JSPEN)]
{{Intravenous therapy}}{{剤形}}{{麻酔}}{{救急医学}}{{集中治療医学}}{{Normdaten}}

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2024年11月26日 (火) 12:19時点における最新版

静脈注射
治療法
Photo of a person being administered fluid through an intravenous line or cannula(英語版) in the arm
静脈ライン(静脈路)からボーラス注射を受けている。
シノニム 点滴
ICD-9-CM 38.93
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静脈注射(じょうみゃくちゅうしゃ、: intravenous injection、英略語: IV[1])は、静脈に直接水分や薬物、栄養素等を投与する医療技術である。意識レベルの低下などにより、経口(英: per os、英略語: p.o.)英語版で食物や水を摂取できない、あるいは摂取しようとしない人への水分・栄養補給に用いられる投与経路のひとつである。また、血液製剤電解質異常を是正するための電解質など、薬物投与やその他の治療にも使用される。投与速度や投与機器により、速い順にポンピング、ボーラス注射(単に注射とも)、点滴静脈注射、持続注入に分類される。本稿では、静脈注射に関わる事物について概説する。

概要

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静脈内投与は、薬剤や補液英語版循環系に直接導入され、速やかに全身に行き渡るため、最も早く投与できる方法である。従って、外傷手術時の出血に対する、輸液輸血の投与経路に適している。また、一部のレクリエーショナルドラッグ英語版の摂取にも静脈内投与が用いられている。多くの治療薬は"ボーラス投与"すなわち1回で急速投与されるが、持続注入(シリンジポンプによる)または点滴(自然滴下又は輸液ポンプによる)として投与されることもある。薬剤を静脈内に投与する行為、または後で使用するために静脈ラインを留置する行為は、医療従事者のみが行うべき手技である。最も単純な静脈路は、注射針皮膚を貫通させて静脈に入れ、注射器または点滴セットに接続するというものである。これを用いて目的の治療を行う。注射針では静脈に外傷が生じる危険性があるため、患者が短期間に何度もこのような治療を受ける可能性がある場合は、一方の端を静脈内に入れるカテーテルを挿入し、もう一方の端にチューブを接続してその後の治療を容易に行うことができる。この一繋がりのチューブを点滴セット、ないしは輸液セットと呼ぶ。これを用いるのが一般的な静脈内投与方法である。場合によっては、同じ点滴セットを通して複数の薬剤や治療介入を行うこともある。点滴セットの中間には三方活栓と呼ばれる切り替えバルブがあり、そこから薬剤を注入したり、他の点滴セットを連結できる。

カテーテルの終点が心臓に近い太い静脈であれば「中心静脈ライン」、腕など末梢の細い静脈であれば「末梢静脈ライン」に分類される。カテーテルは末梢静脈から心臓の近くまで通すこともでき、これは末梢挿入型中心静脈カテーテル英語版または略称でPICCラインと呼ばれる。長期的な点滴治療が必要な場合は、静脈に何度も穴を開けなくても静脈に何度も簡単にアクセスできるように、ポートを埋め込むこともある。また、カテーテルを胸部から距離の離れた首の静脈鎖骨の下の静脈に挿入することもあり、これは皮下トンネルという。使用するカテーテルの具体的な種類と挿入部位は、投与したい物質と挿入希望部位の静脈の健康状態に左右される。

静脈へのカテーテルの挿入は、必然的に皮膚に穴を開けることになるため、痛みを伴うことがある。感染症や炎症(静脈炎と呼ばれる)も、一般的な副作用である。静脈炎は、同じ静脈を繰り返し静脈注射に使用する場合に起こりやすく、最終的には静脈が注射に適さない硬い索状物になることもある。静脈外への治療薬の意図しない投与は、点滴漏れと呼ばれ、他の副作用を引き起こすことがある。

静脈注射の試みは、1400年代にはすでに記録されていたが、広く行われるようになったのは、安全で効果的な使用法が開発された1950年代になってからであった。1900年代初頭に、静脈からの輸液や薬剤の注射による治療効果が確かめられ、1950年代にカテーテルの血管内留置手技と必要な器材が確立された。静脈内カテーテルは有効な医学的治療手段であり続けたが、カテーテルの刺入部や三方活栓は細菌の増殖・侵入経路でもある。従って、近年は三方活栓そのものや三方活栓のフタを廃した感染リスクの低い点滴セット(クローズドシステム)が用いられるようになってきている。

器材

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注射針

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静脈路確保の最も単純な方法は、注射針を皮膚から直接静脈に刺す方法である。この針に注射器を直接接続することで、「ボーラス投与」、すなわち、薬剤の単回急速投与が可能になる。あるいは、カテーテルを留置してからチューブに接続し、点滴を行うこともできる[2]。 静脈路の種類と場所(すなわち、中心ライン末梢ラインか、どの静脈にラインを留置するか)は、末梢静脈への循環を制限する末梢血管収縮を引き起こす薬剤であるかどうかによって影響を受ける[3]

カテーテル・カニューレ

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18ゲージ末梢静脈カテーテルを挿入する看護師上腕駆血帯で縛って静脈を浮き出させている。

