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時間の習俗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
時間の習俗
小説冒頭の舞台となる、和布刈神社の鳥居および拝殿
小説冒頭の舞台となる、和布刈神社の鳥居および拝殿
作者 松本清張
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル 長編小説
発表形態 雑誌連載
初出情報
初出1961年5月号 - 1962年11月号
出版元 日本交通公社
挿絵 土井栄
刊本情報
刊行 『時間の習俗』
出版元 光文社
出版年月日 1962年11月20日
装幀 伊藤憲治
ウィキポータル 文学 ポータル 書物
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時間の習俗』(じかんのしゅうぞく)は、松本清張の長編推理小説。雑誌『』に連載され(1961年5月号 - 1962年11月号)、1962年11月に光文社カッパ・ノベルス)から刊行された。『点と線』の三原警部補と鳥飼刑事が再び探偵役となり、犯人が仕組んだアリバイに挑戦するミステリー長編である。

小説の時代設定は『点と線』から4年後とされる[1]。これまで3度テレビドラマ化された。

あらすじ

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関門海峡に面した門司市の古社・和布刈神社において、旧暦元旦の未明に行われる「和布刈神事」に対する、写真撮影が殺到していた。他方、その前日深夜23時頃、神奈川県相模湖近くの弁天島で、交通関係業界紙編集人・土肥武夫の死体が発見された。土肥の投宿していた宿の女中は、女性が同行していたことを証言するが、その女性は行方不明になっていた。

有力な容疑者も挙がらず手がかりが掴めない中、三原警部補は土肥の交際人物のリストから、行動に作為の感じられるタクシー会社の専務・峰岡周一に着目する。だが、峰岡には完全なアリバイがあった。

登場人物

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原作における設定を記述。

三原紀一
警視庁捜査一課[注釈 1]の警部補。『点と線』の事件以来、鳥飼刑事と親しい間柄となっている。
鳥飼重太郎
福岡警察署の古参刑事。峰岡のアリバイに関する回答を契機に、事件調査に協力する。
峰岡周一
大手タクシー会社「極光交通」の専務
土肥武夫
「交通文化情報」発行人及編集人。
江藤順平
駿河台表具師俳句誌「荒海」の主宰者。俳名は「白葉」。
須貝新太郎
名古屋ゲイバー「蝶々」勤務の男。北海道出身。
梶原武雄
「上ノ橋福岡食品工業」の工員。俳句好きのアマチュアカメラマン

エピソード

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  • カッパ・ノベルス版刊行の翌年『宝石』に掲載された創作ノートで、『点と線』の刊行後、当時「旅」の編集長であった岡田喜秋から「もう一ぺんやらないか」と言われたことが契機であることを明かした上で、著者は以下のように述べている。「当時「宝石」あたりからさかんに、社会派は攻撃されている時なんだね。いや、それは尤もなところもある。僕は、前にも話したように、絶えず、攻撃については好意的な受け入れ方をしているんだ。じゃ一つ書いてみようというので、書いたわけです。やはり登場人物も『点と線』と同じ人を使って―僕はそういうことは嫌いなんだよね。これがはじめてですよ―そして、まあ「旅」という読者も考えて、やはりなじみの人物が登場した方がいいんじゃないかと考えてね。一番不可能なこと、遠隔地における犯罪ね、そこに自分が行ってやるんだけど、第三者にはどう見ても、飛行機を利用しても何をしてもだめだと」「そこに今までみたいに、風景だとか、観光地だけじゃつまらない。習俗ね。和布刈神社のああいう古い神事、そういうのを一つ取り入れたらいいんじゃないか。多分に「旅」的な、そこからの発想です」[2]
  • 直筆原稿初回では『時間の配色』のタイトルであったが、連載時に現在の題に変更された[3]
  • 冒頭の和布刈神事に関しては、俳句で著者と交友のあった横山白虹を通じて、門司郷土会発行の「和布刈神事の話」が著者に提供された[4]
  • 作中の小倉市の「大吉旅館」は、間取り等の描写から、田川旅館(現在の「アートホテル小倉 ニュータガワ」)がモデルと推定されている[3]
  • 日本近代文学研究者の松本常彦は、主に連載時と単行本化時の間のテキストの異同を検証し、日時設定や伏線に関する記述の変更が行なわれたことを指摘している。また、本作連載開始前に『朝日新聞』西部本社版1961年2月19日付の「東京だより」の欄に、「松本清張」の署名記事が「運転手が交代する時」との見出しで掲載されていることから、著者が本作連載の直前にタクシー会社を取材していたことを指摘、記事中に「従業員と話したが、ここでも、陸運局と大手四社との腐れ縁がささやかれていた。大手筋の一台水揚げが月平均十四、五万円もあるのに、中小会社のほうは十一、二万円にすぎないという。これは陸運局が大手四社に対して制限走行キロの超過を見のがしているためだと推定していた」とあることから、動機については連載当初から構想されていたと推測している[5]

