コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

阿武隈川

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
泉郷川から転送)
阿武隈川
阿武隈川(2007年12月9日撮影)
阿武隈川河口
水系 一級水系 阿武隈川
種別 一級河川
延長 239 km
平均流量 117 m3/s
(舘矢間観測所 1966-2009年平均)
流域面積 5,390 km2
水源 旭岳(福島県)
水源の標高 1,835 m
河口・合流先 太平洋(宮城県)
北緯38度02分47秒 東経140度55分20秒 / 北緯38.04639度 東経140.92222度 / 38.04639; 140.92222座標: 北緯38度02分47秒 東経140度55分20秒 / 北緯38.04639度 東経140.92222度 / 38.04639; 140.92222
流域 日本の旗 日本
福島県宮城県
地図
テンプレートを表示

阿武隈川(あぶくまがわ)は、福島県および宮城県を流れる阿武隈川水系の本流で、一級河川[1]である。水系としての流路延長239 kmは、東北地方北上川に次ぐ長さである。

名称

[編集]

延喜式』には「安福麻」、『吾妻鏡』には「遇隅」とあるため、古くは「あふくま」と呼ばれていたが、中世以降になると逢隈川、青熊川、大熊川、合曲川などの用字が見え、「おおくま」と呼ばれるようになっていた。「阿武隈」や「大隈」の語源は定かではないが、今の福島県西白河郡西甲子岳の山中に住んでいた大熊(青熊)に由来するという説や、阿武隈川の下流部が阿武隈山脈の突端に阻まれて「大きな隈(曲がり)」をなして流れることに由来するという説がある[2][3]

地理

[編集]

那須岳の1つ三本槍岳のすぐ北に位置する福島県西白河郡西郷村の旭岳(甲子旭岳)に源を発し東へ流れる。白河市に入り西白河郡中島村付近で北に流れを変えると、福島県中通り須賀川市郡山市福島市)を縦貫して北に流れる。

福島県と宮城県の境界付近では、阿武隈高地の渓谷を抜ける。宮城県伊具郡丸森町角田盆地に入り、角田市を流れて仙台平野に出る。現在は岩沼市亘理町の境で太平洋に注ぐが、古代の旧河口は現在の鳥の海にあった。

勾配がゆるやかな川で穏やかな印象があるが、増水時にはあふれやすく洪水被害の絶えない暴れ川でもある。1986年には台風による増水で大規模な洪水が起こっているほか、2011年には東日本大震災の津波が逆して大規模な海嘯が発生し、また2019年10月の令和元年東日本台風(台風19号)では支流を中心に50か所以上の氾濫が発生した。国土交通省は同年末に「緊急治水対策プロジェクト」をまとめて堤防強化などを進めている[4]

流域の市町村

[編集]
福島県
西白河郡西郷村白河市、西白河郡泉崎村中島村石川郡石川町、西白河郡矢吹町、石川郡玉川村岩瀬郡鏡石町須賀川市郡山市本宮市安達郡大玉村二本松市福島市伊達市伊達郡桑折町国見町
宮城県
伊具郡丸森町角田市柴田郡柴田町亘理郡亘理町岩沼市

アミメカゲロウの大発生

[編集]

阿武隈川の中流域、福島盆地内では、1980年代から毎年9月頃にアミメカゲロウが大発生しており[5]、カゲロウが橋上へ大量に落下し、車がスリップするなどの事故が発生する危険がある。国土交通省福島河川国道事務所は周辺の橋梁に集虫灯を設置し、また橋上に死骸が落下するのを最小限に抑える対策として晩夏初秋には橋の夜間照明を消灯する橋がある。

歴史

[編集]

上・中流部の地形史

[編集]
阿武隈川上流の流路変遷 (1期から5期)

現在の郡山盆地には、土地の沈降にともない、数十万年前から最大で南北約40キロメートルに及ぶ古郡山湖があった。12万年前から6万年前までの間に湖は堆積物で埋まってなくなった[6]