金属製の針ではなく、合成樹脂製の柔らかいカテーテル(又はカニューレ英語版とも呼ばれる)も良く用いられる。末梢静脈カテーテルは、病院内プレホスピタルケア、および外来診療で利用される最も一般的な静脈アクセス法である[4]。カニューレは腕、一般的には手首または肘正中静脈英語版に留置する[4]駆血帯は、手足の静脈からの血液流出を制限し、静脈を膨らませて、静脈の位置を確認しやすくし、静脈にラインを留置しやすくするために使用される[4]。駆血帯を使用する場合は、薬剤の注入前に駆血帯を外し、血管外漏出英語版を防ぐ。カテーテルの皮膚の外側に残る部分は接続ハブと呼ばれ、注射器や点滴セット(後述)と接続したり、ヘパリン添加生理食塩水または単なる生理食塩水で「ロック」される[4]。ロックとは、カテーテルを使用しない間に、カテーテル内での血液凝固によるカテーテル閉塞を防ぐために、上述の輸液をカテーテル内で陽圧充填した状態でカテーテルに「フタ」をしておくものである[4]。ポート付きカテーテルは上部に注入ポートがあり、しばしば薬剤の投与に使用される [4]

針とカテーテルの太さ、大きさの規格には、バーミンガム・ゲージフレンチ・ゲージがある[5]。バーミンガムゲージの14は相当太いカテーテル(心肺蘇生用)であり、24~26は最小である[5]。最も一般的なサイズは、16ゲージ(献血輸血に使用される中型ライン)、18ゲージおよび20ゲージ(輸液や採血用の汎用ライン)、22ゲージ(小児用の汎用ライン)である[5]。12~14ゲージの末梢ラインは、大量の輸液を迅速に行うことができるため、救急医療で人気がある[5]。これらのラインは、しばしば「大径(large bore)」または「外傷ライン(trauma line)」と呼ばれる[5]

翼状針

翼状針

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翼状針(よくじょうしん)は注射針と薬液投与用のチューブが一体となったものである[6][7]。金属針を体内に留置するため、点滴漏れが起こりやすく[8]、長時間の留置には不向きだが、短時間の処置に用いられている[6]。採血専用の製品もある[9]

点滴セット

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輸液に接続された点滴セット。輸液バッグに接続する針からカテーテルに接続する部分まで加工・滅菌済みの製品が用いられている[10]ドリップチャンバー英語版は輸液の袋の下部にあり、輸液の滴下を確認できるようになっているk。

輸液容器と、カテーテルとの間を繋ぐ器材を点滴セット(又は輸液セット)と呼ぶ[11]。薬液ボトルに刺入される針と、合成樹脂製のチューブ、留置針に接続するためのコネクタが一体となっている[12]。輸液や留置針に接続する際は、感染を防ぐために、無菌操作が要求される[13]。輸液のための点滴ラインの設置および管理に使用される機器は、通常、患者の身長より高い位置に吊るされた輸液バッグと、薬剤を投与するための滅菌チューブの点滴セットで構成されている[14]。基本的な "自然滴下"点滴では、バッグを人の背丈より高い位置に吊るし、静脈に刺した針に取り付けたチューブを通して薬液を重力で滴下するだけである[14]。追加の装置がなければ、投与速度を正確に制御することはできない。このため、流量を調節するためのクランプを組み込んだ点滴セットもある[14]。点滴セットには、「Y管英語版」と呼ばれる、同じラインを通して他の輸液を投与できるパーツ(側管とも呼ばれる)が組み込まれている場合もある[14]空気塞栓の原因となる空気の血流への流入を防ぎ、滴下流量を視覚的に推定できるドリップチャンバー英語版を採用しているシステムもある[14]。点滴セットは60滴で1mlのものと20滴で1mlのものと2種類の規格が存在し、前者や一般に小児用、後者は成人用と呼称される[15]

三方活栓

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点滴チューブに接続された三方活栓(蓋付き)。

点滴セットの途中からは他の薬剤を投与したり、別の点滴セットを接続するための開口部(ポート)が存在するが、非使用時は切り替えバルブで開口部が閉鎖されるようになっている[15]。この部分を三方活栓という[15]。医療現場では略語の三活が用いられることもある[16]。さらに開口部に汚染防止のためのフタがついていることもあるが、フタと三方活栓との間隙が清掃困難であるために、むしろ汚染しやすいとされ[17]、フタや三方活栓そのものが撤廃されて注入用のポートのみを有する点滴セットが主流となりつつある[18]

側管

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輸液と同時に静脈内投与する追加の薬剤は、点滴キットに三方活栓から接続することができる。これは側管と呼ばれる[19]。主管の輸液は、側管の輸液をチューブから洗い流すために必要である[20]。ボーラス輸液または側管の輸液を主管の輸液と同じラインで投与する場合は、溶液の配合の適合性を考慮する必要がある[20]。この配合の適合性の問題は「配合変化」と呼ばれ[21]、配合を回避すべき場合は「配合禁忌」と呼ばれる[22]。配合禁忌は、分子安定性の問題、溶解度の変化、または一方の薬剤の分解によって生じる可能性がある[20]

輸液ポンプ/シリンジポンプ

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輸液ポンプシリンジポンプを使用すると、流量と総輸液量を正確に制御することができる[14]。輸液ポンプは、投与する輸液の数と大きさに基づいてプログラムされ、点滴が空にならないように、すべての薬液が完全に投与されるようにする[14]。輸液ポンプは主に、一定の流量が重要な場合、または投与速度の変化が臨床上、有意な結果を生じる場合に利用される[14]。 シリンジポンプは薬剤注入精度が非常に高い[23]集中治療室などの高度医療において必要不可欠の機器である[23]