文学碑

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和布刈神社境内にある、本作の一節を刻んだ文学碑

小説の冒頭に登場する和布刈神社の境内には、本作にちなんだ文学碑が立てられ、本作の一節[注釈 2]が刻まれている。文学碑の場所は拝殿の左横である。なお、関門海峡を挟んだ下関側にあるみもすそ川公園内には、著者の『半生の記』の一節を刻んだ文学碑が立っているが、中央に開いた穴から、対岸の和布刈神社を望める趣向となっている。和布刈神社のそばに関門トンネル人道の入口があり、人道トンネルを徒歩もしくは自転車で通って下関側に出ると、みもすそ川公園のすぐそばに出ることができる。

神官の着ている白い収束だけが火を受けて、こよなく清浄に見えた。この瞬間、時間も、空間も、古代に帰ったように思われた。

—  小説『時間の習俗』

ギャラリー

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テレビドラマ

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1963年版

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推理文学シリーズ・時間の習俗』。1963年8月16日 20:00 - 21:00、NHKの「文芸劇場」枠で放送された。

キャスト
スタッフ

1982年版

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松本清張の時間の習俗
ジャンル テレビドラマ
原作 松本清張『時間の習俗』
企画 霧プロダクション
脚本 岡本克巳
監督 富本壮吉
出演者 萩原健一
井川比佐志ほか
製作
製作総指揮 春日千春(大映テレビ)
樋口祐三(TBS)
プロデューサー 千原博司(大映テレビ)
忠隈昌(TBS)
制作 TBS
放送
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間1982年6月19日
放送時間21:02 - 22:53
放送枠ザ・サスペンス
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松本清張の時間の習俗』。1982年6月19日 21:02 - 22:53にTBS系列の「ザ・サスペンス」枠で放送された。第一の殺人の舞台を浜名湖に設定している。視聴率は21.1%であった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

キャスト
スタッフ

2014年版

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松本清張スペシャル
時間の習俗
ジャンル テレビドラマ
原作 松本清張『時間の習俗』
脚本 浅野妙子
演出 光野道夫
出演者 内野聖陽
製作
プロデューサー 小池秀樹
制作 フジテレビ
放送
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間2014年4月10日
放送時間21:00 - 23:15
放送分135

特記事項:
フジテレビ開局55周年特別番組。
20:59 - 21:00に『「時間の習俗」カウントダウン』も別途放送。
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松本清張スペシャル 時間の習俗フジテレビ開局55周年特別番組として、フジテレビ系列2014年4月10日木曜日)の21:00 - 23:15[注釈 3]に放送された。視聴率は10.2%であった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

キャスト(2014年版)
スタッフ(2014年版)

脚注

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注釈

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  1. ^ 『点と線』の事件の時は捜査二課の所属であった。
  2. ^ 「和布刈神事」2節からの引用。
  3. ^ 20:59 - 21:00に『「時間の習俗」カウントダウン』も別途放送。

出典

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  1. ^ 「彼の周辺」3節で言及。
  2. ^ 「ある作家の周囲 その23 松本清張篇」(『宝石』1963年6月号掲載)。のちに『松本清張推理評論集 1957-1988』(2022年、中央公論新社)収録。
  3. ^ a b 「時間の習俗展図録」(1999年、北九州市立松本清張記念館)
  4. ^ インタビュー 松本清張『時間の習俗』と俳句(松本清張記念館館報第2号)” (PDF). 北九州市立松本清張記念館 (1999年9月). 2022年8月15日閲覧。
  5. ^ 松本常彦「本文というミステリー・松本清張「時間の習俗」の場合」(『敍説』Ⅲ-04(2009年、花書院)掲載)
  6. ^ a b 「西の死体」3節。

関連項目

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外部リンク

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TBS系列 ザ・サスペンス
前番組 番組名 次番組
殺人事件が愛した女
(原作:結城昌治
(1982.6.12)
松本清張の時間の習俗
(1982.6.19)
シンデレラの葬送
(原作:小林久三
(1982.6.26)