約7万年前におわる最終間氷期には、上流部で現在の社川の流路に入り、大きく南に迂回してから北に向かっていた(地図中の1)[7]。その後、6万年前から5万年前頃に原中から東北東に流れるようになり、社川が支流になった(2)[7]。ついで、2万年前から1万5千万年前頃に、上流の真船から東に、そして今の国道289号にそって南東へ流れるようになった(3)[8]。1万年前から5千年前頃に、折口から北東に折れて谷地中を流れるようになり(4)、さらにその後さらに北東にずれて柏野を経由する現在の流路になった(5)[7]

江戸時代以降

[編集]

かつては河川舟運が盛んに行われていた。きっかけは1664年に福島県の伊達郡信夫郡一帯が天領になり、年貢米(御城米)を江戸へ移送する必要が生じたことによる。移送を請け負った江戸商人、渡辺友以は天領と仙台藩の境にあった難所を拡幅し、長良川で使用されていた小舟(小鵜飼船)を導入したことにより舟運を可能にした。その後、1671年には江戸幕府の依頼により河村瑞賢がさらなる河川改修を行っている[9][要文献特定詳細情報]元禄時代以降は、福島から丸森までは小型船で、丸森で荷を移し替えて下流へは大型船による運行という棲み分けができた。明治時代に入ると、さらに河道改修が行われ、丸森で乗り換えは要するものの蒸気船が運行されるようになった。明治17年当時の運行会社である逢隈川汽船会舎のチラシによれば、朝6時に福島を出発し、藤場(岩沼)で乗合馬車に乗り換え、夕方6時に仙台に着く行程が設定されていた。同区間には陸路で馬車が運行されており、競合相手となっていたが、いずれも鉄道(東北本線)が開通すると姿を消した[10]

また、江戸時代に阿武隈川河口から名取川河口の間に木曳堀と呼ばれる水路が開削され、物流に用いられた。阿武隈川や白石川流域で伐採された木材が、木曳堀を経由して仙台城下近くまで運搬(木材流送)されたのだろうと推測されている[11][12]。明治時代に木曳堀を含めて仙台湾沿岸の運河整備が行われ、貞山運河、東名運河、北上運河が完成し、阿武隈川はこれらの運河群を通じて松島湾塩竈鳴瀬川北上川と結ばれることになった[13]。1960年代後半、仙台港の建設のために貞山運河の一部が埋め立てられたため、現在、阿武隈川から貞山運河で通じているのは七北田川河口部までである[14]

阿武隈川を横断する渡船は第二次世界大戦後も残されていた。1954年(昭和29年)4月19日には東根村で渡船が強風のために転覆、死亡・行方不明5人を出す事故も発生している[15]

阿武隈川水系の主要河川

[編集]

*下流より記載

宮城県
福島県

阿武隈川水系の河川施設

[編集]

阿武隈水系においては、支流における河川施設が多い。阿武隈川が流れる福島県中通り地方の年平均降水量は、奥羽山脈側で1,500 mm、阿武隈川流域の盆地部で1,100 mm、阿武隈高地側で1,300 mmと少ないため、その多くは灌漑・上水道用のダムである。