薬剤、輸液の投与方法の速度による分類

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輸液や輸液の急速注入に用いられるレベル1TM急速注入システム。

ポンピング

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外傷や手術などで発生する大量の出血による循環血液量減少を補うため、三方活栓に接続した注射器で輸液や輸血を点滴セットから吸引し、それを患者方向に押し込む操作を繰り返すことで、高速で輸液、輸血を行う手技である[24][25]。点滴回路の最も細い部分である留置針カテーテルが律速部分となるため、大量出血のリスクがある患者では、これらは太いものであるのが望ましい[26]。三方活栓や注射器による操作を介さずに器械によって高速で輸液や輸血を行う方法もあり、これは急速注入(Rapid Infusion)と呼ばれる[27]。注入の流速はカテーテルの半径の4乗と圧較差の積に比例し、カテーテル長と輸液の粘性に反比例する[28]。22ゲージ、1.16インチの留置針では1mの点滴高さでの流速は36mL/分だが、8.5Fr、10cmのシースイントロデューサーでは130mL/分に達する[28]

ボーラス

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一部の薬剤はボーラス投与が可能で、これは「ワンショット」とも呼ばれる[29]。薬剤を入れたシリンジを静脈ラインの三方活栓に接続し、薬剤を投与する[20]。ボーラスは、急速に投与することもあれば(注射器の注射桿を素早く押し込む)、数分かけてゆっくりと投与することもある[20]。正確な投与手技は、薬剤やその他の要因によって異なる[20]。場合によっては、ボーラスの直後に「プレーン」の輸液(すなわち、薬剤を添加していない輸液)を投与して、薬剤をさらに点滴の中で推し進めて血流に送り込む。この処置は「フラッシュ」と呼ばれる[注釈 1][31]。フラッシュに生理食塩水を用いる場合は生食フラッシュ英語版と呼ばれる[31]塩化カリウムなど一部の薬剤は、血中濃度の急上昇に伴う毒性が高いため、ボーラスでは投与できない[20]

点滴静脈注射

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比較的量の多い、薬液、栄養剤、輸血などを長時間かけて、一滴ずつ静脈内に投与する方法である[32]。略称として点滴静注、点滴注入、点滴など[32]。英略語はDIV[33]。点滴という言葉は元来は水滴の意味として、1533年頃に杜牧の「夜雨詩」で用いられている[34]。1872年の「医語類聚〈奥山虎章〉」で、「Instillation 点滴法」とあるが、これは蘭学系の訳語である可能性が高いとされる[34]

点滴は、βラクタム系を含む一部の抗生物質のように、薬剤の血中濃度を長期にわたって一定に保つことが望ましい場合に行われることがある[35]。血中薬物濃度の変動(すなわち、ピーク薬物濃度トラフ薬物濃度の変動)を抑制するために、前の輸液が終了した直後に次の輸液を開始することもある[35]。また、利尿薬フロセミドのように、同じ理由で間欠的なボーラス注射の代わりに点滴投与が行われることもある[36]。間欠的、すなわち一定時間おきの点滴は、長時間の薬液の安定性に懸念がある場合や、抗生物質バンコマイシンなど、同じ静脈ラインで同時に投与すると配合禁忌のある医薬品を投与できるようにする場合に行われることがある[37]

持続注入

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他の呼び名として、持続静注、持続静脈内投与、持続点滴など[38]。Continuous Intravenous Infusionより、英略語はCIV[38]。1時間に数mlなど、微量の薬液を正確に投与できる機器、シリンジポンプを用いる。新生児や未熟児で静脈注射が必要な場合、身体の大きさが小さいので持続注入が行われることが多い[39][40]カテコラミンなど、作用が非常に強力で流量の厳密な制御が必要となる薬剤の投与にも頻用される[41]。シリンジポンプによって投与される薬剤の中には短時間の中断でも生命維持に支障を来すものが多いため、薬液の補充・交換には熟練を要する[41]

静脈アクセスの種類

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注射針やカテーテルを留置する静脈は末梢静脈と中心静脈に大別されるが、末梢ラインのように数日しか留置されないものから、ポートやトンネル型カテーテルのように年単位で留置[42][43]されるものまで様々である。

末梢ライン

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小児では、手、足、または肘窩英語版静脈路確保を行う際に四肢を固定するためにアームボードを使用することが推奨される[44]

末梢静脈カテーテルは、腕、手、足などの末梢静脈に挿入する[2]。この方法で投与された薬剤は、静脈を通って心臓に到達し、そこから循環系を通じて全身に行き渡る。末梢静脈の太さにより、安全に投与できる薬剤の量と速度が制限される[45]。末梢ラインは、皮膚から末梢静脈英語版に挿入される短いカテーテルで構成される[2]。これは通常、金属製の内針英語版に柔軟なプラスチック製の外筒英語版が被さった形状である[2]。外筒と内針の先端を合わせたら、両者を静脈内の適切な位置まで進め、固定する。その後、内針を引き抜いて廃棄する[2]。最初の外筒挿入後、そこから直接採血することもある[2]

Labelled computer-drawn illustration of parts of an inserted non-tunneled central intravenous line
非トンネル型中心静脈カテーテルの図解

中心静脈ライン

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中心静脈ラインは、カテーテルがより太い中枢側の静脈(胴体内の静脈)、通常は上大静脈下大静脈、または心臓の右心房に挿入される静脈アクセスである[46]。中心静脈アクセスにはいくつかのタイプがあり、カテーテルが体外からいわゆる中心静脈に到達する経路に基づいて分類される[46]。中心静脈カテーテルからは、大量輸液、高張液、血管障害性の薬剤、高カロリー輸液などを投与することができる[7]

PICCライン

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末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter)英語版(PICCライン、ピックラインとも呼ばれる)は、中心静脈カテーテルの一種であり、シースを通して末梢静脈に挿入されたカテーテルを心臓に向けて慎重に送り、上大静脈または右心房に末端を留置する[47]。これらのラインは通常、腕の末梢静脈に留置され、超音波ガイド下でセルディンガー法を用いて留置されることもある[47]。挿入時に透視を行わなかった場合は、カテーテルの先端が正しい位置にあることを確認するためにX線検査が行われる[47]。カテーテルの先端が正しい位置にあるかどうかを判断するために、心電図で判断する場合もある[47]

トンネル型カテーテル

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Photograph of an inserted Hickman line, which is a type of tunneled catheter, inserted in the chest.トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンラインを胸部に挿入した写真。トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンラインを胸部の皮膚から挿入し、トンネル状にして喉の頸静脈に挿入する。
トンネル型カテーテルの一種であるヒックマンカテーテルは、胸部の皮膚から挿入し、首の静脈(内頚静脈)に挿入する。

トンネル型カテーテルは中心静脈カテーテルの一種で、皮膚の下に挿入されてから中心静脈に到達するまでにかなりの距離がある。トンネル型ラインを使用すると、皮膚表面の細菌が静脈内に直接移動できないため、他の静脈アクセスと比較して感染のリスクが低下する[48]。トンネル型中心静脈ラインには、ヒックマンカテーテル英語版やブロビアックカテーテルなどがある[49]。トンネル型ラインは、腎機能が低下した人血液透析に必要な長期静脈アクセスの選択肢である[50]

埋め込み型ポート

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埋め込み型ポートとは、薬剤投与のための皮膚から突出する外部コネクタを持たない中心ラインのことである[51]。その代わり、ポートはシリコンゴムで覆われた小さなリザーバーで構成されており、このリザーバーを皮下に埋め込む[51]。薬剤の投与は、皮膚とシリコン製のポートカバーを通してリザーバーに薬剤を注入することによって行われる[51]。注射針が抜かれると、リザーバーカバーは自ら再密閉する[51]。ポートカバーは、その寿命の間、1000-2000回の注射針刺入に対して機能するように設計されている[52][53]。ポートは腕または胸部の皮下に局所麻酔下の小手術で留置される[52][54]

適応

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医学的な適応

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Photograph of an intravenous line inserted in the wrist.
Photograph of two intravenous solution bags hanging from a pole.
左: 手首に留置された静脈ライン。 右: 点滴棒に吊るされた2つの輸液バッグ。

静脈注射は、全身に投与しなければならない薬剤[55]や補液の投与、特に迅速な投与が必要な場合に行われる。肝臓での初回通過効果代謝を回避できる[55]静脈内に注入できる物質には、血漿増量剤英語版血液製剤、薬剤、栄養剤などがある[7]

輸液

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輸液は、「血漿増量剤英語版[56]または体液補充の一環として、静脈内から投与されることがある[57]。輸液は、晶質液英語版膠質液に大別される[57]。晶質液は、ミネラルやその他の水溶性分子の水溶液である[57]。膠質液はゼラチンのような大きな不溶性分子を含む[57]。血液そのものは膠質液と考えられている[58]

最も一般的に使用される晶質液は、0.9%濃度の塩化ナトリウム溶液である生理食塩水で、血液と等張英語版である[59]。血液は弱アルカリ性であり[60]、アルカリ化剤が添加されている乳酸リンゲル液[60]も体液補充に頻用され[61]ショックの患者によく用いられる[62]。膠質液は血液中の膠質浸透圧を高く保つが、晶質液では血液希釈のために膠質浸透圧が低下する[59]。晶質液は膠質液よりも一般的にかなり安価である[59]。  

アシドーシスを是正するために使用される緩衝液も、静脈内投与される[63]。緩衝液として静脈内投与される溶液には、炭酸水素ナトリウム注射液英語版がある[64]

薬物療法と治療

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Photograph of two intravenous solution bags (containing glucose and levofloxacin, respectively) and a paper log sheet hanging from a pole.
2つの点滴バッグ(それぞれブドウ糖溶液と抗生剤のレボフロキサシンが入っている)と点滴棒に吊るされた紙の記録用紙の写真