河川施設一覧

[編集]
一次
支川
(本川)
二次
支川
三次
支川
ダム名 堤高
(m)
総貯水
容量
(千m3)
型式 事業者 備考
[位置]
谷津田川 赤坂ダム 18.3 906 アース 福島県 [1]
堀川 堀川ダム 57.0 5,500 ロックフィル 福島県 [2]
鳥首川 西郷ダム 32.5 3,299 アース 東北農政局 [3]
泉川 泉川ダム 17.5 434 アース 土地改良区 [4]
釈迦堂川 龍生ダム 32.5 939 重力式 福島県 [5]
江花川 藤沼ダム 17.5 1.504 アース 土地改良区 [6]
黄金川 犬神ダム 32.4 1,206 アース 福島県 [7]
今出川 今出ダム 79.5 14,400 重力式 福島県 計画中止
北須川 千五沢ダム 43.0 13,000 アース 福島県 [8]
笹原川 多田野川 深田調整池 55.5 8,690 アース 東北農政局 [9]
上石川 金沢調整池 30.8 1,371 重力式 東北農政局 [10]
逢瀬川 下北沢ダム 19.0 454 アース 郡山市 [11]
七瀬川 三ツ森ダム 28.8 720 アース 福島県 [12]
大滝根川 三春ダム 65.0 42,800 重力式 国土交通省 [13]
大平川 高柴調整池 24.3 115 アース 東北農政局 [14]
山ノ入川 山の入ダム 29.5 1,266 アース 福島県 [15]
原瀬川 岳ダム 60.0 1,100 重力式 福島県 [16]
八反田川 大笹生ダム 27.2 913 アース 福島県 [17]
産ヶ沢川 藤倉ダム 36. 905 重力式 福島県 [18]
摺上川 摺上川ダム 105.0 153,000 ロックフィル 国土交通省 [19]
白石川 七ヶ宿ダム 90.0 109,000 ロックフィル 国土交通省 [20]
白石川 川原子ダム 20.0 2,333 アース 宮城県 [21]
荒川 村田ダム 36.7 1,660 アース 宮城県 [22]
笠島川 山梨(上)ダム 16.0 17 アース 角田市 [23]
阿武隈川 蓬萊ダム 21.5 3,803 重力式 東北電力 [24]
阿武隈川 信夫ダム 21.5 1,872 重力式 東北電力 [25]
阿武隈川 阿武隈大堰 可動堰 国土交通省 [26]

用水路・導水路

[編集]
用水路名 所在地 管理者
安積疏水 福島県 土地改良区
西根堰 福島県
東根堰 福島県
貞山運河 宮城県

発電所一覧

[編集]
  • 発電所名をクリックすると発電所位置の地図が表示されます。
発電所名 河川名 ダム式
/水路式
運用開始年 最大出力
(kW)
有効落差
/水量
所在地 事業者 備考
真船 阿武隈川 水路 1927年(昭和2年) 999 福島県西白河郡西郷村 東北電力 [27]
前田川 阿武隈川 水路 1906年(明治39年) 125 福島県須賀川市 東北電力
移川 移川 水路 1921年(大正10年) 330 福島県田村郡三春町 東北電力 [28]
青石 移川 水路 1919年(大正8年) 200 福島県田村郡三春町 東北電力 [29]
三春ダム
管理用右岸
大滝根川 ダム 1998年(平成10年) (1,020) (43.9m) 福島県田村郡三春町 東北地方整備局 [30][31]
三春ダム
管理用左岸
大滝根川 水路 1998年(平成10年) 福島県田村郡三春町 東北地方整備局
沼上 五百川 水路 1899年(明治32年) 2,100 37.4m
/5.6m3/s
福島県郡山市 東京電力 水源猪苗代湖
竹ノ内 五百川 水路 1919年(大正8年) 3,700 68m
/7.2m3/s
福島県郡山市 東京電力 水源猪苗代湖
丸守 五百川 水路 1921年(大正10年) 5,900 87.4m
/8.2m3/s
福島県郡山市 東京電力 水源猪苗代湖
安積疏水
管理用
多田野川 水路 2004年(平成16年) 2,230 89.8m
/3.2m3/s
福島県郡山市 土地改良区 水源猪苗代湖
仏台 口太川 水路 1915年(大正4年) 150 福島県二本松市 東北電力
沢上 口太川 水路 1908年(明治41年) 340 福島県二本松市 東北電力
小瀬川 移川 水路 1921年(大正10年) 1,100 福島県二本松市 東北電力
土湯 塩ノ川 水路 1931年(昭和6年) 1,190 福島県福島市 東北電力
荒川 荒川 水路 1939年(昭和14年) 3,100 福島県福島市 東北電力
庭坂 天戸川 水路 2001年(平成13年) 1,500 111.2m
/1.6m3/s
福島県福島市 東北電力 [32]
大笹生 松川 水路 1991年(平成3年) 11,400 215m 福島県福島市 東北電力
摺上川 摺上川 ダム 2007年(平成19年) 3,000 82.3m
/4.5m3/s
福島県福島市 東北電力
滝野 摺上川 水路 1910年(明治43年) 900 福島県福島市 東北電力
穴原 摺上川 水路 1912年(大正元年) 1,850 福島県福島市 東北電力
蓬莱 阿武隈川 ダム+水路 1938年(昭和13年) 38,500 77.6m 福島県福島市 東北電力
信夫 阿武隈川 ダム+水路 1939年(昭和14年) 5,950 福島県福島市 東北電力
横川 横川 水路 1,800 宮城県刈田郡七ヶ宿町 東北電力
横川 水路 2,100 宮城県刈田郡七ヶ宿町 東北電力
遠刈田 松川 水路 5,500 宮城県刈田郡蔵王町 東北電力
曲竹 松川 水路 2,500 宮城県刈田郡蔵王町 東北電力
七ヶ宿ダム
管理用
白石川 ダム 1992年(平成4年) 3,600 54.5m
/8.4m3/s
宮城県白石市 東北地方整備局 [33]