医薬品は一般的に生理食塩水やブドウ糖溶液に混和されて投与されることもある[65]混注と呼ばれる[66])。

経口薬など他の投与経路と比較すると、静脈内投与は輸液や薬液を全身に最も速く送達する方法である[67]。極度の高血圧(高血圧緊急症と呼ばれる)では、臓器障害を防ぐために血圧をコントロールしながら速やかに低下させるために、降圧剤の静脈注射が行われることがある[68]心房細動では、正常な心臓のリズムを回復させるためにアミオダロンの静脈内投与が行われることがある[69]バンコマイシンのように、血液中の薬物濃度をより迅速に高めるために、投与レジメンを開始する前に薬のローディング用量またはボーラス量を投与する場合もある[70]

薬物が十分に吸収されなかったり、血流に入る前に代謝されたりする可能性がある経口投与とは異なり、静脈内投与のバイオアベイラビリティは定義上100%である[65]。薬によっては、経口バイオアベイラビリティがほとんどないものもある[71]。ある種の薬剤は静脈注射でしか投与できない。他の投与経路では十分な吸収が得られないからである[72]。例えば、重度の脱水症の場合、早期回復のために静脈内投与による治療が必要となる[73]フロセミドのように、経口薬のバイオアベイラビリティが人によって予測できないことも、静脈内投与が必要な理由である[74]。また、吐き気や嘔吐がある場合、下痢がひどい場合などは、薬が消化管から十分に吸収されない可能性があるため、経口薬はあまり好ましくない。このような場合、患者が経口剤に耐えられるようになるまで、静脈内投与を行うことがある[75]。静脈内投与から経口投与への切り替えは、一般的に静脈内投与よりも費用と時間の節約になるため、通常は可能な限り早く行われる[76]。薬剤を経口剤に変更できる可能性があるかどうかは、病院内で使用する適切な抗生物質療法を選択する際に考慮されることがある。静脈注射が必要な場合は、退院できる可能性は低いからである[77]

アプレピタントなど一部の薬剤は、静脈内投与に適した形に化学的に修飾され、ホスアプレピタントなどのプロドラッグとなっている。これは薬物動態学的な理由や、活性型に代謝されるまで意図的に薬効を遅らせるためである[78]

血液製剤

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血液製剤とは、輸血に使用するために供血者から採取される血液のあらゆる成分のことである[79]。輸血は、外傷による大量出血の際に使用されたり、手術中に失われた血液を補うために使用されたりする。輸血は、血液疾患による重度の貧血や血小板減少症の治療にも行われる。初期の輸血は全血から成っていたが、現代の医療では、一般的に、赤血球濃厚英語版新鮮凍結血漿英語版またはクリオプレピシテート英語版などの成分輸血のみが使用される[80]代替血液は研究段階に留まっており、少なくとも2022年時点では実用化されていない[81][82][83]

栄養

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このドイツの病院の集中治療室の患者は、以前に腹部の外科手術を受け、重度の敗血症を合併したため、食事ができなかった。抗生物質中心静脈栄養鎮痛剤シリンジポンプ(背景右側)により持続注射された。

静脈栄養とは、必要な栄養素を静脈ラインから投与することである。これは、食事消化によって栄養を摂取することができない人に行われる。静脈栄養を受けている人には、塩類ブドウ糖アミノ酸脂質ビタミンなどを含む静脈栄養剤が投与される。使用される静脈栄養剤の正確な処方は、投与される人の特定の栄養ニーズによって異なる。栄養を静脈内にのみ投与する場合は、完全静脈栄養(: Total Parenteral Nutrition: TPN)と呼ばれ、栄養の一部のみを静脈内に投与する場合は、部分静脈栄養法(: Partial Parenteral Nutrition: PPN)または補完的静脈栄養法(: Supplemental Parenteral Nutrition: SPN)と呼ばれる[84]

画像診断

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医用画像診断は、体内の部位を互いに明確に区別できることに依存している。これを実現する方法の1つが、静脈への造影剤の投与である[85]。採用する特定の画像診断技術によって、血管やその他の構造物をより鮮明に映し出すための適切な造影剤の特性が決定される。一般的な造影剤は末梢静脈に投与され、そこから循環系全体に分布して撮影部位に到達する[86]

他の用途

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スポーツ

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点滴による水分や栄養の補給は、以前からアスリートにとって一般的な手法であったが[87]、医学的なメリットに乏しく[88]、競技におけるドーピング規定に違反する可能性がある[87]。だが、2022年時点でも、点滴をスポーツ目的で行わないよう、啓蒙し続ける必要がある状況である[87]世界アンチ・ドーピング機構は、医学的免除がある場合を除き、12時間あたり100mLを超える静脈注射を禁止している[88]アメリカアンチドーピング機構英語版は、点滴注射が禁止物質使用や検査結果を、隠蔽する目的で行われる可能性があると指摘している[88]。この種の治療を提供する「ブティック静注クリニック」に通って出場停止処分を受けた選手には、2017年のサッカー選手サミル・ナスリ[89]、2018年の水泳選手ライアン・ロクテがいる[90]

二日酔い治療

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1960年代、米国メリーランド州の医師ジョン・マイヤーズは「マイヤーズカクテル」を開発した[91]。これはビタミンとミネラルを配合した非処方箋の点滴で、二日酔いの薬英語版滋養強壮薬として販売されていた[92]。同様の治療を提供する初の「静注ブティック」クリニックが2008年に東京に開業した[92]。このようなクリニックは、ELLE (雑誌)にその顧客が「裏の顔は大酒飲みの健康オタク」と評され、2010年代には華やかなセレブの顧客によって宣伝されている[92]。点滴療法はまた、急性アルコール中毒の人々に、アルコール摂取によって生じる電解質とビタミンの欠乏を是正するために使用されている[93]。これらの輸液は黄色なのでバナナバッグ英語版と呼ばれることもある[94]。これらの「カクテル」には医学的に何らかの予防または治療効果を示すエビデンスがほとんどない[95]

その他

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一部の国では、非処方のブドウ糖の静脈内投与が、滋養強壮目的で行われているが、ブドウ糖溶液が処方薬である米国などでは、日常的な医療の一部ではない[96]。店頭の診療所で密かに行われているような不適切な静脈内ブドウ糖投与(「リンゲル」[注釈 2]と呼ばれる)は、不適切な手技とミスによりリスクが高まる[96]静脈路はまた、ヘロインフェンタニルコカインメタンフェタミンジメチルトリプタミンなどのレクリエーショナルドラッグの自己投与のために、医療機関外で使用されることがある[98]

静脈注射は、獣医学領域でも行われる[99]

手技

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注射に伴う痛みを軽減するために、穿刺の約45分前に局所麻酔薬エムラクリーム英語版テトラカイン外用薬など)を静脈穿刺部位の皮膚に塗布してもよい[100]冷却スプレー英語版は、静脈路確保の際の疼痛を軽減する可能性がある[101]

中心静脈カテーテルの多くは、セルディンガー法、すなわち、まず目標静脈を注射針または静脈留置針で穿刺した後、その中からガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を入れ、その針金に沿わせてカテーテルを送り込む手技により留置される[102]超音波診断装置で血管や周囲の構造物を可視化しながらこの手技を行うことが推奨されている[102]

カテーテルが正しく挿入されていなかったり、静脈が特にもろくて破れたりすると、血液が周囲の組織に漏れることがある[103]。このような状況も、点滴漏れ、静脈の破裂、または「組織化(tissuing)」として知られている[103]。このカテーテルを使用して薬剤を投与すると、薬剤が血管外に漏出英語版し、浮腫を引き起こし、痛みや組織の損傷を引き起こし、薬剤によっては壊死を起こすこともある[103]静脈路確保を試みる際は、損傷した静脈からの薬剤の滲出を防ぐために、「漏れた」部位の近位に新しいアクセス部位を見つけなければならない[103]。このため、最初のカテーテルは四肢の最も遠位の適切な静脈に留置することが望ましい[103]

副作用

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痛み

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静脈ラインの留置は、皮膚を貫くときに痛みを伴い、医学的に侵襲的と考えられる[104]。このため、他の投与経路で十分な場合には、静脈内投与は通常好まれない。軽度または中等度の脱水の治療も、点滴ラインによる非経口的水分補給よりも、経口補水療法が優先される[105][106]。救急外来での小児の脱水の治療は、点滴ラインの疼痛と合併症のために、点滴療法よりも経口療法の方が良好な転帰を示す[105]

ある種の薬剤には、静脈内投与に伴う特有の痛みの感覚もある。これには塩化カリウムが含まれ、静脈内投与すると灼熱感や痛みを感じることがある[107]

感染と炎症

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カテーテルに付着したブドウ球菌とそれらが分泌するバイオフィルム電子顕微鏡写真。バイオフィルムは抗生物質の作用を阻害する。

静脈ラインの留置には皮膚を貫通する必要があるため、感染のリスクがある[108]コアグラーゼ陰性ブドウ球菌カンジダ・アルビカンス英語版などの皮膚常在菌がカテーテル周囲の挿入部位から侵入したり、汚染された器具から誤って細菌がカテーテル内部に侵入したりすることがある[108]静脈アクセス部位の感染は通常局所的で、目に見えやすい腫脹、発赤、発熱を引き起こす[108]。しかし、病原菌が血流に入り込んで敗血症を引き起こすこともあり、突然生命を脅かすこともある[108]。中心静脈ラインは、中枢の循環に直接細菌を送り込む可能性があるため、敗血症のリスクが高くなる[108]。留置期間が長いラインも感染のリスクを高める[108]。 

静脈の炎症も起こることがあり、血栓性静脈炎または単に静脈炎と呼ばれる[109]。この炎症は、感染、カテーテル自体、または投与される特定の輸液や薬物によって引き起こされることがある。静脈炎を繰り返すと、静脈に沿って瘢痕組織が形成されることがある。末梢静脈ラインは、感染症や静脈炎などの合併症の危険性があるため、いつまでも静脈内に留置しておくことはできない。しかし、最近の研究では、臨床的に適切な場合にのみ点滴を交換しても、ルーチンの点滴交換と比較して、合併症のリスクが増加しないことが判明している[110]。適切な無菌的手技で留置する場合、末梢静脈ラインを72~96時間ごとを超える頻度で交換することは推奨されない[111]

静脈炎は、静脈内薬物使用者[112]および化学療法を受けている患者[113]に特によくみられ、静脈は時間の経過とともに硬化してアクセスが困難になり、時には硬くて痛みを伴う「静脈索"venous cord".」が形成されることがある。索の存在は、点滴治療に伴う不快感や疼痛の原因であり、索のある部位には静脈ラインを留置できないため、静脈ラインの留置がより困難になる[114]

点滴漏れ

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点滴漏れや静脈路確保失敗後に発生する皮下血腫(あざ)