[34]

刈田 白石川 水路 宮城県白石市 東北電力
白石 白石川 水路 1910年(明治43年) 750 宮城県白石市 東北電力
蔵本 白石川 水路 3,100 宮城県白石市 東北電力

阿武隈川のダム

[編集]

阿武隈川の水力発電所

[編集]

橋梁

[編集]

流域の観光地

[編集]

並行する交通

[編集]

鉄道

[編集]

道路

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ 国土交通大臣一級河川として指定した区間は、左岸が福島県西白河郡西郷村大字鶴生江森山3番地先、右岸が福島県西白河郡西郷村大字真船字寺下3番のイ地先から河口まである。そのうち、福島県の管理区間は、岩瀬郡鏡石町と西白河郡矢吹町境から左岸が須賀川市大字前田川字滝下、右岸が石川郡玉川村大字滝崎までで、国の管理区間は、須賀川市前田川字深田22番の1地先の国道橋から宮城県河口までである。
  2. ^ 阿武隈川の歴史”. www.thr.mlit.go.jp. 2019年9月5日閲覧。
  3. ^ 第2章 阿武隈川の素顔”. 阿武隈川サミット実行委員会. 2019年9月5日閲覧。
  4. ^ 「阿武隈川の治水事業 再始動 住宅立地見直しも」日本経済新聞』電子版(2020年1月23日)2020年5月9日閲覧
  5. ^ カゲロウが大発生する模様は、1985年8月29日に『NHK特集』で「カゲロウ大発生 〜'85秋・阿武隈川異変〜」と題して放送された。
  6. ^ 小池ほか 2005, pp. 125–126, 長さは図3.4.2からウィキペディア編者が読み取り.
  7. ^ a b c 小池ほか 2005, pp. 124–125, 地名はウィキペディア編者が付与。.
  8. ^ 小池ほか 2005, pp. 124–125, 地名はウィキペディア編者が付与.
  9. ^ 亘理町史編纂委員会 編『亘理町史』亘理町、283頁。全国書誌番号:77004122 
  10. ^ 岩沼市史編纂委員会 1984, p. 723.
  11. ^ 仙台市史編さん委員会 2001, pp. 328–330.
  12. ^ 岩沼市史編纂委員会 1984, p. 717.
  13. ^ 仙台市史編さん委員会 2008, p. 104.
  14. ^ 仙台市史編さん委員会 2014, p. 197.
  15. ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年9月27日、98頁。ISBN 9784816922749 
  16. ^ 国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成

参考文献

[編集]
  • 岩沼市史編纂委員会 編『岩沼市史』岩沼市、1984年1月。全国書誌番号:84052750 
  • 小池一之、田村俊和、鎮西清高、宮城豊彦 編『日本の地形』 3(東北)、東京大学出版会、2005年2月。ISBN 978-4-13-064713-7 
  • 仙台市史編さん委員会 編『仙台市史』 通史編3(近世1)、仙台市、2001年9月。全国書誌番号:20270474 
  • 仙台市史編さん委員会 編『仙台市史』 通史編6(近代1)、仙台市、2008年3月。全国書誌番号:21429454 
  • 仙台市史編さん委員会 編『仙台市史』 特別編9(地域史)、仙台市、2014年3月。全国書誌番号:22410128 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]