点滴漏れは、輸液または薬剤が目的の静脈ではなく周囲の組織に入ることで起こる。これは、静脈自体が破れた場合、血管内留置器具の挿入中に静脈が損傷した場合、または静脈の透過性が増加した場合にも発生する。点滴漏れはまた、針による静脈の穿刺部位が最も注入抵抗の少ない部位-たとえば挿入したままのカテーテル-になり、静脈に瘢痕による狭窄ないしは閉塞が生じた場合にも起こる。また、静脈ラインを挿入する際に、駆血帯を速やかに外さなければ起こることもある。浸潤は、皮膚の冷感や蒼白、局所の腫脹や浮腫を特徴とする。静脈ラインを外し、患肢を挙上して溜まった液体が排出されるようにすることで治療する。患部周辺にヒアルロニダーゼを注射することで、輸液/薬剤の拡散を早めることができる[115]。点滴漏れは、点滴の最も一般的な副作用のひとつであり[116]、漏れた薬液が周囲組織に損傷を与える薬剤、例えば刺激性物質または化学療法薬でない限り、通常は重篤ではない。漏れた薬液が組織傷害性の場合、血管外漏出英語版と呼ばれ、その部分の壊死を引き起こすことがある[117]

その他の合併症

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投与される輸液が体温より低い場合、低体温症が起こりうる。心臓への温度変化が急激な場合、致死的不整脈である心室細動が起こる可能性がある[118]。さらに、血液と浸透圧が等し英語版くない溶液を投与した場合、電解質のバランスが崩れる可能性がある。病院では、定期的な血液検査で電解質濃度を積極的に監視している[119]。低体温が起こると、血小板機能低下や血管反応性低下などにより、出血が増加するので産科などの出血時には輸血・輸液加温器の使用が推奨されている[120]

輸液を適切に計算して投与しないと、特に投与速度が速すぎると急性輸液反応(Infusion reaction)[121]と呼ばれる過敏症などの副作用が生じることがある。このため、抗生物質バンコマイシン[37]やがん治療に用いられるモノクローナル抗体[122]など、多くの薬剤には推奨最大注入速度が設定されている[123]。これらの注入時の反応は、バンコマイシンの「レッドマン症候群」のように、重篤なものとなることがある[37]

歴史

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発見と開発

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ジェームズ・ブランデル

注射による治療物質投与の最初の試みは、1492年、教皇インノケンティウス8世が病に倒れ、健康な人の血液を投与されたことであると記録されている[124][125]。この場合の治療はうまくいかず、教皇は治癒することなく、供血者も死に至った[124][125]。この話には異論もあり、当時の医療関係者には輸血という発想はあり得なかったとか、血液循環に関する完全な記述が発表されたのは100年以上経ってからであったと主張する者もいる[125]。この話は、当時の文献の翻訳に誤りがあった可能性や、意図的な捏造の可能性があるとされているが、今でも正確であると考える人もいる[125]。医学生や看護学生向けの主要な医学史教科書のひとつは、この話全体が反ユダヤ主義的な捏造であると主張している[126]

1656年、イギリスの建築家クリストファー・レン卿と自然哲学者ロバート・ボイルがこのテーマに取り組んだ[127]。「私は生きている犬にワインとエールを静脈から血の塊に注入した。酔っ払うまで大量に注入したが、すぐに尿に排出された」とレンが述べた。犬は生き延びて太り、後に飼い主から盗まれた。ボイルはこの記録の著者をレンとした[127]

イギリスの医師リチャード・ロウアーは、動物から動物へ、動物から人間への静脈内輸血(異種輸血英語版)が可能であることを示した。彼は外科医エドモンド・キング英語版と協力して、精神を病んだ男性に羊の血液を輸血した。ロウアーは科学の進歩に興味があり、新鮮な血液を注入するか、古い血液を除去することで、この男性を救うことができると信じていた。輸血に同意してくれる人を見つけるのは難しかったが、精神異常の患者であるアーサー・コガが同意し、1667年11月23日に王立協会の会合でロウアーとキングによって輸血が行われた[128]。この輸血は「成功」だったとされる[128]。なお、同年のMajorによる発表では、注射針にはガチョウの羽軸、薬液を入れる袋には豚の膀胱が静脈注射に用いられていた[129]。しかし、輸血による死亡例とそれに対する訴訟も起こり[130]、フランス議会により1670年に輸血は禁止され、間もなくイギリス議会やローマ教皇もこれに追随した[130]。輸血が同種でなければ成功しないことがエジンバラの医師、ジョン・リーコックによって示されたのは1816年であった[130]

1831年のエジンバラの医師トーマス・ラッタ英語版によるコレラ治療のための静脈内補液の使用まで、注射療法の試みで成功したという記録はほとんどなかった[124][131]。静脈注射に広く使用されるようになった最初の溶液は、単純な「生理食塩水のような溶液」であり、その後、牛乳砂糖蜂蜜卵黄など、様々な他の液体を用いた実験が行われた[124]。1830年代、英国の産科医であったジェームズ・ブランデルは、分娩中または分娩後に大量出血した女性の治療に血液の静脈内投与を行った[124][132]。これは血液型が理解される以前のことであり、予測不可能な結果を招いた[注釈 3]。ラッタによるコレラ治療は先駆的であったが、普及せず、一般に再評価されるまで80年を要した[129]

近現代

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ジャスティン・ジョンストン。点滴療法に関する研究で業績を残しただけでなく、舞台女優としても活躍した[134]
ヴェルナー・フォルスマンが自分で自分に入れた人類初の中心静脈カテーテルレントゲン写真

静脈内注射による薬剤投与は、1890年代後半にイタリアの医師グイード・バチェリ英語版によってマラリア梅毒の治療法として広められ[135]、1930年代にサミュエル・ヒルシュフェルト、ハロルド・T・ハイマン、ジャスティン・ジョンストン英語版によってさらに開発された[136][137]。1915年頃から小児下痢症に輸液が治療として行われはじめ、死亡率が90%から10%に激減した[129]

1950年、血管内にプラスチックカテーテルを留置する革新的な方法が報告された[138]。それはメイヨークリニックの麻酔科研修医デービッド・マッサ (David J. Massa、1923-1990)によるもので、カテーテルの内側に金属針を入れ、金属針もろとも血管内にカテーテルを入れ、金属針は抜去するというものであった[138]。それまでは血管内に薬液を注入する方法は3つあったが、いずれも欠点を抱えていた[138]。1つはカットダウン、すなわち小手術で皮膚を切開して血管を直視下で切開し、カテーテルを留置するものであるが、患者の苦痛が大きかった[138]。もう一つはカテーテルでは無く、金属針で血管を穿刺し、血管内に留置し続けるものであったが、針が血管を傷つけないよう患者は大きな運動制限を強いられ、それでも点滴漏れのためにしばしば再穿刺が必要となった[138]。3つめは血管を穿刺して針の中からカテーテルを入れるというものであったが、細いカテーテルしか入れられず、針穴がカテーテルよりも大きいので点滴漏れが起こりやすかった[138]

静脈注射の制限として、高濃度の栄養剤[139]や抗がん剤[140]などは末梢静脈から投与した場合は、血管を痛めてしまう問題があった。このような薬剤の投与経路には血液流量の多い中心静脈が向いている[139]。1929年、ドイツ外科研修医ヴェルナー・フォルスマンが、プラスチック製の尿道カテーテルを自分の左腕の尺側皮静脈英語版に挿入し、右心房まで到達させた(初のヒトでの中心静脈カテーテル[141]。しかし、上司に無許可であったために叱責され、彼は病院を解雇されてしまった[141]。だが、この手技の医学上の貢献が後に評価され、1956年にノーベル医学賞を授与された[142][143]

フォルスマンの貢献により、静脈内注射で使用できる薬剤と血管の選択肢が広がったが、中心静脈にカテーテルを入れるためには小手術で目標血管そのものに直接カテーテルを入れるか、太い針で血管を穿刺して、その中からカテーテルを入れる必要があった。1953年、スウェーデン放射線科医スヴェン・イヴァー・セルディンガー英語版が血管を細い針で穿刺して、その中からまず、ワイヤーを留置し、そのワイヤーをガイドにして太いカテーテルを入れる手技を開発し、これによって中心カテーテル留置の安全性と確実性が高まった[144]

1950年代から60年代はじめにかけて、日本で現在でも使用されているソリタ方式の輸液が東京大学小児科と清水製薬により開発・発売された[145][146]。1960年代には、必要な栄養をすべて点滴で補給するというコンセプトが真剣に検討され始めた。最初の静脈栄養は、タンパク加水分解物およびブドウ糖から成っていた[124]。これに続いて1975年に、完全静脈栄養、すなわちタンパク質、脂肪、および炭水化物を含む栄養剤を形成するために添加される静脈内脂肪乳剤英語版およびビタミンが開発された[124]

1970年代から1980年代にかけて、プラスチック製カニューレの使用が日常化し、その挿入は看護スタッフに委ねられることが多くなった[147]。日本においては、1951年の厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)以降、保健師助産師看護師法上、看護師が業務として行えなかった[148]が、2002年の行政通達により、「診療の補助」として看護師が行えるものと明文化された[148][149]。それまでは、看護師が静脈注射をする状況が既成事実化しており、実態と法解釈がかけ離れている状況が長く続いていた[150]

静脈注射は高濃度の薬剤を直接血管内に投与できることから、抗生物質の投与にも頻用されてきたが、血管内と体外を貫通するカテーテルの存在そのものが細菌の侵入経路となり、感染症のリスクである[15]。とりわけ、複数の薬剤を1つのカテーテルから投与する際に頻用されてきた三方活栓は細菌汚染のリスクが高いことが1980年代に報告された[15]。以降は三方活栓を有さない注入ポートのみを有する点滴セット(クローズドシステム)が開発され、用いられるようになってきている[15]。そして、合併症を防ぐためにカテーテルは不要になり次第、速やかに抜去することが推奨されている[151]

脚注

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注釈

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  1. ^ 例: 心肺蘇生時のアドレナリン投与直後の生理食塩水ボーラス投与[30]
  2. ^ 実際のリンゲル液とは組成が全く異なる。リンゲル液は電解質を主成分とする[97]
  3. ^ ABO血液型不適合の輸血が行われれば、重篤な全身状態に陥り、場合によっては死亡する[133]

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参考文献

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関連文献

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関連項目

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外部リンク

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